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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  B66B
管理番号 1184681
審判番号 無効2006-80204  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-10-12 
確定日 2008-08-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3489578号発明「エレベーター装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3489578号の請求項2に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯の概要
本件特許第3489578号に係る発明についての出願は、1999年12月6日を国際出願日とする出願であって、平成15年11月7日に設定登録がなされ、その後、本件特許に対して、平成16年11月12日付けで訂正審判第2004-39258号が請求され、平成17年2月8日付け審決で平成16年11月12日付け審判請求書に添付した訂正明細書(以下、「特許明細書」という。)の記載のとおりの訂正が認められた。その後、本件特許に対して、平成18年3月1日付けで訂正審判第2006-39031号が請求されたが、平成18年4月26日に取り下げられた。さらに、その後、平成18年4月26日付けで訂正審判第2006-39060号が請求されたが、平成18年10月5日付けで同訂正審判の請求は成り立たないとの審決がなされたところ、平成18年11月13日付けで同審決の取消を求めた平成18年(行ケ)第10503号審決取消請求事件が知的財産高等裁判所に提起されたが、平成19年11月29日に請求棄却の判決がなされ、同判決は平成19年12月13日に確定した。
そして、本件無効審判は、平成18年10月12日付けで請求されたものであって、平成18年12月28日付けで被請求人より答弁書及び同日付訂正請求書が提出された。

第2.請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書において「特許第3489578号発明の明細書の請求項2に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として概ね次の(1).及び(2).のように主張するとともに、証拠方法として、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第13号証を提出した。

「(1).本件特許の請求項2に係る特許発明(以下、「本件特許発明」という。)は、被請求人の請求に係る訂正審判(訂正2004-39258)につき、訂正を認める旨の審決なされ該審決が確定したことにより、甲3の特許審決公報10頁以降の掲載の特許訂正明細書に記載する通りの内容により、特許出願、出願公開、特許査定及び設定登録がなされたものとみなされるもの(特許法128条)であるが、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第6号証と甲第7号証又は甲第8号証とに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである。
(2).もし仮に、被請求人の請求に係る平成18年4月26日付け訂正審判請求(訂正2006-39060)につき、訂正を認める旨の審決なされ該審決が確定したとしても、この審判請求書(甲4)に添付した訂正明細書(甲5)の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下、「訂正発明」という。)は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第13号証に記載された発明並びに周知慣用な技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである。」(審判請求書2頁下から9行目?3頁第12行)

・証拠方法
甲第3号証 訂正2004-39258の特許審決公報
甲第4号証 訂正2006-39060の審判請求書
甲第5号証 訂正2006-39060の審判請求書に添付された訂正明細書
甲第6号証 DE19752232A1の特許出願公開明細書
甲第7号証 特開平9-165172号公報
甲第8号証 特開平11-130365号公報
甲第13号証 特開平11-301950号公報

第3.被請求人の主張の概要
被請求人は、平成18年12月28日付け訂正請求書において明細書の訂正を請求した上で、同日付け答弁書において、概ね、以下の3-A.及び3-B.のように主張し、訂正された本件特許の特許請求の範囲の請求項2に係る発明は、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証及び甲第13号証の記載内容から特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、本件特許は無効にされるべきものではないと主張した。

3-A.「被請求人の請求に係る平成18年4月26日付け訂正審判請求(訂正2006-39060)は、平成18年10月5日付けで本件審判の請求は成り立たない、との訂正拒絶審決を受けており、被請求人は平成18年11月13日付けで該訂正拒絶審決に対する審決取消訴訟を提起しました。
従って、訂正審判請求(訂正2006-39060)が認められていないことにより現在の請求の範囲は訂正前の内容となっているため、本答弁書と同時に訂出した訂正請求書において、訂正拒絶を受けた訂正審判請求(訂正2006-39060)と同様の特許請求の範囲及び明細書の訂正を請求しております。
従いまして、訂正された本件特許の特許請求の範囲に記載された発明(請求項2に記載の発明)との関係では、以下に述べる通り理由が無いものであり、本件特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、本件特許は無効にされるべきものではありません。」(答弁書3頁第6?17行)

3-B.「本答弁書と同時に提出した訂正請求書において訂正された本件特許の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(審判請求書(甲4)に添付した訂正明細書(甲5)の特許請求の範囲の請求項2に係る発明と同一)は、以下の通り当業者が容易に発明をすることができるものではありません。」(答弁書7頁9?12行)

第4.訂正の適否
4-A.訂正の内容
被請求人が求めている訂正の内容は、平成18年12月28日付け訂正請求書において「特許第3489578号の明細書を請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求める。」(以下、当該明細書を、「特許明細書」といい、当該訂正明細書を、「訂正明細書」という。)というもので、その訂正の内容は、以下の(1)及び(2)のとおりである。

(1)訂正事項イ
特許明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された
「昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、
前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され、吊り車が設けられたカウンターウェイトと、
前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、
前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、
前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウェイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと、
前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車とを有するエレベーター装置において、
前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置され、前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつ最上階停止時のかご天井より下方に位置し、
前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記巻上機の少なくとも一部と重なるよう配置され、
前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜していることを特徴とするエレベーター装置。」を、

「昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、
前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され、吊り車が設けられたカウンターウェイトと、
前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、
前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、
前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウエイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと、
前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、 前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記カウンターウェイトの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車とを有するエレベーター装置において、
前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向して、該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し、
前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように、前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間へ向けて前記モータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され、
前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜し、
前記第2の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において、近接する前記昇降路の壁面に対して、前記ロープが前記カウンターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記かごに近づく方向に傾斜し、前記巻上機の綱車は、前記カウンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置していることを特徴とするエレベーター装置。」と訂正する。

(2)訂正事項ロ
特許明細書の「また、この発明のエレベーター装置では、昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され、吊り車が設けられたカウンターウェイトと、前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウェイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと、前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車とを有するエレベーター装置において、前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置され、前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつ最上階停止時のかご天井より下方に位置し、前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記巻上機の少なくとも一部と重なるよう配置され、前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜している。」を、

「また、この発明のエレベーター装置では、昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され、吊り車が設けられたカウンターウェイトと、前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウェイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと、
前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記カウンターウェイトの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車とを有するエレベーター装置において、
前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向して、該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し、前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように、前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間へ向けて前記モータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され、前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜し、前記第2の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において、近接する前記昇降路の壁面に対して、前記ロープが前記カウンターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記かごに近づく方向に傾斜し、前記巻上機の綱車は、前記カウンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置している。」と訂正する。

4-B.訂正審判第2006-39060号における訂正の内容
訂正審判第2006-39060号における訂正の内容は、上記4-A.の本件無効審判2006-80204号における訂正の内容と同一である(この点は、被請求人も、上記第3.の特に3-B.で明らかなように認めている。)。

4-C.訂正の適否についての判断
上記訂正事項イ及びロについて、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否について検討する。
(1)訂正事項イについて
訂正事項イは、
(a1)「前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車とを有するエレベーター装置」を、「前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記カウンターウェイトの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車とを有するエレベーター装置」に限定し、

(b1)「前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置され、前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつ最上階停止時のかご天井より下方に位置し、」を、「前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向して、該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し、」に限定し、

(c1)「前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記巻上機の少なくとも一部と重なるよう配置され、」を、「前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように、前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間へ向けて前記モータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され、」に限定し、

(d1)「前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜している」を、「前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜し、前記第2の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において、近接する前記昇降路の壁面に対して、前記ロープが前記カウンターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記かごに近づく方向に傾斜し、前記巻上機の綱車は、前記カウンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置している」に限定するものである。

したがって、上記訂正事項イは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、上記訂正事項イは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項ロについて
訂正事項ロは、訂正事項イに伴って発明の詳細な説明の記載との整合を図るための明りょうでない記載の釈明と認められ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)まとめ
したがって、本件訂正は、特許法134条の2第1項ただし書き、及び同条第5項において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。
なお、確定した訂正審判第2006-39060号の審決においても、本件無効審判2006-80204号における訂正の内容と同一である訂正審判第2006-39060号における訂正が特許法134条の2第1項ただし書き、及び同条第5項において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するので適法な訂正と認めている。

第5.本件訂正発明
本件訂正請求が認められたことにより、本件特許の請求項2に係る発明(以下、「本件訂正発明」という。)は、訂正明細書、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項2】昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、
前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され、吊り車が設けられたカウンターウェイトと、
前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、
前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、
前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウエイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと、
前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記カウンターウェイトの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車とを有するエレベーター装置において、
前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向して、該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し、
前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように、前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間へ向けて前記モータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され、
前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜し、
前記第2の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において、近接する前記昇降路の壁面に対して、前記ロープが前記カウンターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記かごに近づく方向に傾斜し、前記巻上機の綱車は、前記カウンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置していることを特徴とするエレベーター装置。」

第6.甲第6,7,8,13号証
6-A.甲第6号証
(1)本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第6号証(ドイツ国特許出願公開第19752232号明細書(1999年5月27日公開))には、次の記載事項ア.ないしキ.が図面とともに記載されている。

ア.「かご(1)とカウンタウエイト(6)と駆動ユニット(11)を備えたロープ式エレベーターにおいて、駆動ユニット(11)は、フロア(10)と同じ高さで昇降路(3)内に突き出たコンクリート支持台(9)に設置されている。駆動ユニット(11)用のコンクリート支持台(9)は昇降路の幅の一部のみを拡張し、コンクリート支持台(9)の脇にフリースペース(8)が構成されてカウンタウエイト(6)がコンクリート支持台(9)の脇を通過できるようになっている。このような配置にすることにより、駆動ユニット(11)を建物の任意の階に設置できる。」(1頁丸囲み57の翻訳文)

イ.「ロープ式エレベーターは油圧式エレベーターに比べ、オイル温度、周囲の汚染、昇降特性に関して問題がないという利点があり、昇降速度も速く、各階に正確に停止する。従来のロープ式エレベーターには別個の機械室が必要で、通常は昇降路の上部に設置されている。1955年発行の「運搬・リフト(Foerdern und Heben)」(なお、ウムラウトoは、oeで代用した。)誌10号、835ページの図12に、昇降路内で突き出た台座に設置した駆動ユニットが示されている。しかし、それでも別個の機械室が必要で、台座はフロアと同じ高さではなく鋼構造となっている。
最近では、駆動ユニットをそれが別個の機械室を必要としないように形成しようとする試みが行われてきている。
例えば、EP0680920A2は、機械室がなく駆動ユニットを昇降路の壁の窪みに設置したロープ式エレベーターを示している。この方式では、薄形に形成された駆動電動機を使用しなければならない。本発明でもロープ式エレベーターに関しているが、この実施形態には欠点がある。第一に巻上げロープの点検が困難である。第二に、非常時に最寄の停止階まで手動で可動させることができず、第三にブレーキを手動で解除できない。したがってバッテリによる非常電力供給設備が必要となり、それが故障すると可動できなくなる。
EP0749930A2およびEP0749931にも同様のロープ式エレベーターが示されている。」(2頁1欄15から46行の翻訳文。EP0680920A2、EP0749930A2、EP0749931は、それぞれ、欧州特許出願公開第680920号明細書、欧州特許出願公開第749930号明細書、欧州特許出願公開第749931号明細書であり、それらのパテントファミリーは、それぞれ、特開平8-40675号公報、特開平9-165172号公報(以下に示す刊行物3)、特開平9-165163号公報である。)

ウ.「主特許によると、ロープ式エレベーターの駆動ユニットは容易に接近し得るようにして昇降路内に配置され、その結果、巻上げロープの点検とエレベーターの可動は非常時でも問題はない。駆動ユニットは既述のようにフロアと同じ高さとなるようにコンクリート支持台に設置されているが、それはエレベーターの最上部の停止位置に備えられ、比較的重いエレベーターの場合は最上部の位置が安全間隔をとってコンクリート支持台の下部で終わっている。カウンタウエイトの巻上げロープは穴を通してコンクリート支持台まで延ばしている。
本発明は、主特許の巻上げロープにおけるそのような状態を改善するという課題に基づき、建物の任意の階にコンクリート支持台と駆動ユニットを配置し、カウンタウエイトの巻上げロープをコンクリート支持台に設けられた穴に通す必要がないようにするものである。
この課題を本発明では、駆動ユニット用コンクリート支持台を昇降路幅の一部のみ拡張し、コンクリート支持台の脇にフリースペースを用意し、カウンタウエイトがコンクリート支持台の脇を通過できるようにして解決している。
本発明の好適な一形態では、入口ドアの内側で電気制御装置を回転できるようにしており、人(エレベーター管理者)が感電するような危険性は除外されている。」(2頁1欄47行から2欄8行の翻訳文)

