• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680228 審決 特許
訂正2008390058 審決 特許
不服20058174 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1184928
審判番号 不服2006-17636  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-11 
確定日 2008-09-17 
事件の表示 平成 7年特許願第 99038号「ビスフェノールの製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 2月13日出願公開、特開平 8- 40963〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成7年4月25日(パリ条約による優先権主張 1994年5月2日(US)アメリカ合衆国)の出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりのものである。
・平成17年4月11日付けで拒絶理由を通知
・平成17年10月19日に意見書及び手続補正書を提出
・平成18年5月10日付けで拒絶査定
・平成18年8月11日に拒絶査定に対する審判請求
・平成18年11月2日に手続補正書(方式:審判請求書の請求の理由)を
提出


第2 この出願の発明
この出願の発明は、平成17年10月19日付けでした手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される下記のものである(以下、順に「本願発明1」?「本願発明6」という。)。
「 【請求項1】 骨格のスルホネート基に結合している化学結合したオルガノメルカプタン基を有するスルホン化された芳香族有機ポリマー性イオン交換樹脂の存在下で反応体のフェノール類とケトン類とを反応させることからなるビスフェノールを製造するための縮合法であって、得られるフェノール性流出液中のヒドロキシアセトンが1ppm未満となるまで骨格のスルホネート基に結合しているオルガノメルカプタン基を有するスルホン化された芳香族有機ポリマー性イオン交換樹脂からなるイオン交換樹脂中にフェノールを通過させることによって生成した物質を反応体のフェノール類として使用する、前記縮合法。
【請求項2】 スルホン化された芳香族ポリマー性有機イオン交換樹脂がスルホン化されたポリスチレンである、請求項1記載の縮合法。
【請求項3】 アミノオルガノメルカプタン基が共有結合している、請求項1記載の縮合法。
【請求項4】 アミノオルガノメルカプタン基がイオン結合している、請求項1記載の縮合法。
【請求項5】 イオン交換樹脂保護床にフェノールを通過させることによってフェノール性流出液を生成させる、請求項1記載の縮合法。
【請求項6】 ケトン類がアセトンである、請求項1記載の縮合法。」


第3 原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、「この出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易にその発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
(刊行物)
1.特開昭58-79942号公報
2.特開昭57-72927号公報
3.特開昭57-87846号公報
4.特開昭60-137440号公報


第4 刊行物の記載事項
1 刊行物1には、以下の事項が記載されている。
<刊1-1>
「2.特許請求の範囲
(1) 酸性反応基とメルカプタン基を有する化合物で少なくとも一部変性した酸性イオン交換樹脂にフェノールを接触させることを特徴とするフェノールからのカルボニル基および/または不飽和基を含んでなる化合物の除去方法。
・・・((2)?(4)略)
(5) 前記いずれかの項に記載の除去方法において、使用する変性酸性イオン交換樹脂が、メルカプトアルコールで部分的にエステル化されている樹脂であるかまたはメルカプトアルキルアミンまたはその先駆物質により部分的に中和されている樹脂であることを特徴とする前記除去方法。
(6) 前記第5項記載の除去方法において、酸根の2ないし25%、好ましくは5ないし20%が、変性されているスルホン化イオン交換樹脂、好ましくはスルホン化スチレン-ジビニルベンゼンコポリマー樹脂が使用されることを特徴とする前記除去方法。
