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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1183678
審判番号 不服2006-14895  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-12 
確定日 2008-08-28 
事件の表示 特願2003-101189「電極」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月 4日出願公開、特開2004-311141〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年4月4日の出願であって、平成18年6月8日に拒絶査定がなされ、同年7月12日にこれに対する審判請求がなされ、平成20年4月7日付けで当審における拒絶理由が通知され、同年6月9日付けで手続補正がされたものであり、その発明は、上記の手続補正(以下、「当審補正」という。)により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は以下に示すとおりのものと認められる。
「銅(Cu),ニッケル(Ni),チタン(Ti),鉄(Fe)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種により構成された集電体と、
この集電体に設けられたケイ素(Si)またはゲルマニウム(Ge)の単体および化合物からなる群のうちの少なくとも1種により構成された活物質層と、
この活物質層の表面の一部に設けられ、ニッケルからなり300nm以上600nm以下の厚みを有する薄膜層と
を備えたことを特徴とする電極。」
(以下、この請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

2.当審拒絶理由の概要
当審における拒絶理由の概要は、本願の当審補正前の請求項1?11に係る発明はその出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物1,2に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

3.刊行物の記載事項
当審拒絶理由に刊行物1として引用した特開2002-289178号公報には、以下の記載がされている。
[1-a]「Liと合金化しない金属からなる集電体層の上に、Liと合金化する金属からなる活物質層が設けられたリチウム二次電池用電極において、前記活物質層の前記集電体層と反対側の面の上に、Liと合金化しない金属からなる表面被覆層またはLiと合金化しない金属とLiと合金化する金属との合金からなる表面被覆層が設けられていることを特徴とするリチウム二次電池用電極。」(特許請求の範囲の請求項1)
[1-b]「本発明においては、Liと合金化しない金属を含む表面被覆層が活物質層の上に設けられているので、活物質層の表面と電解液との反応をこの表面被覆層により抑制することができる。この結果、活物質層表面の劣化を抑制することができ、充放電サイクル特性を向上させることができる。」(【0008】)
[1-c]「本発明において、Liと合金化する金属としては、Liと固溶体または金属間化合物を形成する金属が挙げられる。このような金属としては、Sn(錫)、Ge(ゲルマニウム)、Al(アルミニウム)、In(インジウム)、Mg(マグネシウム)、Pb(鉛)、Bi(ビスマス)、Zn(亜鉛)などが挙げられる。Liと合金化する金属は、2種以上が含まれていてもよい。従って、活物質層中には、Liと合金化する金属の2種以上が含まれていてもよく、Liと合金化する2種以上の金属の合金から形成されていてもよい。」(【0009】)
[1-d]「本発明において、Liと合金化しない金属としては、Liと固溶体または金属間化合物を形成しない金属が挙げられる。具体的には、Liとの二元状態図で合金状態が存在しない金属が挙げられる。Liと合金化しない金属としては、例えば、Cu(銅)、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)などが挙げられる。Liと合金化しない金属は、2種以上含まれていてもよい。」(【0010】)
[1-e]「本発明において、表面被覆層の厚みは0.2μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1μm以下である。表面被覆層の厚みが厚くなり過ぎると、活物質層と電解液中のLiとの反応が阻害され、充放電容量が低下する場合がある。また、表面被覆層の厚みは、0.01μm以上であることが好ましい。従って、表面被覆層の厚みは、0.01?0.2μm程度であることが好ましい。表面被覆層の厚みが薄くなり過ぎると、活物質層と電解液との反応を抑制するという効果が十分に得られない場合がある。」(【0016】)
[1-f]「・・・電解銅箔の上に錫薄膜を形成した後、錫薄膜の上に厚み0.02μmのSn-Cu合金層を電解めっき法により形成した。・・・上記の・・・Sn-Cu合金層は、その厚みが非常に薄いので、錫薄膜の上を均一に被覆しているのではなく、島状に分布して被覆していると考えられる。・・・
以上のようにして活物質層である錫薄膜の上に、表面被覆層であるSn-Cu合金層を形成した。このようにして得られた電極を、本発明電極a2とした。・・・」(【0025】?【0027】)

4.当審の判断
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、[1-a]によると、「Liと合金化しない金属からなる集電体層の上に、Liと合金化する金属からなる活物質層が設けられたリチウム二次電池用電極において、前記活物質層の前記集電体層と反対側の面の上に、Liと合金化しない金属からなる表面被覆層・・・が設けられていることを特徴とするリチウム二次電池用電極」について記載されている。
そして、集電体及び表面被覆層をなす「Liと合金化しない金属」とは、[1-d]によると、Cu(銅)、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)などの1種又は2種であり、活物質層をなす「Liと合金化する金属」とは、[1-c]によると、Ge(ゲルマニウム)などである。また、表面被覆層は、[1-f]によると、活物質層の上を島状に分布して被覆しているといえ、[1-e]によると、その好ましい厚みは「0.01?0.2μm程度」である。
以上によると、刊行物1には、「銅(Cu),ニッケル(Ni),チタン(Ti),鉄(Fe)からなる群のうちの少なくとも1種により構成された集電体と、この集電体に設けられたゲルマニウム(Ge)により構成された活物質層と、この活物質層の表面を島状に分布して設けられ、銅(Cu),ニッケル(Ni),チタン(Ti),鉄(Fe)からなる群のうちの少なくとも1種からなり、10nm以上200nm以下の厚みを有する表面被覆層とを備えたリチウム二次電池用電極」の発明が記載されているといえる(以下、この発明を「刊行物1発明」という。)。

