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審決分類 審判 一部無効 4項(134条6項)独立特許用件  A23L
審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A23L
審判 一部無効 2項進歩性  A23L
管理番号 1182851
審判番号 無効2007-800141  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-07-23 
確定日 2008-07-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3857304号発明「回転円盤固体培養装置における培養基質の培養方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3857304号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
被請求人は,平成7年7月27日を出願日とする特願平7-192089号の一部を分割して,平成18年6月14日に,名称を「回転円盤固体培養装置における培養基質の培養方法」とする新たな特許出願をし,平成18年9月22日,特許庁から特許第3857304号として設定登録を受けた。
これに対して,請求人から平成19年7月23日付けで請求項1に係る発明についての特許に対して,無効審判の請求がなされたところ,その後の手続の経緯は,以下のとおりである。

答弁書: 平成19年10月 9日
訂正請求書: 平成19年10月 9日
弁ぱく書(1): 平成19年11月21日
弁ぱく書(2): 平成19年11月21日
答弁書[第2]: 平成20年 2月25日
口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成20年 2月25日
口頭審理陳述要領書(請求人): 平成20年 3月24日
口頭審理: 平成20年 4月 8日
上申書(被請求人): 平成20年 4月21日
答弁書[第3]: 平成20年 5月 8日

第2 平成19年10月9日付けの訂正請求の適否について
1.訂正請求の内容
被請求人は,訂正請求書に添付した全文訂正特許請求の範囲及び全文訂正明細書に記載したとおりの次の内容の訂正を請求するものである。

特許請求の範囲を「【請求項1】
送風機と手入機を備えた回転円盤固体培養装置による培養基質の培養に際し,培養基質の堆積層厚を50cm以上とし,該培養基質の手入時間を30分以内に終えるようにしたことを特徴とする培養基質の培養方法。
【請求項2】
培養基質の培養に際し,前記装置の手入機の昇降位置を検知して培養基質の堆積層厚を50cm以上に調節し,該手入機の昇降に合わせて培養装置内への送風機による送風量を可変して該培養基質の手入時間を30分以内に終えるようにしたことを特徴とする請求項1記載の培養基質の培養方法。」と訂正し,
発明の詳細な説明の,段落0008の5行目,段落0012の2行目,段落0014の1行目及び11行目,段落0027の5行目にそれぞれ記載した「40cm」を「50cm」に訂正するものである。

2.訂正請求の適否についての検討
(1)この訂正は,請求項1,2において,培養基質の堆積層厚につき,40cm以上であったものを50cm以上にするもので,40cm以上で50cm未満の範囲を除いて限定するものであり,この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして,当該訂正は,訂正前の段落0029の記載からみて,本件の訂正前の明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
なお,請求人は,「新たにより効果の良い50cm以上を追加したことにより,むしろ特許請求の範囲の拡大になる」ことを主張しているが,40cm以上ということは50cm以上の範囲も包含するものであるから,50cm以上を追加したことにはならない。

(2)請求項2については,特許無効審判の請求がされていないので,特許法第134条の2第5項において読み替えて準用する特許法第126条第5項に規定する要件について更に検討すると,訂正後における請求項2に係る発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができないとすべき理由を発見しない。

3.まとめ
以上のとおり,本件訂正は,特許法第134条の2に規定する要件を満たすものであるから,本件訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正は容認されたから,本件特許の請求項1に係る発明(以下,「本件発明」という。)は,次のとおりのものと認める。
「送風機と手入機を備えた回転円盤固体培養装置による培養基質の培養に際し,培養基質の堆積層厚を50cm以上とし,該培養基質の手入時間を30分以内に終えるようにしたことを特徴とする培養基質の培養方法。」

第4 当事者の主張の要点
1.請求人の主張
本件発明は,特許法第29条第2項の規定に違反する。
そして,その根拠となる証拠として,特公昭51-5480号公報,特公昭60-28274号公報,昭和44年10月30日株式会社地人書房発行の「しょうゆ造りの実際」第66頁及び昭和63年3月30日財団法人日本醸造協会発行の「醤油の科学と技術」第101頁が,甲第1?4号証として提出された。

