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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1183133
審判番号 不服2007-3614  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-07 
確定日 2008-08-14 
事件の表示 特願2002-153238「ベルト伝動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月 3日出願公開、特開2003-343671〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成14年5月28日の出願であって、平成18年12月25日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年2月7日に請求人により拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項2及び請求項10に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明2」及び「本願発明10」という。)は、平成18年7月19日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2及び請求項10に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認める。

「【請求項2】 電動機として動作する回転電機と、前記回転電機の回転軸に取り付けられた回転電機用プーリと、補機の回転軸に連結されて補機に動力を伝達する補機用プーリと、内燃機関のクランクシャフトに連結されて動力を入出力可能に伝達する内燃機関用クランクプーリと、前記回転電機用プーリ、前記補機用プーリおよび前記内燃機関用クランクプーリに連続して巻き掛けられたベルトとを備えたベルト伝動装置において、前記回転電機用プーリに巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度が130度以上230度以下になるように、前記回転電機用プーリに対して反クランクプーリ側に固定テンションプーリを配置すると共に、前記回転電機用プーリと前記内燃機関用クランクプーリとの間に第1のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリを配置し、前記回転電機によって前記内燃機関を始動する時には、前記アイドルプーリの位置が固定され、前記内燃機関によって前記補機を駆動する時は、前記アイドルプーリが可動状態となることを特徴とするベルト伝動装置。」

「【請求項10】 電動機または発電機として動作する回転電機と、前記回転電機を電動機または発電機に切り換える回転電機切換制御手段と、前記回転電機の回転軸に取り付けられた回転電機用プーリと、補機の回転軸に連結されて補機に動力を伝達する補機用プーリと、内燃機関のクランクシャフトに連結されて動力を入出力可能に伝達する内燃機関用クランクプーリと、前記回転電機用プーリ、前記補機用プーリおよび前記内燃機関用クランクプーリに連続して巻き掛けられたベルトとを備えたベルト伝動装置において、前記回転電機用プーリに巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度が130度以上230度以下になるように、前記回転電機用プーリに対して反クランクプーリ側に第2のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリを配置すると共に、前記回転電機用プーリと前記内燃機関用クランクプーリとの間に、第1のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリを配置し、前記回転電機によって前記内燃機関を始動する時には、前記第1のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリの位置が固定され、前記第2のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリは可動状態となり、内燃機関によって前記回転電機を発電機として駆動する時は、前記第2のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリの位置が固定され、前記第1のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリが可動状態となることを特徴とするベルト伝動装置。」

3.先願の明細書等に記載された発明
3-1.先願1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前の他の特許出願であって、本願の出願後に出願公開された特願2001-283027号(以下「先願1」という。特開2003-90397号公報参照。)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「明細書等」という。)には、「巻掛伝動装置」に関し、図1及び図2とともに、次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エンジンの駆動軸、エンジン始動用モータ及び補機を巻掛伝動部材によって駆動連結した巻掛伝動装置に関するものである。」(段落【0001】)

(イ)「【0007】本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、テンショナによって伝動ベルト等の巻掛伝動部材の張力を予め高く設定しなくても、その巻掛伝動部材が滑るのを抑制でき、張力を高く設定することによって起こり得る上記各種不具合を解消することのできる巻掛伝動装置を提供することにある。」(段落【0007】)

(ウ)「【0008】
【課題を解決するための手段】以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。請求項1に記載の発明では、エンジンの駆動軸、エンジン始動用モータ及び補機を巻掛伝動部材により駆動連結する巻掛伝動装置において、前記エンジンの駆動軸と前記エンジン始動用モータとの間に、前記巻掛伝動部材の張力を調整するテンショナを備えるとともに、前記エンジンの始動時に前記テンショナの作動をロックするロック機構を備えている。
【0009】上記の構成によれば、エンジンの始動時には、エンジン始動用モータの回転が、巻掛伝動部材を介してテンショナ及びエンジンの駆動軸に伝達される。この伝達により駆動軸が強制的に回転駆動され、エンジンが始動される。この際、停止している駆動軸をエンジン始動用モータによって回転させることから、エンジン始動用モータ及び駆動軸間で巻掛伝動部材に高い張力が発生する。この張力によりテンショナが引張られるが、そのテンショナの作動がロック機構によってロックされる。このため、テンショナの設定張力に関係なく(低い設定張力であっても)、前記ロックにより、エンジンの始動時にテンショナが過度に変位する(押込まれる)現象を防止することができる。
【0010】また、エンジンの運転時には、その駆動軸の回転が巻掛伝動部材を介して補機等に伝達され、同補機等が駆動される。この際、エンジンの駆動軸とエンジン始動用モータとの間における巻掛伝動部材の張力はテンショナによって調整される。従って、この区間は、テンショナが配置されていなければ巻掛伝動部材が緩む箇所であるが、前記テンショナの張力調整により、巻掛伝動部材が緩んで滑る現象が起こりにくい。このため、巻掛伝動部材の張力が高くなるようにテンショナの設定張力を予め大きな値に設定しなくても、巻掛伝動部材が滑るのを抑制することができる。
【0011】このように請求項1に記載の発明によると、低い設定張力であっても、エンジン始動時にはテンショナが押込まれるのを防止でき、またエンジンの運転時には、巻掛伝動部材の滑りを発生させることなく補機等を駆動することができる。また、巻掛伝動部材の張力を高く設定することによる不具合を解消することができる。すなわち、巻掛伝動部材を強度の高いものや幅の広いものに変更しなくてもすむ。過大な荷重が巻掛伝動部材を介して巻掛伝動装置の構成部品に伝わらないため、同構成部品、例えば軸受等を大きなものや強度の高いものに変更しなくてもすむ。また、巻掛伝動部材の張力が低いことから、その巻掛伝動部材自身の振動や他の構成部品の振動が少なくなり、巻掛伝動装置から異音が発生しにくくなる。」(段落【0008】?【0011】)

