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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200524685 審決 特許
不服20045852 審決 特許
不服2005361 審決 特許
不服200628853 審決 特許
不服2006724 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07K
審判 全部無効 2項進歩性  C07K
管理番号 1182852
審判番号 無効2007-800236  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-10-30 
確定日 2008-07-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3798447号発明「カチオン系生体異物および/または薬物の輸送を行う輸送タンパク質、それをコードするDNA、およびそれらの用途」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許3798447号に係る出願は、1995年7月13日(優先権主張1994年7月13日、ドイツ連邦共和国)を出願日として特許出願され、その請求項1?4に係る発明について平成18年4月28日に特許の設定登録がなされ、当該請求項1?4に係る特許に対して、長谷川芳樹より平成19年10月30日付で本件無効審判の請求がなされたところ、平成20年3月19日付で審判被請求人より答弁書並びに訂正請求書が提出され、当審は、平成20年4月14日付で、当該答弁書並びに訂正請求書を審判請求人に送付するとともに、審尋を行い、これに対し審判請求人より平成20年4月28日付で上申書が提出されたものである。

第2 訂正の可否に対する判断
1.訂正事項
平成20年3月19日付で被請求人よりなされた訂正請求は、請求項1の「図7?9、図10?12、または図13?15に示されたアミノ酸配列を有する、タンパク質。」を「図7?9に示されたアミノ酸配列を有する、タンパク質。」に訂正し、請求項2の「図7?9、図10?12、または図13?15に示されたアミノ酸配列からなる、タンパク質。」を「図7?9に示されたアミノ酸配列からなる、タンパク質。」に訂正するというものである。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正前の請求項1及び2に記載の発明は、「図7?9に示されたアミノ酸配列」、「図10?12に示されたアミノ酸配列」及び「図13?15に示されたアミノ酸配列」の三つのアミノ酸配列から選択される一つのアミノ酸配列を有する、若しくは、からなるタンパク質に係るものであり、訂正後の請求項1及び2に記載の発明はこれら三つのアミノ酸配列から選択される一のアミノ酸配列に係るタンパク質のうち、「図7?9に示されたアミノ酸配列」に係るもののみに限定されている。従って、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付された明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、請求の範囲に択一的に記載された事項の一部を削除するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第134条の2第1項ただし書並びに同条第5項において準用する第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 当事者の主張

1.審判請求人の主張
請求人は、「特許第3798447号発明の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」とし、証拠方法として下記の甲第1号証乃至甲第2号証を提出して、その理由を概要次のとおり主張している。

(1)無効理由1
本件請求項1乃至4に係る発明の特許は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2)無効理由2
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

(3)無効理由3
本件特許は、請求項1?4に関する特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(4)無効理由4
本件特許は、請求項4に関する特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



甲第1号証:ドイツ特許出願公開第4424577号明細書

甲第2号証:Grundemann et al., Drug excretion mediated by a new prototype of polyspecific transporter, Nature (1994/12/8), Vol. 372, p.549-552

2.審判被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の乙第1号証乃至乙第10号証を提出している。



乙第1号証:U.Ruther and B. Muller-Hill, EMBO J. (1983), Vol.2, No.10, p.1791-1794

乙第2号証:Keith K. Stanley and J. Paul Luzio, EMBO J. (1984), Vol.3, No.6, p.1429-1434

乙第3号証:David V. Goeddel et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1979), Vol.76, No.1, p.106-110

乙第4号証:Carina E. Handl et al., PROTEIN EXPRESSION AND PURIFICATION (1993), Vol.4, p.275-281

乙第5号証:Donald B. Smith and Kevin S. Johnson, Gene (1988), Vol.67, p.31-40

乙第6号証:Wing L. Sung et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1986), Vol.83, p.561-565

乙第7号証:Takanori Oka et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985), Vol.82, p.7212-7216

乙第8号証:Asipu Sivaprasadarao and John B. C. Findlay, Biochem. J. (1993), Vol.296, p.209-215

乙第9号証:A. Hoffmann and R. G. Roeder, Nucleic Acids Research (1991), Vol.19, No.22, p.6337-6338

乙第10号証:J. Sambrook et al., "Molecular Cloning" A LABORATORY MANUAL, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989), BOOK 3, 第16節「培養哺乳動物細胞中におけるクローン化遺伝子の発現」

第4 本件発明
訂正後の本件請求項1乃至請求項4に係る発明(以下、「本件発明1乃至4」という。)は、訂正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至請求項4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】図7?9に示されたアミノ酸配列を有する、タンパク質。

【請求項2】図7?9に示されたアミノ酸配列からなる、タンパク質。

【請求項3】請求項1または2に記載のタンパク質をコードする、DNA。

【請求項4】請求項1または2に記載のタンパク質を常に発現する上皮細胞系を調製するための、請求項3に記載のDNAの使用。」

第5 当審の判断
1.無効理由1について
(1)優先権の利益の享受について
請求人は、「HOCT1及びHOCT2に関する発明、すなわち、本件特許の各請求項に係る発明のうち、図10?12に示されたアミノ酸を有する場合の発明、及び図13?15に示されたアミノ酸配列を有する場合の発明は優先権の利益は享受できず、これらの発明については現実の出願日である平成7年(1995年)7月13日が新規性及び進歩性の判断の基準日となる」と主張している。
しかしながら、上述のとおり、平成20年3月19日付でなされた適法な訂正請求により、本件発明1乃至4は三つのアミノ酸配列から選択される一つのアミノ酸配列に係るタンパク質に係るもののうち、「図7?9に示されたアミノ酸配列」に係るもののみに限定され、それぞれ、図10?12、図13?15に示されたアミノ酸配列からなるタンパク質である「HOCT1及びHOCT2」に係る部分は本件発明1乃至4から除外されている。