2.被請求人の主張
甲第1号証及び甲第2号証は,送風機と手入れ機を備えた回転円盤固体培養装置による一般的な固体培養方法が記載されているのみで,培養基質の堆積層厚を40cm以上とすること,及びこの際に培養基質の手入時間を30分以内に終えるようにしたことについての記載はない。
甲第3号証に「機械製キクではコウジ層が20cm?45cmで,従来のふたコウジの3.5cmに比し非常に厚い」との記載があるが,当時の機械製麹方法で堆積層が40cmを超えることは,まずもって殆どなかった。特に好適な実施例に挙げた堆積層厚を50cm以上とすることが公知の事項であったということはできない。
甲第4号証の「手入れは20?40分以内に終えることが好ましい」の記載は,甲第4号証と同じ書物である乙第1号証の第99頁にある「麹層の厚さは通常20?40cm」の条件に対応するものであり,20cmの堆積層厚で20分,40cmの堆積層厚で40分と解釈するのが相当であり,本件発明とは製麹条件が相違する。
本件特許は,常識を破る発想の転換により,従来方法にはなかった大きい層厚,短い手入れ時間を採用したもので,数多くの実験と計算の結果,短時間に大量の固体培養できる方法を確立したものである。

第5 当審の判断
1.本件発明の前提技術
本件特許の出願前に頒布された甲第1号証及び甲第2号証刊行物に,本件発明において,その前提となる「送風機と手入機を備えた回転円盤固体培養装置による培養基質の培養方法」が記載されていることは,被請求人も認めているし,本件特許の出願前に頒布された乙第1号証の第102頁や,乙第2?4号証の記載からも,この培養方法が当業者によく知られていたことは明らかである。
本件発明は,当業者によく知られた「送風機と手入機を備えた回転円盤固体培養装置による培養基質の培養方法」において,「培養基質の堆積層厚を50cm以上」とし(相違点1),「該培養基質の手入時間を30分以内に終えるようにした」(相違点2)ものであるので,これらの相違点について以下検討する。

2.相違点1について
培養基質の堆積層厚を厚くすれば,同じ円盤径の装置を用いても多くの麹ができることはいうまでもないことであるから,効率のよい生産のために堆積層厚を厚くすることは,当業者であれば容易に想到できることにすぎないもので,常識を破る発想の転換が必要ないことである。ただ,どこまでも厚くできるかと言えば,乙第1号証第100頁第12?16行にも記載されるように,「麹層を通過する風は麹菌の出した熱を風の下流側へと運ぶので,下流側すなわち,麹層の上側ほどその温度が高くなり,このため下流側ほど麹菌の生育が早くなる。乾燥による麹物料の収縮の他に,炭水化物の麹菌による消費によって麹層全体が収縮し,また麹層の粒子間の空隙に濃密に菌糸が充満することにより通風抵抗が増す。」ことは,本件特許の出願時における技術常識であり,麹層を厚くすれば,通風の上流側と下流側での生育の差がさらに大きくなり,麹の品質が低下することになるし,通風抵抗も大きくなることから,大きな風圧を生じる装置が必要になるので,自ずと限度があることは明らかなことである。
本件特許の出願前に頒布された刊行物の麹層の厚さについての記載を見ると,甲第3号証には20cm?45cm,乙1号証と乙2号証の2には20cm?40cmとあり,被請求人の「せいぜい30cm前後で40cmを超えることはほとんどなかった」(第3答弁書3頁5行)との主張も納得できるものである。しかし,このことは層厚を50cm以上とすることが技術的に困難であったことを何ら示すものではない。従来,層厚が40cmを超えることはほとんどなかったとしても,生産効率,麹の品質,送風機を大型化するコストなどを考慮して,層厚をどの程度にするかは当業者が適宜定めることができるものであり,また,層厚を50cmを境として臨界的な効果の差異があるものでもないので,層厚を50cm以上とすることに,技術的に格別の困難があったものとは認められず,当業者が容易になしえたこととするほかないことである。

