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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D |
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管理番号 | 1183856 |
審判番号 | 不服2007-2011 |
総通号数 | 106 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-10-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-01-18 |
確定日 | 2008-09-04 |
事件の表示 | 特願2005-136365「モータサイクル用クラッチ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月16日出願公開、特開2006-312993〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
【一】手続の経緯 本願は、平成17年5月9日の出願であって、平成18年11月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年1月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年2月5日付けで特許法第17条の2第1項第4号に該当する特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。 【二】平成19年2月5日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成19年2月5日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「 【請求項1】 入力側部材からの動力を出力側部材に伝達するとともに、レリーズ機構の作動により動力伝達を遮断するモータサイクル用クラッチ装置であって、 前記入力側部材及び出力側部材の一方に連結されたクラッチハウジングと、 前記クラッチハウジングの内周部に設けられ、前記入力側部材及び出力側部材の他方に連結されるとともに、外周部にスプラインが形成された回転体と、 前記クラッチハウジングと前記回転体との間で動力の伝達及び遮断を行うための1枚以上のプレート部材を有するクラッチ部と、 内周部に前記回転体外周部のスプラインに噛み合うスプライン孔を有し、前記クラッチ部のプレート部材を押圧するためのプレッシャプレートと、 前記プレッシャプレートを押圧する押圧部と、前記レリーズ機構の作動力を所定のレバー比で増幅して前記押圧部による押圧力を解除するためのレバー部とを有する押圧部材と、 前記押圧部材を径方向に支持するとともに径方向の位置決めを行う押圧部材支持部と、 を備え、 前記押圧部材支持部は、前記プレッシャプレートの外周部に前記プレッシャプレートと一体に形成され、前記押圧部材が配置された側に軸方向に突出する軸方向突出部であり、 前記押圧部材は前記軸方向突出部の内周側に支持されて径方向の位置決めがなされている、 モータサイクル用クラッチ装置。」 と補正された。(なお、下線は請求人が附したものであり、補正箇所を示すものである。) 上記補正は、請求項1に係る発明を特定するための事項である「押圧部材支持部」について、「前記プレッシャプレートと一体に形成され」と限定するものと認められる。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号による改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められる。 そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物「実願昭51-136707号(実開昭53-55051号)のマイクロフィルム」(以下「刊行物1」という。)及び「特開2003-278793号公報」(以下「刊行物2」という。)には、それぞれ、次の事項が記載されていると認める。 (1)刊行物1 〔あ〕「本考案はオートバイ等に使用される湿式多板クラッチで、プレツシヤープレートをダイヤフラムスプリングにより付勢する湿式多板クラツチの改良に関するものである。」(明細書2頁6?9行参照) 〔い〕「第1,2図に於て、1は駆動ギヤ、2は被駆動軸、3は駆動ギヤ1にリベツト連結されたクラツチドラム、4は被駆動軸2にスプライン連結されたクラツチセンタである。