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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02C
管理番号 1184741
審判番号 不服2006-11595  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-08 
確定日 2008-09-18 
事件の表示 平成10年特許願第183670号「水噴霧による出力増加機構を備えたガスタービン」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 3月16日出願公開、特開平11- 72029〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成10年6月30日(優先権主張平成9年6月30日)の出願であって、平成17年11月30日付けで拒絶の理由が通知され、平成18年2月3日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成18年4月21日付けで拒絶査定がなされた。
そして、平成18年6月8日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成18年7月6日付けで、請求の理由を補正する手続補正書及び明細書を補正する手続補正書が提出されて手続補正がなされたものである。


第2.平成18年7月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年7月6日付けの手続補正を却下する。

[理由1]
1.補正の内容
平成18年7月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1については、以下のように補正された。

「 【請求項1】
供給された空気を圧縮して吐出する圧縮機、前記圧縮機から吐出した空気と燃料とが燃焼される燃焼器と、前記燃焼器の燃焼ガスにより駆動されるタービンとを備えたガスタービンにおいて、
前記圧縮機の上流側に配置され、前記圧縮機に空気を供給する吸気ダクトと、前記吸気ダクト内を流れる空気に水滴を噴霧する噴霧装置とを備え、前記噴霧装置は、前記吸気ダクト内に配置され該吸気ダクト内に水滴を噴霧する噴霧ノズルと、該噴霧ノズルに給水する水供給系統とを備え、
さらに、前記噴霧ノズルから前記吸気ダクト内に噴霧される水滴の量を、該水滴の一部が前記圧縮機に流入する前に前記吸気ダクト内で気化して前記吸気ダクト内の空気の温度を外気温度より低下させると共に、前記水滴の残りが前記温度を低下させた空気と共に前記圧縮機内に流入し前記圧縮機内を流下中に気化して圧縮空気を冷却し得る水滴量に制御する制御装置と、
前記圧縮機に供給される空気の湿度を検知する検知装置とを備え、
前記制御装置は、前記検知装置の検知信号に基づいて前記噴霧装置から噴霧する噴霧量を制御することを特徴とするガスタービン。」

2.本件補正の適否についての判断
本件補正は、本件補正前(平成18年2月3日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲)の請求項1に係る発明を特定する事項である「水滴を噴霧する噴霧ノズル」を、「該吸気ダクト内に水滴を噴霧する噴霧ノズル」と限定する補正を含むものである。
よって、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正により補正された前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるか否かについて、以下に検討する。

3.刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である米国特許第5463873号明細書(以下、「刊行物」という。)には、次の事項が図面と共に記載されている。

ア.「This invention relates to evaporative cooling generally and more specifically to an apparatus and method for evaporative cooling of the air leading into a gas turbine engine.」(明細書1ページ1欄6?9行)
以下、当審仮訳。
「この発明は、一般的には蒸発冷却、特にガスタービンエンジンへ導く空気を蒸発冷却するための装置や方法に関するものである。」

イ.「It is desirable that fog can be introduced with evaporation into the air stream to avoid water droplets. Water droplets tend to clog subsequent filters and thus introduce undesirable inlet air pressure leading to a drop in turbine output power. Water droplets which pass through to the turbine tend to reduce its operating life. Hence, the fog should be introduced in such manner as will enable its absorption as vapor in the air stream.」(明細書1ページ2欄9?16行)
以下、当審仮訳。
「水滴を避けるために蒸発で気流へ霧を取り入れることができることが望ましい。水滴は、そのすぐ後のフィルターを詰まらせて、よって、タービン出力パワーの低下に引き起こす不適当な入口空気圧力を招く傾向がある。タービンに達する水滴は、その運転寿命を減らす傾向がある。したがって、霧は、気流中の水蒸気としてその吸収を可能にするような方法で取り入れられるのがよい。」

ウ.「With reference to FIGS. 1 and 2 an evaporative cooling system 10 in accordance with the invention is shown formed of arrays 12.1 and 12.2 of foggers 14 installed across air streams 13.1 and 13.2 leading to air inlets 16.1 and 16.2 coupled to air inlet ducts 18.1 and 18.2 respectively for a gas turbine engine 17, shown in FIG. 3.」(明細書2ページ3欄26?31行)
以下、当審仮訳。
「図3に示されるように、図1及び2を参照すると、この発明に従う蒸発冷却システム10は、ガスタービンエンジン17のためにそれぞれ吸気ダクト18.1及び18.2につながる吸気口16.1及び16.2に入る気流13.1及び13.2を横切って取付られた噴霧器14の配列12.1及び12.2で構成されている。」

