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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41N
管理番号 1185686
審判番号 不服2006-7175  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-13 
確定日 2008-10-09 
事件の表示 特願2002- 94335「平版印刷版原版」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 7日出願公開、特開2003-285569〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願の主な手続の経緯は、以下のとおりである。

・特許出願 平成14年 3月29日
・拒絶理由通知 平成16年11月12日
・意見書及び手続補正書(明細書)提出 平成17年 1月17日
・拒絶理由通知(最後) 平成17年 5月27日
・意見書及び手続補正書(明細書)提出 平成17年 7月22日
・補正の却下の決定 平成18年 3月 8日
・拒絶査定 平成18年 3月 8日
・審判請求 平成18年 4月13日
・手続補正書(明細書)提出 平成18年 4月13日

第2 平成18年4月13日付け明細書についての手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年4月13日付け明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正における特許請求の範囲についての補正は、
補正前(平成17年1月17日付け手続補正書参照)に
「【請求項1】
アルミニウム板に粗面化処理および陽極酸化処理を施した後、濃度0.6?5.0質量%のアルカリ金属ケイ酸塩水溶液による親水化処理を施し、更に、カルボン酸および/またはカルボン酸塩を含有する水溶液による処理を施して得られる平版印刷版用支持体上に、赤外線吸収剤を含有する画像記録層を設けてなる平版印刷版原版。
【請求項2】
前記平版印刷版用支持体と前記画像記録層との間に、酸基を有する構成成分とオニウム基を有する構成成分とを有する高分子化合物を含有する中間層を有する請求項1に記載の平版印刷版原版。」
とあったものを、
「【請求項1】
アルミニウム板に粗面化処理および陽極酸化処理を施した後、濃度0.6?5.0質量%のアルカリ金属ケイ酸塩水溶液による親水化処理を施し、更に、酢酸、コハク酸、リンゴ酸、シュウ酸またはグリコール酸を含有する水溶液(ただし、親水性高分子と酢酸/酢酸ナトリウム緩衝剤とを含有する水溶液を除く。)による処理を施して得られる平版印刷版用支持体上に、赤外線吸収剤を含有する画像記録層を設けてなる平版印刷版原版。
【請求項2】
前記平版印刷版用支持体と前記画像記録層との間に、酸基を有する構成成分とオニウム基を有する構成成分とを有する高分子化合物を含有する中間層を有する請求項1に記載の平版印刷版原版。」
と補正するものである。

つまり、本件補正は、特許請求の範囲についての以下の補正事項を含む。
〈補正1〉補正前の請求項1の「カルボン酸および/またはカルボン酸塩を含有する水溶液」に関し「酢酸、コハク酸、リンゴ酸、シュウ酸またはグリコール酸を含有する水溶液(ただし、親水性高分子と酢酸/酢酸ナトリウム緩衝剤とを含有する水溶液を除く。)」とする補正。

2.本件補正の目的
〈補正1〉について
補正1は、補正前の請求項1における「カルボン酸および/またはカルボン酸塩を含有する水溶液」を、補正後の請求項1において「酢酸、コハク酸、リンゴ酸、シュウ酸またはグリコール酸を含有する水溶液(ただし、親水性高分子と酢酸/酢酸ナトリウム緩衝剤とを含有する水溶液を除く。)」と限定するものである。
よって補正1は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認める。

すると、補正1を含む本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしているといえる。

3.独立特許要件について
以上のとおり、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしており、同条第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否かについて検討する。

(3-1)本願補正発明の認定
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲【請求項1】に記載された次のとおりのものと認める。
「アルミニウム板に粗面化処理および陽極酸化処理を施した後、濃度0.6?5.0質量%のアルカリ金属ケイ酸塩水溶液による親水化処理を施し、更に、酢酸、コハク酸、リンゴ酸、シュウ酸またはグリコール酸を含有する水溶液(ただし、親水性高分子と酢酸/酢酸ナトリウム緩衝剤とを含有する水溶液を除く。)による処理を施して得られる平版印刷版用支持体上に、赤外線吸収剤を含有する画像記録層を設けてなる平版印刷版原版。」

(3-2)引用例
本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-104479号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の〈ア〉乃至〈オ〉の記載がある。
なお、下記 〈イ〉乃至〈ウ〉において、下線部を付した「○数字」は、当該数字を○で囲んだ文字を意味する。