(7) 少なくとも2モルのフェノールを、酸性触媒の存在下で、カルボニル化合物と反応させ、反応帯域流出液を2つの流れに分け、第一の流れが、未反応カルボニル化合物、水およびフェノールを含んでなり、第二の流れが、ビスフェノール、反応副生物およびフェノールを含んでなり、ビスフェノールが第二の流れから回収されるビスフェノールの製造方法において、使用出発物質が、前記第1項ないし第6項の何れかの項記載の方法により精製されたフェノールであることを特徴とするビスフェノールの製造方法。
・・・((8)?(10)略)」(1ページ左下欄1行?2ページ左上欄20行)
<刊1-2>
「クメンからクメンペルヒドロオキシドを経るフェノールの製造でしばしば生成する副生物は、しばしばヒドロキシアセトンおよびメシチルオキシドのごときケトン性の機能(ketonic function)を含んでなり、そしてアルファメチルスチレンおよびそのダイマーのように不飽和性である。生ずるケトンおよびフェノールを精製処理するようにする:この精製処理は、所望の用途に応じて多かれ少なかれ厳しい。
ジフェニロールプロパンの製造のための出発物質としてフェノールを用いると、フェノールに存在する不純物は、ジフェニロールプロパンの品質に大きな影響を与える。ジフェニルプロパンの不純度の基準の1つは、最終生成物の色の強度であり、生成物が純粋であればあるほど色はうすい。ジフェニロールプロパンは、アセトンと大過剰量にしたフェノール(フェノール/アセトンモル比少なくとも10)との反応により通常は製造されるので、フェノール中の少量の不純物の存在は、生成物の品質に大きな影響を与える。さらに、通常、使用フェノールの大部分が、反応器に再循環されることに加えて、しばしばフェノールの一部が、製造に際し得られるジフェニロールプロパン/フェノールアダクトのための洗液として用いられるので、ジフェニロールプロパンの製造工程を通じて多数の不純物の少なくともキャリヤーとして働くことは明白であろう。」(2ページ左下欄4行?右下欄10行)
<刊1-3>
「ポリカーボネートに対する出発物質としてのフェノールにかかる厳しい必要条件の観点から、非常に少量の不純物をフェノールから除去することに現在多くの注意が払われている。・・・クメンおよび/またはアルファ-メチルスチレンをまだ含んでなるフェノールから複雑でかつ制御された蒸留によりヒドロキシアセトンを除去することは、ヨーロッパ特許第4,168号に記載されており、この特許は、フェノールからのヒドロキシアセトンの除去に関する従来技術の詳細な調査を含んでいる。」(3ページ左上欄13行?右上欄8行)
<刊1-4>
「本発明に用いるのに適当な変性酸性イオン交換樹脂は、変性樹脂が反応環境下で不溶性になることを可能とする構造を有する変性酸性イオン交換樹脂である。好ましく用いられる変性樹脂は、多数のスルホン基を含んでいる。このようなスルホン化イオン交換樹脂は、スルホン化スチレン-ジビニルベンゼンに基づくものであってよく、・・・。
酸性イオン交換樹脂は、酸性反応基とメルカプタン基を有する化合物で部分的に変性される。変性は、・・・、また、樹脂を、メルカプトアルキルアミンたとえばチオエタノールアミン(たとえば・・・および英国特許第1,183,564号参照)、・・・で部分的に中和することによって行われる。」(4ページ右上欄11行?左下欄6行)
<刊1-5>
「ビスフェノールの製造は、強酸性イオン交換樹脂、たとえば多数のスルホン基を有する樹脂またはポリマーの手段により行うことができる。これらの例としては、スルホン化ポリスチレンまたはポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)コポリマーおよび・・・がある。・・・。
酸性イオン交換樹脂は、酸性反応基およびメルカプタン基を有する化合物で部分的に変性してよい。部分的に変性した酸性イオン交換樹脂の例は、英国特許第937,072号、同1,183,564号・・・にみることができよう。」(5ページ右上欄4行?左下欄4行)
<刊1-6>
「本発明に従う方法に従って精製されたフェノールと反応させられるべきカルボニル化合物は、アルデヒドまたはケトンであり、ケトンが好ましい。好ましく用いられるケトンは、カルボニル基に関しアルファ位置に少なくとも1個のメチル基を有するケトンまたは環状ケトンである。適当なケトンの例には、アセトン、・・・がある。」(5ページ左下欄14行?右下欄2行)
<刊1-7>
「例1
