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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F15B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F15B
管理番号 1183870
審判番号 不服2007-33735  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-13 
確定日 2008-09-04 
事件の表示 特願2006-276822「リニアアクチュエータ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月22日出願公開、特開2007- 46789〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、平成6年9月30日に出願した特願平6-237434号の一部を平成15年8月18日に新たな特許出願(特願2003-294658号)とし、その一部を平成17年12月2日に新たな特許出願(特願2005-349996号)とし、さらに、その一部を平成18年10月10日に新たな特許出願としたものであって、平成19年8月27日に特許請求の範囲及び明細書についての補正がされたものの、同年11月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月13日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、平成20年1月10日に特許請求の範囲及び明細書についての補正がされたものである。

2.平成20年1月10日付けの手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
本件補正により、特許請求の範囲における請求項1は、
「シリンダチューブに画成された一組の流体出入ポートから交互に圧力流体を導入することにより、スライドテーブルを往復動作させるリニアアクチュエータであって、
軸線方向に沿って貫通する貫通孔を有し、前記貫通孔の両端部を閉塞部材で閉塞し、且つ側面部を切り欠いて開口部が画成された直方体状のシリンダチューブと、
前記貫通孔に沿って変位自在に設けられ、ピストンロッドを介して互いに連結された一対のピストンと、
前記シリンダチューブの軸線方向に沿って略水平方向に並設され、該シリンダチューブと一体的に連結されるレール部材と、
上面が前記シリンダチューブの上面と略面一に形成され、前記レール部材の軸線方向に沿って往復動作する縦断面略コ字状のスライドテーブルと、
前記貫通孔内に配設される一対のピストンによって画成され、前記一組の流体出入ポートにそれぞれ連通する一組のシリンダ室と、
前記スライドテーブルの側面部に設けられ、前記レール部材側に向かって開口した前記開口部を通じて前記ピストンロッドに面接触した非接着状態で挟持されることにより前記スライドテーブルと前記ピストンロッドとを連結するとともに、前記ピストンの押圧作用下に前記開口部を介して前記ピストンとともに変位するジョイント部材と、
前記レール部材と前記スライドテーブルとの摺動部位に設けられる複数のボールベアリングと、
前記シリンダチューブとレール部材との間に設けられ、前記スライドテーブルの変位量を調整自在な調整用ねじと、
を備え、
前記シリンダチューブ及び前記レール部材が略水平方向に並設された際、前記スライドテーブルの高さ寸法が、前記シリンダチューブの高さ寸法に対して小さく設定されることを特徴とするリニアアクチュエータ。」
と補正された。

本件補正に関し、平成20年3月6日付け手続補正書(方式)2ページに、以下の説明がなされている。
「2.補正の根拠の明示
特許請求の範囲の請求項1に追加した「貫通孔に沿って変位自在に設けられ、ピストンロッドを介して互いに連結された一対のピストン」という補正は、出願当初の明細書の段落[0020]の「貫通孔44には、該貫通孔44の軸線方向に沿って矢印X又はY方向に摺動変位する一対のピストン52a、52bと、前記ピストン52a、52bに連結された一対のピストンロッド54a、54bとが前記突出部38に対して線対称に設けられている(図2参照)。」という記載をその根拠とし、・・・、何ら新規事項を追加するものではない。」

しかしながら、前記されている明細書の段落【0020】の記載によると、ピストンとピストンロッドとが連結されることは記載されているものの、一対のピストンが互いに連結されることは記載されていないし、その示唆もされていない。また、図2をみても、ピストン52aとピストン52bとが互いに連結されたものでなく、それぞれ、別個のものであることが明らかである。
また、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)を総合してみても、「ピストンロッドを介して互いに連結された一対のピストン」という事項は、記載されていないし、自明でもない。
そのうえ、本件についての応対記録にあるとおり、平成20年6月24日付けで本件の代理人(千葉剛宏弁理士)から受領したファクシミリの2ページ目に「一対のピストンが、ピストンロッドを介して突出部(38)に面接触して連接されているものであり、互いに連結される構成とはなっていません。」と記載されているように、「ピストンロッドを介して互いに連結された一対のピストン」という事項が当初明細書等に記載されたものでないことは、請求人も認めている。