(エ)「【0026】図1に示すように、エンジン11の駆動軸であるクランク軸12にはクランクプーリ13が取付けられている。クランクプーリ13の上方近傍には、エンジン始動用モータ(以下、単に「始動用モータ」という)が配置されており、その回転軸14にプーリ15が取付けられている。また、クランクプーリ13の側方近傍には、エアコン用コンプレッサ、ウォータポンプ等の補機が配置されており、それらの回転軸16,18にプーリ17,19がそれぞれ取付けられている。ウォータポンプのプーリ19の上方近傍には、固定テンショナの固定アイドラプーリ21が配置されている。そして、これらのクランクプーリ13、各プーリ17,19、固定アイドラプーリ21及びプーリ15には、巻掛伝動部材として1本の伝動ベルト22が掛渡されている。
【0027】クランクプーリ13と始動用モータのプーリ15との間には、その区間で伝動ベルト22の張力を調整するためのオートテンショナ23が配置されている。オートテンショナ23は、テンショナアーム24及び可動プーリ25を備えている。テンショナアーム24は、始動用モータのプーリ15と固定アイドラプーリ21との間において、軸26によりエンジン11に揺動自在に支持されている。可動プーリ25は、始動用モータのプーリ15とクランクプーリ13との間において、テンショナアーム24の先端部に回転可能に支持されている。そして、可動プーリ25に伝動ベルト22が巻掛けられている。オートテンショナ23には、ばね力等を利用して、伝動ベルト22を張る方向(図1の略右方)へテンショナアーム24を付勢する機構(図示略)が設けられている。このオートテンショナ23では、伝動ベルト22の張力変動に応じてテンショナアーム24が揺動し、可動プーリ25が変位することにより、伝動ベルト22の張力が略一定となるように調整している。
【0028】エンジン11には、その始動時にオートテンショナ23の作動をロックするロック機構27が設けられている。ロック機構27は、図2に示すように、ロックピン28及びアクチュエータ29を備えている。ロックピン28は、エンジン11の始動時にテンショナアーム24の可動領域に入り込み、そのテンショナアーム24の側面に当接することにより揺動を阻止するものである。アクチュエータ29は、ロックピン28が前記可動領域内で前記テンショナアーム24に当接するロック位置(図2の二点鎖線参照)と、前記可動領域から退避する退避位置(図2の実線参照)との間で前記ロックピン28を往復駆動するためのものである。アクチュエータ29は、エンジン11の構成部品31、例えばチェーンカバー、シリンダブロック等においてテンショナアーム24の近傍に取付けられている。アクチュエータ29としては、例えば、電磁石の電磁力を利用して弁体を開閉するようにした電磁弁を用いることができる。この電磁弁の場合には、弁体に前記ロックピン28が連結される。
【0029】前記のようにして構成された巻掛伝動装置32によると、エンジン11の始動時には、図示しないバッテリから始動用モータに電力が供給される。始動用モータのプーリ15が所定方向、例えば時計周り方向に回転することにより、伝動ベルト22が周回する。この周回により、プーリ15の回転力が伝動ベルト22を介してオートテンショナ23に伝達されるとともに、伝動ベルト22及びクランクプーリ13を介してクランク軸12に伝達される。この伝達により、クランク軸12が強制的に回転駆動され、エンジン11が始動される。
【0030】この際、回転の停止しているクランク軸12を始動用モータによって回転させることから、プーリ15及びクランクプーリ13間で高いベルト張力が発生する。この張力によりオートテンショナ23ではテンショナアーム24が可動プーリ25を介して引張られるが、そのテンショナアーム24の揺動がロック機構27によってロックされる。すなわち、エンジン始動時には、ロック機構27ではアクチュエータ29への通電により、ロックピン28が退避位置からロック位置へ移動される。この位置はテンショナアーム24の可動領域内に設定されている。このため、テンショナアーム24がロックピン28に当接することにより、そのテンショナアーム24の揺動(ベルト緩み方向の揺動)がロックされる。
【0031】なお、エンジン11が始動されると、アクチュエータ29への通電が停止され、ロックピン28が前記ロック位置から退避位置へ戻される。すなわち、ロックピン28がテンショナアーム24の可動領域から退避してロックが解除される。このため、伝動ベルト22の張力変動に応じたテンショナアーム24の揺動が可能となる。
【0032】エンジン11の運転時には、クランク軸12の回転がクランクプーリ13、伝動ベルト22を介してプーリ17,19、固定アイドラプーリ21、プーリ15,25に伝達される。この伝達により補機が駆動される。また、始動用モータへの電力供給停止により、プーリ15が空転する。この際、アクチュエータ29への通電停止により、ロックピン28が退避位置に保持されている。このようにロックが解除されていてテンショナアーム24の揺動の妨げとなるものがないため、クランクプーリ13とプーリ15との区間におけるベルト張力はオートテンショナ23によって調整される。
【0033】以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)クランクプーリ13の回転力によって伝動ベルト22を駆動するエンジン11の運転時には、クランクプーリ13と始動用モータのプーリ15との区間がベルト緩み側となる。本実施形態では、クランクプーリ13とプーリ15との間にオートテンショナ23を配置している。このため、エンジン11の回転変動に起因するベルト張力の変動に応じて、テンショナアーム24を揺動させてベルト張力を調整することにより、伝動ベルト22が緩むのを抑制することができる。従って、従来技術とは異なり、伝動ベルト22の張力が高くなるように、オートテンショナ23のばね力、減衰力を高める等して設定張力を予め大きな値に設定しなくても、伝動ベルト22が滑るのを抑制することができる。
【0034】(2)始動用モータのプーリ15の回転によって伝動ベルト22を駆動するエンジン始動時には、プーリ15及びクランクプーリ13間のベルト張力が高くなる。これに対し本実施形態では、エンジン始動時に、テンショナアーム24の揺動(ベルト緩み方向の揺動)をロック機構27によってロックするようにしている。このため、オートテンショナ23の設定張力に関係なく(低い設定張力であっても)、テンショナアーム24が押込まれる(過度に変位する)のを前記ロックによって防止し、伝動ベルト22が緩んで滑る不具合を解消することができる。
【0035】なお、上記効果は、少なくともベルト緩み方向の揺動がロックされれば、その逆方向の揺動がロックされなくても得られる。従って、この逆方向の揺動をロックするための機構を省略することにより、第1実施形態のような簡単な構造でロック機構27を構成することができる。
【0036】(3)上述したように、低い張力であっても、エンジン始動時にテンショナアーム24が押込まれる現象と、エンジン運転時に伝動ベルト22が滑る現象とを抑制できる。このことから、伝動ベルト22の張力を高く設定することによる各種不具合を解消することができる。
【0037】すなわち、伝動ベルト22を強度の高いものに変更したり、リブの数を増やす等して幅の広いものに変更したりしなくてもすむ。過大な荷重が伝動ベルト22を介して巻掛伝動装置32の構成部品に伝わらないため、その構成部品、例えばプーリ13,15,17,19,21,25の軸受等を軸受容量の大きなものや強度の高いものに変更しなくてもすむ。軸受取付け部分の強度を上げなくても破損等のおそれがなく、その強度アップにともなうコスト上昇、重量増加等を抑えることができる。また、伝動ベルト22の張力が低いことから、その伝動ベルト22自身の振動や他の構成部品の振動が少なくなり、巻掛伝動装置32のベルト系から異音が発生するのを抑制することができる。
【0038】(4)エンジン11の非始動時には、ロックピン28をアクチュエータ29によって退避位置へ移動させてロックを解除している。このため、エンジン11の運転時等において、テンショナアーム24の揺動がロックピン28によって不要に妨げられるのを防止することができる。従って、補機駆動時等において、始動用モータのプーリ15とクランクプーリ13との間のベルト張力を支障なく調整することができる。」(段落【0026】?【0038】)

