• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23C
管理番号 1186354
審判番号 不服2007-19459  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-12 
確定日 2008-10-14 
事件の表示 特願2003- 12460「小径ボールエンドミル」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月12日出願公開、特開2004-223633〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成15年1月21日の特許出願であって、同18年11月21日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同19年1月22日に意見書と共に明細書について手続補正書が提出されたが、同19年6月12日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同19年7月12日に本件審判の請求がされ、その後、同19年8月9日に明細書について再度手続補正書が提出されたものである。

第2 平成19年8月9日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年8月9日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容の概要
平成19年8月9日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をすると共にそれに関連して発明の詳細な説明の一部について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(1)補正前
「刃径が3mm以下の小径ボールエンドミルにおいて、該エンドミルのヒール段差を刃径の5%?12.5%、該エンドミル外周逃げ面の落ち量を同一軸直角断面における該ヒール段差の50%以下、該ヒール段差をエンドミル先端側から刃元側に向かって漸次小さくし、且つ、エンドミル先端側と刃元側の差を、刃径の1.5%以上に設けたことを特徴とする小径ボールエンドミル。」
(2)補正後
「刃径が3mm以下の小径ボールエンドミルにおいて、該エンドミルのヒール段差を刃径の5%?12.5%、該エンドミル外周逃げ面の落ち量を同一軸直角断面における該ヒール段差の50%以下、該ヒール段差をエンドミル先端側から刃元側に向かって漸次小さく、エンドミル先端側と刃元側の差を刃径の1.5%以上、該エンドミル外周刃のバックテーパを片角で3°?20°に設けたことを特徴とする小径ボールエンドミル。」
2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、実質上「エンドミル外周刃のバックテーパを片角で3°?20°」に設けたという事項を付加するものであり、補正前の請求項3の発明特定事項を取り込むことにより、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであることが明らかであるので、さらに、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。
(1)補正発明
補正発明は、本件補正により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「小径ボールエンドミル」であると認める。
(2)引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2002-361515号公報(以下「引用例1」という。)及び特開2002-292515号公報(以下「引用例2」という。)の記載内容はそれぞれ以下のとおりである。
ア 引用例1
引用例1には以下の事項が記載されている。
ア-1 段落【0001】
「【産業上の利用分野】本願発明は、主にビッカース硬さで200以下の軟質材の切削に用い、特に、切削面のバリ発生を抑制するエンドミルに関する。」
ア-2 段落【0005】
「【課題を解決するための手段】先ず、本願発明は、長く伸びる切り屑を生成する軟質材加工用のエンドミルにおいて、該エンドミルの外周ランド幅を刃径の5?20%、該エンドミルのヒール部の段差を刃径の5?15%、該段差面の角度αを60度以上とし、該段差面により切屑流出方向を変化させるようにしたことを特徴とする軟質材加工用エンドミルであり、エンドミル具母材に平均WC粒径が1.0μm以下の超硬合金、外周切れ刃の刃先稜線を含む刃部にコーティングを施し、特に切り屑が流れるすくい面はコーティング膜厚を2?6μmとしたエンドミルである。」
ア-3 段落【0009】
「(実施例1)図1、図2は、本発明例1とし、刃径1が1mmの2枚刃のエンドコーナ部がシャープエッジタイプのソリッドのスケアエンドミルであり、外周ランド幅8を刃径1の8%に相当する0.08mmとし、工具母材に平均WC粒径0.8μmの超硬合金を用い、・・・」
引用例1記載の事項を補正発明に照らして整理すると引用例1には以下の発明が記載されていると認める。
「刃径が1mmの小径スケアエンドミルにおいて、該エンドミルのヒール段差を刃径の5%?15%に設けた小径スケアエンドミル。」(以下、「引用発明」という。)
イ 引用例2
引用例2には以下の事項が記載されている。
イ-1 段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は、プラスチック金型等の深彫り加工を等高線切削により加工を行うための、主として中仕上げ用のエンドミルに関するものである。」
イ-2 段落【0011】
「・・・また、本発明においては図7に示すように、外周刃12の回転軌跡が工具軸心L方向となす角度θは5?25°になるように、外周刃12をテーパ形状にする。このように角度θを5?25°に設定すると、等高線切削時に外周刃12が被加工物7と接触する長さが少なくなってエンドミル8にかかる切削抵抗を減少させることができ、びびり振動の発生をより抑制することができる。」
これらの事項から引用例2には以下の事項が記載されていると認める。
「外周刃12が被加工物7と接触する長さを少なくしエンドミル8にかかる切削抵抗を減少してびびり振動の発生を抑制するために、外周刃12の回転軌跡が工具軸心L方向となす角度θは5°?25°になるように、外周刃12をテーパ形状にすること。」(以下、「引用例2記載の事項」という。)
(3)対比
補正発明と引用発明とを対比すると以下のとおりである。
引用発明の刃径は1mmであるから、刃径が3mm以下である補正発明の刃径に相当し、また、引用発明のヒール段差は刃径の5%?15%であることから、刃径の5%?12.5%の範囲で補正発明のヒール段差と一致している。
したがって、補正発明と引用発明とは、以下の点で一致しているということができる。
「刃径が3mm以下の小径エンドミルにおいて、該エンドミルのヒール段差を刃径の5%?12.5%に設けた小径エンドミル。」
そして、補正発明と引用発明とは、以下の4点で相違している。
ア <相違点1>
発明の対象であるエンドミルが、補正発明では、ボールエンドミルであるのに対して、引用発明では、スケアエンドミルである点。
