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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61J
管理番号 1184184
審判番号 不服2006-7227  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-14 
確定日 2008-09-12 
事件の表示 平成 9年特許願第181087号「プラスチック製2穴式両頭針」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 1月26日出願公開、特開平11- 19186号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
I.手続の経緯
本願は、平成9年7月7日に出願したものであって、平成18年3月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年5月11日付けで手続補正がなされたものであり、さらに、当審にて、平成20年4月15日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年6月13日付けで手続補正がなされたものである。

II.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成20年6月13日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)
「横断面形状が長円形で且つ長径と短径との比が≦1.17の針本体を具備し、
該針本体の上下の針先部は略々円錐型であり、
針本体には通液用と通気用の略々同一横断開口面積の2穴が針本体の短径を含む鉛直面を境にその両側に平行に配され、
該2穴の出入り口は針本体の上下の円錐型針先部にそれぞれ開口し且つ上記鉛直面の両側に位置し、
更に上記2穴の横断面形状は長円形で且つ長径と短径との比が≦1.49であり、しかも長径が針本体の短径に平行し、
2穴のトータルの横断開口面積占有率が針本体の横断面積の50.1%以上であることを特徴とするプラスチック製2穴式両頭針。」

III.引用例の記載事項
当審の拒絶の理由に引用された、実願平4-79955号(実開平6-41734号)のCD-ROM(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

a.「通気用と通液用の2穴が平行に配されたニードル本体を具備するトランスファーニードルに於て、ニードル本体の上端側では、一方の穴の口径は他方の穴の口径よりも大であり、下端側では、一方の穴の口径と他方の穴の口径との間には上端側とは大小逆になるように口径差が設けられており、之等の穴は、ニードル本体の使用向きの上下選択により、通気用及び通液用として転換可能であり、さらにニードル本体の上下の針先部は、上下の各組に於て、同じ高さに形成された左右一対の斜めカット部を有し、斜めカット部のそれぞれに開口された一方及び他方の穴の出入口部の基端部は、容器口部のゴム栓への刺通状態に於て、該ゴム栓の容器内側の面と略々面一となるように構成されていることを特徴とする2穴式トランスファーニードル。」(【実用新案登録請求の範囲】の【請求項1】)

b.「本考案による2穴式トランスファーニードルは、従来品と同様に通気用と通液用の2つの穴2,3が平行に配されたニードル本体1を具備し、該本体1は円板状のホルダー4の中心部に貫通保持され、該ホルダー4を境に上部1aと下部1bとに分割されている。」(明細書段落【0010】)

c.「本考案によれば、上記構成の2穴式トランスファーニードルに於て、ニードル本体1の上下針先部8,9の左右一対、上下2組の斜めカット部10a,10b,11a,11bひいては之等カット部に開口される一方及び他方の穴2,3のそれぞれの出入口を、上下の各組に於て、略々同じ高さとし、之等の間に段差を設けない構成としている。…」(明細書段落【0012】)

d.「…また上記穴2,3は境界部14のないテーパ状であってもよい。」(明細書段落【0014】)

e.「ニードル本体1の材質としては各種金属やポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、ポリプロピレンなどの合成樹脂が適当であるが、ポリプロピレンは濡れ係数が小さく、通液がスムースとなるので、特に好適である。」(明細書段落【0015】)

f.「本考案に於て、一方及び他方の穴2,3の出入口の口径の差は、これがあまり小さいとエアーロック解消への効果がなくなり、またあまり大きすぎても、通気,通液性に悪影響を与える虞れがあると共に成形しにくいので、面積比で1対0.5?0.8程度が適当である。また穴2,3の断面形状は、あまり扁平にあると、通気,通液時の抵抗が大きくなるので、図2に示すように、長径と短径の寸法差は、あまり大きくない方が好ましい。……」(明細書段落【0027】)

g.図1、図3、図4には、ニードル本体1の上下の針先部は略々円錐型である点、図2には、穴2,3の断面形状が扁平な長円形で、横断面形状が円形のニードル本体1の直径を含む鉛直面を境にその両側にそれらの穴2,3が平行に配された点が図示されている。

上記e.に記載より、ニードル本体はプラスチック製といえるから、上記記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「横断面形状が円形のニードル本体1を具備し、該ニードル本体の上下の針先部は略々円錐型であり、ニードル本体には通液用と通気用の2穴2、3がニードル本体の直径を含む鉛直面を境にその両側に平行に配され、該2穴の出入り口は針本体の上下の円錐型針先部にそれぞれ開口し且つ上記鉛直面の両側に位置し、更に上記2穴の横断面形状は長円形であり、しかも長径が針本体の直径に平行したプラスチック製2穴式トランスファーニードル。」

また、原査定の拒絶の理由に引用された、実願昭52-62003号(実開昭53-156399号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

h.「針本体4内に薬液流下路7と気体上昇路8とを縦走状に貫通させ、針本体4の両端面9,10を傾斜状に形成して、その各傾斜先端部9a,10aから突刺し先導用の尖鋭突起11,12を突設してなるバイアル薬液混合針」(【実用新案登録請求の範囲】)

i.「C.第7図に示すように、前記針本体4を、細径丸棒状に、また断面各円形の薬液流下路7と気体上昇路8とを、縦走状に貫通させた構造にする。……E.細径管5を断面だ円形にする。」(明細書第4頁第16行?第5頁第2行)

j.第7図には、2穴を有する両頭針の細径管を2穴の並んだ方向に膨らんだ断面だ円形にする点が図示されている。

上記記載事項及び図示内容を総合すると、引用例2には、次の点の構成が記載されている。

「バイアル薬液混合針において、針本体4内に縦走状に貫通させた薬液流下路7と気体上昇路8の2穴を有する両頭針の細径管5を2穴の並んだ方向に膨らんだ断面だ円形にした点。」