また、図1をみると、始動用モータのプーリ15に巻き付けられている伝動ベルト22が、該プーリ15の前後で互いに略平行に延びていることがみてとれるから、始動用モータのプーリ15に巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度は、略180度程度であると認められる。
さらに、図1から、始動用モータのプーリ15に対して反クランクプーリ13側に固定アイドラプーリ21が配置されていることがみてとれる。

したがって、上記摘記事項(ア)?(エ)、並びに図1及び図2の記載からみて、先願1の明細書等には、下記の発明(以下、「先願1発明」という。)が記載されているものと認める。

【先願1発明】
電動機として動作する始動用モータと、前記始動用モータの回転軸14に取り付けられたプーリ15と、補機の回転軸16,18に連結されて補機に動力を伝達するプーリ17,19と、エンジン11のクランク軸12に連結されて動力を入出力可能に伝達するクランクプーリ13と、前記プーリ15、前記プーリ17,19および前記クランクプーリ13に連続して巻き掛けられた伝動ベルト22とを備えた巻掛伝動装置32において、前記プーリ15に巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度が略180度程度になるように、前記プーリ15に対して反クランクプーリ13側に固定アイドラプーリ21を配置すると共に、前記プーリ15と前記クランクプーリ13との間にロック機構27のロックピン28の当接によりテンショナアーム24の揺動を規制可能なオートテンショナ23の可動プーリ25を配置し、前記始動用モータによって前記エンジン11を始動する時には、前記可動プーリ25の位置が固定され、前記エンジン11によって前記補機を駆動する時は、前記可動プーリ25が可動状態となる巻掛伝動装置32。

3-2.先願2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前の他の特許出願であって、本願の出願後に出願公開された特願2001-266156号(以下「先願2」という。特開2003-74364号公報参照。)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「明細書等」という。)には、「巻掛伝動装置」に関し、図1?図5とともに、次の事項が記載されている。

(オ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、巻掛伝動装置に係り、詳しくは、内燃機関の回転出力軸と、該内燃機関とは独立して回転力を出力できる回転手段の回転出力軸とを含む回転軸間の動力伝達を仲介する巻掛伝動部材を備えた巻掛伝動装置に関するものである。」(段落【0001】)

(カ)「【0008】本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、予め巻掛伝動部材を高張力とすることなく常に巻掛伝動部材の緩みを適切に防止できる巻掛伝動装置を提供することにある。」(段落【0008】)