〈ア〉「【特許請求の範囲】
【請求項2】砂目立て処理及び陽極酸化処理を施し、次いで有機酸またはその塩による処理を施した支持体上に感光性組成物からなる感光層を有する感光性平版印刷版を実質的に溶剤を含有しないpH12以下の水系アルカリ現像液で現像する感光性平版印刷版の処理方法。」
〈イ〉「【0005】【発明の目的】そこで、本発明は像処理時における手の腐食や失明等の取扱い時の危険性と、廃棄時・廃液処理性が改善された感光性平版印刷版の処理方法を提供することを第1の目的とする。本発明の第2の目的は、耐刷力が充分であると共に、印刷時の汚れを抑制できる感光性平版印刷版の処理方法を提供することにある。本発明の第3の目的は、耐薬品性に優れた感光性平版印刷版の処理方法を提供することにある。
【0006】【発明の構成】本発明の上記目的は、○2砂目立て処理及び陽極酸化処理を施し、次いで有機酸またはその塩による処理を施した支持体上に感光性組成物からなる感光層を有する感光性平版印刷版を実質的に溶剤を含有しないpH12以下の水系アルカリ現像液で現像する感光性平版印刷版の処理方法、・・・・・
【0008】以下に本発明の感光性平版印刷版を更に詳細に説明する。前記○1?○7の発明(以下本発明と称す)において用いられる支持体としては、通常の平版印刷版にセットできるたわみ性と印刷時に加わる荷重に耐えるものが好ましく、例えばアルミニウム、マグネシウム、亜鉛、クロム、鉄、銅、ニッケル等の金属板、及びこれらの金属の合金板等が挙げられ、更にはクロム、亜鉛、銅、ニッケル、アルミニウム及び鉄等がメッキまたは蒸着によって被覆されている金属板でもよい。これらのうち好ましい支持体は、アルミニウムまたはその合金である。」
〈ウ〉「【0014】次に、本発明○2?○5の支持体について詳述する。本発明?に用いられる支持体には、この技術分野において通常使用されている脱脂処理、砂目立て処理及び陽極酸化処理等が施されるが、少なくとも砂目立て処理及び陽極酸化処理がこの順で行われた支持体を用いる。
【0016】感光層との密着性を良好にし、かつ保水性を改善するために行われる砂目立て処理方法としては、機械的に表面を粗面化する、いわゆる機械的粗面化法と、電気化学的に表面を粗面化する、いわゆる電気化学的粗面化法がある。機械的粗面化法には例えばボール研磨、ブラシ研磨、ブラスト研磨、バフ研磨等の方法がある。また電気化学的粗面化法には、例えば塩酸または硝酸等を含む電解液中で交流或いは直流によって支持体を電解処理する方法等がある。この内のいずれか1つ、もしくは2つ以上の方法を併用することにより、支持体を砂目立てすることができる。・・・・・
【0018】本発明に用いられる支持体には、通常、耐摩耗性、耐薬品性、保水性を向上させるために、陽極酸化によって酸化被膜を形成させる。この陽極酸化では一般的に、硫酸および/またはリン酸等を10?50%の濃度で含む水溶液を電解液として電流密度1?10A/dm^(2) で電解する方法が好ましく用いられるが、他に米国特許第1,412,768号明細書に記載されている硫酸中で高電流密度で電解する方法や米国特許第3,511,661号明細書に記載されている燐酸を用いて電解する方法等がある。
【0019】本発明○2のアルミニウム支持体は陽極酸化後に有機酸またはその塩により処理される。有機酸またはその塩としては、有機カルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン酸またはその塩等が挙げられるが、好ましくは有機カルボン酸またはその塩である。有機カルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の脂肪族モノカルボン酸類;オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸類;蓚酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸等の脂肪族ジカルボン酸類;乳酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等のオキシカルボン酸類;安息香酸、マンデル酸、サリチル酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸類およびIa、IIb、IIIb、IVa、VIbおよびVIII族の金属塩およびアンモニウム塩が挙げられる。上記有機カルボン酸塩のうち好ましいのは蟻酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸、ラウリン酸、オレイン酸、コハク酸および安息香酸の上記金属塩およびアンモニウム塩である。これらの化合物は単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0020】これらの化合物は水、アルコールに0.001?10重量%、特に0.01?1.0重量%の濃度となるよう溶解されるのが好ましく、処理条件としては25?95℃、好ましくは50?95℃の温度範囲、pHは1?13、好ましくは2?10、10秒?20分、好ましくは10秒?3分間支持体を浸漬するか、処理液を支持体に塗布する。
【0021】このような処理を施す前または後に、陽極酸化されたアルミニウム版を米国特許第3,181,461号に記載されているように、アルカリ金属シリケート(例えば珪酸ソーダ)の水溶液で処理することができる。」
〈エ〉「【0081】上記感光性成組成物の各成分を下記の溶媒に溶解させ、本発明に係る支持体表面に塗布乾燥させることにより、感光層を設けて、本発明の感光性平版印刷版を製造することができる。・・・・
【0084】こうして得られた感光性平版印刷版の使用に際しては、従来から常用されている方法を適用することができ、例えば線画像、網点画像などを有する透明原画を感光面に密着して露光し、次いでこれを適当な現像液を用いて非画像部の感光性層を除去することによりレリーフ像が得られる。露光に好適な光源としては、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯などが使用され、そして現像に使用される現像液としては、以下のものがある。
【0207】【発明の効果】本発明によれば、耐刷力が充分であると共に、印刷時の汚れを防止するのを抑制できる感光性平版印刷版の処理方法を提供することができ、耐薬品性に優れた感光性平版印刷版の処理方法を提供することができる。」
〈オ〉上記 〈イ〉乃至〈ウ〉に記載の「本発明○2」は、〈イ〉の【0006】の記載より、上記 〈ア〉の請求項2に記載の発明を意味する。
〈カ〉上記〈イ〉【0008】「以下に本発明の感光性平版印刷版を更に詳細に説明する。前記○1?○7の発明(以下本発明と称す)において用いられる支持体としては、・・・アルミニウム・・・等の金属板・・・挙げられ・・・これらのうち好ましい支持体は、アルミニウムまたはその合金である。」には、未処理の金属板として、アルミニウム金属板が記載されており、上記〈ウ〉【0019】「本発明○2のアルミニウム支持体は陽極酸化後に有機酸またはその塩により処理される。」の記載及び上記〈カ〉を参照するに、上記〈ア〉に記載の「支持体」は「アルミニウム板に粗面化処理および陽極酸化処理を施した支持体であることが把握できる。
〈キ〉上記〈ア〉【請求項2】に記載の「砂目立て処理」は、上記〈ウ〉【0016】「・・粗面化・・」の記載より、「粗面化処理」であることが把握できる。
〈ク〉上記〈ウ〉【0021】「このような処理を施す前・・・に、陽極酸化されたアルミニウム版を米国特許第3,181,461号に記載されているように、アルカリ金属シリケート(例えば珪酸ソーダ)の水溶液で処理することができる。」の記載より、上記〈ウ〉【0019】「本発明○2のアルミニウム支持体は陽極酸化後に有機酸またはその塩により処理される。」の記載において、前記「本発明○2のアルミニウム支持体は陽極酸化後」と「有機酸またはその塩により処理」との間に、前記「アルカリ金属シリケート(例えば珪酸ソーダ)の水溶液で処理」を施すことが把握できる。そして上記〈ウ〉【0021】に記載の「アルカリ金属シリケート(例えば珪酸ソーダ)の水溶液」は「アルカリ金属ケイ酸塩水溶液」を意味する。
〈ケ〉上記〈ア〉【請求項2】に記載の「有機酸・・・による処理」は、上記〈ウ〉【0019】「・・有機酸・・・による処理・・」及び【0020】「これらの化合物は水・・・・に0.001?10重量%、特に0.01?1.0重量%の濃度となるよう溶解される」の記載より、「有機酸を含有する水溶液による処理」であることが把握でき、加えて当該有機酸として、上記〈ウ〉【0019】には、酢酸、コハク酸、リンゴ酸またはシュウ酸が挙げられていることから、上記〈ア〉【請求項2】に記載の「有機酸・・・による処理」は、「酢酸、コハク酸、リンゴ酸またはシュウ酸を含有する水溶液による処理」であると把握できる。
〈コ〉上記〈ア〉【請求項2】に記載の「感光層」は、上記〈エ〉【0084】に記載の感光面に相当し、上記〈エ〉【0084】「例えば線画像、網点画像などを有する透明原画を感光面に密着して露光し」の記載より、係る感光面に露光することにより画像が記録されていることは明らかであるから、上記〈ア〉【請求項2】に記載の「感光性組成物からなる感光層」は、「画像記録層」であることが把握できる。