色について改良された品質を有するジフェニロールプロパンの製造に関する本発明に従う方法の適合性を次のようにして示した:市販等級のフェノールを、水浸漬酸性イオン交換樹脂(Duolite C 26 TR H^(+))(その約13%をチオエタノールアミンで中和しておいた)30mlで満たした高さ50cm、直径1.2cmの管反応器(全容積55ml)に、55℃で、空間速度2l/触媒1l/時で通した。フェノールの投入量には、メシチルオキシドとして計算して全量で56mg/kgのカルボニル不純物を含んでいた。反応器を通じてフェノールをパーコレートした後、フェノールを、2ないし3個の理論上のトレーを有する0.5m Vigreux コラムで蒸留した。蒸留は、底部温度80℃、頂部温度72℃で行った。このようにして得たフェノールを、標準条件下(フェノール/アセトンモル比16:反応温度59℃:反応時間1時間:触媒系塩化水素メチルメルカプタン(catalyst system hydrogen chloridemethylmercaptan)(アセトン供給量に対し10%m/m))でのジフェニロールプロパンの製造に用いた。処理し、蒸留したフェノール中のカルボニル不純物全量が18mg/kgであったことがガスクロマトグラフ分析により測定された。色に関し、P1/Coユニットとして表わして、ジフェニロールプロパンの量は、10であった。未処理フェノールから得られたジフェニロールプロパンの色に関し、P1/Coユニットとして表して、品質は30であった。」(6ページ右下欄10行?7ページ左上欄18行)

2 刊行物2には、以下の事項が記載されている。
<刊2-1>
「2 特許請求の範囲
(1) フェノールとアセトンとをメルカプト基を有する化合物で変性されたスルホン酸型陽イオン交換樹脂よりなる触媒の存在下、反応させてビスフェノールAを製造する方法において、原料として使用するフェノールを予め、スルホン酸型陽イオン交換樹脂と接触させることを特徴とするビスフェノールAの製造法。」(1ページ左欄4行?10行)
<刊2-2>
「ビスフェノールAは、ポリカーボネート樹脂及びエポキシ樹脂の原料として広く利用されているが、通常、2モルのフェノールと1モルのアセトンとを触媒の存在下、下記反応式のように縮合反応させて製造されている。

この縮合反応を行うための触媒としては、塩酸又は強酸性陽イオン交換樹脂が知られているが、塩酸を使用した場合には・・・。一方、強酸性陽イオン交換樹脂を使用する方法は、反応混合物中に触媒が含有されないので、触媒の分離工程が不要であり工業的に好ましい方法である。
しかしながら、通常の強酸性陽イオン交換樹脂を触媒として使用した場合には、特に、アセトンがフェノールに対してパラ位で縮合していない異性体の生成が多く、ビスフェノールAの選択率の面で問題があった。
そこで、この問題を改良するための方法として、強酸性陽イオン交換樹脂の一部を例えば、メルカプトアルキルアミンのようにメルカプト基を有する化合物にて変性した触媒を使用する方法が提案されている。しかしながら、この触媒を用いた場合には、反応初期においては、高いビスフェノールAの選択率で、良好な触媒活性を示すものの、経時変化による触媒の活性低下が大きいと言う欠点がある。
本発明者等は上記実情に鑑み、メルカプト基を有する化合物で変性した強酸性陽イオン交換樹脂を触媒として使用した場合の触媒活性の低下を防止する方法につき種々検討した結果、原料として用いるフェノール中に含有される微量成分により触媒の活性低下が進行することを知見し、この知見に基づき種々検討の結果、原料フェノールを予め、ある特定の方法で処理することにより、触媒の活性低下を防止することができることを見い出し本発明を完成した。」(1ページ左欄15行?2ページ左上欄17行)
<刊2-3>
「本発明で使用される触媒はメルカプト基を有する化合物で変性されたスルホン酸型陽イオン交換樹脂である。スルホン酸型陽イオン交換樹脂としては、通常の市販品で差し支えなく、ゲル型又はポーラス型の、架橋度が例えば2?8%のものが挙げられる。一方、メルカプト基を有する化合物としては、例えば、・・・などのメルカプトアルキルピリジン、2-メルカプトエチルアミン、3-メルカプトブチルアミンなどのメルカプトアルキルアミン、・・・などのアミノチオフエノール等が挙げられる。」(2ページ左下欄6行?19行)
<刊2-4>
「以上、本発明の方法によれば、触媒活性の低下を防止し、触媒寿命を長くすることができるので、工業的に極めて好ましい。本発明においてこのような優れた効果が得られる原因は審かではないが、通常の工業用フェノール中には例えば、アセトール、メシチルオキシドなどの微量不純物が含有されており、これらの影響で触媒劣化が起るが、原料フェノールを本発明の処理に施すことにより、触媒に対して悪影響を及ぼす成分が害のないものに変化するためではないかと推測される。」(3ページ右上欄1行?11行)
<刊2-5>
「実施例
市販の工業用フェノールを、スルホン酸型陽イオン交換樹脂(三菱化成工業製、商品名ダイヤイオンSK-104)を充填した充填層に、第1表に示す条件で通液処理した。