エ.「次に概要図をもとに発明の実施例を説明するが、主特許と同じ部品にはできるだけ同じ符号を使用している。
概要図で示したロープ式エレベーターは、昇降路3のガイドレール2に沿って昇降するかご1を有している。かご1は、通例の方法で、平行に延びている巻上げロープ4で吊られており、この巻上げロープ4は、図面は簡略化しているので一点鎖線で表され、ガイドプーリ5ないし5aまで延びている。
ガイドプーリ5aは、「下側滑車」として、図示したように、かごの下に配置され、巻上げロープ4は、かご1の壁に対して傾斜してかご1の重心を垂直投射した箇所を通って延びている。巻上げロープ4のこのような配置によりかご1にはほとんど回転モーメントが作用せず、ガイドレールとの摩擦を最小限にしている。このロープ式エレベーターにおいて、ガイドプーリ5も、5aもまたかご1の上方に設置されていてもよい。
同様にカウンタウエイト6は、巻上げロープ4に吊られ、昇降路3のガイドレール7に沿って上下し、フロア10と同じ高さになるコンクリート支持台9の脇のフリースペース8にあり、コンクリート支持台はフリースペース8が構成されているので昇降路の全幅を占めてはいない。
ギヤレス駆動装置の駆動ユニット11は、巻上げロープ4を可動させるトラクションシーブ13とともに昇降路3内のコンクリート支持台9にあって、概略図のように昇降路3の境界壁14に対して直角とはなっていない。」(2頁2欄36から65行の翻訳文)

オ.「以上の説明から、「機械室」を昇降路3内に統合(融合)することにより、公知の同様のエレベーターに比較して、保守、点検、非常時の操作が本質的に簡略化され容易化された。カウンタウエイト6のフリースペース8を設けることによって、カウンタウエイト6がコンクリート支持台9の脇を通過できるため、駆動ユニット11を任意の階に設置することができる。」(3頁3欄19から28行の翻訳文)

カ.「【符号の説明】
1 かご
2 1のガイドレール
3 昇降路
4 巻上げロープ
5、5a 4のガイドプーリ
6 カウンタウエイト
7 6のガイドレール
8 9の脇のフリースペース
9 コンクリート支持台
10 フロア
11 駆動ユニット
12 -
13 4用の11のトラクションシーブ
14 3の壁
15 -
16 -
17 -
18 入口ドア
19 制御装置
20 -
21 1のスライドドア
22 昇降路ドア」(3頁3欄32から55行の翻訳文)

キ.明細書添付の図面(以下、紙面上で「-10-」の表示を上として、上下、左右とする。)において、14と表示された斜線の施されたコの字枠の右側に22と表示された太線が上下方向に2本表示されており、それらを含んで上下方向に長い長方形(以下、これを「長方形A」という。)で囲まれている。
14と表示された斜線の施されたコの字枠の内部には、この内部下方に1と表示された長方形が表示され、上方左に6と表示された長方形、それと並んで9と表示された略長方形が配置されている。この9と表示された略長方形とほぼ重なるようにして右上上がりに、11と表示された長方形が表示され、その11と表示された長方形の下方辺中央に接して13と表示された長方形が表示され1点鎖線の中心線が描かれている。13と表示された長方形とV字状をなして5と表示された長方形が表示され、そこには短辺方向の1点鎖線と長辺方向の1点鎖線が表示されている。この長辺方向の1点鎖線は左下下がりに4と表示された1点鎖線で延長されており、その延長線上に、1と表示された長方形の上辺と交わるように5aと表示された長方形が主に点線で描かれ、1と表示された長方形の下辺と交わるように5aと表示された長方形が主に点線で描かれている。4と表示された1点鎖線は、1と表示された長方形中央の交差する一点鎖線の中心を通っている。
5と表示された長方形は実線で描かれ、5aと表示された長方形は主に点線で描かれ、5aと表示された長方形が1と表示された長方形と重ならない部分は実線で描かれている。
1と表示された長方形の右側に21と表示された太線が上下方向に2本表示されており、それらを含んで上下方向に長い長方形(以下、これを「長方形B」という。)で囲まれている。長方形A、Bは、何れも1と表示された長方形の上方に短辺端部が突き出しており、11と表示された長方形の右短辺部を上に押し出すようにして描かれている。

ク.上記記載事項(1)ア.、エ.、オ.、キ.より、次のことがわかる。
ロープ式エレベーターは、昇降路3のガイドレール2に沿って昇降するかご1を有している。かご1は、通例の方法で、平行に延びている巻上げロープ4で吊られており、この巻上げロープ4は、図面は簡略化しているので一点鎖線で表され、ガイドプーリ5ないし5aまで延びている。ガイドプーリ5aは、「下側滑車」として、図示したように、かごの下に配置され、巻上げロープ4は、かご1の壁に対して傾斜してかご1の重心を垂直投射した箇所を通って延びている。このロープ式エレベーターにおいて、ガイドプーリ5は、かご1の上方に設置されていてもよい。カウンタウエイト6は、巻上げロープ4に吊られ、昇降路3のガイドレール7に沿って上下し、フロア10と同じ高さになるコンクリート支持台9の脇のフリースペース8にあり、コンクリート支持台はフリースペース8が構成されているので昇降路の全幅を占めてはいない。ギヤレス駆動装置の駆動ユニット11は、巻上げロープ4を可動させるトラクションシーブ13とともに昇降路3内のコンクリート支持台9にある。駆動ユニット(11)を建物の任意の階に設置できる。

また、上記記載事項(1)ア.、エ.、カ.、キ.より、巻上げロープ4は、かご1の下側滑車である2個のガイドプーリ5aを、かご1の壁に対して傾斜してかご1の重心を垂直投射した箇所を通って延びており、さらにかご1と、駆動ユニット11を支持するコンクリート支持台9との間を通るように、トラクションシーブ13より上方に位置するガイドプーリ5を経てトラクションシーブ13に至っていることがわかる。
さらに、平面図において、スライドドア21、昇降路ドア22に対して、かご1の側方にカウンタウエイト6と駆動ユニット11は並んで配置され、ガイドプーリ5は、ガイドプーリ5aに至る巻上げロープ4がかご1と、駆動ユニット11を支持するコンクリート支持台9との間を通るように配置され、ガイドプーリ5の回転面は、巻上げロープ4がかご1のガイドプーリ5aへ至る側がトラクションシーブ13から巻き掛けられる側よりドア21、22から遠ざかる方向に位置して、近接する昇降路3の壁面に対して傾斜していることがわかる。駆動ユニット11は、ギヤレス駆動装置であって図面でも薄い長方形で表示されており、薄形に形成されたものといえる。
なお、駆動ユニット11のトラクションシーブ13からカウンタウエイト6に至る巻上げロープ4の方向を転換するプーリが備えられていることは当然のことである。

(2)甲第6号証記載の発明
上記記載事項(1)より、甲第6号証には次の発明が記載されていると認められる。
「昇降路3内を昇降し、スライドドア21を有するとともにガイドプーリ5a,5aが設けられたかご1と、
前記かご1と反対方向に前記昇降路3内を昇降し、該昇降路3の平断面において前記スライドドア21に対して前記かご1の側方に配置されたカウンタウエイト6と、
前記かご1の水平方向の移動を記載するかご用ガイドレール2と、
前記カウンタウエイト6の水平方向の移動を規制するカウンタウエイト用ガイドレール7と、
前記かご1を前記かご1のガイドプーリ5a,5aを介して懸架するとともに前記カウンタウエイト6を懸架する巻上げロープ4と、
前記昇降路3内に配置され、当該巻上げロープ4が巻掛けられたトラクションシーブ13及び該トラクションシーブ13を駆動する駆動部を有し、前記トラクションシーブ13を回転させることで、前記巻上げロープ4を介して前記かご1および前記カウンタウエイト6を昇降させる駆動ユニット11と、
前記昇降路3内に配置され、前記駆動ユニット11のトラクションシーブ13から前記かご1のガイドプーリ5a,5aに至る前記巻上げロープ4が巻掛けられて該巻上げロープ4の方向を転換するガイドプーリ5と、
前記昇降路3内に配置され、前記駆動ユニット11のトラクションシーブ13から前記カウンタウエイト6に至る前記巻上げロープ4が巻き掛けられて該巻上げロープ4の方向を転換するプーリとを有するロープ式エレベーターにおいて、
前記駆動ユニット11は、前記昇降路3の平断面において前記カウンタウエイト6および前記かご1とは離れて前記カウンタウエイト6が配置された前記かご1の側方に位置する前記昇降路3の壁面に傾斜してかつ前記カウンタウエイト6と前記昇降路3の壁面に沿って並んで配置され、前記駆動ユニット11を支持するコンクリート支持台9が前記昇降路3内に任意の階層に位置し、
前記ガイドプーリ5は、前記平断面において、前記かご1のガイドプーリ5a,5aに至る前記巻上げロープ4が前記かご1と前記駆動ユニット11を支持するコンクリート支持台9との間を通るように配置されたロープ式エレベーター。」(以下、「甲第6号証記載の発明」という。)

6-B.甲第7号証
本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第7号証(特開平9-165172号公報)には、次の事項が図面とともに記載されている。

ア.「【請求項1】トラクションシーブ付きの駆動機械装置がエレベータシャフト内に配設され、巻上ロープが該トラクションシーブから上方へ進むトラクションシーブエレベータにおいて、該エレベータは、前記エレベータシャフトの断面において、前記エレベータカー、カウンタウエートおよび前記駆動機械装置のトラクションシーブの各垂直投影が互いに離れていることを特徴とするトラクションシーブエレベータ。
【請求項2】 請求項1に記載のトラクションシーブエレベータにおいて、該エレベータは、前記エレベータシャフトの断面における前記エレベータカー、カウンタウエート、および前記駆動機械装置の各垂直投影が互いに離れていることを特徴とするトラクションシーブエレベータ。
【請求項3】 請求項1または2に記載のトラクションシーブエレベータにおいて、前記トラクションシーブ付きの駆動機械装置は該トラクションシーブの回転軸の方向において平坦な構造であり、該トラクションシーブは前記駆動機械装置の構成部分であることを特徴とするトラクションシーブエレベータ。」(特許請求の範囲)

イ.「【0002】
【従来の技術】エレベータの開発における目的の1つは建物の空間の効率的かつ経済的利用にあった。従来のトラクションシーブエレベータにおいては、エレベータの駆動機械装置を収容するために設計される機械室もしくは他の空間は、建物のエレベータに要する空間のかなりの部分をとっている。」(段落0002)

ウ.「トラクションシーブ7および巻上機械装置6自体は、エレベータカー1およびカウンタウエート2の両方の経路から少し離れて配置して、これらがエレベータシャフト内で方向転換プーリ4、5より低いほとんどどのような高さにも容易に配設できるようにしている。」(3頁3列46?50行)

6-C.甲第8号証
(1)本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第8号証(特開平11-130365号公報(平成11年5月18日公開))には、次の事項が図面とともに記載されている。

ア.「【請求項1】昇降路内の定位置に設置されたトラクションマシンと、このトラクションマシンにより駆動されるロープによって昇降路内を昇降するカウンタウェイトと乗かごとを備えたエレベータ装置において、前記トラクションマシンは、ラジアルギャップ方式の永久磁石型同期モータと、この同期モータの回転子に直結されたブレーキ装置のディスクと、このディスクと直結され前記ロープを巻掛けるシーブと、前記ディスクと対向して配置され固定部分に支持されるブレーキ装置の制動機構とを有することを特徴とするエレベータ装置。
【請求項2】前記トラクションマシンは、前記昇降路の下部に位置し、前記乗かごとカウンタウェイトの垂直方向に投影した断面積の外に配置されることを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項3】前記トラクションマシンは、前記昇降路の下部に位置し、前記シーブに巻掛けられたロープが前記乗かごとカウンタウェイトの間を通過するように配置したことを特徴とする請求項1記載のエレベータ装置。
・・・
【請求項13】前記トラクションマシンとカウンタウェイトは、前記乗かごのドアの位置する側に直列に配置され、前記ロープは、一端が昇降路頂部に固定され他端が前記カウンタウェイト上部のプーリを介して頂部に設けられた第1の頂部プーリを経て前記シーブに巻掛けられ、更に頂部に設けられた第2の頂部プーリを経て前記乗かごの下に設けた第1及び第2の下部プーリを経て前記昇降路頂部に固定されていることを特徴とする請求項2記載のエレベータ装置。」(特許請求の範囲)