(2)本願発明と刊行物1発明との対比
本願発明(前者)と刊行物1発明(後者)とを対比すると、後者の「活物質層の表面を島状に分布して設けられ、銅(Cu),ニッケル(Ni),チタン(Ti),鉄(Fe)からなる群のうちの少なくとも1種からな・・・る表面被覆層」は、ニッケルからなる表面被覆層である場合、前者の「活物質層の表面の一部に設けられ、ニッケルからな・・・る薄膜層」に相当するから、両者は、「銅(Cu),ニッケル(Ni),チタン(Ti),鉄(Fe)からなる群のうちの少なくとも1種により構成された集電体と、この集電体に設けられたゲルマニウム(Ge)により構成された活物質層と、この活物質層の表面の一部に設けられ、ニッケルからなる薄膜層とを備えた電極」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:前者は、薄膜層が「300nm以上600nm以下の厚みを有する」のに対して、後者は、薄膜層が「10nm以上200nm以下の厚みを有する」点

(3)判断
刊行物1には、薄膜層(表面被覆層)に関して、[1-b]に、「活物質層の表面と電解液との反応をこの表面被覆層により抑制することができる。この結果、活物質層表面の劣化を抑制することができ、充放電サイクル特性を向上させることができる」と記載され、[1-e]に、「表面被覆層の厚みは0.2μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1μm以下である。表面被覆層の厚みが厚くなり過ぎると、活物質層と電解液中のLiとの反応が阻害され、充放電容量が低下する場合がある。・・・表面被覆層の厚みが薄くなり過ぎると、活物質層と電解液との反応を抑制するという効果が十分に得られない場合がある。」と記載されているから、刊行物1発明において薄膜層の厚みを「200nm以下」とするのは、活物質層と電解液中のLiとの反応が阻害されず、充放電容量特性が低下しない程度の厚みとするためであり、一方、活物質と電解液との反応を抑制し、充放電サイクル特性を向上させるためには、「10nm以上」とする、すなわち薄膜層を厚くする方が有利であることが記載されているといえる。
ところで、電池は様々な用途に供されるものであって、用途によって求められる特性が異なり、例えば、充放電サイクル特性が充放電容量特性に優先して要請される場合があることも、当業者が熟知するところと認められる。
そうすると、刊行物1発明における電池を、充放電サイクル特性が充放電容量特性に優先して要請される用途に供する場合に、充放電容量特性をある程度犠牲にして、充放電サイクル特性の向上を優先するために、薄膜層の厚みを充放電サイクル特性の向上に有利である厚さとして200nmより厚い300nm程度以上に設定するとともに、厚すぎることによる充放電容量特性の低下を考慮して、600nm程度以下に設定することは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計的事項であると認められる。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の【0078】表3の記載によれば、上記の厚みに設定された薄膜層は、電子ビーム蒸着により形成したGeよりなる活物質層上に形成される場合には、容量維持率(充放電サイクル特性)の向上に関する作用効果が認められるものの、本願発明の全範囲において、臨界的意義のある作用効果を奏するものとも認められない。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)補足
なお、上記相違点に係る本願発明の特定事項である「300nm以上600nm以下の厚みを有する薄膜層」は、当審補正により請求項1に追加された事項であり、この特定事項の追加により、本願には、以下の(i)、(ii)に示す新たな拒絶理由が生じている。
しかしながら、本願発明が当審における拒絶理由を依然として解消していないことは、上記「4.(3)」に示すとおりであるから、新たな拒絶理由を通知することなく、審理を終結することとした。

(i)特許法第36条第6項第1号違反
発明の詳細な説明の【0076】?【0079】には、電子ビーム蒸着により形成したGeよりなる活物質層の上に、厚みが300nmや、600nmである薄膜層を形成することは記載されている。
しかし、【0034】には、活物質層を気相法により形成した場合、薄膜層は活物質層の全面に形成される場合が多い旨が記載されているから、【0076】?【0079】に記載された気相法により形成した厚みが300nm、600nmである薄膜層が、「活物質層の表面の一部に設けられ」たものかどうかは、発明の詳細な説明から窺い知ることができない。
また、発明の詳細な説明には、活物質層がSiである場合に、薄膜層の厚みを300nm以上600nm以下と特定することは、記載も示唆もされていない。
したがって、上記特定事項を有する本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

(ii)特許法第17条の2第3項違反
願書に最初に添付した明細書又は図面には、活物質層がGeの場合に「300nm以上600nm以下の厚みを有する薄膜層」については記載されているが、活物質層がGe、Siのいずれの場合であっても、「活物質層の表面の一部に設けられ、・・・300nm以上600nm以下の厚みを有する薄膜層」については、記載されていないし、すべての記載を総合しても、上記のような薄膜層の技術的事項を当業者によって導くことはできないと認められる。
したがって、当審補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

5.むすび
以上のとおり、当審における拒絶理由は妥当なものと認められるので、本願は、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-01 
結審通知日 2008-07-02 
審決日 2008-07-15 
出願番号 特願2003-101189(P2003-101189)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植前 充司  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 近野 光知
山本 一正
発明の名称 電極  
代理人 藤島 洋一郎  

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