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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1185385
審判番号 不服2004-177  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-05 
確定日 2008-09-30 
事件の表示 特願2000-603442「臨界的用途のための析出硬化型高機械加工性ステンレス鋼」拒絶査定不服審判事件〔平成12年9月14日国際公開、WO00/53821、平成14年11月12日国内公表、特表2002-538311〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2000年3月8日(パリ条約による優先権主張:外国庁受理1999年3月8日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成15年9月4日付けで手続補正がされたが、同年9月25日付けで拒絶査定がされ、それに対して、平成16年1月5日付けで拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同年1月8日付けで手続補正がされたが、平成18年12月4日付けで当審より拒絶理由が通知され、それに対して、平成19年7月9日付けで手続補正がされたものである。
なお、平成16年1月8日付けの手続補正は、平成18年12月4日付けで補正の却下の決定がされている。

2.本願発明
本願の発明は、平成19年7月9日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「重量%にして、
C 最大0.030
Mn 最大0.50
Si 最大1.00
P 最大0.025
S 0.006?最大0.015
Cr 14.00?15.32
Ni 3.50?5.50
Mo 最大1.00
Cu 2.50?4.50
Nb+Ta (5×C)?0.25
Al 最大0.05
B 最大0.010
N 最大0.030
を含有し、残部が鉄と不純物である析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼合金。」(以下、「本願発明1」という。)

3.当審において通知した拒絶の理由
当審において平成18年12月4日付けで通知した拒絶の理由の一つの概要は、以下のとおりである。
この出願の請求項1?20に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1:特開昭63-53246号公報

4.引用刊行物とその主な記載事項
刊行物1:特開昭63-53246号公報
(1a)「従って本発明の主たる目的は溶体-処理において又時効硬化状態において特に改良された機械加工性により特徴づけられたクロム-ニッケル-銅時効硬化マルテンサイト系ステンレス鋼を提供することである。」(第3頁右下欄第14?18行)

(1b)「この発明の原理を論証するように、機械加工性試験のための数種の溶解物がとかれれた。これら溶解物のための化学組成及び溶体-処理温度から冷却におけるマルテンサイト開始温度及び計算%デルタフェライトが表-Iに与えられている。」(第5頁右上欄第11?15行)

(1c)表-Iには、時効硬化ステンレス鋼の化学組成が示されており、そのうち、「Heat V552A」は、重量%で、「C 0.023、Mn 0.50、P 0.035、S 0.014、Si 0.50、Ni 4.73、Cr 15.57、Mo 0.26、Cu 3.07、Cb 0.20、B 0.003、N 0.027、C+N 0.050」であることが示されている。

(1d)「溶解物V547はこのタイプの時効硬化ステンレス鋼のために代表的化学組成をもっている。他の8溶解物は現発明の溶体-処理及び時効硬化ステンレス鋼の機械加工性における炭素、窒素、及び硫黄の効果を確立するためにとかされた。」(第6頁左上欄第1?5行)

(1e)「一般的溶融及び精製技術により作られた時効硬化ステンレス鋼へのアルミニウム添加は工具摩耗を増すことにより機械加工性を損う硬い角状非金属性混合物の生成を鋼に生じる。又混合物を含んでいるアルミニウムに対する通常の群がる傾向は有害でありえる。このようにして、発明鋼のアルミニウム含量は、真空溶融のような付加的精製工程が使用されないなら、約0.05%以下に制限されねばならない。」(第9頁右下欄第3?11行)

5.当審の判断
(1)引用発明
刊行物1には、「時効硬化マルテンサイト系ステンレス鋼」(摘示(1a))に関して記載されているところ、摘示(1b)、(1c)、(1d)によれば、その具体例として、表-Iに、「Heat V552A」が記載され、その化学組成は、重量%で、「C 0.023、Mn 0.50、P 0.035、S 0.014、Si 0.50、Ni 4.73、Cr 15.57、Mo 0.26、Cu 3.07、Cb 0.20、B 0.003、N 0.027」であることが認められる。また、その残部がFeと不純物であることは明らかである。
以上の記載及び認定事項を整理すると、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「重量%で、C 0.023、Mn 0.50、Si 0.50、P 0.035、S 0.014、Cr 15.57、Ni 4.73、Mo 0.26、Cu 3.07、Cb 0.20、B 0.003、N 0.027を含有し、残部がFeと不純物である時効硬化マルテンサイト系ステンレス鋼。」(以下、「引用発明」という。)