上記〈ア〉乃至〈オ〉の記載を含む引用例1には、次のような発明が記載されていると認めることができる。
「アルミニウム板に粗面化処理及び陽極酸化処理を施し、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液による処理を施し、更に、酢酸、コハク酸、リンゴ酸またはシュウ酸を含有する水溶液による処理を施して得られる支持体上に、画像記録層を設けてなる感光性平版印刷版。」(以下、「引用発明」という。)

(3-3)対比
a.引用発明の「支持体」及び「感光性平版印刷版」は、本願補正発明の「平版印刷版用支持体」及び「平版印刷版原版」に相当する。
b.引用例1の記載からみて、引用発明の「酢酸、コハク酸、リンゴ酸またはシュウ酸を含有する水溶液」が、「親水性高分子と酢酸/酢酸ナトリウム緩衝剤とを含有する水溶液」を含まないことは明白であるから、引用発明の「酢酸、コハク酸、リンゴ酸またはシュウ酸を含有する水溶液」は本願補正発明の「酢酸、コハク酸、リンゴ酸またはシュウ酸を含有する水溶液(ただし、親水性高分子と酢酸/酢酸ナトリウム緩衝剤とを含有する水溶液を除く。)」に相当する。

してみれば、本願補正発明と引用発明とは、
「アルミニウム板に粗面化処理及び陽極酸化処理を施し、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液による処理を施し、更に、酢酸、コハク酸、リンゴ酸またはシュウ酸を含有する水溶液(ただし、親水性高分子と酢酸/酢酸ナトリウム緩衝剤とを含有する水溶液を除く。)による処理を施して得られる平版印刷版用支持体上に、画像記録層を設けてなる平版印刷版原版。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点1〉本願補正発明では、親水化処理に際して、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液が「濃度0.6?5.0質量%」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
〈相違点2〉本願補正発明では、画像記録層が「赤外線吸収剤を含有する」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。