(キ)「【0016】図2に示すように、車両には、内燃機関としてのエンジン11、回転手段としてのM/G(モータジェネレータ)12、エンジン冷却用のウォータポンプ13、パワーステアリングポンプ14、エアコン用コンプレッサ15、エンジン制御用電子制御装置(以下、「ECU」と称する)16が備えられている。
【0017】内燃機関の回転出力軸としてのクランク軸21は、巻掛伝動装置23のクランク軸用プーリ24に連結されている。クランク軸用プーリ24には、巻掛伝動部材としての無端状のベルト25が巻き掛けられている。図1に示すように、ベルト25は、クランク軸用プーリ24、張力付与手段としての第1オートテンショナ27の揺動プーリ28、M/G用プーリ29、張力付与手段としての第2オートテンショナ30の揺動プーリ31、ウォータポンプ用プーリ32、パワーステアリング用プーリ33、エアコンプレッサ用プーリ34に巻掛けられている。
【0018】このように、第1オートテンショナ27は、エンジン11駆動時のベルト25の緩み側に相当する、クランク軸用プーリ24のベルト送り出し側に配置されている。また、第2オートテンショナ30は、エンジン11の再始動時にM/G12が駆動する際のベルト25の緩み側に相当する、M/G用プーリ29のベルト送り出し側に配置されている。
【0019】ウォータポンプ用プーリ32、パワーステアリング用プーリ33、エアコンプレッサ用プーリ34は、それぞれウォータポンプ13、パワーステアリングポンプ14、エアコン用コンプレッサ15を回転駆動可能に連結されている。
【0020】M/G用プーリ29は、M/G12の回転出力軸12aに連結されている。M/G12は、インバータ35を介してバッテリ36に接続されている。M/G12は、M/G用プーリ29を介して伝達されるエンジン11からの駆動力により発電を行い、バッテリ36を充電する発電機としての機能と、バッテリ36に充電された電力により駆動し、M/G用プーリ29を介してエンジン11へ駆動力を供給する電動機としての機能とを併せ持っている。なお、ECU16は、エンジン11の制御及び各種制御を行うようになっている。
【0021】図4は第1オートテンショナの模式断面図を示す。第1オートテンショナ27は、ハウジング40、アーム41、揺動プーリ28、切換手段としての切換機構42を備えている。ハウジング40は、基板43に筒部44が形成され、筒部44の内部に中心軸部45が設けられた形状に形成されている。基板43は、エンジン11のシリンダブロック11aにボルトを介して締付け固定されている。
【0022】アーム41の基部には、支持筒部46が形成されており、アーム41は、支持筒部46が中心軸部45に貫通された状態で、中心軸部45に対して揺動可能に支持されている。アーム41の先端には、揺動プーリ28がベアリングを介して回転可能に支持されている。
【0023】筒部44内には、支持筒部46の周りに付勢手段としての捩りばね47が収容されている。アーム41は、捩りばね47により、ベルト25に張力を付与するように揺動プーリ28をベルト25に押し付ける方向に、即ち図1において反時計方向に回動するように付勢されている。
【0024】シリンダブロック11aには、基板43の中心軸部45と反対側に、収容凹部11bが形成されており、この収容凹部11b内には、切換機構42が収容されている。切換機構42は、シリンダ52、ピストン53及び付勢部材としての圧縮ばね54を備えている。
【0025】シリンダ52は、その開口端が基板43に当接されており、シリンダ52内はピストン53により2つに区画されている。このうち、基板43から離れた方の室には圧縮ばね54が配置されており、ピストン53は、圧縮ばね54により基板43に近づく方向に付勢されている。また、シリンダ52内の基板43に近い方の室は油圧室55になっている。油圧室55は、油路56を介して油圧切換弁57、油圧ポンプ58に接続されている。油圧ポンプ58は、エンジン11により駆動されるように構成されている。油圧室55は、ECU16からの信号に基づく油圧切換弁57の切り換えにより、油圧ポンプ58から出力される作動油が供給あるいは排出されるようになっている。
【0026】アーム41の支持筒部46の端部には、第1リング部61が形成されている。また、ピストン53には、基板43を貫通して筒部44内部まで延びるロッド62が複数形成されており、ロッド62の先端部には、第1リング部61と対向するように、第2リング部63が形成されている。
【0027】図3は、第1、第2リング部周辺の模式斜視図を示す。図3及び図4に示すように、第1リング部61には、複数箇所(この実施形態では、2箇所)に第1係止部材としてのロック用凹部64が形成されている。また、第2リング部63には、ロック用凹部64と対向する位置に、第2係止部材としての係止突部65が形成されている。
【0028】図5は第2オートテンショナの模式断面図を示す。第2オートテンショナ30は、切換機構と捩りばねとが、第1オートテンショナ27の構成と異なっている。第2オートテンショナ30のアーム71は、付勢手段としての捩りばね72により、ベルト25に張力を付与する方向に、即ち図1において反時計方向に回動するように付勢されている。
【0029】第2オートテンショナ30の切換手段としての切換機構73は、シリンダ74内のピストン75によって2つに区画された部分のうち、ハウジング76の基板77に近い方に付勢部材としての圧縮ばね78が配置されており、ピストン75は、圧縮ばね78によって基板77から離れる方向に付勢されている。
【0030】また、シリンダ74内の基板77から離れた方の室は油圧室79になっており、油圧室79は、油路80を介して、油路56に連通されている。このため、油圧室55と油圧室79とは、油圧切換弁57の切り換えにより、作動油がともに供給又は排出されるようになっている。
【0031】アーム71の支持筒部71aの端部には、第1リング部81が形成されている。また、ピストン75には、基板77を貫通してハウジング76の筒部76a内部まで延びるロッド82が複数形成されており、ロッド82の先端部には、第1リング部81と対向するように、第2リング部83が形成されている。
【0032】図3は、第1、第2リング部周辺の模式斜視図を示す。図3及び図5に示すように、第1リング部81には、複数箇所(この実施形態では、2箇所)に第1係止部材としてのロック用凹部84が形成されている。また、第2リング部83には、ロック用凹部84と対向する位置に、第2係止部材としての係止突部85が形成されている。」(段落【0016】?【0032】)

