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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C02F
管理番号 1186990
審判番号 不服2006-5951  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-30 
確定日 2008-10-30 
事件の表示 特願2004-211857「多糖類を主成分として含む天然原料から形成された水質浄化用固形材およびこれを用いた水質浄化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月15日出願公開、特開2005-246368〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年7月20日(優先権主張 平成16年2月6日)を出願日とする特許出願であって、平成18年2月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年3月30日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成18年3月30日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の記載からみて、その請求項1?6に記載された事項により、それぞれ特定されるとおりものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下、必要に応じて「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】微生物を利用して水質浄化を行う際に用いる水質浄化用固形材であって、澱粉を主成分として含む天然原料のみからなり、該天然原料を、該天然原料そのものよりも水に対する溶解性が低くなるように加工してなることを特徴とする水質浄化用固形材。」

3.刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2000-153293号公報(原査定における引用文献2、以下「刊行物1」という。)には次の事項が記載されている。

(1)刊行物1(特開2000-153293号公報)
(A-1)
「本発明は、嫌気処理槽及び/又は好気処理槽に微生物が摂取できる生分解性プラスチックを有機炭素源として存在させ、また、該生分解性プラスチックを固定床又は流動床の状態に形成させて、排水から有機物及び窒素を除去するようにしたものである。」(段落【0009】)
(A-2)
「そして、本発明で用いる生分解性プラスチックとは、微生物が炭素源として摂取できる高分子化合物であって、固形(固体)に加工されたものであればよい。前記生分解性プラスチックには、微生物による分解型と崩壊型(部分分解型)とがあり、前記分解型には、澱粉、変性澱粉、セルロース、セルロース誘導体などの天然高分子系、微生物産生ポリエステルなどの微生物合成系、縮合系ポリエステル、発酵と合成によるポリ乳酸などの化学合成系が挙げられ、また前記崩壊型には、ポリエチレンやポリプロピレン等に澱粉を加えたものなどが挙げられる。」(段落【0024】)

(A-3)
「上記の生分解性プラスチックは、フィルム状、シート状、球状、網様球状、円柱状、円筒状、網様円筒状、不定形状、多孔質体等に加工されたものが好ましく用いられる。また、前記各種の形状に加工した生分解性プラスチックは、混合して用いることもできる。」(段落【0025】)

(A-4)
「生分解性プラスチックは、運転経過とともに徐々に減少していくため、初期の充填量から20?50%程度減少したら、初期の充填量まで補充するようにしている。」(段落【0026】)

4.刊行物発明の認定
刊行物1には、その記載事項(A-1)によれば、「生分解性プラスチック」は「嫌気処理槽及び/又は好気処理槽に微生物が摂取できる有機炭素源として存在」するものであり、また「固定床又は流動床の状態に形成させ、排水から有機物及び窒素を除去するようにしたもの」であることが記載されている。そして、該生分解性プラスチックについて、記載事項(A-2)によれば、「微生物による分解型と崩壊型(部分分解型)」とがあり、前記分解型には、「澱粉、変性澱粉、セルロース、セルロース誘導体などの天然高分子系、微生物合成系、化学合成系」が挙げられ、前記崩壊型には「ポリエチレンやポリプロピレン等に澱粉を加えたもの」が記載されているといえる。また、生分解性プラスチックは、記載事項(A-3)によれば、「フィルム状、シート状、球状、網様球状、円柱状、円筒状、網様円筒状、不定形状、多孔質体等に加工されたもの」として用いられることが記載されて、記載事項(A-4)によれば、「運転経過とともに徐々に減少していくもの」であることが記載されているといえる。
よって、刊行物1には、
「嫌気処理槽及び/又は好気処理槽に微生物が摂取できる有機炭素源として存在するものであり、固定床又は流動床の状態に形成させ、排水から有機物及び窒素を除去するようにした生分解性プラスチックにおいて、該生分解性プラスチックは、澱粉、変性澱粉、セルロース、セルロース誘導体などの天然高分子系、微生物合成系、化学合成系の微生物による分解型又は、ポリエチレンやポリプロピレン等に澱粉を加えた微生物による崩壊型(部分分解型)であり、フィルム状、シート状、球状、網様球状、円柱状、円筒状、網様円筒状、不定形状、多孔質体等に加工され、運転経過とともに徐々に減少していくものである生分解性プラスチック」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。

5.対比・判断
そこで、本願発明1と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「生分解性プラスチック」は、「固定床又は流動床の状態に形成させ」たものであり、「フィルム状、シート状、球状、網様球状、円柱状、円筒状、網様円筒状、不定形状、多孔質体等に加工され」ていることから、本願発明1の「固形材」に相当するといえる。そして、刊行物1発明の「生分解性プラスチック」は、「嫌気処理槽及び/又は好気処理槽に微生物が摂取できる有機炭素源として存在するもの」であり、それにより「排水から有機物及び窒素を除去する」ものであるから、本願発明1の「微生物を利用して水質浄化を行う」ものに相当することは明らかである。
よって、両者は、
「微生物を利用して水質浄化を行う際に用いる水質浄化用固形材」の発明である点で一致し、以下の点で一応相違する。