上記処理を施したフェノール2.355g/hrとアセトン145.0g/hrとを混合し、これをスルホン酸基の16%がメルカプトエチルピリジンで変性されたスルホン酸型陽イオン交換樹脂よりなる触媒の充填層(2.85cmφ×490cm)に常圧下、70℃の温度で空間速度(S.V)が10hr^(-1)となるように通液し連続反応を行なつた。
反応後の混合物につき、経時的にビスフエノールA(フェノール付加物)、未反応アセトン及び異性体副生物を分析し、アセトンの転換率及びビスフエノールAの選択率を求め、第2表に示す結果を得た。

」(3ページ右上欄16行?右下欄末行)

3 刊行物3には、以下の事項が記載されている。
<刊3-1>
「フェノールとケトンの間の縮合を行なうため固体樹脂カチオン交換触媒を使用することによつて改良された方法が開発された。しかしながらイオン交換触媒の欠点は低い酸濃度にあり、メルカプタンの如き速度促進剤を必要ならしめている。一つの方法がアペル等の米国特許第3153001号に示されている、これによるとスルホン化不溶性ポリスチレン樹脂の形でイオン交換触媒の部分エステル化によつてメルカプタンを導入している。別の方法はマツクナツツ等の米国特許第3394089号に示されている如く、アルキルメルカプトアミンでかかるスルホン酸部分を部分中和することを含む。」(3ページ左下欄11行?右下欄3行)
<刊3-2>
「本発明は式

(式中R^(1)はC_(1?8)の一価アルキル基であり、R、XおよびYは前述したとおりである)のN-アルキルアミノ有機ジサルフアイドが、共有窒素-硫黄結合によつて主鎖スルホニル基に結合したN-アルキルアミノ有機メルカプタン基を含むスルホン化芳香族有機重合体を作るのに使用でき、上記米国特許出願第103095号によつて提供された前記イオン交換樹脂と比較したとき、ビスフエノール形成速度における著しい低下なしにケトンとフェノールとからビスフエノールを製造する間連続反応条件の下で実質的に増強された安定性を示すことを見出したことに基づいている。」(4ページ左上欄16行?右上欄12行)

4 刊行物4には、以下の事項が記載されている。
<刊4-1>
「本発明は、アセトンのビスフエノールへの変換における実質的な改善及びp-p-ビスフエノール-Aの高収率が、

_( )+
-H_(2)N-R-SH
_( )|
_( )R^(1)
(式中RはC_((3-10))の2価有機基、R^(1)はC_((3-8))の1価アルキル基である)
のアミノオルガノメルカプタン基が約4?40モルパーセントイオン結合したスルホン化芳香族有機重合体を有効量用いることにより得られるという発見に基づいている。
例えば、式(1)の範囲内のn-プロピルアミノプロピルメルカプタン基が約24モルパーセントイオン結合したスルホン化架橋ポリスチレン樹脂は、初期4日間の連続的操作の間69%のアセトン変換率を示し、45.8の選択性を有し、25?28日の連続操作の後は68.8%の変換率及び44.8の選択性に下がるだけであることが見出された。これは、ビスフエノールを製造するための同じ連続的反応条件下で57.0%の変換率及びわずか27の選択性(これは25?28日の期間中ほぼ維持される)しかしめさないアミノエチルメルカプタン基約21モルパーセントがイオン結合したスルホン化架橋ポリスチレンよりも実質的にすぐれていることが見出された。一方、約18モルパーセントの共有結合したプロピルアミノプロピルメルカプタン基を有するスルホン化架橋ポリスチレン樹脂は4日の基礎期間後71.9%の変換率と35.2の選択性を有し、これは25?28日の試験操作後40未満の変換率及び24未満の選択性に下がる。」(3ページ左上欄14行?左下欄5行)


第5 当審の判断
1 本願発明1について
(1) 刊行物1に記載された発明について
刊行物1(特に摘示<刊1-1>中の(7))には、
「(7) 少なくとも2モルのフェノールを、酸性触媒の存在下で、カルボニル化合物と反応させ、反応帯域流出液を2つの流れに分け、第一の流れが、未反応カルボニル化合物、水およびフェノールを含んでなり、第二の流れが、ビスフェノール、反応副生物およびフェノールを含んでなり、ビスフェノールが第二の流れから回収されるビスフェノールの製造方法において、使用出発物質が、前記第1項ないし第6項の何れかの項記載の方法により精製されたフェノールであることを特徴とするビスフェノールの製造方法。」