そして、「図7?9に示されたアミノ酸配列」に係る発明は、優先権証明書に記載されているものと認められ、1994年7月13日を出願日とするドイツ連邦共和国特許出願P.4424577.7号に基づく優先権の利益を享受できるものであって、1994年7月13日が新規性及び進歩性の判断の基準日となる。

(2)甲第2号証の公知日について
請求人が、訂正前の本件請求項1乃至4に係る発明について、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることの根拠として提出した甲第2号証の頒布日は、1994年12月8日である。
したがって、当該甲第2号証は、訂正後の本件請求項1乃至4に係る発明である本件発明1乃至4については、その優先日より前に頒布された刊行物ではない。

(3)小括
したがって、甲第2号証に基づいては、本件発明1乃至4が、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づき当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2.無効理由2について

請求人の本件特許出願が特許法36条4項に規定する要件を満たしていないという主張は次のとおりである。

(1)本件特許の請求項1の「・・・に示されたアミノ酸配列を有する・・・」(下線は請求人によるものである)との記載は上記アミノ酸配列の両端に任意のアミノ酸配列を任意の長さ付加したものをも含む記載であり、このような多数のタンパク質の中から目的とする輸送タンパク質として機能するタンパク質を選択するためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要がある。よって、発明の詳細な説明は当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。

(2)本件特許明細書は実験による裏付けを欠いているため、請求項1?4に係る「HOCT1及びHOCT2」の用途が不明であり、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?4に係る「HOCT1及びHOCT2」に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。

そこで、まず、無効理由2(1)の主張における「・・・に示されたアミノ酸配列を有する・・・」の意味するところについて検討する。

一般に、「・・・に示されたアミノ酸配列を有する・・・」とは、該配列を全体の配列として有する場合と部分的な配列として有する場合とが考えられるから、「・・・に示されたアミノ酸配列」の一端あるいはその両端に何らかの任意のアミノ酸を連続して付加したものと、両端に何らアミノ酸が付加されないものとの両方を包含したものと解釈することが自然である。
そして本件明細書には、当該「有する」について特に定義はなく、ことさらに上述の解釈と反する記載もなされていない。

次いで、以下無効理由2(1)について検討する。

訂正後の本件請求項1に係る発明の「図7?9に示されたアミノ酸配列を有する」タンパク質は、上述の通りに解釈すれば、図7?9に示されたアミノ酸配列からなるタンパク質のみならず、「図7?9に示されたアミノ酸配列からなるタンパク質の一端あるいはその両端に任意のアミノ酸若しくはアミノ酸配列を付加した」タンパク質を包含するものである。
ここで、図7?9に示されたアミノ酸配列は、556のアミノ酸からなるものであり、本件明細書の【0002】欄の記載を参酌するとカチオン輸送体として作用する膜タンパク質のアミノ酸配列である。
そして、本件明細書には、本件発明に係る556のアミノ酸からなる配列にさらにアミノ酸若しくはアミノ酸配列を付加することにより、当該「カチオン輸送体として作用する」機能を有さず、それ以外の機能を有するタンパク質を作製する等のことを示唆する記述はない。
さらに、本件発明の技術分野において、特定の機能を有するある程度の長さのアミノ酸配列からなるタンパク質の一端又は両端にアミノ酸配列を付加する場合としては、β-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、プロインスリンN末端リーダー配列、シグナル配列、ヒスチジンタグ等を付加する場合があり、これらは、いずれも該タンパク質の本来の機能をそのまま維持する目的で、更に発現、精製、分泌等の便宜のため特定の性質を付与する目的でその性質が分かっているアミノ酸配列を付加するものであることも周知である。
してみると、本件明細書の記載及び本件発明の技術分野の技術常識からみて、訂正後の本件発明1のタンパク質は、本来、図7?9に示されたアミノ酸配列からなるタンパク質の有する「カチオン輸送体として作用する」機能を保持するタンパク質を意図するものであり、その機能を失うようなアミノ酸若しくはアミノ酸配列が付加されたタンパク質は含まれていないと解するのが自然である。
そして、556程度の長いアミノ酸配列からなるタンパク質であれば、その前後に若干のアミノ酸若しくはアミノ酸配列を付加しても、その有する作用・機能が損なわれないことは十分に予想されるところである。また、ある程度の長さのアミノ酸配列を付加する場合であっても、被請求人が答弁書において指摘するように、本件優先日当時には、特定の作用・機能を有するタンパク質に対し、その機能を維持しつつ、更に上述のごとき特定の性質を付与するために、当該タンパク質のアミノ酸配列の前後に上述のごとき特定のアミノ酸配列を付加することは、当業者に周知の手法であったと認められ、このような配列を付加しても、もとのタンパク質が有する本来の作用・機能が損なわれないことが多々あったものと認められる。
そうすると、「図7?9に示されたアミノ酸配列からなるタンパク質の一端あるいはその両端に任意のアミノ酸若しくはアミノ酸配列を付加したタンパク質」であって、当業者がもとのタンパク質の機能を保持するであろうと期待する、若干の配列が付加されるものや、上述のごとき特定のアミノ酸配列を付加する場合、その中には、もとのタンパク質の「カチオン輸送体として作用する」機能を保持するタンパク質がまれにしか存在しないとはいえないから、請求人が主張するように、「多数のタンパク質の中から、目的とする輸送タンパク質として機能するタンパク質を選択するためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要がある」とは、必ずしもいえない。
従って、請求人の指摘する上記の点をもって、発明の詳細な説明が、当業者が訂正後の本件発明1を実施できる程度に明確且つ十分に記載されていない、ということはできない。

