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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1185098
審判番号 不服2006-8292  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-27 
確定日 2008-09-25 
事件の表示 平成11年特許願第150853号「回路基板」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月 8日出願公開、特開2000-340897〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成11年5月31日の出願であって、平成17年9月26日付で拒絶理由通知がなされ、これに対して同年10月7日に手続補正がなされ、平成18年4月11日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年4月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日に手続補正がなされたものである。

II.平成18年4月27日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年4月27日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
平成18年4月27日付の手続補正により、特許請求の範囲の請求項1は次のとおりに補正された。
「 窒化アルミニウム基板の両面に厚み15?35μmのAl-Cu系の合金箔を介して、厚み100μm以上、純度99.99重量%以上の圧延AlからなるAl又はAl合金の板、パターン若しくは両方を配置し、それをセラミックス基板の垂直方向に1?50kgf/cm^(2)の圧力を負荷しながら、595?635℃の温度で20?90分保持した後、必要に応じてエッチングすることを特徴とする放熱板に対する回路の体積比が0.80?1.2である耐熱性に優れた回路基板の製造方法。
〈耐熱性の定義〉-40℃×30分→室温×10分→125℃×30分→室温×10分を1サイクルとして、3000サイクルを試験体に負荷するヒートサイクル試験を行い、ボンディングワイヤーの剥離、メッキの異常の有無、並びに、半田クラックの有無を調べ、さらに、回路及び放熱板を塩酸で溶解して窒化アルミニウム基板のクラックの有無を観察する。その結果、ボンディングワイヤーの剥離がなく、メッキの異常がなく、且つ、半田クラック及び窒化アルミニウム基板のクラック発生率が10%以下であるとき、耐熱性に優れるとする。」

上記補正は、補正前の請求項1において、「回路基板の製造方法。」を、「耐熱性に優れた回路基板の製造方法。
〈耐熱性の定義〉
-40℃×30分→室温×10分→125℃×30分→室温×10分を1サイクルとして、3000サイクルを試験体に負荷するヒートサイクル試験を行い、ボンディングワイヤーの剥離、メッキの異常の有無、並びに、半田クラックの有無を調べ、さらに、回路及び放熱板を塩酸で溶解して窒化アルミニウム基板のクラックの有無を観察する。その結果、ボンディングワイヤーの剥離がなく、メッキの異常がなく、且つ、半田クラック及び窒化アルミニウム基板のクラック発生率が10%以下であるとき、耐熱性に優れるとする。」と補正するものである。
そこで、上記補正を検討すると、「回路基板」が、「〈耐熱性の定義〉」において定義した特定の耐熱性(以下、本願耐熱性という)に優れることを限定したものであって、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そして、上記補正については、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内である。

上記のとおり、特許請求の範囲は減縮されたので、次に、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかについて以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用した本願の出願前に頒布された特開平10-65075号公報(以下、「引用例1」という。)、特開平7-86703号公報(以下、「引用例2」という。)、特開平4-18746号公報(以下、「引用例3」という。)には、それぞれ、次の事項が記載されている。

(1)引用例1(特開平10-65075号公報)
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、パワーモジュール用基板等の半導体装置のセラミック回路基板に関する。・・・」(【0001】)
(1b)「【0016】
【実施例】次に本発明の実施例を・・・説明する。
<実施例1>・・・AlNにより形成されたセラミック基板13と、・・・厚さが・・・0.4mmのAl合金により形成された第1及び第2アルミニウム板11,12と、・・・ヒートシンク14と、・・・厚さが・・・0.03mmのAl-Si系ろう材(図示せず)とを用意した。第1及び第2アルミニウム板11,12のAl純度はともに99.99重量%で・・・あった。・・・
【0017】先ず第1アルミニウム板11の上にAl-Si系ろう材、セラミック基板13、Al-Si系ろう材及び第2アルミニウム板12を重ねた状態で、これらに荷重2kgf/cm^(2)を加え、真空中で630℃に加熱することにより、セラミック基板13の両面に第1及び第2アルミニウム板11,12を積層接着した。積層接着後、第2アルミニウム板12をエッチング法により所定のパターンの回路とした。次に・・・ヒートシンク14を第1アルミニウム板11に積層接着し、ヒートシンク付セラミック回路基板10を得た。」(【0016】、【0017】)
(1c)「【0020】<比較試験及び評価>実施例1・・・の回路基板の反り、熱抵抗及びセラミックスクラックを・・・測定した。
丸1(丸数字の1を指す、以下同様。)反りの測定・・・
丸2熱抵抗の測定・・・上記実施例1、・・・の回路基板に冷熱衝撃試験器にて-55℃?室温?150℃を1サイクルとして1000サイクルの温度サイクルを付加・・・した後に・・・熱抵抗(温度サイクル1000回後の熱抵抗)を測定した。
【0021】丸3セラミックスクラックの測定
先ず温度サイクル1000回後の熱抵抗を測定した実施例1のセラミック基板上の第1及び第2アルミニウム板・・・をそれぞれエッチンク(エッチングの誤記と認める。)で除去した。次に実施例1のセラミック基板のうち除去されたアルミニウム板全周長さに対するセラミック基板にクラックが生じている部分の長さの割合・・・を・・・測定した。上記丸1?丸3の結果を表1に示す。」(【0020】?【0021】)と記載され、【表1】の実施例1の行につき、セラミックスクラック(%)温度サイクル1000回後の欄に、「0」という値が記載されている。(【表1】)