(2)本願発明1と引用発明との対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「Cb」、「時効硬化マルテンサイト系ステンレス鋼」は、それぞれ、本願発明1における「Nb」、「析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼合金」に相当する。
また、本願発明1における「Nb+Ta (5×C)?0.25」について、本願明細書の【0018】の記載によれば、Taは、Nbの一部を置換しうる成分にすぎず、また、本願発明1の具体例であるヒート1?4(表I、表VII)では、いずれも0.01%未満と、実質的に不純物といえるものである。そうすると、本願発明1は、Nbのみ含有し、Taを実質的に含有しない場合も包含するものと認められ、本願発明1と引用発明は、この場合において一致するといえる。
以上によれば、本願発明1と引用発明は、
「重量%にして、
C 0.023
Mn 0.50
Si 0.50
P
S 0.014
Cr
Ni 4.73
Mo 0.26
Cu 3.07
Nb 0.20
B 0.003
N 0.027
を含有する析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼合金。」
である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。
相違点イ:
本願発明1では、さらに「Al」を「最大0.05」含有し、「残部がFeと不純物」であるのに対して、引用発明では、残部がFeと不純物であり、Alを含有するか否か不明である点。
相違点ロ:
本願発明1では、Pの含有量が「最大0.025」であり、Crの含有量が、「14.00?15.32」であるのに対して、引用発明では、Pの含有量が「0.035」であり、Crの含有量が、「15.57」である点。

(3)相違点についての判断
(3-1)相違点イについて
本願発明1における「Al 最大0.05」について、本願明細書には、「この合金組成の残部は・・・通常の不純物を除けば、鉄である。例えば、この合金では、アルミニウムが、約0.05%を超えないように、そして、好ましくは約0.025%を超えないように制限されているが、その理由は、アルミニウムが多いときには、この合金によってもたらされた良好な機械加工性に有害である窒化アルミニウムおよび酸化アルミニウムが形成されるおそれがあるからである。」(【0020】)と記載されているが、当該記載によれば、本願発明1におけるAlは不純物であり、その含有量が「最大0.05」に制限されていると認められる。
一方、刊行物1には、「アルミニウム添加は工具摩耗を増すことにより機械加工性を損う硬い角状非金属性混合物の生成を鋼に生じる。・・・発明鋼のアルミニウム含量は、・・・約0.05%以下に制限されねばならない。」(摘示(1e))と記載されているが、当該記載によれば、刊行物1における時効硬化マルテンサイト系ステンレス鋼は、不純物としてAlを含有するものと認められ、その含有量は約0.05%以下に制限されているといえる。そうすると、引用発明においても、不純物としてAlを約0.05%以下含有すると認められる。
以上によれば、本願発明1と引用発明は、「Al」を「最大0.05」含有し、「残部がFeと不純物」である点で一致するといえるから、上記相違点イは実質的な相違点とはいえない。

(3-2)相違点ロについて
析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼には靭性が必要とされているが、Pの含有量及びCrの含有量が多いと靭性が劣化することは、当業者において周知の事項である(例えば、特開平7-166303号公報の【0008】、【0012】、特開平5-112849号公報の【0008】等参照。)から、引用発明において、靭性を十分に確保できるように、Pの含有量及びCrの含有量を、それぞれ「最大0.025」及び「14.00?15.32」程度にまで少なくすることは、当業者が容易に想到することである。また、それによる効果も当業者が予測しうる程度のものであり、格別顕著なものとはいえない。

(4)小括
したがって、本願発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-18 
結審通知日 2008-04-08 
審決日 2008-04-21 
出願番号 特願2000-603442(P2000-603442)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小柳 健悟  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 井上 猛
平塚 義三
発明の名称 臨界的用途のための析出硬化型高機械加工性ステンレス鋼  
代理人 竹下 和夫  

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