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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20052730 審決 特許
不服20057234 審決 特許
不服200511006 審決 特許
不服200516521 審決 特許
不服200423946 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1185604
審判番号 不服2005-259  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-06 
確定日 2008-10-08 
事件の表示 平成10年特許願第306499号「メラニン生成抑制剤及びこれを含有する美白用皮膚外用剤」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月 9日出願公開、特開2000-128762〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年10月28日の出願であって、その請求項2に係る発明は平成17年3月22日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項2】 請求項1記載のメラニン生成抑制剤を含有する美白用皮膚外用剤。」
上記請求項2において引用する請求項1についての記載を考慮すると、請求項2に記載された発明は、以下のとおりである。

「下記一般式(1)
【化1】 (構造式略) (1)
(式中、Rはグルコ-スおよびマルト-スから選ばれる糖の残基を示す)で表されるα-トコフェロ-ル誘導体を有効成分とするメラニン生成抑制剤を含有する美白用皮膚外用剤。」
(以下、「本願発明」という。)

2.引用例の記載の概要
当審で通知した拒絶の理由に引用された刊行物である引用例A、B、C及びDには以下の事項が記載されている。

引用例A(特開昭56-75421号公報);

(A-1)「(1)水とアルコールとを主剤とする化粧水に於いて、ラメラ相がビタミンE類と複合脂質とから形成されるリポゾームを分散せしめ、配合してなる美白化粧水。

(5)ビタミンE類がα-トコフェロール、…である特許請求の範囲第1項記載の美白化粧水。」(特許請求の範囲の請求項1、5、1頁左下欄5?20行)

(A-2)「ビタミンE類には還元作用のある事が周知であったにもかかわらず、従来美白化粧料としては使用されておらず、老化防止、肌あれ予防等を目的として界面活性剤のような可溶化剤にて溶解されて少量配合されているのが現状であり、かかる場合には美白効果は全く期待できなかった。即ち、従来の配合処方にてビタミンE類を美白効果が期待し得る量まで化粧料中に配合しようとすれば、同時に可溶化剤の配合量も必然的に多くなり、ひいては皮膚刺激の原因となるためビタミンE類を配合した美白化粧水は言うに及ばず美白化粧料すら皆無であった。」(2頁左上欄7?17行)

(A-3)「本発明の目的は化粧水中にビタミンE類を安定に配合した美白化粧水を提供するにある。他の目的は界面活性剤を使用しなくても透明感があり且つ均一にビタミンE類が分散した美白化粧水を提供するにある。更に他の目的は皮膚刺激のないなめらかな美白化粧水を提供するにある。
上述の目的は水とアルコールとを主剤とする化粧水においてラメラ相がビタミンE類と複合脂質とから形成されるリポゾームを分散せしめ、配合してなる美白化粧水により達成される。」(2頁右上欄2?11行)

(A-4)「本発明に適用されるビタミンE類とは、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール、…を言い、好ましくはα-トコフェロール…である。」(2頁右下欄14行?3頁左上欄1行)

(A-5)「本発明でいう複合脂質とは、例えばレシチン、…のようなリン脂質、…糖脂質、又は…硫脂質を言い、好ましくはリン脂質である。」(3頁左上欄2?7行)

(A-6)「本発明の美白化粧水は、ラメラ相がビタミンE類と複合脂質とから形成されるリポゾームを分散せしめて配合することにより、皮膚美白効果を発揮すると共に、脂溶性であるビタミンE類を化粧水中に安定に配合し、且つ、可溶化剤を使用しなくても透明感のある皮膚刺激のないなめらかな美白化粧水である。」(3頁左上欄8?14行)

(A-7)「美白効果は、チロシンから黒褐色色素メラニンを生成するチロシナーゼの作用を阻害する割合で示した。」として、参考例1に、α-トコフェロールのリポゾーム分散液がチロシンから黒褐色色素メラニンを生成するチロシナーゼの阻害活性を示す、「複合脂質の種類別の測定結果」、及び実施例1に、「複合脂質として卵黄レシチンを使用した化粧水による、チロシナーゼの阻害活性率がα-トコフェロール量の増加に応じて増加することの測定結果」が記載されている。(第3頁右上欄第4行?第4頁右上欄第11行、参考例1、[第1表]、実施例1、[第2表])