IV.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ニードル本体」、「2穴式トランスファーニードル」は、それぞれ本願発明の「針本体」、「2穴式両頭針」に相当し、また、長円形において、長径あるいは短径はそれぞれ最も長い直径あるいは最も短い直径を意味するから、本願発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。

(一致点)
「針本体の上下の針先部は略々円錐型であり、針本体には通液用と通気用の2穴が針本体の直径を含む鉛直面を境にその両側に平行に配され、該2穴の出入り口は針本体の上下の円錐型針先部にそれぞれ開口し且つ上記鉛直面の両側に位置し、更に上記2穴の横断面形状は長円形であり、しかも長径が針本体の直径に平行するプラスチック製2穴式両頭針。」

そして、両者は次の相違点1?3で相違する。
(相違点1)
針本体の横断面形状について、本願発明が穴の長径と平行な短径を有する長円形であるのに対し、引用発明は円形である点。

(相違点2)
通液用と通気用の2穴について、本願発明が略々同一の横断開口面積であり、通液用と通気用の2穴が針本体の短径を含む鉛直面を境にその両側に平行に配され、更に横断面形状は長円形である上記2穴の長径が針本体の短径に平行であるのに対し、引用発明は2穴について口径差が設けられているもの(異なる横断開口面積)であり、通液用と通気用の2穴が針本体の直径を含む鉛直面を境にその両側に平行に配され、2穴の横断面形状は長円形であり、しかも長径が針本体の直径に平行である点。

(相違点3)
針本体や穴の形状(長円形の長径と短径との比)及び2穴のトータルの横断開口面積占有率について、本願発明は「横断面形状が略々長円形で長径と短径との比が≦1.17の針本体」、「2穴の横断面形状は略々長円形で長径と短径との比が≦1.49」、及び「2穴のトータルの横断開口面積占有率が針本体の横断面積の50.1%以上」であるのに対して、引用発明には数値的限定がない点。

V.相違点の判断
・相違点1について
上記引用例の記載事項III.a.?g.にも記載されているように、引用発明も、プラスチック製2穴式両頭針において、通液用と通気用の2穴が針本体の中央部を境にその両側に平行に配されたものであって、上記III.f.に「……また穴2,3の断面形状は、あまり扁平にあると、通気,通液時の抵抗が大きくなるので、図2に示すように、長径と短径の寸法差は、あまり大きくない方が好ましい。」と記載されているように、長円形の穴は、より円形に近い方が通気,通液時の抵抗を小さくする上で望ましいのであって、そのために、短径の寸法を長径の寸法に近づけて長円形の穴を円形に近い穴とし、それに伴って円形の針本体の断面形状を2穴の並んだ方向に膨らんだ長円形にすることは、当業者であれば普通に考えうることであって、また、引用例2に記載の構成のように、2穴を有する両頭針の細径管5を2穴の並んだ方向に膨らんだ断面だ円形にすることがすでに公知である以上、横断面形状が略々長円形の2穴の短径方向を長径方向とする横断面形状が長円形の針本体とする、すなわち、2穴の横断面形状は略々長円形で且つ長径が、横断面形状が長円形の針本体の短径に平行に構成することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

・相違点2について
引用発明において、通液用と通気用の2穴について口径差が設けられているのは、一方及び他方の穴2,3間の口径差によって液重力の片寄りによるエアーロックが起きないようにするためであって、通液用と通気用の2穴の横断開口面積を略々同一にすることは、引用例1の従来技術(特開昭62-189072号公報)にもみられるように、従来周知[他に必要であれば、引用例2(第7図参照)、特開昭50-52864号公報(第2、3図参照)、特開平8-173506号公報(図5)、等参照]であるから、エアーロックが問題にならなければ、通液用と通気用の2穴を略々同一の横断開口面積にすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。

・相違点3について
本願発明の「横断面形状が略々長円形で長径と短径との比が≦1.17の針本体」、「2穴の横断面形状は略々長円形で長径と短径との比が≦1.49」、及び「2穴のトータルの横断開口面積占有率が針本体の横断面積の50.1%以上」の如き数値的限定は、上記相違点1についての判断に基づいて、すなわち、長円形の穴は、より円形に近い方が通気,通液時の抵抗を小さくする上で望ましく、そのために、短径の寸法を長径の寸法に近づけて長円形の穴を円形に近い穴とし、それに伴って円形の針本体の断面形状を2穴の並んだ方向に膨らんだ長円形にするにあたって、コアリングの発生の防止や流量等も考慮して採用しうる数値的範囲であって、当業者であれば必要に応じて適宜採用し得る範囲のものといえる。

そして、本願発明による効果も、引用発明及び引用例2に記載の構成並びに周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

VI.むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載の構成並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2008-07-15 
結審通知日 2008-07-16 
審決日 2008-07-29 
出願番号 特願平9-181087
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 一ノ瀬 薫  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 北村 英隆
新井 克夫
発明の名称 プラスチック製2穴式両頭針  
代理人 立花 顕治  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 三枝 英二  

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