(3-4)判断
〈相違点1〉について
引用例1の上記〈ウ〉の【0021】で引用する「米国特許第3,181,461号」(以下、「引用例2」という。)には、1欄29行には「silicate layer will adsorb water 」と、「シリケート層は水を吸着する」が、同3欄21行乃至25行には「the anodized aluminum sheet is dipped in an aqueous sodium silicate solution containing from 1/2 to10% by weight of sodium silicate at a temperature of between 155°and 212°F .for 1 to 10 minutes. 」と、「陽極酸化処理を施したアルミニウム板を、濃度0.5?10.0質量%のアルカリ金属ケイ酸塩水溶液による処理を施し」が、それぞれ記載されており、
加えて、本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-264991号公報(以下、「引用例3」という。)【0130】「アルミニウム板を粗面化するに先立ち、所望により、表面の圧延油を除去するための例えば界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ水溶液等による脱脂処理が行われる。アルミニウム板の表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を溶解粗面化する方法及び化学的に表面を選択溶解させる方法により行われる。機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法等の公知の方法を用いることができる。また、電気化学的な粗面化法としては塩酸又は硝酸電解液中で交流又は直流により行う方法がある。また、特開昭54-63902号公報に開示されているように両者を組み合わせた方法も利用することができる。この様に粗面化されたアルミニウム板は、所望により、アルカリエッチング処理、中和処理を経て、表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理を施すことができる。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成する種々の電解質の使用が可能で、一般的には硫酸、リン酸、蓚酸、クロム酸或いはそれらの混酸が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。」、及び【0132】「支持体表面の親水化処理は、上記陽極酸化処理の後に施されるものであり、従来より知られている処理法が用いられる。このような親水化処理としては、米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、第3,280,734号及び第3,902,734号公報に開示されているようなアルカリ金属珪酸塩(例えば、珪酸ナトリウム水溶液)法がある。この方法においては、支持体が珪酸ナトリウム水溶液で浸漬処理されるか、・・・これらの中で、本発明において特に好ましい親水化処理は珪酸塩処理である。珪酸塩処理について、以下に説明する。
【0133】上述の如き処理を施したアルミニウム板の陽極酸化皮膜を、アルカリ金属珪酸塩が0.1?30重量%、好ましくは0.5?10重量%であり、25℃でのpHが10?13である水溶液に、例えば15?80℃で0.5?120秒浸漬する。アルカリ金属珪酸塩水溶液のpHが10より低いと液はゲル化し13.0より高いと酸化皮膜が溶解されてしまう。本発明に用いられるアルカリ金属珪酸塩としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウムなどが使用される。アルカリ金属珪酸塩水溶液のpHを高くするために使用される水酸化物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどがある。・・・珪酸塩処理により、アルミニウム板表面上の親水性が一層改善されるため、印刷の際、インクが非画像部に付着しにくくなり、汚れ性能が向上する。」、
本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-112136号公報(以下、「引用例4」という。)【請求項2】「アルミニウム支持体は、陽極酸化処理した後に親水化処理が施されている」、【請求項4】「親水化処理が珪酸塩処理であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版用原版。」、【0157】「アルミニウム板の表面を粗面化処理する方法としては、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を溶解粗面化する方法および化学的に表面を選択溶解させる方法がある。機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法などと称せられる公知の方法を用いることが出来る。また、電気化学的な粗面化法としては塩酸または硝酸電解液中で交流または直流により行う方法がある。また、特開昭54-63902号公報に開示されているように両者を組み合わせた方法も利用することが出来る。このように粗面化されたアルミニウム板は、必要に応じてアルカリエッチング処理及び中和処理された後、表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理が施される。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては多孔質酸化皮膜を形成するものならばいかなるものでも使用することができ、一般には硫酸、リン酸、蓚酸、クロム酸あるいはそれらの混酸が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。陽極酸化の処理条件は用いる電解質により種々変わるので一概に特定し得ないが、一般的には電解質の濃度が1?80%溶液、液温は5?70℃、電流密度5?60A/dm2 、電圧1?100V、電解時間10秒?5分の範囲にあれば適当である。陽極酸化皮膜の量は1.0g/m^(2)以上が好適であるが、より好ましくは2.0?6.0g/m^(2)の範囲である。陽極酸化皮膜が1.0g/m^(2)未満であると耐刷性が不十分であったり、平版印刷版の非画像部に傷が付き易くなって、印刷時に傷の部分にインキが付着するいわゆる「傷汚れ」が生じ易くなる。尚、このような陽極酸化処理は平版印刷版の支持体の印刷に用いる面に施されるが、電気力線の裏回りにより、裏面にも0.01?3g/m^(2)の陽極酸化皮膜が形成されるのが一般的である。
【0158】上述の処理を施した後に用いられる親水化処理としては」、及び【0159】「上述の如き処理を施したアルミニウム板の陽極酸化皮膜を、アルカリ金属珪酸塩が0.1?30重量%、好ましくは0.5?10重量%であり、25℃でのpHが10?13である水溶液に、例えば15?80℃で0.5?120秒浸漬する。アルカリ金属珪酸塩水溶液のpHが10より低いと液はゲル化し13.0より高いと酸化皮膜が溶解されてしまう。本発明に用いられるアルカリ金属珪酸塩としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウムなどが使用される。アルカリ金属珪酸塩水溶液のpHを高くするために使用される水酸化物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどがある。・・・・珪酸塩処理により、アルミニウム板表面上の親水性が一層改善されるため、印刷の際、インクが非画像部に付着しにくくなり、汚れ性能が向上する。」、
並びに本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-108538号公報(以下、「引用例5」という。)【請求項1】「親水化処理が施された支持体上に、・・・・」、【請求項4】「親水化処理が珪酸塩処理であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版用原版。」、【0105】「アルミニウム板を粗面化するに先立ち、所望により、表面の圧延油を除去するための例えば界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ水溶液等による脱脂処理が行われる。アルミニウム板の表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を溶解粗面化する方法及び化学的に表面を選択溶解させる方法により行われる。機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法等の公知の方法を用いることができる。また、電気化学的な粗面化法としては塩酸又は硝酸電解液中で交流又は直流により行う方法がある。また、特開昭54-63902号公報に開示されているように両者を組み合わせた方法も利用することができる。この様に粗面化されたアルミニウム板は、所望により、アルカリエッチング処理、中和処理を経て、表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理を施すことができる。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成する種々の電解質の使用が可能で、一般的には硫酸、リン酸、蓚酸、クロム酸或いはそれらの混酸が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。」、【0107】「支持体表面の親水化処理は、上記陽極酸化処理の後に施されるものであり・・」、及び【0108】「上述の如き処理を施したアルミニウム板の陽極酸化皮膜を、アルカリ金属珪酸塩が0.1?30重量%、好ましくは0.5?10重量%であり、25℃でのpHが10?13である水溶液に、例えば15?80℃で0.5?120秒浸漬する。アルカリ金属珪酸塩水溶液のpHが10より低いと液はゲル化し13.0より高いと酸化皮膜が溶解されてしまう。本発明に用いられるアルカリ金属珪酸塩としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウムなどが使用される。アルカリ金属珪酸塩水溶液のpHを高くするために使用される水酸化物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどがある。、・・・珪酸塩処理により、アルミニウム板表面上の親水性が一層改善されるため、印刷の際、インクが非画像部に付着しにくくなり、汚れ性能が向上する。」の記載を参照するに、引用例3乃至5記載「濃度重量%」と本願補正発明の「濃度質量%」とは同義であることから、
アルミニウム板に粗面化処理および陽極酸化処理を施した後、濃度が0.1?30質量%のアルカリ金属ケイ酸塩水溶液による親水化処理を施して平版印刷版用支持体を得ることは、周知の技術事項であるといえる。
加えて、上記周知の技術事項には、上記アルカリ金属ケイ酸塩水溶液の濃度が0.5?10質量%のものも示唆されている。
してみれば、引用発明において、上記周知の技術事項より、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液の濃度を0.6?5.0質量%に好適化して用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、相違点1に係る本願補正発明の特定事項は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

