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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22F
管理番号 1182171
審判番号 不服2005-21588  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-09 
確定日 2008-07-28 
事件の表示 平成 8年特許願第282952号「安定化した金属ナトリウムディスパージョン」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月28日出願公開、特開平10-110205〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年10月4日の出願であって、平成16年4月26日付けで拒絶の理由が通知され、平成16年7月2日付けで手続補正がなされ、平成17年10月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年11月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は、平成16年7月2日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「トランスオイル(JIS C2320 1種2号で規定されたもの)中に分散して安定化した金属ナトリウムディスパージョン。」

3.原査定の理由の概要
原審における拒絶査定の理由の概要は、本願の請求項1?3に係る発明はその出願前日本国内又は外国において頒布された次の刊行物1?4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

刊行物1:特表平8-505440号公報
刊行物2:特開昭59-20179号公報
刊行物3:米国特許第5185488号明細書
刊行物4:カナダ特許第1142551号公報

4.刊行物の主な記載事項

(1)刊行物2(特開昭59-20179号公報)
刊行物2には、次の事項が記載されている。

(2a)「特許請求の範囲
1.炭化水素ベースの油に溶解している有機ハロゲン化物と溶融ナトリウム粒子群との、攪拌下、高められた温度における反応を含む有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化プロセスにおいて、反応が100乃至160℃の温度範囲で行われること、ナトリウムが粒子の少なくとも80%が10ミクロンより下の粒子サイズである粒子群の微細分散体の形体であること、及びこの反応によって有機ハロゲン基の実質上全部がハロゲン化ナトリウムに分解されることを特徴とする有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化プロセス。
・・・・・・
(略)
・・・・・・
10.脱ハロゲン化される有機ハロゲン化物を含有する油と同じかまたはこれと混和可能な炭化水素ベースの油の比較的少量中での強力な攪拌下、ナトリウムの融点より上の温度において金属ナトリウムを前分散することによって前記の微細分散体を形成して該微細分散体を達成し、つづいてこの微細分散体を有機ハロゲン化物を含有する油のバルクに混合する諸工程を特徴とする前記特許請求の範囲のいずれかの項に記載のプロセス。
・・・・・・
(略)
・・・・・・
24.その中に溶解している有機ハロゲン化物を有する前記油が電気絶縁油であることを特徴とする前記特許請求の範囲のいずれかの項に記載のプロセス。」(特許請求の範囲、請求項1、10、24)

(2b)「疑義を避けるために、こゝで使用する”電気絶縁油”という語は、変圧器類、レギュレータ類、リアクタ類、回路しゃ断器類、スイツチギア類、および付随装置のような電力および分配装置に絶縁および冷却媒体として使用される石油起源の電気絶縁鉱油類を指す。」(第6頁右上欄第1行?第6行)

(2c)「実施例1
ナトリウム分散体の製造
新しい電気絶縁油の標準規格に合致する電気絶縁油300gを含有する容量1Lのワーリングブレンダ(Waring Blender)のステンレス鋼混合ボウルに23℃で25gの塊状ナトリウム金属を添加した。この油の温度は120℃であった。およそ60ml/分の窒素ガス流をこの油の面上に行きわたらせて、反応性の高いナトリウムの酸化を阻止する不活性雰囲気を作り、122.5±2.5℃の制御温度および20,000RPMのインペラ速度にて15分間この混合物を混合した。得られた混合物は第4表に示される粒子サイズ分布をもつ球形粒子群の均一なねずみ色の分散体であった。
・・・・
この分散体(粒子群の65%が粒径5μmより小さく、96%が粒径11μmより小さい)の極度の細かさが注目されよう。

実施例2乃至16
ナトリウム分散体による塩素化芳香族類の脱塩素化
実施例1に述べたようにして新に製造されたナトリウム分散体を、・・・絶縁油と充分に混合して、数種の塩素化化合物類の脱塩素化に使用した。
・・・・
得られた諸結果は、上述の方法で製造した分散体類を使用した場合、反復可能で終始一貫していた。」(第9頁左上欄第2行?左下欄第8行)