エ.「The foggers use pressurized air and water supplied in air and water lines 20, 22 respectively.」(明細書2ページ3欄44?46行)
以下、当審仮訳。
「噴霧器は、空気と水の導管の20,22でそれぞれ供給された加圧空気と水を用いる。」

オ.「FIGS. 4 and 5 illustrate the fogger grids with greater detail with an enlargement of a portion 50 of grid 12.1 and a fogger 14. Each fogger 14 is formed of a cylindrical housing 52 having a central bore 54 which is in alignment with a resonator tip 56 mounted on a strut 57 that is clamped into the housing 52 by a set screw 58. Bore 54 is in communication with a threaded counter bore 60 into which an externally threaded tube 62 is screwed and clamps a seal 64 against the bottom end 66 of the counterbore 60. The other end 67 of tube 62 is screwed into a threaded opening 69 in rectangularly shaped air supply tube 22.
A rectangular water supply tube 20 (other cross-sectional shapes can be used) is connected by a fixed conduit 70 to the water bore 72 of fogger housing 52. The bore 72 intersects the air bore 54.
The operation of the foggers are identical in that when air at pressure, usually in excess of 30 psi, is supplied in air conduit 22 and water is supplied in conduit 20 at a fixed lower pressure at a differential of typically in the range of about 17 psi, then a high speed stream of air and water emerge from the outlet 74 of bore 54. The stream impacts the flat surface 76 of the tapered resonator 56 to produce a plume of fine water particles that appear as fog and rapidly evaporate in an air stream 13.」(明細書2ページ3欄66行?4欄22行)
以下、当審仮訳。
「図4及び5は、噴霧器の格子を、格子12.1の一部50及び噴霧器14を拡大して、さらに詳しく図示する。それぞれの噴霧器14は、固定ねじ58によってハウジング52へ留められる支柱57により取り付けた、共振器の先端56と一直線上にある中央の孔54がある筒状ハウジング52で構成される。孔54は、端ぐり60の下端部66に対してシール64をねじ留めする、外面がねじが切られた管62がはまっている、ねじが切られた端ぐり60と通じている。管62の他端67は、矩形の給気管22のねじが切られた孔69へねじ留めされる。
矩形の給水管20(他の横断面形状も使用することができる)は、固定導管70によって、噴霧器ハウジング52の給水孔72に接続される。孔72は空気孔54と交差する。前記噴霧器の作動は同じであって、通常30psiを越える圧力の空気が、空気導管22で供給され、水は、一般的には約17psiの範囲の差で固定されたより低い圧力で供給され、次に空気及び水の高速流が孔54の出口74から出てくるようになっている。流れは、霧として現われた後に、気流13中で急速に蒸発する細かい水粒子の水柱を生み出すために先細の共振器56の平面76と衝突する。」

カ.「With reference to FIGS. 3A and 3B, the amount of fog introduced into an air stream 13 is controlled in such manner that only so much fog is added as the ambient outside air can be expected to absorb during diverse weather conditions as may arise. This involves a control 98 with which a setpoint signal is produced representative of the capacity of the ambient air stream 13.1 to absorb fog. The setpoint signal represents a desired cooler dry bulb temperature to which the generation of fog from the foggers 14 is regulated to deliver the proper amount of fog. Generation of the setpoint signal involves sensing the wet bulb temperature of the air stream prior to fogging. A wet bulb temperature sensor 100 is positioned within the air stream 13.1 and produces an electrical signal representative of the wet bulb temperature on line 102. A dry bulb temperature sensor 104 is placed within the air stream 13.1 to produce an electrical signal on line 106 representative of the temperature of the air stream.」(明細書2ページ4欄50?59行)
以下、当審仮訳。
「図3A及び3Bを参照すると、気流13へ導入された霧の量は、生じるであろう多様な天候の間に、周囲の大気が吸収すると予想することができるのと同じだけの量の霧が加えられるように制御される。これは、霧を吸収する周囲の気流13.1の容量を表す設定信号が生成される制御装置98を含む。設定信号は、噴霧器14からの霧の生成が適正な量の霧を加えるよう調節される所望の冷却乾球温度を表わす。設定信号の生成は噴霧に先立って気流の湿球温度を検知することを含んでいる。湿球温度センサー100は気流13.1内に位置し、湿球温度を表す電気信号を線102に生成する。気流の温度を表す線106の電気信号を生成するために、乾球温度センサー104は気流13.1内に配置される。」

