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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1186295
審判番号 不服2005-6359  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-11 
確定日 2008-10-14 
事件の表示 平成 6年特許願第 73757号「抗腫瘍ミトキサントロンのポリマー組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年11月22日出願公開、特開平 6-321927〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成6年3月22日(パリ条約による優先権主張 1993年3月25日,米国)の出願であって、その請求項1,2に係る発明は、平成16年9月24日付けの手続補正で補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1,2に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】 薬学的に許容される担体と組み合わせて、ジビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体部分とのミトキサントロンの共有接合体を含んでなる癌の処置用の薬学組成物であって、前記接合体が、ジビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(MVE)とミトキサントロンとを第三級アミンの存在下、適当な有機溶媒中で反応させることにより調製可能な反応産物であり、MVE共重合体1分子あたり平均18分子のミトキサントロンを有している、薬学組成物。」

2.引用例
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前の刊行物である特開昭60-67426号公報(以下、「引用例1」という。)と「THE MERCK INDEX,ELEVENTH EDITION,p.979(1989年)」(以下、「引用例2」という。)には、次のような技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

引用例1
(1-i)「1 一般式

(式中のRは制ガン活性を与える残基、nはRと結合するジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体の分子量2,000?15,000に相当する整数である)
で示される高分子化合物及びその薬理的に許容しうる塩類を活性成分として成る低毒性制ガン剤。
2 有機溶媒の存在下、分子量2,000?15,000を有するジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体に、活性水素を有する制ガン剤活性物質を反応させたのち加水分解し、次いで所望に応じ塩に変えることを特徴とする、一般式

(式中のRは制ガン活性を与える残基、nはRと結合するジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体の分子量2,000?15,000に相当する整数である)
で示される低毒性制ガン剤及びその塩類の製造方法。」(特許請求の範囲参照)
(1-ii)「しかしながら、これらの制ガン活性物質は、優れた制ガン効果を有すると同時に、正常細胞に対しても強い毒性を示す欠点を有し、したがつてその使用に際しては、副作用に対して十二分な注意が必要であり、そのため少量づつ多数回投与するなど煩雑な方法がとられている。
ところで、前記のような低分子化合物である制ガン活性物質を高分子化合物に結合させた場合、該制ガン活性物質は体内で徐々に放出されてその濃度が一定に保たれ、またそのものの体内分布が変り、毒性が軽減されて制ガン効果が高まることが期待される。
本発明者らは、このような事情に鑑み、活性水素を有する制ガン活性物質を結合させる高分子化合物について鋭意研究を重ねた結果、ある特定の分子量を有するジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体は、それ自体優れた制ガン効果を有し、かつ毒性が極めて低く、また分子中に多数の酸無水物構造を有しているため、活性水素をもつ制ガン活性物質と容易に反応し、しかもこの反応物は温和な条件下で前記制ガン活性物質を徐々に放出するなど、該制ガン活性物質の担体として極めて優れていることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至つた。」(第2頁左上欄13行?同頁右上欄17行参照)
(1-iii)「また、前記共重合体は、その分子中に多数の酸無水物構造を有しているため、水酸基、アミノ基、メルカプト基などの活性水素を有する制ガン活性物質と容易に反応して、それぞれエステル結合、アミド結合、チオエステル結合を形成しうる。
本発明に用いられる制ガン活性物質としては、例えば水酸基を含有するものとして、5-フルオロウリジン、アミノ基を含有するものとして、1-β-D-アラビノフラノシルシトシン、アドリアマイシンやダウノマイシンのようなアントラサイクリン系抗生物質などが挙げられる。前記一般式(I)におけるこれらの制ガン活性物質の残基Rを次に示す。