(2)刊行物3(米国特許第5185488号明細書)
刊行物3には、次の事項が記載されている。

(3a)「EXAMPLE 1
Reductive dechlorination of Askarel using sodium in methanol

2.01g of sodium were heated in 50ml of transformer mineral oil
at a temperature of 105℃. After having melted sodium, the mixture
was rapidly stirred to transfer sodium into a very reactive sand
form. The oil was then carefully cooled down so that sodium could
stay in its reactive sand form. 1.040g of Askarel(Arochlor 1260(40%)
in trichlorobenzenes) in 1.410g of methanol was added to the above
mixture under nitrogen and the reaction mixture was heated just
above the melting point of sodium for 30 minutes. Under these
conditions, sodiumstayed as a fine powder in a very reactive form.」
(審判合議体訳;「実施例1 ナトリウムを用いたメタノール中のアスカレルの脱塩素化
ナトリウム2.01gが105℃の鉱油である変圧器油50ml中で加熱された。ナトリウムの溶解後、混合物は急速に攪拌され、ナトリウムは反応性の砂状とされた。前記鉱油である変圧器油は、その後、ナトリウムがその反応性の砂状を維持するように慎重に冷却された。メタノール1.410gに1.040gのアスカレル(トリクロロベンゼン中にアロクロア40%を含有)を含有する溶液が、窒素気体下において前記混合物に添加され、反応混合物は、ナトリウムの融点直上温度にて30分間加熱された。これらの条件下、ナトリウムは、非常に反応性の高い状態において細粒状態を維持した。」)(第8欄第18行?第33行)

5.当審の判断

5-1.刊行物2を引用例として
(1)刊行物2記載の発明
刊行物2には、(2a)の記載によれば、炭化水素ベースの油に溶解している有機ハロゲン化物と溶融ナトリウム粒子群とを攪拌下、高温反応により、有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化を行うに際し、ナトリウムは粒子の少なくとも80%が10ミクロン以下の粒子サイズである粒子群の微細分散体の形体であることが記載されているといえる。
さらに(2a)の記載によれば、前記微細分散体は、脱ハロゲン化される有機ハロゲン化物を含有する油と同じ炭化水素ベースの油中に強力な攪拌下、金属ナトリウムを前分散、すなわち、予め金属ナトリウムのみを分散することによって形成されるものであって、有機ハロゲン化物を含有する油のバルクに混合されること、また、その中に溶解している有機ハロゲン化物を有する前記油は電気絶縁油であることが記載されているといえる。
してみると、前記微細分散体は、金属ナトリウムが電気絶縁油中に前分散されて形成された微細分散体ということができる。
そして、(2c)の記載によれば、前記微細分散体は、前記絶縁油中において常に安定した反応を実現するものであるから、安定化した状態で絶縁油中に存在する微細分散体であるということがいえる。

以上の記載及び認定事項を本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物2には、次の発明が記載されている。
「電気絶縁油中に分散して安定化した金属ナトリウムの微細分散体」(以下、「刊行物2発明」という。)

(2)本願発明1と刊行物2発明との対比
本願発明1と刊行物2発明とを対比すると、刊行物2発明における「微細分散体」は、本願発明1における「ディスパージョン」に相当し、また、JIS C2320-1993(平成5年7月1日改正、日本規格協会、平成5年9月30日発行)は、電気絶縁油について規定したものであるから、本願発明1における「トランスオイル(JISC2320 1種2号で規定されたもの)」は、電気絶縁油の一種であるといえる。
してみると、両者は、「電気絶縁油中に分散して安定化した金属ナトリウムディスパージョン」である点において一致し、以下の点において相違するものである。

相違点:金属ナトリウムを分散させる電気絶縁油が、本願発明1では、JIS C2320 1種2号で規定される電気絶縁油であるのに対し、刊行物2発明では、具体的な電気絶縁油の種類については不明である点

(3)相違点についての判断
(2b)の記載によれば、刊行物2における「電気絶縁油」は、石油起源の電気絶縁鉱油類を指すものであって、変圧器類を用途として含むものである。
一方、JIS C2320-1993の2頁には、電気絶縁油は、主成分に基づき1種から7種に分類されること、鉱油を主成分とするものは1種に分類され、用途に応じて1種1号から1種4号に規定されるものであること(1号:主に油入コンデンサ、油入ケーブル等用、2号:主に油入変圧器、油入遮断器等用、3号:主に厳寒地以外で用いる油入変圧器、油入遮断器等用、4号:主に高電圧大容量油入変圧器用)が記載され、これらの記載事項は、本願出願前における周知技術である。
してみると、刊行物2発明において、金属ナトリウムを分散させる電気絶縁油として、鉱油を主成分とする1種のものを選択すること、中でも一般的に変圧器用として用いる1種2号のものを適宜選択することは、前記周知技術に基づき当業者が容易に成し得る程度のものと認められる。

