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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C21C
管理番号 1184931
審判番号 不服2006-26925  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-29 
確定日 2008-09-17 
事件の表示 特願2001-322940「低燐溶銑の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年6月4日出願公開、特開2002-161304〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年6月18日の出願(優先日:平成10年6月18日)であって、平成18年10月6日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月29日に拒絶査定不服審判の請求がされ、平成20年3月24日付けで当審より拒絶の理由が通知され、同年5月30日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願に係る発明は、平成20年5月30日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものである。その内の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「溶銑予備処理として行われる脱燐処理において、Si濃度が0.10wt%以下の溶銑を脱燐処理するするとともに、溶銑に酸素源を添加する際に、その酸素添加速度Xに対して溶銑に下記(1)式を満足する条件でCaO源である媒溶剤を添加することを特徴とする低燐溶銑の製造方法。
0.50≦X/Y≦2.0 … (1)
但し X:酸素添加速度[kg/min]
Y:CaO換算の媒溶剤添加速度[kg/min]」

3.当審拒絶理由の概要
当審より通知された拒絶の理由の一つの概要は、次のとおりのものである。

本願請求項1?4に係る発明は、その出願前頒布された下記刊行物1?5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開平8-311523号公報

刊行物2:特開昭58-16009号公報

刊行物3:特開平5-148525号公報

刊行物4:特開平8-325617号公報

刊行物5:特開平8-319506号公報

4.引用刊行物とその記載事項
当審より通知された拒絶の理由で引用された刊行物1:特開平8-311523号公報及び刊行物2:特開昭58-16009号公報には、それぞれ次の事項が記載されている。

(1)刊行物1:特開平8-311523号公報
(1a)「【請求項1】転炉型反応容器に収容された溶銑に対して上吹きランスより予め決められた量の酸化カルシウム粉を、同じく溶銑1ton当たり0.7?2.0Nm^(3)/minの酸素とともに吹き付けるとともに、前記反応容器の炉底または側壁から溶銑1ton当たり0.05?0.30Nm^(3)/minの攪拌用ガスを吹込むことを特徴とする溶銑脱燐方法。」

(1b)「【0029】
【実施例】脱燐処理前の成分:[C]=4.4?4.8%、[Si]=0.2?0.3%、[Mn]=0.25?0.35%、[P]=0.09?0.11%、[S]<0.01%、脱燐処理前の温度=1320?1340℃の予備脱珪処理済みの溶銑180tonについて、各処理条件を変えて底吹き転炉にて溶銑脱燐処理を行った。
【0030】脱燐剤としては、粒度=-200メッシュの酸化カルシウム粉を溶銑1ton当たり20kg使用した。比較のため、塊状の酸化カルシウムを溶銑1ton当たり20kg使用し、そのまま投入した脱燐処理も行った。また従来例として蛍石4kg/トンを用いた例についても行った。
【0031】上吹き水冷ランスは、4孔外向き10°の出口速度マッハ=2.25のラバールランスを基本とし、中心ストレート1孔+3孔外向き5°の出口速度マッハ=2.25のラバールランス(酸化カルシウムは中心ストレート管より吹き込み)についても調査した。底吹き羽口は4本使用し、上吹き送酸時間は10分とした。
【0032】本発明にかかる上吹き酸素量と攪拌用ガス量の条件を満たす実施例1?3では処理後燐レベル、[C]損出、鉄分損出を低位に安定させることができた。4孔外向き10°の出口速度マッハ=2.25のラバールランスに替え、実施例4に示すように中心ストレート1孔+3孔外向き5°の出口速度マッハ=2.25のラバールランスを使用した場合でも充分な効果が得られた。」

(1c)【表1】には、「上吹送酸量(Nm^(3)/min・t)」が、「0.7」(実施例1)、「1.8」(実施例2?4)と表示されている。

(1d)「【0022】1○酸化カルシウムの溶解(滓化)には、溶銑1ton当たり最低0.7Nm^(3)/minの酸素吹込みが必要であり、2.0Nm^(3)/min超でほぼその効果は一定となる。2○スピッティング発生量は、上吹き酸素量が溶銑1ton当たり2.0Nm^(3)/min超で急増しており溶銑脱燐処理では、酸素量を2.0Nm^(3)/min以下とすることが望ましい。
【0023】3○次工程である転炉脱炭工程での熱源として溶銑中炭素を使用するため、溶銑の脱炭量は少ないことが望ましい。このため、1○、2○の効果を勘案して最適酸素量は、溶銑1ton当たり0.7?2.0 Nm^(3)/minと決定した。好ましくは0.7?1.5Nm^(3)/minである。」(審決注:上記1○、2○、3○は、○の中にそれぞれの数字が入っている形、いわゆる「マル付き数字」で記載されている。)

