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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G08C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G08C
管理番号 1186901
審判番号 不服2007-33570  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-13 
確定日 2008-10-30 
事件の表示 特願2004-144926「非接触データキャリア」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月24日出願公開、特開2005-327104〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年5月14日の出願であって、平成19年9月14日付けで明細書又は図面についての手続補正がなされ、同年11月5日付けで拒絶査定(同年11月13日発送)がなされ、これに対し、同年12月13日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成20年1月10日付けで明細書又は図面についての手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。


第2.本件補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
本件補正を却下する。


〔理 由〕
1.補正の内容及び本件補正後の発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、補正前の請求項1である

「【請求項1】
質問器と無線通信によりデータ授受を行う非接触データキャリアにおいて、
外部からの被比較信号が入力される測定ポートと、
上記測定ポートから入力された被比較信号を閾値と比較し、両者の大小関係を表す論理値の比較結果を出力する比較手段と、
上記閾値を出力する可変閾値手段と、
上記質問器からの比較出力要求に従い、上記可変閾値手段からの閾値を制御し、上記比較手段の比較結果、又は、上記比較結果に関係する情報を返信する比較制御手段と
を備えることを特徴とする非接触データキャリア。」

から、

「【請求項1】
質問器と無線通信によりデータ授受を行う非接触データキャリアにおいて、
外部からの被比較信号が入力される測定ポートと、
上記測定ポートから入力された被比較信号を閾値と比較し、両者の大小関係を表す論理値の比較結果を出力する比較手段と、
上記閾値を出力する可変閾値手段と、
上記質問器からの比較出力要求に従い、上記可変閾値手段からの閾値を制御し、上記比較手段の比較結果、又は、上記比較結果に関係する情報を、上記質問器が上記被比較信号のデジタルデータを取得するために返信する比較制御手段と
を備えることを特徴とする非接触データキャリア。」

と補正する補正事項を含むものである。

この補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、「上記質問器からの比較出力要求に従い、上記可変閾値手段からの閾値を制御し、上記比較手段の比較結果、又は、上記比較結果に関係する情報を返信する比較制御手段」について「上記質問器からの比較出力要求に従い、上記可変閾値手段からの閾値を制御し、上記比較手段の比較結果、又は、上記比較結果に関係する情報を、上記質問器が上記被比較信号のデジタルデータを取得するために返信する比較制御手段」と限定するものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。


2.引用例の記載事項及び引用例に記載された発明
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願日前の平成13年11月2日に頒布された刊行物である特開2001-307268号公報(以下「引用例」という。)には、以下の(ア)乃至(カ)の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「図1は本発明の一実施形態における周囲雰囲気中の物理量計測システムを示す構成図である。図において、11はトランスポンダで、プレーヤー12の身体の所要箇所に対応してウェアー13a,13bに複数個装着されている。これらの各トランスポンダ11は、後述するように温度センサと湿度センサを備え、スキャナ14からの指示によって温度と湿度の検出結果を電磁波を用いて送信するものである。」(段落【0037】)
(イ)「トランスポンダ11の電気系回路は、図7に示すように、アンテナ32と、温度センサ35、湿度センサ36、アンテナ切替器41、整流回路42、中央処理部43、記憶部44、発信部45及び検波部46から構成されている。」(段落【0042】)
(ウ)「中央処理部43は、周知のCPU431と、ディジタル/アナログ(以下、D/Aと称する)変換回路432、アナログ/ディジタル(以下、A/Dと称する)変換回路433,434から構成されている。CPU431は、電源が供給されて駆動し検波部46から質問信号を入力するとA/D変換回路433,434を介して温度センサ35と湿度センサ36から温度と湿度の検出結果を取り込み、この検出結果と自己に固有の識別情報を含めた応答情報を生成して、この情報をD/A変換回路432及び発信部45を介して応答信号として送信する。」(段落【0045】)
(エ)「スキャナ14の電気系回路は、図8に示すように、アンテナ切替器51と、受信部52、送信部53、中央処理部54、インタフェース部55から構成されている。」(段落【0050】)
(オ)「受信部52は、受信機521とアナログ/ディジタル(以下、A/Dと称する)変換器522から構成され、受信機521の入力側はアンテナ切替器51を介してアンテナ15に接続され、トランスポンダ11が送信した応答信号を受信して検波した後にA/D変換器522を介して中央処理部54に出力する。」(段落【0052】)
(カ)「送信部53は、送信機531とディジタル/アナログ(以下、D/Aと称する)変換回路532から構成され、送信機531は中央処理部54から入力したトランスポンダ11に対する質問信号を高周波信号に変換してアンテナ切替器51を介してアンテナ15に出力する。」(段落【0053】)