キ.「1. A system for evaporative cooling of an air stream leading to the inlet of an internal combustion engine such as a gas turbine engine comprising:
fogger means for injecting fog into the air stream;
means for generating a control signal representative of the capacity of the airstream to absorb water vapor from fog produced by the fogger means;
and means responsive to the control signal for regulating the fogger means so as to cause the injection of fog into the airstream commensurate with its capacity to absorb water vapor, wherein the control signal generating means further comprises:
means for generating a first temperature signal of the dry bulb temperature of the air stream before being exposed to the fog;
means for generating a second temperature signal representative of the wet bulb temperature of the airstream before its exposure to the fog;
means responsive to the first and second temperature signals for generating a setpoint signal representative of an achievable temperature of the airstream at said gas turbine inlet.」(明細書4ページ7欄19?40行)
以下、当審仮訳。
「1.ガス・タービンエンジンのような内燃機関の吸気口に達する気流の蒸発冷却用のシステムであって、
気流に霧を注入するための噴霧手段と、
前記噴霧手段によって生み出された霧から水蒸気を吸収する気流の容量を表示する制御信号を生成する手段と、
また、水蒸気を吸収する容量と釣り合った気流への霧の噴射をさせるように噴霧手段を調節するための制御信号に応答する手段とからなり、そして、前記制御信号を生成する手段はさらに次のもので構成されているシステム。
前記霧へさらされる前の気流の乾球温度を表す第1の温度信号を生成する手段、
前記霧へさらされる前の気流の湿球温度の表す第2の温度信号を生成する手段、
前記ガスタービン吸気口で気流が達成可能な温度を表す設定信号を生成するために第1及び第2の温度信号に応答する手段。」

ク.「7. A method for evaporative cooling of an airstream leading to a gas turbine engine, comprising the steps of:
injecting fog into the airstream at a plurality of locations arranged in an array across the air stream;
generating a control signal representative of the capacity of the airstream to absorb water vapor from the fogging step;
regulating the injection of fog into the airstream in response to the control signal so as to cause the injection of fog into the airstream commensurate with its capacity to absorb water vapor;
wherein the step of generating the control signal further includes the steps of:
generating a capacity signal representative of the difference between the dry bulb temperature and the wet bulb temperature of the airstream prior to the injection of fog;
and applying the capacity signal to regulate the amount of fog injected into the airstream.」(明細書4ページ8欄25?43行)
以下、当審仮訳。
「7.次のステップを含むガス・タービンエンジンに達する気流の蒸発冷却のための方法であって、
気流を横切って配列された複数の位置で気流に霧を注入するステップと、
噴霧ステップから水蒸気を吸収する気流の容量を表わす制御信号を生成するステップと、
制御信号に応じて水蒸気を吸収するその容量と釣り合った気流への霧の噴射をさせるように気流への霧の噴射を調節するステップとからなり、
前記制御信号を生成するステップが、
霧の噴射に先立って気流の乾球温度と湿球温度の間の差を表す容量信号を生成するステップと、
気流に注入された霧の量を調節する容量信号を適用するステップとからなる方法。」

ケ.上記オ.の記載によれば、「fogger 14(噴霧器14)」、「water supply tube 20(給水管20)」及び「fixed conduit 70(固定導管70)」が、いずれも「噴霧」に関する部品であることは明らかであるから、これら部品は全体として「噴霧装置」を構成するものといえる。

したがって、刊行物には次の発明が記載されていると認められる。
「ガスタービンにおいて、
前記ガスタービンの上流側に配置され、前記ガスタービンに空気を供給する吸気ダクト18.1,18.2と、前記吸気ダクト18.1,18.2内を流れる空気に水滴を噴霧する噴霧装置とを備え、前記噴霧装置は、前記吸気ダクト18.1,18.2内に配置され該吸気ダクト18.1,18.2内に水滴を噴霧する噴霧器14と、該噴霧器14に給水する給水管20及び固定導管70とを備え、
さらに、前記噴霧器14から前記吸気ダクト18.1,18.2内に噴霧される水滴の量を、該水滴の一部が前記ガスタービンに流入する前に前記吸気ダクト18.1,18.2内で気化して前記吸気ダクト18.1,18.2内の空気の温度を外気温度より低下させる水滴量に制御する制御装置98と、
前記ガスタービンに供給される空気の乾球温度と湿球温度を検知する手段とを備え、
前記制御装置98は、前記乾球温度と湿球温度を検知する手段が検知した乾球温度と湿球温度に基づいて前記噴霧装置から噴霧する噴霧量を制御するガスタービン。」(以下「刊行物記載の発明」という。)