クラツチセンタ4のスリーブ部4aの外周とクラツチドラム3の内周との間には、外周の突起5aをクラツチドラム3の軸方向スロツト3aに摺動可能に係合した多数のデイスクプレート5と、このデイスクプレート間に介在し内周の内スプライン6aをスリーブ部4aの外周の外スプライン4bに摺動可能に係合する多数のクラツチプレート6と、このクラツチプレート6とデイスクプレート5と圧接するためのプレツシヤープレート7が配置されている。このプレツシヤープレート7はその内周の内スプライン7aをスリーブ部4aの外スプライン4bに摺動可能に係合している。プレツシヤープレート7を第1図で左方へ付勢するダイヤフラムスプリング8は外周側スプリング部8aと内周側レバー部8bとを有している。スリーブ部4bの先端部にボルト9及びナツト10により固定される一対の環状ピボツト部材11,12はダイヤフラムスプリング8のスプリング部8aとレバー部8bの境界部分を挾持する。被駆動輪2により摺動可能に支持されたピストン13にはベアリング14 が取付けられている。またピストン13にはロツド15が連結しており、このロツド15により図示しないクラツチ解放レバーに連結される。」(明細書3頁7行?4頁14行参照) 〔う〕「尚、ピボツト部材11,12は環状に配列された突条11a,12aでダイヤフラムスプリング8と接触し、プレツシヤープレート7も環状の突条7bでダイヤフラムスプリング8と接触する。」(明細書4頁15?18行参照) 〔え〕「而して、通常はダイヤフラムスプリング8の力によりプレツシヤープレート7がデイスクプレート5とクラツチプレート6を圧接し、これによりトルク伝達作用をする。クラツチ解放レバーの操作によりロツド15がピストン13を第1図の左方へ引くとベアリング14がダイヤフラムスプリング8のレバー部8bに当接して第1図の左方へ押動するので、デイスクプレート5とクラツチプレート6の圧接が解除しトルク伝達をしなくなる。」(明細書4頁19行?5頁8行参照) 等の記載があり、併せて図面を参照すると、刊行物1には、 “駆動ギヤ1からの動力を被駆動軸2に伝達するとともに、ロツド15、ピストン13、ベアリング14等のレリーズ機構の作動により動力伝達を遮断するオートバイ用湿式多板クラッチであって、 前記駆動ギヤ1に連結されたクラツチドラム3と、 前記クラツチドラム3の内周部に設けられ、前記被駆動軸2に連結されるとともに、外周部に外スプライン4bが形成されたクラツチセンタ4と、 前記クラツチドラム3と前記クラツチセンタ4との間で動力の伝達及び遮断を行うためのデイスクプレート5及びクラツチプレート6を有するクラッチ部と、 内周部に前記クラツチセンタ4の外スプライン4bに噛み合う内スプライン7aを有し、前記クラッチ部のデイスクプレート5及びクラツチプレート6を押圧するためのプレツシヤープレート7と、 前記プレツシヤープレート7を押圧するスプリング部8aと、前記レリーズ機構の作動力を所定のレバー比で増幅して前記スプリング部8aによる押圧力を解除するためのレバー部8bとを有するダイヤフラムスプリング8と、 を備えている、 オートバイ用湿式多板クラッチ” の発明が記載されていると認められる。 (2)刊行物2 〔お〕「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、クラッチ装置に関するものであり、特に、駆動源から動力を変速機へと伝達するクラッチ装置の……構造に係わる。」(1欄36?41行参照) 〔か〕「【0024】ダイヤフラム8は中央に中央孔を有し、中心から径方向に向けて放射状にスリットが形成される。ダイヤフラム8は中心に行くに従い、軸方向に膨らんでおり、変速機側(図1に示す左側)には組み付け時に入力軸20と垂直となる平面部8dを有する。また、ダイヤフラム8は、クラッチカバー12の内周面12aにおいて、ダイヤフラム8の両側に、内周面12aに沿って環状のピボットリング13が2つ配設される。このピボットリング13によりダイヤフラム8は弾性力を利用した軸方向の変形が可能であり、図2に示す第1状態と、第1状態とは異なる第2状態を遷移する。この場合、ピボットリング13により挟まれたダイヤフラム8の位置が、ダイヤフラム変形時の支点8aとなる。」(5欄19?31行参照) 〔き〕「【0025】クラッチカバー12には、クラッチカバー12と同心且つ環状のプレッシャプレート6が配設される。プレッシャプレート6はダイヤフラム8の状態によって軸方向に移動が可能である。プレッシャプレート6は、プレッシャプレート6とフライホイール5との間に配設されるディスクプレート7に圧力を付与するものであり、ディスクプレート7をフライホイール5と共に挟み込んで、フライホイール5の回転を伝達させる。」(5欄32?39行参照) 〔く〕「【0026】この場合、プレッシャプレート6の一側面にはリテーナ17が立設しており、ダイヤフラム8の外径端部8cからの軸方向の押圧力は、リテーナ17を介してプレッシャプレート6へと伝達される。