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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1183281
審判番号 不服2004-23284  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-12 
確定日 2008-08-22 
事件の表示 平成 7年特許願第127375号「固体電解質燃料電池用燃料極材料およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年11月22日出願公開、特開平 8-306361〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成7年4月28日の出願であって、平成16年1月19日付けで手続補正がなされ、同年4月6日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年10月8日付けで最後の拒絶理由により拒絶査定がされたところ、これに対し、同年11月12日付けで審判請求がなされるとともに、同年12月13日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成16年12月13日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年12月13日付けの手続補正を却下する。

[補正却下の理由]
1.補正の内容
平成16年12月13日付けの手続補正(以下、「本件補正B」という。)は、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の特許請求の範囲の請求項1に「ニッケルとジルコニアの体積比がニッケル≧ジルコニアであるものを除く」旨の記載を追加して、請求項1の記載を「ニッケル-ジルコニア系固体電解質燃料電池用燃料極材料であって、比較的大きな粒径を有するジルコニア粗粒子群と、比較的小さな粒径を有するジルコニア微粒子群と、ニッケルないし酸化ニッケル粒子群との混合物からなり、前記各粒子群の粒径がジルコニア粗粒子>ニッケルないし酸化ニッケル粒子>ジルコニア微粒子の関係を満たす(ニッケルとジルコニアの体積比がニッケル≧ジルコニアであるものを除く)ことを特徴とする固体電解質燃料電池用燃料極材料。」とする補正事項を含む(下線部は補正箇所である。)。

2.本件補正Bに対する判断
(1)当初明細書等に記載した事項
明細書についてする補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ、「当初明細書等に記載した事項」とは、直接的に記載した事項以外であっても、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であればよいから、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「当初明細書等に記載した事項の範囲内において」するものといえる。
本件補正Bについては、追加された「ニッケルとジルコニアの体積比がニッケル≧ジルコニアであるものを除く」事項は、当初明細書等に直接的に記載した事項ではないから、上記事項が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項といえるかどうかについて、以下に検討する。

(2)当初明細書等の記載事項
当初明細書等の主な記載を以下に摘示する。

ア 「ところで、これら固体電解質燃料電池の燃料極材料としては、酸化ニッケル(NiO、但し燃料電池作動時には金属ニッケルNi)とジルコニア(ZrO2 )の微粒子を混合して得たニッケル-ジルコニアサーメットが、高い触媒活性(水素の還元能力)を有し、かつ室温から1000℃までの高温でも導電率(電気抵抗の逆数)が高いことから適していると考えられていた。しかしながら、燃料極中のニッケルの含有量が多いと、熱膨脹係数の違いから熱応力が発生し、セル破壊につながる可能性があり、ニッケルの含有量をあまりふやすことができず、反面、ニッケルの量が少ないと、電極特性はあまり良くなく、電流を取り出すことが困難になり、更に、焼結性が高く緻密化しやすいなどの問題があった。そこで、従来、ジルコニアとして8モル%のイットリアで結晶構造を安定化させたジルコニア(以下8YSZと記する。)を用いたものが採用されるようになってきている。」(段落【0004】)

イ 「【作用】 このように本発明においては、固体電解質燃料電池用燃料極材料に用いられる各原料の粒径を変更し、その微細構造を改良したものである。
従来のニッケル-ジルコニアサーメット系固体電解質燃料電池用燃料極材料は、細かいNiOと8YSZとの混合粉体であったが、本発明においては、比較的大きな粒径を有するジルコニア粗粒子群と、比較的小さな粒径を有するジルコニア微粒子群と、酸化ニッケル粒子群との混合物としたものである。
この燃料極材料を構成する各粒子は、それぞれ次に述べるような粒径に応じた機能を有するものと考えられる。
(1)ジルコニア粗粒子・燃料極材料の骨格を形成し、電解質との熱膨脹差をなくす。
・粒子同志の隙間(粒間細隙)において気孔を形成し、かつこれを維持する。
・電極作動時のニッケル粒子の凝集を防ぎ、電子伝導経路(以下、電流パスと称する。)の維持を図る。
(2)酸化ニッケル粒子(電極作動時にはニッケル粒子)・ジルコニア粗粒子表面を被覆し、かつニッケルの凝集にも対応できるように、ジルコニア粗粒子間の隙間にも分散させる。
・電流パスを形成する。
・ジルコニア粒子との界面を多くし、電極反応場を増大させる。
(3)ジルコニア微粒子・ジルコニア粗粒子同志ならびにジルコニア電解質板との接着を良くする。
・ニッケル粒子の固定化を図り、電流パスの遮断を防ぐ。
したがって、これらの粒径の異なる原料が複合化してなる本発明に係る燃料極材料は、従来の材料に比べて、高温・還元雰囲気(電池作動条件に近い雰囲気)下において、気孔率の変化、体積の収縮ともに極めて小さくなり、あわせて電流パスの遮断が生じない。これによって、長持間発電においても、燃料極の劣化は起こりにくく、燃料電池の性能を低下させることがなくなる。また電極反応場の増加効果によって、燃料極の性能自体も向上させることができる。」(段落【0017】?【0020】)

