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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800209 審決 特許
無効200580281 審決 特許
無効2007800105 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A22C
管理番号 1187137
審判番号 無効2005-80321  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-11-07 
確定日 2008-10-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第3640646号「白さばふぐ或いは黒さばふぐの加工方法」の特許無効審判事件についてされた平成18年11月8日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成18年(行ケ)第10539号 平成19年7月20日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3640646号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許出願:平成14年4月11日
2.特許権設定の登録:平成17年1月28日
3.下関唐戸魚市場株式会社(以下「請求人」という。)による本件特許無 効審判の請求:平成17年11月7日
4.請求人による口頭審理陳述要領書(1)の提出:平成18年1月16日
5.第1回口頭審理の実施:平成18年2月17日
なお、当日、被請求人である諧 寿三(以下「被請求人」という。) により口頭審理陳述要領書(1)が、請求人により口頭審理陳述要領書 (2)及び証人に対する尋問事項書が提出され、証人尋問が行われた後、 請求人に対して、合議体より審尋が告知された。
6.請求人による平成18年3月10日付け回答書の提出
:同年3月17日受付
7.被請求人に対する答弁指令:平成18年3月23日(同年3月28日発 送)
8.被請求人による平成18年5月29日付け答弁書の提出
:同年5月31日受付
9.第2回口頭審理の実施:平成18年10月20日
なお、当日、請求人により口頭審理陳述要領書(3)が、そして、被 請求人により口頭審理陳述要領書(2)が提出された。
10.「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする 。」との審決:平成18年11月8日
11.請求人による審決取消訴訟(平成18年(行ヶ)第10539号)の 提起:平成18年12月14日
12.上記審決取消訴訟についての判決言渡:平成19年7月20日
なお、被請求人により上告提起がなされたが、棄却され、上記判決は 確定した。

第2 請求人の主張
本件において、請求人が主張する無効の理由は、概略、次のとおりのものである。
1.明細書の記載不備
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載では、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に発明が記載されず、しかも、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載されたものとすることができない。
本件特許の請求項1に係る発明は、明細書の記載が特許法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

2.新規性進歩性
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願日前に被請求人によって公然実施された発明、第三者により公然実施された発明又は公然知られた発明と同一であり、あるいはこれらの発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第1号、第2号あるいは同条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
[証拠方法]
・甲第1号証:
特願2000-354678号に係る「平成13年11月20日提出の 早期審査に関する事情説明書」
・甲第2号証の1:
「船積書類送付書 FIRST MAIL」と表題される紙葉
・甲第2号証の2:
中国語漢字の下に「NINGBO QIULONG AQUATIC PRODUCTS CO.,LTD」と記載される紙葉
・甲第2号証の3:
「Shipper NINGBO QIULONG AQUATIC PRODUCTS CO., LTD」、「Consignee or order TO ORDER OF THE YAMAGUTI
BANK,LTD」、「Notify address SHIMONO SEKI KANOU SHOJI CO.,LTD.」と記載される紙 葉
・甲第2号証の4:
「PACKINGLIST」と記載される紙葉
・甲第2号証の5:
「輸入フグ鑑別結果書」と記載される紙葉
・甲第2号証の6:
中国語漢字の下に「ENTRY-EXIT INSPECTION
AND QUARANTINE OF THE PEOPLE’S
REPUBLIC OF CHINA」と記載される紙葉
・甲第2号証の7:
「輸入許可通知書」と記載される紙葉3枚
・甲第3号証の1:
「TO 株式会社松岡 馬嶋実先生 Date 23/7/2001」と 記載される紙葉
・甲第3号証の2:
「出願控 出願番号 特願2000-354678号」と記載される書類 (14頁)
・甲第3号証の3:
「受領書」と記載される紙葉 ・証人1:
有限会社下関カノウ商事社長 加納政二
・証人2:
株式会社松岡社員 馬嶋 実
・甲第4号証:
特開2002-153204号公報(先願である特願2000-354 678号の公開公報)
・甲第5号証:
写真(本件特許発明が実施された白さばふぐの外観写真)
・甲第6号証:
特願2000-354678号の明細書に記載される発明を説明するた めの写真

なお、甲第1号証ないし甲第3号証の2及び証人1、2は、無効審判請求書において、甲第4号証は、平成18年1月16日付けの口頭審理陳述要領書(1)において、そして甲第5号証、甲第6号証は、平成18年2月17日付けの口頭審理陳述要領書(2)において提出されたものである。