3.相違点2について
本件特許の出願前に頒布された甲第4号証に,「塊となった麹をほぐし,混合して通風抵抗を減らし,上下の麹菌の成長の度合いを均一化する必要がある。この攪拌およびほぐし作業のことを手入れという。・・・。攪拌中は麹の微粉が舞い上がるので,通風を停止するため,手入れは20?40分以内に終わることが好ましい。」と記載されるように,手入時間を長くすると,通風の停止のために麹に悪影響を与えることは,本件特許の出願時の技術常識であり,手入時間は20?40分以内のなかでもより短いことが好ましいことが明らかであるといえる。また,本件特許の明細書の段落0005に記載されるように,「培養基質の品温や固体培養装置内の温度,湿度等を調整するための回転床への送風は,手入工程中,手入機によって撹拌される培養基質の飛散等の問題を回避するため,控えるか止めなければならない。また,培養基質は,堆積層が厚くなるほど発熱量が大きくなるから,手入工程中の培養基質の品温上昇を防ぎ,品温むらを防止するためには,培養基質の堆積層を薄くせざるを得なかった。」のであるから,甲第4号証の記載を,被請求人の主張のように,20cmの堆積層厚で20分,40cmの堆積層厚で40分と解釈する余地はないものである。とすると,従来の手入時間において,20?40分以内のうちでも,30分以内の範囲(被請求人が従来行われていたとする30分も含むものである。)において普通に行われていたものと推察される。
そうすると,本件発明において,従来の20cm?40cmの堆積層厚で普通に行われていた手入時間を,堆積層厚50cm以上において採用したものにすぎず,そのような範囲を試験により見出したとしても,何の工夫やひらめきも必要なかったというべきものであり,培養基質の手入時間を30分以内に終えるようにすることは当業者が容易になしえたことであるし,上述の本件特許明細書の段落0005の記載からみても,堆積層厚を50cm以上としたときに,当業者であれば手入時間を短くしさえすれ,長くすることはあり得ないことである。

なお,被請求人は,現在ではほとんどの培養装置で,50?60cmという層厚でかつ手入時間30分以内の操業を実施していることも主張しているが,例えば,そのような操業に適した麹菌を用いているとか,そのような操業が可能な培養装置が開発された等,様々な他の技術開発により,50?60cmという層厚が可能になったことも考えられるし,そのような技術開発がなかったとすれば,大量生産の代償として品質の多少の低下を受忍したというにすぎないものであり,30分以内という従来技術と同様の手入時間とした本件発明により,50?60cmという層厚が可能になったものと認めることはできない。

4.本件発明の効果について
本件特許明細書の段落0012には,本件発明が,「大量の培養基質を,品質の低下を招くことなく,培養することができる。」とあり,段落0029に具体的な数値をもって結果が示されているが,この結果は,同じ手入時間では,麹層が厚いほど品質が低下し,また,同じ堆積層厚では,手入れ時間が長いほど品質が低下するという,本件特許の出願時における技術常識から当業者が当然に予測する結果が示されているだけであり,何ら格別顕著な効果ではない。
また,本件発明は,培養基質の堆積層厚の上限がなく,手入時間を30分以内としても品質が低下する範囲も含んでいることになることからも,格別顕著な効果がないことになる。

5.まとめ
以上まとめれば,本件特許の出願時の技術常識を考慮すれば,本件発明は,甲第1?4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