イ <相違点2>
補正発明では、エンドミル外周逃げ面の落ち量を同一軸直角断面におけるヒール段差の50%以下としているのに対して、引用発明では、エンドミル外周逃げ面の落ち量がヒール段差に対してどのくらいになっているのか不明な点。
ウ <相違点3>
補正発明では、ヒール段差をエンドミル先端側から刃元側に向かって漸次小さく、エンドミル先端側と刃元側の差を刃径の1.5%以上に設けているのに対して、引用発明では、そのようになっていない点。
エ <相違点4>
補正発明では、エンドミル外周刃のバックテーパを片角で3°?20°に設けているのに対して、引用発明では、そのようになっていない点。
(4)相違点の検討
ア <相違点1>について
ボールエンドミル自体は、特に例示するまでもなく従来周知であり、また、引用発明の刃径やヒール段差等の構成をボールエンドミルに適用することを妨げる特段の理由もないことからみて、引用発明をボールエンドミルとすることに格別の困難性はない。
イ <相違点2>について
引用例1に関し、摘記事項ア-2には、「エンドミルの外周ランド幅を刃径の5?20%、該エンドミルのヒール部の段差を刃径の5?15%」とすることが示されている。してみると、引用例1の記載からは、エンドミルの外周ランド幅とヒール部の段差とを、ほぼ同じ大きさに設定することが読み取れる。ここで、エンドミルの外周逃げ面における逃げ角度は、一般にかなり小さいものである。特に、引用発明のように小径のエンドミルの場合、外周逃げ面の逃げ角を大きくすると刃の強度が低下してチッピングや欠け等を生じやすくなることは明らかであるから、特に逃げ角は小さくしなければならない。したがって、引用発明において、外周逃げ面の逃げ角を小さいものとすることは、当業者が容易になし得たものである。そこで、ランド幅とヒール部の段差をほぼ同じくらいとするならば、逃げ角を小さいものとすることにより、外周逃げ面の落ち量は、ヒール段差に比べてかなり小さいものとなることは明らかである。そして、実際、引用例1の図面の図2を参照しても、外周逃げ面の落ち量は、ヒール段差に比べてかなり小さいものとなっている。補正発明では、さらに、外周逃げ面の落ち量を同一軸直角断面におけるヒール段差の「50%以下」と数値を限定しているが、この数値に臨界的な意義は認められない。
したがって、相違点2については、当業者が容易になし得たものである。
ウ <相違点3>について
エンドミルにおいて、外周刃部の刃溝の深さをエンドミル先端側から刃元側に向かって漸次小さくし、心厚をエンドミル先端側から刃元側に向かって漸次大きくすることにより、工具剛性を向上することは、例えば、原審の平成18年11月21日付け拒絶理由通知書で引用文献1として挙げられた特開2002-66827号公報の【図3】、【図4】、あるいは、例えば、特許第3337804号公報の【図1】、【図5】や実公昭62-40728号公報の第3図に示されているように従来周知である。
そして、この従来周知の事項を引用発明に適用することは、当業者が格別の創意を要することなく容易に想到し得るところであり、心厚を刃元方向に漸次大きくする、すなわち、刃溝を刃元方向に漸次浅くすることは、ヒール段差について云えば、当該段差をエンドミル先端側から刃元側に向かって漸次小さくすることである。
また、補正発明では、エンドミル先端側と刃元側の差を刃径の1.5%以上と数値限定しているが、当該差をどの程度とするかは、得ようとする剛性に応じて適宜設定すればよい単なる設計的事項にすぎない。
したがって、相違点3については、当業者が容易になし得たものである。
エ <相違点4>について
上記(2)イで認定したように、引用例2には「外周刃12が被加工物7と接触する長さを少なくしエンドミル8にかかる切削抵抗を減少してびびり振動の発生を抑制するために、外周刃12の回転軌跡が工具軸心L方向となす角度θは5°?25°になるように、外周刃12をテーパ形状にすること。」が記載されている。
ここで、「外周刃12の回転軌跡が工具軸心L方向となす角度θは5°?25°になるように、外周刃12をテーパ形状にすること。」とは、補正発明に即して表現すると、エンドミル外周刃のバックテーパを片角で5°?25°に設けることであり、当該角度は、5°?20°の範囲で補正発明と一致している。
したがって、上記引用例2記載の事項を引用発明に適用して、エンドミル外周刃のバックテーパを片角で5°?20°に設けることに格別の困難性はない。
オ 補正発明の効果について
補正発明によってもたらされる効果も、引用発明、引用例2記載の事項及び従来周知の事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。
カ したがって、補正発明は、引用発明、引用例2記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するものであるから上記改正前の特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、平成19年1月22日付け手続補正書により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件出願の発明」という。)は、上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「小径ボールエンドミル」である。
2 引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載内容は、上記第2の2(2)に示したとおりである。
3 対比・検討
本件出願の発明は、上記第2の2で検討した補正発明から実質上「エンドミル外周刃のバックテーパを片角で3°?20°」に設けたという事項を削除したものである。
そうすると、本件出願の発明の発明特定事項の全てを含み、さらに他の事項を付加する補正発明が上記第2の2(4)カで示したとおり、引用発明、引用例2記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件出願の発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 むすび
したがって、本件出願の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件出願の請求項2ないし3に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-20 
結審通知日 2008-08-21 
審決日 2008-09-02 
出願番号 特願2003-12460(P2003-12460)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23C)
P 1 8・ 575- Z (B23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大川 登志男筑波 茂樹  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 福島 和幸
森川 元嗣
発明の名称 小径ボールエンドミル  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