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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C25B |
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管理番号 | 1186301 |
審判番号 | 不服2005-23380 |
総通号数 | 108 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2008-12-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-12-05 |
確定日 | 2008-10-15 |
事件の表示 | 特願2000-618198「エネルギー分配ネットワーク」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月23日国際公開、WO00/69773、平成14年12月24日国内公表、特表2002-544389〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成12年4月28日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 1999年5月12日 カナダ)を国際出願日とする出願であって、その請求項1?22に係る発明は、平成20年2月28日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 エネルギー分配ネットワークであって、 (a)水素生成用の電気分解に基づく水素生成手段と、 (b)前記水素生成手段に接続された水素貯蔵手段と、 (c)前記水素生成手段によって使用される電気エネルギーを供給する少なくとも一つのエネルギー源と、 (d)制御入力を受信し且つ処理するコンピュータ制御手段を有した少なくとも一つのコントローラとを備え、 前記制御入力が、前記水素貯蔵手段からの水素の要求量のデータ、および前記少なくとも一つのエネルギー源の電気エネルギーの有効性データを含み、 前記少なくとも一つのコントローラが、水素の発生を制御するために前記水素生成手段に接続され、 前記電気エネルギーの有効性データが予め決められた条件に合致する場合に、前記少なくとも一つのコントローラが、少なくとも部分的に前記制御入力を基に、前記要求量の水素の発生を制御し、 前記電気エネルギーの有効性データが、前記水素を発生させるために使用される電気エネルギーの価格データを含み、前記予め決められた条件が水素の製造コストを含むことを特徴とするエネルギー分配ネットワーク。」 2.引用文献2 当審において平成19年8月21日付けで通知した拒絶の理由1において引用された、特開平2-117072号公報(以下、引用文献2という)には、図面とともに以下のことが記載されている。 (2a)「1)燃料物質を改質装置により水素を含むガスに転化し、 精製装置で実質的な水素ガスに精製し、 この水素ガスを配管を通じて改質装置とは遠隔に設置された多数の燃料電池に分配し又はこの配管に貯え、 分配された水素を燃料として、各燃料電池が電力需要に応じて必要なだけ運転され電力が供給される、燃料電池発電システム。 ・・・ 6)余剰電力で水を電解し、得られた水素を燃料電池の燃料に利用する請求項1・・・のシステム。」(【請求項1】【請求項6】) (2b)「[従来の技術]・・・ガス化装置と燃料電池の組合わせにより、辺鄙な地域や離島等での電力供給に便であるとされる。 一方燃料電池は・・・電力負荷変動への即応がたやすい。 他方燃料電池の燃料である水素の原料となる、天然ガス等を・・・水素を主要成分とするガスに転化するガス化装置即ち・・・リフォーマは、起動してから効率の良い定常(運転)状態に達するまで及び逆に定常状態から停止状態に至らせる・・・に時間を要する・・・ガス化設備は、その容量が大の程、又むら無く定常状態で運転する程効率が良く、・・・個々の燃料電池に対応してその運転に合わせて小さなリフォーマを迅速に起動/停止ないし水素製造の量を調節するのはかなり難しいことであり・・・」(2頁左上欄9行?左下欄12行) (2c)「[発明が解決しようとする課題] 本発明は・・・電力需要の負荷変動に効率よく追随し、ガス化装置の効率を最大限に発揮させることができ、かつガス化装置等の容量を・・・可能な限り小さくできる、発電システムを提供する。」(2頁左下欄15行?右下欄2行) (2d)「[例] 本発明の代表的な具体例を図面を参照して説明する。・・・精製装置9では、例えばPSA法により水素以外が除かれて燃料気体が製造される。・・・PSAならば比較的容易に水素99%以上の実質的な水素である燃料気体が得られる。