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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1187003
審判番号 不服2006-14335  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-06 
確定日 2008-10-30 
事件の表示 特願2001-128779「磁性トナー、画像形成方法及びプロセスカートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月 8日出願公開、特開2002-323789〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本件発明
本願は、平成13年4月26日の出願であって、平成18年6月1日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年7月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
本願の発明は、平成18年2月13日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし33に記載されたものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「記録媒体上に画像を形成する画像形成方法に用いられる磁性トナーにおいて、
前記画像形成方法が、画像形成装置本体に着脱可能で、静電容量の変化により逐次にトナー残量を検知できるトナー残量逐次検出手段を備えたプロセスカートリッジを用いる画像形成方法であり、
前記磁性トナーは少なくとも結着樹脂、磁性体を含有しており、
前記磁性トナーはメタノール/水混合溶媒に対する濡れ性を780nmの波長光の透過率で測定した場合、透過率が80%の時のメタノール濃度が65?80体積%の範囲内であり、また、透過率が10%の時のメタノール濃度が65?80体積%の範囲内であることを特徴とする磁性トナー。」

2.引用された刊行物記載の発明
(刊行物1について)
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-61627号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与。)
ア.「(実施例)
以下に本発明を実施例について述べる。
本発明のトナー球形化法に用いられるトナーは,結着樹脂および着色剤を主成分とする。結着樹脂としては,通常この分野で使用される樹脂が全て適用できる。例えば,スチレン・アクリル系樹脂,ポリエステル系樹脂などである。着色剤としては,カーボンブランクなどの黒色顔料の他,有色顔料も使用しうる。さらに,磁性体を顔料として使用でき,例えば,マグネタイト,ガンマヘマタイト,ニッケルフェライトなどが用いられる。トナーには,さらに,上記必須成分以外に種々の助剤が必要に応じて配合される。例えば,ニグロシンベースなどの電荷制御剤,シリコンオイル,低分子量ポリプロピレンあるいは,各種ワックスなどの離型剤である。
上記各成分を所定の割合で混合し,これを例えば,三本熱ロールミルあるいは二軸押出機などで溶融混練する。得られた混練物は常温にて冷却される。これらは,次いで,カッティングミルあるいはハンマーミルなどで平均粒径が約3mm以下の粒子に粗粉砕される。この粗粉砕されたトナー組成物は,例えば,第1図に示す球形化装置1により本発明方法に従って微粉砕されると同時に球形化され,所望のトナーが得られる。
球形化装置1は,円筒状のケーシング11と,このケーシング11内にケーシング軸と同軸に配置されたローター12とを備えている。」(第2頁右下欄第4行?第3頁左上欄第11行)
イ.「 上記球形化装置1に投入されたトナー組成物の粗粉砕物2は次のようにして連続的に微粉砕され,同時に球形化される。平均粒径が約3mm以下の粗粉砕物2を流入空気3と共に連続的に投入口111から適当な速度で投入する。流入空気3の温度は,微粉砕領域13内の雰囲気温度が粗粉砕されたトナー組成物2の結着樹脂のガラス転移温度付近になるようあらかじめ設定される。・・・(中略)・・・・この微粉砕領域13内の粗粉砕物2は空気の超高速過流および圧力振動によって瞬間的に微粉砕される。微粉砕領域13内には常時投入口111より温度の制御された流入空気3が供給されているため,微粉砕時の摩擦熱の発生にもかかわらず急激な温度上昇が抑制されトナー結着樹脂のガラス転移温度付近に維持される。」(第3頁右上欄第4行?右下欄第2行)
ウ.「本実施例の具体例を以下に述べる。
まず,スチレン・アクリル樹脂(ガラス転移温度Tg;66℃)50重量部,マグネタイト(粒径0.3μm?0.9μm ;嵩比重0.46g/ml)50重量部,低分子量ポリプロピレン2重量部およびステアリン酸カルシウム0.5重量部をヘンシェルミキサーで前混合した。これをさらに二軸押出機で150℃にて溶融混練し,そして放冷した。この混練品をカッティングミルで平均粒径が約3mm以下になるように粗粉砕した。この粗粉砕物2を以下に示す5通りの微粉砕条件にて微粉砕を行った。
・・・(中略)・・・・
実施例1
流入空気3の温度を15℃に冷却すること以外はすべて比較例1と同様の微粉砕条件で微粉砕を行った。微粉砕領域13内の雰囲気温度は65℃であった。得られた微粉砕トナーを平均粒径が12μmかつ粒度分布が一定になるように分級した。」(第3頁右上欄第4行?右下欄第2行】)