」(第3頁左上欄2行?同頁右上欄末行参照)
(1-iv)「本発明の制ガン剤は、例えばN-メチルピロリドンなどの有機溶媒、トリエチルアミンなどの触媒の存在下、ジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体と前記の制ガン活性物質とを反応させたのち加水分解し、次いでイオン交換樹脂や限外ろ過膜などを用いて目的物以外のものを取り除いたのち、凍結乾燥などを行うことによつて得られる。また、所望に応じ、前記の加水分解後、薬理的に許容しうる塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などに変えたのち、限外ろ過、凍結乾燥などを行い、塩として取り出してもよい。」(第3頁左下欄1?12行参照)
(1-v)「本発明の制ガン剤における制ガン活性物質の徐放性については、例えばアドリアマイシンとジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体との結合物の場合、試験管内の0.1規定、pH7.2リン酸緩衝液中におけるアドリアマイシンの放出速度は、2週間で約20%であつた。また1-β-D-アラビノフラノシルシトシンと該共重合体との結合物の場合、試験管内の生理食塩水溶液中における制ガン活性物質の放出速度は、1週間で50%程度であつた。
さらに、p388白血病の雄のCDF_(1)マウスを用いた制ガン効果については、例えばアドリアマイシンと該共重合体との結合物では最高延命率570%(60日生存3/6)、アドリアマイシン単独では同85%(60日生存0/6)であり、1-β-D-アラビノフラノシルシトシンと該共重合体との結合物では最高延命率125%、1-β-D-アラビノフラノシルシトシン単独では同10%であつた。
このように、本発明の制ガン剤は、制ガン活性物質の徐放性に優れ低毒性である上に、それ自体制ガン活性をもつ該共重合体との相乗効果により、該制ガン活性物質を単独で用いる場合に比べて、優れた制ガン効果を有する。」(第3頁左下欄16行?同頁右下欄19行参照)
(1-vi)「なお、ジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体をDIVEMAと略記する。
実施例1 5-フルオロウリジン-DIVEMA結合物
DIVEMA(分子量7000)500mgをN-メチルピロリドン20mlに溶かし、5-フルオロウリジン1.00g及びトリエチルアミン0.10mlを加えて、室温下40時間かきまぜ反応させた。この反応混合物を500mlの水中に投入し、炭酸水素ナトリウムを加えてpH8に調整したのち、2時間放置した。次いで1N塩酸を加えてpH3に調整後、ダイアフローメンブレン(YM-5)を用い限外ろ過して未反応物、有機溶媒、塩を除いたのち、凍結乾燥して目的物593mgを白色粉末として得た。このもののUV吸収量から求めた5-フルオロウリジン含有量は36.1重量%であつた。」(4頁左上欄2?17行参照)
(1-vii)「参考例 1
DIVEMAの酸無水物構造を加水分解したポリマーを生理食塩水に溶解し、8?10週令の雄のCDF1マウスの腹腔内に1回投与して、30日間マウスの生死を観察した。その結果を第1表に示す。なお、マウスは1群5?6匹で繰り返し実験を行い、LD_(10)を算出した。
・・・(後略)。
参考例 2
0.1規定、pH7.2のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中におけるアドリアマイシン(Ad)-DIVEMA結合物からのAd放出を検討した。
実施例5で得られたAd-DIVEMA結合物3.2mgを含むPBS10mlを37℃に保ち、一定時間後0.1mlをサンプリングし、0.1N塩酸0.4mlを加えて該結合物を沈殿させ、遠心分離した上澄液の可視部(490nm)の吸光度を測定し、Ad放出量を求めた。その結果を第5図に示す。なお放出量は3つのサンプルの平均値である。
この図から、2週間経過後、約20%のアドリアマイシンが放出されたことが分る。」(第6頁右上欄1行?同頁左下欄12行参照)
(1-viii)「参考例 4
制ガン活性物質?DIVEMA結合物の制ガン活性評価をP388白血病マウスを用いて行つた。
8?10週令の雄のCDF_(1)マウスの腹腔内に1×10^(6)個のP388白血病細胞を移植し、24時間後に制ガン活性物質-DIVEMA結合物の溶液を該腹腔内に投与した。1群6匹のマウスを実験群として用い、生存日数の中央値を対照群と比較し、次の式により延命率を求めた。
延命率 ILS=(T-C)/C×100(%)
ただし、T:治療群生存日数中央値
C:対照群治療日数中央値
また、60日の長期生存マウスが生存する場合、その数を求めた。
第2表にAraC-DIVEMA結合物の制ガン活性を、第3表にAd-DIVEMA結合物(塩型)の制ガン活性を示す。