第3 被請求人の主張
1.明細書の記載不備に対して
本件特許明細書の【0002】に、「無毒であるか否かの見分け方は、体背面の小さなとげの位置で見分ける。小さなとげが、背鰭3の終点から尾鰭7の起点の間、体背面後部6に無いのが無毒、他方、背鰭3の終点から尾鰭7の起点の間、体背面後部6に在るのが有毒種とされている。」と記載しており、第1?3工程を経て第4工程で外形を復元されたふぐの外形より、小さなとげの有無は明らかであり、当業者であれば、白さばふぐあるいは黒さばふぐを、有毒なふぐから区別することは可能である。
「首部」とは、頭部と胴部をつなぐ部位であり、乙第3号証(平成18年5月29日付けの答弁書に添付された、厚生省生活衛生局乳肉衛生課編「改訂 日本近海産フグ類の鑑別と毒性」(平成6年5月1日 改訂版発行)中央法規出版株式会社)にふぐの骨格が示されているように、白さばふぐ、黒さばふぐの「頭部」と「胴部」は、骨格上その部位が定まるものであり、さらに、本件特許明細書に添付された図3に「首部」を切断した様子が図示されている。
また、 乙第5号証(平成18年10月20日付けの口頭審理陳述要領書(2)に添付した、写真及び説明書)をみれば、特許請求の範囲に「剥した際に、腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓を、取り除く第3工程」と記載することに何らの不備はない。

2.進歩性に対して
(1)特許権者(被請求人)により公然実施された発明に基づく主張
先願に関して、事情説明書に、「平成12年11月に特許出願を行い、その後は本発明の方法に基づきふぐの加工を実際に続行していた」と記載した実施は、被請求人が代表者を務める栄水貿易株式会社が中国所在の特定加工工場に委託して加工を行わせ、これをコンテナの中に入れて日本に輸入し冷凍保管、そして、日本の特定工場に入荷させ、工場内においてふぐの皮を全て剥がす作業を行っていたことを指すものである。
これは、中国の工場で加工されてから、日本の工場で皮が全て剥がされるまでの間、ふぐが第三者の目に触れることはない状態で実施したものであり、秘密状態を維持しながらの実施であって、公然実施ではない。
また、代理人が早期審査事情説明書に「最近に至り本発明と同じ加工方法を真似た製品が各所に出回りはじめてその模倣業者の数は漸次増加の一途を辿っている。」と記載したが、同記載は、被請求人の意志に基づくものではなく、代理人が作文したものであり、他社の加工方法を知ることはできないので、本件特許に係る加工方法を第3者(「模倣業者」)が実施していた事実を被請求人は、一切把握していない。

(2)第三者により公然実施された発明に基づく主張に対して
甲第2号証の1?7から判断すると、2002年2月頃に、「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」が、中国の会社「NINGBO QIULONG AQUATIC PRODUCTS CO.,LTD」から有限会社下関カノウ商事に輸出されたことが認められるものの、この「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」が如何なるものであるかについて、所謂セミドレスも「gutted」と記載するので、その加工方法を特定することはできない。
また、証人加納政二氏は、「GUTTEDはいわゆる内臓、はらわたですから、これを除去したもの。頭から包丁を入れて背びれまで皮を剥いた、そして内臓を除去してまた元の位置に戻して冷凍したという品物です」と証言しているものの、不自然であり、さらに、所謂セミドレスについても「GUTTED」と呼ばれることを知っていたかのような証言もあり、証人の証言の信憑性は低いといわざるを得ない。
なお、仮に、証人加納政二氏が本件特許発明又はこれに近い方法を、本件特許の出願前から何らかの方法で知り、実施していたと仮定しても、それ自体で公知又は公用となるわけではなく、しかも、この点に関して、証人は、本件発明のような加工方法の優位性を認めており、優位性を有する技術を不特定の人に知られ得る状態で実施するとは、通常考えがたい。
仮に、この甲第2号証の1?7の証拠に示すように、有限会社下関カノウ商事が輸入した「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」が、例え、公知となったとしても、公知となったものは、
A.頭部の直後に背側から腹側にかけて切れ目が入り、
B.頭部の直後から背鰭までの背側の皮が縮んでおり、
C.頭部に比べて胴部が一段落ち込んでいる
D.白さばふぐ。
でしかなく、本件発明の方法を容易に想起できるものではない。

