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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200511982 審決 特許
不服200220454 審決 特許
無効2007800196 審決 特許
不服20054881 審決 特許
不服200518508 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1183437
審判番号 不服2004-1  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-05 
確定日 2008-08-19 
事件の表示 特願2000-243139「骨関節症治療におけるアグリカナーゼの選択的阻害」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月24日出願公開、特開2001-114765〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、2000年8月10日(パリ条約による優先権主張1999年8月12日、米国)の出願であって、平成14年4月16日付拒絶理由に対してその応答期間内の平成14年7月19日付けで手続補正がなされたが、その後、平成15年9月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成16年1月5日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年2月4日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成16年2月4日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年2月4日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項6
「骨関節症、関節損傷、反応性関節炎、急性ピロホスフェート関節炎(偽性痛風)、乾癬性関節炎、若年性関節リウマチ、炎症性腸疾患、クローン病、気腫、急性呼吸窮迫症候群、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アルツハイマー病、臓器移植毒性、悪液質、アレルギー性反応、アレルギー性接触過敏症、がん、組織潰瘍形成、再狭窄、歯周疾患、表皮水疱症、骨粗鬆症、人工関節インプラントの弛み、アテローム性動脈硬化症、大動脈瘤、うっ血性心不全、心筋梗塞、卒中発作、脳虚血、頭部外傷、脊髄損傷、神経変性障害、自己免疫障害、ハンチントン病、パーキンソン病、片頭痛、抑うつ、末梢神経障害、疼痛、脳アミロイド血管障害、抗痴呆又は認知増大、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、眼血管形成、角膜損傷、黄斑変性、異常創傷治癒、火傷、糖尿病、角膜瘢痕、強膜炎、AIDS、敗血症、及び敗血性ショックからなる群から選ばれる状態の治療のための薬剤組成物であって、前記状態を有する患者に対する治療上有効量の請求項1に記載の化合物又はその治療上許容しうる塩、及び製薬学的に許容しうる担体、を含む薬剤組成物。」

「骨関節症、関節損傷、反応性関節炎、急性ピロホスフェート関節炎(偽性痛風)、乾癬性関節炎、若年性関節リウマチ、がん、組織潰瘍形成、再狭窄、歯周疾患、表皮水包症、骨粗鬆症、自己免疫障害、異常創傷治癒、強膜炎、AIDS、敗血症、及び敗血性ショックからなる群から選ばれる状態の治療のための薬剤組成物であって、前記状態を有する患者に対する治療上有効量の請求項1に記載の化合物又はその治療上許容しうる塩、及び製薬学的に許容しうる担体、を含む薬剤組成物。」
と補正された。
この補正は、補正前の薬剤組成物から、その治療対象疾患の一部を削除したもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、さらに、本件補正後の前期請求項6に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

(2)独立特許要件について
請求項6に係る発明は、医薬に関するものである。
医薬についての用途発明においては、一般に、有効成分として記載されている物質自体から、それが医薬用途に利用できるかどうかを予測することは困難である。それゆえ、当業者が実施をすることができる程度に医薬用途発明が記載されているというためには、発明の詳細な説明において、当該物質を当該医薬用途に利用できることが、薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載により裏付けられている必要があり、出願時の技術常識を考慮しても、その裏付けがされていない発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない。
そこで、本件補正発明の医薬用途「骨関節症、関節損傷、反応性関節炎、急性ピロホスフェート関節炎(偽性痛風)、乾癬性関節炎、若年性関節リウマチ、がん、組織潰瘍形成、再狭窄、歯周疾患、表皮水包症、骨粗鬆症、自己免疫障害、異常創傷治癒、強膜炎、AIDS、敗血症、及び敗血性ショックからなる群から選ばれる状態の治療」についての発明の詳細な説明の記載を検討する。

本願の発明の詳細な説明には、式Iで表される化合物及び製薬学的に許容しうる担体を含む薬剤組成物の性質やその用途に関連して以下の記載がある。

(A)本発明は、効力の高いアグリカナーゼタンパク分解活性阻害薬であり、関節疾患に関与する他の酵素、特にマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMPs)及びエー・ディスインテグリン及びメタロプロテイナーゼ[a disintegrin and metalloproteinases](ADAMs又はレプロリシン[reprolysins])を阻害するカルボン酸ヒドロキシアミド誘導体に関する。本発明は、また、カルボン酸ヒドロキシアミド阻害薬の合成前駆体、薬剤組成物、及び治療法、特に骨関節症の治療法にも関する。(段落0001)

(B)骨関節症は、軟骨マトリックスの二大成分であるII型コラーゲンとアグリカンの進行性の酵素的破壊を特徴とする。II型コラーゲンは軟骨の引張強度に必須で、その分解は骨関節症進行の原因となる。(段落0002)