上記の事項をまとめると、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、「刊行物1発明」という。)
「結着樹脂と、磁性体とを含有する電子写真用の磁性トナーであって、微粉砕領域内の雰囲気温度が該結着樹脂のガラス転移温度付近になるようあらかじめ設定された球形化装置によって、トナー組成物の粗粉砕物が微粉砕される同時に、球形化された、磁性トナー。」

(刊行物2について)
また、原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-338765号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与。)
エ.「【発明の属する技術分野】本発明は、一般には、電子写真方式により像担持体に静電潜像を形成し、この静電潜像を現像装置に収容した現像剤にて顕像化する電子写真画像形成装置に関し、特に、現像剤収容部に収容した現像剤の残量を逐次検知することのできる現像剤量検出手段を備えた電子写真画像形成装置、更には、プロセスカートリッジ及び現像装置に関するものである。」(段落【0001】)
オ.「【従来の技術】従来、電子写真画像形成プロセスを用いた画像形成装置において、電子写真感光体及び電子写真感光体に作用するプロセス手段を一体的にカートリッジ化して、このカートリッジを電子写真画像形成装置本体に着脱可能とするプロセスカートリッジ方式が採用されている。このプロセスカートリッジ方式によれば、装置のメンテナンスをサービスマンによらずにユーザー自身で行うことができるので、格段に操作性を向上させることができる。そこでこのプロセスカートリッジ方式は、電子写真画像形成装置において広く用いられている。
このようなプロセスカートリッジ方式の電子写真画像形成装置ではユーザー自身がカートリッジを交換しなければならないため、現像剤が消費された場合にユーザーに報知する手段、即ち、現像剤量検出装置が必要となる。」(段落【0004】?【0005】)

してみると、刊行物2には、以下の事項が開示されていると認められる。(以下、「刊行物2発明」という。)
「電子写真画像形成装置において、装置本体に着脱可能であり、現像剤収容部に収容した現像剤の残量を逐次検知することのできる現像剤量検出手段を備えプロセスカートリッジを用いること。」

3.対比
本願発明と刊行物1発明と対比すると、
まず、刊行物1発明における「結着樹脂と、磁性体とを含有する電子写真用の磁性トナー」は、本願発明における「記録媒体上に画像を形成する画像形成方法に用いられる磁性トナー」及び「前記磁性トナーは少なくとも結着樹脂、磁性体を含有しており」に相当する。
したがって、本願発明と刊行物1発明とは、
「記録媒体上に画像を形成する画像形成方法に用いられる磁性トナーにおいて、前記磁性トナーは少なくとも結着樹脂、磁性体を含有している、磁性トナー。」
の点で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:磁性トナーのメタノール/水混合溶媒に対する濡れ性に関して、本願発明においては、「メタノール/水混合溶媒に対する濡れ性を780nmの波長光の透過率で測定した場合、透過率が80%の時のメタノール濃度が65?80体積%の範囲内であり、また、透過率が10%の時のメタノール濃度が65?80体積%の範囲内である」のに対して、刊行物1発明においては、球形化装置によって球形化されているが、濡れ性についての特定がない点。