が記載されている。ここで、「前記第1項ないし第6項の何れかの項記載の方法」とは、「酸性反応基とメルカプタン基を有する化合物で少なくとも一部変性した酸性イオン交換樹脂にフェノールを接触させることを特徴とするフェノールからのカルボニル基および/または不飽和基を含んでなる化合物の除去方法。」(摘示<刊1-1>中の(1))であって、「変性した酸性イオン交換樹脂」は、「メルカプトアルコールで部分的にエステル化されている樹脂であるかまたはメルカプトアルキルアミンまたはその先駆物質により部分的に中和されている樹脂」(摘示<刊1-1>中の(6))であり、そして、酸性イオン交換樹脂として「酸根の2ないし25%、好ましくは5ないし20%が、変性されているスルホン化イオン交換樹脂、好ましくはスルホン化スチレン-ジビニルベンゼンコポリマー樹脂」(摘示<刊1-1>中の(6))が使用される旨記載されている。
さらに、精製方法として、「市販等級のフェノールを、水浸漬酸性イオン交換樹脂(Duolite C 26 TR H^(+))(その約13%をチオエタノールアミンで中和しておいた)30mlで満たした高さ50cm、直径1.2cmの管反応器(全容積55ml)に、55℃で、空間速度2l/触媒1l/時で通した。」(摘示<刊1-7>)ことが記載されている。
そうすると、刊行物1には、
「少なくとも2モルのフェノールを、酸性触媒の存在下で、カルボニル化合物と反応させ、反応帯域流出液を2つの流れに分け、第一の流れが、未反応カルボニル化合物、水およびフェノールを含んでなり、第二の流れが、ビスフェノール、反応副生物およびフェノールを含んでなり、ビスフェノールが第二の流れから回収されるビスフェノールの製造方法において、使用出発物質が、メルカプトアルコールで部分的にエステル化されるかまたはメルカプトアルキルアミンまたはその先駆物質により部分的に中和されて少なくとも一部変性した、酸根の2ないし25%、好ましくは5ないし20%が、変性されているスルホン化イオン交換樹脂、好ましくはスルホン化スチレン-ジビニルベンゼンコポリマー樹脂にフェノールを通し接触させることを特徴とするフェノールからのカルボニル基および/または不飽和基を含んでなる化合物の除去方法により精製されたフェノールであることを特徴とするビスフェノールの製造方法。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているということができる。
(2) 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「カルボニル化合物」は、刊行物1の記載(特に、摘示<刊1-6>及び<刊1-7>)の記載からみて、本願発明1における「ケトン類」に相当する。
引用発明1における「少なくとも2モルのフェノール」、「少なくとも2モルのフェノールを、・・・、カルボニル化合物と反応させ、反応帯域流出液を2つの流れに分け、第一の流れが、未反応カルボニル化合物、水およびフェノールを含んでなり、第二の流れが、ビスフェノール、反応副生物およびフェノールを含んでなり、ビスフェノールが第二の流れから回収されるビスフェノールの製造方法」、「メルカプトアルコールで部分的にエステル化されるかまたはメルカプトアルキルアミンまたはその先駆物質により部分的に中和されて少なくとも一部変性した、酸根の2ないし25%、好ましくは5ないし20%が、変性されているスルホン化イオン交換樹脂、好ましくはスルホン化スチレン-ジビニルベンゼンコポリマー樹脂」及び「使用出発物質が、・・・樹脂にフェノールを通し接触させることを特徴とするフェノールからのカルボニル基および/または不飽和基を含んでなる化合物の除去方法により精製されたフェノールである」は、刊行物1の記載、技術常識及びこの出願の明細書の記載からみて、本願発明1における「反応体のフェノール類」、「ビスフェノールを製造するための縮合法」、「骨格のスルホネート基に結合しているオルガノメルカプタン基を有するスルホン化された芳香族有機ポリマー性イオン交換樹脂からなるイオン交換樹脂」及び「樹脂中にフェノールを通過させることによって生成した物質を反応体のフェノール類として使用する」にそれぞれ相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明1とは、
「反応体のフェノール類とケトン類とを反応させることからなるビスフェノールを製造するための縮合法であって、骨格のスルホネート基に結合しているオルガノメルカプタン基を有するスルホン化された芳香族有機ポリマー性イオン交換樹脂からなるイオン交換樹脂中にフェノールを通過させることによって生成した物質を反応体のフェノール類として使用する、前記縮合法。」
である点で一致し、以下のア?イの点で相違する。