(C)軟骨分解酵素の阻害薬は、軟骨のコラーゲン及びアグリカンの分解を遮断するので、骨関節症の進行が遮断又は緩徐化される。(段落0006)

(D)一部のADAMSは、炎症性サイトカインの放出を起こし、これらの有害なADAMSの濃度は関節疾患では増加することが多い。例えば、腫瘍壊死因子-アルファ変換酵素(TACE)としても知られるADAM-17は、細胞結合腫瘍壊死因子-α(TNF-α)の開裂の原因となる。(段落0012)

(E)II型コラーゲンを分解する3種類のマトリックスメタロプロテイナーゼが知られており、MMP-1、MMP-8、及びMMP-13であるが、本明細書中ではそれぞれコラゲナーゼ-1、-2、及び-3と呼ぶ。(段落0015)

(F)コラゲナーゼ-3(MMP-13)(Freijeら、J.Biol.Chem.269,16766-16773(1994))は、ほとんど軟骨だけに認められる。(段落0018)

(G)非選択的コラゲナーゼ阻害薬は効力のある治療薬であるが、全身的な結合組織毒性を生ずる可能性がある。例えば、コラゲナーゼ-3及びコラゲナーゼ-1の両方の阻害薬は用量関連の相当な結合組織副作用が明らかとなっている(Proceedings of ASCO,15,490(1996))。このような結合組織毒性は非選択的MMP阻害薬の治療的有用性をかなり制限する。非選択的コラゲナーゼ阻害薬の毒性は、コラゲナーゼ-1による正常の結合組織コラーゲンのターンオーバーの抑制からくることが提唱されている。そこで、コラゲナーゼ-1活性をもたないコラゲナーゼ阻害薬は、結合組織毒性をもたないか、又は削減する。(段落0022)

(H)効力の高いアグリカナーゼ阻害が治療的利益をもたらすべき疾患は、骨関節症
、関節損傷、反応性関節炎、急性ピロホスフェート関節炎、乾癬性関節炎、及び
慢性関節リウマチなどである。(段落0023)

(I)本発明はまた、哺乳動物患者、好ましくはヒト患者における関節軟骨の破壊を特徴とする種類の状態、好ましくは、関節損傷、反応性関節炎、急性ピロホスフェート関節炎(偽性痛風)、乾癬性関節炎、骨関節症、又は若年性関節リウマチ、更に好ましくは骨関節症を治療するための薬剤組成物にも関し、該薬剤組成物は、そのような治療に有効な量の式Iの化合物又はその製薬学的に許容しうる塩及び製薬学的に許容しうる担体を含む。
本発明は、また、ヒトを含む哺乳動物における、炎症性腸疾患、クローン病、気腫、急性呼吸窮迫症候群、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アルツハイマー病、臓器移植毒性、悪液質、アレルギー性反応、アレルギー性接触過敏症、がん(例えば、腫瘍侵入、腫瘍成長、腫瘍転移、充実性腫瘍がん、例えば結腸がん、乳がん、及び前立腺がん、並びに造血性悪性疾患、例えば白血病及びリンパ腫)、組織潰瘍形成、再狭窄、歯周疾患、表皮水疱症、骨粗鬆症、人工関節インプラントの弛み、アテローム性動脈硬化症(アテロームプラーク破裂を含む)、大動脈瘤(腹部大動脈瘤及び脳大動脈瘤を含む)、うっ血性心不全、心筋梗塞、卒中発作、脳虚血、頭部外傷、脊髄損傷、神経変性障害(急性及び慢性)、自己免疫障害、ハンチントン病、パーキンソン病、片頭痛、抑うつ、末梢神経障害、疼痛、脳アミロイド血管障害、抗痴呆又は認知増大、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、眼血管形成、角膜損傷、黄斑変性、異常創傷治癒、火傷、糖尿病、角膜瘢痕、強膜炎、AIDS、敗血症、及び敗血性ショックからなる群から選ばれる状態を治療するための薬剤組成物にも関し、該薬剤組成物は、そのような治療に有効な量の式Iの化合物又はその製薬学的に許容しうる塩及び製薬学的に許容しうる担体を含む。
本願発明はまた、ヒトを含む哺乳動物における、メタロプロテイナーゼ活性(好ましくはMMP-3)を特徴とする疾患及び哺乳動物レプロリシン活性(好ましくはTACE又はアグリカナーゼ活性)を特徴とする他の疾患を治療するための薬剤組成物にも関し、該薬剤組成物は、そのような治療に有効な量の式Iの化合物又はその製薬学的に許容しうる塩及び製薬学的に許容しうる担体を含む。(段落0070?0072)