次いで、以下無効理由2(2)について検討する。

請求人が、実験による裏付けを欠いており、用途が不明であるとする「HOCT1及びHOCT2に関する発明」は、本件特許の各請求項に係る発明のうち、図10?12に示されたアミノ酸を有する場合の発明、及び図13?15に示されたアミノ酸配列を有する場合の発明に相当する。
しかし、上述のとおり、平成20年3月19日付でなされた適法な訂正請求により、本件発明1乃至4は三つのアミノ酸配列から選択される一つのアミノ酸配列に係るタンパク質に係るもののうち、「図7?9に示されたアミノ酸配列」に係るもののみに限定され、それぞれ、「HOCT1及びHOCT2」に係る部分である「図10?12、図13?15に示されたアミノ酸配列からなるタンパク質」は本件発明1乃至4から除外されている。

したがって、上記無効理由2(2)は解消したというべきである。

(3)小括
したがって、上記請求人の主張する無効理由2はいずれも理由がない。

3.無効理由3について

請求人の本件特許出願が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないという主張は次のとおりである。

(1)本件特許の請求項1の「・・・に示されたアミノ酸配列を有する・・・」(下線は請求人によるものである)との記載は上記アミノ酸配列の両端に任意のアミノ酸配列を任意の長さ付加したものをも含む記載であり、本件特許の請求項1は、図7?9、図10?12、または図13?15に示されたアミノ酸配列からなるタンパク質とそれ以外のアミノ酸配列からなるタンパク質とを含んでいる。一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、図7?9、図10?12、または図13?15に示されたアミノ酸配列しか開示されておらず、それ以外のアミノ酸配列からなるタンパク質については具体的に何ら開示されておらず輸送タンパク質として機能するか否か分からない。よって、請求項1に係る発明のうち、図7?9、図10?12、または図13?15に示されたアミノ酸配列からなるタンパク質以外のアミノ酸配列からなるタンパク質に関する発明については発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められない。

(2)本件特許明細書からはHOCT1及びHOCT2は輸送タンパク質としての機能を備えているか否かが分からず、HOCT1及びHOCT2、それらをコードするDNA、それらタンパク質が常に発現した上皮細胞系の用途が不明である。発明の用途を発明の詳細な説明に開示していないことから、請求項1?4のHOCT1及びHOCT2に関する発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められない。

まず、以下無効理由3(1)について検討する。

無効理由2(1)について述べたとおり、本願優先日当時の本願発明の技術分野における技術水準を考慮すると、「図7?9に示されたアミノ酸配列からなるタンパク質の一端あるいはその両端に任意のアミノ酸若しくはアミノ酸配列を付加したタンパク質」であって、当業者がもとのタンパク質の機能を保持するであろうと期待する、若干の配列が付加されるものや、上述のごとき特定のアミノ酸配列を付加したものは、本願明細書の開示及び本件発明の技術分野の技術常識からみて発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものということはできず、請求項1の「・・・に示されたアミノ酸配列を有する・・・」という記載により、本件発明1がそのような態様を含みうることをもって、本件発明1が発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。
従って、請求人の指摘する上記の点をもって、本件発明1並びに当該発明を引用する本件発明3及び4が発明の詳細な説明に記載したものではない、ということはできない。

次いで、以下無効理由3(2)について検討する。

上述のとおり、平成20年3月19日付でなされた適法な訂正請求により、本件発明1乃至4は三つのアミノ酸配列から選択される一つのアミノ酸配列に係るタンパク質に係るもののうち、「図7?9に示されたアミノ酸配列」に係るもののみに限定され、それぞれ、図10?12、図13?15に示されたアミノ酸配列からなるタンパク質である「HOCT1及びHOCT2」に係る部分は本件発明1乃至4から除外されている。

したがって、上記無効理由3(2)は解消したというべきである。

(3)小括
したがって、上記請求人の主張する無効理由3はいずれも理由がない。

4.無効理由4について

請求人の本件特許出願が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないという主張は次のとおりである。

(1) 本件特許の請求項4には、達成すべき結果である「請求項1または2に記載のタンパク質を常に発現する上皮細胞系を調製する」ことのみが記載されているだけであり、結果を達成するための具体的なステップが何ら記載されておらず、請求項3に記載のDNAをどのように使用して上皮細胞に請求項1又は2に記載のタンパク質を常に発現させるのかが明らかでない。
よって、請求項4に関する特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が不明確である。

以下無効理由4(1)について検討する。

本件特許の優先日前から実験マニュアルとして広く用いられていた乙第10号証によると、培養された哺乳動物細胞中へのDNA導入法の開発によって様々な生物種からの広範囲にわたる型の細胞中におけるクローン化遺伝子の発現が可能となっていたと認められ、乙第10号証には、そのために、目的のクローン化配列を適切な発現ベクター中に挿入し、細菌中でクローン化し、複製により増幅し、そしてこれを用いて哺乳動物細胞をトランスフェクトするという一連の手順、一般的に用いられる哺乳動物発現ベクター、クローン化遺伝子を哺乳動物細胞中に導入するためのプロトコル等も記載されている。
すなわち、本件特許の優先日当時において、あるタンパク質をコードするDNAを使用して哺乳動物細胞にそのタンパク質を常に発現させることは、当業者であれば格段の困難性がなく、必要な手段を適宜組み合わせることによりなしえたと認められる。
したがって、本件特許発明4が達成すべき結果による特定を含んでいても、当該達成すべき結果を得るための具体的手段が想定でき、達成すべき結果により特定された物としても、具体的な物が想定できるから、発明の範囲は不明確であるとはいえない。