(4)小括
よって、本願発明1は、刊行物2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5-2.刊行物3を引用例として
(1)刊行物3記載の発明
刊行物3には、(3a)によれば、鉱油である変圧器油中においてナトリウムが加熱され、溶解後急速に攪拌され、ナトリウムが反応性の砂状とされることが記載されているといえるし、上記ナトリウムが金属ナトリウムであることも明らかである。
してみると、刊行物3には、「鉱油である変圧器油中に金属ナトリウムの砂状体が分散した金属ナトリウムの砂状体と鉱油である変圧器油との混合物」が記載されているといえる。
そして、(3a)によれば、前記鉱油である変圧器中に分散されている金属ナトリウムの砂状体は、反応性及び砂状を維持するように冷却されるものであって、脱塩素化反応条件下においても反応性が高いにもかかわらず、細粒状態を維持されるものであるから、上記混合物は、安定化したものであるといえる。

以上の記載及び認定事項を本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物3には、次の発明が記載されている。

「鉱油である変圧器油中に金属ナトリウムの砂状体が分散して安定化した金属ナトリウムの砂状体と鉱油である変圧器油との混合物」(以下、「刊行物3発明」という。)

(2)本願発明1と刊行物3発明との対比
本願発明1と刊行物3発明とを対比すると、刊行物3発明における「金属ナトリウムの砂状体が分散して安定化した金属ナトリウムの砂状体と鉱油である変圧器油との混合物」は、本願発明1における「分散して安定化した金属ナトリウムディスパージョン」に相当する。
また、刊行物3発明に関して、変圧器油は、電気的絶縁性と断熱性の両方の特性を有するものを指すことは技術常識であるから(要すれば、特開平3-88804号公報の第4頁左上欄第16行?第18行、特表平8-503009号公報の第19頁下1行?第20頁第1行を参照)、電気絶縁油と言い換えることができるものといえる。
他方、本願発明1に関して、前記(5-1.(2))したとおり、本願発明1における「トランスオイル(JIS C2320 1種2号で規定されたもの)」は、電気絶縁油の一種であるといえる。
してみると、両者は、「電気絶縁油中に分散して安定化した金属ナトリウムディスパージョン」である点において一致し、以下の点において相違するものである。

相違点:金属ナトリウムを分散させる電気絶縁油が、本願発明1では、JIS C2320 1種2号で規定される電気絶縁油であるのに対し、刊行物3発明では、鉱油である電気絶縁油ではあるが、具体的な種類については不明である点

(3)相違点についての判断
前記(5-1.(3))したとおり、電気絶縁油は、主成分に基づき1種から7種に分類されること、鉱油を主成分とするものは1種に分類され、用途に応じて1種1号から1種4号に規定されるものであること(1号:主に油入コンデンサ、油入ケーブル等、2号:主に油入変圧器、油入遮断器等、3号:主に厳寒地以外で用い油入変圧器、油入遮断器等、4号:主に高電圧大容量油入変圧器)は、本願出願前における周知技術である。
してみると、刊行物3発明において、金属ナトリウムを分散させる電気絶縁油として、鉱油を主成分とする1種のものを選択すること、特に刊行物3発明については、用途として変圧器に用いるものであるから、一般的に変圧器用に用いる1種2号のものを適宜選択することは、前記周知技術に基づき当業者が容易に成し得る程度のものと認められる。

(4)小括
よって、本願発明1は、刊行物3発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物2または刊行物3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきでものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-28 
結審通知日 2008-06-03 
審決日 2008-06-16 
出願番号 特願平8-282952
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B22F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 猛  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 近野 光知
鈴木 由紀夫
発明の名称 安定化した金属ナトリウムディスパージョン  
代理人 大石 治仁  

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