ア 反応体のフェノール類とケトン類とを反応させる際に、本願発明1では、「骨格のスルホネート基に結合している化学結合したオルガノメルカプタン基を有するスルホン化された芳香族有機ポリマー性イオン交換樹脂の存在下で」これを行うのに対し、引用発明1では、「酸性触媒の存在下で」これを行う点(以下、「相違点1」という。)
イ 「イオン交換樹脂中にフェノールを通過させること」について、本願発明1では、「得られるフェノール性流出液中のヒドロキシアセトンが1ppm未満となるまで」イオン交換樹脂中にフェノールを通過させるのに対し、引用発明1では、ヒドロキシアセトンの量がどの程度となるまでイオン交換樹脂中にフェノールを通過させるのかが明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。
(3) 相違点の検討
ア 相違点1について
引用発明1は、フェノールとカルボニル化合物とを、酸性触媒の存在下で反応させるとしており、ここで、酸性触媒は、摘示<刊1-5>に記載されている「強酸性イオン交換樹脂、たとえば多数のスルホン基を有する樹脂またはポリマーの手段により行うことができる。これらの例としては、スルホン化ポリスチレンまたはポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)コポリマー」であって、さらに、当該酸性イオン交換樹脂は、「酸性反応基およびメルカプタン基を有する化合物で部分的に変性してよい。部分的に変性した酸性イオン交換樹脂の例は、英国特許第937,072号、同1,183,564号・・・にみることができよう。」(摘示<刊1-5>)というものである。
そうすると、引用発明1は、「スルホン化ポリスチレンまたはポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)コポリマー」を酸性反応基およびメルカプタン基を有する化合物で部分的に変性した酸性イオン交換樹脂を酸性触媒とし、これの存在下でフェノールとカルボニル化合物(ケトン類)とを反応させるものであるということができ、そして、「スルホン化ポリスチレンまたはポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)コポリマー」を酸性反応基およびメルカプタン基を有する化合物で部分的に変性した酸性イオン交換樹脂は、「骨格のスルホネート基に結合している化学結合したオルガノメルカプタン基を有するスルホン化された芳香族有機ポリマー性イオン交換樹脂」に相当するものであるから、相違点1は、実質的に相違点ということができないものである。
また、仮に、「相違点1は、実質的に相違点ということができないものである。」とまでいうことができなかったとしても、フェノールとケトン類とを反応させる際に、アミノオルガノメルカプタンによって変性したスルホン化ポリスチレンのような「骨格のスルホネート基に結合している化学結合したオルガノメルカプタン基を有するスルホン化された芳香族有機ポリマー性イオン交換樹脂」に相当するものの存在下でこれを行いビスフェノールを製造することは、刊行物2?4(摘示<刊2-1>、<刊3-1>及び<刊4-1>)にもあるとおり、広く行われていることにすぎないし、しかも、オルガノメルカプタン基を有するようにすることで、反応速度の促進などの点で触媒として有利なものとなることも周知慣用である。
よって、引用発明1において、反応体のフェノール類とケトン類とを反応させる際に、「骨格のスルホネート基に結合している化学結合したオルガノメルカプタン基を有するスルホン化された芳香族有機ポリマー性イオン交換樹脂」の存在下でこれを行うようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、相違点1は、実質的に相違点ということができないものであるか、当業者が容易に想到し得ることである。
イ 相違点2について
刊行物1には、ヒドロキシアセトンなどの副生物(不純物)が含まれるためフェノールを精製処理する旨(摘示<刊1-2>)、ジフェニロールプロパン(ビスフェノールA)の製造のための出発物質としてフェノールを用いると、フェノールに存在する不純物が、ジフェニロールプロパンの品質に大きな影響を与える旨(摘示<刊1-2>)、ポリカーボネート(当審注:フェノールとアセトンとを反応させて得られるジフェニロールプロパン(ビスフェノールA)が、ポリカーボネートの出発原料として慣用のものであることは周知である。)に対する出発物質としてのフェノールにかかる厳しい必要条件の観点から、非常に少量の不純物をフェノールから除去することに多くの注意が払われている旨(摘示<刊1-3>)記載されている。さらに、化合物の製造のための出発物質として、純度が高い(すなわち、不純物の量が少ない)ものを用いることは、化学技術分野において周知慣用の技術事項である。