イ.「【0009】
【発明の実施の形態】本発明によるエレベータ装置の一実施の形態を図1乃至図3に沿って説明する。
【0010】ブレーキ装置は、ディスクブレーキであり、そのディスク2の外周をフレーム3で覆い、ディスク2の下方の両脇に制動機構4が設けられている。制動機構4は、その最外部がトラクションマシン1のフレーム3の最外幅よりはみ出ないように、支持軸10の中心よりも下方に配置されている。
【0011】シーブ5,ディスク2,同期モータ7の順に軸方向に配置されている。ディスク2は、軸受8を介して回転自在で、軸方向には動かないようにボルト9で支持軸10に支持されている。」(段落0009?0011)

ウ.「【0020】シーブ5の中にモータを組み込まないので、同期モータ7の径を大きくすることができ、モータ軸長を短くても必要なトルクを得られるので、トラクションマシン1全体の軸長を短くでき、昇降路内への配置が容易になる。」(段落0020)

エ.「【0026】次に、本発明によるトラクションマシン1を用いたエレベータ装置について図4にもとづいて説明する。
【0027】トラクションマシン1を昇降路25のピットに固定し、トラクションマシン1のシーブ5にロープ26を巻掛ける。このロープ26の一端は昇降路頂部に軸支された頂部プーリ27Aに巻掛けられ、そこから乗かご28の下部に軸支された第1及び第2の下部プーリ29A,29Bを介して昇降路頂部のロープ止め30Aに固定される。また、ロープ26の他端は同様に昇降路頂部に軸支された他の頂部プーリ27Bに巻掛けられ、そこからカウンタウェイト31上に軸支されたプーリ32を介して昇降路頂部のもう一つのロープ止め30Bに固定される。乗かご28は昇降路25内に平行で垂直に固定された一対のかごレール33A,33Bで水平方向にずれないよう上下方向に案内され、カウンタウェイト31は同様に固定されたカウンタウェイトレール34A,34Bで水平方向にずれないように上下方向に案内される。
【0028】トラクションマシン1の同期モータ7,ブレーキ装置は、図示しない制御盤により電源を供給されてその動作を制御される。同期モータ7はシーブ5を回転させ、ロープ26を駆動することにより乗かご28を目的階に昇降させる。ブレーキ装置は、乗かご28の停止時にシーブ5の回転を停止させ、乗かご28を所定階に確実に停止させる。
【0029】上記エレベータ装置によれば、トラクションマシン1は同期モータ7,ブレーキ装置,シーブ5を一体化しても、ブレーキ装置の動作が同期モータ7に影響しないので、不用な振動、騒音を発生することなく、エレベータ利用者やエレベータ装置の設置された建物の居住者に不快感を与えることがないという効果がある。
【0030】図5は、図4に示すエレベータ装置の平面図で、乗かご28のドア35とは反対側に面してカウンタウェイト31を配置し、乗かご28のドア35の隣接する側に面してトラクションマシン1を配置し、乗かご28の下部の左右方向にロープ26が渡るように第1及び第2のかご下プーリ29A,29Bを設ける。更に、カウンタウェイト31とトラクションマシン1との間には頂部プーリ27Bが、トラクションマシン1と第1のかご下プーリ29Aとの間にはもう1つの頂部プーリ27Aが配置される。
【0031】上記構成によれば、乗かご28の下側を通るロープ26は乗かご28の中心を通るように、両かご下プーリ29A,29Bは配置されている。これにより、乗かご28の吊り中心と重心が概略一致するので、吊りにより乗かご28に発生するモーメントは小さく、安定した乗かご昇降が実現できるという効果がある。
【0032】図6は、昇降路内機器配置の別の例を示すもので、乗かご28のドア35とは反対側に面してカウンタウェイト31とトラクションマシン1を夫々平行に配置し、その間に頂部プーリ27Bをほぼ直角に配置する。また、乗かご28の下部のかご下プーリ29A,29Bをかご奥からドア35側へほぼ対角にロープ26が通るように配置し、トラクションマシン1と乗かご奥側のかご下プーリ29Aの間に頂部プーリ27Aを配置する。このように配置することにより、カウンタウェイト31とトラクションマシン1のトータルの奥行き及び幅をコンパクトに配置できるので、昇降路面積を有効に利用できるという効果がある。例えば、この図では、昇降路25のカウンタウェイト31の右側に大きなスペースが生まれるので、そのスペースを利用してガバナ等の昇降路内配置機器を容易に設置できるという効果がある。また、本実施例は、図5に示す配置よりも、昇降路幅が小さくなるので、幅に制約のある昇降路に有効な実施例である。
【0033】図7は、さらに別の昇降路内機器配置を示すもので、トラクションマシン1をカウンタウェイト31の横に配置して、カウンタウェイト31と頂部プーリ27Bとトラクションマシン1のロープ26が同一方向に渡っていくようにしたものである。このようにすることにより、乗かご28の奥のスペースの奥行きが小さくでき、昇降路全体を小さくすることができる。
【0034】図8は、他の昇降路内機器配置を示すもので、乗かご28のドア35に隣接する側にトラクションマシン1とカウンタウェイト31を縦に配置したものである。したがって、昇降路25の奥行きが小さく、横幅が大きくなるので、昇降路25の横幅が余裕あり奥行きが厳しい用途に適している。また、乗かご28の背後に構造物がないので、通り抜け型の2方向で入り口を設ける場合にも適している。」(段落0026?0034)

オ.「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態を示すトラクションマシンの正面図。
【図2】図1のA-B線に沿う断面図。
【図3】図1のA-C線に沿う断面図。
【図4】本発明の一実施例の形態によるトラクションマシンを用いたエレベータ装置の概略斜視図。
【図5】図4の拡大平面図。
【図6】本発明による昇降路内機器配置を示す図5相当図。
【図7】本発明による昇降路内機器配置の別の例を示す図5相当図。
【図8】本発明による昇降路内機器配置の他の例を示す図5相当図。
【符号の説明】
1…トラクションマシン、2…ディスク、4…制動機構、5…シーブ、7…同期モータ、28…かご、31…カウンタウェイト。」(図面の簡単な説明、符号の説明)

カ.図8において、25と表示された長方形枠内に、28と表示された長方形枠が表示され、その一辺に35と表示された部材が描かれている。(図8において、「図8」の表示に近い部分を上部とする。この上部をもとに、以下、図8上で、上下、左右という。)25と表示された長方形枠と28と表示された長方形枠のそれぞれの左側の一辺の間に、25と表示された長方形枠の左側の一辺と平行状にかつそれに沿って、1と表示された部材と31と表示された部材が並んで配置されている。1と表示された部材は、全体として25と表示された長方形枠の左側の一辺の方向に横長であり、大小の横長長方形が連結した状態で凸状形の断面として描かれている。これら大小の横長長方形のうち、小の横長長方形は、25と表示された長方形枠の左側の一辺と対面しており、小の横長長方形には、26と表示された黒丸と同じ黒丸が2個表示されていることが看てとれる。
25と表示された長方形枠の左側の一辺に沿って、上記小の横長長方形と黒丸で接して、27Bと表示された一点鎖線の横長長方形が連結し、さらに、27Bと表示された横長長方形と黒丸で接して32と表示された横長長方形が連結して、これら三者が一直線上に表示されている。
また、27Aと表示された一点鎖線の横長長方形は、1と表示された部材と重なっており、27Aと表示された長方形の両短辺には26と表示された黒丸と同じ黒丸がそれぞれ表示されている。そのうち29と表示された二点鎖線の長方形側の黒丸の方が、35と表示された部材が描かれているところの、28と表示された長方形枠の下側の一辺に近づく方向に位置している。25と表示された長方形枠の左側の一辺に対して、27Aと表示された一点鎖線の横長長方形は傾斜している。29と表示された二点鎖線の長方形と、29Bと表示された二点鎖線の長方形は、28と表示された長方形枠の対角線端部にそれぞれ位置している。(図8)

(2)ここで、上記記載事項(1)ア.ないしカ.、及び図1?8から、次のことがわかる。

ア.上記記載事項(1)イ.、エ.より、次のことがわかる。
トラクションマシン1を用いたエレベータ装置の一実施の形態について図4にもとづいて説明する。トラクションマシン1を昇降路25のピットに固定し、トラクションマシン1のシーブ5にロープ26を巻掛ける。このロープ26の一端は昇降路頂部に軸支された頂部プーリ27Aに巻掛けられ、そこから乗かご28の下部に軸支された第1及び第2の下部プーリ29A、29Bを介して昇降路頂部のロープ止め30Aに固定される。また、ロープ26の他端は同様に昇降路頂部に軸支された他の頂部プーリ27Bに巻掛けられ、そこからカウンタウェイト31上に軸支されたプーリ32を介して昇降路頂部のもう一つのロープ止め30Bに固定される。乗かご28は昇降路25内に平行で垂直に固定された一対のかごレール33A、33Bで水平方向にずれないよう上下方向に案内され、カウンタウェイト31は同様に固定されたカウンタウェイトレール34A、34Bで水平方向にずれないように上下方向に案内される。トラクションマシン1の同期モータ7、ブレーキ装置は、図示しない制御盤により電源を供給されてその動作を制御される。同期モータ7はシーブ5を回転させ、ロープ26を駆動することにより乗かご28を目的階に昇降させる。
図5は、図4に示すエレベータ装置の平面図で、乗かご28のドア35とは反対側に面してカウンタウェイト31を配置し、乗かご28のドア35の隣接する側に面してトラクションマシン1を配置し、乗かご28の下部の左右方向にロープ26が渡るように第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bを設ける。更に、カウンタウェイト31とトラクションマシン1との間には頂部プーリ27Bが、トラクションマシン1と第1のかご下プーリ29Aとの間にはもう1つの頂部プーリ27Aが配置される。図8は、他の昇降路内機器配置を示すもので、乗かご28のドア35に隣接する側にトラクションマシン1とカウンタウェイト31を縦に配置したものである。

上記記載事項(1)カ.、図8から、乗かご28は、ドア35の両側方にそれぞれ位置する2面の乗かご壁(以下、乗かご28の外部からドア35に対し左側の乗かご壁を、「左側乗かご壁」という。この左側乗かご壁に対向する昇降路壁を、以下「左側昇降路壁」という。)を有している。また、トラクションマシン1は、図8上で左側昇降路壁に平行にかつカウンタウェイト31と左側昇降路壁に沿って並んで配置されているといえる。
上記記載事項(1)ア.より、トラクションマシン1は、昇降路25の下部に位置し、乗かご28とカウンタウェイト31の垂直方向に投影した断面積の外に配置されたことがわかる。また、昇降路内の定位置に設置されたトラクションマシンとも記載されている。上記記載事項(1)オ.より、図4は本発明の一実施例の形態によるトラクションマシンを用いたエレベータ装置の概略斜視図であり、図5は図4の拡大平面図であり、図7、8は本発明による昇降路内機器配置の別の例、他の例を示す図5相当図であるから、図7の別の昇降路内機器配置のもの、図8の他の昇降路内機器配置のものも、図4のものと配置以外は同じ構成となっている。
カウンタウェイト31は、当然乗かご28と反対方向に昇降路25内を昇降する。

