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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01T
管理番号 1186965
審判番号 不服2005-19924  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-13 
確定日 2008-10-30 
事件の表示 特願2002-353846号「スパークプラグ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月7日出願公開、特開2003-317896号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成14年12月5日(優先権主張 平成14年2月19日)の出願であって、平成17年9月8日付けで拒絶査定がなされた。
その後、同年10月13日に本件拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年11月10日付けで手続補正がなされ、当審において平成20年6月5日付けで平成17年11月10日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶の理由が通知され、平成20年8月7日付けで手続補正がなされたものである。

第2.本願発明
本件出願の各請求項に係る発明は、平成20年8月7日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項によって特定されるものと認められるが、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】 中心電極(30)と、この中心電極と放電ギャップ(50)を介して対向する接地電極(40)とを備え、前記中心電極および前記接地電極における互いの対向面(32、43)には、それぞれ貴金属チップ(35、45)が固定されているスパークプラグにおいて、
前記中心電極における前記貴金属チップ(35)は、50重量%を超えるIrにPtおよびRhの少なくとも1種の添加物を含有したIr合金からなり、前記接地電極における前記貴金属チップ(45)は、前記接地電極の対向面からの突き出し量tが0.3mm以上であり、50重量%を超えるPtにRhを添加物として含有したPt合金からなり、耐酸化揮発性が前記中心電極における前記貴金属チップ(35)よりも優れていることを特徴とするスパークプラグ。」

第3.引用刊行物とその記載事項
刊行物1:特開平10-32076号公報
刊行物2:特開2001-345162号公報
刊行物3:特開平5-135846号公報
刊行物4:特開昭58-198886号公報
刊行物5:特開昭58-209879号公報
刊行物6:特開2001-307858号公報

1.刊行物1
当審の拒絶の理由に引用した刊行物1には、「スパークプラグ」に関し、図1?5とともに以下の記載がある。
(ア)「【0007】ここで、Irよりも耐酸化性に優れるとは、高温状態における上記金属材料の酸化消耗量が、Irの酸化消耗量よりも小さいことである。ここで、本発明者らの実験により、スパークプラグの放電中におけるチップ(51)近傍の温度である約1000℃におけるIrの酸化消耗量は約0.5mg/(cm^(2) ・h)であることが確認されている。そして、約1000℃における酸化消耗量が1×10^(-2)mg/(cm^(2) ・h)以下程度のものであれば、Irよりも大幅に耐酸化性に優れるとみなしている。
【0008】因みに、Ptの上記酸化消耗量は約1×10^(-5)mg/(cm^(2) ・h)、Ruの上記酸化消耗量は約1×10^(-2)mg/(cm^(2) ・h)、Rhの上記酸化消耗量は約1×10^(-4)mg/(cm^(2) ・h)である。」
(イ)「【0020】・・・(中略)・・・チップ(51)の放電ギャップ(6)側表面に火炎は形成されるものであるが、このチップ(51)の長さが0.5mm未満であると、上記火炎と中心電極(3)との距離が近づき、上記火炎が中心電極(3)により冷却されてしまい(以下、消炎作用という)、スパークプラグの着火性が低下する恐れがある、ということが発明者らの経験によりわかっているためである。」
(ウ)「【0021】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図に示す実施形態について説明する。
(第1の実施形態)本実施形態のスパークプラグを図1に示す。・・・(中略)・・
【0022】・・・(中略)・・・この接地電極4は、・・・(中略)・・・中心電極3の先端部3aと放電ギャップ6を隔てて対向している。
【0023】中心電極3の先端部3aには、本発明の特徴であるIr合金材料からなる貴金属チップ51が設けられている。この貴金属チップ51は円柱体で、95wt%Ir-5wt%Rh(以下、95Ir-5Rhと示す)からなる。Rhは、Irと全率固溶可能で、Irよりも耐酸化性に優れている。・・・(中略)・・・
【0025】接地電極4において中心電極3の先端部3aに対向する対向部4aには貴金属チップ52が抵抗溶接により固定されている。貴金属チップ52も円柱形状で、78Pt-20Ir-2Niからなる。貴金属チップ52の・・・(中略)・・・長さは0.3mmとしている。ここで、一般に、中心電極3側の貴金属チップ51の方が、接地電極4側の貴金属チップ52よりも、火花放電による消耗量が大きい。よって、本実施形態では、貴金属チップ51のみをIr合金材料にて形成し、貴金属チップ52には、従来と同様のものを用いている。」

