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審決分類 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1183379
審判番号 不服2008-669  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-10 
確定日 2008-08-21 
事件の表示 特願2002-198789「アルカリ電池用亜鉛合金粉末」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月 7日出願公開、特開2003- 68295〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成6年9月8日に出願した特願平6-240581号(以下、「原願」という。)の一部を平成14年7月8日に新たな特許出願としたものであって、平成18年4月3日付け、及び平成19年8月20日付けで明細書の手続補正がなされ、同年12月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成20年1月10日に審判請求がなされ、当審において平成20年4月21日付けで拒絶理由が通知されたものである。

第2 当審の拒絶理由
当審において、平成20年4月21日付けで通知した拒絶理由の概要は、この出願は、明細書及び図面の記載が平成6年改正前特許法第36条第4項及び第5項第1号、第2号に規定する要件を満たしていないというものであり、より具体的には、以下の理由を含むものである。
(a)発明の詳細な説明の記載によると、「比表面積」についての特定がこの出願の発明の課題解決に必須の事項であるとも認められるから、請求項1は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであるかどうか不明である。
(b)発明の詳細な説明には、「安息角40度以下」の亜鉛合金粉末を製造する手段である「アトマイズ」及び「ふるい分け」について、具体的な製造条件等が記載されていないから、発明の詳細な説明は、請求項1,2に記載された「安息角40度以下」の物理特性を有する亜鉛合金粉末に係る発明を、当業者が容易に実施をすることができる程度に記載したものではない。

第3 当審の判断
1.特許請求の範囲の記載
本願明細書の特許請求の範囲の記載は、平成19年8月20日付け手続補正により補正された以下のとおりのものと認められる。
「【請求項1】 安息角が40度以下であってさらに、アルミニウムならば0.005重量%以下、インジウムならば0.07重量%以下、ビスマスならば0.01重量%以下という制限条件の下で、アルミニウム、インジウムおよびビスマスを含み、残部が亜鉛および不可避不純物であることを特徴とするアルカリ電池用亜鉛合金粉末。
【請求項2】 比表面積が0.013?0.03m^(2)/g、安息角が40度以下であってさらに、インジウムを0.07重量%以下含み、残部が亜鉛および不可避不純物であることを特徴とするアルカリ電池用亜鉛合金粉末。」

