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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16F
管理番号 1186893
審判番号 不服2007-14925  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-24 
確定日 2008-10-30 
事件の表示 特願2001-314189「制振合金を用いた制振手段を備えたフライホイール」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月23日出願公開、特開2003-120754〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年10月11日の出願であって、平成19年4月20日付けで拒絶査定がなされ、平成19年5月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成19年6月25日付けで審判請求書及び明細書について手続補正がなされたものである。

2.本願の請求項3に係る発明について
平成19年6月25日付けでなされた明細書についての手続補正は、その特許請求の範囲の請求項1及び段落【0008】についてのみ具体的な補正がなされており、特許請求の範囲の請求項3については、補正がなされていないものであるところ、本願の特許請求の範囲の請求項3に係る発明は、その請求項3に記載された次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「回転質量体と、該回転質量体の回転中心部に設けられる軸受装置と、該軸受装置を回転可能に支持する支軸を載置する、取付面に固定されたベースプレートと、該回転質量体と該軸受装置とを結合する複数のスポーク又はディスクよりなる結合部材と、共振時のエネルギを減衰させる制振手段とを備えたフライホイールにおいて、前記制振手段として、前記回転質量体と前記軸受装置間に渡って、前記結合部材の下面又は上面に当接して制振合金材を固着したことを特徴とするフライホイール。」

2-1 刊行物に記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭63-125841号公報(以下、「刊行物1」という。)、特開2001-134271号公報(以下、「刊行物2」という。)、特開平7-242977号公報(以下、「刊行物3」という。)には、それぞれ次の発明が記載されている。
(1)刊行物1に記載の発明
刊行物1には、図面とともに次の記載がある。
a)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、人工衛星の姿勢制御に使用するフライホイール(はずみ車)に関するものであり、特に、はずみ車を回転可能に支持する回転軸受に掛かる荷重を低減させて軸受損傷を防止すると共に小型軸受の利用を可能にして摩擦トルクの低減を可能にするはずみ車に関する。」(第1ページ右下欄第15行?第2ページ左上欄第1行)

b)「〔問題点を解決するための手段〕
上述の発明目的に鑑みて、本発明に係るはずみ車は、共振振幅ピークを小さくし、軸受の負荷を減少するために、回転軸受とはずみ質量体とを結合する結合部材上に制振層形成部材及び拘束層形成部材を取り付けて該制振層のずれ剪断変形により振動を減衰すると共に結合部材に制振層形成部材を固着取付けし、その上に更に拘束層を固着取付けしてあるので共振振幅ピークを生じた後でも、これら制振層形成部材と拘束層形成部材との相互間にずれを生じることのないようにしたものである。」(第2ページ左上欄第17行?右上欄第8行)

c)「第1A図は本発明によるはずみ車の好実施例を示しており、同第1A図において、はずみ車10はリム又はモータロータ等から成るはずみ質量体11と、上下1対の回転軸受18、19を備えた軸受装置12と、上記はずみ車10及び軸受装置12間を結合するために設けられて複数のスポーク又はディスクで構成される結合部材13とを基本構造要素として備えると共に上記結合部材13上に固着されて制振作用を呈する制振樹脂層から成る制振層形成部材14、16及びこれら制振層形成部材14、16の上に更に層状に固着されている、拘束板から成る拘束層形成部材15、17を具備している。
はずみ車10は軸受装置12の軸受18、19を介して支柱20の回りに回転可能に支持されている。」(第3ページ左下欄第3行?第18行)

d)「はずみ車10が共振状態になるとほとんどの質量が集中しているはずみ質量体11及び結合部材13の半径方向の先端部で最も共振振幅ピークが大きくなり、概略その部分の加速度とはずみ質量体11の質量とを乗算した力が軸受装置12に負荷荷重として加わることになる。
この負荷荷重を低減するために、共振時に振幅が大きくなる結合部材13の先端部に制振層形成部材14、16と拘束層形成部材15、17を接着材を用いた接着法により軸受装置12の軸心に対して略両側に2組固着取付けし、拘束層形成部材15、17により、制振層形成部材14、16の伸縮作用を拘束することにより、第2図に示すように、制振層形成部材14、16の端部14a、16aにずれ剪断変形を生じせしめ、振動エネルギーを熱エネルギーに変換し、該熱エネルギーを結合部材13経由で伝導、放熱させて、振動の低減を図るものである。」(第3ページ右下欄第7行?第4ページ左上欄第5行)