(1)上記(ア)の「…11はトランスポンダで、…これらの各トランスポンダ11は、後述するように温度センサと湿度センサを備え、スキャナ14からの指示によって温度と湿度の検出結果を電磁波を用いて送信するものである。」という記載から、引用例のものは『スキャナ14からの指示によって温度と湿度の検出結果を電磁波を用いて送信するトランスポンダ11』を具備するものと認められる。
(2)上記(イ)の「トランスポンダ11の電気系回路は、図7に示すように、…温度センサ35、湿度センサ36、…中央処理部43、…から構成されている。」という記載から、『トランスポンダ11は、温度センサ35、湿度センサ36、中央処理部43から構成される』点が認められる。
(3)上記(ウ)の「中央処理部43は、周知のCPU431と、…アナログ/ディジタル(以下、A/Dと称する)変換回路433,434から構成されている。」という記載から、引用例のものは『中央処理部43は、CPU431と、A/D変換回路433,434から構成される』点が認められる。
(4)上記(ウ)の「CPU431は、…質問信号を入力するとA/D変換回路433,434を介して温度センサ35と湿度センサ36から温度と湿度の検出結果を取り込み、この検出結果…を含めた応答情報を生成して、この情報を…応答信号として送信する。」という記載から、引用例のものは『CPU431は、質問信号を入力すると、A/D変換回路433,434を介して温度センサ35と湿度センサ36から温度と湿度の検出結果を取り込み、この検出結果を含めた応答情報を生成して、この情報を応答信号として送信する』点が認められる。
(5)上記(エ)の「スキャナ14の電気系回路は、図8に示すように、…受信部52、送信部53、中央処理部54…から構成されている。」という記載から、引用例のものは『スキャナ14は、受信部52、送信部53、中央処理部54から構成される』点が認められる。
(6)上記(オ)の「受信部52は、…アナログ/ディジタル(以下、A/Dと称する)変換器522から構成され、…トランスポンダ11が送信した応答信号を受信して…A/D変換器522を介して中央処理部54に出力する。」という記載から、引用例のものは『受信部52は、A/D変換器522から構成され、トランスポンダ11が送信した応答信号を受信してA/D変換器522を介して中央処理部54に出力する』点が認められる。
(7)上記(カ)の「送信部53は、送信機531…から構成され、送信機531は中央処理部54から入力したトランスポンダ11に対する質問信号を…出力する」という記載から、引用例のものは『送信部53は、送信機531から構成され、送信機531は中央処理部54から入力したトランスポンダ11に対する質問信号を出力する』点が認められる。

以上から引用例には、
『スキャナ14からの指示によって温度と湿度の検出結果を電磁波を用いて送信するトランスポンダ11において、
トランスポンダ11は、温度センサ35、湿度センサ36、中央処理部43から構成され、中央処理部43は、CPU431と、A/D変換回路433,434から構成され、
CPU431は、質問信号を入力すると、A/D変換回路433,434を介して温度センサ35と湿度センサ36から温度と湿度の検出結果を取り込み、この検出結果を含めた応答情報を生成して、この情報を応答信号として送信するものであり、
スキャナ14は、受信部52、送信部53、中央処理部54から構成され、
受信部52は、A/D変換器522から構成され、トランスポンダ11が送信した応答信号を受信してA/D変換器522を介して中央処理部54に出力し、
送信部53は、送信機531から構成され、送信機531は中央処理部54から入力したトランスポンダ11に対する質問信号を出力するものである、スキャナ14とトランスポンダ11』(以下「引用発明」という。)が記載されたものと認められる。