ウ 「本発明の燃料極材料は、比較的大きな粒径を有するジルコニア粗粒子群と、比較的小さな粒径を有するジルコニア微粒子群と、酸化ニッケルないしニッケル粒子群との混合物からなる。図1は、本発明に係る燃料極材料を用いて、燃料極を形成した場合におけるその微細構造を示す概念図であり、図中符号31はジルコニア粗粒子、符号32は酸化ニッケル粒子、符号33はジルコニア微粒子を示す。
図1に示すように、ジルコニア粗粒子31は、燃料極中において骨格をなし、かつ粒子間にできる隙間(粒間細隙)によって気孔34を形成する。これらによって電解質(安定化ジルコニア製)との熱的整合性を図るとともに、焼結の進行による燃料極の収縮ならびに気孔の閉塞を防止する。またジルコニア微粒子33は、粒径の大きいジルコニア粗粒子31同志をより強固に接着したり、電解質と燃料極の密着性をより良好にしたりする。そして大小のジルコニア粒子31,33によて電極全体の焼結性が制御され、ニッケルの凝集防止と電極反応場の増加が図られる。また、酸化ニッケル粒子32は、粒径の大きなジルコニア粗粒子の周囲に分散され、電池作動時にニッケルに変化する。これによって、燃料極の電流パスを形成し、かつジルコニア粒子31,33と気孔との界面において、電極反応を生じる。
このような機能性を付与するために、本発明においては、前記各粒子群の粒径がジルコニア粗粒子>ニッケルないし酸化ニッケル粒子>ジルコニア微粒子の関係となるようにした。・・・」(段落【0023】?【0025】)

エ 「なおジルコニアとしては、安定化ジルコニア、特に8YSZが好ましい。この理由としては、前記したように燃料極中のニッケルの含有量が多いと、熱膨脹係数の違いから熱応力が発生し、セル破壊につながる可能性があり、ニッケルの含有量をあまりふやすことができず、反面、ニッケルの量が少ないと、電極特性はあまり良くなく、焼結性も高いため、安定化ジルコニアないし8YSZを用いることで至適なニッケル含有量とすることができるためである。」(段落【0026】)

オ 「【実施例】 以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。
(1)実験に用いた燃料極材料は、表1に示すような混合比の粉末で、以降各粉末は表1中の試料番号にて表記する。・・・
(2)このようにして得た燃料極材料の発電前および発電後の微細構造を電子顕微鏡(EPMA)により観察した。従来の材料(FEM000)は細かい粒径のNiと8YSZとで構成されている(図3)が、本発明に係るFEM461は図4に示すように前記概念図のようなミクロ構造になっていることが観察された。
(3)実験に用いるために各材料粉末を空気中にて1400℃で10時間焼成した後の収縮率を調べた。その結果を表2に示す。この結果から、従来の材料に比して、本発明に係る材料は収縮が小さいことが分かる。
(4)上記(3)で得た各材料の焼結体を図6に示すような還元試験用電気炉装置を用いて、1000℃、水素雰囲気にて保持した後の体積収縮の変化、気孔率の変化を調べた。得られた体積収縮の変化結果を図7に、また気孔率の変化結果を図8にそれぞれ示す。図7に示す結果から明らかなように、NiO(試料FEM010)の収縮は極めて大きく、従来の材料(試料FEM000)も300時間後には17%収縮している。これに対して本発明に係る燃料極材料は収縮が小さい。また図8に示されるように気孔率の変化についても同様に本発明に係る燃料極材料では変化が小さいものであった。・・・
(5)上記の材料のうち、変化の最も小さかったFEM461を用いて固体電解質燃料電池を作製し、発電試験ならびに燃料極の性能評価を行った。・・・
(6)FEM461についての発電試験において得られた図10に示す結果からして、3000時間の発電が可能となった。・・・
(7)カレント・インタープラション法で燃料極の性能評価を行なった結果を図11(a)に示す。初期の性能に対して500時間後の過電圧が顕著に大きくなっているが、これは過電流を流したためであり、500時間以降には大きな劣化は起っていない。再現性を得るために、電流を変化させずに2500時間の連続発電を行ったときには、過電圧に大きな変化が見られなかった(図11(b))。」(段落【0030】?【0037】)

カ 段落【0038】表1には、各粒子群の粒径の関係がジルコニア粗粒子(27.0μm)>酸化ニッケル粒子(12.8μm)>ジルコニア微粒子(0.6μm)であって、「ニッケルとジルコニアの重量比」が、「3:8」(試料番号731)、「4:7」(試料番号641)、「6:5」(試料番号461)の燃料極材料について記載され、図1には、本発明の燃料極材料を燃料極に用いた際の微細構造の概念図が示され、図4には、試料番号461の燃料極材料に係る燃料極の発電後の微細構造の電子顕微鏡写真が示され、図7,図8にはそれぞれこの発明の実施例の燃料極材料の還元雰囲気中での体積収縮、及び気孔率の経時的変化を示すグラフが示されている。