(2)引用例2(特開平7-86703号公報)
(2a)「【0004】・・・活性金属法を利用して、セラミックス基板に素子搭載部や回路パターンを形成する場合、金属板接合時や素子搭載用のハンダリフロー時の加熱によるセラミックス基板の反り等を抑制する上で、また放熱用部材として、セラミックス基板の裏面側にも金属板を接合することが行われている。ただし、表面側の金属板(素子搭載側金属部材)は、回路形成のためにパターニングされている場合が多く、・・・」(【0004】)
(2b)「【0011】・・・本発明のセラミックス回路基板において・・・は、放熱側金属板の体積(V_(2) )と素子搭載側金属板の体積(V_(1) )との比(V_(2) /V_(1) )を規定・・・することによって、素子搭載側金属板のパターン形状等によらずに、再現性よく反りの発生を防止することができる。
【0012】・・・例えば、窒化アルミニウム系基板を用いる場合には、0.75≦V_(2)/V_(1) < 1とすることが好ましい。・・・」(【0011】、【0012】)

(3)引用例3(特開平4-18746号公報)
(3a)「本発明の一実施例に係るIC実装用基板を示すための断面図・・・において、11は絶縁体である炭化珪素層(SiC基板、例えば炭化珪素基焼結体板)であって、この炭化珪素層11の両面にはろう材層12A,12Bを介して回路形成用のアルミニウム層・・・13A,13Bがそれぞれ被着されている。このろう材としてはAl-Si系、Al-Ge系、Al-Cu系等のろう材が使用される。」(2頁左上欄16行?右上欄5行)

3.対比・判断
引用例1には、摘記事項(1b)によれば、本発明の実施例1について、AlNにより形成されたセラミック基板13と、厚さが0.4mm、Al純度は99.99重量%の第1及び第2アルミニウム板11,12と、ヒートシンク14と、厚さが0.03mmのAl-Si系ろう材とを用意し、第1アルミニウム板11の上に、Al-Si系ろう材、セラミック基板13、Al-Si系ろう材及び、第2アルミニウム板12を重ねた状態で、これらに荷重2kgf/cm^(2)を加え、真空中で630℃に加熱することにより、セラミック基板13の両面に第1及び第2アルミニウム板11,12を積層接着した後、第2アルミニウム板12をエッチング法により所定のパターンの回路とし、次にヒートシンク14を第1アルミニウム板11に積層接着し、ヒートシンク付セラミック回路基板10を得たことが記載されており、ヒートシンク14を第1アルミニウム板11に積層接着する前のセラミック回路基板の製造方法も記載されているといえる。
また、摘記事項(1c)によれば、実施例1の回路基板に冷熱衝撃試験器にて-55℃?室温?150℃を1サイクルとして1000サイクルの温度サイクルを付加後、第1及び第2アルミニウム板をそれぞれエッチングで除去したセラミック基板のうち、除去されたアルミニウム板全周長さに対するセラミック基板にクラックが生じている部分の長さの割合は0(%)であることが記載されている。
また、摘記事項(1a)には、セラミック回路基板は、「パワーモジュール用」であることが記載されている。
よって、摘記事項(1b)に記載された、ヒートシンク14を第1アルミニウム板11に積層接着する前のセラミック回路基板の製造方法を中心に、摘記事項(1a)?(1c)を総合すると、引用例1には、
「AlNにより形成されたセラミック基板13と、厚さが0.4mm、Al純度は99.99重量%の第1及び第2アルミニウム板11,12と、ヒートシンク14と、厚さが0.03mmのAl-Si系ろう材とを用意し、第1アルミニウム板11の上に、Al-Si系ろう材、セラミック基板13、Al-Si系ろう材及び、第2アルミニウム板12を重ねた状態で、これらに荷重2kgf/cm^(2)を加え、真空中で630℃に加熱することにより、セラミック基板13の両面に第1及び第2アルミニウム板11,12を積層接着した後、第2アルミニウム板12をエッチング法により所定のパターンの回路とする方法であって、回路基板に冷熱衝撃試験器にて-55℃?室温?150℃を1サイクルとして1000サイクルの温度サイクルを付加後、第1及び第2アルミニウム板をそれぞれエッチングで除去したセラミック基板のうち、除去されたアルミニウム板全周長さに対するセラミック基板にクラックが生じている部分の長さの割合は0(%)である、ヒートシンク14を第1アルミニウム板11に積層接着する前の、パワーモジュール用セラミック回路基板の製造方法」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていることになる。