3.対比
(1-1)まず、引用発明の「スキャナ14」,「トランスポンダ11」は、それぞれ本願補正発明の「質問器」,「非接触データキャリア」に相当する。
(1-2)また、引用発明では、「トランスポンダ11」は「スキャナ14」に対して「温度と湿度の検出結果を電磁波を用いて送信する」ものであり、ここで、「電磁波を用いて送信」は「無線通信」であることを意味し、「温度と湿度の検出結果」は「データ」の一態様であるから、引用発明は『質問器と無線通信によりデータ送信を行う非接触データキャリア』である点において本願補正発明と一致している。
(1-3)また、引用発明では、「スキャナ14」の一構成である「送信部53」の更に一構成である「送信機531は」「トランスポンダ11に対する質問信号を出力する」のであるから、トランスポンダ11はスキャナ14から出力された質問信号を受信しているものといえ、ここで、「質問信号」は「データ」の一態様であるから、引用発明は『質問器と無線通信によりデータ受信を行う非接触データキャリア』である点においても本願補正発明と一致している。
(1-4)上記(1-2)(1-3)より、引用発明は『質問器と無線通信によりデータ授受(送受)を行う非接触データキャリア』である点において本願補正発明と一致している。
(2-1)次に、一方で、引用発明は「トランスポンダ11は、温度センサ35、湿度センサ36、中央処理部43から構成され、中央処理部43は、CPU431と、A/D変換回路433,434から構成され」ているのであるから、「CPU431」と「A/D変換回路433,434」は共にトランスポンダ11内の回路を構成するものといえる。
(2-2)また、引用発明は「CPU431は、」「A/D変換回路433,434を介して温度センサ35と湿度センサ36から温度と湿度の検出結果を取り込」むものであるから、「CPU431」に対して「A/D変換回路433,434」を介して「温度センサ35と湿度センサ36」からの「温度と湿度の検出結果」が入力されているものといえる。
(2-3)上記(2-1)(2-2)より、引用発明は『トランスポンダ11内の回路に対して、温度センサ35と湿度センサ36からの温度と湿度の検出結果が入力される』ものと認められる。
(2-4)他方で、本願補正発明は「外部からの被比較信号が入力される測定ポート」を具備しており、ここで、本願の明細書の段落【0022】及び図面【図1】等の記載を参酌するに、「外部からの被比較信号」とは外部の「センサ5-1、5-2」からの信号を指しており、この信号は「非接触データキャリア」内の回路である「アナログ比較器13-1、13-2」等に対して入力されているものであるから、本願補正発明は『非接触データキャリア内の回路に対して、外部のセンサ5-1、5-2からの信号が測定ポートを介して入力される』ものと認められる(なお、「被比較信号」の「被比較」の部分は、「信号」自体の性質や属性を特定するものではなく、「信号」が将来に「比較」という処理をされるという意味であるから、「被比較」の部分は、「信号」自体の構成としては意味を成さない)。
(2-5)そこで、上記(2-3)(2-4)に基づいて本願補正発明と引用発明を対比するに、引用発明の「トランスポンダ11内の回路」,「温度センサ35と湿度センサ36」,「温度と湿度の検出結果」は、それぞれ本願補正発明の「非接触データキャリア内の回路」,「センサ5-1、5-2」,「信号」に相当し、両者は『非接触データキャリア内の回路に対して、センサ5-1、5-2からの信号が入力される』点で一致しており、本願補正発明では「測定ポート」を介して「入力される」「信号」が「外部からの」ものであるのに対して、引用発明では「信号が入力される」ものの、この「信号」が「測定ポート」を介した「外部からの」ものであるとは特定されていない点で相違している。
(3-1)次に、一方で、引用発明では「質問信号」は「送信部53」から出力されるものであり、「送信部53」は「スキャナ14」の一構成であることから、「質問信号」は「スキャナ14」からのものである。
(3-2)また、引用発明の「CPU431」は、「質問信号を入力すると」、「取り込み」、「生成」「送信」等の動作を行っているのであるから、「CPU431」は「質問信号」に従い動作しているものといえる。
(3-3)また、引用発明の「CPU431」は、「A/D変換回路433,434を介して温度センサ35と湿度センサ36から温度と湿度の検出結果を取り込み、この検出結果を含めた応答情報を生成して、この情報を応答信号として送信する」ものであり、ここで「送信」とは「質問信号」に対しての返事としてなされるものであるから返信ともいえる。
(3-4)上記(3-1)乃至(3-3)より、引用発明は『スキャナ14からの質問信号に従い、温度と湿度の検出結果をA/D変換回路433,434でA/D変換して応答情報を生成して、この情報を応答信号として送信するCPU431』を具備するものである。
(3-5)他方で、本願補正発明は「上記質問器からの比較出力要求に従い、」「比較結果、又は、上記比較結果に関係する情報を、」「返信する比較制御手段」を具備するものである。
(3-6)そこで、上記(3-4)(3-5)に基づいて本願補正発明と引用発明を対比するに、引用発明の「スキャナ14からの質問信号」,「CPU431」は、それぞれ本願補正発明の「上記質問器からの比較出力要求」,「比較制御手段」に相当し、また、引用発明の「応答情報」は、本願補正発明の「上記比較手段の比較結果、又は、上記比較結果に関係する情報」と、トランスポンダ11内の回路(非接触データキャリア内の回路)による処理の『結果情報』である点では共通しているので、両者は『質問器からの比較出力要求に従い、結果情報を返信する比較制御手段』を具備する点で一致しており、本願補正発明では『結果情報』は「比較結果に関係する情報」であるのに対して、引用発明では『結果情報』は「比較結果に関係する情報」であるものとは特定されていない点で相違している。
(4)次に、引用発明は「受信部52は、」「トランスポンダ11が送信した応答信号を受信してA/D変換器522を介して」おり、また、「受信部52」は「スキャナ14」の一構成であることから、引用発明は『スキャナ14は、トランスポンダ11が送信した応答信号を受信してA/D変換してデジタルデータを取得している』ものといえる。よって引用発明は『質問器が信号のデジタルデータを取得するために』返信する点で本願補正発明と一致している。
(5-1)次に、一方で、引用発明は、上記(2-3)で示した「トランスポンダ11内の回路」が「CPU431」と、「温度と湿度の検出結果」をA/D変換する「A/D変換回路433,434」から構成されている。
(5-2)他方で、本願補正発明は、上記(2-4)で示した「非接触データキャリア内の回路」が「被比較信号を閾値と比較し、両者の大小関係を表す論理値の比較結果を出力する比較手段」と、「上記閾値を出力する可変閾値手段」と、「上記可変閾値手段からの閾値を制御」「する比較制御手段」から構成されている。
(5-3)そこで、上記(5-1)(5-2)に基づいて本願補正発明と引用発明を対比するに、両者は『非接触データキャリア内の回路が信号を処理する』点で一致しており、本願補正発明では『非接触データキャリア内の回路が、被比較信号を閾値と比較し、両者の大小関係を表す論理値の比較結果を出力する比較手段と、上記閾値を出力する可変閾値手段と、上記可変閾値手段からの閾値を制御する比較制御手段とから構成される』のに対して、引用発明では『非接触データキャリア内の回路が、CPU431と、温度と湿度の検出結果をA/D変換するA/D変換回路433,434とから構成される』点で相違している。