なお、被請求人は、上記主張を立証するため、下記乙第1号証ないし乙第4号証を提出している。

乙第1号証:
平成17年4月19日付けの「特許取得の件」と表題される紙葉
乙第2号証:
平成17年5月20日付けの「通知書」と表題される紙葉
(証人加納政二及び証人馬嶋実は、本件無効審判請求にあたり、請求人と 協議を行い、請求に同意した同意業者の代表者及び社員である旨事情を述 べるもの。)
乙第4号証:
「スペースアルク:英辞郎検索結果」と左上に記載される紙葉
(「Gutted」の意味を立証するため。)

(3)公然知られた発明に基づく主張に対して
甲第3号証の1?3は、甲第3号証の1のカバーレターの部分に、「極秘にお願いします」という趣旨の記載があり、しかも証人馬嶋実氏は、このファックスをそのまま加納政二氏にのみ送ったと証言している。
加納政二氏も、馬嶋実氏もフグの輸入を取り扱っているプロであり、プロ同志では秘密保持が守られている。
しかも、甲第3号証の1には、「極秘にお願いします」とも記載されているので、特願2000-354678号の出願書類の内容を知ったとしても、これを不特定の者に口外することは通常あり得ない。
また、証人馬嶋実氏がふぐの取引のカバーレターで、そのファックス自体を秘密にすることは、通常ない旨証言しており、それに反して「極秘」とされるこのファックスは、香港であっても秘密扱いにされていたことが理解できる。

なお、甲第3号証の2は、平成12年11月21日に出願した特許出願の図面を用いて、中国の加工業者に説明するため、中国の特定の会社に渡したものであり、これはフグの処理方法を正確に知らせるためのものである。
甲第3号証の1に示すように、これらの書類は「極秘」となっており、中国でも秘密を保持されていることがわかる。

第4 当審の判断
1.本件特許の請求項1に係る発明
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1には、次のとおり記載されている。
「白さばふぐ或いは黒さばふぐを、有毒なふぐから区別できるふぐの加工方法であって、ふぐの頭部を首部で、腹側の皮を残す形で、胴体から切り離す第1工程と、切り離した際残した腹側の皮と、背側の皮を同時に剥がす工程を、背鰭の起部の位置で完了する第2工程と、剥した際に、腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓を、取り除く第3工程と、背鰭の起部の位置で剥がし工程を完了した皮を、元の位置に戻して再び被覆、外形復元する第4工程とから成り、より完全に近い形で内臓を摘出後、外観を復元することを特徴とする白さばふぐ或いは黒さばふぐの加工方法。」

2.先願に係る発明についての公知性について
(1)甲第3号証の1ないし3について
甲第3号証の1は、香港所在の百利貿易公司の代表者が、平成13年(2001年)7月23日午後11時5分頃、山口県下関市所在の株式会社松岡の社員に宛ててファックスを送信した際の頭書(カバーレター)であり、次のように記載されている。
「拝啓、毎度御引立に預り厚く御礼申し上げます。小生今夜廈門より帰港しました。
白サバフグの件
他社が内蔵除外の輸入申請書コピー(13枚)参考にFAXします故、極秘に御願いします。該社より内蔵・中骨除外も要望ありましたが・・・としては是非貴社に御願いしたく宜敷しく御願いします。尚本日廈門より内蔵・中骨除外の写真もE-mailするとの事です。 先日契約して頂きました黒サバフグは26/7出航の・・・に積みますが其際下記見本を積むべく手配中です。
1)白サバフグ内蔵除外。(他社は別紙本願控で認可得ました)
2) 〃内蔵中骨除外
3)黒サバフグ内蔵除外(400-500g)
取急ぎ御連絡迄」

この頭書に添付された13枚の書類(「輸入申請書」と表現されているもの)のコピーとは、甲第3号証の1、甲第3号証の2(右上に「P.12」と表示された頁の次頁を除く)及び甲第3号証の3のファックス最上段に記載された、送信時間、送信頁数等からみて、被請求人が、平成12年11月21日に、発明の名称を「白さばふぐ或いは黒さばふぐの加工方法」として特許出願した特願2000-354678号(以下「先願」という)に用いられた出願控、特許願、明細書、図面、要約書(以下「先願明細書等」という。)及び受領書(甲第3号証の3)であったということができる。
甲第3号証の2のファックスのうち、右上に「P.12」と表示された頁の次頁、及び右上に「P.13」、「P.14」と表示された頁には、上記先願の要約書が添付されており、その1枚に、被請求人が代表者を務める栄水貿易株式会社から何者かに送信されたファックスの送信歴の記載( From:栄水貿易(株) 0832 「66 6882」以下不詳)がある。