第6 むすび
以上のとおり,本件特許の請求項1に係る発明についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人の負担とすべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
回転円盤固体培養装置における培養基質の培養方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、醤油、味噌、清酒等の醸造食品製造における麹、酵素、菌体等の培養基質を培養する回転円盤固体培養装置における培養方法、特に手入工程に係る改良に関する。
【0002】
なお、本発明において「手入工程」とは、手入機の作動開始から終了までの工程を言い、「手入時間」とは手入機が培養基質に進入し始めてから完全に退出するまでの時間を言う。また、培養基質とは回転床に敷き詰めた原料を指し、堆積層とは前記培養基質の厚みを指す。
【背景技術】
【0003】
回転円盤固体培養装置の培養工程において、従来の手入工程は、各種条件によっても異なるが、数?30cm厚の培養基質に対し、微風又は無風状態で手入機を作動させて、通常40?60分を要するのが一般的である。また、盛込後に必要となる培養基質表面の均しは、手作業又は盛込・排出スクリュー等による機械作業に依っているが、場合によっては均しを行わないこともあった。更に、培養基質の手入に際して、その表面へ若干接触又は進入する程度の高さに手入機を位置させて手入をすることは特許文献1に記載され、手入機の構成については、垂直の回転軸を有するスクリューを回転床の半径方向に複数基配列した構成のものが、特許文献2に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7-170966号公報([請求項1])
【特許文献2】特開平7-23770号公報([0010]、図1、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
培養基質の品温や固体培養装置内の温度、湿度等を調整するための回転床への送風は、手入工程中、手入機によって撹拌される培養基質の飛散等の問題を回避するため、控えるか止めなければならない。また、培養基質は、堆積層が厚くなるほど発熱量が大きくなるから、手入工程中の培養基質の品温上昇を防ぎ、品温むらを防止するためには、培養基質の堆積層を薄くせざるを得なかった。
【0006】
盛込後に培養基質表面に生じる偏りは、堆積層が厚くなればなるほど大きくなり、培養基質の均等性を阻害し、品温上昇や品温むらの原因となる。培養基質表面を均すのは、培養基質の均等性を実現するためのものであるが、従来の盛込・排出スクリューによる均し方法では、時間が掛かる割に均一に均すことができないし、盛込・排出スクリューは培養基質を押さえ付けて均すので、培養基質には部分的な粗密ができてしまい、品温上昇、品温むらが少なからず発生して、原料の品質を低下させていたのである。
【0007】
そこで、原料の培養を良好に行うため、特に手入工程について考察し、培養基質表面の均し方法の改善と、培養基質の品温上昇及び品温むらを防止又は低減することとを目的として、培養方法について検討することとした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
検討の結果開発したものが、醤油、味噌、清酒等の醸造食品を製造する麹、酵素、菌体等の回転円盤固体培養装置における培養に際し、(1)培養基質の盛込後、手入機を前記培養基質の表面へ若干接触又は進入する程度の高さに位置させて回転床を回転し、培養基質の表面を平らに均すこと、手入工程時には、(2)手入機の昇降位置を検知して、該手入機の昇降に合わせて培養装置内への送風量を可変すること、又は(3)堆積層50cm以上の培養基質の手入時間を30分以内に終えることを特徴とする培養基質の培養方法である。
【0009】
(1)について、手入機は、予め定めたシーケンス若しくは盛込後の培養基質の表面の状態に従って自動で、又は作業者が手入機を操作して行なってもよい。手入機を位置させる高さは、培養基質や使用する手入機に合わせて決定する。なお、手入工程における回転床の回転回数は通常1回転でよいが、この回数に限定されるものではない。
【0010】
(2)について、手入機の下降時は、堆積層の中程までは通常の風量で、以下において徐々に風量を落とし、手入機の下降端で手入時風量として手入を行い、手入機の上昇時は、堆積層の中程まで徐々に風量を増加させ、以上において培養時風量に戻すような制御をする。
【0011】
(3)について、回転床の回転速度を、30分以内に手入工程が終わるように速め、併せて手入機の回転も速くするようにする。
【0012】
本発明の培養基質の培養方法は、手入機を用いて均し、手入中の培養装置内への送風量を可変することで良好な培養状態を実現し、50cm以上の堆積層を有する培養基質を30分以内で手入することにより、大量の培養基質を、品質の低下を招くことなく、培養することができる。
【0013】
手入機による均しは、培養基質表面のみを上方から均すことによって、高い均一性を実現する。また、強い送風ができない手入中を除き、手入機の昇降位置に合わせて送風量を可変することで、手入時における培養基質の温度上昇を抑制することができる。両者は、温度上昇を抑制し、通風むら、品温むらをなくした、より良い培養状態の実現に寄与する。
【0014】
また、堆積層を50cm以上にしても手入時間を30分以内に終えるようにすれば、培養基質が温度上昇による品質低下を招くことがなくなり、品質のばらつきを抑えた、安定した培養が可能となる。例えば醤油麹の場合、品温が40℃を超えると麹菌の増殖は難しく、逆に雑菌の繁殖がしやすくなるので、品温の上限値を40℃にしなければならず、また麹基質は堆積層の厚みと手入時間に比例して品温にばらつきが生ずるので、設定品温は品温の上限値とばらつきとを考慮し、一定の温度幅を持たせて決定する。従来は手入時間が長く、堆積層が厚くなるほどに品温のばらつきが大きくなりやすかった(表1参照)ので、設定品温の幅が狭く、良好な培養をするには堆積層を薄くしなければならなかったが、本発明では手入時間を短くすることで品温のばらつきを小さくし、設定品温の幅にゆとりを持たせ、堆積層を厚くしても良好な培養ができるようにしたのである。本発明における30分という値は、現在用いられている回転円盤固体培養装置一般において、堆積層50cm以上で実用上限となる値であり、試験から算出したものである。
【0015】
【表1】