(3)判断
上記「ア」、「エ」の記載によると、ニッケルとジルコニアを含む燃料極材料において、ニッケルとジルコニアとの含有比には、至適な範囲が存在することが窺える。しかしながら、その至適な範囲についての具体的な記載は当初明細書等に存在しないから、至適な範囲が「ニッケルとジルコニアの体積比がニッケル≧ジルコニアであるものを除く」範囲であるとの技術的事項を導くことはできないと認められる。
また、「オ」、「カ」の記載によると、この発明に係る燃料極材料の実施例として、試料番号731、641及び461のものが示されており、各試料のニッケルとジルコニアの重量比を体積比に換算すると、審判請求人が平成18年3月27日付け回答書の「換算表1」に示すとおり、それぞれニッケル:ジルコニアの体積比が「16.5:83.5」、「23.1:76.9」、「38.7:61.4」であるから、当初明細書等には「上記3例のニッケルとジルコニアの体積比を有する燃料極材料」が記載されているといえる。そして、図4によると、試料番号461の燃料極材料を用いた燃料極の発電後の微細構造が、図1に記載された燃料極の微細構造の概念図と一致し、図7,8の記載によると、これら3例の試料材料の体積収縮、気孔率が経時的変化を起こしにくい効果を奏することが見て取れる。
しかしながら、「ウ」の記載によると、図1は「各粒子群の粒径」を特定した場合の燃料極材料に係る微細構造の概念図を示したものであって、「ニッケルとジルコニアとの体積比」と関連する微細構造を示すものではないし、「イ」、「ウ」の記載によると、燃料極材料における「各粒子群の粒径」が特定の関係にあることと、体積収縮や気孔率の経時的変化の大小と技術的に関連があることは示されているが、燃料極材料の「ニッケルとジルコニアの体積比」と体積収縮や気孔率の経時的変化との技術的関連については、示されていない。
そうすると、当初明細書等の記載から導かれる技術的事項は、「上記3例のニッケルとジルコニアの体積比を有する燃料極材料」に留まるというべきであり、それを上位概念に拡張した「ニッケルとジルコニアの体積比がニッケル≧ジルコニアであるものを除く」燃料極材料についての技術的事項を当業者が導くことができるとは認められない。
さらに、当初明細書等の他のすべての記載を勘案しても、「ニッケルとジルコニアの体積比がニッケル≧ジルコニアであるものを除く」技術的事項を導くことができるとは認められない。
以上の検討によると、本件補正Bは、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものと認めることはできない。

3.むすび
上記のとおり、本件補正Bは、平成6年改正前特許法第17条の2第2項の規定により準用する同法第17条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願についての当審の判断
1.原審の拒絶理由
原審における拒絶査定の理由の概要は、平成16年1月19日付けでした手続補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条第2項(審決注:「特許法第17条第2項」は「平成6年改正前特許法第17条第2項」と読み替える。)に規定する要件を満たしていないというものである。

2.平成16年1月19日付けの手続補正の内容
本件補正Bは上記のとおり却下されるから、本願の明細書及び図面は、願書に最初に添付した明細書及び図面を平成16年1月19日付けの手続補正(以下、「本件補正A」という。)により補正したものとなり、本件補正Aは、当初明細書等の特許請求の範囲の請求項1に「ニッケルとジルコニアの体積比がニッケル<ジルコニアである」旨の記載を追加して、請求項1の記載を「ニッケル-ジルコニア系固体電解質燃料電池用燃料極材料であって、比較的大きな粒径を有するジルコニア粗粒子群と、比較的小さな粒径を有するジルコニア微粒子群と、ニッケルないし酸化ニッケル粒子群との混合物からなり、前記各粒子群の粒径がジルコニア粗粒子>ニッケルないし酸化ニッケル粒子>ジルコニア微粒子の関係を満たし、且つニッケルとジルコニアの体積比がニッケル<ジルコニアであることを特徴とする固体電解質燃料電池用燃料極材料。」とする補正事項を含む(下線部は補正箇所である。)。

3.本件補正Aに対する判断
本件補正Aにより追加された「ニッケルとジルコニアの体積比がニッケル<ジルコニアである」旨の記載は、本件補正Bにより追加された「ニッケルとジルコニアの体積比がニッケル≧ジルコニアであるものを除く」旨の記載と、意味するところが同一であるから、本件補正Aにより追加された技術的事項は、本件補正Bにより追加された技術的事項と同一である。
そして、本件補正Bは、上記「II.[補正却下の理由]」において検討した理由により当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものと認めることができないから、本件補正Bと同一の技術的事項を追加する本件補正Aも、同様の理由により当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものと認めることができない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、本件補正Aは平成6年改正前特許法第17条第2項に規定する要件を満たしていない。
したがって、原審の拒絶査定は妥当である。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-19 
結審通知日 2008-06-25 
審決日 2008-07-09 
出願番号 特願平7-127375
審決分類 P 1 8・ 55- Z (H01M)
P 1 8・ 561- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山内 達人守安 太郎  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 近野 光知
鈴木 由紀夫
発明の名称 固体電解質燃料電池用燃料極材料およびその製造方法  
代理人 村瀬 一美  

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