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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02N
管理番号 1182072
審判番号 不服2006-17379  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-10 
確定日 2008-07-31 
事件の表示 特願2000-362601「車両用始動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月 7日出願公開、特開2002-161838〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成12年11月29日の出願であって、平成18年4月19日付けで拒絶理由が通知され、平成18年6月14日付けで意見書が提出され、平成18年7月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年8月10日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると共に同日付けの手続補正書により手続補正がなされたものであり、その請求項1に係る発明は、上記平成18年8月10日付けの手続補正によって補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
低電圧電源と高電圧電源の切り替えを行う電源切替手段と、
この電源切替手段によって切り替えられた電圧が印加されることによって、エンジン始動のための回転トルクを発生するスタータモータと、
前記電源切替手段を車両の状態に応じて切り替える始動用制御手段とを具備する車両用始動装置であって、
この車両用始動装置は、車両の停車時にエンジンを停止して、車両の発進時にエンジンを始動するエコランシステムを搭載する車両に用いられるものであり、
前記電源切替手段は、エコランシステムによる発進の際、前記始動用制御手段によって高電圧側に切り替えられることを特徴とする車両用始動装置。」

2.引用文献記載の発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-257539号公報(平成12年9月19日公開。以下、「引用文献」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両用エンジンの始動制御装置および車両用エンジンの始動装置に関する。」

イ.「【0008】本発明は上記問題に鑑みなされたものであり、安価な車両用エンジンの始動制御装置を提供することを目的とする。また、本発明は、大きな燃費向上が図りつつ、バッテリ上がりによる始動不能を低減し、確実なエンジン始動を達成する車両用エンジンの始動制御装置を提供することを目的とする。」

ウ.「【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
(第一実施形態)以下、本発明の車両用エンジンの始動装置の構成を図1を用いて説明する。図1はエンジンの始動装置及びその周辺機器の構成を示すブロック図である。交流回転電機(MG)1は、電機子として働く固定子と、界磁として働く回転子とから構成されている。回転子は、エンジンのクランクシャフトと連動するシャフトと一体になって回転するものである。そして、複数個の爪状磁極部を有する1対のポールコアを組み合わせ、ポールコアの径方向内側にポールコアを励磁するための界磁巻線11が巻回されている。固定子は回転子の外径側に配置され、3相(U、V、W相)の分布巻にした固定子巻線が取り付けられている。」
エ.「【0020】直流-交流変換器(以下「インバータ」という。)3は、交流電力から直流電力への変換および直流電力から交流電力への変換を行うものである。このインバータ3は、交流回転電機1に接続されるとともに36Vの高圧バッテリ5にも接続さている。この高圧バッテリ5は、ヒータ等の高電圧負荷51に接続されており、高圧電力を供給して高電圧負荷51を作動させる。
【0021】交流回転電機1をスタータとして動作させる時には、高圧バッテリ5の直流電力をインバータ3で交流電力に変換して、交流電力を交流回転電機1に供給する。また、交流回転電機1をオルタネータとして動作させる時には、交流回転電機1で発生した交流電力をインバータ3で直流電力に変換し、高圧バッテリ5および高圧電気負荷8に直流電力を供給する。」

オ.「【0026】直流始動電動機(ST)2は、エンジンの始動をするスタータとして機能するものである。この直流始動電動機2は、12Vの低圧バッテリ6に接続されており、直流電力を供給されて作動する。低圧バッテリ6には、ライト等の低圧電気負荷61も接続され、低圧バッテリ6から供給される電力により作動する。低圧バッテリ6には、直流-直流コンバータ(以下、単に「DC-DCコンバータ」という。)4も接続されている。このDC-DCコンバータ4は36V直流電力を12V直流電力に変換するためのものであり、交流回転電機1で発生した交流電力がインバータ3で直流電力に変換されて供給される。そして、低圧バッテリ6を充電するとともに、低圧電気負荷61にも電力を供給する。」

カ.「【0029】始動機選択手段71は、高電圧バッテリ容量検出手段72、回復充電指令手段74、および始動制御装置7外のアイドルストップ制御装置8、エンジン水温センサ81、および運転者からのキー操作等によるエンジン始動指令信号を発生するスタータスイッチ86等からの信号に基づき、エンジン始動時の始動機を選択するものである。そして、始動機選択手段71からの信号は、直流始動電動機2に直列に配設されているスイッチ21若しくはインバータ3内の制御回路32に入力される。」