リテーナ17はクラッチカバー12の矩形形状に沿って、円周状にダイヤフラム8の外径端部8cの形状に沿って複数配設される。リテーナ17の略中間位置には、ダイヤフラム8の外径端部8cが当接する段部17aが形成される。」(5欄40?47行参照) 〔け〕「【0027】プレッシャプレート6による押圧力によって押圧されるディスクプレート7は、中央にスプラインが設けられた中央孔7aを有する。その中央孔7aに変速機の入力軸が挿通されて嵌まり、エンジンの動力が変速機に伝達される。」(5欄48行?6欄2行参照) 〔こ〕「【0036】駆動装置2のモータ21に、コネクタ29aから給電が行われていない場合、……レリーズフォーク9の押圧部9eはベアリング11の外輪11aに当接し、ダイヤフラム8の状態を図2に示す反対側に跳ね返り変形させるには至らず、ダイヤフラム8の外径端部8cが、ダイヤフラム8の組み付け初期に設定された予備圧力(……)によって、プレッシャプレート6をフライホイール側に押圧することにより、フライホイール5とディスクプレート7は一体回転し、変速機への動力伝達が可能となる。 【0037】図2に示す状態から、クラッチを非係合状態にするには、モータ21を駆動する。モータ21を駆動すると、……押圧部9eにより、ベアリング11の外輪11aの側面を押圧する。すると、ベアリング11は押圧される方向(図2に示す右方向)に移動しながら、ダイヤフラム8の内径端部8bを右方向に押圧する。この場合、ある臨界点までの力(荷重)が、内径端部8bに作用するまでは、図2に示す様に、プレッシャプレート6を押圧する押圧力が保持(第1状態)されるが、臨界点を越えると、ダイヤフラム8は支点8aを中心として内径端部8bとは反対側に外径端部8cが跳ね上がる。これによって、段部17aと外径端部17aは離間し、プレッシャプレート6によるディスクプレート7の摩擦材15への押圧力が解除される(第2状態)。よって、プレッシャプレート6に対してディスクプレート7は回転が可能となり、エンジンの回転が変速機へと伝達されない。これが、クラッチ状態の非係合状態となる。 【0038】一方、この状態から、モータ21の回転を上記とは反対方向に駆動すると、……ダイヤフラム8が反対側に跳ね返っているときの付勢力によって、ダイヤフラム8は図2に示す状態となる様、元に戻ろうとする力が働く。内径端部8bはベアリング11の外輪11aを左方向に移動させると共に、外径端部8cは支点8aを中心に内径端部8bとは反対方向に戻り、レリーズフォーク9を時計方向に揺動させる。これによって、外径端部8cはプレッシャプレート6をフライホイール側に押圧し、ダイヤフラム8の予備荷重により、ディスクプレート7を押圧する。 【0039】その結果、ディスクプレート7はフライホイール5と一体回転するものとなり、クラッチ係合状態となる。」(7欄22行?8欄28行参照) 等の記載があり、併せて図面を参照すると、刊行物2には、 “フライホイール5に対向して配置されるプレッシャプレート6と、 該プレッシャプレート6と前記フライホイール5との間に回転自在に配設され、前記プレッシャプレート6が押圧されることにより、前記プレッシャプレート6と一体回転して、エンジンの動力を変速機へと伝達するディスクプレート7と、 前記プレッシャプレート6が前記ディスクプレート7に押圧される第1状態と、前記プレッシャプレート6による前記ディスクプレート7への押圧が解除される第2状態との間を遷移するダイヤフラム8と、 を備え、 前記ダイヤフラム8は、クラッチカバー12の内周面12aに配置された環状のピボットリング13により挟まれた位置が支点8aとなって、弾性力を利用した前記第1状態と第2状態との間の軸方向の変形が可能であり、 前記プレッシャプレート6のダイヤフラム8側の面に、リテーナ17が、クラッチカバー12の矩形形状に沿って、円周状にダイヤフラム8の外径端部8cの形状に沿って立設されて複数配設されており、 前記リテーナ17の略中間位置に、ダイヤフラム8の外径端部8cが当接する段部17aが形成されて、前記第1状態でのダイヤフラム8の外径端部8cからの軸方向の押圧力が、リテーナ17を介してプレッシャプレート6へと伝達される、 クラッチ装置” の発明が記載されていると認められる。 3.