引用例B(「化粧品ハンドブック」、平成8年11月1日発行、代表者 関根 茂、編集者 蔵多 淑子 外4名、日光ケミカルズ株式会社 外2社);

(B-1)「美白化粧品は、「日焼けによるしみ・そばかすを防ぐ」という効能をうたって市販されており…しみ・そばかすは、表皮内でメラニンが異常に増加した結果形成されるため、メラニンの生成の抑制や還元を目的として美白剤の開発が行われている。…従来、メラニンの生成は、酵素チロシナーゼがコントロールしていると考えられてきた」(460頁左欄6?16行)

引用例C(特開平10-25244号公報);

(C-1)「【請求項1】下記式(1)
【化1】 (構造式略)
〔式中、R_(1)はグルコース、…及びマルトースからなる群から選ばれる糖の残基、R_(2)およびR_(3)は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を意味する〕で示されるトコフェロール配糖体を有効成分として含有する徐放性トコフェロール含有皮膚外用剤。」(【特許請求の範囲の請求項1】、2頁1欄2?13行)

(C-2)「トコフェロールは、従来から、例えば化粧品、…の製剤自身の酸化を防止することにより、変臭、変色、刺激物質の生成を抑制する目的で使用されてきた。しかし近年、トコフェロールが生体膜脂質の過酸化反応を抑制、あるいは抹消血管拡張作用などの生理活性作用を有することが明らかにされてきた。例えば養毛料、ヘアリキッド、ヘアムース、制汗剤、スキンクリーム、ハンドクリームなど人体表面に使用する化粧品類などの皮膚外用剤にも使用されている。しかしながら、トコフェロールは、非常に不安定であるという欠点がある。また、脂溶性の物質であるため…皮膚からの吸収が悪いという問題があり、かかる問題を解消することが期待される新規なトコフエリルグリコシドに関する提案がなされている(特開昭60-56994号公報)。この提案による新規なトコフェリルグリコシドはトコフェロールの脂溶性の改善、ひいては吸収性の向上を図ることが期待でき、また、生体内で代謝加水分解され、遊離のトコフェロールを生じ、その活性を発現させることができる、ことが明らかにされている。」(段落【0002】、2頁1欄24?42行)

(C-3)「本発明者らは、トコフェロール配糖体の生体外すなわち皮膚面上における挙動について鋭意研究を行った。その結果、意外にもトコフェロール配糖体が皮膚常在菌によって徐々に分解され、遊離のトコフェロールが継続的に発現されることによって、変臭、変色などの酸化を受け易い皮膚表面上において、皮膚外用剤自身の酸化を防止し、また、生理活性などのトコフェロールの機能を長時間に渡って安定的に発揮することが判明し、本発明を完成した。」(段落【0004】、2頁1欄50行?同頁2欄8行)

(C-4)「出発物質として用いられるトコフェロールは、α-、β-、γ-またはδ-トコフェロールいずれでもよく」(段落【0007】、2頁2欄33?35行)

引用例D(特開昭60-56994号公報);

(D-1)「(1)式: (構造式略)
〔式中、R_(1)はグルコース残基、…、R_(2)およびR_(3)は、同一または異なつて、各々、水素またはメチルを意味する。〕
で示される化合物。
(2)dl-α-トコフエリルグルコシドである前記第1項の化合物。」(特許請求の範囲の請求項1?2、1頁左下欄5?下から4行)