そうすると、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものでない。

以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第3項の規定に違反するものであり、平成18年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下を免れない。

3.本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本件補正前の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成19年8月27日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「シリンダチューブに画成された一組の流体出入ポートから交互に圧力流体を導入することにより、スライドテーブルを往復動作させるリニアアクチュエータであって、
軸線方向に沿って貫通する貫通孔を有し、前記貫通孔の両端部を閉塞部材で閉塞し、且つ側面部を切り欠いて開口部が画成された直方体状のシリンダチューブと、
前記シリンダチューブの軸線方向に沿って略水平方向に並設され、該シリンダチューブと一体的に連結されるレール部材と、
上面が前記シリンダチューブの上面と略面一に形成され、前記レール部材の軸線方向に沿って往復動作する縦断面略コ字状のスライドテーブルと、
前記貫通孔内に一組のピストンをそれぞれ配設することによって画成され、前記一組の流体出入ポートにそれぞれ連通する一組のシリンダ室と、
前記スライドテーブルの側面部に設けられ、前記開口部を通じて前記ピストンに面接触した非接着状態で挟持されるとともに、前記ピストンの押圧作用下に前記開口部を介して前記ピストンの押圧力によって変位するジョイント部材と、
前記レール部材と前記スライドテーブルとの摺動部位に設けられる複数のボールベアリングと、
を備え、
前記シリンダチューブ及び前記レール部材が略水平方向に並設された際、前記スライドテーブルの高さ寸法が、前記シリンダチューブの高さ寸法に対して小さく設定されることを特徴とするリニアアクチュエータ。」

(2)引用例
(2-1)原査定の拒絶の理由に引用された実願平4-33883号(実開平5-42716号)のCD-ROM(以下「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、生産設備等の各種の産業設備に用いられる流体圧シリンダの改良に関する。本考案の流体圧シリンダはその構成要素であるテーブルに工作機械等を載置して該工作機械等を直線的に往復動させる。」

・「【0010】
図1ないし図4に示すように、箱形のシリンダ本体1の内部に一対のシリンダ室2,3が水平にかつ直列に並べて設けられ、この一対のシリンダ室2,3の間にシリンダ本体1の上面および下面に開口し、開口の長手方向を一対のシリンダ室2,3が並べられた方向と同一の方向に向けた長孔4が設けられている。一対のシリンダ室2,3と長孔4は互いに連通している。一対のシリンダ室2,3に一対のピストン5,6が往復動自在に挿入され、この一対のピストン5,6の間に中心線を垂直な方向に向けたロッド7が一対のピストン5,6に対して非接着のまま挟持されている。8は長エンドカバー、9は短エンドカバー、10と11はCリング、12と13はパッキン、14と15は圧力室である。シリンダ本体1の側壁に一対の圧力室14,15に連通する一対の圧力供給ポート16,17が設けられている。
シリンダ本体1の上方にロッド7の上端に接続されて該ロッド7に従動するテーブル18が配置されている。テーブル18の下面にその全長(図3の左右方向)に亙ってシリンダ本体1に突設した突部1aと嵌合する凹部18aが形成されており、凹部18aの側壁に当該テーブル18に組み込まれた無限軌道式の循環ボールベアリング19,20の係合列が露出し、突部1aの側壁に循環ボールベアリング19,20の係合列を転動自在に係合する軌道溝21,22が形成されている。無限軌道式の循環ボールベアリング19,20と軌道溝21,22は図4の方向からみて左右に一対ずつ設けられている。
【0011】
上記構成を有する流体圧シリンダは、テーブル18に図示しない工作機械等を載置して該工作機械等を直線的に往復動させるものであって、次のように作動する。
図3において左側の一方の圧力室14に空気圧等の流体圧を供給して右側の他方の圧力室15から流体圧を排出すると、一対のピストン5,6、該ピストン5,6に挟持されたロッド7および該ロッド7に接続されたテーブル18の四部品が同時に右方向へ移動し、他方の圧力室15に流体圧を供給して一方の圧力室14から流体圧を排出すると四部品が同時に左方向へ移動する。移動は循環ボールベアリング19,20のボールが軌道溝21,22を転動することにより円滑に案内され、移動の停止は両方向ともロッド7が長孔4の内壁に当接することによる。」