したがって、両者は、
《一致点》
『質問器と無線通信によりデータ授受を行う非接触データキャリアにおいて、
信号が非接触データキャリア内の回路に入力され、
上記質問器からの出力要求に従い、結果情報を、上記質問器が上記信号のデジタルデータを取得するために返信する比較制御手段とを備える非接触データキャリア。』である点で一致し、以下の点で相違している。

《相違点1》
本願補正発明では「測定ポート」を介して「入力される」「信号」が「外部からの」ものであるのに対して、引用発明では「信号が入力される」ものの、この「信号」が「測定ポート」を介した「外部からの」ものであるとは特定されていない点。

《相違点2》
非接触データキャリア内の回路が、本願補正発明では『被比較信号を閾値と比較し、両者の大小関係を表す論理値の比較結果を出力する比較手段と、上記閾値を出力する可変閾値手段と、上記可変閾値手段からの閾値を制御する比較制御手段とから構成される』のに対して、引用発明では『CPU431と、温度と湿度の検出結果をA/D変換するA/D変換回路433,434とから構成される』点(なお、本願補正発明では『結果情報』は「比較結果に関係する情報」であるのに対して、引用発明では『結果情報』は「比較結果に関係する情報」であるものとは特定されていない点についても相違しているが、この相違点は非接触データキャリア内の回路が比較手段から構成されれば、当然に『結果情報』は「比較結果に関係する情報」に特定されるので相違点では無くなるため、この相違点は独立したものではなく、相違点2に従属したものである。)。