(D-2)「トコフェロールは、従来、抗不妊ビタミン(ビタミンE)として、また、抗酸化剤として知られているが、末梢血管拡張作用などの種々の薬理作用を有するところから、近年、各種の医薬としても繁用されるようになつている。しかし、トコフェロールは非常に不安定な化合物で、また、脂溶性の物質であるために…皮膚からの吸収が悪い問題があり、かかる問題を解消するため、カルボン酸等のエステルのごとき誘導体とすることが提案されている。
本発明は、このようなトコフェロール誘導体として有用な新規トコフエリルグリコシドを提供するもので、本発明のトコフエリルグリコシドは、
式: (構造式略) 〔I〕
〔式中、R_(1)はグルコース残基、…、R_(2)およびR_(3)は、同一または異なつて、各々、水素またはメチルを意味する〕
で示される、トコフェロールの6位ヒドロキシ基に糖残基…が導入された構造を有する。

式〔I〕の代表的な化合物としては、
dl-α-トコフエリルグルコシド、

が挙げられる。
式〔I〕の化合物中、R_(1)がグルコース残基、…のものは、トコフェロールの安定性、吸収性を改善した誘導体として有用であり」(1頁右下欄最下行?2頁左下欄14行)

(D-3)「出発物質として用いるトコフェロールはα-、β-、γ-またはδ-トコフェロールいずれでもよく」(2頁右下欄7?9行)

3.対比判断
引用例Aには、「α-トコフェロールのリポゾーム分散液である、美白化粧水」(摘記事項(A-1)、(A-4)、(A-7))(以下、「引用例発明」という。)が、記載されている。

なお、引用例Aの「リポゾーム」とは、引用例Aの「本発明に適用されるリポゾームは、複合脂質のラメラ相中にビタミンE類を含有する小胞体であり」(2頁右上欄12?13行)、及び「本発明でいう複合脂質とは、例えばレシチン、…のようなリン脂質、…糖脂質、又は…硫脂質を言い、好ましくはリン脂質である。」(摘記事項(A-5))という記載からみて、主として「リポソーム」、すなわち「リン脂質を材料として人工的に作られた小胞」(例えば「化学大辞典」、第1版第1刷 1989年10月20日発行、第5刷 1998年6月1日発行 大木 道則 外3名編集、 株式会社東京化学同人発行、第2477頁の「リポソーム[liposome]」の項目参照)に相当するものであることは明らかである。

本願発明と引用例発明とを対比すると、両者はα-トコフェロール類を有効成分とする美白用の皮膚外用剤である点で一致し、前者は有効成分であるα-トコフェロール類が一般式(1)で表されるα-トコフェロール誘導体であるのに対して、後者はα-トコフェロールである点(相違点1)、前者は有効成分がメラニン生成抑制剤であるのに対し、後者はこの記載がない点(相違点2)で相違する。

(相違点1)について
引用例Aには、ビタミンE類(例、αートコフェロール)を美白効果が期待し得る量まで化粧料中に配合しようとすれば、同時に可溶化剤の配合量も必然的に多くなり、ひいては皮膚刺激の原因となるため美白化粧料とするのが困難であった問題点を、水とアルコールとを主剤とする化粧水においてラメラ相がビタミンE類と複合脂質とから形成されるリポゾームを分散せしめ、配合することにより解決し、界面活性剤を使用しなくても透明感があり且つ均一にビタミンE類が分散した、皮膚刺激のないなめらかな、ビタミンE類を安定に配合した美白化粧水としたこと(摘記事項(A-2)、(A-3)、(A-6))が記載されている。すなわち、引用例発明においてα-トコフェロールをリポゾーム分散液とすることは、当該有効成分の分散、安定化を達成する手段として採用されていることが明かである。
一方、引用例C及びDには、不安定な化合物であるトコフェロールを安定化させ、皮膚からの吸収性を改善することを目的として、α-トコフェロールをグルコース又はマルトースにより配糖体とすること(摘記事項(C-1)、(C-2)、(C-3)、(C-4)、(D-1)、(D-2)、(D-3))、トコフェロール配糖体は皮膚常在菌によって徐々に分解され、遊離のトコフェロールが継続的に発現されることによって、変臭、変色などの酸化を受け易い皮膚表面上において、皮膚外用剤自身の酸化を防止し、また、生理活性などのトコフェロールの機能を長時間に渡って安定的に発揮すること(摘記事項(C-3))が示されている。
上記トコフェロール配糖体の生理作用は遊離のトコフェロールの作用に由来するとの記載、及び引用例Aにおける美白作用もリポゾーム中のトコフェロールに由来することからすると、引用例Bのトコフェロール配糖体は、当然美白作用も奏するものであって、上記の配糖体が美白剤としても作用することは当業者が容易に予測しうることである。
そうすると、リポゾーム分散液の形態とすることなく、α-トコフェロールの安定化、皮膚からの吸収性の改善、皮膚外用剤自身の酸化防止およびα-トコフェロールの機能の安定的発揮という利点が知られているα-トコフェロールのグルコース又はマルトース配糖体を、美白化粧水の有効成分として使用することは当業者が容易に想到することである。