(2)刊行物2:特開昭58-16009号公報
(2a)「溶湯に生石灰と気体、および/または固体酸素をCaO/O_(2)=1.5?2.5の範囲で添加することを特徴とする溶湯の脱燐方法。」(特許請求の範囲)

(2b)「実施例1
下記成分(%)の溶銑を鍋内で脱燐した。(中略)
第1表から明らかなように生石灰供給速度を一定として酸素供給速度を変化させることにより、CaO/O_(2)比を(中略)また、酸素供給速度を一定として生石灰供給速度を変化させることによりCaO/O_(2)比を」(第2頁左上欄第12行?同頁左下欄第11行)

5.当審の判断
(1)引用発明1
当審より通知された拒絶の理由において引用された刊行物1の上記(1a)には、「転炉型反応容器に収容された溶銑に対して上吹きランスより予め決められた量の酸化カルシウム粉を、同じく溶銑1ton当たり0.7?2.0Nm^(3)/minの酸素とともに吹き付けるとともに、前記反応容器の炉底または側壁から溶銑1ton当たり0.05?0.30Nm^(3)/minの攪拌用ガスを吹込むことを特徴とする溶銑脱燐方法。」と記載されており、この記載の「予め決められた量の酸化カルシウム粉」について、その具体的な量は、(1b)の「酸化カルシウム粉を溶銑1ton当たり20kg使用した。・・・上吹き送酸時間は10分とした。」という記載によれば、10分で溶銑1ton当たり20kg、すなわち溶銑1ton当たり2kg/minといえる。また、酸素の吹き付け量の具体的な量は、(1c)の【表1】の表示によれば0.7Nm^(3)/min(実施例1)、1.8Nm^(3)/min(実施例2?4)といえる。更に、(1d)の「溶銑脱燐処理では、・・・次工程である転炉脱炭工程での熱源として溶銑中炭素を使用するため」という記載によれば、溶銑脱燐処理は、溶銑予備処理として行われるものといえる。

以上の記載および記載事項から認定した事項を本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

「溶銑予備処理として行われる脱燐処理において、溶銑に酸素を吹き付ける際に、溶銑1ton当たり0.7Nm^(3)/minまたは1.8Nm^(3)/minの酸素供給速度に対して溶銑に溶銑1ton当たり2kg/minの供給速度でCaOを添加する低燐溶銑の製造方法。」

(2)本願発明と引用発明1との対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明の「X:酸素添加速度[kg/min]」及び「Y:CaO換算の媒溶剤添加速度[kg/min]」 は、溶銑1ton当たりのkg/minの意味と解釈するのが当業者の技術常識といえるし、(もし、このように解釈しないとすれば、溶銑の重量に関係なく所定の添加速度で溶銑に添加することになり、技術的に不自然といえる。)一方、引用発明の溶銑1ton当たり0.7Nm^(3)/min及び1.8Nm^(3)/minという酸素添加速度は、kg/minに換算すると、それぞれ、1kg/min及び2.57(小数第3桁を四捨五入した値)kg/minであり、2kg/minのCaOは、CaO換算の媒溶剤添加速度といえるから、引用発明における、本願発明の「X/Y」に相当する値は、それぞれ0.5及び1.29(小数第3桁を四捨五入した値)となり、これらの値はいずれも、本願発明における(1)の式を満足するといえる。
してみると、両者は、
「溶銑予備処理として行われる脱燐処理において、溶銑に酸素源を添加する際に、その酸素添加速度Xに対して溶銑に下記(1)式を満足する条件でCaO源である媒溶剤を添加する低燐溶銑の製造方法。
0.50≦X/Y≦2.0 … (1)
但し X:酸素添加速度[kg/min]
Y:CaO換算の媒溶剤添加速度[kg/min]」という点で一致し、次の点で相違しているといえる。