〈相違点2〉について
平版印刷版用支持体上に、画像記録層を設けてなる平版印刷版原版において、当該画像記録層に赤外線吸収剤を含有させ赤外線レーザを照射することにより、当該赤外線吸収剤を発熱させて画像記録を行うことは、例えば、上記引用例3、特に【請求項1】、【0001】「・・・ネガ形画像記録材料・・」、【0010】乃至【0011】「・・ネガ形画像記録材料・・」、上記引用例4、特に【請求項1】、【0051】及び【0065】乃至【0080】「・・・ネガ形画像記録材料・・」、【0081】、【0146】乃至【0148】及び【0156】「・・ネガ形画像記録材料・・」、上記引用例5、特に【請求項1】「・・・及び(C)光を吸収して発熱する化合物を含有する赤外線レーザ用ポジ型感光性組成物とを・・・」、【0078】乃至【0094】、並びに本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-330954号公報(以下、「引用例6」という。)、特に【請求項1】乃至【請求項3】「前記記録層中に、赤外線吸収剤を含有する請求項1又は請求項2に記載のポジ型画像形成材料。」、【0051】乃至【0080】、【0097】及び【0105】に記載の如く、周知の技術事項である。
してみれば、引用発明において、上記周知の技術事項より、赤外線レーザを照射することにより画像記録を行うべく、画像記録層に赤外線吸収剤を含有させて用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、相違点2に係る本願補正発明の特定事項は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

〈まとめ〉
このように、相違点1乃至相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が想到容易な事項であり、これらの発明特定事項を採用したことによる本願補正発明の効果も当業者が容易に予測し得る程度のものである。