(ク)「【0033】次に、上記のように構成された巻掛伝動装置の作用を説明する。エンジン11の回転出力状態(駆動状態)では、M/G12は発電機として機能しており、バッテリ36を充電している。また、エンジン11の駆動状態では、油圧ポンプ58も駆動されている。そして、油圧切換弁57がオンになっていることにより、油圧ポンプ58から油路56,80を介して第1オートテンショナ27の油圧室55及び第2オートテンショナ30の油圧室79に油圧が供給される。
【0034】この供給された油圧により、第1オートテンショナ27のピストン53は、圧縮ばね54の付勢力に抗して基板43から所定量離れた位置に配置され、係止突部65とロック用凹部64との係止が解除されている。このため、捩りばね47の付勢力によりアーム41は中心軸部45回りに回動した状態で、ベルト25に張力を付与可能な張力付与状態になっている。このアーム41の回動の際に、第1リング部61が第2リング部63に対して回動することにより、ほとんどの場合、係止突部65がロック用凹部64と対向せずにリング部の周方向にずれている。なお、ベルト25の緩み状態によっては、係止突部65が周方向にずれずに、ロック用凹部64と対向している場合もある。
【0035】また、第2オートテンショナ30では、供給された油圧により、圧縮ばね78の付勢力に抗して係止突部85がロック用凹部84に係止しており、アーム71がロックされている。このため、第2オートテンショナ30は、ベルト25に張力を付与しない状態、即ち張力非付与状態になっている。
【0036】このように、エンジン11が駆動中でM/G12が発電機として機能している状態では、この場合のベルト緩み側に相当するクランク軸用プーリ24に対するベルト25の送り出し側に配置された第1オートテンショナ27が、張力付与状態になっている。このため、第1オートテンショナ27によってベルト25の張力が確保され、ベルト25のスリップが防止されている。また、ベルト25に過剰な張力を与えないように、第2オートテンショナ30は張力非付与状態になっており、テンショナとしての機能を停止している。
【0037】上記の状態でエンジン11が停止されると、ECU16からの信号に基づいて油圧切換弁57がオフになり、第1及び第2オートテンショナ27,30の両油圧室55,79から油圧が抜ける。このため、第1オートテンショナ27では、圧縮ばね54の付勢力により、係止突部65が第1リング部61側に移動する。係止突部65は、ロック用凹部64に対して周方向にずれて位置しているため、ロック用凹部64に入らず、係止突部65の先端で第1リング部61に当接する。なお、周方向にずれずにロック用凹部64に対向していた前述したような係止突部65が、第1リング部61に当接せずに直接ロック用凹部64に係止する場合もある。
【0038】また、第2オートテンショナ30では、油圧室79から油圧が抜けることにより、圧縮ばね78の付勢力によって、係止突部85とがロック用凹部84との係止が解除され、アーム71が揺動可能になる。このため、第2オートテンショナ30は、捩りばね72の付勢力によりベルト25に張力を付与する張力付与状態になる。
【0039】M/G12の駆動によるエンジン11の再始動時には、第1オートテンショナ27のアーム41が、ベルト25により、捩りばね47の付勢力に抗して、図1において時計方向に回動するように引っ張られる。これにより、第1リング部61が第2リング部63に対して相対回転し、係止突部65は、ロック用凹部64と対向したときに、圧縮ばね54による付勢によりロック用凹部64に係止する。このため、アーム41がロックされ、第1オートテンショナ27は張力非付与状態になる。
【0040】また、第2オートテンショナ30は、エンジン11の停止状態から引き続いて張力付与状態であるため、テンショナとして機能してベルト25に張力を付与する。
【0041】このように、エンジン11が停止中で、M/G12がモータとして機能している状態では、この場合のベルト緩み側に相当するM/G用プーリ29に対するベルト25の送り出し側に配置された第2オートテンショナ30が、張力付与状態になる。このため、第2オートテンショナ30によってベルト25の張力が確保され、ベルト25のスリップが防止される。また、ベルト25に過剰な張力を与えないように、第1オートテンショナ27は張力非付与状態になる。
【0042】また、エンジン11が始動され、油圧ポンプ58が立ち上げられて所定の油圧を出力可能になると、ECU16の信号に基づいて油圧切換弁57がオンになり、油圧ポンプ58から両油圧室55,79に作動油圧が供給される。また、M/G12は、モータとしての機能から、発電機としての機能に切り換えられる。そして、第1オートテンショナ27においては、油圧により、圧縮ばね54の付勢力に抗して、係止突部65とロック用凹部64との係止が解除される。このため、アーム41はロックが解除されて揺動可能になり、第1オートテンショナ27は張力付与状態になる。
【0043】また、第2オートテンショナ30においては、圧縮ばね78の付勢力に抗して、油圧により係止突部85が第1リング部81に当接する。次に、アーム71が、ベルト25により、捩りばね72の付勢力に抗して、図1において時計方向に回動するように引っ張られる。このため、第1リング部81が相対回転して係止突部85がロック用凹部84と対向し、油圧による付勢により係止突部85がロック用凹部84に係止する。このため、アーム71がロックされ、第2オートテンショナ30は張力非付与状態になる。」(段落【0033】?【0043】)

