• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1185237
審判番号 不服2007-15893  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-07 
確定日 2008-10-03 
事件の表示 平成11年特許願第300164号「偏光板及び液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月27日出願公開、特開2001-116926〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、出願日が平成11年10月21日である特願平11-300164号であって、平成19年4月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成19年6月7日に拒絶査定不服審判の請求がされ、平成19年7月3日付けで手続補正がなされた。

2.平成19年7月3日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年7月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]新規事項の追加、独立特許要件違反
2-1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、平成19年3月2日付け手続補正書の請求項1の
「バーティカルアライアメント型液晶表示装置の偏光板において、該偏光板が偏光子の少なくとも片面側に下記(1)式で定義するレタデーション値(Rt値)が90?175nmである偏光板保護フィルムを貼り合わせたものであることを特徴とする偏光板。
Rt値=((nx+ny)/2-nz)×d (式1)
(nxはフィルムの製膜方向に平行な方向でのフィルムの屈折率、nyは製膜方向に垂直な方向でのフィルムの屈折率、nzは厚み方向でのフィルムの屈折率、dはフィルムの厚み(nm)をそれぞれ表す)」から

「バーティカルアライアメント型液晶表示装置に設置するための偏光板であって、偏光子の両側に偏光板保護フィルムを積層してなる該偏光板において、該偏光板の少なくとも片面側は下記(1)式で定義するレタデーション値(Rt値)が90?175nmである偏光板保護フィルムを貼り合わせたものであることを特徴とする偏光板。
Rt値=((nx+ny)/2-nz)×d (式1)
(nxはフィルムの製膜方向に平行な方向でのフィルムの屈折率、nyは製膜方向に垂直な方向でのフィルムの屈折率、nzは厚み方向でのフィルムの屈折率、dはフィルムの厚み(nm)をそれぞれ表す)」と補正された。

この補正は、「バーティカルアライアメント型液晶表示装置の偏光板」を「バーティカルアライアメント型液晶表示装置に設置するための偏光板であって、偏光子の両側に偏光板保護フィルムを積層してなる該偏光板」と補正(以下「補正ア」という。)し、
「該偏光板が偏光子の少なくとも片面側に・・・偏光板保護フィルムを貼り合わせたもの」を「該偏光板の少なくとも片面側は・・・偏光板保護フィルムを貼り合わせたもの」と補正(以下「補正イ」という。)したものである。
上記補正アは、偏光板について、「設置するための」の限定及び「偏光子の両側に偏光板保護フィルムを積層してなる」の限定をしたもので、補正イは、「該偏光板が偏光子の少なくとも片面側に・・・偏光板保護フィルムを貼り合わせたもの」から、補正アで「偏光子の両側に偏光板保護フィルムを積層してなる」と限定したことに伴い「偏光板の少なくとも片面側は・・・偏光板保護フィルム」とした補正で、補正前では、偏光子の少なくとも片面側に特定のリタデーション値の偏光板保護フィルムを貼り合わせたもので、他の片面については、必ずしも偏光板保護フィルムを貼り合わせないものも請求項に含まれていたのに対し、補正後は、偏光子の両側に偏光板保護フィルムを積層してなるものを前提とし、偏光板の少なくとも片面側は特定のリタデーション値の偏光板保護フィルムを貼り合わせないものに限定したものである。

2-2.新規事項の追加
本件補正は、上記のように形式的には、発明特定事項の減縮であるが、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書」という。)には、偏光子の両側に特定のリタデーション値の偏光板保護フィルムを貼り合わせたもののみが記載され、請求項に含まれることとなる片面側にのみ特定のリタデーション値の偏光板保護フィルムを貼り合わせたものについては、具体的記載がない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

2-3.独立特許要件違反
本件補正は、上記のように新規事項の追加で却下されるべきものであるが、仮に、全体として、新たな技術事項を追加するものでなく、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の限定的減縮に該当するものであるとした場合、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願平10-292843号(特開2000-111914号)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、以下の点が記載されている。

ア.【0009】【発明の効果】
・・・
セルロースの低級脂肪酸エステル100重量部に対して、上記の芳香族性化合物を0.3乃至20重量部添加すると、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550 )が70乃至400nmであるセルロースの低級脂肪酸エステルフイルムが得られる。このような高いレターデーション値を有するセルロースエステルフイルムは、そのまま光学補償シートとして液晶表示装置に用いることができる。また、支持体上にディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層が設けられている光学補償シートにおいて、高いレターデーション値を有するセルロースエステルフイルムを支持体として用いることもできる。高いレターデーション値を有するセルロースエステルフイルムを支持体とし、その上にディスコティック液晶性分子を含む光学的異方性層を設けた光学補償シートは、VA(Vertically Aligned)型、OCB(Optically Compensatory Bend )型またはHAN(Hybrid Aligned Nematic)型の液晶表示装置に、特に有利に用いることができる。

