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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D21H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D21H
管理番号 1186957
審判番号 不服2005-12500  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-01 
確定日 2008-10-30 
事件の表示 平成9年特許願第72375号「紙壁紙の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年10月6日出願公開、特開平10-266099〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成9年3月25日の出願であって、平成17年3月11日付けの拒絶理由通知に対し同年5月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月31日付けで拒絶査定がされ、同年7月1日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正(以下、「本件補正1」ともいう。)がされ、さらに、同月21日に手続補正(以下、「本件補正2」ともいう。)がされ、その後、平成19年8月8日付けの審尋に対し、同年9月20日に回答書が提出されたものである。

第2 平成17年7月1日にした手続補正について
1 補正の内容
平成17年7月1日にした手続補正(本件補正1)は、その特許請求の範囲を次の(a)のとおりとし、発明の詳細な説明の段落【0009】を次の(b)のとおりとし、さらに、段落【0010】、【0013】?【0016】を削除するものである。
(a) 「【請求項1】表面に模様を印刷して、熱風、紫外線、赤外線のいずれかによって乾燥硬化させた表面紙に対し、
その裏面に酢酸ビニル系エマルジョンまたはアクリル系エマルジョンからなる水性の合成樹脂エマルジョン接着剤をロールコーティングまたはスプレーコーティングにより1m^(2)当り5?100gを塗布し、
この接着剤を塗布した表面紙の塗布面に裏打紙をローラ間に挟んでロールプレスにより貼り合わせた後、前記接着剤が完全に乾燥しない間にエンボッシングロールによりエンボス加工を施して、乾燥処理することを特徴とする紙壁紙の製造方法。」
(b) 「【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載の紙壁紙の製造方法は、表面に模様を印刷して、熱風、紫外線、赤外線のいずれかによって乾燥硬化させた表面紙に対し、その裏面に酢酸ビニル系エマルジョンまたはアクリル系エマルジョンからなる水性の合成樹脂エマルジョン接着剤をロールコーティングまたはスプレーコーティングにより1m^(2)当り5?100gを塗布し、この接着剤を塗布した表面紙の塗布面に裏打紙をローラ間に挟んでロールプレスにより貼り合わせた後、前記接着剤が完全に乾燥しない間にエンボッシングロールによりエンボス加工を施して、乾燥処理することを特徴とする。」

2 補正の適否
本件補正1の(a)の補正は、本件補正前の特許請求の範囲(平成17年5月2日の手続補正により補正)が請求項1?4からなるものであったところ、その請求項4を請求項1としたものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものである。また、(b)の補正を含め本件補正1の補正は、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
よって、本件補正1は、適法なものである。

第3 平成17年7月21日にした手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成17年7月21日にした手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成17年7月21日にした手続補正(本件補正2)は、その特許請求の範囲を次のとおりとする補正を含むものである。
「【請求項1】表面紙の表面に印刷機により模様を印刷して、熱風、紫外線、赤外線のいずれかによって乾燥硬化させ、
この印刷した表面紙の裏面に、酢酸ビニル系エマルジョンまたはアクリル系エマルジョンからなる水性の合成樹脂エマルジョン接着剤を、ロールコーティングまたはスプレーコーティングにより1m^(2)当り5?100g塗布し、
この接着剤を塗布した表面紙の塗布面に、裏打紙をローラ間に挟んでロールプレスにより20kg/cm^(2)の圧力で貼り合わせ、
この貼り合わせた表面紙と裏打紙に対し、前記接着剤が完全に乾燥しない残存水分10%程度の時に、エンボッシングロールによりエンボス加工を施し、
その後乾燥処理することにより、表面紙の印刷から裏打紙の貼り合わせ及びエンボス加工まで一貫して連続的に行うことを特徴とする紙壁紙の製造方法。」
(下線は、本件補正2の前の特許請求の範囲(本件補正1により補正)における補正箇所を示す。)