したがって、これらの記載と上記記載事項(1)カ.から、次のことがわかる。
昇降路25内を昇降し、ドア35を有するとともに第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bが設けられた乗かご28と、乗かご28と反対方向に昇降路25内を昇降し、昇降路25の平断面においてドア35に対して乗かご28の側方に配置され、プーリ32が設けられたカウンターウェイト31と、乗かご28の水平方向の移動を規制するかごレール33A、33Bと、カウンターウェイト31の水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレール34A、34Bと、乗かご28を乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bを介して懸架するとともにカウンターウェイト31をカウンターウェイト31のプーリ32を介して懸架するロープ26と、昇降路25内に配置され、ロープ26が巻き掛けられたシーブ5及びシーブ5を駆動する同期モータ7を有し、シーブ5を回転させることでロープ26を介して乗かご28およびカウンターウェイト31を昇降させるトラクションマシン1と、昇降路25内に配置され、トラクションマシン1のシーブ5から乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bに至るロープ26が巻き掛けられてロープ26の方向を転換する頂部プーリ27Aと、昇降路25内に配置され、トラクションマシン1のシーブ5からカウンターウェイト31のプーリ32に至るロープ26が巻き掛けられてロープ26の方向を転換する頂部プーリ27Bとを有するエレベーター装置において、トラクションマシン1は、昇降路25の平断面においてカウンターウェイト31及び乗かご28とは離れてカウンターウェイト31が配置された乗かご28の側方に位置する左側昇降路壁面に平行にかつカウンターウェイト31と左側昇降路壁面に沿って並んで配置されるとともにシーブ5が乗かご28の側方に位置する左側昇降路壁面に対向し、同期モータ7が左側乗かご壁に対向して、前記昇降路の下部に位置し、頂部プーリ27Aは、トラクションマシン1より上方に位置し、昇降路25の平断面において、乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bに至るロープ26が乗かご28の対角線端部近傍を通るように、トラクションマシン1のシーブ5から乗かご28の対角線端部近傍へ向けて同期モータ7と一部重なるように配置され、頂部プーリ27Aの回転面は、昇降路25の平断面においてロープ26が乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bへ至る側がトラクションマシン1のシーブ5から巻き掛けられる側よりドア35に近づく方向に位置して近接する左側昇降路壁面に対して傾斜している。
また、上記記載事項(1)カ.から、頂部プーリ27Bの回転面は、左側昇降路壁面に平行となっている。

イ.上記記載事項(1)ウ.には「トラクションマシン1全体の軸長を短く」と記載され、上記記載事項(1)カ.、図1ないし図8より、トラクションマシン1は、シーブ5の回転軸方向の外形寸法が上記回転軸方向に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さいことがわかる。

ウ.上記記載事項(1)エ.の段落0030ないし0034から、次のことがわかる。
図5は、4図に示すエレベータ装置の平面図で、乗かご28のドア35とは反対側に面してカウンタウェイト31を配置し、乗かご28のドア35の隣接する側に面してトラクションマシン1を配置したものである。
図6は、昇降路内機器配置の別の例を示すもので、乗かご28のドア35とは反対側に面してカウンタウェイト31とトラクションマシン1を夫々平行に配置し、その間に頂部プーリ27Bをほぼ直角に配置する。図6の実施例は、図5に示す配置よりも、昇降路幅が小さくなるので、幅に制約のある昇降路に有効な実施例である。
図7は、別の昇降路内機器配置を示すもので、乗かご28の奥のスペースの奥行きが小さくでき、昇降路全体を小さくすることができる。すなわち、図6に示す配置より、乗かご28の奥のスペースの奥行きが小さくでき、図6と同様に、昇降路幅が小さくなるので、幅に制約のある昇降路に有効な実施例であり、昇降路全体が小さくなっている。
図8は、他の昇降路内機器配置を示すもので、昇降路25の奥行きが小さく、横幅が大きくなるので、昇降路25の横幅が余裕あり奥行きが厳しい用途に適している。

したがって、甲第8号証には、「平断面での幅方向、奥行き方向のそれぞれについて、不使用空間を縮減するとともに、昇降路全体を小さくする」という技術事項(以下、これを「甲第8号証記載の技術事項」という。)が示されている。

エ.図8の昇降路内機器配置を、図5の昇降路内機器配置と比較すれば、カウンタウェイト31の配置には選択肢がある中で図8の昇降路内機器配置としたもので、昇降路25の奥行き方向にカウンタウェイト31が占めるスペース分が、平断面において縮減されており、図8の昇降路内機器配置自体に奥行きに対する縮減効果を有することがわかる。

(3)甲第8号証記載の発明
上記記載事項(2)より、甲第8号証には次の発明が記載されていると認められる。
「昇降路25内を昇降し、ドア35を有するとともに第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bが設けられた乗かご28と、
乗かご28と反対方向に昇降路25内を昇降し、昇降路25の平断面においてドア35に対して乗かご28の側方に配置され、プーリ32が設けられたカウンターウェイト31と、
乗かご28の水平方向の移動を規制するかごレール33A、33Bと、
カウンターウェイト31の水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレール34A、34Bと、
乗かご28を乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bを介して懸架するとともにカウンターウェイト31をカウンターウェイト31のプーリ32を介して懸架するロープ26と、
昇降路25内に配置され、ロープ26が巻き掛けられたシーブ5及びシーブ5を駆動する同期モータ7を有し、シーブ5を回転させることでロープ26を介して乗かご28およびカウンターウェイト31を昇降させるトラクションマシン1と、
昇降路25内に配置され、トラクションマシン1のシーブ5から乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bに至るロープ26が巻き掛けられてロープ26の方向を転換する頂部プーリ27Aと、
昇降路25内に配置され、トラクションマシン1のシーブ5からカウンターウェイト31のプーリ32に至るロープ26が巻き掛けられてロープ26の方向を転換する頂部プーリ27Bとを有するエレベーター装置において、
トラクションマシン1は、トラクションマシン1全体の軸長を短くし、昇降路25の平断面においてカウンターウェイト31及び乗かご28とは離れてカウンターウェイト31が配置された乗かご28の側方に位置する左側昇降路壁面に平行にかつカウンターウェイト31と左側昇降路壁面に沿って並んで配置されるとともにシーブ5が乗かご28の側方に位置する左側昇降路壁面に対向し、同期モータ7が左側乗かご壁に対向して、昇降路25の下部に位置し、
頂部プーリ27Aは、トラクションマシン1より上方に位置し、昇降路25の平断面において、乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bに至るロープ26が乗かご28の対角線端部近傍を通るように、トラクションマシン1のシーブ5から乗かご28の対角線端部近傍へ向けて同期モータ7と一部重なるように配置され、
頂部プーリ27Aの回転面は、昇降路25の平断面においてロープ26が乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bへ至る側がトラクションマシン1のシーブ5から巻き掛けられる側よりドア35に近づく方向に位置して近接する左側昇降路壁面に対して傾斜し、
頂部プーリ27Bの回転面は、左側昇降路壁面に平行となっているエレベーター装置。」(以下、「甲第8号証記載の発明」という。)

6-D.甲第13号証
(1)本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第13号証(特開平11-301950号公報(平成11年11月2日公開))には、次の事項が図面とともに記載されている。

ア.「【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記従来技術では、つり合おもりを設けることにより、つり合おもりを設けない場合より、昇降路平面のサイズが増える場合が生ずる。換言すれば、昇降路平面のサイズに規制が生じ、昇降路平面のサイズによっては、乗かご平面のサイズを縮小しないと、昇降路内の機器を配置できない場合が生じる。この解決手段として、つり合おもりや乗かごのつり心をずらすという方法があるが、つり合おもりのガイド装置に偏荷重が生じる、ロープがプーリからはずれやすくなるという不具合が発生する。
【0004】本発明は、つり合おもりを設けても、このような不具合を防ぎ、乗かご平面および昇降路平面のサイズをつり合おもりのない場合と同等にできる流体圧エレベーターの構造を提供することにある。」(段落0003、0004)

イ.「【0005】
【課題を解決するための手段】流体圧シリンダへ供給、あるいは流体圧シリンダから排出する作動流体の流量を制御し、乗かごの速度を制御する方式の流体圧エレベーターにおいて、つり合おもりを備え、つり合おもりをつるロープをかけるプーリを昇降路平面の軸線に対して傾けて配置したことにより達成される。
【0006】
【発明の実施の形態】図1は本発明の一実施例である片持式の流体圧エレベーターの概略構成を説明する図、図2は図1の昇降路平面を説明する図である。図1,図2により請求項1,2の実施の形態を説明する。
【0007】図1,図2において、1は乗かご、2はプランジャ、3はシリンダ、4はプランジャ2,シリンダ3よりなる流体圧シリンダである。5は乗かご1をつるロープ(以下、乗かご用ロープ)で、一端は、乗かご支持板1Aに止着され、他端は、プランジャ2の頂部に設けられた可動プーリ6を介して、流体圧シリンダ4側の部材7に止着されている。
【0008】また、8はつり合おもりをつるロープ(以下、つり合おもり用ロープ)で、一端は乗かご支持板1Aに止着され、他端は、昇降路100上部のビーム101に設けられた固定プーリ9を介して、つり合おもり10に止着されている。
・・・
【0012】つり合おもり10は、つり合おもり枠体207を備え、つり合おもり枠体207はレールブラケット204B,204Cに固定されたつり合おもり用ガイドレール208にガイド装置209を介して案内されている。」(段落0005?0012)

ウ.「【0014】つり合おもり用ロープ8をつる固定プーリ9を昇降路平面の軸線Xに対して傾けて配置している。図2では、つり合おもり10を設けない流体圧エレベーターの乗かごおよび昇降路平面のサイズを示している。したがって、昇降路平面のサイズを広げることなく昇降路内に乗かご1,ガイドレール201,205,208,流体圧シリンダ4,つり合おもり10等の機器を配置できることを示している。
【0015】仮に、固定プーリ9にかけるつり合おもり用ロープ8の乗かご側つり心C1を変えずに、固定プーリ9を昇降路平面の軸線Xと平行に配置すると、以下のような不具合が発生する。
【0016】(1)つり合おもり10を図示の位置のままとすると、つり合おもり10のつり心を図中左側にずらさなければならない。この場合、つり合おもり枠体207のガイド装置209に偏荷重が生じる。なお、つり合おもり10のつり心を変えないと、つり合おもり用ロープ8が固定プーリ9からはずれやすくなるという不具合が発生する。
【0017】(2)(1)を防ぐために、つり合おもり10を図中左側にずらすと、この方向に昇降路平面のサイズを広げるか、乗かご1の奥行きサイズを縮小せざるを得ない。」(段落0014から0017。「つり合おもり10のつり心」とは、つり合おもり10とつり合おもり用ロープ8の端部との接合部を指している。段落0016の(1)の場合は、つり合おもり10から延びる図中左方向ブラケット等を介して、つり合おもり10とつり合おもり用ロープ8の端部とを接合したような場合である。)

(2)甲第13号証記載の発明
上記記載事項(1)より、甲第13号証には次の発明が記載されていると認められる。
「流体圧エレベーターにおいて、つり合おもりを備え、つり合おもりをつるロープをかけるプーリを昇降路平面の軸線に対して傾けて配置したエレベーター。」(以下、「甲第13号証記載の発明」という。)

第7.対比及び判断
7-A.甲第6号証記載発明を主引用発明とした場合
7-A-1.対比
本件訂正発明と甲第6号証記載の発明を対比するに、甲第6号証記載の発明における「かご1」、「駆動ユニット11」、「ガイドレール2」、「ガイドレール7」、「平面図」、「スライドドア21」、「ロープ式エレベーター」、「ガイドプーリ5」、「ガイドプーリ5a,5a」、「巻上げロープ4」、「トラクションシーブ13」及び「プーリ」は、本件訂正発明における「かご」、「巻上機」、「かご用ガイドレール」、「カウンターウェイト用ガイドレール」、「昇降路の平断面」、「乗降口」、「エレベーター装置」、「第1の返し車」、「かごの吊り車」、「ロープ」、「綱車」及び「第2の返し車」にそれぞれ相当する。そして、甲第6号証記載の発明における「駆動ユニット11のトラクションシーブ13からカウンタウエイト6に至る巻上げロープ4が巻き掛けられて該巻上げロープ4の方向を転換するプーリ」は、「巻上機の綱車からカウンターウェイトに至るロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車」という限りにおいて、本件訂正発明における「巻上機の綱車からカウンターウェイトの吊り車に至るロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車」に相当する。