以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.本件補正についてのむすび
前記「第2 3.」に記載のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明の認定
平成18年4月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったとともに、平成17年7月22日付けの手続補正は平成18年3月8日付けで却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成17年1月17日付けで補正された特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「アルミニウム板に粗面化処理および陽極酸化処理を施した後、濃度0.6?5.0質量%のアルカリ金属ケイ酸塩水溶液による親水化処理を施し、更に、カルボン酸および/またはカルボン酸塩を含有する水溶液による処理を施して得られる平版印刷版用支持体上に、赤外線吸収剤を含有する画像記録層を設けてなる平版印刷版原版。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平6-219073号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の〈サ〉乃至〈タ〉の記載がある。
〈サ〉「【特許請求の範囲】【請求項1】少なくとも粗面化及び陽極酸化処理をこの順で行なったアルミニウム支持体の表面を亜硝酸及び/又は亜硝酸塩を含む水溶液及び珪酸及び/又は珪酸塩を含む水溶液で処理した後、親水性高分子水溶液で処理してなる支持体を有することを特徴とする感光性平版印刷版。
【請求項2】少なくとも粗面化及び陽極酸化処理をこの順で行なったアルミニウム支持体の表面を、3?6の範囲内の値に調整された pH値を有するカルボキシメチルセルロース水溶液で処理してなる支持体を有することを特徴とする感光性平版印刷版。」
〈シ〉「【0016】また本発明に用いられる珪酸塩としては、ナトリウム塩のものが好ましく、0.1?3重量%の例えばオルソ珪酸ソーダ、メタ珪酸ソーダ、セスキ珪酸ソーダ、珪酸ソーダ1号、珪酸ソーダ2号、珪酸ソーダ3号、珪酸ソーダ4号、珪酸カリ等のケイ酸塩化合物を含むものが好ましく用いられる。このような珪酸塩処理は40?95℃の温度で1?120秒間行なわれることが好ましい。」
〈ス〉「【0017】前記亜硝酸及び/又は亜硝酸塩を含む水溶液及び珪酸及び/又は珪酸塩を含む水溶液で処理された支持体は次いで親水性高分子水溶液で処理される。このような親水性高分子水溶液に用いられる親水性高分子としてはポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリビニルピロリドン、ポリビニルホスホン酸などのアクリル酸共重合体;ポリエチレンイミン、ジアクリルジメチルアルミニウムクロライド、ポリビニルイミダゾリン、ポリアルキルアミノエチルアクリレートなどのマレイン酸共重合体;またポリエチレングリコールポリオキシエチレン、ポリプロピレングリコール、エチレンジアミン、ヘキサエチレンジアミン、ポリウレタン樹脂、ポリヒドロキシメチル尿素、ポリヒドロキシメチルメラミン樹脂、さらに可溶性デンプン、CMC(カルボキシメチルセルロース)、ヒドロキシエチルセルロース、グアーガム、トラガカントゴム、キサンタンガム、アルギン酸ソーダ、ゼラチンなどの水溶性高分子が挙げられ、好ましくはポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、CMC、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0018】本発明における親水性高分子水溶液は、上記親水性高分子を1重量%以下、好ましくは0.001?1重量%含む水溶液であり、このような水溶液を好ましくは pH値9以下、好ましくは6?9、又は温度60℃以上、好ましくは70?95℃の条件下で、特に、これらの条件すべてを備えて用いることが好ましい。
【0019】前記(2)の発明においては、前処理したアルミニウム支持体の表面をカルボキシメチルセルロースの水溶液で処理するがこの際に該水溶液の pH値を3?6、好ましくは3.5?4.5の範囲内の値に調整する。この場合、用いられるCMCとしてはエーテル化度0.8?1.0のものが好ましく、CMCの水溶液中の濃度は0.001?1重量%、更に0.001?0.1重量%であることが好ましい。