2 補正の適否
(1) 新規事項の追加の有無・補正の目的要件
本件補正2の前の特許請求の範囲(本件補正1により補正)は、上記第2の1(a)のとおりのものであり、この補正は、実質的に補正前の請求項1に各下線部分を加入するものであると認められる。
そして、この補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものといえ、また、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

(2) 独立特許要件
しかし、この補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明(以下、「補正発明」という。)は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
よって、この補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。

ア 刊行物
1 特開平5-295700号公報(拒絶理由通知における引用文献3。以下、「刊行物1」という。)
2 特開平3-19999号公報(拒絶理由通知における引用文献2。以下、「刊行物2」という。)

イ 刊行物1の記載事項
刊行物1には以下の事項が記載されている。
a 「長尺な紙を圧接回転する雄型ローラと雌型ローラとからなる型押しローラの間を通して連続的に型押しするようになしたエンボス紙の製造法において、
長尺ロール状の表紙と長尺ロール状の裏紙とを使用し、上記型押しローラによる型押し前に、表紙の下面と裏紙の上面とのいずれか一方または双方に糊材を塗布し、
上記表紙と裏紙とを型押しローラにより貼り合わせながら連続的に型押しして、次いで乾燥手段部内を通過させて貼り合わせ用の糊材を急速乾燥するようになしたことを特徴とするエンボス紙の製造法。」(【請求項1】)
b 「【0001】【産業上の利用分野】本発明はエンボス紙の製造法に関する物で、特に壁紙、襖紙等の糊付けする目的に使用されるのに適したエンボス紙の製造法も関するものである。」
c 「【0003】【発明が解決しようとする課題】しかし、この従来法は、なかなか凹凸が鮮明に表すことが困難であるという課題と、得られたエンボス紙を壁面等に貼付すると、貼付用の糊材の性質にもよるが、一般的には貼付用の糊材が乾燥する工程で形成した凹凸が伸びて平らになる傾向を有し、貼付した後も鮮明で大きな凹凸を有するエンボス紙を得ることが困難であるという課題を有していた。
【0004】そこで、本発明は上記課題を解決すべくなされたもので、凹凸が大きく鮮明で、何かに貼付しても凹凸が消えずらいエンボス紙を得ることができるエンボス紙の製造法を提供することを目的としたものである。」
d 「【0006】…本発明は、型押し前に紙(表紙または裏紙)に糊材を塗布するので、紙が湿潤する作用を呈する。
【0007】そして、糊材を塗布して湿潤した紙は、次に表紙と裏紙とが貼り合わされ型押しローラで型押しされるが、湿潤した紙は変形し易く、凹凸が大きい型押しも、細かい型押しも可能となる作用を呈する。」
e 「【0009】また、本発明によって得られるエンボス紙は、図2に示されるごとく表紙1と裏紙2との間に糊層3が介在され、凸部4と凹部5とが形成されるため、この糊層3が凹凸を保持する作用を呈するものである。」
f 「【0017】また、上記糊材3も特にその材質を特定するものではないが、澱粉糊よりは合成糊、特に使用時は水溶性で固化すると水溶性でなくなるものを使用すると後に、壁等に張る際に凹凸部が伸びるのを最小にとどめることができ…」
g 「【0018】なお、この糊材3を塗布するには従来法が使用でき、図示では30が塗付装置で、糊槽31内の糊を順次ローラ31a,31b,31c・・・に移し代え最終のローラが裏紙2の上面(表紙1の下面、言い換えると表紙1の裏面でもよい)に接触しこの裏紙2の反対側には受ローラ32を設けてなり、進行する裏紙2に連続して糊材3を塗布できるようになしてある。
【0019】なお、図示実施例においては、裏紙2の上面に糊材3を塗付したが、これは、裏紙2が繊維が粗で吸水性が大きい紙を使用しているため、糊の付着がよく、均一に塗布し易いためであり、さらには、厚手の裏紙2をまず湿潤させ湿潤による変形し易さ(エンボス加工性)を向上するためで、表紙1の性状によっては逆に表紙1の下面に糊材3を塗布したほうがよい場合もあり、さらには、糊材3の性状にもよるが双方に糊材3を塗付して塗付の確実性を計る必要性を有する場合も想定できる。」
h 「【0021】本願では、型押しローラ10により貼り合わせと型押しとを行うとし、図示例では雌型ローラ12と雄型ローラ13とが該貼り合わせと型押しとを行うように記載してあるが、この貼り合わせと型押しとは別途行ってもよく、図示例では案内ローラ19a,19bを図示例とは異なり圧接してこの案内ローラ19a,19bで貼り合わせのみを行い、雌型ローラ12と雄型ローラ13とはエンボス加工のみを行うようになしてもよいばかりか、むしろ早い段階で貼り合わせをして吸湿状態が均一化されるようになすことが雌型ローラ12と雄型ローラ13で皺を生じないようになすことができて望ましいものである。」
i 「【0027】また、本発明法により得られたエンボス紙は、図2に示されるごとく表紙1と裏紙2との間に糊層3が介在されるため、この糊層3が凹凸を保持し、後に裏紙2の下面に糊を塗布して壁等に貼りつける場合、凹凸が伸びることを最小にとどめるものである。…」