そこで、本願補正発明1と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明の「AlNにより形成されたセラミック基板」、「第2アルミニウム板12をエッチング法により所定のパターンの回路とした」ことは、それぞれ、本願補正発明1の「窒化アルミニウム基板」、「必要に応じてエッチングすること」に相当する。
また、厚さが0.4mm即ち400μmであれば薄板といえ、Alの薄板は圧延法により製造されることが一般的であるから、引用例1発明の「厚さが0.4mm、Al純度は99.99重量%の第1及び第2アルミニウム板」は、本願補正発明1の「厚み100μm以上、純度99.99重量%以上の圧延AlからなるAlの板」に相当する。
また、厚さが0.03mm即ち30μmであれば箔といえるから、引用例1発明の「厚さが0.03mmのAl-Si系ろう材とを用意し、・・・、Al-Si系ろう材、セラミック基板13、Al-Si系ろう材・・・を重ねた状態」とすることと、本願補正発明1の「基板の両面に厚み15?35μmのAl-Cu系の合金箔を介」することとは、基板の両面に厚み15?35μmのAl基の合金箔を介」することで、一致する。
また、積層接着において荷重を掛ける積層方向とは、基板の垂直方向であるから、引用例1発明の「重ねた状態で、これらに荷重2kgf/cm^(2)、真空中で630℃に加熱することにより、セラミック基板13の両面に第1及び第2アルミニウム板11,12を積層接着」することは、本願補正発明1の「セラミックス基板の垂直方向に1?50kgf/cm^(2)の圧力を負荷しながら、595?635℃の温度とした」ことに相当している。

また、引用例1発明の回路基板は、「回路基板に冷熱衝撃試験器にて-55℃?室温?150℃を1サイクルとして1000サイクルの温度サイクルを付加」という条件のヒートサイクル試験を行い、「第1及び第2アルミニウム板をそれぞれエッチングで除去した」結果、基板のクラックが少ないことの評価手段として「除去されたアルミニウム板全周長さに対するAlNにより形成されたセラミック基板にクラックが生じている部分の長さの割合は0(%)である」、という性質(以下、この性質を引例耐熱性という)を有しており、一方本願耐熱性も、ヒートサイクル試験後、アルミニウム板を除去した基板全体にクラックが少ないことを評価するものであるから、引例1発明の回路基板が引例耐熱性を有することと、本願補正発明1の回路基板が本願耐熱性に優れたこととは、ヒートサイクル試験の条件及び、基板全体のクラックの評価手段の詳細で相違しているものの、ヒートサイクル試験後、アルミニウム板を除去した基板全体にクラックが少ないことをいう点では、一致している。

よって、両者は、「窒化アルミニウム基板の両面に厚み15?35μmのAl基の合金箔を介して、厚み100μm以上、純度99.99重量%以上の圧延AlからなるAlの板を配置し、それをセラミックス基板の垂直方向に1?50kgf/cm^(2)の圧力を負荷しながら、595?635℃の温度とした後、必要に応じてエッチングする、ヒートサイクル試験後、アルミニウム板を除去した基板全体にクラックが少ない回路基板の製造方法。」の点で一致し、次の相違点1?4で相違する。

相違点1:基板の両面に介させる箔を構成するAl基の合金が、本願補正発明1では、Al-Cu系であるのに対して、引用例1発明では、Al-Si系である点。
相違点2:加熱について、本願補正発明1が、20?90分の保持としているのに対して、引用例1発明では、加熱時間の記載がない点。
相違点3:放熱板に対する回路の体積比が、本願補正発明1では、0.80?1.2であるのに対し、引用例1発明ではこのようになっていない点。
相違点4:本願補正発明1は、本願耐熱性に優れた回路基板であるのに対して、引用例1発明は、本願耐熱性とは試験条件や評価手段の相違する引例耐熱性を有する回路基板である点。