したがって、以上の記載を総合すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認める。
「はずみ質量体11と、軸受装置12と、軸受装置の回転軸受18、19を介してはずみ車10を回転可能に支持する支柱20と、はずみ車10と軸受装置12とを結合する複数のスポーク又はディスクよりなる結合部材13と、制振作用を呈する制振層形成部材14、16及び拘束層形成部材15、17とを備えたフライホイールにおいて、制振層形成部材14、16が制振樹脂層からなるとともに、拘束層形成部材15、17が制振層形成部材14、16の上に層状に固着されてなり、制振層形成部材14、16及び拘束層形成部材15、17とが結合部材の先端部の上下面に固着されているフライホイール。」

(2)刊行物2
刊行物2には、以下の記載がある。
a)「【請求項2】 Mn-Cu系母合金として、Mn:40?80重量%、Cu:10?50重量%とともに、Al,Ni,FeおよびSnの1種以上を10重量%以下含有されているものとする請求項1の高強度制振合金。」(特許請求の範囲の【請求項2】)

b)「・・・制振合金は、材料自体が内部で振動エネルギーを消耗する性質のある材料であり、構造部材としてこれを直接用いて制振できるので、制振合金による方法は、最も直接的な振動・騒音対策と言えるものである。」(段落【0005】)

したがって、以上の記載を総合すると、刊行物2には、次の発明が記載されていると認める。
「Mn-Cu系母合金として、Mn:40?80重量%、Cu:10?50重量%とともに、Al,Ni,FeおよびSnの1種以上を10重量%以下含有されている振動・騒音対策に用いる制振合金」

(3)刊行物3
刊行物3には、次の記載がある。
a)「・・・この発明は、加工法に優れ、製品の形状、大きさの自由度が高く、しかも鋳造状態として優れた性能を現出させることのできる、騒音、振動対策に有用な、新しいマンガン基制振合金とその製造法に関するものである。」(第2ページ左欄第19行?第23行)

b)【表2】の「実施例13」に、「Mn-20Cu-5Ni-2Fe」からなる制振合金が記載されている。

したがって、以上の記載を総合すると、刊行物3には、次の発明が記載されている。
「Mn-20Cu-5Ni-2Feからなる、騒音、振動対策に有用な制振合金」

2-2 対比
(1)一致点
本願発明と刊行物1に記載の発明とを対比すると、刊行物1に記載の発明における「はずみ質量体11」は、その構造ないし機能からみて、本願発明における「回転質量体」に相当する。以下、同様に、刊行物1に記載の発明における「軸受装置12」「支柱20」「結合部材13」「フライホイール」は、それぞれ本願発明における「回転質量体の回転中心部に設けられた軸受装置」「支軸」「結合部材」「フライホイール」に相当する。
したがって、両者は、本願補正発明の表記にならえば、次の点で一致する。
「回転質量体と、該回転質量体の回転中心部に設けられる軸受装置と、該軸受装置を回転可能に支持する支軸と、該回転質量体と該軸受装置とを結合する複数のスポーク又はディスクよりなる結合部材とを有するフライホイール」

(2)相違点
一方、本願発明と刊行物1に記載の発明とは、以下の点で相違する。
a)相違点1
本願発明では、「取付面に固定されたベースプレート」に「支軸を載置する」のに対して、刊行物1に記載の発明では、「支柱20」の載置構造が明らかでない点。

b)本願発明では、「制振手段として、前記回転質量体と前記軸受装置間に渡って、前記結合部材の下面又は上面に当接して制振合金材を固着」しているのに対して、刊行物1に記載の発明では、制振作用を呈する部材を「制振層形成部材14、16及び拘束層形成部材15、17」から構成するとともに、それを「結合部材の先端部の上下面に固着」している点。