(2)小括
したがって、上記請求人の主張する無効理由4は理由がない。

第6 まとめ

以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明1乃至4についての特許を無効とすることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
カチオン系生体異物および/または薬物の輸送を行う輸送タンパク質、それをコードするDNA、およびそれらの用途
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
図7?9に示されたアミノ酸配列を有する、タンパク質。
【請求項2】
図7?9に示されたアミノ酸配列からなる、タンパク質。
【請求項3】
請求項1または2に記載のタンパク質をコードする、DNA。
【請求項4】
請求項1または2に記載のタンパク質を常に発現する上皮細胞系を調製するための、請求項3に記載のDNAの使用。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の背景】
哺乳動物、特にヒトにおいて、様々な分子構造のカチオン系薬物および生体異物、更にカテコールアミンや他の内因性カチオンは、管腔および基底外側原形質膜に存在する多特異性輸送タンパク質により、腎臓および肝臓によって排出される。これらの輸送タンパク質は、神経原形質膜およびシナプス小胞中の既知モノアミン輸送タンパク質と、疎水性薬物を輸出するATP依存性タンパク質(多剤輸送タンパク質)とは、それらの機能の点で異なる。
【0002】
本発明の範囲内において、相補的DNA配列がラット腎臓から最初に単離されたが、その配列は長さが556アミノ酸の膜タンパク質をコードしており、以下でOCT1と呼ぶこととする。この輸送タンパク質は近位尿細管の基底外側膜および肝細胞で様々な標的分子のカチオン輸送体として作用する。
【0003】
OCT1と命名された輸送タンパク質はいかなる他の既知タンパク質とも相同的ではなく、疎水性および負荷電アミノ酸のこれまでにない独特な分布を示し、もっぱら腎臓、肝臓および腸でみられる。OCT1輸送タンパク質は様々な構造のカチオンを輸送し、異なる疎水性の多数のカチオン系物質により阻害され、非常に疎水性の物質だけを輸送できる既知多特異性輸送タンパク質(多剤輸送体)の場合とは異なる機能的性質を有する。輸送タンパク質OCT1は哺乳動物で多特異性輸送タンパク質の新規原型として考えられる。
【0004】
抗ヒスタミン剤、抗不整脈剤、鎮静剤、オピエート、利尿剤、静細胞剤および抗生物質のような汎用薬物を含めた多数の有機カチオンは、腎臓上皮細胞および肝細胞から能動輸送されることで尿および胆汁中に排出される。腎臓で能動的に分泌されたとき、カチオンは近位尿細管の基底外側および管腔原形質膜で多特異性輸送系により輸送される。2つの系はそれらの機能的に異なる。基底外側膜の輸送タンパク質は、テトラエチルアンモニウム(TEA)、N^(1)-メチルニコチンアミド(NMN)およびN-メチル-4-フェニルピリジニウム(MPP)のような構造的に異なるカチオンを輸送することができるが、異なる構造の多数の細胞外カチオンにより阻害される。これらの輸送タンパク質は内部が負の膜電位と細胞内基質の反対方向輸送により駆動させることができる。外部方向プロトン勾配により駆動されるが、膜電位により影響されない、2つの輸送系が管腔膜において報告されている。これら輸送系のうち1つは近位尿細管の基底外側膜におけるカチオン輸送系の場合に匹敵する広い基質特異性を有している。機能的類似性のために、管腔膜のこの多特異性輸送系は心臓におけるノルアドレナリンの神経外輸送系と同一であると思われる。
【0005】
【発明の具体的説明】
したがって、本発明は、血液から肝臓または腎臓の上皮細胞中にカチオン系生体異物および/または薬物を輸送するか、あるいは腸から血液循環中にカチオン系生体異物または薬物を輸送することに関与する輸送タンパク質に関する。
【0006】
新規輸送タンパク質は、図7?9、図10?12、および図13?15に示されたアミノ酸配列から選択される、少くとも7つのアミノ酸の構成配列を示す。好ましい態様において、図7?9、図10?12、および図13?15からの構成配列は、少くとも10のアミノ酸の長さ、特に好ましい態様において少くとも14のアミノ酸の長さを有する。
【0007】
本発明は、新規輸送タンパク質をコードするDNA配列にも関する。新規DNA配列は図7?9、図10?12、および図13?15に示された配列から選択される、少くとも21の塩基の構成配列を示す。特に好ましい態様において、構成配列は少くとも30の塩基の長さ、非常に特に好ましい態様において少くとも42の塩基の長さを有する。
【0008】
新規輸送タンパク質およびDNA配列は、医学的および薬理学的研究で特に重要である。新規DNA配列は、例えば新規輸送タンパク質を永続的に発現する上皮細胞系を作るために使用できる。この目的のため、輸送タンパク質をコードするDNA配列はそれ自体公知の遺伝子操作方法を用いて適切なベクター中に組み込まれ、これが輸送タンパク質を以前発現しなかった適切な上皮細胞系を形質転換するために用いられる。こうして、新規輸送タンパク質を常に発現する細胞系が得られる。
【0009】
輸送タンパク質を発現するこのような性質の上皮細胞系は、予想されるカチオン系薬物および/または生体異物の腎臓および胆汁排出と更に腸吸収を試験するためにインビトロで用いることができる。このため、このような細胞系は、薬物と更に他の生物活性化合物が腸から血液循環中に排出または吸収されるかどうか、そうであるとすればその程度について、入念な動物実験なしに、インビトロ段階で調べるために使用できる。
【0010】
新規DNA配列は、新規輸送タンパク質と相同的な輸送タンパク質を単離するために用いることができる。したがって、本発明による輸送タンパク質と相同的な対応輸送タンパク質は、すべての哺乳動物種およびヒトから単離できる。2つの対応ヒト配列が既に決定されている。このような単離を行う1つの可能な手段は、現在周知のポリメラーゼ連鎖反応法を用いることである。これをするためには、ポリメラーゼ連鎖反応法用のプライマーとしての図7?9、図10?12、および図13?15に示された配列から適切なDNA配列を選択することが必要となる。これらのプライマーは相同的輸送タンパク質を単離する上で特に困難性なく使用できる。
【0011】
新規輸送タンパク質および/または新規上皮細胞系の更に可能な使用法は、腎臓および胆汁排出または腸吸収を変えるために、薬物のような生物活性化合物に結合できるカチオン系シグナル分子の開発を行うために用いることである。こうして、異なる化学構造について試験を行い、それらが結合する分子の腎臓または肝臓からの排出を有利にして、しかも腸から血液循環中への吸収を促進するかどうか、あるいはそれらが各場合に反対の作用を生じるかどうかについてみることができる。
【0012】
新規輸送タンパク質は、カチオン系薬物の腎毒性を減少させるために、尿細管細胞中への薬物の取込みを阻止する上で使用できる抗体、特にモノクローナル抗体を作る上でも特に使用できる。