・図2及び図4には、シリンダ本体1の直方体状の部分に圧力供給ポート16,17が画成されることが示されている。

・図3及び図4には、シリンダ本体1の直方体状の部分の軸線方向に沿って貫通するシリンダ室2,3が示されている。

・図1ないし図4には、シリンダ室2の端部を長エンドカバー8で閉塞し、シリンダ室3の端部を短エンドカバー9で閉塞し、また、シリンダ本体1の直方体状の部分の上面部に長孔4が画成されることが示されている。加えて、突部1aが、シリンダ本体1の直方体状の部分の軸線方向に沿って略垂直方向に設けられ、かつ、該シリンダ本体1の直方体状の部分に突設したものであることが示されている。そのほか、テーブル18が突部1aの軸線方向に沿って往復動作する縦断面略コ字状のものであること、及び、一対の圧力室14,15がシリンダ室2,3内に一対のピストン5,6をそれぞれ配設することによって画成されるものであること、が示されているといえる。

・図3には、ロッド7が、テーブル18の下面部に設けられ、長孔4を通じてピストン5,6と接触しており、かつ、ピストン5,6の押圧作用下に長孔4を介してピストン5,6の押圧力によって変位することが示されているといえる。

・図1及び図4には、複数の循環ボールベアリング19,20が、突部1aとテーブル18との摺動部位に設けられることが示されている。

・図11には、シリンダ本体aの側面にテーブルcが配置され、かつ、テーブルcの上面がシリンダ本体aの上面と略面一に形成されている流体圧シリンダが示されている。

これらの記載事項及び図示内容によれば、引用例1には、
「シリンダ本体の直方体状の部分に画成された一対の圧力供給ポートから左側の圧力室に流体圧を供給し右側の圧力室から流体圧を排出することにより、テーブルを右方向へ移動させ、又は、右側の圧力室に流体圧を供給し左側の圧力室から流体圧を排出することにより、テーブルを左方向へ移動させる流体圧シリンダであって、
軸線方向に沿って貫通するシリンダ室を有し、前記シリンダ室の一方の端部を長エンドカバーで閉塞し、他方の端部を短エンドカバーで閉塞し、且つ上面部に長孔が画成されたシリンダ本体の直方体状の部分と、
前記シリンダ本体の直方体状の部分の軸線方向に沿って略垂直方向に設けられ、該シリンダ本体の直方体状の部分に突設した突部と、
前記突部の軸線方向に沿って往復動作する縦断面略コ字状のテーブルと、
前記シリンダ室内に一対のピストンをそれぞれ配設することによって画成され、前記一対の圧力供給ポートにそれぞれ連通する一対の圧力室と、
前記テーブルの下面部に設けられ、前記長孔を通じて前記ピストンに接触した非接着状態で挟持されるとともに、前記ピストンの押圧作用下に前記長孔を介して前記ピストンの押圧力によって変位するロッドと、
前記突部と前記テーブルとの摺動部位に設けられる複数の循環ボールベアリングと、
を備える流体圧シリンダ。」
という事項を含む発明(以下「引用発明1」という。)が開示されていると認定することができる。

(2-2)同じく引用された特開平6-10914号公報(以下「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、流体圧アクチュエータの一種であるロッドレスシリンダに関する。」

・「【0009】図1に示すように、非磁性体製のシリンダチューブ1の両端にそれぞれエンドカバー2,3が気密的に取り付けられ、エンドカバー2,3にそれぞれ圧力供給ポート4,5が設けられ、シリンダチューブ1の内部に圧力供給ポート4,5から供給される圧縮空気等の流体圧によって軸方向に移動する非磁性体製のピストン6が配置されている。」

・「【0010】上記構成のロッドレスシリンダは従来技術における従動側の磁石列eに代えて従動部18に磁性体製のヨーク19を設けたものであって、このヨーク19を駆動側の永久磁石13によって牽引して従動部18をピストン6に従動させる。」