イ.【0087】
[フイルムのレターデーション値]
セルロースエステルフイルムの厚み方向のレターデーション値は、厚み方向の複屈折率にフイルムの厚みを乗じた値である。具体的には、測定光の入射方向をフイルム膜面に対して鉛直方向として、遅相軸を基準とする面内レターデーションの測定結果と、入射方向をフイルム膜面に対する鉛直方向に対して傾斜させた測定結果から外挿して求める。測定は、エリプソメーター(例えば、M-150:日本分光(株)製)を用いて実施できる。
厚み方向のレターデーション値(Rth)と面内レターデーション値(Re)とは、それぞれ下記式(1)および(2)に従って算出する。
式(1)
厚み方向のレターデーション値(Rth)={(nx+ny)/2-nz}×d

ウ.【0106】
図1は、一般的な液晶表示装置の断面模式図である。
液晶層(7)は、樹脂基板(5a、5b)の間に設ける。樹脂基板(5a、5b)の液晶側には、透明電極層(6a、6b)が設けられる。以上の液晶層、樹脂基板および透明電極(5?7)が液晶セルを構成する。
液晶セルの上下に、光学補償シート(4a、4b)が接着されている。本発明のセルロースエステルフイルムは、この光学補償シート(4a、4b)として用いることができる。なお、光学補償シート(4a、4b)は、偏光膜(3a、3b)の保護膜(2a、2b)が設けられていない側を保護する機能も有している。
光学補償シート(4aと4b)の上下には、偏光素子(2a、2b、3a、3b)が設けられている。偏光素子は、保護膜(2a、2b)および偏光膜(3a、3b)からなる。

エ.【0186】
(VA型液晶表示装置の作成)
VAモード液晶セルに、光学補償シート(1)をセルを挟むように2枚、光学補償シートの光学的異方性層と液晶セルのガラス基板とが対面するように配置した。VAモード液晶セルの配向膜のラビング方向と光学補償シートの配向膜のラビング方向は、逆平行になるように配置した。これらの両側に、偏光素子をクロスニコルに配置した。
VAモード液晶セルに対して、55Hz矩形波で電圧を印加した。黒表示2V、白表示6VのNBモードとし、透過率の比(白表示/黒表示)をコントラスト比とした。上下、左右からのコントラスト比を、計器(EZ-Contrast160D、ELDIM社製)で測定した。その結果、正面コントラスト比が300、視野角(コントラスト比10が得られる視野の角度)が上下左右いずれも70度との良好な結果が得られた。

上記記載事項、及び【図1】等から、先願明細書には、
「VA型液晶表示装置に用いることができる偏光膜を保護する機能も有している光学補償シート、偏光膜及び保護膜の積層であって、
偏光膜を保護する機能も有している光学補償シート、偏光膜及び保護膜の積層において、光学補償シートは、波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550 )={(nx+ny)/2-nz}×dが70乃至400nmである偏光膜を保護する機能も有している光学補償シートを積層してなる、光学補償シート、偏光膜及び保護膜の積層。」(以下「先願発明」という。)が記載されている。

(2)対比
そこで、本願補正発明と先願発明とを比較すると、先願発明の「VA型液晶表示装置」、「用いることができる」、「偏光膜」は、それぞれ本願補正発明の「バーティカルアライアメント型液晶表示装置」、「設置するための」、「偏光子」に相当する。

本願補正発明の「偏光板」は、「偏光子の両側に偏光板保護フィルムを積層してなる」のに対し、先願発明の「偏光膜」は、片面側に「保護膜」、他の片面側に「偏光膜を保護する機能も有している光学補償シート」が積層されており、「保護膜」、「偏光膜を保護する機能も有している光学補償シート」のいずれも本願補正発明の「偏光板保護フィルム」に相当する。
してみると、先願発明の「偏光膜を保護する機能も有している光学補償シート、偏光膜及び保護膜の積層」は、本願補正発明の「偏光子の両側に偏光板保護フィルムを積層してなる該偏光板」に相当する。
ここで、請求人は、平成19年8月18日受付の手続補正書(方式)の第4頁で「ここで引用文献1に記載の光学補償シートについて付言すると、本願出願時の当業者の技術常識からすると、光学補償シートは、偏光板とは別に作製し、偏光板と貼り合わせるか液晶セルと貼り合わせる等して液晶表示装置に使用されるものです。」(9?11行)、あるいは、「すると、本願出願時の当業者の技術常識として、光学補償シートを偏光板の偏光板保護フィルムとするいう思想はなく、そのため引用文献1においてはセルロースエステルフィルムでありながら、偏光板の偏光板保護フィルムとして使用することなく、予め液晶セルのガラス基板に配置したものと思慮致します。」(20?23行)と主張しているので、この点について検討する。
偏光板の一方の保護フィルムに光学補償板としての機能を持たせることは、従来周知の技術事項(例えば、特開平8-240714号公報[段落【0013】?【0015】]、特開平8-43812号公報[段落【0001】、【0002】]、特開平10-153708号公報[段落【0012】、【0013】])等参照。)であり、上記の請求人の主張は受け入れられない。そして、このような技術水準のもとで、先願発明を評価すれば、上記したように、先願発明には、本願補正発明の「偏光子の両側に偏光板保護フィルムを積層してなる該偏光板」に相当する構成が記載されているといえる。