【0013】
更に、本発明の開示は、ある他のカチオン系薬物および/または生体異物の排出に影響を与える特異的薬物を開発する上で基礎として使用できる。こうして、他の活性化合物の取込みに影響を与えうる薬理活性物質を開発することができる。この性質の影響は、腸からの活性化合物の取込みを促進または防止するか、あるいは腎臓および肝臓で活性化合物の排出を促進または防止することからなる。
【0014】
新規DNA配列の更なる好ましい使用法は、アンチセンスヌクレオチド配列を開発する場合である。この関係において、対応する天然相補的ヌクレオチド配列と結合することで対応遺伝子の転写および/または翻訳を防止するヌクレオチド配列が開発できる。
【0015】
新規DNA配列の更なる好ましい使用法は、腎臓および/または胆汁カチオン排出メカニズムにおいてゲノムレベルで分子欠陥を診断するための分子試験キットにおけるそれらの使用である。この性質の分子試験キットにおいて、DNA配列は特に好ましい態様でポリメラーゼ連鎖反応法を行うために使用できる。この場合に、公知のDNA配列は、カチオン輸送体をコードする各患者からの遺伝子を増幅させて、この遺伝子を遺伝子変異について調べるために、ポリメラーゼ連鎖反応法において使用できるプライマー配列を選択および合成する上で基礎として用いられる。
【0016】
【実施例】
本発明は下記例を参照して更に詳細に説明されるが、しかしながらそれは発明を制限するためではない。
【0017】
例1
輸送タンパク質をコードする遺伝子をクローニングするために、平滑末端化二本鎖cDNAを、第一鎖を合成するためのNotIオリゴ(dT)プライマーを用いてラット腎臓ポリ(A)^(+)RNAから最初に調製した。SP6 RNAポリメラーゼプロモーターを含むEcoRIアダプターがcDNAに結合された後、後者をNotIで切断し、得られた断片を大きさで分別し(1.5?2.3kb)、ベクターpBluescript(stratagene)のEcoRI制限部位に挿入した。次いで組換えベクターを大腸菌株DH10B中にエレクトロポレーションした。プラスミドDNAを形質転換株のプールから単離し、NotIで直鎖化し、SP6 RNAポリメラーゼを用いて転写した。
【0018】
cRNAをポリ(A)^(+)選択により精製し、卵母細胞当たり20?40ngの濃度で注入した。卵母細胞をインキュベートし、NMN阻害性^(14)C-TEA取込みを測定した。標的化スクリーニング法を用いて、腎臓カチオン輸送体をコードする遺伝子を含んだ単一クローンを遺伝子ライブラリーから単離した。用いた方法を最適化および部分的に修正した後にのみ、このクローンを単離することができた。同定されたDNAを配列決定するために、OCT1の重複制限断片をサブクローニングし、双方の鎖で完全に配列決定した。
【0019】
ラット腎臓遺伝子バンクから単離された、鎖長1882塩基対のcDNA断片からなるOCT1遺伝子を、Xenopus laevis卵母細胞で発現させた。この目的のため、卵母細胞を5mM Hepes-Tris緩衝液、pH7.5、110mMNaCl、3mMKCl、2mMCaCl_(2)、1mMMgCl_(2)(以下でORiと称される)中で3日間、RNA注入後にインキュベートした。輸送はORi(22℃)に溶解された^(14)C-TEA(テトラエチルアンモニウム)と共に卵母細胞をインキュベートすることにより測定した。更に、実験は異なる濃度のNa^(+)およびK^(+)を用いて、実験中Ba^(++)の存在はそのままで、異なるpH値および異なる阻害剤の存在下で行った。用いられた^(14)C-TEA濃度において、発現されたOCT1タンパク質により生じる取込みは90分間以上にわたりORi緩衝液で直線的であったため、取込み率は90分間のインキュベート後に決定した。測定を異なる濃度のNa^(+)、K^(+)およびH^(+)で阻害剤の存在下において行ったとき、卵母細胞は最初に適切な緩衝液条件下で30分間インキュベートし、取込み率を^(14)C-TEAと30分間のインキュベート中に決定した。^(14)C-TEAとインキュベート後、取込みを止め、卵母細胞を洗浄し、それらが取り込んだ放射能の量について調べた。
【0020】
こうして、1882塩基対cDNA断片を(前記のように)Xenopus laevis卵母細胞を用いて発現させた。こうして発現されたOCT1タンパク質は、NMN(N^(1)-メチルニコチンアミド)が阻害できる^(14)C-テトラエチルアンモニウム(^(14)C-TEA)の取込みを誘導し、その取込みは卵母細胞に水を注入したコントロールで得られる値の250倍以上であった。結果は図1にグラフ化されている。
【0021】
クローン化OCT1 cDNAは、556アミノ酸を有する膜タンパク質をコードするオープン読取枠を含んでいる。アミノ酸配列は図7?9に示されている。それはデータバンクのタンパク質と類似性を示さない。
【0022】
^(14)C-TEA取込みの発現は、注入されたOCT1 cRNAの量に依存していた。これらの結果は図2に示されている。発現された取込みのcRNA依存性はn=約2であるHill式により記載することができる。
【0023】
OCT1輸送タンパク質により示される^(14)C-TEA取込みの基質依存性は、Michaelis Menten式に従った。これらの結果は図3に示されている。95±μMの評価Km値は、初期実験で決定されたラット近位尿細管の基底外側膜からのカチオン輸送に関するKm値(160μM)と似ていた。それはラット近位尿細管の刷子縁膜における多特異性H^(+)カチオン対向輸送体に関する大体のKm値の1/14であった。
【0024】
例2
加えて、OCT1輸送タンパク質が基底外側膜の電位依存性多特異性カチオン輸送系または刷子縁膜の電位依存性多特異性H^(+)カチオン対向輸送系を表すかどうかについて確定するために、OCT1輸送タンパク質による取込みが膜電位または膜全体のタンパク質勾配に依存しているかどうかを調べる試験を行った。発現される^(14)C-TEA取込みを阻害する異なる阻害剤の能力も研究した。
【0025】
図4および5は、OCT1輸送タンパク質により媒介される^(14)C-TEAの取込みが膜電位に依存しているが、pH単位で1の内部方向または外部方向タンパク質勾配が適用されたときにさほど変わらないことを明らかにしている。したがって、OCT1輸送タンパク質は近位尿細管の基底外側膜全体で測定されたカチオン輸送と同様の基本的特徴を有している。
【0026】
図6および表1は、OCT1による^(14)C-TEAの取込みが異なる分子構造の有機カチオンにより阻害されることを明らかにしている。これらの構造には、キニン、デシプラミン、プロカインアミドおよびO-メチルイソプレナリンのようないくつかの汎用薬物がある。評価Ki値は1-エチル-2-〔(1,4-ジメチル-2-フェニル-6-ピリミジニリデン)メチル〕キノリニウムクロリド(シアニン863)の0.13μMとテトラメチルアンモニウム(TMA)の1mMとの間である。
【0027】
【表1】