4.対比
本願補正発明と刊行物記載の発明とを対比すると、刊行物記載の発明における「吸気ダクト18.1,18.2」、「噴霧器14」及び「給水管20及び固定導管70」は、それぞれ、本願補正発明における「吸気ダクト」、「噴霧ノズル」及び「水供給系統」に相当する。
また、刊行物記載の発明の「前記ガスタービンに供給される空気の乾球温度と湿球温度を検知する手段」は、噴霧装置から噴霧する噴霧量を制御する為にガスタービンに供給される空気の状態を検知する検知装置である点で、本願補正発明の「前記圧縮機に供給される空気の湿度を検知する検知装置」と共通する。

してみると、両者は、
「ガスタービンにおいて、
前記ガスタービンの上流側に配置され、前記ガスタービンに空気を供給する吸気ダクトと、前記吸気ダクト内を流れる空気に水滴を噴霧する噴霧装置とを備え、前記噴霧装置は、前記吸気ダクト内に配置され該吸気ダクト内に水滴を噴霧する噴霧ノズルと、該噴霧ノズルに給水する水供給系統とを備え、
さらに、前記噴霧ノズルから前記吸気ダクト内に噴霧される水滴の量を、該水滴の一部が前記圧縮機に流入する前に前記吸気ダクト内で気化して前記吸気ダクト内の空気の温度を外気温度より低下させる水滴量に制御する制御装置と、
前記ガスタービンに供給される空気の状態を検知する検知装置とを備え、
前記制御装置は、前記検知装置の検知信号に基づいて前記噴霧装置から噴霧する噴霧量を制御するガスタービン。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(1)相違点1
「ガスタービン」について、本願補正発明は、「供給された空気を圧縮して吐出する圧縮機、前記圧縮機から吐出した空気と燃料とが燃焼される燃焼器と、前記燃焼器の燃焼ガスにより駆動されるタービンとを備えた」ものであるのに対し、刊行物記載の発明は、その具体的な構成が明らかではない点。

(2)相違点2
「吸気ダクト」の配置について、本願補正発明は、「ガスタービン」の「圧縮機の上流側」にあるのに対し、刊行物記載の発明は、「ガスタービン」の「吸気口」の上流側にはあるが、「圧縮機」との関係は明らかではない点。

(3)相違点3
「前記ガスタービンに供給される空気の状態を検知する検知装置」について、本願補正発明は、「圧縮機に供給される空気の湿度を検知する」ものであるの対し、刊行物記載の発明は、「ガスタービン」の「吸気口」に供給される空気の乾球温度と湿球温度を検知するものである点。

(4)相違点4
「制御装置」について、本願補正発明は、「前記水滴の残りが前記温度を低下させた空気と共に前記圧縮機内に流入し前記圧縮機内を流下中に気化して圧縮空気を冷却し得る」制御を行うものであるのに対し、刊行物記載の発明は、そのような制御は行っていない点。

5.判断
上記相違点について検討する。

(1)相違点1及び2について
「ガスタービン」が、「供給された空気を圧縮して吐出する圧縮機、前記圧縮機から吐出した空気と燃料とが燃焼される燃焼器と、前記燃焼器の燃焼ガスにより駆動されるタービンとを備えた」ものであることは、技術常識である。
また、「ガスタービン」の「吸気口」によって吸気された空気が「圧縮機」へ供給される、すなわち、「ガスタービン」の「吸気口」が「圧縮機」の上流側にあることも、技術常識である。
したがって、刊行物記載の発明において、上記相違点1及び2に係る本願補正発明のように構成することは、当業者にとり、ごく普通のことにすぎない。

(2)相違点3について
上記(1)で説示したことに加え、空気の「乾球温度」と「湿球温度」とを検知することで、空気の「湿度」を知ることが周知であることを勘案すれば、刊行物記載の発明において、上記相違点3に係る本願補正発明のように構成することは、当業者が設計上適宜になし得たことにすぎない。