・・・精製装置9を出た燃料は本管11と多数の支管13からなる配管網15経由燃料電池21に供給される。・・・要すれば、本管11の精製装置側端部付近に圧縮機25を介在させて更に燃料を・・・、配管15に送り込む。本管11の途中から分岐させて貯槽27を設けてもよい。・・・本発明では、深夜電力等の、もはや揚水発電の余裕も殆どない余剰電力50により、電解装置52を用い水を電解して水素53を得、これを導管55により配管15に、通常圧縮機25の吸込み側から供給して、余剰電力を水素として貯え燃料電池の燃料とし、有効利用することが出来る。」(4頁左上欄12行?5頁左上欄1行) (2e)「これは電力不需要時又は低需要時に燃料電池が使用しない分の水素は、配管内の水素の圧力を上げることにより配管内に又は更に水素貯槽27内に貯え、需要時に備えることが出来る本発明の特質による。」(5頁左上欄20行?右上欄4行) (2f)図には、余剰電力50からの矢印は電解装置52を経て水素53に伸び、水素53からの矢印である導管55と、精製装置9からの矢印とが合流して圧縮機25に伸び、圧縮機25から伸びる矢印である本管11は、途中で貯槽27に伸びる矢印と、燃料電池21に向かう矢印である多数の支管13に分岐する、配管網15が示されている。 3.対比・判断 摘記事項(2d)、(2f)に示された発明の具体例を中心に、(2a)-(2f)を総合的に判断すると、引用文献2には、「深夜電力等の余剰電力50により、水を電解して水素53を得る電解装置52と、得られた水素53を貯槽27や燃料電池に供給する燃料の配管網15と、水素を蓄える貯槽27、配管等と、水素を燃料として電力を得る燃料電池とを備える、深夜電力等の余剰電力を有効利用して製造した水素を貯槽27内に貯え、需要時に備えることが出来る、電力供給システム」の発明(以下、引用文献2記載発明という。)が記載されている。 本願発明1と引用文献2記載発明とを対比する。 引用文献2記載発明の、「水を電解して水素53を得る電解装置52」、「貯槽27」乃至「燃料電池21」の配管、「深夜電力等の余剰電力50」、はそれぞれ、本願発明1の「(a)水素生成用の電気分解に基づく水素生成手段」、「(b)前記水素生成手段に接続された水素貯蔵手段」、「(c)前記水素生成手段によって使用される電気エネルギーを供給する少なくとも一つのエネルギー源」に相当する。 引用文献2記載発明の「電力供給システム」は、余剰電力を有効利用する電解装置52と燃料の配管網15を含み、該配管網15は、余剰電力50を有効利用する電解装置52から、貯槽27に伸びるものと、燃料電池21に向かうものとに分岐して、水素を蓄え、需要に備えさせているから、「エネルギー分配ネットワーク」といえる。 よって、両者は、「(a)水素生成用の電気分解に基づく水素生成手段と、(b)前記水素生成手段に接続された水素貯蔵手段と、(c)前記水素生成手段によって使用される電気エネルギーを供給する少なくとも一つのエネルギー源とを備えるエネルギー分配ネットワーク。」である点で一致しており、以下の点で相違している。 相違点1:制御装置について、本願発明1は、「制御入力を受信し且つ処理する、コンピュータ制御手段を有した少なくとも一つのコントローラとを備え、前記少なくとも一つのコントローラが、水素の発生を制御するために前記水素生成手段に接続され」ているのに対して、引用文献2記載発明ではこのことについて記載がない点。 相違点2:電気エネルギーの有効性データに基づく制御について、本願発明1は、「前記制御入力が、前記水素貯蔵手段からの水素の要求量のデータ、および前記少なくとも一つのエネルギー源の電気エネルギーの有効性データを含み、前記電気エネルギーの有効性データが予め決められた条件に合致する場合に、前記少なくとも一つのコントローラが、少なくとも部分的に前記制御入力を基に、前記要求量の水素の発生を制御し、前記電気エネルギーの有効性データが、前記水素を発生させるために使用される電気エネルギーの価格データを含み、前記予め決められた条件が水素の製造コストを含む」のに対して、引用文献2記載発明ではこのことについて記載がない点。 上記各相違点について検討する。 相違点1について 要求量のデータを受信し且つ処理するコンピュータ制御のコントローラを生成手段に接続して、要求量に応じた生成を行うことは、供給システムにおける周知技術であるから、引用文献2記載発明において、制御入力を受信し且つ処理するコンピュータ制御手段を有した少なくとも一つのコントローラを水素生成手段に接続することは、当業者が容易に想到しうることである。 相違点2について 最初に、相違点2のうち、「電気エネルギーの有効性データが予め決められた条件に合致する場合に、前記少なくとも一つのコントローラが、少なくとも部分的に前記制御入力を基に、前記要求量の水素の発生を制御」する、との本願発明1の特定事項の意味するところについて検討する。 