キ.「【0030】アイドルストップ制御装置8は、エンジン運転中に所定のエンジン停止条件が成立した場合には、エンジンの自動停止制御信号を出し、エンジン停止中に所定のエンジン始動条件が成立した場合には、エンジンの自動始動制御信号を出すものである。アイドルストップ制御装置8には、エンジン冷却水温度を検出する温度センサ81、クラッチペダル(図示せず)を軽く踏んだ時にオンとなるクラッチアッパスイッチ82、クラッチペダルをいっぱいに踏んだ時にオンとなるクラッチロアスイッチ83、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ84、および車速センサ85が接続されている。そして、上記センサ81、84、84およびスイッチ82、83からの各種信号は、アイドルストップ制御装置8に入力されて、エンジンの停止条件および始動条件の判別に用いられる。そして、エンジン始動条件が成立したときには、始動制御装置7に始動指令を出す。また、エンジン停止条件が成立した際にはインジェクタ(図示せず)への燃料噴射信号や、イグナイタ(図示せず)への点火信号を停止して、エンジンを自動停止する。」

ク.「【0032】次に、上記構成の車両用エンジンの始動制御装置の作動を図2のフローチャートを用いて説明する。図2のフローチャートは、車両停止中及びエンジン運転中に所定のエンジン停止条件が成立後の始動制御装置7の作動を示すものである。ステップ1においては、始動制御装置7がアイドルストップ制御装置8から、または運転者の意志によるスイッチ操作でエンジン始動指令を受けたか否かが判定される。本実施形態においては、エンジン始動指令は、エンジン停止中で、クラッチロアスイッチがONされた状態において出される。ステップ1において始動指令を受けると、ステップ2に移行する。
【0033】ステップ2においては、温度センサ81によって検出されたエンジン冷却水温Twが所定の範囲内(例えば、30℃から85℃)にあるか否かを判定する。また、ステップ3においては、高圧バッテリ5の容量が十分か否かが判定される。そして、エンジン冷却水温が所定の範囲内にあり、かつ、高圧バッテリの容量が不足していないときには、交流回転電機1でエンジン始動可能と判断して、ステップ4に移行する。そして、ステップ4にて、始動機選択手段71からインバータ3内の制御回路に作動命令を出し、交流回転電機1によってエンジンを始動する。
【0034】ステップ2においてエンジン冷却水温が所定の範囲外と判断されたとき、あるいはステップ3において高圧バッテリ5の容量が不足していると判断されたときには、交流回転電機1によるエンジンの始動が困難であるため、ステップ8に移行し、ステップ8からステップ13における直流始動電動機2の始動制御を行う。」

ケ.「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態のエンジン始動装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明のエンジン始動制御のフローチャートである。
【図3】エンジン始動時のエンジン回転数とインバータ電流との関係を示す図である。
【符号の説明】
1…交流回転電機、2…直流始動電動機、3…インバータ、31…パワートランジスタ、32…電流制限手段、33…電流センサ、4…DC-DCコンバータ、5…高圧バッテリ、5…高圧バッテリ、51…高電圧負荷、6…低圧バッテリ、61…低電圧負荷、7…始動制御装置、71…始動機選択手段、72…高圧バッテリ容量検出手段、73…低圧バッテリ容量検出手段、74…回復充電指令手段。」

(2)ここで、上記(1)記載事項ア.ないしケ.及び図面から、次のことが分かる。

上記ア.、ケ.及び図面の記載より、引用文献に記載されたものは、車両用エンジンの始動制御装置に関するものであることが分かる。

上記イ.の記載より、引用文献に記載されたものは、確実なエンジン始動の達成を目的としていることが分かる。

上記ウ.、エ.、オ.、ケ.及び第1図の記載より、車両用エンジンの始動制御装置は、低圧バッテリ6と高圧バッテリ5を有し、また、前記高圧バッテリ5及び低圧バッテリ6による電圧が印加されることによって、エンジン始動のための回転トルクを発生する交流回転電機1及び直流始動電動機2を有していることが分かる。

上記カ.、ケ.、第1図及び第2図の記載より、車両用エンジンの始動制御装置は、車両の状態に応じてエンジン始動時の始動機を選択する始動機選択手段71を有しており、該始動機選択手段71は始動制御装置7によって制御されていることが分かる。

上記キ.、ク.、ケ.及び第1図の記載より、車両用エンジンの始動制御装置は、車両の停車時にエンジンを停止して、車両の発進時にエンジンを始動するアイドルストップ制御装置8を搭載する車両に用いられるものであることが分かる。

上記ク.、ケ.、第1図及び第2図の記載より、前記始動機選択手段71は、アイドルストップ制御装置8による発進の際、所定の条件下(エンジン冷却水温が所定の範囲内にあり、かつ、高圧バッテリの容量が不足していないとき)で、前記始動制御装置7によって、交流回転電機1側に切り替えることが分かる。