ウ 刊行物1に記載された発明
刊行物1は、「エンボス紙の製造法に関する物で、特に壁紙、襖紙等の糊付けする目的に使用されるのに適したエンボス紙の製造法」(摘示b)であって、「長尺な紙を圧接回転する雄型ローラと雌型ローラとからなる型押しローラの間を通して連続的に型押しするようになしたエンボス紙の製造法において、長尺ロール状の表紙と長尺ロール状の裏紙とを使用し、上記型押しローラによる型押し前に、表紙の下面と裏紙の上面とのいずれか一方または双方に糊材を塗布し、上記表紙と裏紙とを型押しローラにより貼り合わせながら連続的に型押しして、次いで乾燥手段部内を通過させて貼り合わせ用の糊材を急速乾燥するようになしたことを特徴とするエンボス紙の製造法。」(摘示a)に関し記載するものである。
その製造法における「糊材」については、「澱粉糊よりは合成糊、特に使用時は水溶性で固化すると水溶性でなくなるものを使用する」(摘示f)とされ、その塗布は「表紙1の下面」(摘示g)に塗布する場合を含むものである。そして、その塗布方法は「従来法が使用でき(る)」(摘示g)とされ、具体例では、「ローラ」(摘示g)による塗布方法、すなわちローラコーティングが使用されていることが認められる。
また、その製造法における「表紙と裏紙とを型押しローラにより貼り合わせながら連続的に型押し」することについて、「この貼り合わせと型押しとは別途行ってもよく、図示例では案内ローラ19a,19bを図示例とは異なり圧接してこの案内ローラ19a,19bで貼り合わせのみを行い、雌型ローラ12と雄型ローラ13とはエンボス加工のみを行うようになしてもよいばかりか、むしろ早い段階で貼り合わせをして吸湿状態が均一化されるようになすことが雌型ローラ12と雄型ローラ13で皺を生じないようになすことができて望ましいものである。」(摘示h)とされるから、糊剤を塗布した表紙と裏紙をローラ間で圧接して貼り合わせてから、雌型ローラと雄型ローラとによりエンボス加工する、これらの工程を一貫して連続して行う方法が記載されているということができる。
そして、その製造法におけるエンボス加工は「型押し前に紙(表紙または裏紙)に糊材を塗布するので、紙が湿潤する作用を呈する。そして、糊材を塗布して湿潤した紙は、次に表紙と裏紙とが貼り合わされ型押しローラで型押しされるが、湿潤した紙は変形し易く、凹凸が大きい型押しも、細かい型押しも可能となる作用を呈する。」(摘示d)とされていることから、紙が湿潤した状態、すなわち紙が乾燥しない時にエンボス加工が施されるものと認められる。
そして、その「エンボス紙」は、「特に壁紙、襖紙等」(摘示b)である。
以上の記載及び認定事項を補正発明の記載ぶりに則して記載すると、刊行物1には、
「表紙の裏面に、合成糊を、ロールコーティングにより塗布し、
この合成糊を塗布した表紙の塗布面に、裏紙をローラ間で圧接して貼り合わせ、
この貼り合わせた表紙と裏紙に対し、紙が乾燥しない時に、雌型ローラと雄型ローラとによりエンボス加工を施し、
その後乾燥処理する、表紙と裏打紙の貼り合わせ及びエンボス加工まで一貫して連続的に行う壁紙の製造方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