(3)相違点4について
刊行物記載の発明は、上記2.のイ.のとおり、水滴を圧縮機内に流入し圧縮機内を流下中に気化させることをしないものである。
しかし、本願優先日前に、水滴を圧縮機内に流入し圧縮機内を流下中に気化させる技術は周知である(以下、単に「周知技術」という。例:特開昭61-283728号公報2ページ左下欄19行?3ページ左上欄2行、特開平5-171955号公報。なお、例示した公報以外にも、同様の技術について記載されたものとして、第11回秋季講演会講演論文集,社団法人日本ガスタービン学会,平成8年11月,180?186ページ、国際公開第97/43530号(本願優先日後、本願出願日前の1997年11月20日公開)等がある。)。
また、水滴を圧縮機内に流入した場合に水滴が圧縮機翼に与える損傷は、水滴を微細化することで抑制できることは、当業者に周知の知見であり(参考:特開平1-167415号公報3ページ右下欄3?6行)、水滴を圧縮機内に流入させること自体が不可能であるとも認められない。
したがって、刊行物記載の発明において、前記周知技術を参考に、上記相違点4に係る本願補正発明のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願補正発明を全体として検討しても、上記刊行物記載の発明及び上記周知技術から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

以上のように、本願補正発明は、上記刊行物記載の発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。


第3.本願発明について
1.本願発明
以上のとおり、平成18年7月6日付けの明細書についての手続補正は却下されたため、本願の請求項1に係る発明は、平成18年2月3日付けの手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「 【請求項1】
供給された空気を圧縮して吐出する圧縮機、前記圧縮機から吐出した空気と燃料とが燃焼される燃焼器と、前記燃焼器の燃焼ガスにより駆動されるタービンとを備えたガスタービンにおいて、
前記圧縮機の上流側に配置され、前記圧縮機に空気を供給する吸気ダクトと、前記吸気ダクト内を流れる空気に水滴を噴霧する噴霧装置とを備え、前記噴霧装置は、前記吸気ダクト内に配置され水滴を噴霧する噴霧ノズルと、該噴霧ノズルに給水する水供給系統とを備え、前記噴霧ノズルから前記吸気ダクト内に噴霧される水滴の一部が前記圧縮機に流入する前に前記吸気ダクト内で気化して前記吸気ダクト内の空気の温度を外気温度より低下させると共に、前記水滴の残りが前記温度を低下させた空気と共に前記圧縮機内に流入し前記圧縮機内を流下中に気化して圧縮空気を冷却し得るようにされており、
さらに、前記圧縮機に供給される空気の湿度を検知する検知装置と、前記検知装置の検知信号に基づいて前記噴霧装置から噴霧する噴霧量を制御する制御装置と、を備えることを特徴とするガスタービン。」

2.刊行物記載の発明
刊行物には、上記第2の3.のとおりのものが記載されている。

3.対比、判断
本願発明は、本願補正発明の「該吸気ダクト内に水滴を噴霧する噴霧ノズル」について、「水滴を噴霧する噴霧ノズル」と上位概念化したものであり、本願補正発明の「さらに、前記噴霧ノズルから前記吸気ダクト内に噴霧される水滴の量を、該水滴の一部が前記圧縮機に流入する前に前記吸気ダクト内で気化して前記吸気ダクト内の空気の温度を外気温度より低下させると共に、前記水滴の残りが前記温度を低下させた空気と共に前記圧縮機内に流入し前記圧縮機内を流下中に気化して圧縮空気を冷却し得る水滴量に制御する制御装置」を、「前記噴霧ノズルから前記吸気ダクト内に噴霧される水滴の一部が前記圧縮機に流入する前に前記吸気ダクト内で気化して前記吸気ダクト内の空気の温度を外気温度より低下させると共に、前記水滴の残りが前記温度を低下させた空気と共に前記圧縮機内に流入し前記圧縮機内を流下中に気化して圧縮空気を冷却し得るようにされており、」と機能のみで記載しただけであるから、本願補正発明が、上記のとおり、上記刊行物記載の発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-08 
結審通知日 2008-07-15 
審決日 2008-08-05 
出願番号 特願平10-183670
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02C)
P 1 8・ 121- Z (F02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 貴志近藤 泰  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 石井 孝明
金澤 俊郎
発明の名称 水噴霧による出力増加機構を備えたガスタービン  
代理人 井上 学  

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