(J)ヒトコラゲナーゼ-1の阻害(組換え体コラゲナーゼ-1検定)、ヒトコラゲナーゼ-3の阻害(組換え体コラゲナーゼ-3検定)、アグリカナーゼ軟骨細胞検定、可溶性TNF-α生産の阻害(TACE全血検定)を用いて、請求項1に式1として示される化合物(以下、「式1の化合物」という」)のうちのいくつかについて、その効力(IC50)を測定した結果が表2?表8に記載されている。

上記の記載事項によれば、式1の化合物のうちのいくつかが、ヒトコラゲナーゼ-1阻害作用に比べて、ヒトコラゲナーゼ-3、アグリカナーゼ、及び可溶性TNF-α生産作用の選択的阻害活性を有すること、それら選択的阻害活性がある種の骨疾患治療に有効であることが記載ないしは示唆されているにすぎず、式1の化合物の投与によって、本件補正発明で特定される、骨疾患以外の疾患を包含する全ての疾患が治療されたことを確認するに足りる薬理試験は記載されていない。そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、単に本件補正発明で特定する広範な疾患名が羅列されているのみであって、上記の選択的阻害活性と疾患治療との関係についての合理的な説明はなされておらず、また、疾患治療における両者の密接な関係性が、本願出願前に当業者の技術常識であるものとも認められない。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明は、本件補正発明の医薬用途についての薬理データ又はこれと同視できる程度の記載がなされており、本件補正発明の医薬用途としての有用性を当業者が理解でき、本件補正発明について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとすることはできない。
したがって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

請求人は、平成16年2月4日付け手続補正書により補正した、審判請求書の請求の理由において、請求項6について、その医薬用途を、引用文献1(審決注:国際公開第98/34918号)の第1頁において明確に言及されている疾患である「がん、組織潰瘍形成、再狭窄、歯周疾患、表皮水包症、骨粗鬆症、自己免疫障害、異常創傷治癒、強膜炎、AIDS、敗血症、及び敗血性ショック」のみとする補正を行ったので、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない旨の拒絶理由は解消した、と主張する。
しかし、引用文献1の上記該当箇所には、三件の学術論文を引用して、各引用学術論文に、「マトリックス分解プロテアーゼが、組織マトリックスの分解に関与し、異常な結合組織及び基底膜マトリックス代謝に関与する多くの病的状態、例えば、関節炎・・・HIV感染に関連づけられている。」「腫瘍壊死因子は多くの感染症及び自己免疫疾患に関与することが認められている。」「TNFが敗血症及び敗血症性ショックに見られる炎症性の主要な仲介体であることが判明している。」と記載されているものの、これらの記載は疾患の治療の裏付け、すなわち薬理試験に準ずるものということはできないから、依然として、式1の化合物が本件補正発明で特定される疾患を治療しうるものであることは不明であるというほかない。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成16年2月4日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項6に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成14年7月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「骨関節症、関節損傷、反応性関節炎、急性ピロホスフェート関節炎(偽性痛風)、乾癬性関節炎、若年性関節リウマチ、炎症性腸疾患、クローン病、気腫、急性呼吸窮迫症候群、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アルツハイマー病、臓器移植毒性、悪液質、アレルギー性反応、アレルギー性接触過敏症、がん、組織潰瘍形成、再狭窄、歯周疾患、表皮水疱症、骨粗鬆症、人工関節インプラントの弛み、アテローム性動脈硬化症、大動脈瘤、うっ血性心不全、心筋梗塞、卒中発作、脳虚血、頭部外傷、脊髄損傷、神経変性障害、自己免疫障害、ハンチントン病、パーキンソン病、片頭痛、抑うつ、末梢神経障害、疼痛、脳アミロイド血管障害、抗痴呆又は認知増大、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、眼血管形成、角膜損傷、黄斑変性、異常創傷治癒、火傷、糖尿病、角膜瘢痕、強膜炎、AIDS、敗血症、及び敗血性ショックからなる群から選ばれる状態の治療のための薬剤組成物であって、前記状態を有する患者に対する治療上有効量の請求項1に記載の化合物又はその治療上許容しうる塩、及び製薬学的に許容しうる担体、を含む薬剤組成物。」
本願発明は、前記2.で検討した本件補正発明記載の薬剤組成物のみならず、さらにそれとは異なる疾患をもその治療対象とするものであるから、本件補正発明を包含する。
そうすると、本件補正発明が、前記2.(2)に記載したとおりの理由により当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていると認められないものである以上、本願発明も同様の理由を有するものである。
したがって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-29 
結審通知日 2008-03-03 
審決日 2008-04-09 
出願番号 特願2000-243139(P2000-243139)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C07D)
P 1 8・ 536- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中木 亜希  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 星野 紹英
穴吹 智子
発明の名称 骨関節症治療におけるアグリカナーゼの選択的阻害  
代理人 社本 一夫  
代理人 小野 新次郎  
代理人 富田 博行  
代理人 小林 泰  
代理人 千葉 昭男  
代理人 寺地 拓己  

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