・「【0011】図3の実施例においては、従動部18が各種の工作機械等のワークを搭載するテーブル形に形成され、また従動部18にヨーク19が一体成形されている。」

・「【0012】図3の実施例において、シリンダチューブ1、エンドカバー2,3およびピストン6は図1の実施例と同じ構成である。また図3の実施例は次の構成を有している。すなわち、ベース24の両端にその一部として一対のエンドプレート25,26が立設され、この一対のエンドプレート25,26の間にシリンダチューブ1がエンドカバー2,3をもって架設されている。ベース24上にシリンダチューブ1と平行にガイドレール27が設けられ、従動部18にガイドレール27に沿って転動する無限軌道形のボールベアリング28が取り付けられ、ピストン6に従動する従動部18がガイドレール27に沿って走行するようになっている。」

・図3及び図4には、ガイドレール27がシリンダチューブ1の軸方向に沿って略水平方向に並設されること、及び、テーブル形の従動部18の側面部にヨーク19が設けられることが示されている。

これらの記載事項及び図示内容によれば、引用例2には、
「テーブル形の従動部を軸方向に移動させる流体圧アクチュエータであって、
シリンダチューブと、
前記シリンダチューブの軸方向に沿って略水平方向に並設されるガイドレールと、
前記ガイドレールに沿って走行するテーブル形の従動部と、
前記テーブル形の従動部の側面部に設けられ、ピストンに従動して牽引されるヨークと、
を備える流体圧アクチュエータ。」
という事項を含む発明(以下「引用発明2」という。)が開示されていると認定することができる。

(2-3)同じく引用された特開昭59-137608号公報(以下「引用例3」という。)には、「圧力媒体シリンダ」と題し、図面と共に、以下の事項が記載されている。

・「力伝達部材6はウェブ状部分7に続いて、二又状部分(フォーク状部分)20を有する。」(4ページ左下欄8ないし9行)

・「ピストン5は、力伝達部材6の二又状部分20の両側(両端側)に対称に配設された2個のピストン部材22を有する。ピストン部材22は、プラスチック材製である。各ピストン部材22の円柱部分23の端面側の溝に、前述のパッキンリング15が挿着され、他方、円柱部分23に続く円錐台形部分24は肩部25で終わる。各ピストン部材22はこの肩部25で、力伝達部材6の二又状部分20に軸方向に保持されている。」(4ページ左下欄16行ないし右下欄5行)

・図1には、ピストン部材22の肩部25が力伝達部材の二又状部分20に面接触することが示されている。

これらの記載事項及び図示内容によれば、引用例3には、
「圧力媒体シリンダであって、
ピストンに面接触した力伝達部材を備える圧力媒体シリンダ。」
という事項を含む発明(以下「引用発明3」という。)が開示されていると認定することができる。