2.(a)について
発明の詳細な説明【0005】の「無汞化亜鉛合金粉末を使用することで汞化亜鉛電池粉に求められていた特性を必ずしも満足するにはいたっておらず、例えば負極用亜鉛合金粉末のアルカリ電解液中での腐食による放電前後の水素ガス発生特性が十分でなく、特に過放電後のガス発生が多い点で問題があった。」の記載によると、この出願の発明の解決しようとする課題は、負極用無汞化亜鉛合金粉末において「特に過放電後のガス発生が多い」ことであり、同【0006】の「本発明は、このような問題点を解決するためのもので、亜鉛合金粉末の物理特性および合金組成を改良することにより、従来技術のものに比して水素ガス発生を抑制する、特に過放電後の水素ガス発生を抑制する無水銀アルカリ電池用亜鉛合金粉末を提供することを目的とするものである」の記載によると、この出願の発明の目的は、「特に過放電後の水素ガス発生を抑制する無水銀アルカリ電池用亜鉛合金粉末を提供する」ことにあると認められる。
そこで、上記課題を解決するための手段についての記載をみると、同【0014】、【0015】には、「ここで亜鉛合金粉末の比表面積が0.013m^(2)/g未満でガス発生抑制効果が少なくなるのは、比表面積値が低くなると亜鉛合金粉末の粒子形状が球状に近くなったり、粒子全体が大きくなり反応性が悪くなって放電前のガス発生は少なくなるが、本発明の目的とする過放電後のガス発生については、放電により表面が露出しその露出面が新たに活性化されガス発生量が多くなることによると思われる。また比表面積が0.03m^(2)/gを越えたりあるいは安息角が40度を超えるものは亜鉛合金粉末の粒子形状が針状に近くなり反応性が良くなりすぎるものと思われる」と記載されている。
そうすると、上記の記載は、「比表面積」が「0.013?0.03m^(2)/g」の範囲内の亜鉛合金粉末により、上記課題を解決し得ることを示してはいるが、「比表面積」が上記の範囲外の亜鉛合金粉末が上記課題を解決し得るかどうかについて何ら示すものではない。
次に、同【0023】表1に記載された、請求項1に記載された発明に係る「アルミニウム、インジウムおよびビスマスを含み、残部が亜鉛および不可避不純物である亜鉛合金粉末(以下「四元亜鉛合金粉末」という)」についての実施例1?5と比較例6?8とについて検討すると、これらの例は全て比表面積が「0.013?0.03m^(2)/g」の範囲内であるから、これらの例から「比表面積」が上記の範囲を逸脱する場合にも上記課題が解決できるかどうかを窺い知ることはできない。
また、表1に記載された実施例6と比較例4について検討すると、請求項2に記載された合金組成を満たし、安息角がともに請求項1,2に記載された適正な範囲である亜鉛合金粉末において、比表面積が「0.013?0.03m^(2)/g」の範囲内である実施例6に対して、上記の範囲外である比較例4は、過放電後のガス発生が抑制されていない。そうすると、請求項1に記載された合金組成及び安息角を有する四元亜鉛合金粉末においても、比表面積が「0.013?0.03m^(2)/g」の範囲を逸脱する場合には、上記課題を解決し得ない蓋然性が高いと認められる。
以上によると、請求項1に記載された四元亜鉛合金粉末において、その比表面積を特定の範囲に限定しない場合に、「特に過放電後のガス発生が多い」という課題を解決し、「過放電後の水素ガス発生を抑制する無水銀アルカリ電池用亜鉛合金粉末を提供する」という目的を達成することができるのかどうか、発明の詳細な説明の記載を参酌しても不明であるといわざるを得ない。
したがって、請求項1に記載された発明は、この出願の発明の課題を解決し、目的を達成することができるのかどうか不明であるから、請求項1は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載したものであるかどうか不明であるというべきである。

3.(b)について
請求項1及び2には、上記「第1」に示すとおり、「安息角が40度以下」の亜鉛合金粉末に係る発明が記載されている。
これに対して、発明の詳細な説明【0017】、【0018】には、「安息角が40度以下」の亜鉛合金粉末を得る方法として、溶融金属を「アトマイズ」し、「ふるい分け」することは記載されているが、「アトマイズ」及び「ふるい分け」における具体的な製造条件等は記載されていない。
そして、溶融金属を「アトマイズ」し、「ふるい分け」すること自体は、原願出願前周知の工程であり、また、「ふるい分け」のメッシュ条件によって一定の粒子径の粉末を選別されること、及び粒子径が小さい粉末ほど比表面積が大きくなる傾向があることが一般的な技術常識であると認められるから、「ふるい分け」のメッシュ条件を適宜設定することにより、特定の「比表面積」を有する粉末を得ることは、発明の詳細な説明に具体的な記載がなくても、当業者が適宜実施し得ることと認められる。
しかしながら、「アトマイズ」及び「ふるい分け」における製造条件等と「安息角」との間に何らかの相関があることは、原願出願前周知であるとも技術常識であるとも認められないから、「安息角が40度以下」の粉末を得るための「アトマイズ」及び「ふるい分け」における製造条件等について、当業者が容易に知り得るものとは認められない。
したがって、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が請求項1,2に係る「安息角が40度以下」の亜鉛合金粉末を容易に製造することができるとは認められないから、発明の詳細な説明は、請求項1,2に記載された発明を当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載したものではない。

第4 むすび
以上のとおり、本願は、明細書の記載が平成6年改正前特許法第36条第4項及び第5項第2号の規定を満たさないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-17 
結審通知日 2008-06-24 
審決日 2008-07-08 
出願番号 特願2002-198789(P2002-198789)
審決分類 P 1 8・ 534- WZ (H01M)
P 1 8・ 531- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井元 清明松岡 徹小川 進  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 山田 靖
近野 光知
発明の名称 アルカリ電池用亜鉛合金粉末  
代理人 小松 高  
代理人 和田 憲治  

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