エ 補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「表紙」は補正発明の「表面紙」に、引用発明の「裏紙」は補正発明の「裏打紙」にそれぞれ相当し、引用発明の「合成糊」も補正発明の「酢酸ビニル系エマルジョンまたはアクリル系エマルジョンからなる水性の合成樹脂エマルジョン接着剤」も共に「合成接着剤」ということができる。また、引用発明の「ローラ間で圧接して貼り合わせ」は補正発明の「ローラ間に挟んでロールプレスにより貼り合わせ」に相当し、引用発明の「紙が乾燥しない時に」は補正発明の「接着剤が完全に乾燥しない時に」に、引用発明の「雌型ローラと雄型ローラとによりエンボス加工」は補正発明の「エンボッシングロールによりエンボス加工」に、引用発明の「壁紙」は補正発明の「紙壁紙」にそれぞれ相当するから、両者は、
「表面紙の裏面に、合成接着剤を、ロールコーティングにより塗布し、
この接着剤を塗布した表面紙の塗布面に、裏打紙をローラ間に挟んでロールプレスにより貼り合わせ、
この貼り合わせた表面紙と裏打紙に対し、前記接着剤が完全に乾燥しない時にエンボッシングロールによりエンボス加工を施し、
その後乾燥処理することにより、裏打紙の貼り合わせ及びエンボス加工まで一貫して連続的に行うことを特徴とする紙壁紙の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違すると認められる。
A 補正発明においては、「表面紙の表面に印刷機により模様を印刷して、熱風、紫外線、赤外線のいずれかによって乾燥硬化させ」たものであって、その「表面紙の印刷」、「乾燥硬化」を裏打紙の貼り合わせ及びエンボス加工まで「一貫して連続的に行う」ものであるのに対し、引用発明においては、表紙に模様を印刷するか否か明らかではなく、その乾燥硬化方法も不明であり、また、「表面紙の印刷」を裏打紙の貼り合わせ及びエンボス加工まで「一貫して連続的に行う」ものではない点
B 合成接着剤が、補正発明においては、「酢酸ビニル系エマルジョンまたはアクリル系エマルジョンからなる水性の合成樹脂エマルジョン」であって、その塗布量が「1m^(2)当り5?100g」であるのに対し、引用発明においては、「合成糊」であるが具体的にはどのようなものか、さらにその塗布量が明らかではない点
C エンボス加工の圧力の程度が、補正発明においては、「20kg/cm^(2)」であるのに対し、引用発明においては、明らかではない点
D エンボス加工時の水分の程度が、補正発明においては、「残存水分10%程度」であるのに対し、引用発明においては、明らかではない点
(以下、これらの相違点を、それぞれ、「相違点A」、「相違点B」、「相違点C」、「相違点D」という。)