【0020】また、上記 pH値を所定の範囲内の値に調整するには緩衝剤を用いて行なうことができるが、用いることのできる緩衝剤としては、pH3?6に調整できるものであれば、特に限定されないが、例としては、ギ酸/ギ酸ナトリウム、酢酸/酢酸ナトリウム、酒石酸/水酸化ナトリウム、クエン酸/水酸化ナトリウム、クエン酸/クエン酸ナトリウム、酢酸/酢酸ナトリウム、燐酸二水素ナトリウム/クエン酸等が挙げられる。なお本発明においては単に酸で pH値を3?6に調整しても構わないが、緩衝液で調整するのがより好ましい。 」
〈セ〉「【0022】前記(1)及び(2)の発明(以下本発明と称す)において用いられる支持体としては、通常の平版印刷機にセットできるたわみ性と印刷時に加わる荷重に耐えるものが好ましく、例えばアルミニウム、マグネシウム、亜鉛、クロム鉄、銅ニッケル等の金属板、及びこれらの金属の合金板等が挙げられ、更にはクロム、亜鉛、銅、ニッケル、アルミニウム及び鉄等がメッキまたは蒸着によって被覆されている金属板でもよいが、これらのうち好ましい支持体は、アルミニウムまたはその合金である。」
〈ソ〉「【0030】本発明の感光性平版印刷版は、前述のようにして得られた支持体に感光層を設けたものであるが、この感光層中に用いられる感光性物質は、特に限定されるものでなく、通常、感光性平版印刷版に用いられている、例えば下記のような各種のものが使用される。」
〈タ〉「【0072】こうして得られた感光性平版印刷版の使用に際しては、従来から常用されている方法が適用され得、例えば線画像、網点画像などを有する透明原画を感光面に密着して露光し、次いでこれを適当な現像液を用いて非画像部の感光性層を除去することによりレリーフ像が得られる。露光に好適な光源としては、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯などが使用される。」
〈チ〉上記〈セ〉に記載の「アルミニウム金属板」より、上記〈サ〉の記載の「アルミニウム支持体」は、「アルミニウム板に粗面化及び陽極酸化処理をこの順で行なったアルミニウム支持体」であることが把握できる。
〈ツ〉上記〈シ〉には、「【0016】また本発明に用いられる珪酸塩としては、ナトリウム塩のものが好ましく、0.1?3重量%の例えばオルソ珪酸ソーダ、メタ珪酸ソーダ、セスキ珪酸ソーダ、珪酸ソーダ1号、珪酸ソーダ2号、珪酸ソーダ3号、珪酸ソーダ4号、珪酸カリ等のケイ酸塩化合物を含むものが好ましく用いられる。」と記載されており、上記〈シ〉に記載の「ナトリウム塩」は「アルカリ金属塩」に包含されることから、上記〈シ〉に記載の「オルソ珪酸ソーダ、メタ珪酸ソーダ、セスキ珪酸ソーダ、珪酸ソーダ1号、珪酸ソーダ2号、珪酸ソーダ3号、珪酸ソーダ4号、珪酸カリ等のケイ酸塩化合物」は「アルカリ金属ケイ酸塩」に包含される。
以上より、上記〈サ〉に記載の「珪酸塩を含む水溶液で処理し」は、「濃度0.1?3重量%のアルカリ金属ケイ酸塩水溶液による処理を施し」であることが把握できる。
〈テ〉上記〈ス〉、特に【0020】には、親水性高分子水溶液の緩衝剤として、「ギ酸/ギ酸ナトリウム、酢酸/酢酸ナトリウム、酒石酸/水酸化ナトリウム、クエン酸/水酸化ナトリウム、クエン酸/クエン酸ナトリウム、酢酸/酢酸ナトリウム、燐酸二水素ナトリウム/クエン酸等」が記載されており、前記「ギ酸」、「酢酸」、「酒石酸」及び「クエン酸」は「カルボン酸」に包含され、前記「ギ酸ナトリウム」、「酢酸ナトリウム」及び「クエン酸ナトリウム」は「カルボン酸塩」に包含される。
そうすると、上記〈サ〉の記載「親水性高分子水溶液」は、「カルボン酸および/またはカルボン酸塩と親水性高分子水溶液とを含有する水溶液」であることが把握できる。
〈ト〉上記〈ソ〉より、上記〈サ〉の記載の「感光性平版印刷版」は、「アルミニウム支持体上に感光層を設けてなる平版印刷版」であることが把握できる。
〈ハ〉上記〈ソ〉【0030】に記載の「感光層」は、上記〈タ〉【0072】に記載の感光面に相当し、上記〈タ〉【0072】「例えば線画像、網点画像などを有する透明原画を感光面に密着して露光し」の記載より、係る感光面に露光することにより画像が記録されていることは明らかであるから、上記〈ソ〉【0030】に記載の「感光層」は、「画像記録層」であることが把握できる。
〈ヒ〉上記〈ト〉及び〈ハ〉より、上記〈サ〉の記載の「感光性平版印刷版」は、「アルミニウム支持体上に、画像記録層を設けてなる感光性平版印刷版」であることが把握できる。