したがって、本件訂正発明と甲第6号証記載の発明は、
「昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、
前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置されたカウンターウェイトと、
前記かごの水平方向の移動を記載するかご用ガイドレールと、
前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、
前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウェイトを懸架するロープと、
前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻掛けられた綱車及び該綱車を駆動する駆動部を有し、前記綱車を回転させることで、前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、
前記昇降路3内に配置され、前記巻上機の綱車から前記カウンターウェイトに至る前記ロープが巻掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車とを有するエレベーター装置において、
前記巻上機は、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイトおよび前記かごとは離れて前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置され、前記巻上機の下端が前記昇降路内の最下階近傍に位置し、
前記第1の返し車は、前記平断面において、前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機の近くとの間を通るように配置され、
前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が、前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して、近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜したエレベーター装置。」
である点で一致し、次の相違点A-1?A-5で相違している。
(1)相違点A-1
巻上機が、本件訂正発明においては、「綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さ」いのに対して、甲第6号証記載の発明においては、「トラクションシーブ13」の外径寸法との関係が不明である点。
(2)相違点A-2
巻上機の位置が、本件訂正発明においては、「昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向して、該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し」ているのに対して、甲第6号証記載の発明においては、「昇降路3の平断面において前記カウンタウエイト6および前記かご1とは離れて前記カウンタウエイト6が配置された前記かご1の側方に位置する前記昇降路3の壁面に傾斜してかつ前記カウンタウエイト6と前記昇降路3の壁面に沿って並んで配置され、前記駆動ユニット11を支持するコンクリート支持台9が前記昇降路3内に任意の階層に位置し」ている点。
(3)相違点A-3
本件訂正発明においては、「カウンターウェイトの吊り車」を備えているのに対して、甲第6号証記載の発明においては、それに相当するものを備えているか否かが不明である点。
(4)相違点A-4
第1の返し車が、本件訂正発明においては、「平断面において、かごの吊り車に至るロープが前記かごと巻上機との間を通るように、前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間へ向けてモータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され」ているのに対して、甲第6号証記載の発明においては、「平断面において、かご1のガイドプーリ5a,5aに至る巻上げロープ4が前記かご1と駆動ユニット11を支持するコンクリート支持台9との間を通るように配置され」ている点。
(5)相違点A-5
本件訂正発明においては、「第2の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において、近接する前記昇降路の壁面に対して、前記ロープが前記カウンターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記かごに近づく方向に傾斜し、前記巻上機の綱車は、前記カウンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置している」のに対して、甲第6号証記載の発明においては、「プーリ」の回転面がどのようになっているのか不明である点。

7-A-2.上記相違点A-1?A-5についての検討
(1)相違点A-1
シーブの回転軸方向の外形寸法が上記回転軸方向に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さい巻上機は、甲第7号証の上記第6.6-B.ア.の請求項3に記載されているし、周知の技術(例えば、特開平8-40675号公報、特開平9-165172号公報、特開平11-310372号公報(平成11年11月9日公開)参照)でもある。したがって、甲第7号証記載の技術事項又は上記周知の技術から、上記相違点A-1に係る本件訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。

(2)相違点A-2
本件訂正発明において、巻上機は、「該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し」た効果としては、以下のア.ないしエ.のように記載されているだけであり、それ以外は何ら記載されていない。
ア.「巻上機4の下端および制御盤15の下端はかご最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井面より下方にあるので、ピットが冠水しても巻上機4および制御盤15は損傷を受けることは無い。」(かご天井面より下方にあるのは巻上機4の下端である。)
イ.「この種の機械室の無い方式のエレベーター装置では、ピットの深さは1.2mから1..5m程度であり、この位置に巻上機および制御盤が配置されていると、作業者がピット床に立った時に手が届く範囲、例えば1.2mから1.7m高さの範囲(かご最下階停止時のかご床面?ピット床から1.7m高さ)にあることになり、点検作業が容易である。」(「1..5m」は「1.5m」の誤記)
ウ.「なお、巻上機4の下端をかご1階停止時のかご床面より上方でかつ上端をかご天井面より下方にし、制御盤15をほぼ同じ高さに配置した場合には、ピットのみならず地下階全体が冠水しても巻上機4および制御盤15が損傷を受けることは無い。」(かご天井面より下方にあるのは巻上機4の上端である。)
エ.「また、巻上機4の下端をかご基準階停止時のかご床面より上方でかつ上端をかご天井面より下方にし制御盤15をほぼ同じ高さに配置した場合、エレベーターの運行管理に即した点検が最もやり易くなる。」(「基準階停止時」の巻上機4の下端、上端の位置。以上、特許第3489578号公報の6頁11欄11行目?30行目。以下同様に、訂正明細書と同じ記載は同公報で示す。)

このような観点から考察すれば、エレベーター装置において、ピットが冠水した場合の被害防止のために電子機器等を最下階の床面より上方に設置することは周知技術にすぎない。(特開平8-81154号公報の段落0015等。特開平8-277081号公報の電源部11。)さらに、エレベーター装置において、保守点検のために駆動装置を昇降路の一階(最下階)付近に設けることは、特開平11-310372号公報(平成11年11月9日公開。段落0076)により、既に知られている技術事項(以下、「技術事項A」という。)である。そして、「前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方」とは、ほぼ最下階付近を指しており、巻上機の下端を、「該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方で」、「かご天井より下方に位置」すると限定することは、当業者が容易になしうる設計的事項にすぎない。
よって、上記周知技術、技術事項Aはいずれもエレベーター装置に関するものであって同一の技術分野に属しており、甲第6号証記載の発明において、上記周知技術、技術事項Aから、上記相違点A-2に係る本件訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。

(3)相違点A-3
昇降路内の不使用空間の発生を極力押さえるというのは、甲第8号証記載の技術事項や、甲第7号証の上記第6.6-B.イ.の技術事項、甲第8号証の特許公報2頁4欄8から10行における記載をみるまでもなくエレベーター装置において技術常識であり、第1の返し車の回転面を近接する昇降路の壁面に対してどのような角度に位置させるかは、そもそも、昇降路の形状・寸法、かごのドアの出っ張り等のかごの形状・寸法、返し車やカウンターウェイトや巻上機等の機器の諸寸法・配置等の諸条件を比較考慮して当業者が適宜決定すべき事項にすぎない。

よって、上記相違点A-3に係る本件訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められ、このように甲第6号証記載の発明を構成すれば、上記相違点A-3に係る本件訂正発明のように構成されることとなり、上記相違点A-3に係る本件訂正発明のように構成することも、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。

また、近年のエレベータ装置においては、エレベーター占有空間の最小化を狙いとしているのは当然であり、甲第6号証記載の発明においてもエレベーター占有空間の最小化の狙いは明示するまでもなく前提とするものである。エレベーター占有空間の最小化とは、高さ方向、平断面での幅方向、奥行き方向において最小化すべきもので、高さ方向のみを指すものではない。このことは、甲第6号証記載の発明においても同様である。
よって、甲第6号証記載の発明及び技術思想1の両者ともエレベーター占有空間の最小化を狙いとするものである。
そして、甲第6号証記載の技術事項を考慮すれば、甲第6号証記載の発明に、技術思想1、上記周知技術、技術事項Aを適用して、上記相違点A-3に係る本件訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。

(4)相違点A-4及び相違点A-5
まず、エレベータ装置において、「カウンターウェイトの吊り車」を備えることは周知慣用である。なお、甲第8号証記載の発明も「カウンターウェイトの吊り車」を備えている。
次に、甲第13号証記載の発明は、「流体圧エレベーターにおいて、つり合おもりを備え、つり合おもりをつるロープをかけるプーリを昇降路平面の軸線に対して傾けて配置したエレベーター。」であるから、甲第13号証には、「エレベーター装置において、カウンターウェイトに至るロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する返し車の回転面を昇降路の壁面に対して傾斜させて昇降路平断面の縮減を図る」という技術思想(以下、「技術思想2」という。)が示されている。
よって、甲第6号証記載の発明、技術思想2ともエレベーター装置の昇降路内機器配置に関するものであるから、同一の技術分野に属しており、甲第6号証記載の発明において、
まず、カウンタウエイトに吊り車を備え、その上で、技術思想2を適用して、上記相違点A-4及び相違点A-5に係る本件訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。

7-A-3.むすび
以上のように、本件訂正発明は、甲第6号証記載の発明、技術思想1ないし2、甲第8号証記載の技術事項、技術事項A、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、しかも、本件訂正発明は、全体としてみても、甲第6号証記載の発明、技術思想1ないし2、甲第8号証記載の技術事項、技術事項A、及び上記周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。

7-B.甲第8号証記載発明を主引用発明とした場合
7-B-1.対比
本件訂正発明と甲第8号証記載の発明を対比するに、甲第8号証記載の発明における「ドア35」、「第1及び第2のかご下プーリ29A、29B」、「乗かご28」、「プーリ32」、「かごレール33A、33B」、「カウンターウェイト用ガイドレール34A、34B」、「シーブ5」、「同期モータ7」、「トラクションマシン1」、「頂部プーリ27A」、「頂部プーリ27B」、「左側昇降路壁面」、「同期モータ7が左側乗かご壁に対向して」及び「近接する左側昇降路壁面」は、本件訂正発明における「乗降口」、かごに設けられた「吊り車」、「かご」、カウンターウェイトに設けられた「吊り車」、「かご用ガイドレール」、「カウンターウェイト用ガイドレール」、「綱車」、「モータ部」、「巻上機」、「第1の返し車」、「第2の返し車」、「前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面」、「前記モータ部が前記かご側に対向して」及び「近接する前記昇降路の壁面」にそれぞれ相当する。

したがって、本件訂正発明と甲第8号証記載の発明は、
「昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、
前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され、吊り車が設けられたカウンターウェイトと、
前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、
前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、
前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウェイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと、
前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記カウンターウェイトの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車とを有するエレベーター装置において、
前記巻上機は、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向し、
前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記モータ部と一部重なるよう配置され、
前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜しているエレベーター装置。」
である点で一致し、次の相違点B-1?B-5で相違している。
(1)相違点B-1
本件訂正発明においては「前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さ」い巻上機であるのに対し、甲第8号証記載の発明では、「トラクションマシン1全体の軸長を短くしたトラクションマシン1」である点。
(2)相違点B-2
本件訂正発明においては、巻上機は、「該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し」ているのに対し、甲第8号証記載の発明では、トラクションマシン1は、「昇降路25の下部に位置して」いる点。
(3)相違点B-3
本件訂正発明においては、「前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように、前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間へ向けて前記モータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され」ているのに対し、甲第8号証記載の発明では、「頂部プーリ27Aは、トラクションマシン1より上方に位置し、昇降路25の平断面において、乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bに至るロープ26が乗かご28の対角線端部近傍を通るように、トラクションマシン1のシーブ5から乗かご28の対角線端部近傍へ向けて同期モータ7と一部重なるように配置され」ている点。
(4)相違点B-4
本件訂正発明では、「前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜している」のに対して、甲第8号証記載の発明では、「頂部プーリ27Aの回転面は、昇降路25の平断面においてロープ26が乗かご28の第1及び第2のかご下プーリ29A、29Bへ至る側がトラクションマシン1のシーブ5から巻き掛けられる側よりドア35に近づく方向に位置して近接する左側昇降路壁面に対して傾斜している」点。
(5)相違点B-5
本件訂正発明では、「前記第2の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において、近接する前記昇降路の壁面に対して、前記ロープが前記カウンターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記かごに近づく方向に傾斜し、前記巻上機の綱車は、前記カウンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置している」のに対して、甲第8号証記載の発明では、「頂部プーリ27Bの回転面は、左側昇降路壁面に平行となっている」点。

7-B-2.上記相違点B-1?B-5についての検討
(1)相違点B-1
甲第8号証記載の発明のトラクションマシン1も、上記第6.6-C.(2)イ.から、シーブ5の回転軸方向の外形寸法が上記回転軸方向に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さい巻上機といえるから、上記相違点1は実質的な相違点とは認められない。
また、仮にそうでないとしても、シーブの回転軸方向の外形寸法が上記回転軸方向に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さい巻上機は、甲第7号証の上記第6.6-B.ア.の請求項3に記載されているし、周知の技術(例えば、特開平8-40675号公報、特開平9-165172号公報、特開平11-310372号公報(平成11年11月9日公開)参照)でもある。したがって、甲第7号証記載の技術事項又は上記周知の技術から、上記相違点B-1に係る本件訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。