上記記載事項(ア)?(ウ)及び図面の図示内容を総合すると、刊行物1には、「中心電極3と、この中心電極3と放電ギャップ6を隔てて対向する接地電極4とを備え、中心電極3の先端部3aには貴金属チップ51が設けられ、前記接地電極4において中心電極3の先端部3aに対向する対向部4aには貴金属チップ52が固定されているスパークプラグにおいて、
中心電極3側の貴金属チップ51は、95wt%Ir-5wt%RhからなるIr合金材料からなり、接地電極4側の貴金属チップ52は、長さが0.3mmであり、78Pt-20Ir-2Niからなるスパークプラグ。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

2.刊行物2
当審の拒絶の理由に引用した刊行物2には、「内燃機関用スパークプラグ」に関し、図1?12とともに以下の記載がある。
(エ)「【0021】さらに、前記接地電極表面から接地側貴金属チップの端面までの前記接地側貴金属チップの高さhは、
0.3mm≦h≦1.5mm
が好ましい。
【0022】接地側貴金属チップの高さhが0.3mmより小である場合には、接地側貴金属チップのエッジ効果を十分に利用できないため、着火性が劣る。」
(オ)「【0035】(実施形態2)実施形態2として、上述した実施形態1における接地電極6に、中心電極4の先端に設けられた貴金属チップ50と対向し、この貴金属チップ50と放電ギャプGを形成する接地側貴金属チップ80を設けた点において、実施形態1とは異なる。
【0036】実施形態2の要部半断面拡大図を図3に示す。」
(カ)「【0072】(接地側貴金属チップの高さの選定)次に、接地電極6の放電ギャップGに設ける接地側貴金属チップの高さについて、考察した。
【0073】図9(a)には、接地側貴金属チップのチップ高さhと着火性との関係を示すため、図9(b)に示すチップ高さとリーン限界A/Fとの関係を示した。・・・(中略)・・・
【0074】着火性がもっとも劣っている接地側貴金属チップの径dが1.0mmの場合においては(図8(a)参照)、図9(a)からも明らかなように、接地側貴金属チップの高さhが0.3mm以上において、十分な着火性を得ることができることがわかった。」

上記記載事項(エ)?(カ)並びに、図3及び9(b)の図示内容から、接地側貴金属チップの高さhは、接地電極6の対向面からの突き出し量であるといえる。

3.刊行物3
当審の拒絶の理由に引用した刊行物3には、「内燃機関用スパークプラグ」に関し、図1?5とともに以下の記載がある。
(キ)「【0011】以下に示す表1において、・・・(中略)・・・貴金属電極4を絶縁碍子2とともに1500℃の大気雰囲気中で焼成し、焼成後に重量変化と結晶粒の大きさを図3に示すごとく組織観察して酸化揮発量を測定し、これを評価(1)とした。」
(ク)「【0017】上記実施例においては、貴金属電極4の発火部に装着した実施例について説明したが、貴金属電極4は外側電極11の発火部に装着してもよく、両方に装着することが、耐久性の観点から最も望ましい。」
(ケ)表1には、Pt-Rh(10%)やPt-Rh(20%)の貴金属電極の、白金を1とする酸化揮発量が1であり、Ir(100%)の貴金属電極の、白金を1とする酸化揮発量が30であることが記載されている。

4.刊行物4
当審の拒絶の理由に引用した刊行物4には、「点火クプラグ」に関し、第1,2図とともに以下の記載がある。
(コ)「また接地電極が負極性の電源の場合には接地電極の火花放電部に結晶成長の起りにくい白金合金を配置することが有効である。この結晶成長の起りにくい白金合金としてはPt-Rh,・・・(中略)・・・合金が用いられ、そのうちPt-Rh(10?40%Rh,残Pt),・・・(中略)・・・が好適に用いられる。」(第2ページ左上欄第1?14行)