【0028】
表1は、OCT1腎臓輸送タンパク質のcRNAを注入したXenopus laevis卵母細胞における^(14)C-TEA取込みの感受性を示している。
【0029】
阻害実験を行うとき、Xenopus laevis卵母細胞にOCT1 cRNA5ngを注入し、表1で示された阻害剤の5?8つの異なる濃度の効果を卵母細胞中95μM取込みで測定した。その値も図6に示されている。阻害曲線を非直線回帰分析により適合させ、Ki値(±SD)を決定した。
【0030】
既知多特異性輸送タンパク質とは対照的に、疎水性物質のみにより阻害されるいわゆる多剤輸送体、新規OCT1輸送タンパク質はTMAおよびNMNのような親水性化合物によっても阻害された。デシプラミンは、神経細胞の原形質膜で神経ノルアドレナリン輸送を阻害する場合よりも700倍大きなKi値で、OCT1による輸送を阻害した。5μMレセルピンはOCT1誘導輸送に効果を有しないが、シナプス小胞の神経モノアミン輸送タンパク質はナノモル濃度以下のレセルピンで阻害される。
【0031】
例3
OCT1輸送タンパク質は、膜小胞および培養腎臓上皮細胞を用いた測定から既に得られた機能データとOCT1 Ki値を比較することにより、基底外側カチオン系輸送タンパク質と同一であることを確認することができた。このような比較をする上では、カチオン輸送における種依存性差異と、カチオン輸送の阻害を測定するための異なる方法の方法論的制限に関する考慮が払われねばならない。以前の研究において、ラット腎臓におけるカチオン輸送は短いインキュベート時間(4秒間)を用いて行われねばならないミクロ灌流実験により調べた。高親和性阻害剤に関する拡散非依存性Ki値を調べるためにこの方法を用いることはできないため、我々は低親和性阻害剤を比較することに制限した。低親和性阻害剤TMAおよびNMNの比較において、我々はOCT1発現輸送タンパク質のKi値(約1mM)がラット近位尿細管中へのTEAの基底外側取込みに関して測定されたKi値(TMA1.4mMおよびNMN0.54mM)に相当することを発見した。それらはTEAの管腔取込みに関して測定されたKi値(TMA70mMおよびNMN8.3mM)と明らかに異なる。
【0032】
例4
OCT1の基底外側存在に関する追加的支持は、1,1′-ジエチル-2,2′-シアニンヨージド(デシニウム22)によるOCT1誘導性取込みの阻害に関して得られたKi値(0.4μM)により与えられた。LLC-PK1細胞において、5.6nMのKi値が管腔膜を通るTEAの輸送に関して測定され、一方基底外側膜を通るTEAの輸送に関するKi値は>0.1μMであると評価された。OCT1輸送タンパク質を更に特徴付けるために、TEAよりも約10倍多い親和性を有するMPPも同様にOCT1により輸送されるかどうかについて調べる試験を行った。卵母細胞中へのOCT1 cRNA8ngの注入後、^(3)H-MPPの特異的取込みが発現されたが、これはキニンで阻害された。^(14)C-TEA(148±4pmol×卵母細胞^(-1)×h^(-1))および^(3)H-MPP(97±5pmol×卵母細胞^(-1)×h^(-1))の発現取込みに関する同様のV_(max)値も卵母細胞のサンプルで調べた。肝臓細胞中における多特異性カチオン輸送体の存在が報告されている。培養肝細胞中へのMPPの取込みが最近測定された。この関係において、OCT1により発現されるカチオン輸送を阻害する同様の阻害剤を用いてMPP取込みの約90%を阻害できることがわかった。肝細胞でMPP取込みについて調べられたKi値(O-メチルイソプレナリン78μM、MPP13μM、キニン0.8μM、デシニウム23 0.23μMおよびシアニン863 0.10μM)は、Xenopus卵母細胞により発現されたOCT1タンパク質によるTEAの取込みについて得られた値と事実上同一であった。これらのデータは、OCT1輸送タンパク質または高度に相同的な輸送タンパク質が肝細胞の原形質膜に存在することを示唆している。
【0033】
例5
OCT1のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は図7?9に示されている。Kozakタイプ(ACGCCATG)の停止コドンおよび翻訳開始部位はオープン読取枠の上流にみられる。
【0034】