(2)相違点B-2?B-4
まず、相違点B-2から検討する。
甲第6号証記載の発明における「かご1」、「駆動ユニット11」、「ガイドレール2」、「ガイドレール7」、「平面図」、「スライドドア21、昇降路ドア22」、「ロープ式エレベーター」、「ガイドプーリ5」、「ガイドプーリ5a」、「巻上げロープ4」及び「トラクションシーブ13」は、本件訂正発明における「かご」、「巻上機」、「かご用ガイドレール」、「カウンターウェイト用ガイドレール」、「昇降路の平断面」、「乗降口」、「エレベーター装置」、「第1の返し車」、「かごの吊り車」、「ロープ」及び「綱車」に相当する。
よって、甲第6号証記載の発明には、「かごと、カウンタウェイトと、巻上機と、かご用ガイドレール及びカウンターウェイト用ガイドレールと、かごをかごの吊り車を介して懸架するとともにカウンターウエイトを懸架するロープとを備え、昇降路の平断面において、乗降口に対してかごの側方にカウンタウェイトと巻上機は並んで配置されたエレベーター装置において、巻上機を昇降路内の任意の階層の支持台上に配置し、第1の返し車は、巻上機より上方に位置し、かごの下方に配置されたかご用吊車に至るロープが、かごと支持台との間を通るように配置され、第1の返し車の回転面は、ロープがかごのかご用吊車へ至る側が綱車から巻き掛けられる側より乗降口から遠ざかる方向に位置して、近接する昇降路の壁面に対して傾斜しているエレベーター装置。」なる技術思想(以下、「技術思想1」という。)が示されている。

ところで、本件訂正発明において、巻上機は、「該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し」た効果としては、以下のア.ないしエ.のように記載されているだけであり、それ以外は何ら記載されていない。
ア.「巻上機4の下端および制御盤15の下端はかご最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井面より下方にあるので、ピットが冠水しても巻上機4および制御盤15は損傷を受けることは無い。」(かご天井面より下方にあるのは巻上機4の下端である。)
イ.「この種の機械室の無い方式のエレベーター装置では、ピットの深さは1.2mから1..5m程度であり、この位置に巻上機および制御盤が配置されていると、作業者がピット床に立った時に手が届く範囲、例えば1.2mから1.7m高さの範囲(かご最下階停止時のかご床面?ピット床から1.7m高さ)にあることになり、点検作業が容易である。」(「1..5m」は「1.5m」の誤記)
ウ.「なお、巻上機4の下端をかご1階停止時のかご床面より上方でかつ上端をかご天井面より下方にし、制御盤15をほぼ同じ高さに配置した場合には、ピットのみならず地下階全体が冠水しても巻上機4および制御盤15が損傷を受けることは無い。」(かご天井面より下方にあるのは巻上機4の上端である。)
エ.「また、巻上機4の下端をかご基準階停止時のかご床面より上方でかつ上端をかご天井面より下方にし制御盤15をほぼ同じ高さに配置した場合、エレベーターの運行管理に即した点検が最もやり易くなる。」(「基準階停止時」の巻上機4の下端、上端の位置。以上、特許第3489578号公報の6頁11欄11行目?30行目。以下同様に、訂正明細書と同じ記載は同公報で示す。)

このような観点から考察すれば、エレベーター装置において、ピットが冠水した場合の被害防止のために電子機器等を最下階の床面より上方に設置することは周知技術にすぎない。(特開平8-81154号公報の段落0015等。特開平8-277081号公報の電源部11。)さらに、エレベーター装置において、保守点検のために駆動装置を昇降路の一階(最下階)付近に設けることは、特開平11-310372号公報(平成11年11月9日公開。段落0076)により、既に知られている技術事項(以下、「技術事項A」という。)である。そして、「前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方」とは、ほぼ最下階付近を指しており、巻上機の下端を、「該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方で」、「かご天井より下方に位置」すると限定することは、当業者が容易になしうる設計的事項にすぎない。
よって、甲第8号証記載の発明、技術思想1、上記周知技術、技術事項Aはいずれもエレベーター装置に関するものであって同一の技術分野に属しており、甲第8号証記載の発明において、技術思想1、上記周知技術、技術事項Aから、巻上機を昇降路の下部に位置する代わりに、上記相違点B-2に係る本件訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。

次に、相違点B-3、B-4を検討する。
昇降路内の不使用空間の発生を極力押さえるというのは、甲第8号証記載の技術事項や、甲第7号証の上記第6.6-B.イ.の技術事項、本件特許公報2頁4欄8から10行における記載をみるまでもなくエレベーター装置において技術常識であり、第1の返し車の回転面を近接する昇降路の壁面に対してどのような角度に位置させるかは、そもそも、昇降路の形状・寸法、かごのドアの出っ張り等のかごの形状・寸法、返し車やカウンターウェイトや巻上機等の機器の諸寸法・配置等の諸条件を比較考慮して当業者が適宜決定すべき事項にすぎない。

また、甲第8号証記載の発明、及び技術思想1の両者ともエレベーター装置の昇降路内機器配置に関するものであるから、同一の技術分野に属しており、甲第8号証記載の発明は、上記記載事項第6.6-C.(1)エ.の段落0034にみられるように、奥行き方向の最小化を課題としており、甲第8号証記載の発明に技術思想1を適用して、甲第8号証記載の発明において、第1の返し車の回転面を、ロープがかごのかご用吊車へ至る側が綱車から巻き掛けられる側より乗降口から遠ざかる方向に位置して、近接する昇降路の壁面に対して傾斜させることは、技術思想1に基づいて当業者が容易に想到しうる程度のものである。
よって、上記相違点B-4に係る訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められ、このように甲第8号証記載の発明を構成すれば、上記相違点3に係る本件訂正発明のように構成されることとなり、上記相違点B-3に係る本件訂正発明のように構成することも、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。

また、近年のエレベータ装置においては、エレベーター占有空間の最小化を狙いとしているのは当然であり、甲第6号証記載の発明においてもエレベーター占有空間の最小化の狙いは明示するまでもなく前提とするものである。エレベーター占有空間の最小化とは、高さ方向、平断面での幅方向、奥行き方向において最小化すべきもので、高さ方向のみを指すものではない。このことは、甲第8号証記載の発明においても同様である。
さらに、甲第6号証記載の発明は、上記記載事項第6.6-A.(1)イ.にみられるような従来技術に対するものであって、別個の機械室(参考例として特開平2-261788号公報)を設けず巻上機を昇降路内に内蔵する方式であり、エレベーター占有空間の最小化を狙いとするものである。しかも、上記第6.6-C.(2)エ.で論じたように、甲第8号証記載の発明の昇降路内機器配置自体にも、平断面での奥行き方向において最小化するという技術思想が、程度の問題は別として、把握できるものである。
よって、甲第8号証記載の発明及び技術思想1の両者ともエレベーター占有空間の最小化を狙いとするものである。
そして、甲第8号証記載の技術事項を考慮すれば、甲第8号証記載の発明に、技術思想1、上記周知技術、技術事項Aを適用して、上記相違点B-2ないしB-4に係る本件訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。

(3)相違点B-5
甲第13号証記載の発明には、エレベーター装置において返し車の回転面を昇降路の壁面に対して傾斜させて昇降路平断面の縮減を図る技術思想(以下、「技術思想2」という。)が示されている。
よって、甲第8号証記載の発明、技術思想2ともエレベーター装置の昇降路内機器配置に関するものであるから、同一の技術分野に属しており、甲第8号証記載の発明において、技術思想2を適用して、上記相違点B-5に係る本件訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到しうる程度のものと認められる。

7-B-3.むすび
以上のように、本件訂正発明は、甲第8号証記載の発明、技術思想1ないし2、甲第8号証、甲第6号証記載の技術事項、技術事項A、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、しかも、本件訂正発明は、全体としてみても、甲第8号証記載の発明、技術思想1ないし2、甲第8号証、甲第6号証記載の技術事項、技術事項A、及び上記周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。