【相違点1】本願発明1の水質浄化用固形材は、「澱粉を主成分として含む天然原料のみから」なるのに対して、刊行物1発明の生分解性プラスチックは、「澱粉、変性澱粉、セルロース、セルロース誘導体などの天然高分子系、微生物合成系、化学合成系の微生物による分解型又は、ポリエチレンやポリプロピレン等に澱粉を加えた微生物による崩壊型(部分分解型)」である点。

【相違点2】本願発明1の水質浄化用固形材は、「該天然原料を、該天然原料そのものよりも水に対する溶解性が低くなるように加工してなる」ものであるのに対して、刊行物1発明の生分解性プラスチックは、「フィルム状、シート状、球状、網様球状、円柱状、円筒状、網様円筒状、不定形状、多孔質体等に加工され、運転経過とともに徐々に減少していくもの」である点。

【相違点1】について
刊行物1発明の生分解性プラスチックは、「澱粉、変性澱粉、セルロース、セルロース誘導体などの天然高分子系、微生物合成系、化学合成系の微生物による分解型又は、ポリエチレンやポリプロピレン等に澱粉を加えた微生物による崩壊型(部分分解型)」であり、このうち天然高分子系として「澱粉」が例示されることから、「澱粉からなる」生分解性プラスチックを含むものといえる。
してみると、刊行物1発明の「澱粉、変性澱粉、セルロース、セルロース誘導体などの天然高分子系、微生物合成系、化学合成系の微生物による分解型又は、ポリエチレンやポリプロピレン等に澱粉を加えた微生物による崩壊型(部分分解型)」の生分解性プラスチックのうち、「澱粉からなる」生分解性プラスチックは、本願発明1の「澱粉を主成分として含む天然原料のみから」なる水質浄化用固形材に相当するといえる。
したがって、相違点1は、実質的な差異ではない。

また、仮に、刊行物1発明の生分解性プラスチックのうち、「澱粉からなる生分解性プラスチック」を選択することに困難性を有し、選択したことによる格別な効果を奏するものであるとの主張があるとしても、生分解性プラスチックとして知られているものから、どのような素材のものを選択するかは、処理対象水の性状、処理効率や操作性、目標とする除去率等とともに、その素材自体の入手容易性、製造の容易性、取り扱いの簡便性等を総合的に勘案して、当業者が決定するものである。してみると、刊行物1発明の生分解性プラスチックのうち、「澱粉からなる」生分解性プラスチックを選択することに格別な困難性を有するとはいえない。さらに、効果について検討すると、確かに、本願明細書の実施例2において、対照区3(有機炭素材:PHB)と比較して、試験区2(有機炭素源:米澱粉加工品)、試験区3(有機炭素源:葛澱粉加工品)のNO_(3)、THの値は同レベルか、それ以上であるともみられるが、窒素除去の処理効率は、処理対象水の処理前の窒素濃度や、処理水量に対する炭素量等により変動する可能性が高く、この実験結果のみから直ちに、「澱粉を主成分として含む天然原料のみから」なる生分解性プラスチックを採用することにより、どのような条件においても、合成系の生分解性プラスチックを採用するよりも格別な効果を奏するとはいえない。

また、請求人は平成18年3月30日付け審判請求書において、(a)「一般的に「プラスチック」とは、化学的に合成された高分子化合物を成形加工したものを指す用語であって、天然の高分子化合物そのもの、もしくはその混合物に対して用いる用語として適切でないことは明らかであり、そうとすると、当該文献2の「生分解性プラスチック」が、澱粉のみからなるもの、または澱粉を主成分として含む天然原料のみからなるものであると解釈することには無理があると思料致します。」(第5頁第1行?第6行)、(b)「本願発明の水質浄化用固形材は、前述のとおり、澱粉を主成分として含む天然原料のみからなるものであるにもかかわらず、従来品と同等以上の水質浄化機能を奏し、なおかつ、従来品よりもコストが低く、容易に製造することができ、また、炭素源の供給や交換の手間を減らすことができるという種々の優れた効果を奏するものであります。」(第6頁第10行?第14行)と主張している。
そこで、上記主張について検討する。
まず、主張(a)についてみてみると、文献2(本審決の刊行物1に相当)の記載事項(A-2)によれば、「生分解性プラスチック」には、「澱粉、変性澱粉などの天然高分子系の微生物分解型」が含まれることは明らかであり、さらに、一般的な観点から「プラスチック」についてみてみると、「有機高分子物質の中の天然樹脂および合成樹脂をプラスチックというが、普通プラスチックといえば合成樹脂をさすことが多い.」(化学大辞典7縮刷版、共立出版株式会社、1997年9月20日、p.943の「プラスチック」の項参照)と定義されており、「プラスチック」という用語は、通常使用される狭義の意味において「化学的に合成された高分子化合物を成形加工したもの」を指すとしても、「有機高分子物質の中の天然樹脂」も含まれる場合があるから、用語として適切でないとはいえない。
してみると、上記主張(a)は採用できない。
次に、主張(b)についてみてみると、上記効果は、炭素源が「澱粉を主成分とする天然材料」であることに起因するものといえ、該「澱粉を主成分とする天然材料」は、刊行物1発明に記載されている以上、上記効果も自ずと奏されるものといえることから、上記主張(b)も採用することはできない。