【発明の効果】
【0016】
本発明の培養方法は、固体培養装置における培養基質の均しを均一に行い、かつ短時間の手入と悪影響の少ない送風とを実現することで、堆積層の厚い培養基質に対しても良好な培養が行えるようになり、培養原料の品質も低下させることがない。
【0017】
均しに関しては、従来からある手入機を利用するものであり、特段の設備投資をする必要がなく、手入機の昇降位置を検知して培養装置への送風量を制御する手入方法においても比較的安価に設備を構成できるので、上記利点と相俟って、高い費用対効果が期待できる。また、固体培養装置の自動化を押し進め、効率よく作業を行うことができるようになるから、作業の効率化も図れるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図を参照しながら、本発明の実施例について説明する。図1は、盛込後の固体培養装置1において、本発明の培養方法のうち、手入機2による均しを行っている状態を表した断面図である。図1中、回転床3の左半分は未だ均しが行われていない培養基質4を表し、右半分は手入機2による均しが行われた培養基質5を表している。
【0019】
本実施例は、ターナ式と呼ばれる手入機2を用いて培養基質4の表面の均しを行なっている。図1に見られるように、この手入機2は垂直の回転軸を有するスクリュー6を、回転床3の半径方向に複数基配列した構成のもので、通常は各スクリュー6を培養基質に進入させることで手入を行なう。本実施例では、スクリュー6の先端を培養基質4の表面から約10cm進入させるようにしている。
【0020】
この手入機による均し方法は、培養基質4の盛込後、所定手順で手入機2を作動させるシーケンス制御でもよいし、また、盛込後の培養基質4の状態を適宜判断して作動させる自動制御又は手動制御によって手入機2を作動させてもよい。
【0021】
【表2】