相違点2:画像形成方法に関して、本願発明は、「画像形成装置本体に着脱可能で、静電容量の変化により逐次にトナー残量を検知できるトナー残量逐次検出手段を備えたプロセスカートリッジを用いる画像形成方法」のに対して、刊行物1発明は、そのような特定がない点。

4.当審の判断
上記相違点について、検討する。
(相違点1について)
メタノール/水混合溶媒に対する濡れ性に関して、本願明細書を参照すると、以下の記載がある。(下線は、当審にて付与。)
「上記の濡れ性を達成する製造法としての一つとして、本発明においては、図2、図3及び図4に示したような機械式粉砕機を用いることが、粉体原料の粉砕処理及び表面処理を行うことができるので効率向上が図られ、好ましい。この粉砕機において、粉砕時の温度を調整し、且つ機械式粉砕機の回転子及び/又は固定子に、耐磨耗性を有するめっきでコーティングした部材を用いることで、トナーの表面状態を制御できる。
以下、図2、図3及び図4に示した機械式粉砕機について説明する。図2は、本発明において使用される機械式粉砕機の一例の概略断面図を示しており、図3は図2におけるD-D’面での概略的断面図を示しており、図4は図2に示す回転子314の斜視図を示している。該装置は、図2に示されているように、ケーシング313、ジャケット316、ディストリビュータ220、ケーシング313内にあって中心回転軸312に取り付けられた回転体からなる高速回転する表面に多数の溝が設けられている回転子314、回転子314の外周に一定間隔を保持して配置されている表面に多数の溝が設けられている固定子310、更に、被処理原料を導入するための原料投入口311、処理後の粉体を排出するための原料排出口302とから構成されている。
通常、粉砕原料を機械式粉砕機で粉砕する際には機械式粉砕機の渦巻室212の温度T1や後室320の温度T2の温度を制御し、樹脂のTg以下で粉砕を行い、表面改質を行わない方法を選択している。しかし、本発明の特徴とする性質のトナーを得るために、302排出口の温度をTgから-25?-5℃に設定し、実際の粉砕状態ではTgの-20?±0℃の温度にして、粉砕後トナー表面が平滑になるように粉砕を行う。それにより、トナー表面での原材料の存在分布が均一となりやすく、本発明の特徴とする平滑な表面性をトナーに付与することができる。」(段落【0022】?【0024】)
さらに、本願明細書の実施例を参照すると、以下の記載がある。(下線は、当審にて付与。)
「 【実施例】
以下、具体的実施例によって本発明を説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
[トナー1の調製]
・スチレン-n-ブチルアクリレート共重合体(Tg60℃)100質量部
・磁性酸化鉄(粒径0.20μm) 100質量部
・モノアゾ鉄錯体2質量部
・パラフィンワックス(DSC吸熱ピーク76℃) 4質量部
上記混合物をヘンシェルミキサーで前混合した後、110℃に加熱された2軸エクストルーダで溶融混練し、冷却した混練物をハンマーミルで粗粉砕してトナー粗粉砕物を得た。得られた粗粉砕物を、ターボミル(ターボ工業社製;回転子および固定子の表面に炭化クロムを含有したクロム合金めっきでコーティング(めっき厚150μm、表面硬さHV1050))を用いて、表2の条件表に基づき、エアー温度を調整して機械式粉砕させて微粉砕し、得られた微粉砕物をコアンダ効果を利用した多分割分級装置(日鉄鉱業社製エルボジェット分級機)で微粉、超微粉及び粗粉を同時に厳密に分級除去して、重量平均粒径(D4)6.7μmの負帯電性トナー粒子を得た。更に、分級において発生した微粉、超微粉及び粗紛を、ローラーコンパクター(ターボ工業社製)にて造粒して、前記原材料全体の20質量%を前記原材料に添加し、前記製造方法と同様の方法によって重量平均粒径(D4)6.7μmの負荷電性トナー粒子を得た。
このトナー粒子100質量部と、ジメチルジクロロシラン処理した後、ヘキサメチルジシラザン処理し、次いでジメチルシリコーンオイル処理を行った疎水性シリカ微粉体1.2質量部とを、ヘンシェルミキサーで混合して負帯電性トナー1を調製した。トナー1の、780nmの波長光の透過率に対するメタノール濃度のグラフを図1に示す。」(段落【0182】?【0184】)