7-C.まとめ
よって、本件訂正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第8.むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エレベーター装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】昇降路内を昇降するかごと、
前記かごと反対方向に昇降するカウンターウェイトと、
前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、
前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、
前記かごと前記カウンターウェイトを懸架するロープと、
前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、
前記昇降路内に配置され、前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、
前記第1の返し車を支持するビームと、を有するエレベータ装置において、
前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて配置され、前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつ最上階停止時のかご天井より下方に位置し、前記ビームに下側から取り付けられ、
前記第1の返し車は、前記昇降路の平断面において前記巻上機の少なくとも一部と重なることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項2】昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、
前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され、吊り車が設けられたカウンターウェイトと、
前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、
前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、
前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウエイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと、
前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、
前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記カウンターウェイトの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車とを有するエレベーター装置において、
前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向して、該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し、
前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように、前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間へ向けて前記モータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され、
前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜し、
前記第2の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において、近接する前記昇降路の壁面に対して、前記ロープが前記カウンターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記かごに近づく方向に傾斜し、前記巻上機の綱車は、前記カウンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置していることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項3】前記ビームを防振構造としたことを特徴とする請求項1に記載のエレベーター装置。
【発明の詳細な説明】
技術分野
この発明は、昇降路内に、かごとカウンターウェイトと、両者を懸架するロープと、該ロープを駆動する巻上機と、該ロープの懸架方向を転換する返し車とを有するエレベーター装置に関するものである。
背景技術
第12図および第13図は例えば特開平9-165172号公報の図2および図1に示された従来のエレベーター装置を示す平面図および側面図である。
図において、1は人または荷物が載るかご、2はかご1の重量を補償するカウンターウェイト、3はかご1とカウンターウェイト2とを懸架するロープ、4はロープ3を介してかご1とカウンターウェイト2とを駆動し昇降させる薄形の巻上機、4aは巻上機のシーブ、5a、5bはロープ3の懸架方向を転換する返し車、6はかご用ガイドレール、7はカウンターウェイト用ガイドレール、8は昇降路、11はかご1の吊り車、12はカウンターウェイト2の吊り車、13はかご側の綱止め、14はカウンターウェイト側の綱止めである。
次に、第12図?第13図を用いて、従来のエレベーター装置について説明する。
巻上機4のシーブ4aに懸架されたロープ3を介して、エレベーターのかご1およびカウンターウェイト2が昇降する。この際、かご用ガイドレール6がかご1の水平方向の移動を規制し、カウンターウェイト用ガイドレール7がカウンターウェイト2の水平方向の移動を規制して、昇降路内の他の機器や昇降路壁とかご1およびカウンターウェイト2との接触・干渉を防止している。ここで、かご1、カウンターウェイト2および巻上機4の垂直投影は互いに離れており、巻上機4は隣接する一つの壁面に平行に置かれている。
近年のエレベーター装置においては、エレベーター占有空間の最小化を狙いとして、機械室を設けず巻上機を昇降路に内臓する各種の方式が提案されている。具体的には、(1)薄形の巻上機をカウンターウェイトの昇降上限より上方に配置する方式、(2)巻上機を昇降路内の頂部即ちかご最上階停止時のかごの天井より上方に配置する方式、(3)巻上機を昇降路内のピット部即ちかご最下階停止時のかご床面より下方に配置する方式である。
このうち、(1)(2)はエレベーターの昇降に必要最小限の高さよりも多くの昇降路高さを要するうえ、昇降路頂部付近においてかご上に乗って巻上機の保守点検をする作業者が予期せぬかごの上昇により昇降路の天井に頭をぶつけないための防護策を講じる必要があるという欠点がある。(2)の場合は、巻上機が発する熱が昇降路の頂部即ち巻上機自信の付近に滞留するので温度上昇により巻上機が故障し易くなる。(3)は最も冠水し易いピット部に巻上機を配置するためにその防護手段が必要という欠点がある。前記の特開平9-165172号のエレベーター装置は、(1)の欠点を解消するものであるが、巻上機の垂直投影面の上方および下方の昇降路全高にわたって不使用空間を生ぜしめるという新たな欠点をもたらしている。
以上のように従来のエレベーター装置では、巻上機の垂直投影面の上方および下方の昇降路全高にわたって不使用空間を生ぜしめるという問題点があった。
発明の開示
本発明は、上記の問題点を解消するためになされたものであり、昇降路内の不使用空間の発生を極力押さえ、巻上機の温度上昇による故障を押さえ、昇降路への冠水に対して巻上機の損傷が無く、また点検時の予期せぬかごの上昇に対する防護手段の必要を無からしめることを目的としている。
この目的を達成するために、この発明のエレベーター装置では、昇降路内を昇降するかごと、前記かごと反対方向に昇降するカウンターウェイトと、前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、前記かごと前記カウンターウェイトを懸架するロープと、前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、前記昇降路内に配置され、前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、前記第1の返し車を支持するビームと、を有するエレベータ装置において、前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて配置され、前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつ最上階停止時のかご天井より下方に位置し、前記ビームに下側から取り付けられ、前記第1の返し車は、前記昇降路の平断面において前記巻上機の少なくとも一部と重なる。
また、この発明のエレベーター装置では、昇降路内を昇降し、乗降口を有するとともに吊り車が設けられたかごと、前記かごと反対方向に前記昇降路内を昇降し、該昇降路の平断面において前記乗降口に対して前記かごの側方に配置され、吊り車が設けられたカウンターウェイトと、前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、前記かごを前記かごの吊り車を介して懸架するとともに前記カウンターウエイトを前記カウンターウェイトの吊り車を介して懸架するロープと、
前記昇降路内に配置され、当該ロープが巻き掛けられた綱車及び該綱車を駆動するモータ部を有し、前記綱車を回転させることで前記ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機と、前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記かごの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第1の返し車と、前記昇降路内に配置され、前記巻上機の綱車から前記カウンターウェイトの吊り車に至る前記ロープが巻き掛けられて該ロープの方向を転換する第2の返し車とを有するエレベーター装置において、
前記巻上機は、前記綱車の回転軸方向の外形寸法が前記回転軸に対して垂直な方向の外形寸法よりも小さく、前記昇降路の平断面において前記カウンターウェイト及び前記かごとは離れて前記カウンターウェイトが配置された前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に平行にかつ前記カウンターウェイトと前記昇降路の壁面に沿って並んで配置されるとともに前記綱車が前記かごの側方に位置する前記昇降路の壁面に対向し、前記モータ部が前記かご側に対向して、該巻上機の下端は前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井より下方に位置し、前記第1の返し車は、前記巻上機より上方に位置し、前記平断面において、前記かごの吊り車に至る前記ロープが前記かごと前記巻上機との間を通るように、前記巻上機の綱車から前記かごと前記巻上機との間へ向けて前記モータ部を横切って前記モータ部と重なるよう配置され、前記第1の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において前記ロープが前記かごの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記乗降口から遠ざかる方向に位置して近接する前記昇降路の壁面に対して傾斜し、前記第2の返し車の回転面は、前記昇降路の平断面において、近接する前記昇降路の壁面に対して、前記ロープが前記カウンターウェイトの吊り車へ至る側が前記巻上機の綱車から巻き掛けられる側より前記かごに近づく方向に傾斜し、前記巻上機の綱車は、前記カウンターウェイトの吊り車よりも近接する前記昇降路の壁面側に位置している。
さらに、前記ビームを防振構造とした。
次に、本発明について、以下の通り、実施例を説明する。
実施例1.
第1図?第3図を用いて、エレベーター装置に関するこの発明の実施例1を説明する。
第1図は、この発明のエレベーター装置の実施例1の俯瞰面、第2図は平面図を示す。これは、エレベーターの乗降口からみてカウンターウェイトがかごの後方にあり、巻上機をかごの側方に配置した例である。図において、1は人または荷物が載るかご、2はかご1の重量を補償するカウンターウェイト、3はかご1とカウンターウェイト2とを懸架するロープ、4はロープ3を介してかご1とカウンターウェイト2とを駆動し昇降させる薄形の巻上機、4aは巻上機4のシーブ、4bは巻上機4のモーター、5a、5bはロープ3の懸架方向を転換する返し車、6はかご用ガイドレール、7はカウンターウェイト用ガイドレール、8は昇降路、8aは昇降路8の頂部、8bは昇降路8のピット部、9は巻上機4を支持するビーム、10は返し車5を支持するビーム、11はかご1の吊り車、12はカウンターウェイト2の吊り車、13はかご側の綱止め、14はカウンターウェイト側の綱止め、15は制御盤である。なお、第1図中の一点鎖線Aは、かご最上階停止時のかご天井の高さを示す。即ち、この線より上方が頂部である。また、第1図中の一点鎖線Bは、かご最下階停止時のかご床面の高さを示す。即ち、この線より下方がピット部である。
図において、巻上機4の下端は一点鎖線Bよりも上方にある。即ち、巻上機4は、かご最上階停止時のかごの天井よりも下方で、かつ、下端がかご最下階停止時のかごの床面よりも上方に配置されている。また、巻上機4は隣接する一つの壁に平行に配置されている。
さらに、返し車5aは昇降路8の平断面の投影面上で巻上機4と一部重なり合って配置されており、返し車5bは壁面に対して傾斜して配置されている。
さらに、巻上機4をかご用ガイドレール6およびカウンターウェイト用ガイドレール7によって支持されるビーム9の下側の固定している。そして、巻上機4のシーブ4aは昇降路8の平断面内でかご用ガイドレール6の背面よりもかご側に位置している。ここでガイドレールの背面とは第3図Cの部分を云う。本例では、巻上機4をビーム9に対して直接固定しているが、弾性体を介して取り付け防振構造とすることもできる。また、ビーム9とかご用ガイドレール6、カウンターウェイト用ガイドレール7との間を弾性体を介して取り付けることもできる。
また、返し車5a、5bをかご用ガイドレール6およびカウンターウェイト用ガイドレール7によって支持されるビーム10に固定している。本例では、返し車5a、5bをビーム10に対して直接固定しているが、弾性体を介して取り付け防振構造とすることもできる。また、ビーム10とかご用ガイドレール6、カウンターウェイト用ガイドレール7との間を弾性体を介して取り付けることもできる。
さらに、制御盤15は、下端をかご最下階停止時のかごの床面よりも上方にして、巻上機4とほぼ同じ高さに配置されている。
制御盤15により駆動される巻上機4のシーブ4aに懸架されたロープ3が返し車5a、5bにより方向転換され、かごの吊り車11およびカウンターウェイトの吊り車12を介して、かご1およびカウンターウェイト2を昇降させる。この際、かご用ガイドレール6およびカウンターウェイト用ガイドレール7が、かご1およびカウンターウェイト2の水平方向の移動を規制する。
返し車5aは昇降路8の平断面の投影面上で巻上機4と一部重なり合って配置されかつ、巻上機4のシーブ4aは昇降路8の平断面内でかご用ガイドレール6の背面よりもかご側に位置しているので、昇降路8の平断面の投影面上で巻上機4が占有する面積は小さく、昇降路全高にわたる不使用空間を縮減している。また、巻上機のシーブ4aに巻き掛けられているロープの巻付け角は180°より大きくできるので、トラクション能力を大きくすることができる。また、巻上機4はかご最上階停止時のかご天井より下方にあるので、かご上に乗って作業する点検作業者が、予期せぬかごの上昇によって昇降路の天井に頭をぶつける惧れは無く、防護手段を要しない。さらに、巻上機の発する熱は上方である昇降路の天井付近へゆくので、温度上昇により巻上機が故障することもない。また、返し車5bは昇降路8の壁面に対し傾斜しているので、シーブ4aのロープ溝へのロープ3の入り込み角が小さくなりロープの損傷が防止されている。
また、ビーム9の下に巻上機4が取り付けられ、ビーム10には返し車5a、5bが取り付けられているので、ビーム9を介して、かご用ガイドレール6、カウンターウェイト用ガイドレール7に作用するロープ3の張力による上向きの力と、ビーム10を介して、かご用ガイドレール6、カウンターウェイト用ガイドレール7に作用するロープ3の張力による下向きの力とがガイドレール内部で相殺し合い、建物にかかる力を軽減している。
さらに、巻上機4の下端および制御盤15の下端は、かご最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井面より下方にあるので、ピットが冠水しても損傷を受けることは無い。