【0022】
表2は、従来の盛込・排出スクリューによる均しと本発明の手入機による均しとについて比較した試験結果の一覧である。それぞれ、醤油麹を直径14mの回転床へ堆積層60cm厚で40時間製麹した際における第一手入までの品温経過を、各回転床の外周、中周及び内周それぞれで測定している。なお、本発明による均しでは、手入機先端を麹基質表面から10cm程度進入させた。
【0023】
表2から明らかなように、従来の均し方法では培養基質盛込後手入に至るまでに麹基質内での品温むらが大きくなるが、本発明の均し方法では品温むらが殆ど生じないことがわかる。これは、従来の均し方法では外見的には均一な均しに見えても、内部的には培養基質の粗密が生じ、均一ではないのに対し、本発明の均し方法では実際的に均一な均しが実現できたことを意味している。
【0024】
図2?図4は、手入機2の昇降位置をプログラマブルコントローラ7(以下、PCと略する)に伝達し、手入機2の昇降及びスクリュー6の回転、回転床3の回転と送風機8の回転とを互いに連携させて制御して手入を行う固体培養装置の制御系統図である。本実施例では、制御を簡易にするため、培養基質5に対して手入機2が完全に退出した位置(図2)に対応する上段リミットスイッチ9(上スイッチと略する、以下同様)、培養基質5に対して手入機2が進入を始める又は退出を終える位置(図3)に対応する中スイッチ10、培養基質5に対して手入機2が完全に進入した位置(図4)に対応する下スイッチ11において、機械的な接触により手入機2の昇降位置を検知するようにしている。
【0025】
制御対象となる手入機2の昇降及びスクリュー6の回転、回転床3の回転と送風機8の回転は相関関係を有し、培養基質の種類や堆積層の厚さによって値の組合せが異なる。そこで、本実施例では各スイッチ9,10,11からの検知信号をPC7へ伝達し、このPC7に予め入力した培養環境条件(前記培養基質の種類や堆積層の厚さ等)と合わせて各制御対象に対する制御信号を出し、それぞれのインバータを制御するようにしている。
【0026】
各部の制御は次のように行う。手入機2が上スイッチ9により検知されているとき(図2)は、手入機2が上スイッチ9よりも上方に位置することを意味し、この状態では回転床3は回転せず、送風は通常どおり行われる。手入工程が始まれば、回転床3及び手入機のスクリュー6が回転を開始し、手入機2が下降して培養基質5へ進入を始める。中スイッチ10が手入機2を検知する(図3)と、送風機8の回転が低下し始め、送風が弱められる。回転床3及びスクリュー6の回転や送風量は、時系列に対して階段的に変化させて低下又は弱めてもよいし、中スイッチ10の検知後の経過時間に合わせて連続的に変化させて低下又は弱めてもよい(回転床の回転を徐々に速めて一定速に至る、送風量を減少させて最終的に微風又は無風にするなど)。
【0027】
スクリュー6が完全に培養基質5へ進入する(図4)と手入機2の昇降位置を下スイッチ11が検知して、手入機2の下降を停止させ、回転床3の回転を定速とする。このとき、回転床3及びスクリュー6の回転を高速にすることで、比較的厚い堆積層の培養基質でも短時間で手入して、無風又は微風状態で行われる手入中の培養基質5の品温上昇を抑えることができる。このため、50cm以上の堆積層の培養基質に対しても良好な手入が行えるようになる。また、手入済面積に応じて送風量を増やせば、より良好な手入が実現できる。
【0028】
手入中は微風又は無風状態にあるため、まだ手入を終えていない培養基質は、品温が上昇しやすい状態にある。特に、手入が最後に行われる培養基質、すなわち手入機の侵入位置から回転床が一回転して到達する培養基質の品温上昇は著しい。回転床の回転を早めて手入時間を短縮するのは、こうした品温が上昇できる許容時間を短縮する意味を持つのである。
【0029】
例えば、直径12mの回転床において、醤油麹の培養を、堆積層厚30cm、手入時間40分である従来の方法で行った場合、手入が最後に行われる培養基質は、手入開始直後に33.5℃であったものが、手入直前には38.1℃に達する。ところが、堆積層厚50cm、手入時間40分とすると、同培養基質は、手入開始直後で35.2℃であり、手入直前には40.8℃に達してしまい、若干の異臭を発生させるほか、明らかな品質低下が確認された。これに対し、同様の醤油麹の培養を、堆積層厚50cm、手入時間25分にした本発明の方法で行った場合、手入が最後に行われる培養基質は、手入開始直後に35.5℃であったものが手入直前でも38.6℃にしか達せず、異臭の発生もなく、品質の低下も見られなかったのである。
【0030】
回転床3が規定量の回転を終えるか、設定時間を経過すると、手入機2が上昇を始め、回転床3及びスクリュー6の回転が減少する。スクリュー6が培養基質5の中を上昇し、再び中スイッチ10が手入機2を検知すると(図3)、回転床3及びスクリュー6の回転が一定となり、送風が通常状態へ戻る。この場合も、手入機2の上昇開始からの経過時間に合わせて送風量を可変することもできる。
【0031】
以上により、手入工程において、培養基質の飛散等の悪影響を与える割合を極力抑えながら、送風により、品温上昇を抑えることができ、また回転床の回転速度を速めることで手入時間を短縮できる結果、堆積層の厚い培養基質に対しても良好な手入を施すことができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の均し方法を実行している状態を表した固体培養装置の概略断面図である。
【図2】手入工程において、培養基質から完全に退出した手入機の昇降位置に応じ、手入機、回転床と送風機とを制御する固体培養装置の制御系統図である。
【図3】手入工程において、培養基質に進入し始めた手入機の昇降位置に応じて、手入機、回転床と送風機とを制御する固体培養装置の制御系統図である。
【図4】手入工程において、培養基質へ完全に進入した手入機の昇降位置に応じ、手入機、回転床と送風機とを制御する固体培養装置の制御系統図である。
【符号の説明】
【0033】
1 固体培養装置
2 手入機
3 回転床
4 均し前の培養基質
5 均し後の培養基質
6 スクリュー
7 PC(プログラマブルコントローラ)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】送風機と手入機を備えた回転円盤固体培養装置による培養基質の培養に際し、培養基質の堆積層厚を50cm以上とし、該培養基質の手入時間を30分以内に終えるようにしたことを特徴とする培養基質の培養方法。
【請求項2】培養基質の培養に際し、前記装置の手入機の昇降位置を検知して培養基質の堆積層厚を50cm以上に調節し、該手入機の昇降に合わせて培養装置内への送風機による送風量を可変して該培養基質の手入時間を30分以内に終えるようにしたことを特徴とする請求項1記載の培養基質の培養方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-05-21 
結審通知日 2008-05-26 
審決日 2008-06-06 
出願番号 特願2006-165049(P2006-165049)
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (A23L)
P 1 123・ 856- ZA (A23L)
P 1 123・ 851- ZA (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 柴原 直司  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 小暮 道明
種村 慈樹
登録日 2006-09-22 
登録番号 特許第3857304号(P3857304)
発明の名称 回転円盤固体培養装置における培養基質の培養方法  
代理人 中務 茂樹  
代理人 森 寿夫  
代理人 森 廣三郎  
代理人 石山 博  
代理人 森 寿夫  
代理人 中務 茂樹  
代理人 森 廣三郎  

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