ここで、上記本願の実施例に係るトナーの調製(前者)と、刊行物1発明に係るトナーの調製(後者、摘記事項イ.ウ.参照)とを対比する。
前者の「スチレン-n-ブチルアクリレート共重合体(Tg60℃)100質量部」、「磁性酸化鉄(粒径0.20μm)100質量部」、「実際の粉砕状態ではTgの-20?±0℃の温度にして、粉砕後トナー表面が平滑になるように粉砕を行う」は、それぞれ、後者の「スチレン・アクリル樹脂(ガラス転移温度Tg;66℃)50重量部」、「マグネタイト(粒径0.3μm?0.9μm ;嵩比重0.46g/ml)50重量部」、「微粉砕領域内の雰囲気温度が該結着樹脂のガラス転移温度付近になるようあらかじめ設定された」に対応しており、トナー粒子の組成及び微粉砕方法に大差はないが、前者が、分級後に、疎水性シリカ微粉体と混合している点で相違する。
したがって、両者の「トナー粒子」の表面状態に差異はないから、最終的な「トナー」の濡れ性に差異があるとすれば、「トナー粒子」の表面に外添付着した疎水性シリカ微粉体によるものと解される。
そして、前者のように、ヘキサメチルジシラザンやジメチルシリコーンオイルで疎水化処理を行った疎水性シリカ微粉体を、トナー粒子100質量部に対して、1.2質量部程度外添することは、通常行われている程度の外添処理に過ぎない。(必要ならば、特開平11-72966号公報,段落【0220】、特開平11-218962号公報,段落【0074】参照。)
ところで、刊行物1発明に係る「トナー」の濡れ性に関して、請求人は、審判請求の理由において、「本願の発明者らが、引用文献1(刊行物1)の実施例に記載のトナーについて検討したところ、トナーのメタノール/水混合溶媒に対する濡れ性の測定において透過率が80%の時のメタノール濃度は53%程度でありました。」と主張している。
しかしながら、該濡れ性の差異は、上記検討のとおり、分級後に、疎水性シリカ微粉体と混合したことによるものと考えられるので、本願発明に係るトナーの濡れ性は、通常の外添処理を行い、最終製品としてのトナーを作成した際に達成できる程度のものである。
したがって、刊行物1発明に係る「トナー」に疎水性シリカ微粉体を外添し、「メタノール/水混合溶媒に対する濡れ性を780nmの波長光の透過率で測定した場合、透過率が80%の時のメタノール濃度が65?80体積%の範囲内であり、また、透過率が10%の時のメタノール濃度が65?80体積%の範囲内である」ような濡れ性とすることは、当業者が容易に為し得たことである。
(相違点2について)
次に、相違点2に関しては、刊行物2にも示されるように、「静電容量の変化により逐次にトナー残量を検知できるトナー残量逐次検出手段を備えたプロセスカートリッジを用いる画像形成方法(装置)」は、よく知られているから、磁性トナーを「トナー残量逐次検出手段を備えたプロセスカートリッジ」に適用する程度のことは、当業者が適宜為し得る設計的事項に過ぎない。
そして、上記相違点1及び2によって本願発明が奏する効果も、当業者が予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。
よって、相違点に係る構成の変更は、当業者が容易に為し得たものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は刊行物1及び2に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-27 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-17 
出願番号 特願2001-128779(P2001-128779)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 磯貝 香苗  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 伏見 隆夫
淺野 美奈
発明の名称 磁性トナー、画像形成方法及びプロセスカートリッジ  
代理人 渡辺 敬介  

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