そうすると、引用発明1において、骨格のスルホネート基に結合しているオルガノメルカプタン基を有するスルホン化された芳香族有機ポリマー性イオン交換樹脂からなるイオン交換樹脂中にフェノールを通過させることにより、フェノールから不純物であるヒドロキシアセトンを除去する際に、フェノールに含まれる不純物であるヒドロキシアセトンの量を少なくすること、さらには、許容し得るヒドロキシアセトンの量の上限値を実験などに基づき好適化することは、当業者が容易になし得ることである。
さらに、刊行物2には、メルカプト基を有する化合物で変性されたスルホン酸型陽イオン交換樹脂(刊行物2では、これの具体例として、三菱化成工業製、商品名ダイヤイオンSK-104があげられており(摘示<刊2-3>)、そして、ダイヤイオンSK-104は、架橋度8%のスルホン化ポリスチレンであることが周知である。)を触媒として、その存在下でフェノールとアセトンを反応させてビスフェノールAを製造する際に、(工業用)フェノール中に含まれる、アセトール(当審注:ヒドロキシアセトンに相当する。)などの微量成分の影響により触媒劣化、すなわち、反応初期においては、高いビスフェノールAの選択率で、良好な触媒活性を示すものの、経時変化による触媒の活性低下が起きる旨(摘示<刊2-2>)、フェノール中に含まれるアセトールなどの触媒に対して悪影響を及ぼす微量成分を害のないものに変化させる、すなわち、フェノール中のアセトールなどの触媒に対して悪影響を及ぼす微量成分の含有量を少なくすることにより触媒劣化(触媒の活性低下)を防ぐことができるようになる旨(摘示<刊2-2>及び<刊2-4>)記載されているのであるから、刊行物1及び刊行物2に接した当業者であれば、引用発明1において、フェノール中に含まれるヒドロキシアセトンの量がより少なくなる(限りなく量をゼロにする。)ようにすること、さらには、許容し得るヒドロキシアセトンの量の上限値を実験などに基づき好適化することは、当業者が容易になし得ることである。
(4) 本願発明1の効果について
この出願の明細書の記載によると、本願発明1の効果は、「ヒドロキシアセトンにより変性されたアミノオルガノメルカプタン基の生成を最小限に抑えることによって、イオン交換縮合触媒の失活の割合を大きく低下させることができる。したがって、ビスフェノールイオン交換縮合触媒の寿命を実質的に改良することができる。」(段落【0005】)というものであって、具体的には、フェノールとアセトンとのビスフェノールA合成反応における100時間後のアセトン変換率から、触媒の失活の抑制に効果があったことについて記載されている(段落【0023】?【0025】)。
しかしながら、上記(3)の「イ 相違点2について」で検討したとおり、刊行物1には、フェノールには、ヒドロキシアセトンなどの副生物(不純物)が含まれるためフェノールを精製処理する必要がある旨、ジフェニロールプロパン(ビスフェノールA)の製造のための出発物質としてフェノールを用いると、フェノールに存在する不純物が、ジフェニロールプロパンの品質に大きな影響を与える旨(摘示<刊1-2>)が、刊行物2には、メルカプト基を有する化合物で変性された(スルホン化ポリスチレンのような)スルホン酸型陽イオン交換樹脂を触媒として、その存在下でフェノールとアセトンを反応させてビスフェノールAを製造する際に、(工業用)フェノール中に含まれるヒドロキシアセトンなどの微量成分の影響により触媒劣化(経時変化による触媒の活性低下)が起きる旨、フェノール中に含まれるヒドロキシアセトンなどの触媒に対して悪影響を及ぼす微量成分の含有量を少なくすることにより触媒劣化を防ぐことができるようになる旨記載されている。
そうすると、本願発明1の効果は、当業者であれば予測できるものであって、格別顕著なものではない。
(5) 請求人の主張について
請求人は、平成18年11月2日付け手続補正書(方式)で補正した審判請求書において、「骨格のスルホネート基に結合しているオルガノメルカプタン基を有するスルホン化芳香族有機ポリマー性イオン交換樹脂からなるイオン交換樹脂でフェノール類を予め前処理しておくことによってヒドロキシアセトン含有量を1ppm未満に下げたフェノール類をフェノールとケトンとのビスフェノール合成反応に使用することによって、本願明細書の段落0023の実施例で例証されているように、当該ビスフェノール合成反応の触媒として用いられる骨格のスルホネート基に結合している化学結合したオルガノメルカプタン基を有するスルホン化芳香族有機ポリマー性イオン交換樹脂の失活を最小限に抑え、もって長期間ビスフェノールの十分な生産速度を保つ」(「[3]本願が特許されるべき理由」中の2つめの段落)という構成及び予想外の効果については、刊行物1?4には記載も示唆もない旨主張している。