」(第6頁右下欄4行?第7頁右上欄末行参照)

引用例2
ミトキサントロンが、次の化学構造のものであり、

「Activity vs exptl tumors in mice」や「Mutagenicity study」などの研究の論文名が列挙され、「Antineoplastic」(抗腫瘍薬)に用いられる旨(第979頁「6135.Mitoxantrone」の項目参照)

3.対比、判断
そこで、本願発明と引用例1に記載の発明とを対比する。
引用例1には、上記「2.」の摘示事項からみて、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。
「有機溶媒、トリエチルアミンなどの触媒の存在下、分子量2,000?15,000を有するジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体に、活性水素を有する制ガン剤活性物質を反応させたのち加水分解し、次いで所望に応じ塩に変えることを特徴とする、一般式

(式中のRは制ガン活性を与える残基、nはRと結合するジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体の分子量2,000?15,000に相当する整数である)
で示される高分子化合物及びその薬理的に許容しうる塩類を活性成分として成る低毒性制ガン剤。」

そして、
(a)引用例1発明の「分子量2,000?15,000を有するジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体」と「活性水素を有する制ガン剤活性物質」は、本願発明の「ジビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(MVE)」と「ミトキサントロン」に対応し、
本願発明の「ミトキサントロン」は、アミド連結を生じる反応性アミノ基を有する合成アントラセン抗腫瘍性化合物に属するものとして説明されていた(段落【0004】,【0008】,当初明細書の請求項2?4参照)もので、反応性アミノ基は活性水素を有するものであること、及び、「抗腫瘍性化合物」とは「制ガン剤活性物質」を意味することから、後記で「ミトキサントロン」の特定を相違点(A)とすることを前提に、「活性水素を有する制ガン剤活性物質」の概念で便宜的に扱えるから、
両者は、「ジビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(MVE)」と「活性水素を有する制ガン剤活性物質」で一致する。
なお、該共重合体の分子量に関しては、本願発明では特定されていないから相違点とはなり得ないし、仮に対比したところで、本願発明の実施例で「MW10,000」のものが用いられていて、引用例1発明の「分子量2,000?15,000」と一致し、やはり相違点とはなり得ない。

(b)引用例1発明の「有機溶媒、トリエチルアミンなどの触媒の存在下、」「反応させた」は、本願発明の「第三級アミンの存在下、適当な有機溶媒中で反応させる」に対応し、
本願発明の第三級アミンに関し、「トリエチルアミンの如き第三級アミン」(本願明細書段落【0011】参照)と説明されていて、実施例でもトリエチルアミンが使用されていることに鑑み、
両者は、「トリエチルアミンの存在下、適当な有機溶媒中で反応させる」ことで一致する。

(c)引用例1発明の「一般式

(式中のRは制ガン活性を与える残基、nはRと結合するジビニルエーテル?無水マレイン酸共重合体の分子量2,000?15,000に相当する整数である)で示される高分子化合物」は、本願発明の「ジビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体部分とのミトキサントロンの共有接合体」に対応し、
前記(a)で言及したと同じ理由で、
両者は、「ジビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体部分との活性水素を有する制ガン剤活性物質の共有接合体」で一致する。