相違点:
脱燐処理する溶銑のSi濃度が、本願発明は、「0.10wt%以下」であるのに対して、引用発明1は、不明である点

(3)相違点の検討
そこで、上記相違点について、検討する。
Siの濃度が0.10wt%以下程度の溶銑を脱燐処理することは、当審拒絶理由に示した刊行物3(【表1】の本発明)、刊行物4(段落【0022】)、更に、特開平10-152714号公報(段落【0021】【0036】)、特開平8-319506号公報(【表1】の実施例1、2)、特開平6-240378号公報(段落【0013】)、特開平4-221007号公報(【表3】)等に示されているように、本出願前当業者に周知の事項といえるし、上記特開平8-319506号公報の段落【0012】に記載されているように、脱燐効率の向上のためには、溶銑脱燐前の溶銑中[Si]を低位に保つことが必須のことといえるから、引用発明1において、脱燐処理する溶銑のSi濃度を「0.10wt%以下」とすることは、当業者が容易に想到することといえる。
してみると、本願発明は、引用発明1及び上記周知事項に基づいて当業者が容易になし得たものといえる。

(4)引用発明2
当審より通知された拒絶の理由において引用された刊行物2の上記(2a)には、「溶湯に生石灰と気体、および/または固体酸素をCaO/O_(2)=1.5?2.5の範囲で添加することを特徴とする溶湯の脱燐方法。」と記載されており、この「溶湯の脱燐方法」は、(2b)の「溶銑を鍋内で脱燐した。」という記載によれば、取鍋内での溶銑の脱燐、すなわち溶銑予備処理としての脱燐といえる。
以上の記載および記載事項から認定した事項を本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物2には、次のとおりの発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

「溶銑予備処理として行われる脱燐処理において、溶銑に生石灰と気体、および/または固体酸素をCaO/O_(2)=1.5?2.5の範囲で添加する低燐溶銑の製造方法。」

(5)本願発明と引用発明2との対比
そこで、本願発明と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「CaO/O_(2)=1.5?2.5の範囲で添加」するは、具体的にいえば、(1b)に「生石灰供給速度・・・酸素供給速度・・・CaO/O_(2)比・・・酸素供給速度・・・生石灰供給速度・・・CaO/O_(2)比」と記載されているように、生石灰供給速度と酸素供給速度、すなわち、CaO換算の媒溶剤添加速度と酸素添加速度とを用いており、O_(2)/CaO=0.4?0.66・・・(2/3の小数表示)の範囲で添加するのであるから、引用発明における、本願発明の「X/Y」に相当する値は、0.4?0.66・・・の範囲となり、0.5?0.66・・・の範囲で本願発明における(1)の式を満足するといえる。
してみると、両者は、
「溶銑予備処理として行われる脱燐処理において、溶銑に酸素源を添加する際に、その酸素添加速度Xに対して溶銑に下記(1)式を満足する条件でCaO源である媒溶剤を添加する低燐溶銑の製造方法。
0.50≦X/Y≦2.0 … (1)
但し X:酸素添加速度[kg/min]
Y:CaO換算の媒溶剤添加速度[kg/min]」という点で一致し、次の点で相違しているといえる。

相違点:
脱燐処理する溶銑のSi濃度が、本願発明は、「0.10wt%以下」であるのに対して、引用発明2は、不明である点

(6)相違点の検討
そこで、上記相違点について、検討する。
この相違点は、引用発明1との相違点と同様であるから、上記(3)で述べたように、引用発明2において、脱燐処理する溶銑のSi濃度を「0.10wt%以下」とすることも、当業者が容易に想到することといえる。
してみると、本願発明は、引用発明2及び上記周知事項に基づいて当業者が容易になし得たものといえる。

(7)小括
以上のように、本願発明は、引用発明1または引用発明2及び本願出願前当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

6.結び
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その他の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-09 
結審通知日 2008-07-15 
審決日 2008-07-28 
出願番号 特願2001-322940(P2001-322940)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 孔一  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 近野 光知
平塚 義三
発明の名称 低燐溶銑の製造方法  
代理人 苫米地 正敏  

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