(ケ)「【0044】この実施形態によれば、以下のような効果を有する。
(1)エンジン11が回転出力状態でのベルト25の緩み側に相当するクランク軸用プーリ24のベルト送り出し側に、第1オートテンショナ27が設けられている。また、M/G12の回転出力状態でのベルト25の緩み側に相当するM/G用プーリ29のベルト送り出し側に、第2オートテンショナ30が設けられている。第1オートテンショナ27は、エンジン11の停止により油圧が抜けた状態で係止突部65とロック用凹部64とが係止して張力非付与状態になり、油圧の供給により係止が解除されて張力付与状態になるように構成されている。また、第2オートテンショナ30は、第1オートテンショナ27と逆に、エンジン11の始動後に油圧が供給された状態で係止突部85とロック用凹部84とが係止して張力非付与状態になり、油圧が抜けた状態で係止が解除されて張力付与状態になるように構成されている。従って、予めベルト25を高張力とすることなく常にベルト25の緩みを適切に防止でき、ベルト25のスリップを防止できる。また、油圧は、エンジン11によって駆動される油圧ポンプ58から供給されるため、比較的簡単な構成で供給できる。」(段落【0044】)

また、図1をみると、M/G用プーリ29に巻き付けられているベルト25が、該M/G用プーリ29の前後で互いに延びる方向からみて、M/G用プーリ29に巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度は、180度以上の所定の角度であると認められる。
さらに、図1から、M/G用プーリ29に対して反クランク軸用プーリ24側に第2オートテンショナ30の揺動プーリ31が配置されていることがみてとれる。

したがって、上記摘記事項(オ)?(ケ)、及び図1?図5の記載からみて、先願2の明細書等には、下記の発明(以下、「先願2発明」という。)が記載されていると認める。

【先願2発明】
電動機または発電機として動作するM/G12と、前記M/G12を電動機または発電機に切り換えるECU16と、前記M/G12の回転出力軸12aに取り付けられたM/G用プーリ29と、補機としてのウォータポンプ13、パワーステアリングポンプ14、及びエアコン用コンプレッサ15の回転軸に連結されて補機に動力を伝達する補機用プーリとしてのウォータポンプ用プーリ32、パワーステアリング用プーリ33、及びエアコンプレッサ用プーリ34と、内燃機関としてのエンジン11のクランク軸21に連結されて動力を入出力可能に伝達するクランク軸用プーリ24と、前記M/G用プーリ29、前記補機用プーリ32,33,34および前記クランク軸用プーリ24に連続して巻き掛けられたベルト25とを備えた巻掛伝動装置23において、前記M/G用プーリ29に巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度が180度以上の所定の角度になるように、前記M/G用プーリ29に対して反クランク軸用プーリ24側に、ロック用凹部84と係止突部85との係止により揺動を規制可能な第2オートテンショナ30の揺動プーリ31を配置すると共に、前記M/G用プーリ29と前記クランク軸用プーリ24との間に、ロック用凹部64と係止突部65との係止により揺動を規制可能な第1オートテンショナ27の揺動プーリ28を配置し、前記M/G12によって前記エンジン11を始動する時には、前記第1オートテンショナ27の揺動プーリ28の位置が固定され、前記第2オートテンショナ30の揺動プーリ31は可動状態となり、エンジン11によって前記M/G12を発電機として駆動する時は、前記第2オートテンショナ30の揺動プーリ31の位置が固定され、前記第1オートテンショナ27の揺動プーリ28が可動状態となる巻掛伝動装置。

4.対比・判断
4-1.本願発明2について
本願発明2と先願1発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、先願1発明の「始動用モータ」は本願発明2の「回転電機」に相当し、以下同様に、「回転軸14」及び「回転軸16,18」は「回転軸」に、「プーリ15」は「回転電機用プーリ」に、「エンジン11」は「内燃機関」に、「クランク軸12」は「クランクシャフト」に、「クランクプーリ13」は「内燃機関用クランクプーリ」に、「伝動ベルト22」は「ベルト」に、「巻掛伝動装置32」は「ベルト伝動装置」に、「固定アイドラプーリ21」は「固定テンションプーリ」に、「ロック機構27のロックピン28の当接によりベルト緩み方向の揺動を規制可能なオートテンショナ23」は「第1のストッパ付オートテンショナ」に、「可動プーリ25」は「アイドルプーリ」に、それぞれ相当する。また、「略180度程度」は「130度以上230度以下」の範囲内にある。したがって、両者は、
「電動機として動作する回転電機と、前記回転電機の回転軸に取り付けられた回転電機用プーリと、補機の回転軸に連結されて補機に動力を伝達する補機用プーリと、内燃機関のクランクシャフトに連結されて動力を入出力可能に伝達する内燃機関用クランクプーリと、前記回転電機用プーリ、前記補機用プーリおよび前記内燃機関用クランクプーリに連続して巻き掛けられたベルトとを備えたベルト伝動装置において、前記回転電機用プーリに巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度が130度以上230度以下になるように、前記回転電機用プーリに対して反クランクプーリ側に固定テンションプーリを配置すると共に、前記回転電機用プーリと前記内燃機関用クランクプーリとの間に第1のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリを配置し、前記回転電機によって前記内燃機関を始動する時には、前記アイドルプーリの位置が固定され、前記内燃機関によって前記補機を駆動する時は、前記アイドルプーリが可動状態となるベルト伝動装置。」
である点で一致し、相違する点はないので、両者は同一である。
したがって、本願発明2は、先願1発明と同一であり、しかも、本願発明2の発明者が先願1発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、本願の出願人が先願1の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