OCT1の親水性/疎水性の分析から、膜をおそらく横断している11の疎水性α-ヘリックス領域を確認した。疎水性/親水性インデックスは図16に示されている。推定膜貫通領域は長さ17?27アミノ酸である。それらは1つの長い、2つの中間長さおよび7つの短い親水性領域で互いに結合されている。3つの潜在的N-グリコシル化部位が最初の2つの膜横断タンパク質領域間にある親水性領域で予想されたため、図17に示されたOCT1の向きが提案された。第一の親水性領域は14の負荷電アミノ酸を含んでおり、OCT1のカチオンの結合にとり重要である。
【0035】
例6
様々なラット組織および一部の細胞系を、いわゆるノーザンブロットを用いて、OCT1輸送タンパク質特異性mRNAの局在性について分析した。この目的のため、全RNAをグアニジニウム/フェノール/クロロホルム法により単離し、mRNAをオリゴ(dT)-セルロースクロマトグラフィーにより精製した。mRNAをホルムアルデヒドアガロースゲル電気泳動により分別し、Hybond-N膜(Amersham)に移し、その後ハイブリッド形成させた。このために、ラット細胞および細胞系293からのmRNA5μgと細胞系Caki-1およびLLC-PKI1からのmRNA1.5μgをホルムアルデヒドアガロースゲル上にのせた。ハイブリッド形成はプラスミドpOCT1からの新たなDNA配列の^(32)P-標識cDNA断片を用いて行った(ヌクレオチド285?1196を用いた)。ハイブリッド形成はハイブリッド用溶液(50%ホルムアミド、5×SSPE、5×Denhardt´s溶液、0.5%SDSおよびサケ精子DNA20μg)中42℃で18時間行った。膜を60℃で0.25×SSPE、0.1%SDSの最終厳密さまで数工程で洗浄した。細胞系LLC-PK1に関する結果を示すために、フィルムを24時間暴露し、フィルムを他のトラックについて6時間暴露した。RNA標準(GIBCO/BRLから0.14?9.5キロ塩基範囲)を用いて、RNA断片のサイズを調べた。そのサイズは図18に示されている。
【0036】
ノーザンブロット分析から得られたオートラジオグラフは図18に示されている。1.9キロ塩基の明確なバントと3.4および4.8キロ塩基の追加バントが腎皮質、腎髄質、肝臓および腸の場合で観察された。細胞系LLC-PK1において、ハイブリッド形成は3.4キロ塩基領域のみで観察された。逆に、OCT1シグナルは腎乳頭、骨格筋、心筋、脳またはヒト胚芽腎細胞系293とCaki-1細胞で観察された。心臓およびCaki-1細胞は管腔腎臓膜のH^(+)カチオン対向輸送タンパク質とおそらく同一である神経外ノルアドレナリン輸送タンパク質を含んでいるため、近位尿細管の基底外側および管腔膜にあるカチオン輸送タンパク質は異なる遺伝子ファミリーに属するらしい。その場のハイブリッド形成では、OCT1輸送タンパク質が近位尿細管、肝臓の上皮細胞および小腸の腸細胞で発現されることを示した。
【0037】
上記例は、腎臓および肝臓からカチオン系薬物を除去する上で重要な役割を果たす新規で独特なタンパク質がクローニングされたことを証明している。このタンパク質はおそらく腸からのカチオン系化合物の吸収にも関与している。カチオン輸送および薬物の排出は30年以上も研究されてきたが、過去の進歩はわずかであった。これに関する理由は、肝臓および腎臓からの薬物の排出が上皮細胞の基底外側および管腔原形質膜を通る輸送を含み、これらの輸送プロセスが機能的に異なるカチオン輸送タンパク質により起こるためである。これに加えて、同様の基質特異性を有する異なるカチオン輸送タンパク質が管腔および基底外側腎臓膜双方に存在する可能性が排除しえないからである。カチオン輸送タンパク質の1つのタイプが新規OCT1輸送タンパク質をクローニングした結果として確認された。これはカチオン系薬物の排出に関する以後の研究のために多くの選択肢を与えるものである。
【0038】
例7
本出願に記載された技術を用いて、OCT1と相同的な2つのヒト遺伝子をクローニングして、それらを完全にまたは部分的に配列決定できることが各々わかった。完全に配列決定された遺伝子(HOCT1)は1885塩基からなり、553アミノ酸のタンパク質をコードしている。それは図10?12に示されている。CT1およびHOCT1のアミノ酸間には78%の同一率がある。第二のヒト遺伝子(HOCT2)は1896塩基からなり、555アミノ酸のタンパク質をコードしている。OCT2のヌクレオチド配列および演繹されたアミノ酸配列は図13?15に示されている。OCT1およびHOCT2のアミノ酸間には68%の同一率がある。
【0039】
【配列表】