(d)引用例1発明の「低毒性制ガン剤」は、本願発明の「癌の処置用の薬学組成物」に対応する。

以上(a)?(d)を総合的に判断すると、本願発明と引用例1発明は、
「ジビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体部分との活性水素を有する制ガン剤活性物質の共有接合体を含んでなる癌の処置用の薬学組成物であって、前記接合体が、ジビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体(MVE)と活性水素を有する制ガン剤活性物質とを第三級アミンの存在下、適当な有機溶媒中で反応させることにより調製可能な反応産物である薬学組成物。」
で一致し、次の相違点で相違する。
<相違点>
(A)本願発明では、「薬学的に許容される担体と組み合わせて、」と特定しているのに対し、引用例1発明ではそのように特定していない点
(B)「活性水素を有する制ガン剤活性物質」に関して、本願発明が、「ミトキサントロン」と特定しているのに対して、引用例1発明ではそのように特定していない点
(C)本願発明が、「MVE共重合体1分子あたり平均18分子のミトキサントロンを有している」と特定しているのに対して、引用例1発明ではそのように特定していない点

そこで、これらの相違点について検討する。
(A)の点について
本願明細書には、薬学的に許容される担体に関し、注射用途では、「この担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液状ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、並びに植物油などが入っている溶媒または分散媒体であってもよい。」(段落【0020】参照)とされ、また、「ここで用いる「薬学的に許容される担体」には、いずれかのおよび全ての溶媒、分散用媒体、コーティング物、抗菌剤および抗菌・カビ剤、等浸透圧剤、吸収遅延剤などが含まれる。薬学活性を示す物質に関して上記媒体および薬剤を用いることは本分野でよく知られている。」(段落【0022】参照)と説明されている。
引用例1には、このような担体について記載されていないけれども、例えば、参考例4では「溶液」で用いたことが説明され、参考例1では生理食塩水に溶解していることからも明らかなように、引用例1発明においても薬学的に許容される担体を用いることは適宜なされているものと解すべきである。
よって、(A)の点は実質的な相違点ではない。

(B),(C)の点について
引用例1発明では、「活性水素を有する制ガン剤活性物質」として、「水酸基、アミノ基、メルカプト基などの活性水素を有する制ガン活性物質と容易に反応して、それぞれエステル結合、アミド結合、チオエステル結合を形成しうる」との説明があり、アミノ基を有する制ガン剤活性物質と明示されているところ、その具体例には、「1?β?D?アラビノフラノシルシトシン、アドリアマイシンやダウノマイシンのようなアントラサイクリン系抗生物質などが挙げられる。」とされているものの、「ミトキサントロン」を例示していない。
しかし、「ミトキサントロン」は、引用例2の摘示(前記「2.の引用例2」参照)で明らかなように、アミノ基を有するアントラキノン骨格からなる抗腫瘍剤として知られているものである(必要であれば、大阪府病院薬剤師会編「医薬品要覧 第4版」、平成元年11月20日第2刷発行、第2054頁のNo.118のミトキサントロン Mitoxantrone(承認62.9)の項、特に構造式と抗悪性腫瘍剤との記載を参照)。
してみると、引用例1発明の「活性水素を有する制ガン剤活性物質」として、例示はなくとも、アミノ基を有し抗腫瘍剤として周知の「ミトキサントロン」を用いることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。そして、その本願発明の作用効果も引用例1に記載された「低分子化合物である制ガン活性物質を高分子化合物に結合させた場合、該制ガン活性物質は体内で徐々に放出されてその濃度が一定に保たれ、またそのものの体内分布が変り、毒性が軽減されて制ガン効果が高まることが期待される。・・・ある特定の分子量を有するジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体は、それ自体優れた制ガン効果を有し、かつ毒性が極めて低く、また分子中に多数の酸無水物構造を有しているため、活性水素をもつ制ガン活性物質と容易に反応し、しかもこの反応物は温和な条件下で前記制ガン活性物質を徐々に放出するなど、該制ガン活性物質の担体として極めて優れていることを見出し」(摘示(1-ii)参照)との作用効果を確認したにすぎないものというべきである。