上記各相違点について検討する。
相違点1について
引用例3には、摘記事項(3a)に「IC実装用基板において、炭化珪素層(SiC基板・・・)・・・11の両面には」、「Al-Si系、Al-Ge系、Al-Cu系等の」、「ろう材層12A,12Bを介して回路形成用のアルミニウム層13A,13Bがそれぞれ被着されてい」ると記載されており、Al-Si系と同じように、Al-Cu系においても、接着すると認められるので、引用例1発明において、Al-Cu系ろう材を用いることは、当業者が容易に想到しうるものである。

相違点2について
本願における「20?90分の保持」とは、本願明細書の【0023】の「本発明においては、セラミックス基板の両面に上記合金箔を介してAlの板・・・を配置し、・・・、590℃以上の温度で少なくとも20分保持してそれらを接合する。」、【0025】の「・・・、590℃以上で20分以上の保持が必要となる。好ましくは、595℃?635℃で20?90分の保持である。」との記載からみて、接合時の加熱であるところ、引用例1発明における「630℃に加熱することにより、セラミック基板13の両面に第1及び第2アルミニウム板11,12を積層接着した」ことも接合時の加熱であって、接合材の溶融時間などある程度の時間、保持を行うものといえる。
そして、下記の周知例1、2に記載されているように、Al-Cu系ろう材の加熱保持時間として、30分程度とすることが周知の事項であることを考慮すると、上記「相違点1について」において検討したように、Al-Cu系ろう材を採用するにあたり、接合時の加熱時間として、30分程度の保持を選定して、相違点2の発明特定事項を構成することは当業者が容易に想到しうるものである。

周知例1:特公昭63-32253号公報
(周1-A)「【特許請求の範囲】
1 半導体基体とそれを支持する電極とをAl-Cuろう材により接着する半導体装置の製造方法において、・・・順次AlとCuの2層を・・・設けてろう付けすることを特徴とする半導体装置の製造方法。」(特許請求の範囲)
(周1-B)「実施例 1・・・、カソード電極1上にAlを8μmおよび-Cuを2μm順次設けたものとを重ね合せ、540℃×30分のN_(2)雰囲気中でのろう付け熱処理を行なつた。」(3欄34行?4欄3行)
(周1-B)には、Al-Cuろう材のろう付け熱処理の時間として、「30分」という値が記載されている。

周知例2:奈賀正明ら”Al-Cu合金ろうによるアルミナ同士の接合およびアルミナ/アルミニウム接合への適用”(溶接学会論文集 Vol.5 No.3 P.379?384)
(周2-A)「Fig.5には接合条件を1373K,1.8ksとした場合のAl-Cu合金ろうによるAl_(2)O_(3)同士継手の室温でのせん断強さのCu量依存性を示す.」(381頁左欄26?28行)
(周2-A)には、Al-Cu合金ろうの接合条件の時間として、30分(1800秒)に相当する「1.8ks」という値が記載されている。

相違点3について
引用例2には、摘記事項(2a)、(2b)によれば、放熱用部材として、セラミックス基板の裏面側に接合する放熱側金属板の体積(V_(2) )と、回路形成のためにパターニングされている素子搭載側金属板の体積(V_(1) )との比(V_(2) /V_(1) )を、窒化アルミニウム系基板を用いる場合には、0.75≦V_(2)/V_(1)<1とすることによって、再現性よくセラミックス基板の反りの発生を防止することが記載され、引用例1発明は、第2アルミニウム板12を回路とし、ヒートシンク14を第1アルミニウム板11に積層接着することから、第2アルミニウム板12が放熱板、第1アルミニウム板11が回路に対応しており、また、再現性よくセラミックス基板の反りの発生を防止することは当然求められる課題であるので、裏表両面方向の反りを考慮して1より小さい範囲並びに1より大きい範囲を規定することは、当業者が容易に想到しうるものである。0.8や1.2など具体的値は、材料の組合せや、反りの許容範囲に応じて適宜に決めうるものであるから、相違点3の発明特定事項を構成することは、当業者が容易に想到しうるものである。

相違点4について
一般に、同種の特性を評価する場合、試験条件や評価手段の相違に基づく実質的差異はなく、相違点4は、実質的な相違点とはいえないものである。 しかしながら、念のため、引例耐熱性を有する引用例1発明の回路基板を、これと、ヒートサイクル試験の条件の点、基板自体のクラックの評価手段の点、ボンディング剥離・メッキ異常・半田クラックという基板全体のクラックの評価手段の有無の点の各点で相違している、本願耐熱性に優れたものとすることの困難性について、以下検討する。