まず、本願発明1においては、「前記電気エネルギーの有効性データが、前記水素を発生させるために使用される電気エネルギーの価格データを含み、前記予め決められた条件が水素の製造コストを含む」とされているから、「電気エネルギーの価格データ」は、「電気エネルギーの有効性データ」に、「水素の製造コスト」は、「予め決められた条件」にそれぞれ該当するものと解される。 そして、本願発明1においては、「前記制御入力が、前記水素貯蔵手段からの水素の要求量のデータ、および前記少なくとも一つのエネルギー源の電気エネルギーの有効性データを含み」とされていること及び本件出願明細書【0026】に「さらに、価格信号を測定することによって、電解装置は、特定の発電源からの電気の市場価格が、燃料供給のための許容レベルを超える場合、低減または停止される。」との、価格データを基に制御する記載があることから、「電気エネルギーの価格データが水素の製造コストに合致する場合に、前記少なくとも一つのコントローラが、少なくとも部分的に、制御入力である、水素の要求量のデータおよび前記電気エネルギーの価格データを基に、前記要求量の水素の発生を制御」していれば、本願発明1の上記特定事項に該当するものと、解される。 上記検討に基づき、相違点2について検討する。 「深夜電力」とは、夜間割引時間帯(「割引電力量料金が適用される夜間時間帯」JIS工業用語大辞典第4版 (財)日本規格協会)に利用される電力のことであり、割引電力量料金は水素の製造コストとなるから、深夜電力を有効利用する引用文献2記載発明は、電気エネルギーの価格データが水素の製造コストに合致する場合に、前記価格データを基に、水素の発生を制御するものといえる。 そして、引用文献2記載発明は、需要時や貯槽が貯蔵可能量以下の時に、該貯蔵可能量を超えないように需要量と貯蔵量とに応じた所定量の水素を生成するものといえるから、要求量の水素の発生を制御しており、かつ、相違点1に関し検討したように、要求量のデータを制御入力としたコントローラの使用は周知技術であるから、引用文献2記載発明において、「少なくとも一つのコントローラが、少なくとも部分的に、水素の要求量のデータを基に、要求量の水素の発生を制御」することは、当業者が容易に想到しうるものである。 よって、引用文献2記載発明において、上記相違点2に係る事項を採用することは、当業者が容易に想到しうるものである。 なお、請求人は、平成20年2月28日提出の意見書(5)において、引用文献2の2ページ左下欄の記載を引用し、「引用文献2は、需要に基づいて水素を発生させることは困難であるとしている」から、引用文献2に、本願発明1の進歩性を否定するにあたっての阻害要因がある旨主張している。 しかし、請求人の指摘する「困難」についての記載は、摘記事項(2b)の「[従来の技術]」において、「・・・ガス化装置即ち・・・リフォーマは、・・・、その容量が大の程、又むら無く定常状態で運転する程効率が良く、・・・個々の燃料電池に対応してその運転に合わせて小さなリフォーマを迅速に起動/停止ないし水素製造の量を調節するのはかなり難しく」との記載であるところ、この記載は、従来、リフォーマを大型化しないと、迅速に起動するのが困難で効率が悪かったという問題を指摘する記載である。 よって、迅速に起動停止することのみであれば、リフォーマを大型化すれば問題は解決できるし、また、上記摘記事項(2b)の記載に続けて、摘記事項(2c)において、「[発明が解決しようとする課題]」として、「本発明は・・・電力需要の負荷変動に効率よく追随し、・・・、かつガス化装置等の容量を・・・可能な限り小さくできる、発電システムを提供する。」と記載しているように、該問題は引用文献2において解決しているともいえるから、引用文献2に、本願発明1の進歩性を否定するにあたっての阻害要因はないので、請求人の主張は採用できない。 そして、本願発明1の効果も引用文献2の記載から予測できるもので、顕著でない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 また、上記のとおり本願発明1が特許を受けることができないため、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-05-15 |
結審通知日 | 2008-05-20 |
審決日 | 2008-06-04 |
出願番号 | 特願2000-618198(P2000-618198) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C25B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小柳 健悟 |
特許庁審判長 |
綿谷 晶廣 |
特許庁審判官 |
市川 裕司 小川 武 |
発明の名称 | エネルギー分配ネットワーク |
代理人 | 田中 玲子 |
代理人 | 大野 聖二 |
代理人 | 北野 健 |