4.判断
以下、上記相違点について検討する。
まず、相違点1について、『測定ポートを介して入力される信号が外部からのものである』点は、例えば引用例に記載されているようにデータキャリアの技術分野において周知技術である。すなわち、引用例の段落【0002】?【0003】と図面【図2】において、装置本体21はプローブ22a?22dのそれぞれを介して温度センサ23a,23b等を接続可能にしているのであるから、装置本体21から見て温度センサ23a,23b等から装置本体21に対しての入力信号は外部からのものであり、また、プローブ22a?22dは測定ポートと技術的意味において等価である。
よって、引用発明に上記周知技術を適用して、測定ポートを介して入力される信号が外部からのものであると特定することは、当業者が容易になし得るものである。

次に、相違点2について、『被比較信号を閾値と比較し、両者の大小関係を表す論理値の比較結果を出力する比較手段と、上記閾値を出力する可変閾値手段と、上記可変閾値手段からの閾値を制御する比較制御手段とから構成されるA/D変換回路』は、例えば原査定の拒絶理由において引用された実願昭60-182411号(実開昭62-91266号)のマイクロフィルムに記載されているようにA/D変換回路として周知のものである。すなわち、上記マイクロフィルムの明細書2頁13行?5頁16行,第2,3図において、比較器I2は入力端子1から入力される被比較信号たるアナログの信号電圧15を閾値たるD/Aコンバータ出力電圧16と比較し、両者の大小関係を表す論理値の比較結果たる検出信号14を出力する比較手段であり、またD/Aコンバータ7と標準電圧発生回路8は閾値たるD/Aコンバータ出力電圧16を出力する可変閾値手段であり、コントロールロジック3は可変閾値手段たるD/Aコンバータ7と標準電圧発生回路8からの閾値たるD/Aコンバータ出力電圧16を制御する比較制御手段である。
よって、引用発明のA/D変換回路433,434を上記周知のA/D変換回路に置換することは、当業者が容易になし得るものである。
そして、引用発明のA/D変換回路433,434を上記周知のA/D変換回路に置換した場合において、引用発明のA/D変換回路433,434は非接触データキャリア内の回路であるから、置換した周知のA/D変換回路の各構成であるところの、被比較信号を閾値と比較し、両者の大小関係を表す論理値の比較結果を出力する比較手段と、上記閾値を出力する可変閾値手段と、上記可変閾値手段からの閾値を制御する比較制御手段は、当然に非接触データキャリア内の回路を構成することになる。また、引用発明の『結果情報』は非接触データキャリア内の回路の出力であり、非接触データキャリア内の回路の一構成として比較手段が存在しているのであるから、『結果情報』は比較手段を経由した情報として当然に「比較結果に関係する情報」と特定される。

そして、本願補正発明の奏する効果も引用発明から当業者が容易に予測し得る範囲内のものにすぎない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。


5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明の認定
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至15に係る発明は、平成19年9月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至36に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載される事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
質問器と無線通信によりデータ授受を行う非接触データキャリアにおいて、
外部からの被比較信号が入力される測定ポートと、
上記測定ポートから入力された被比較信号を閾値と比較し、両者の大小関係を表す論理値の比較結果を出力する比較手段と、
上記閾値を出力する可変閾値手段と、
上記質問器からの比較出力要求に従い、上記可変閾値手段からの閾値を制御し、上記比較手段の比較結果、又は、上記比較結果に関係する情報を返信する比較制御手段と
を備えることを特徴とする非接触データキャリア。」


2.引用例の記載事項及び引用例に記載された発明
上記「第2.」「2.」のとおりである。


3.対比・判断
本願発明は、上記「第2.」で検討した本願補正発明の「上記質問器からの比較出力要求に従い、上記可変閾値手段からの閾値を制御し、上記比較手段の比較結果、又は、上記比較結果に関係する情報を、上記質問器が上記被比較信号のデジタルデータを取得するために返信する比較制御手段」という構成を、「上記質問器からの比較出力要求に従い、上記可変閾値手段からの閾値を制御し、上記比較手段の比較結果、又は、上記比較結果に関係する情報を返信する比較制御手段」と上位概念化したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、上記「第2.」で検討したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明については論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-27 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-17 
出願番号 特願2004-144926(P2004-144926)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G08C)
P 1 8・ 121- Z (G08C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 櫻井 健太  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 杉野 裕幸
森口 正治
発明の名称 非接触データキャリア  
代理人 工藤 宣幸  
代理人 工藤 宣幸  

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