次に、本願発明では、「MVE共重合体1分子あたり」に結合するミトキサントロンの数を「平均18分子」と特定している。
しかし、共重合体中にどの程度の抗腫瘍剤を組み込むかはその作用効果を評価しつつ適宜設定する事項にすぎないものというべきである。本願明細書を検討しても、「平均18分子」との数が必要である理由が説明されておらず、単に合成実施例で測定された数値を記載しているにすぎないと解する他はないから、その数値を採用するのに格別の創意工夫が必要であったとは認められない。

ここで、引用例1発明の一般式において、構造式中の繰返単位の全てが「制ガン活性を与える残基」Rに置換しているように解することは妥当ではないことに留意すべきである。
即ち、引用例1発明で特定する「ジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体」の繰返数nは、重合体の分子量が2,000?15,000とされ、無水物の状態の繰返単位の分子量が266であることから、n=7.5?56.4(の範囲の整数値)と算出されるものの、実際には、全ての繰返構造単位に「制ガン活性を与える残基」が結合するわけではない。例えば引用例1の実施例1の場合には、重合体の分子量7000であるからnが26(=7000/266)であるところ、5-フルオロウリジン(分子量261)の含有量が36.1重量%、即ち、分子量4000の寄与[4000/(4000+7000)=0.36]と言え、4000/261=15であるから、フルオロウリジンは15分子程度が置換していると推定できる。
一方、本願明細書においても、実施例で分子量10,000、即ち、段落【0009】に記載された【化4】式中の繰返数nが、37.6(=10000/266)と算出されるのに対しミトキサントロンが18分子しか置換していないことからも明らかなように、構造式中の繰返単位の一部にしかミトキサトロンが置換していないものである。
そうであるから、引用例1発明の一般式も本願発明の説明である段落【0009】の【化4】式も、共に便宜的にそのような表現形式を採っているにすぎないものと解すべきである。
以上を総合的に勘案すると、引用例1発明にあっても「平均18分子」は充分に採用し得る範囲のものであると言える。

よって、上記(B),(C)の点は、当業者が容易に想到し得る程度のものと認められ、これらの相違点によって格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。

なお、審判請求人は、審判請求理由(平成17年6月22日付け方式補正書(3)(3-1)の2つ目の(3-1-2)参照)において、次のように主張している。
「上述のように、これらの引用文献の中には、本願発明によってミトキサントロンの治療濃度域を向上できることの開示は皆無である。逆に、本願明細書の段落[0003]でも述べているように、MVEと結合させた薬剤が全く向上を示さない例や、生理条件下で不安定である例が知られていた。よって、本発明の以前には、ジビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体との接合によってミトキサントロンの抗癌効果が高められ、それにより、投与量の抑制が可能となり、製剤の副作用を減らすことができるとは、当業者には全く予測不可能であった。さらに、本発明が持つ有利な効果が、例えば、本願明細書の段落[0029]に報告されている卵巣腫瘍モデルの試験結果によって明瞭に示されている。このような活性の増加は予測可能でなかったものであり、したがって出願人は、予想外の有利な効果を有する本願発明は、特許性を充分に備えたものであると確信する。」
しかし、引用例1では、徐々に放出され濃度が一定に保たれることが期待される(例示の抗腫瘍剤については効果が確認されている)以上、治療濃度領域の向上は期待されることにすぎないというべきである。
また、本願明細書段落【0003】に記載のように期待が裏切られる場合があり得るとしても、ミトキサントロンと構造が異なるメトトレキサートやシクロホスファジドの場合が阻害理由となり得るとまではいうことができない。

よって、本願発明は、引用例2に記載の技術事項を勘案し引用例1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

4.むすび
したがって、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-23 
結審通知日 2008-05-07 
審決日 2008-05-26 
出願番号 特願平6-73757
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新留 素子  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 瀬下 浩一
谷口 博
発明の名称 抗腫瘍ミトキサントロンのポリマー組成物  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  
代理人 小田島 平吉  

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