(3)対比
そこで、本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「シリンダ本体の直方体状の部分」が本願発明の「シリンダチューブ」に相当し、引用発明1の「一対の圧力供給ポート」が本願発明の「一組の流体出入ポート」に相当する。
次に、引用発明1の「テーブル」が本願発明の「スライドテーブル」に相当し、また、引用発明1の「流体圧を供給」する態様は、圧力のかけられた流体を供給(導入)しているといえるので、本願発明の「圧力流体を導入」する態様に実質的に相当することを踏まえると、引用発明1の「左側の圧力室に流体圧を供給し右側の圧力室から流体圧を排出することにより、テーブルを右方向へ移動させ、又は、右側の圧力室に流体圧を供給し左側の圧力室から流体圧を排出することにより、テーブルを左方向へ移動させる」態様は、本願発明の「交互に圧力流体を導入することにより、スライドテーブルを往復動作させる」態様に相当するといえる。
続いて、引用発明1の「流体圧シリンダ」は、テーブルを往復動作させる、すなわち、テーブルをリニア(直線的)に動作させるものであるから、本願発明の「リニアアクチュエータ」に相当する。
さらに、引用発明1の「シリンダ室」が本願発明の「貫通孔」に相当するので、引用発明1の「シリンダ室の一方の端部を長エンドカバーで閉塞し、他方の端部を短エンドカバーで閉塞し」という態様は、本願発明の「貫通孔の両端部を閉塞部材で閉塞し」という態様に相当する。
そして、引用発明1の「上面部に長孔が画成された」態様と、本願発明の「側面部を切り欠いて開口部が画成された」態様とは、「所定方向の面部に開口部が画成された」という概念で共通する。
また、引用発明1の「シリンダ本体の直方体状の部分」は、前述したとおり本願発明の「シリンダチューブ」に相当するものであるところ、その形状を付加して、本願発明の「直方体状のシリンダチューブ」に相当するということもできるものである。
続いて、引用発明1の「略垂直方向に設けられ」という態様と本願発明の「略水平方向に並設され」という態様とは、「所定の方向に設けられ」という概念で共通する。
さらに、引用発明1の「突部」は機能的にみて本願発明の「レール部材」に相当し、また、引用発明1の「突部」が「シリンダ本体の直方体状の部分」に突設されたものであるならば、「シリンダ本体の直方体状の部分」と「突部」とが一体的に連結されているといえるので、引用発明1の「シリンダ本体の直方体状の部分に突設した突部」は、本願発明の「シリンダチューブと一体的に連結されるレール部材」に相当する。
次に、引用発明1の「一対」が本願発明の「一組」に相当し、引用発明1の「一対の圧力室」が本願発明の「一組のシリンダ室」に相当する。
さらに、引用発明1の「テーブルの下面部」と、本願発明の「スライドテーブルの側面部」とは、「スライドテーブルの特定方向の面部」という概念で共通する。
また、引用発明1の「ピストンに接触した」態様と、本願発明の「ピストンに面接触した」態様とは、「ピストンに接触した」という概念で共通する。
そして、引用発明1の「ロッド」は、その機能からみて、本願発明の「ジョイント部材」に相当する。
最後に、引用発明1の「循環ボールベアリング」が本願発明の「ボールベアリング」に相当する。

そうすると、両者は、
「シリンダチューブに画成された一組の流体出入ポートから交互に圧力流体を導入することにより、スライドテーブルを往復動作させるリニアアクチュエータであって、
軸線方向に沿って貫通する貫通孔を有し、前記貫通孔の両端部を閉塞部材で閉塞し、且つ所定方向の面部に開口部が画成された直方体状のシリンダチューブと、
前記シリンダチューブの軸線方向に沿って所定の方向に設けられ、該シリンダチューブと一体的に連結されるレール部材と、
前記レール部材の軸線方向に沿って往復動作する縦断面略コ字状のスライドテーブルと、
前記貫通孔内に一組のピストンをそれぞれ配設することによって画成され、前記一組の流体出入ポートにそれぞれ連通する一組のシリンダ室と、
前記スライドテーブルの特定方向の面部に設けられ、前記開口部を通じて前記ピストンに接触した非接着状態で挟持されるとともに、前記ピストンの押圧作用下に前記開口部を介して前記ピストンの押圧力によって変位するジョイント部材と、
前記レール部材と前記スライドテーブルとの摺動部位に設けられる複数のボールベアリングと、
を備えるリニアアクチュエータ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

・相違点1
開口部が画成されたシリンダーチューブの所定方向の面部が、本願発明では「側面部」であり、かつ、この側面部を「切り欠いて」開口部を画成すると特定されるのに対し、引用発明1では「上面部」であり、かつ、この上面部をどのように加工して画成するかが特定されていない点。

・相違点2
レール部材がシリンダーチューブの軸線方向に沿って設けられる所定の方向が、本願発明では「略水平方向」であり、それゆえ、レール部材をシリンダーチューブに設けるにあたり、「並設され」るとの表現で特定がされているのに対し、引用発明1では「略垂直方向」であり、かかる特定もされていない点。

・相違点3
スライドテーブルに関し、本願発明では「上面がシリンダチューブの上面と略面一に形成され」るとの特定がされているのに対し、引用発明1ではかかる特定がされていない点。