(相違点2)について
引用例Bの「美白化粧品は、「日焼けによるしみ・そばかすを防ぐ」という効能をうたって市販されており、しみ・そばかすは、表皮内でメラニンが異常に増加した結果形成されるため、メラニンの生成の抑制や還元を目的として美白剤の開発が行われている。従来、メラニンの生成は、酵素チロシナーゼがコントロールしていると考えられてきた」(摘記事項(B-1))との記載から明らかなように、チロシナーゼはメラニン生成に必須の酵素であることは当業者に広く知られており、引用例Aにおいても、α-トコフェロールの美白効果を、チロシナーゼの作用を阻害する割合で示している(摘記事項(A-7))。
そして、チロシナーゼ活性を阻害するならば結果的にメラニン生成も抑制されることは当業者が容易に予測しうるところである。したがって、αートコフェロールにつき通常の美白剤の評価法の一つとして知られる培養色素細胞系試験(引用例B、第462頁、表3.1)によりメラニン生成抑制作用を確認し、メラニン生成抑制剤と表現したことに格別の創意はみいだせない。

してみれば、本願発明は引用例A?Dに記載された発明により当業者であれば容易になし得ることである。

なお、請求人は、引用例A及び本件の審査段階で引用された特開平6-72845号公報(以下、「参考刊行物」という。)は共にα-トコフェロールの美白剤としての使用に否定的なものであり阻害要因となる旨主張している。
確かに、参考刊行物においてα-トコフェロールはチロシナーゼ阻害活性、メラニン生成抑制活性を示さないとされているが、引用例Aの安定なリポゾーム分散液状態では活性を示すのであるから、参考刊行物での結果はα-トコフェロールをそのままの状態で使用したことに基づく溶解性や不安定性がその原因であることは容易に想起されることである。したがって、α-トコフェロールが安定化された状態である配糖体についての美白作用(チロシナーゼ活性阻害作用など)についての予測性は、上記の文献中の記載により阻害されるものではない。
また、請求人は、効果の面を見ても、α-トコフェロールを100mg(0.1g)含有する引用例Aでのα-トコフェロール/リポソーム組成物のチロシナーゼ活性阻害率は、35.4%(第4頁、右上欄、第2表、No.3)であるのに対し、本願発明のα-トコフェロールのグルコシドでは、80.5%、α-トコフェロールのマルトシドでは、78.2%であって(【0038】)、本願発明の効果は当業者の予測の範囲内のものではない旨主張しているが、両者は実験条件もチロシナーゼ活性阻害率の算出式も異なるのであるから、効果を単に阻害率の数値の大小で比較することはできない。そして、引用例Aによりα-トコフェロールはその使用形態を選べば十分美白作用が期待できることの示唆により、α-トコフェロール配糖体の利用が想起されれば、美白作用の程度については、その使用量の増減等で当業者が適宜設定することである。よって、請求人の前記主張は何れも採用できない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は引用例A乃至Dに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-31 
結審通知日 2008-08-05 
審決日 2008-08-18 
出願番号 特願平10-306499
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飯室 加奈福井 悟荒木 英則  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 谷口 博
弘實 謙二
発明の名称 メラニン生成抑制剤及びこれを含有する美白用皮膚外用剤  
代理人 特許業務法人小野国際特許事務所  
代理人 小野 信夫  

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