しかしながら、上記(3)の「ア 相違点1について」及び同「イ 相違点2について」で検討したとおり、本願発明1の構成は、当業者が容易に想到できるものであるということができ、さらに、上記「(4) 本願発明1の効果について」で検討したとおり、本願発明1の効果は、格別顕著とはいうことができないものである。
(6) まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物1?2又は刊行物1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 本願発明2及び4について
本願発明2は、本願発明1の「スルホン化された芳香族ポリマー性有機イオン交換樹脂」が「スルホン化されたポリスチレン」であることを、本願発明4は、本願発明1のスルホネート基に結合しているオルガノメルカプタン基が「アミノオルガノメルカプタン基がイオン結合している」ことを、それぞれさらに規定するものである。
引用発明1は、「メルカプトアルキルアミンまたはその先駆物質により部分的に中和されて少なくとも一部変性した、酸根の2ないし25%、好ましくは5ないし20%が、変性されているスルホン化イオン交換樹脂、好ましくはスルホン化スチレン-ジビニルベンゼンコポリマー樹脂」を用いるものであって、ここで、「スルホン化スチレン-ジビニルベンゼンコポリマー樹脂」は、「スルホン化されたポリスチレン」に相当する(なお、この出願の明細書の発明の詳細な説明中の実施例では、4%ジビニルベンゼンで架橋したポリスチレンスルホン酸、すなわち、スルホン化スチレン-4%ジビニルベンゼンコポリマー樹脂が使用されている。)ということができ、さらに、これがメルカプトアルキルアミンで中和されているのであるから、メルカプトアルキルアミンのアミノ基がスルホン酸基(スルホネート基)とイオン結合しているということができる。
そうすると、本願発明2と引用発明1とを対比しても、また、本願発明4と引用発明1とを対比しても、本願発明1と引用発明1との対比による相違点以外に新たな相違点が生じているということができない。
そして、本願発明1と引用発明1との対比による相違点についての判断は、「1 本願発明1について」と同様である。
したがって、本願発明2及び4は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物1?2又は刊行物1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 本願発明6について
本願発明6は、本願発明1の「ケトン類」が「アセトン」であることを、さらに規定するものである。
しかしながら、引用発明1も、フェノール類と反応させるカルボニル化合物(ケトン類)として、「アセトン」を用いるものということができる(摘示<刊1-6>及び<刊1-7>)から、本願発明4と引用発明1とを対比しても、本願発明1と引用発明1との対比による相違点以外に新たな相違点が生じているということができない。
そして、本願発明1と引用発明1との対比による相違点についての判断は、「1 本願発明1について」と同様である。
したがって、本願発明6は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物1?2又は刊行物1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 小括
したがって、本願発明1、2、4及び6は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物1?2又は刊行物1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1、2、4及び6は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-22 
結審通知日 2008-04-25 
審決日 2008-05-08 
出願番号 特願平7-99038
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 直子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
安藤 達也
発明の名称 ビスフェノールの製造法  
代理人 荒川 聡志  
代理人 小倉 博  
代理人 松本 研一  
代理人 黒川 俊久  
復代理人 志賀 正武  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