・相違点4
ジョイント部材が設けられるスライドテーブルの特定方向の面部が、本願発明では「側面部」であるのに対し、引用発明1では「下面部」である点。

・相違点5
ジョイント部材に対するピストンの接触が、本願発明では「面接触」であるとの特定がされているのに対し、引用発明1ではかかる特定がされていない点。

・相違点6
スライドテーブル及びシリンダーチューブのそれぞれの高さ寸法に関し、本願発明では「シリンダチューブ及びレール部材が略水平方向に並設された際、スライドテーブルの高さ寸法が、前記シリンダチューブの高さ寸法に対して小さく設定され」るとの特定がされているのに対し、引用発明1ではかかる特定がされていない点。

(4)相違点についての判断
・相違点1ないし4について
リニアアクチュエータにおける、シリンダーチューブに対するスライドテーブルの配置については、引用発明1のようにシリンダーチューブの上面にスライドテーブルを配置したもののほか、引用発明2のようにシリンダーチューブの側面にスライドテーブル(「テーブル形の従動部」が相当)を配置したものが本願出願前に知られている。また、かかる配置については、リニアアクチュエータの設置環境(例えば、高さ方向に制限がある環境とか、平面的にみて省スペースの要請がある環境)等に応じて、適宜設計されるものと認められる。
そうすると、引用発明1に、引用発明2の開示内容といえるシリンダーチューブの側面にスライドテーブルを配置することを適用することは、当業者にとって容易である。
その適用の際に、シリンダーチューブの側面部に開口部を「切り欠いて」画成することは、開口部を切り欠いて設けることが加工手法の一つであって特段のものではないことから、当業者にとって格別の困難を伴うことなく実施できたことである。
また、シリンダーチューブの側面にスライドテーブルを配置した場合、スライドテーブルの上面とシリンダチューブの上面とをどのような関係にするかは、スライドテーブルに載せて移動させる対象物品の大きさ等に応じて適宜設計されるものであり、かつ、上記「(2-1)」で摘記したとおり、引用例1には、スライドテーブル(「テーブルc」が相当)の上面がシリンダーチューブ(「シリンダ本体a」が相当)の上面と略面一に形成されているものが従来の技術として示されていることからみても、スライドテーブルの上面とシリンダチューブの上面とを略同一にすることは当業者が適宜設計し得る程度のことである。
したがって、引用発明1に、引用発明2を適用することで、前記相違点1ないし4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

・相違点5について
引用発明3は、部材に対するピストンの接触が「面接触」であるものを開示している。
ここで、引用発明1におけるジョイント部材(「ロッド」)とピストンとの接触を、どのような接触にするかは、その使用条件等に応じて接触部の形状や材質等を含め適宜設定される程度のものと認められる。
そうすると、引用発明1におけるジョイント部材とピストンとの接触を、引用発明3のような面接触とすることは、当業者が通常の創作活動の一環として適宜なし得るところである。その際に、面接触を可能とする形状のジョイント部材及びピストンを採用することになるのは当然のことである。
したがって、引用発明1に、引用発明3を適用することで、前記相違点5に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

・相違点6について
相違点6に係る本願発明の構成については、本願の図3に示されるのみであり、また、この構成の技術的意義については、明細書及び図面を通じて該当する記載がない。そのうえ、かかる構成が格別の技術的意義を有するものであることが自明であるともいえない。
そうすると、かかる構成については、単に、スライドテーブル及びシリンダーチューブのそれぞれの高さ寸法を適宜設定したに過ぎず、設計的事項というほかない。
したがって、引用発明1に、引用発明2を適用することで、前記相違点6に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。

そして、本願発明の全体構成から奏される効果も、引用発明1、引用発明2及び引用発明3から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願発明は、引用発明1、引用発明2及び引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本願発明については、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、特許法49条2号の規定に該当し拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-07 
結審通知日 2008-07-08 
審決日 2008-07-22 
出願番号 特願2006-276822(P2006-276822)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (F15B)
P 1 8・ 121- Z (F15B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 細川 健人  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 本庄 亮太郎
田良島 潔
発明の名称 リニアアクチュエータ  
代理人 田久保 泰夫  
代理人 大内 秀治  
代理人 鹿島 直樹  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 宮寺 利幸  

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