2-3 相違点の判断
(1)相違点1について
刊行物1に記載の発明は、「フライホイール」に関するものであるところ、その使用にあたっては、「フライホイール」の「はずみ車10」を回転可能に支持する「支柱20」を何らかの取付面に固定する必要があることは、当然である。そして、その構造として、本願発明のように「取付面に固定されたベースプレート」によることは、当業者が適宜なし得る事項に過ぎない。

(2)相違点2について
上記2-1(2)(3)で指摘したとおり、刊行物2及び3には、振動対策に制振合金を用いる発明が記載されているところ、その用途は特段限定されるものではなく、刊行物1に記載の発明の「フライホイール」における振動対策に適用することが可能なことは、自明である。よって、当業者であれば、刊行物1に記載の発明における「制振作用を呈する制振層形成部材14、16及び拘束層形成部材15、17」を刊行物2又は刊行物3に記載の「制振金属」に置換することは、格別の困難なく行い得るものである。
また、制振手段の配置は、振動の大きさや周波数、その他各部位の強度等に応じて制振効果が最も得られるように当業者が適宜設定すべき事項であるところ、上記2-1(1)d)で摘記したとおり、刊行物1に記載の発明において制振手段を結合部の先端部に配置している理由は、当該部位で振幅が最も大きくなるからであって、多少振幅が小さくても必要であれば結合部の他の部位にも制振手段を設けるようにすることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮に過ぎない。
したがって、本願発明のように「回転質量体と前記軸受装置間に渡って、前記結合部材の下面又は上面に当接」して固着するようにすることは、単なる設計的事項である。
なお、出願人は、平成18年10月2日付けの拒絶理由に対する平成18年11月24日付の意見書、及び平成19年6月25日付け手続補正により補正された審判請求書の請求の理由の中で、刊行物1(原査定における引用文献6)に記載の発明は、制振手段を結合部材であるスポーク又はディスクの先端部上に設けたに過ぎないため、振動時の振幅を大きくするために結合部材の剛性を弱める必要がある旨主張している。しかし、刊行物1に記載の発明において結合部の先端部上に制振手段を設けている理由は、上述のとおり当該部位が最も大きく振動するからであるところ、これは、結果的に当該部位が大きく振動するものであって、振動を減衰させるためにわざわざ剛性を弱め大きな振幅の振動を発生させる必要がある旨の主張は、にわかに首肯しがたい。
仮に、結合部材の剛性を弱める必要があるとしても、それは、制振手段を結合部材上に設け、結合部材そのものを大きく振動させる必要があることに起因すると理解されるところ、これは、本願の明細書にも記載されるとおり、結合部材上に制振手段を設けた本願発明(本願請求項3に係る発明)も同様であって、この点で、本願発明が刊行物1に記載の発明と比して格別な効果を得ているということもできない。そして、制振手段の配置は、当業者が適宜設定すべき事項であることは、上述のとおりである。
その他、本願発明は、当業者が予測できない顕著な効果を奏するものでもなく、当業者であれば、刊行物1及び2、又は刊行物1及び3に記載の発明に基づいて容易に想到し得たものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1及び2に記載の発明、又は刊行物1及び3に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づき特許を受けることができない。
したがって、この特許出願は、拒絶すべきものであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-22 
結審通知日 2008-08-26 
審決日 2008-09-09 
出願番号 特願2001-314189(P2001-314189)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 島田 信一  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 川上 益喜
岩谷 一臣
発明の名称 制振合金を用いた制振手段を備えたフライホイール  
代理人 篠崎 正海  
代理人 鶴田 準一  
代理人 樋口 外治  
代理人 石田 敬  
代理人 西山 雅也  

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