上記〈サ〉乃至〈タ〉の記載を含む刊行物1には、次のような発明が記載されていると認めることができる。
「アルミニウム板に粗面化及び陽極酸化処理を施した後、濃度0.1?3重量%のアルカリ金属ケイ酸塩水溶液による処理を施し、更に、カルボン酸および/またはカルボン酸塩と親水性高分子とを含有する水溶液による処理を施して得られるアルミニウム支持体上に、画像記録層を設けてなる感光性平版印刷版。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

3.対比
i.刊行物1記載の発明の「粗面化」、「アルミニウム支持体」及び「感光性平版印刷版」は、本願発明の「粗面化処理」、「平版印刷版用支持体」及び「平版印刷版原版」に相当する。
ii.刊行物1記載の発明の「濃度0.1?3重量%」と本願発明の「濃度0.6?5.0質量%」とは、刊行物1記載の発明の「濃度重量%」が本願発明の「濃度質量%」と同義であることから、両者は「濃度0.6?3質量%」の範囲で重複する。
iii.刊行物1記載の発明の「濃度0.1?3質量%のアルカリ金属ケイ酸塩水溶液による処理を施し」は、前記「第2 3.(3-4)」中の「〈相違点1〉について」に記載の周知の技術事項を参照するに、「濃度0.1?3質量%のアルカリ金属ケイ酸塩水溶液による親水化処理を施し」と呼ぶことができる。
iv.刊行物1記載の発明の「更に、カルボン酸および/またはカルボン酸塩と親水性高分子とを含有する水溶液による処理を施して」と本願発明の「更に、カルボン酸および/またはカルボン酸塩を含有する水溶液による処理を施して」とは、「更に、カルボン酸および/またはカルボン酸塩を含有する水溶液による処理を施して」いる点で共通する。

してみれば、本願発明と刊行物1記載の発明とは、
「アルミニウム板に粗面化処理及び陽極酸化処理を施した後、濃度0.6?3質量%のアルカリ金属ケイ酸塩水溶液による親水化処理を施し、更に、カルボン酸および/またはカルボン酸塩を含有する水溶液による処理を施して得られる平版印刷版用支持体上に、画像記録層を設けてなる感光性平版印刷版。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点A〉本願発明では、画像記録層が「赤外線吸収剤を含有する」と特定されているのに対し、刊行物1記載の発明ではそのような特定がなされていない点。

4.判断
〈相違点A〉について
平版印刷版用支持体上に、画像記録層を設けてなる平版印刷版原版において、当該画像記録層に赤外線吸収剤を含有させ赤外線レーザを照射することにより、当該赤外線吸収剤を発熱させて画像記録を行うことは、例えば、上記引用例3【請求項1】、【0001】「・・・ネガ形画像記録材料・・」、【0010】乃至【0011】「・・ネガ形画像記録材料・・」、上記引用例4【請求項1】、【0051】及び【0065】乃至【0080】「・・・ネガ形画像記録材料・・」、【0081】、【0146】乃至【0148】及び【0156】「・・ネガ形画像記録材料・・」、上記引用例5【請求項1】「・・・及び(C)光を吸収して発熱する化合物を含有する赤外線レーザ用ポジ型感光性組成物とを・・・」及び【0078】乃至【0094】、並びに上記引用例6、特に【請求項1】乃至【請求項3】「前記記録層中に、赤外線吸収剤を含有する請求項1又は請求項2に記載のポジ型画像形成材料。」、【0051】乃至【0080】、【0097】及び【0105】に記載の如く、周知の技術事項である。

してみれば、刊行物1記載の発明において、上記周知の技術事項より、赤外線レーザを照射することにより画像記録を行うべく、画像記録層に赤外線吸収剤を含有させて用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

したがって、相違点Aに係る本願発明の特定事項は、刊行物1記載の発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

このように、相違点Aに係る本願発明の発明特定事項は、刊行物1記載の発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が想到容易な事項であり、この発明特定事項を採用したことによる本願発明の効果も当業者が容易に予測し得る程度のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-06 
結審通知日 2008-08-12 
審決日 2008-08-26 
出願番号 特願2002-94335(P2002-94335)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41N)
P 1 8・ 121- Z (B41N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 裕美子亀田 宏之東 裕子  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 菅野 芳男
坂田 誠
発明の名称 平版印刷版原版  
代理人 三和 晴子  
代理人 渡辺 望稔  

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