5.刊行物5
当審の拒絶の理由に引用した刊行物5には、「点火クプラグ」に関し、図面とともに以下の記載がある。
(サ)「7は貴金属薄片から成るチップである。高温でのチップと母体のNi合金部材との熱膨脹差から生ずる応力によりチップの剥離が問題となる。通常の使用状態では点火プラグは接地電極側が中心電極より燃焼室内に深く突出し、燃焼による熱サイクルによってチップの剥離に対する影響は大であり、また形状的にも中心電極に比べて不利である。貴金属チップPt,Pt-Rh合金,Pt-Ir合金がプラグ用としては適切であり、特にPt-Irが粒成長の安定および融点の上昇の観点から最適であるが、剥離に対しては柔軟性なく不利である。従って剥離に対して不利な接地電極にはチップ7として柔らかくNiの熱膨脹に追従できるPt或はPt-Rh合金の薄片を使用することを特徴とするものである。」(第2ページ左上欄第14行?右上欄第8行)

6.刊行物6
当審の拒絶の理由に引用した刊行物6には、「スパークプラグ」に関し、図1?12Bとともに以下の記載がある。
(シ)「【0018】・・・(中略)・・・接地電極側は、通常中心電極側と比較して高電位であるため、電気火花発生時には軽い電子が引き寄せられることになる。このため、接地電極側の消耗は比較的少ないが、燃焼室内の中央側に位置しているため中心電極と比べると温度が上昇しやすく、内燃機関の種類によっては消耗が進みやすい場合がある。」

第4.本願発明と引用発明との対比
1.両者の対応関係
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「この中心電極3と放電ギャップ6を隔てて対向する接地電極4」は、その機能、作用からみて、本願発明の「この中心電極と放電ギャップ(50)を介して対向する接地電極(40)」に相当し、以下同様に、「中心電極3側の貴金属チップ51」は「前記中心電極における前記貴金属チップ(35)」に、「接地電極4側の貴金属チップ52」は「前記接地電極における前記貴金属チップ(45)」に、各々相当する。
また、引用発明の「中心電極3の先端部3aには貴金属チップ51が設けられ、接地電極4において中心電極3の先端部3aに対向する対向部4aには貴金属チップ52が固定されている」との事項は、実質的に、本願発明の「前記中心電極および前記接地電極における互いの対向面(32、43)には、それぞれ貴金属チップ(35、45)が固定されている」との事項に相当し、引用発明の「中心電極3側の貴金属チップ51は、95wt%Ir-5wt%RhからなるIr合金材料からなり」との事項は、実質的に、本願発明の「前記中心電極における前記貴金属チップ(35)は、50重量%を超えるIrにPtおよびRhの少なくとも1種の添加物を含有したIr合金からなり」との事項に相当する。
そして、引用発明の「接地電極4側の貴金属チップ52は、長さが0.3mmであり、78Pt-20Ir-2Niからなる」との事項と、本願発明の「前記接地電極における前記貴金属チップ(45)は、前記接地電極の対向面からの突き出し量tが0.3mm以上であり、50重量%を超えるPtにRhを添加物として含有したPt合金からなり」との事項とは、「前記接地電極における前記貴金属チップ(45)は、Pt合金からなり」との事項の限りにおいて共通する。
すると、両者の一致点、相違点は以下のとおりとなる。

2.両者の一致点
「中心電極(30)と、この中心電極と放電ギャップ(50)を介して対向する接地電極(40)とを備え、前記中心電極および前記接地電極における互いの対向面(32、43)には、それぞれ貴金属チップ(35、45)が固定されているスパークプラグにおいて、
前記中心電極における前記貴金属チップ(35)は、50重量%を超えるIrにPtおよびRhの少なくとも1種の添加物を含有したIr合金からなり、前記接地電極における前記貴金属チップ(45)は、Pt合金からなるスパークプラグ。」

3.両者の相違点
(1)相違点1
接地電極における貴金属チップに関し、本願発明では、「前記接地電極の対向面からの突き出し量tが0.3mm以上であ」るのに対し、引用発明では、長さが0.3mmであるものの、接地電極の対向面からの突き出し量tが0.3mm以上であるのか否かが明確ではない点。
(2)相違点2
接地電極における貴金属チップのPt合金に関し、本願発明では、「50重量%を超えるPtにRhを添加物として含有した」ものであるのに対し、引用発明では、Rhを添加物として含有しない点。
(3)相違点3
接地電極における貴金属チップに関し、本願発明では「耐酸化揮発性が前記中心電極における前記貴金属チップ(35)よりも優れている」のに対し、引用発明では、耐酸化揮発性の優劣が特定されていない点。