この種の機械室の無い方式のエレベーター装置では、ピットの深さは1.2mから1.5m程度であり、この位置に巻上機および制御盤が配置されていると、作業者がピット床に立った時に手が届く範囲、例えば1.2mから1.7m高さの範囲(かご最下階停止時のかご床面?ピット床から1.7m高さ)にあることになり、点検作業が容易である。
なお、巻上機4の下端および制御盤15の下端をかご1階停止時のかご床面より上方でかつかご天井面より下方にした場合には、ピットのみならず地下階全体が冠水しても巻上機4および制御盤15が損傷を受けることは無い。
また、巻上機4の下端をかご基準階停止時のかご床面より上方でかつかご天井面より下方にし制御盤15をほぼ同じ高さに配置した場合、エレベーターの運行管理に即した点検が最もやり易くなる。
巻上機4の下端を最上階停止時のかご床面より上方でかつかご天井面より下方にした場合には、巻上機4と返し車5a、5bとの高さが接近しているので、両者を点検するのに便利である。
また、両者を支持するビームを一体にして、材料の節減と空間の縮減を図ることも可能になる。
実施例2.
第4図?第5図を用いて、エレベーター装置に関するこの発明の実施例2を説明する。
第4図はこの発明のエレベーター装置の実施例2の俯瞰図、第5図は平面図を示す。これは、エレベーターの乗降口からみてカウンターウェイトがかごの後方にあり、巻上機をカウンターウェイトの昇降空間の側方に配置した例である。図において、前述の図と同符号は相当部分を示し説明は省略する。
図において、巻上機4の下端は一点鎖線Bよりも上方にある。即ち、巻上機4は、かご最上階停止時のかごの天井よりも下方で、かつ、下端がかご最下階停止時のかごの床面よりも上方に配置されている。また、巻上機4は隣接する一つの壁に平行に配置されている。
さらに、返し車5a、5bは昇降路8の平断面の投影面上で巻上機4と一部重なり合って配置されている。また、返し車5bは昇降路8の壁面に対し傾斜しているので、シーブ4aのロープ溝へのロープ3の入り込み角が小さくなりロープの損傷が防止されている。
さらに、巻上機4をかご用ガイドレール6およびカウンターウェイト用ガイドレール7によって支持されるビーム9に下側から固定している。本例では、巻上機4をビーム9に対して直接固定しているが、弾性体を介して取り付け防振構造とすることもできる。また、ビーム9とかご用ガイドレール6、カウンターウェイト用ガイドレール7との間を弾性体を介して取り付けることもできる。
また、返し車5をかご用ガイドレール6およびカウンターウェイト用ガイドレール7によって支持されるビーム10に固定している。本例では、返し車5をビーム10に対して直接固定しているが、弾性体を介して取り付け防振構造とすることもできる。また、ビーム10とかご用ガイドレール6、カウンターウェイト用ガイドレール7との間を弾性体を介して取り付けることもできる。
さらに、制御盤15は、昇降路8の平断面において投影面が巻上機4と重なる直近の直上または直下に配置されている。
制御盤15により駆動される巻上機4のシーブ4aに懸架されたロープ3が返し車5により方向転換され、かごの吊り車11およびカウンターウェイトの吊り車12を介して、かご1およびカウンターウェイト2を昇降させる。この際、かご用ガイドレール6およびカウンターウェイト用ガイドレール7が、かご1およびカウンターウェイト2の水平方向の移動を規制する。
返し車5aは昇降路8の平断面の投影面上で巻上機4と一部重なり合って配置され、制御盤15は昇降路8の平断面において投影面が巻上機4と重なる直近の直上または直下に配置されているので、昇降路8の平断面の投影面上で巻上機4が占有する面積は小さく、昇降路全高にわたる不使用空間を縮減している。また、巻上機4はかご最上階停止時のかご天井より下方にあるので、かご上に乗って作業する点検作業者が、予期せぬかごの上昇によって昇降路の天井に頭をぶつける惧れは無く、防護手段を要しない。さらに、巻上機の発する熱は上方である昇降路の天井付近へゆくので、熱により巻上機が故障することもない。
また、ビーム9の下に巻上機4が取り付けられ、ビーム10には返し車5a、5bが取り付けられているので、ビーム9を介して、かご用ガイドレール6、カウンターウェイト用ガイドレール7に作用するロープ3の張力による上向きの力と、ビーム10を介して、かご用ガイドレール6、カウンターウェイト用ガイドレール7に作用するロープ3の張力による下向きの力とがガイドレール内部で相殺し合い、建物にかかる力を軽減している。
さらに、巻上機4の下端はかご最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井面より下方にあり、制御盤15は昇降路8の平断面において投影面が巻上機4と重なる直近の直上にあるので、ピットが冠水しても巻上機4および制御盤15は損傷を受けることは無い。
この種の機械室の無い方式のエレベーター装置では、ピットの深さは1.2mから1.5m程度であり、この位置に巻上機が配置されていると、作業者がピット床に立った時に手が届く範囲、例えば1.2mから1.7m高さの範囲(かご最下階停止時のかご床面?ピット床から1.7m高さ)にあることになり、点検作業が容易である。
なお、巻上機4の下端をかご1階停止時のかご床面より上方でかつかご天井面より下方にし、制御盤15を昇降路8の平断面において投影面が巻上機4と重なる直近の直上に配置した場合には、ピットのみならず地下階全体が冠水しても巻上機4および制御盤15が損傷を受けることは無い。
また、巻上機4の下端をかご基準階停止時のかご床面より上方でかつかご天井面より下方にし、制御盤15を昇降路8の平断面において投影面が巻上機4と重なる直近の直上または直下に配置した場合、エレベーターの運行管理に即した点検が最もやり易くなる。
巻上機4の下端を最上階停止時のかご床面より上方でかつかご天井面より下方にした場合には、巻上機4と返し車5との高さが接近しているので、両者を点検するのに便利である。
また、両者を支持するビームを一体にして、材料の節減と空間の縮減を図ることも可能になる。
実施例3.
第6図?第7図および第3図を用いて、エレベーター装置に関するこの発明の実施例3を説明する。
第6図は、この発明のエレベーター装置の実施例3の俯瞰図、第7図は平面図を示す。これは、エレベーターの乗降口からみてカウンターウェイトがかごの側方にあり、巻上機をカウンターウェイトと同じ側のかごの側方でカウンターウェイトとは昇降路の平断面上で投影面が重ならないように配置した例である。図において、前述の図と同符号は相当部分を示し説明は省略する。
図において、巻上機4の下端は一点鎖線Bよりも上方にある。即ち、巻上機4は、かご最上階停止時のかごの天井よりも下方で、かつ、下端がかご最下階停止時のかごの床面よりも上方に配置されている。また、巻上機4は隣接する一つの壁に平行に配置されている。
さらに、返し車5aは昇降路8の平断面の投影面上で巻上機4と一部重なり合って配置されている。また、返し車5a、5bは昇降路8の壁面に対し傾斜しているので、シーブ4aのロープ溝へのロープ3の入り込み角が小さくなりロープの損傷が防止されている。
さらに、巻上機4をかご用ガイドレール6およびカウンターウェイト用ガイドレール7によって支持されるビーム9に下側から固定している。そして、巻上機4のモータ4bは昇降路8の平断面内でかご用ガイドレール6の背面よりもかご側に位置している。ここでガイドレールの背面とは図3のC部分を云う。本例では、巻上機4をビーム9に対して直接固定しているが、弾性体を介して取り付け防振構造とすることもできる。また、ビーム9とかご用ガイドレール6、カウンターウェイト用ガイドレール7との間を弾性体を介して取り付けることもできる。
また、返し車5をかごガイドレール6およびカウンターウェイト用ガイドレール7によって支持されるビーム10に固定している。本例では、返し車5をビーム10に対して直接固定しているが、弾性体を介して取り付け防振構造とすることもできる。また、ビーム10とかご用ガイドレール6、カウンターウェイト用ガイドレール7との間を弾性体を介して取り付けることもできる。
制御盤15により駆動される巻上機4のシーブ4aに懸架されたロープ3が返し車5により方向転換され、かごの吊り車11およびカウンターウェイトの吊り車12を介して、かご1およびカウンターウェイト2を昇降させる。この際、かご用ガイドレール6およびカウンターウェイト用ガイドレール7が、かご1およびカウンターウェイト2の水平方向の移動を規制する。
返し車5aは昇降路8の平断面の投影面上で巻上機4と一部重なり合って配置されかつ、巻上機4のモーター4bは昇降路8の平断面内でかご用ガイドレール6の背面よりもかご側に位置しているので、昇降路8の平断面の投影面上で巻上機4が占有する面積は小さく、昇降路全高にわたる不使用空間を縮減している。また、巻上機4はかご最上階停止時のかご天井より下方にあるので、かご上に乗って作業する点検作業者が、予期せぬかごの上昇によって昇降路の天井に頭をぶつける惧れは無い。さらに、巻上機の発する熱は上方である昇降路の天井付近へゆくので、熱により巻上機が故障することもない。
また、ビーム9の下に巻上機4が取り付けられ、ビーム10には返し車5a、5bが取り付けられているので、ビーム9を介して、かご用ガイドレール6、カウンターウェイト用ガイドレール7に作用するロープ3の張力による上向きの力と、ビーム10を介して、かご用ガイドレール6、カウンターウェイト用ガイドレール7に作用するロープ3の張力による下向きの力とがガイドレール内部で相殺し合い、建物にかかる力を軽減している。
さらに、巻上機4の下端および制御盤15の下端はかご最下階停止時のかご床面より上方でかつかご天井面より下方にあるので、ピットが冠水しても巻上機4および制御盤15は損傷を受けることは無い。
この種の機械室の無い方式のエレベーター装置では、ピットの深さは1.2mから1..5m程度であり、この位置に巻上機および制御盤が配置されていると、作業者がピット床に立った時に手が届く範囲、例えば1.2mから1.7m高さの範囲(かご最下階停止時のかご床面?ピット床から1.7m高さ)にあることになり、点検作業が容易である。
なお、巻上機4の下端をかご1階停止時のかご床面より上方でかつ上端をかご天井面より下方にし、制御盤15をほぼ同じ高さに配置した場合には、ピットのみならず地下階全体が冠水しても巻上機4および制御盤15が損傷を受けることは無い。また、巻上機4の下端をかご基準階停止時のかご床面より上方でかつ上端をかご天井面より下方にし制御盤15をほぼ同じ高さに配置した場合、エレベーターの運行管理に即した点検が最もやり易くなる。
巻上機4の下端を最も上階停止時のかご床面より上方でかつ上端をかご天井面より下方にした場合には、巻上機4と返し車5とが接近しているので、両者の位置調整が容易であり、点検にも便利である。
実施例4.
第8図?第10図を用いて、エレベーター装置に関するこの発明の実施例4を説明する。
第8図は、この発明のエレベーター装置の実施例4の俯瞰図、第2図は平面図を示し、第9図および第10図は要部を示す。これは、エレベーターの乗降口からみてカウンターウェイトがかごの後方にあり、巻上機をかごの側方でかつ最上階停止時のかご天井高さのすぐ下方で返し車を支持するビームに対して下側に配置した例である。前述の図と同符号は相当部分を示し説明は省略する。
図において、16はビーム10の振動を吸収する弾性体である。ここで、返し車5の昇降路壁に対する傾斜角は可変であり、二つの返し車5相互の間隔も可変の構造としている。この可変構造は、例えばビーム10と返し車5の枠とをボルト締結とし、かつその締結穴を長穴にすれば実現できる。但し、可変構造はこれに限るものではない。また、この可変構造は実施例1から実施例3においても適用可能である。
返し車5を支持するビーム10の下方に、巻上機4を取り付けているので、ロープ3の張力により、巻上機4のシーブ4aに上方向に作用する力と、返し車5に下方向に作用する力とにより、ビーム10に作用する力が内力として相殺されるため、ガイドレールに作用する力が軽減される。
また、巻上機4と返し車5とが同一のビーム10に取り付けられているので相互の位置調整が容易である。
また、巻上機4と返し車5とが同一のビーム10に取り付けられており、ビーム10は弾性体16を介してかごのガイドレール6およびカウンターウェイトのガイドレール7とに取り付けられているので、効果的に巻上機4と返し車5の振動を絶縁できる。
さらに、返し車5の昇降路壁との傾斜角が可変であり、二つの返し車5の相互の間隔も可変であるので、異なるサイズのかご1で、かごの吊り車12、カウンターウェイトの吊り車13との昇降路平面内での位置関係が変わっても、同一設計で対応できる。
実施例5.
第11図を用いて、エレベーター装置に関するこの発明の一実施例を説明する。
第11図は、この発明のエレベーター装置の実施例5を示す。図において、前述の図と同符号は相当部分を示し説明は省略する。図において17は二つあった返し車5のうち一方を置き換えた駆動装置である。なお、この置き換えは実施例1から実施例4において適用可能である。
二つの返し車5a、5bの一方を駆動装置17に置き換え、巻上機4と同期駆動することにより駆動能力を向上させることができ、大容量のエレベーター装置に対しても対応できる。
本発明にかかるエレベーター装置は、以上のように構成されているので、以下に示す効果が得られる。
この発明のエレベーター装置では、昇降路の平断面の投影面上で巻上機が占有する面積は小さく、昇降路全高にわたる不使用空間を縮減している。
また、ロープが巻上機のシーブのロープ溝に入り込む角度が小さいのでロープの損傷が防止できる。
さらに、前記巻上機の下端を前記昇降路の最下階停止時のかご床面より上方になるよう配置しているので、ピットに冠水があっても巻上機が損傷することはない。
さらに、前記第1の返し車を支持するビームに、前記巻上機を下側に取り付けているので、ガイドレールに作用する力を削減できる。また、返し車と巻上機との位置調整が容易であり、点検にも便利である。
さらに、前記ビームを防振構造としているので、巻上機と返し車との振動を効果的に絶縁できる。
さらに、前記巻上機と前記返し車とを前記昇降路の平断面の投影面上で少なくとも一部を重ね合わせているので、昇降路空間を縮減できる。
産業上の利用可能性 以上のように、本発明にかかるエレベーター装置は、昇降路内を昇降するかごと、前記かごと対向方向に移動するカウンターウェイトと、前記かごの水平方向の移動を規制するかご用ガイドレールと、前記カウンターウェイトの水平方向の移動を規制するカウンターウェイト用ガイドレールと、前記かごと前記カウンターウェイトを懸架するロープと、前記昇降路内にあって前記ロープが巻き掛けられ当該ロープを介して前記かごおよび前記カウンターウェイトを昇降させる巻上機とを有するエレベーターにおいて用いられるのに適している。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の実施例1のエレベーター装置の俯瞰図である。
第2図は、本発明の実施例1および実施例4のエレベーター装置の平面図である。
第3図は、本発明の実施例1?実施例5で用いるガイドレールの「背面」の説明図である。
第4図は、本発明の実施例2のエレベーター装置の俯瞰図である。
第5図は、本発明の実施例2のエレベーター装置の平面図である。
第6図は、本発明の実施例3のエレベーター装置の俯瞰図である。
第7図は、本発明の実施例3のエレベーター装置の平面図である。
第8図は、本発明の実施例4のエレベーター装置の俯瞰図である。
第9図は、本発明の実施例4のエレベーター装置の要部の図である。
第10図は、本発明の実施例4のエレベーター装置の要部の図である。
第11図は、本発明の実施例5のエレベーター装置の俯瞰図である。
第12図は、特開平9-165172号公報に示された従来のエレベーター装置の平面図である。
第13図は、特開平9-165172号公報に示された従来のエレベーター装置の側面図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-06-27 
結審通知日 2008-07-02 
審決日 2008-07-15 
出願番号 特願2001-543429(P2001-543429)
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (B66B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 志水 裕司  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 小谷 一郎
西本 浩司
登録日 2003-11-07 
登録番号 特許第3489578号(P3489578)
発明の名称 エレベーター装置  
代理人 内田 敏彦  
代理人 高橋 省吾  
代理人 岩井 泉  
代理人 高橋 省吾  
代理人 伊達 研郎  
代理人 阪口 春男  
代理人 西山 宏昭  
代理人 丸山 隆  
代理人 伊達 研郎  
代理人 丸山 隆  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 白木 裕一  

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