(3)引用文献記載の発明
上記記載事項(1)、(2)より、引用文献には次の発明が記載されていると認められる。
「低圧バッテリ6と高圧バッテリ5により駆動される交流回転電機1又は直流始動電動機2の選択を行う始動機選択手段71と、
この始動機選択手段71によって切り替えられた電圧が印加されることによって、エンジン始動のための回転トルクを発生する交流回転電機1又は直流始動電動機2と、
前記始動機選択手段71を車両の状態に応じて制御する始動制御装置7とを具備する車両用エンジンの始動制御装置であって、
この車両用エンジンの始動制御装置は、車両の停車時にエンジンを停止して、車両の発進時にエンジンを始動するアイドルストップ制御装置8を搭載する車両に用いられるものであり、
前記始動機選択手段71は、アイドルストップ制御装置8による発進の際、所定条件下において、前記始動制御装置7によって交流回転電機1側に切り替えられる車両用エンジンの始動制御装置。」(以下、「引用文献記載の発明」という。)

3.対比
本願発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「車両用エンジンの始動制御装置」は、その有する機能に照らして、本願発明における「車両用始動装置」に相当する。
また、引用文献記載の発明における「アイドルストップ制御装置8」は、「車両の停車時にエンジンを停止し、車両の発進時にエンジンを始動する」機能を有することから、本願発明における「エコランシステム」に相当する。
また、引用文献記載の発明における「交流回転電機1又は直流始動電動機2」は、その有する機能に照らして、本願発明における「スタータモータ」に相当し、引用文献記載の発明における「交流回転電機1側」は、交流回転電機1は高圧バッテリ5によって給電されていることから、本願発明における「高電圧側」に相当する。
更に、引用文献記載の発明における「始動機選択手段71」と、本願発明における「電源切替手段」は、いずれも、「低電圧電源回路と高電圧電源回路の切り替えを行う」ものであるから、両者は、「始動回路切替手段」の限りにおいて相当する。
加えて、引用文献記載の発明における「始動制御装置7」と、本願発明における「始動用制御手段」は、いずれも、上記「始動回路切替手段」を「車両の状態に応じて切り替える」ものであるから、両者は、「始動用制御手段」の限りにおいて相当する。

してみると、両者は、
「低電圧電源回路と高電圧電源回路の切り替えを行う始動回路切替手段と、
この始動回路切替手段によって切り替えられた電圧が印加されることによって、エンジン始動のための回転トルクを発生するスタータモータと、
前記始動回路切替手段を車両の状態に応じて切り替える始動用制御手段とを具備する車両用始動装置であって、
この車両用始動装置は、車両の停車時にエンジンを停止して、車両の発進時にエンジンを始動するエコランシステムを搭載する車両に用いられるものであり、
前記始動回路切替手段は、エコランシステムによる発進の際、前記始動用制御手段によって高電圧側に切り替えられる車両用始動装置。」で一致し、次の相違点において相違している。

[相違点1]
「始動回路切替手段」に関して、本願発明においては、「低電圧電源と高電圧電源の切り替えを行う電源切替手段」であるのに対し、引用文献記載の発明においては、「高圧バッテリ5と低圧バッテリ6により駆動される交流回転電機1又は直流始動電動機2の選択を行う始動機選択手段71」である点。

[相違点2]
「始動用制御手段」に関して、本願発明においては、「エコランシステムによる発進の際、」「高電圧側に切り替え」るように制御を行うのに対し、引用文献記載の発明においては、「アイドルストップ制御装置8による発進の際、」「交流回転電機1側に切り替え」るように制御を行っているものの、「所定条件下」において該「切り替え」を行っている点。

4.当審の判断
まず、上記[相違点1]について検討する。
車両用始動装置において、「低電圧電源と高電圧電源の切り替えを行う電源切替手段」を設けることは、従来周知の技術(例えば、実願昭55-117398号(実開昭57-40660号)のマイクロフィルムの第3図、第4図、特開平6-101607号公報の【0014】?【0021】の記載等参照されたい。)にすぎない。
なお、該「電源切替手段」によって、単一のスタータモータに低電圧電源或いは高電圧電源から電圧を印加することも、上記参考例に明示されているように、従来周知の技術である。

したがって、引用文献記載の発明に、従来周知の技術を適用し、上記[相違点1]に係る本願発明の構成とすることは、当業者が格別困難なく想到し得るものである。

次に、上記[相違点2]について検討する。
「始動用制御手段」において、「エコランシステムによる発進の際、」「高電圧側に切り替え」制御して、迅速に再始動させようとすることは、該事項が当業者にとって自明の課題であり、且つ通常意図し得る事項(例えば、特開平11-107892号公報の【0006】?【0010】、【0042】等参照されたい。)にすぎないことから、当業者が適宜なし得る事項である。

したがって、引用文献記載の発明において、上記[相違点2]に係る本願発明の構成とすることは、当業者が格別困難なく想到し得るものである。

また、本願発明を全体として検討しても、引用文献記載の発明及び上記従来周知の技術から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用文献記載の発明及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2008-06-02 
結審通知日 2008-06-03 
審決日 2008-06-16 
出願番号 特願2000-362601(P2000-362601)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二之湯 正俊久島 弘太郎  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 金澤 俊郎
西本 浩司
発明の名称 車両用始動装置  
代理人 石黒 健二  
代理人 石黒 健二  

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