ところで、請求人は、平成19年2月23日付けの手続補正書(方式)により補正された審判請求書において、
「この発明では、図1から図4までに示す実施の形態1に即して説明すれば、回転電機用プーリ13に巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度が130度以上230度以下になるように、回転電機用プーリ13に対して反クランクプーリ側に固定テンションプーリ18を配置すると共に、回転電機用プーリ13と内燃機関用クランクプーリ2との間に第1のストッパ付オートテンショナ17のアイドルプーリ17aを配置したものであって、固定テンションプーリ18は、回転電機用プーリ13に対して緩み側に配置され、回転電機用プーリ13に巻き付けられたベルトの角度θが、130度以上230度以下になるように調整されており、ベルト巻き付け角度θの最小を130度とすることによって、張り側ベルト張力と緩み側ベルト張力の比を3以上確保し、できるだけ小さな初期張力でありながら、ベルトスリップの発生を回避できるとともに、230度を越えた場合におけるプーリレイアウト構成の困難性を免れるものである。」(「【本願発明が特許されるべき理由】」の「3.本願発明と引用例との対比」の「(2)請求項2について」の項を参照)
及び、
「引用文献等1として示される先行出願:特願2001-283027号(特開2003-90397号公報)のものは、始動用モータあるいはモータジェネレータ及びそのプーリ、補機用プーリ、クランクプーリ、これらのプーリに掛け渡された伝導ベルト、始動用モータ用プーリの反クランクプーリ側に配置された固定アイドラプーリ、始動用モータ用プーリとクランクプーリとの間に配置されたオートテンショナを有し、始動時はオートテンショナの作動がロックされ、始動後はオートテンショナが揺動可能となる巻掛伝動装置であるに過ぎない。
この出願の発明は、回転電機用プーリに巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度が130度以上230度以下になるように、回転電機用プーリに対して反クランクプーリ側に固定テンションプーリを配置すると共に、回転電機用プーリと前記内燃機関用クランクプーリとの間に第1のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリを配置する点で、前述の通り、充分な意義を有し、しかも、前述したような特別顕著な作用効果を奏することができるものであって、引用文献等1に記載された発明とは別異の発明を構成するものであり、特許法第29条の2の規定に該当しないものであると思料する。」(「【本願発明が特許されるべき理由】」の「3.本願発明と引用例との対比」の「(2)請求項2について」の項を参照)
と主張している。
しかしながら、先願1の明細書等には、プーリ15(回転電機用プーリ)に巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度が略180度程度になるように、前記プーリ15(回転電機用プーリ)に対して反クランクプーリ13側に固定アイドラプーリ21(固定テンションプーリ)を配置すると共に、前記プーリ15(回転電機用プーリ)と前記クランクプーリ13(内燃機関用クランクプーリ)との間にオートテンショナ23(第1のストッパ付オートテンショナ)の可動プーリ25(アイドルプーリ)を配置していることが記載されているものと認められ、本願発明2と先願1発明との間に相違する点がないことは上記のとおりである。
なお、仮に、先願1の明細書等に、プーリ15(回転電機用プーリ)に巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度の数値そのものが明記されていないことをもって、両者が、該ベルト巻き付け角度の点で一応相違するものであるとした場合であっても、その角度範囲は、180度を中心として±50度もの範囲を有していて、そのような角度範囲に入るベルト巻き付け角度は、内燃機関の補機用ベルト伝動装置において周知のもの(必要であれば、例えば、特開平7-149167号公報の段落【0019】、特開平9-280067号公報の段落【0009】、特表平5-505988号公報の第3頁左下欄第6?8行等の記載を参照)であり、さらに言えば、ベルトスリップを防止する上でベルト巻き付け角度は大きいほどよいがレイアウト上の制約により制限されるという、本願発明2のベルト巻き付け角度の数値範囲を限定する根拠となる目的ないし効果も、従来周知の事項(必要であれば、例えば、特開平7-247857号公報の段落【0024】、特開平7-229426号公報の段落【0005】及び【0006】の記載等を参照)にすぎない。そうしてみると、上記ベルト巻き付け角度における一応の相違は、仮にあったとしても、課題解決のための具体化手段における微差にすぎないものというべきであり、本願発明2と先願1発明は実質的に同一である。
よって、請求人の上記審判請求書中での主張は採用することができない。