本願補正発明のレタデーション値(Rt値)は、【発明の詳細な説明】の段落【0024】で、「レタデーション値(Rt値)の測定には、自動複屈折計KOBRA-21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃-55%RHの環境下で、波長が590nmにおいて、3次元屈折率測定を行い、屈折率nx、ny、nzを求めることにより得られる。」と記載されているが、請求項では、屈折率nx、ny、nz、及びフィルムの厚み(nm)d以外の関係式以外の限定はない。
してみると、先願発明の「波長550nmにおける厚み方向のレターデーション値(Rth550 )={(nx+ny)/2-nz}×d」は、本願補正発明の「下記(1)式で定義するレタデーション値(Rt値)」、「Rt値=((nx+ny)/2-nz)×d (式1)」に相当する。

先願発明の「70乃至400nm」と、本願補正発明の「90?175nm」とは、「所定範囲値」である点で一致する。

先願発明の「光学補償シートを積層してなる」と、本願補正発明の「偏光板保護フィルムを貼り合わせたもの」とは、「偏光板保護フィルムを積層したもの」である点で一致する。

したがって、両者は、
「バーティカルアライアメント型液晶表示装置に設置するための偏光板であって、偏光子の両側に偏光板保護フィルムを積層してなる該偏光板において、該偏光板の少なくとも片面側は下記(1)式で定義するレタデーション値(Rt値)が所定範囲値である偏光板保護フィルムを積層したものであることを特徴とする偏光板。
Rt値=((nx+ny)/2-nz)×d (式1)
(nxはフィルムの製膜方向に平行な方向でのフィルムの屈折率、nyは製膜方向に垂直な方向でのフィルムの屈折率、nzは厚み方向でのフィルムの屈折率、dはフィルムの厚み(nm)をそれぞれ表す)」である点で一致し、以下の各点で一応相違する。

相違点1;
レタデーション値(Rt値)の所定範囲値が、本願補正発明では「90?175nm」であるのに対し、先願発明では「70乃至400nm」である点。

相違点2;
レタデーション値(Rt値)が所定範囲値である偏光板保護フィルムを、本願補正発明では「貼り合わせた」のに対し、先願発明では「積層してなる」点。

(3)判断
相違点1について
本願補正発明の数値範囲は、先願発明の数値範囲に包含されており、本願補正発明の数値範囲に格別臨界的意義があるとも認められないので、相違点1は、実質的な相違点ではない。

相違点2について
積層を形成する際に、「貼り合わせ」ることは、従来周知の技術事項(例えば、特開平8-240714号公報[段落【0013】?【0015】]参照。)であり、先願発明において、上記相違点2の構成を限定することは、当業者が適宜なし得る設計事項であり実質的な相違点ではない。

したがって、本願補正発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願補正発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願補正発明は、特許法第29条の2の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成19年7月3日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年3月2日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。(上記、「2-1.補正後の本願発明」参照。)

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された先願明細書の記載事項は、前記「2-3.(1)引用例」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、本願補正発明から、上記「2-1.補正後の本願発明」で述べた構成の限定を省いたものである。

そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらにその構成を限定したものに相当する本願補正発明が、前記「2-3.(3)判断」に記載したとおり、先願明細書の記載事項と同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、本願発明も、同様の理由により、特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。

なお、審理終結通知書の発送後に回答書が提出されたが、その内容を見ても審決の結論に影響するものではなく、審理の再開をする必要を認めない。
 
審理終結日 2008-07-15 
結審通知日 2008-07-22 
審決日 2008-08-12 
出願番号 特願平11-300164
審決分類 P 1 8・ 561- Z (G02B)
P 1 8・ 16- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 信  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 安田 明央
村田 尚英
発明の名称 偏光板及び液晶表示装置  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