【図面の簡単な説明】
【図1】
図1?6はXenopus laevis卵母細胞におけるOCT1の発現について示している。示された^(14)C-TEA取込み率は10?20回測定の平均値±標準偏差を表す。
図1は水、ラット腎臓mRNA20ngまたはOCT1 cRNA10ng注入後に観察された^(14)C-TEAのNMN阻害取込みの比較について示している。インキュベート培地中^(14)C-TEAおよびNMNの濃度は、各々200μMおよび10mMであった。
【図2】
異なる量のOCT1 cRNA注入後200μM^(14)C-TEAの取込み率について示している。曲線は得られたデータにHill式を適合させた後コンピューター計算した(n=1.9±0.2)。
【図3】
卵母細胞当たりOCT1 cRNA3ngの注入後に発現された^(14)C-TEA取込みの基質依存性について示している。連続線は水を注入したコントロール卵母細胞で測定された飽和性成分および直線的成分を含む全取込みについて示している。直線的成分は直線的回帰により適合させた(点線、30fmol×h^(-1)×卵母細胞^(-1)×μM^(-1))。飽和性成分はMichaelis Menten式を用いて適合させた(Km95±10μM、V_(max)81±5pmol×h^(-1)×卵母細胞^(-1))。実線は双方の成分を含んだ式に合わせることでコンピューター計算した。
【図4】
OCT1 cRNA3ngを注入した卵母細胞における^(14)C-TEA取込みの電位依存性について示している。95μM^(14)C-TEAの取込みを所定濃度のNa^(+)、K^(+)およびBa^(++)の存在下で測定した。これらの条件下において、膜電位は-40?-60mV(100mMNa^(+)および3mMK^(+))、0?-10mV(1mMNa^(+)および102mMK^(+))および-18?-22mV(100mMNa^(+)、3mMK^(+)および10mMBa^(++))であった。
【図5】
OCT1 cRNA3ngを注入した卵母細胞中プロトン勾配の存在および不在下における95μM^(14)C-TEAの取込みについて示している。^(14)C-TEAの取込みを変える膜電位のプロトン勾配誘導性変化を妨げるために、測定をインキュベート培地中102mMK^(+)および1mMNa^(+)の存在下で行った。これにより、膜電位は約0mVになった。微小電極を用いたpH測定では、pHが30分の取込み時間中0.1単位以下で変化することを示した。
【図6】
デシニウム22(o)、キニン(△)、デシプラミン(□)、プロカインアミド(黒丸)、O-メチルイソプレナリン(◇)およびテトラメチルアンモニウム(黒ひし形)によるOCT1誘導性^(14)C-TEA取込みの阻害について示している。卵母細胞にOCT1 cRNA5ngを注入し、95μM^(14)C-TEAを用いて測定を行った。
【図7】
OCT1のヌクレオチド配列とそれから演繹されたアミノ酸配列について示している。推定貫膜領域には下線がひかれ、NXT/Sタイプの潜在的N-グリコシル化部位は星印で示されている。
【図8】
図7の配列の続きである。
【図9】
図8の配列の続きである。
【図10】
相同的ヒト腎臓遺伝子(HOCT1)のヌクレオチドおよびアミノ酸配列について示している。示された遺伝子断片は1885塩基を含み、553アミノ酸をコードする。
【図11】
図10の配列の続きである。
【図12】
図11の配列の続きである。
【図13】
第二の相同的ヒト腎臓遺伝子(HOCT2)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列について示している。示された遺伝子断片は1856塩基を含み、555アミノ酸をコードする。
【図14】
図13の配列の続きである。
【図15】
図14の配列の続きである。
【図16】
9アミノ酸の窓を用いたOCT1のKyte/Doolittle疎水性/親水性分析について示している。推定貫膜領域は番号1?11である。
【図17】
OCT1の概略を示している。アミノ酸残基Arg、LysおよびHisはプラス記号で示し、アミノ酸残基GluおよびAspはマイナス記号で示している。第一親水性ループにおける潜在的グリコシル化部位が確認された。
【図18】
様々なラット組織および一部の細胞系におけるOCT1特異性mRNAの位置を示している。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-05-19 
結審通知日 2008-05-26 
審決日 2008-06-06 
出願番号 特願平7-177671
審決分類 P 1 113・ 536- YA (C07K)
P 1 113・ 121- YA (C07K)
P 1 113・ 537- YA (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 茜  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 鵜飼 健
上條 肇
登録日 2006-04-28 
登録番号 特許第3798447号(P3798447)
発明の名称 カチオン系生体異物および/または薬物の輸送を行う輸送タンパク質、それをコードするDNA、およびそれらの用途  
代理人 中村 行孝  
代理人 中村 行孝  
代理人 紺野 昭男  
代理人 那須 公雄  
代理人 紺野 昭男  
代理人 池田 正人  
代理人 佐藤 一雄  
代理人 佐藤 一雄  
代理人 木元 克輔  

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