【相違点2】について
本願発明の「該天然原料を、該天然原料そのものよりも水に対する溶解性が低くなるように加工してなること」については、本願明細書に「上記具体例として挙げたような天然原料は、そのままでは水中に容易に溶解し、水が白濁してしまうため、これを防ぐ加工を施す必要がある。本発明ではこの加工を特別な装置や条件を用いず、できるだけ容易にすることが低コスト加のために重要である。どのような加工を行うかは、使用する天然原料、試用期間、コストなどを考慮に入れて適宜実験を行い、決定すべき事項であり、特に限定されないが、基本的には、加工前の天然原料そのものと比較して水に対する溶解性を低下させ、なおかつ本発明の固形材が所望期間以上にわたり徐々に水中で分解するような加工であればよい。より具体的には、1種または2種以上の天然原料について、自然乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥(フリーズドライ)などの乾燥処理、混練、粉砕、加熱、冷却またはこれらの組み合わせなどの基本的な加工を行い、その溶解性を低下させる。なお、本発明において、「溶解性」とは、天然原料そのもの、もしくは本発明の固形材の所定量を水中に投入、所定期間(2日?1週間)放置した場合の水の白濁程度をいい、本発明の固形材においては、その程度が天然原料そのものよりも薄く、かつ透明に近いことが望ましい。」(段落【0027】)と記載されている。してみると、上記加工とは「天然原料について、自然乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥(フリーズドライ)などの乾燥処理、混練、粉砕、加熱、冷却またはこれらの組み合わせなどの基本的な加工を行い、その溶解性を低下させる」ことであり、その技術的意義は「容易に水中で溶解せず、水を白濁させないようにすること」であるといえる。

一方、刊行物1発明の生分解性プラスチックは、前記「【相違点】1について」で検討したとおり、「澱粉からなる」生分解性プラスチックを含むものであり、天然原料である「澱粉」を、「フィルム状、シート状、球状、網様球状、円柱状、円筒状、網様円筒状、不定形状、多孔質体等に加工」し、「運転経過とともに徐々に減少していくもの」とすることは、原料である澱粉について、上記特定の形状にするために、粉砕、混練、成形、加熱、冷却、乾燥やこれらの組み組み合わせ等からなる一般的な加工手段を採用することが常套手段であり、そして、上記加工したものは「水中で徐々に減少していく」こと、つまり「徐々に減少し、容易に溶解しない」ものであるといえる。そして、原料である澱粉を加工せずにそのまま水中に投入すれば、容易に溶解してしまうことは自明であることを参酌すれば、刊行物1発明の「加工」し、「運転経過とともに徐々に減少していくもの」とすることは、本願発明1の「天然原料そのものよりも水に対する溶解性が低くなるように加工」することに相当するといえる。
したがって、相違点2も、実質的な差異ではない。

また、仮に、刊行物1発明の「加工」が本願発明1の「天然原料そのものよりも水に対する溶解性が低くなるように加工」とまではいえないとしても、水処理技術において、安定的な嫌気性処理のために、被処理水中に炭素源を適量存在させることは周知の事項であり、その炭素源を固形の炭素源として被処理水中に浸漬させる場合には、固形の炭素源を徐々に崩壊させること、そのために原料に対し乾燥等の加工処理を施すことは一般的な技術である。
してみると、刊行物1発明において、「澱粉からなる」生分解性プラスチックを、「加工し、運転経過とともに徐々に減少していくもの」とする際に、「乾燥させること」、つまり「該天然原料を、該天然原料そのものよりも水に対する溶解性が低くなるように加工してなること」を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1に記載された発明であるか、又は刊行物1に記載された発明および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をできたものであるから、特許法第29条第1項第3項に該当するか、又は同条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する
 
審理終結日 2008-08-27 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-16 
出願番号 特願2004-211857(P2004-211857)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C02F)
P 1 8・ 121- WZ (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 紀史増田 亮子  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 中村 敬子
斉藤 信人
発明の名称 多糖類を主成分として含む天然原料から形成された水質浄化用固形材およびこれを用いた水質浄化方法  
代理人 三好 秀和  

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