4-2.本願発明10について
本願発明10と先願2発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、先願2発明の「M/G12」は本願発明10の「回転電機」に相当し、以下同様に、「ECU16」は「回転電機切換制御手段」に、「M/G12の回転出力軸12a」は「回転電機の回転軸」に、「M/G用プーリ29」は「回転電機用プーリ」に、「エンジン11」は「内燃機関」に、「クランク軸21」は「クランクシャフト」に、「クランク軸用プーリ24」は「内燃機関用クランクプーリ」に、「ベルト25」は「ベルト」に、「巻掛伝動装置23」は「ベルト伝動装置」に、「ロック用凹部84と係止突部85との係止により揺動を規制可能な第2オートテンショナ30」は「第2のストッパ付オートテンショナ」に、「第2オートテンショナ30の揺動プーリ31」は「第2のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリ」に、「ロック用凹部64と係止突部65との係止により揺動を規制可能な第1オートテンショナ27」は「第1のストッパ付オートテンショナ」に、「第1オートテンショナ27の揺動プーリ28」は「第1のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリ」に、それぞれ相当する。また、「180度以上の所定の角度」は図1からみて「130度以上230度以下」の範囲内にあるものと認められる。したがって、両者は、
「電動機または発電機として動作する回転電機と、前記回転電機を電動機または発電機に切り換える回転電機切換制御手段と、前記回転電機の回転軸に取り付けられた回転電機用プーリと、補機の回転軸に連結されて補機に動力を伝達する補機用プーリと、内燃機関のクランクシャフトに連結されて動力を入出力可能に伝達する内燃機関用クランクプーリと、前記回転電機用プーリ、前記補機用プーリおよび前記内燃機関用クランクプーリに連続して巻き掛けられたベルトとを備えたベルト伝動装置において、前記回転電機用プーリに巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度が130度以上230度以下になるように、前記回転電機用プーリに対して反クランクプーリ側に第2のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリを配置すると共に、前記回転電機用プーリと前記内燃機関用クランクプーリとの間に、第1のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリを配置し、前記回転電機によって前記内燃機関を始動する時には、前記第1のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリの位置が固定され、前記第2のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリは可動状態となり、内燃機関によって前記回転電機を発電機として駆動する時は、前記第2のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリの位置が固定され、前記第1のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリが可動状態となるベルト伝動装置。」
である点で一致し、相違する点はないので、両者は同一である。
したがって、本願発明10は、先願2発明と同一であり、しかも、本願発明10の発明者が先願2発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、本願の出願人が先願2の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

ところで、請求人は、平成19年2月23日付けの手続補正書(方式)により補正された審判請求書において、
「引用文献等6として示される先行出願:特願2001-266156号(
特開2003-74364号公報)には、モータジェネレータ及びそのプーリ、モータジェネレータとバッテリとの間に接続されたインバータ、補機用プーリ、クランクプーリ、これらのプーリに掛け渡された伝導ベルト、始動用モータ用プーリの反クランクプーリ側に配置された第2のオートテンショナ、モータジェネレータ用プーリとクランクプーリとの間に配置された第1のオートテンショナを有し、始動時は第1のオートテンショナの作動はロックされ張力非付与状態であるとともに、第2のオートテンショナは張力付与状態であり、始動後は第1のオートテンショナが張力付与状態であるとともに、第2のオートテンショナの作動はロックされ張力非付与状態である巻掛伝動装置が記載されているに過ぎない。
この出願の発明は、前記回転電機用プーリに巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度が130度以上230度以下になるように、前記回転電機用プーリに対して反クランクプーリ側に第2のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリを配置すると共に、前記回転電機用プーリと前記内燃機関用クランクプーリとの間に、第1のストッパ付オートテンショナのアイドルプーリを配置する点で、前述の通り、充分な意義を有し、しかも、前述したような特別顕著な作用効果を奏することができるものであって、引用文献等1に記載された発明とは別異の発明を構成するものであり、特許法第29条の2の規定に該当しないものであると思料する。」(「【本願発明が特許されるべき理由】」の「3.本願発明と引用例との対比」の「(10)請求項10について」の項を参照)
と主張している。
しかしながら、先願2の明細書等には、M/G用プーリ29(回転電機用プーリ)に巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度が180度以上の所定の角度になるように、前記M/G用プーリ29(回転電機用プーリ)に対して反クランク軸用プーリ24(クランクプーリ)側に第2オートテンショナ30(第2のストッパ付オートテンショナ)の揺動プーリ31(アイドルプーリ)を配置すると共に、前記M/G用プーリ29(回転電機用プーリ)と前記クランク軸用プーリ24(内燃機関用クランクプーリ)との間に第1オートテンショナ27(第1のストッパ付オートテンショナ)の揺動プーリ28(アイドルプーリ)を配置していることが記載されているものと認められ、本願発明10と先願2発明との間に相違する点がないことは上記のとおりである。
なお、仮に、先願2の明細書等に、M/G用プーリ29(回転電機用プーリ)に巻き付けられて接触しているベルト巻き付け角度の数値そのものが明記されていないことをもって、両者が、該ベルト巻き付け角度の点で一応相違するものであるとした場合であっても、その角度範囲は、180度を中心として±50度もの範囲を有していて、そのような角度範囲に入るベルト巻き付け角度は、内燃機関の補機用ベルト伝動装置において周知のものであり、また、ベルトスリップを防止する上でベルト巻き付け角度は大きいほどよいがレイアウト上の制約により制限されるという、本願発明10のベルト巻き付け角度の数値範囲を限定する根拠となる目的ないし効果も、従来周知の事項にすぎないものであることは、上記「4-1.」で述べたとおりである。そうしてみると、上記ベルト巻き付け角度における一応の相違は、仮にあったとしても、課題解決のための具体化手段における微差にすぎないものというべきであり、本願発明10と先願2発明は実質的に同一である。
よって、請求人の上記審判請求書中での主張は採用することができない。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項2に係る発明(本願発明2)は、先願1の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明(先願1発明)と同一であり、しかも、その発明者が先願1発明の発明者と同一であるとも、また、その出願時に、その出願人が先願1の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
また、本願の請求項10に係る発明(本願発明10)は、先願2の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明(先願2発明)と同一であり、しかも、その発明者が先願2発明の発明者と同一であるとも、また、その出願時に、その出願人が先願2の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項2及び請求項10に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-11 
結審通知日 2008-06-17 
審決日 2008-06-30 
出願番号 特願2002-153238(P2002-153238)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二之湯 正俊  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 常盤 務
礒部 賢
発明の名称 ベルト伝動装置  
代理人 竹中 岑生  
代理人 村上 啓吾  
代理人 児玉 俊英  
代理人 大岩 増雄  

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