まず、本願耐熱性におけるヒートサイクル試験の条件と、引例耐熱性における同様の条件との相違について検討する。
温度条件は、本願耐熱性では、「-40℃→室温→125℃」であるのに対して、引例耐熱性では、「-55℃?室温?150℃」という、より過酷な条件であるから、これを本願耐熱性のように変更することに困難性はない。また、サイクル数の条件については、「熱ショック試験の要求サイクル数・・・は・・・,ユーザーにより異なった指定が多く,それが一般化する傾向にある。」(高木清「多層プリント配線板製造技術」、日刊工業新聞社発行 173頁11?13行)と、時間の条件については、「熱衝撃試験・・・時間は材料や温度により適したものが選ばれている」(「プリント回路技術用語辞典-第2版-」 日刊工業新聞社 238頁 熱衝撃試験の項)と、それぞれ記載されているように、適宜選定されるものであるから、サイクル数や時間の条件を本願耐熱性のように変更することに困難性はない。
次に、本願耐熱性における基板自体のクラックの評価手段と、引例耐熱性における同様の条件との相違について検討する。
引例耐熱性においては、基板にクラックが生じている部分の長さの割合は0(%)とされており、クラックが0%、即ち、全く存在しなければ、どのような評価手段を用いても、クラック発生率が10%以下となるから、本願耐熱性との間に実質的な差異はなく、変更することに困難性はない。
次に、ボンディング剥離・メッキ異常・半田クラックを規定することについて検討する。
本願耐熱性にいうメッキの「異常」とは、本願明細書表2において、実施例に「異常なし」、比較例に「剥離2/10」乃至「剥離1/10」と記載されていることからみて、「剥離」のことと考えられるので、本願耐熱性のボンディング剥離・メッキ異常・半田クラックについての規定は、剥離部分をクラックとみて、ボンディング部分、メッキ部分、半田部分を基板全体の一部とみれば、基板全体のクラックの評価手段において、基板全体にクラックが少ないことをいう点で、引例耐熱性と同種のものと理解できる。
そして、本願補正発明1においては、ボンディング、メッキ、半田自体について、どのような場所に、どの時点で、どのように形成されるか等については、請求項に規定が無いから、本願明細書【0001】にいう「【発明の属する技術分野】本発明は、パワーモジュール等に使用される回路基板とその製造方法」における一般的なものと考えられる。そして、引用例1発明は、パワーモジュール用回路基板の製造方法であって、パワーモジュール用回路基板の一般的なボンディング、メッキ、半田を行うにあたり、これらに剥離が無く、クラックが10%以下であることは、当然望まれることといえるので、本願耐熱性のような規定をすることに困難性はない。

以上、検討したように、引例耐熱性を有する引用例1発明の回路基板を、本願耐熱性に優れたものとすることには困難性がないので、相違点4の発明特定事項を構成することは当業者が容易に想到しうるものである。

そして、本願補正発明1による効果も引用例1?3の記載、及び上記周知の事項から予測することができる程度のものであって格別顕著なものとは認められない。
したがって、本願補正発明1は、引用例1?3に記載された発明、及び上記周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明1
平成18年4月27日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成17年10月7日付手続補正書の特許請求の範囲1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】 窒化アルミニウム基板の両面に厚み15?35μmのAl-Cu系の合金箔を介して、厚み100μm以上、純度99.99重量%以上の圧延AlからなるAl又はAl合金の板、パターン若しくは両方を配置し、それをセラミックス基板の垂直方向に1?50kgf/cm^(2)の圧力を負荷しながら、595?635℃の温度で20?90分保持した後、必要に応じてエッチングすることを特徴とする放熱板に対する回路の体積比が0.80?1.2である回路基板の製造方法。」

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶理由に引用した引用例1?3及びその記載事項は、上記「II.2.引用刊行物とその記載事項」欄に記載されたとおりである。

3.対比・判断
本願発明1は、本願補正発明1の、本願耐熱性に優れた、という具体的限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明1を特定するために必要と認める事項を全て含み、さらに他の事項を付加して限定したものに相当する本願補正発明1が、前記「II.3.対比・判断」に記載したとおり、引用例1?3に記載された発明、及び上記周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1についても、同様の理由により、引用例1?3に記載された発明、及び上記周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1?3に記載された発明、及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-24 
結審通知日 2008-07-29 
審決日 2008-08-11 
出願番号 特願平11-150853
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05K)
P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 千葉 成就  
特許庁審判長 岡 和久
特許庁審判官 川真田 秀男
小川 武
発明の名称 回路基板  

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