オ 相違点についての判断
(ア) 相違点Aについて
壁紙に模様を付することはごく一般的なことであるから、引用発明の壁紙を模様を印刷したものとすること、すなわち、壁紙に印刷により模様を付する印刷工程を付することは必要に応じ適宜採用される技術事項である。なお、その印刷後、熱風、赤外線等によって乾燥硬化させることは周知慣用のことである(例えば、特公昭46-35691号公報(以下、「周知例」という。)等参照)。
そして、長尺の紙を用いる壁紙等の紙製品の製造方法であって、印刷、貼り合わせ等の複数の工程を有する製造方法においては、これらの工程を一つのラインで連続的に行うことにより運搬の手数や時間を削減等することはその出願前慣用されていることであり、必要に応じ適宜採用されることに過ぎない(上記周知例等参照)から、引用発明において、その印刷工程を、他の各工程、すなわち、裏打紙の貼り合わせ工程及びエンボス加工工程と一貫して連続的に行うことは、当業者にとって、何ら困難なこととは認められない。
なお、審判請求人は審尋に対する平成19年9月20日の回答書【回答の内容】(3)(ii)(ウ)において、「本願発明(審決注:補正発明)においては、…エンボス加工を行う前に、“表面紙の模様印刷”と“裏打紙の貼り合わせ”を行うことを条件とするものです。このため、本願発明におけるエンボス加工においては、必然的に表面紙に印刷された模様に適合するように精度の高いエンボス加工を行うことから、特許請求の範囲に記載される構成要件からなる紙壁紙の製造方法が適合するのであります。」と主張する。
しかし、「表面紙に印刷された模様に適合するように精度の高いエンボス加工を行うこと」は明細書に記載されるものではないし、しかも、エンボスと模様とを適合するものとするときには、模様を印刷してから模様に適合するようにエンボス加工を行うことが通常であるから、印刷工程を引用発明の工程の前に付加することは格別のことではなく、その効果も予期しうるものである。
よって、審判請求人の主張は、採用することはできない。

(イ) 相違点Bについて
刊行物1には引用発明の「合成糊」について「澱粉糊よりは合成糊、特に使用時は水溶性で固化すると水溶性でなくなるものを使用すると後に、壁等に張る際に凹凸部が伸びるのを最小にとどめることができ」(摘示f)と記載されており、この記載によれば、「固化すると水溶性でなくなる」水性合成糊は壁等に張る際の凹凸部の伸びを小さくすることが示唆されていると認められる。
そして、そのような水性合成糊として、刊行物2に記載されているとおり、酢酸ビニル系エマルジョン水性接着剤やアクリル系エマルジョン水性接着剤は一般的なものであり、その塗布量も、例えば40g/m^(2)(刊行物2の実施例6参照)とされているのであるから、引用発明の合成糊を、酢酸ビニル系エマルジョン水性接着剤やアクリル系エマルジョン水性接着剤とし、その塗布量を上記1m^(2)当りの量付近において、被塗物(種類、厚さ等)などに応じて適切な量範囲を選択することは当業者が容易に想到しうることである。

(ウ) 相違点C及びDについて
エンボス加工における圧力の程度及び水分の程度は、被加工物(種類、性状(厚さ、湿度等))、製造装置等に応じ好適な範囲を選定すべきものであって、引用発明において被加工物(種類、性状(厚さ、湿度等))、製造装置等を考慮して適切な量範囲を選択することは当業者が容易に想到しうることである。

(エ) 効果について
補正発明の効果は、明細書等を検討しても、刊行物1、2の記載及び技術常識から予測される範囲のものであって、特許を付与するに足るほどの格別のものと認めることはできない。

カ まとめ
したがって、補正発明は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者がその出願前容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、特許請求の範囲についてする上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。