第5.相違点についての検討
1.相違点1について
刊行物2には、着火性を考慮して、接地電極6の対向面からの突き出し量といえる接地側貴金属チップの高さhを0.3mm以上にする事項が記載されている(上記記載事項(エ)?(カ))。そして、刊行物1には、中心電極3側のチップ51の長さが短いとスパークプラグの着火性が低下することが示唆されており(上記記載事項(イ))、引用発明において、接地電極4側の貴金属チップ52についても着火性を考慮することは、当業者にとって格別困難とはいえないので、引用発明において、刊行物2に記載された事項を適用して、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

2.相違点2について
刊行物3には、Pt-Rh(10%)やPt-Rh(20%)の貴金属電極が例示され(上記記載事項(ケ))、刊行物4には、接地電極側のチップ電極の白金合金として、Pt-Rh(10?40%Rh,残Pt)が例示され(上記記載事項(コ))、刊行物5にもPt-Rh合金のチップが例示されているように、接地電極における貴金属チップをPtにRhを添加物として含有したPt合金からなるものとすることは、周知の技術であり、Pt合金をPtが50重量%を超えるものとすることも、周知である。そして、刊行物1には、接地電極4側の貴金属チップ52を従来と同様のものとすることが示唆されている(上記記載事項(ウ))ので、引用発明において、接地電極4側の貴金属チップ52のPt合金として、上記周知の技術を採用して、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

3.相違点3について
Ptの耐酸化揮発性がIrよりも格別に優れていることは、周知の事項であって、刊行物1には、Irの酸化消耗量が約0.5mg/(cm^(2) ・h)で、Ptの酸化消耗量が約1×10^(-5)mg/(cm^(2) ・h)であることが記載され(上記記載事項(ア))、刊行物3には、Pt-Rh(10%)やPt-Rh(20%)の貴金属電極の、白金を1とする酸化揮発量が1であり、Ir(100%)の貴金属電極の、白金を1とする酸化揮発量が30であることが記載されている(上記記載事項(ク))。
そして、引用発明は、接地電極4側の貴金属チップ52と中心電極3側の貴金属チップ51との耐酸化消耗性の優劣が特定されていないものの、引用発明の「78Pt-20Ir-2Ni」や「95Ir-5Rh」にはそれぞれ「Pt」や「Ir」が主成分として大量に含有していることを考慮しつつ、上記周知の事項をあわせみれば、引用発明において、接地電極4側の貴金属チップ52を、耐酸化消耗性が中心電極3側の貴金属チップ51よりも優れるように構成することは、当業者にとって格別困難であるとはいえない。
よって、相違点3に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

4.効果について
スパークプラグの技術分野において、接地電極側は、燃焼室内の中央側に位置しているため中心電極側と比べて熱による影響を受けやすいことは、刊行物5や6に記載されており、周知の技術であり、またPtの耐酸化揮発性がIrよりも格別に優れていることも、刊行物1や3に記載されているうえ、周知の技術でもあり、引用発明の「78Pt-20Ir-2Ni」及び「95Ir-5Rh」には、それぞれ「Pt」及び「Ir」が主成分として大量に含有しているといえるので、本願発明の全体構成により奏される効果は、引用発明、刊行物1?6に記載された事項及び上記各周知の技術から、当業者であれば予測し得る範囲のものである。
なお、本件出願の明細書又は図面には図3,4,6?12に評価結果や試験結果が記載されているものの、図3,4,6?10に記載されたのものは本願発明のものではなく、図11,12に記載されたのものは酸化揮発消耗についてのものではないので、本件出願の明細書又は図面には、本願発明の酸化揮発消耗についての評価結果や試験結果が記載されておらず、本願発明において「突き出し量tが0.3mm以上」であるとした臨界的意義は認められない。

5.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、刊行物1?6に記載された事項及び上記各周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6.むすび
以上のとおり、本願発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-27 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-16 
出願番号 特願2002-353846(P2002-353846)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 茂夫  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 平上 悦司
岸 智章
発明の名称 スパークプラグ  
代理人 加藤 大登  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 伊藤 高順  

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