対比・判断 (1)上記刊行物1に記載された発明の「オートバイ用湿式多板クラッチ」は「モータサイクル用クラッチ装置」といえるから、本願補正発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、後者の「駆動ギヤ1」は前者の「入力側部材」に相当し、以下同様に、後者の「被駆動軸2」が前者の「出力側部材」に、後者の「クラツチドラム3」が前者の「クラッチハウジング」に、後者の「外スプライン4b」が前者の「スプライン」に、後者の「クラツチセンタ4」が前者の「回転体」に、後者の「デイスクプレート5及びクラツチプレート6」が前者の「1枚以上のプレート部材」に、後者の「内スプライン7a」が前者の「スプライン孔」に、後者の「プレツシヤープレート7」が前者の「プレッシャプレート」に、後者の「スプリング部8a」が前者の「押圧部」に、後者の「レバー部8b」が前者の「レバー部」に、後者の「ダイヤフラムスプリング8」が前者の「押圧部材」に、それぞれ相当すると認められる。 したがって、両者は、 「入力側部材からの動力を出力側部材に伝達するとともに、レリーズ機構の作動により動力伝達を遮断するモータサイクル用クラッチ装置であって、 前記入力側部材及び出力側部材の一方に連結されたクラッチハウジングと、 前記クラッチハウジングの内周部に設けられ、前記入力側部材及び出力側部材の他方に連結されるとともに、外周部にスプラインが形成された回転体と、 前記クラッチハウジングと前記回転体との間で動力の伝達及び遮断を行うための1枚以上のプレート部材を有するクラッチ部と、 内周部に前記回転体外周部のスプラインに噛み合うスプライン孔を有し、前記クラッチ部のプレート部材を押圧するためのプレッシャプレートと、 前記プレッシャプレートを押圧する押圧部と、前記レリーズ機構の作動力を所定のレバー比で増幅して前記押圧部による押圧力を解除するためのレバー部とを有する押圧部材と、 を備えている、 モータサイクル用クラッチ装置」 で一致し、次の点で相違すると認められる。 [相違点] 本願補正発明は、「押圧部材を径方向に支持するとともに径方向の位置決めを行う押圧部材支持部」を備え、「前記押圧部材支持部は、前記プレッシャプレートの外周部に前記プレッシャプレートと一体に形成され、前記押圧部材が配置された側に軸方向に突出する軸方向突出部であり、前記押圧部材は前記軸方向突出部の内周側に支持されて径方向の位置決めがなされている」のに対して、上記刊行物1に記載された発明は、このようなプレッシャプレートの外周部に形成された「押圧部材支持部」を備えていない点 (2)次に、上記相違点について検討する。 上記刊行物2には、刊行物1に記載された発明と技術分野が共通する「クラッチ装置」の発明が記載されており、刊行物2に記載された「クラッチ装置」は、前述のとおり、「プレッシャプレート6がディスクプレート7に押圧される第1状態と、前記プレッシャプレート6による前記ディスクプレート7への押圧が解除される第2状態との間を遷移するダイヤフラム8」を備え、「前記ダイヤフラム8は、クラッチカバー12の内周面12aに配置された環状のピボットリング13により挟まれた位置が支点8aとなって、弾性力を利用した前記第1状態と第2状態との間の軸方向の変形が可能であり、前記プレッシャプレート6のダイヤフラム8側の面に、リテーナ17が、クラッチカバー12の矩形形状に沿って、円周状にダイヤフラム8の外径端部8cの形状に沿って立設されて複数配設されており、前記リテーナ17の略中間位置に、ダイヤフラム8の外径端部8cが当接する段部17aが形成されて、前記第1状態でのダイヤフラム8の外径端部8cからの軸方向の押圧力が、リテーナ17を介してプレッシャプレート6へと伝達される」構成を備えており、この「プレッシャプレート6」、「ダイヤフラム8」は、それぞれ、機能上、刊行物1に記載された発明の「プレツシヤープレート7」、「ダイヤフラムスプリング8」に対応すると認められる。 そして、刊行物2に記載された発明の「プレッシャプレート6のダイヤフラム8側の面に、リテーナ17が、クラッチカバー12の矩形形状に沿って、円周状にダイヤフラム8の外径端部8cの形状に沿って立設されて複数配設されており、前記リテーナ17の略中間位置に、ダイヤフラム8の外径端部8cが当接する段部17aが形成され」た構成をみると、「ダイヤフラム8」の「外径端部8c」が「リテーナ17」によって、「径方向に支持」されて「径方向の位置決めがなされ」ることが明らかと認められる。 また、クラッチ装置において、ダイヤフラムスプリングを支持する部分をプレッシャプレートの外周部にプレッシャプレートと一体に形成することは、本願出願前に周知の事項と認められる(例えば、実願昭60-142595号(実開昭62-50322号)のマイクロフィルム(第5図、第6図)、特開平8-49730号公報、等参照)。 したがって、上記刊行物1に記載されたものにおいて、「押圧部材を径方向に支持するとともに径方向の位置決めを行う押圧部材支持部」を備え、「前記押圧部材支持部は、前記プレッシャプレートの外周部に前記プレッシャプレートと一体に形成され、前記押圧部材が配置された側に軸方向に突出する軸方向突出部であり、前記押圧部材は前記軸方向突出部の内周側に支持されて径方向の位置決めがなされている」ものとすることは、上記刊行物2に記載された事項及び本願出願前に周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。 (3)請求人の主張について (3-1)審判請求書の手続補正書において、請求人は、 i)一般的なクラッチ装置(刊行物2)の構成について、 ・ダイヤフラムスプリングは、クラッチカバーの内周部で径方向の位置決めがなされる. ・このような構成については、刊行物2の段落【0024】に、「ダイヤフラム8は、クラッチカバー12の内周面12aにおいて、ダイヤフラム8の両側に、内周面12aに沿って環状のピボットリング13が2つ配設される。このピボットリング13によりダイヤフラム8は弾性力を利用した軸方向変形が可能であり、図2に示す第1状態と、第1状態とは異なる第2状態を遷移する。この場合、ピボットリング13により挟まれたダイヤフラム8の位置が、ダイヤフラム変形時の支点8aとなる。」と記載されていることからも明らかである. ii)刊行物2に記載されたものの「リテーナ17」について ・リテーナ17の役割はプレッシャプレートの作用点を決めるための部材であり、リテーナ17は環状でないから、リテーナ17に大径部分を設け、この大径部分の外周面をクラッチカバーの内周壁に当接させて作用点の位置(リテーナ17の位置)を安定させているものと推察される. ・以上のことから、リテーナ17はダイヤフラム8の外周面を支持してダイヤフラム8の径方向の位置決めをするものではない. ・このことは、刊行物2の段落【0037】に、「クラッチを非係合状態にするには、・・・ベアリング11は押圧される方向(図2に示す右方向)に移動しながら、ダイヤフラム8の内径端部8bを右方向に押圧する。この場合、ある臨界点までの力(荷重)が、内径端部8bに作用するまでは、図2に示す様に、プレッシャプレート6を押圧する押圧力が保持(第1状態)されるが、臨界点を越えると、ダイヤフラム8は支点8aを中心として内径端部8bとは反対側に外径端部8cが跳ね上がる。これによって、段部17aと外径端部17a(8cの間違い)は離間し、プレッシャプレート6によるディスクプレート7の摩擦材15への押圧力が解除される(第2状態)。」と記載されていることからも明らかである. iii)以上から明らかなように、刊行物2では、ダイヤフラム8の外周面がリテーナ17の内周壁面に当接するような記載はいっさいなく、刊行物2に、径方向位置決めについての技術が記載されているとは到底言えない. 旨主張する。 (3-2)しかしながら、 i)刊行物2の段落【0024】には、請求人が摘示するとおりの「ピボットリング13によりダイヤフラム8は弾性力を利用した軸方向変形が可能であり、図2に示す第1状態と、第1状態とは異なる第2状態を遷移する。この場合、ピボットリング13により挟まれたダイヤフラム8の位置が、ダイヤフラム変形時の支点8aとなる。」との記載は認められるが、「ピボットリング13」は、ダイヤフラム8を側面から挟むものであるから、ダイヤフラム8を径方向で位置決めする作用を得るには適さない構成と認められる。 また、刊行物2の段落【0024】に、常にダイヤフラム8の特定の箇所が変形時の支点8aとなって、その箇所で前記ピボットリング13に挟持されることを示す記載があるとは認められず、段落【0024】の記載が、「ダイヤフラムスプリングは、クラッチカバーの内周部で径方向の位置決めがなされる」とする根拠とはならない。 ii)刊行物2に記載されたものにおいては、「リテーナ17」は、プレッシャプレートの作用点を決める役割をもち、ダイヤフラム8の外径端部8cが当接する「段部17a」を備えて、該「段部17a」を介してダイヤフラム8からの押圧力をプレッシャプレート6に伝達するものであるから、ダイヤフラム8の外径端部8cとの径方向相対位置が正しく維持されることが要求されることは明らかと認められる。 そして、径方向の位置決めは、径方向に対して直角をなす部材或いは面により行うのが通常有効と認められるから、「円周状にダイヤフラム8の外径端部8cの形状に沿って立設されて複数配設されて」なる「リテーナ17」の大径部分がダイヤフラム8を「径方向に支持するとともに径方向の位置決めを」しているとするのが合理的である。 iii)したがって、刊行物2に、「リテーナ17」の大径部分がダイヤフラム8を「径方向に支持するとともに径方向の位置決めを」しているとの明示の記載は存在しないものの、刊行物2に記載された事項から「リテーナ17」の大径部分がダイヤフラム8を「径方向に支持するとともに径方向の位置決めを」していることは明白である。 (4)このように、本願補正発明は、その発明を特定する事項が上記刊行物1、2にそれぞれ記載された事項及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、作用効果も上記刊行物1、2に記載された事項及び本願出願前周知の事項から予測し得る程度のもので格別顕著なものではないので、本願補正発明は、上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 【三】本願発明について 1.本願発明 平成19年2月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成18年8月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲及び明細書、並びに図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「 【請求項1】 入力側部材からの動力を出力側部材に伝達するとともに、レリーズ機構の作動により動力伝達を遮断するモータサイクル用クラッチ装置であって、 前記入力側部材及び出力側部材の一方に連結されたクラッチハウジングと、 前記クラッチハウジングの内周部に設けられ、前記入力側部材及び出力側部材の他方に連結されるとともに、外周部にスプラインが形成された回転体と、 前記クラッチハウジングと前記回転体との間で動力の伝達及び遮断を行うための1枚以上のプレート部材を有するクラッチ部と、 内周部に前記回転体外周部のスプラインに噛み合うスプライン孔を有し、前記クラッチ部のプレート部材を押圧するためのプレッシャプレートと、 前記プレッシャプレートを押圧する押圧部と、前記レリーズ機構の作動力を所定のレバー比で増幅して前記押圧部による押圧力を解除するためのレバー部とを有する押圧部材と、 前記押圧部材を径方向に支持するとともに径方向の位置決めを行う押圧部材支持部と、 を備え、 前記押圧部材支持部は、前記プレッシャプレートの外周部において前記押圧部材が配置された側に軸方向に突出する軸方向突出部であり、 前記押圧部材は前記軸方向突出部の内周側に支持されて径方向の位置決めがなされている、 モータサイクル用クラッチ装置。」 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物「実願昭51-136707号(実開昭53-55051号)のマイクロフィルム」(以下同様に「刊行物1」という。)及び「特開2003-278793号公報」(以下同様に「刊行物2」という。)には、前記「【二】平成19年2月5日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2.引用例」に記載したとおりの事項が記載されているものと認める。 3.対比・判断 本願発明は、前記「【二】平成19年2月5日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.対比・判断」で検討した本願補正発明から、「押圧部材支持部」についての「前記プレッシャプレートと一体に形成され」との特定事項を削除したものに相当する。 そうすると、本願発明を特定する事項のすべてを含み、さらに他の発明を特定する事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「【二】平成19年2月5日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.対比・判断」に記載したとおり、上記刊行物1、2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、上記刊行物1、2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、上記刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の請求項2?4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-07-03 |
結審通知日 | 2008-07-08 |
審決日 | 2008-07-24 |
出願番号 | 特願2005-136365(P2005-136365) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F16D)
P 1 8・ 121- Z (F16D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 北村 亮 |
特許庁審判長 |
亀丸 広司 |
特許庁審判官 |
溝渕 良一 礒部 賢 |
発明の名称 | モータサイクル用クラッチ装置 |
代理人 | 小野 由己男 |