(3) 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないから、この補正を含む本件補正2は、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第4 本願発明
1 上記のとおり、平成17年7月21日にした手続補正(本件補正2)は却下されたから、この出願の発明は、本件補正2の前の特許請求の範囲(本件補正1により補正されたもの。上記第2の1(a))のとおりのものである。以下、再掲する。
「【請求項1】表面に模様を印刷して、熱風、紫外線、赤外線のいずれかによって乾燥硬化させた表面紙に対し、
その裏面に酢酸ビニル系エマルジョンまたはアクリル系エマルジョンからなる水性の合成樹脂エマルジョン接着剤をロールコーティングまたはスプレーコーティングにより1m^(2)当り5?100gを塗布し、
この接着剤を塗布した表面紙の塗布面に裏打紙をローラ間に挟んでロールプレスにより貼り合わせた後、前記接着剤が完全に乾燥しない間にエンボッシングロールによりエンボス加工を施して、乾燥処理することを特徴とする紙壁紙の製造方法。」
(以下、この請求項1に係る発明を、「本願発明」という。)

2 原査定の理由
原査定の理由は、「この出願については、平成17年3月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものである。」というものであるところ、その理由2は、製造方法の発明については、概略以下のとおりのものであると認められる。
この出願の発明は、その出願前頒布された次の引用文献1及び2又は引用文献3及び2に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開昭47- 23607号公報
2.特開平 3- 19999号公報
3.特開平 5-295700号公報

3 刊行物及び刊行物の記載事項並びに引用発明
上記引用文献3、2は、第3の2の「(2)独立特許要件」の項における刊行物1、2であり、刊行物1の記載事項はその項の「イ」の項に、刊行物1に記載された発明は同「ウ」の項に記載されたとおりである(その発明を、同様に「引用発明」という。)。

4 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「表紙」は補正発明の「表面紙」に、引用発明の「裏紙」は補正発明の「裏打紙」にそれぞれ相当し、引用発明の「合成糊」も補正発明の「酢酸ビニル系エマルジョンまたはアクリル系エマルジョンからなる水性の合成樹脂エマルジョン接着剤」も共に「合成接着剤」ということができる。また、引用発明の「ローラ間で圧接して貼り合わせ」は補正発明の「ローラ間に挟んでロールプレスにより貼り合わせ」に相当し、引用発明の「紙が乾燥しない時に」は補正発明の「接着剤が完全に乾燥しない時に」に、引用発明の「雌型ローラと雄型ローラとによりエンボス加工」は補正発明の「エンボッシングロールによりエンボス加工」に、引用発明の「壁紙」は補正発明の「紙壁紙」にそれぞれ相当するから、両者の一致点は、同「(2)独立特許要件」の項の「エ」の項における、補正発明と引用発明との一致点と同じであり、両者の相違点は以下のとおりのものと認められる。
A’ 本願発明においては、「表面に模様を印刷して、熱風、紫外線、赤外線のいずれかによって乾燥硬化させ」たものであるのに対し、引用発明においては、模様を印刷した表紙であるかは明らかではなく、その乾燥硬化方法も不明である点
B’ 合成接着剤が、本願発明においては、「酢酸ビニル系エマルジョンまたはアクリル系エマルジョンからなる水性の合成樹脂エマルジョン」であって、その塗布量が「1m^(2 )当り5?100g」であるのに対し、引用発明においては、「合成糊」であるが具体的にはどのようなものか、さらにその塗布量が明らかではない点
(以下、これらの相違点を、それぞれ、「相違点A’」、「相違点B’」という。)

5 相違点についての判断
相違点A’は、同「(2)独立特許要件」の項の「エ」の項における補正発明と引用発明との相違点Aに含まれるものであり、相違点B’は同相違点Bと同じであるから、これらの相違点A’、B’については、同「オ」の「(ア)」、「(イ)」の項に記載したのと同じ理由が適用でき、そして、本願発明の効果も格別優れたものということはできない。

6 まとめ
したがって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであるから、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-21 
結審通知日 2008-08-26 
審決日 2008-09-17 
出願番号 特願平9-72375
審決分類 P 1 8・ 575- Z (D21H)
P 1 8・ 121- Z (D21H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 利直亀ヶ谷 明久  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 安藤 達也
橋本 栄和
発明の名称 紙壁紙の製造方法  
代理人 本田 崇  

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