(2)甲第2号証について
甲第2号証によれば、有限会社下関カノウ商事は、平成14年2月に、中華人民共和国の「NINGBO QIULONG AQUATIC PRODUCTS CO., LTD」より、「Frozen Shirosaba-Fugu」を輸入したことを一貫して示しており、甲第2号証の5の鑑別成績の欄の記載によれば、「Frozen Shirosaba-Fugu」は、2,484Kgの白さばふぐと解することができる。
また、「Frozen Shirosaba-Fugu」に関し、甲第2号証の2-4によれば、「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」と表記されている。
これら各証拠を総合すれば、平成14年2月20日に、有限会社下関カノウ商事は、「FROZEN GUTTED SHIROSABAFUGU」と表記されるべき白さばふぐを輸入したものと解するのが相当である。

(3)証人1の証言内容について
有限会社下関カノウ商事社長 加納政二(以下「証人1」という。)は、平成18年2月17日に行われた第1回口頭審理において、概略、次のように証言している。
・「自分(証人1)は、カノウ商事の代表者であるが、平成9年の開業以来主に中国からの白さばふぐ、黒さばふぐの輸入販売を業としている。輸入の際は、ラウンドという内蔵を取っていないものか、ガットという内蔵を除去したものとするかの指示をしている。内蔵の除去は、これが残っていると腐敗の原因となり、血肉が残っていると販売後のクレームの対象ともなることから、当初は自分が中国に行って内蔵除去等につき直接指導していた。
・内蔵除去の方法は、平成11年以前は、セミドレスと呼ばれているふぐの肛門から包丁を入れて腹を割く方法により行っていたが、平成12年以降は頭を切り、その皮を背鰭まで剥ぎ、内蔵を除去し、皮を戻すという方法に変わっていた。平成13年ころはほとんど後者の方法によっていた。
・内蔵除去の方法は、除去後の外観からも分かる。具体的には、頭を切った場合には皮をむいているため、並べた場合に頭の位置と肉の位置が若干ずれているためである。セミドレスの場合には頭に包丁が入っておらず、皮を切っていないそのままの状態なので、一目瞭然である。
・白さばふぐを輸入する際に、厚生労働省の検査があるところ、毒をもったふぐは背鰭まで黒いとげがあり白さばふぐはそれがないため背鰭側を上向きにして必ず背鰭が見えるようにして重ねて並べることになる。
・自分(証人1)も株式会社松岡社員 馬嶋 実(以下「証人2」という。)から先願の出願書類部分のファックスを受け、電話連絡も受けて、先願明細書等を読み、その内容を了知した。自分(証人1)は、ファックスされた上記書類をその後廃棄した。
・自分(証人1)と証人2とは、電話で、先願明細書に記載された内容は、当時既に中国で加工方法としてされていたのに特許となるのかなどと話した。

(4)証人2の証言内容について
さらに、証人2は、同日、概略、次のように証言している。
・自分(証人2)は、平成10年ころから株式会社松岡の社員として、白さばふぐ、黒さばふぐ等の輸入を行ってきたが、同社は内蔵を除去したふぐの輸入は行っていなかった。
・平成13年7月に香港企業のベイリートレーディングの揚代表から先願明細書等のファックスを受け、その当日,証人1にカバーレターも含めその全部をファックスした。株式会社松岡は、カノウ商事と取引関係にあった。
・ベイリートレーディングと株式会社松岡とは、そのころ既に3年ほど取引関係にあったが、揚代表が自分(証人2)に対して先願明細書等をファックスした理由は分からない。

(5)まとめ
証人1及び証人2が、虚偽の証言したと断ずべき具体的根拠は見当たらないから、両証言を総合すると、証人1が証人2から先願明細書等のファックスを受領したのは、本件特許の出願日前の平成13年7月であったと解するのが相当である。
また、証人1は、その当時、カノウ商事の代表者として内蔵を除去した白さばふぐ等を中国から輸入することを業として行うとともに,自身でもそれら内蔵除去を含めた白さばふぐ等の加工方法に関する専門知識を有しており、また被請求人ないし被請求人が代表者を務める栄水貿易株式会社とは競業関係にあったということができる。
してみれば,証人1が被請求人との関係で、社会通念上ないし商慣習上、先願に係る発明に関し、守秘義務を負う関係にあるともいえないから、先願に係る発明は、証人1が先願明細書等のファックスを証人2から受領して、その内容を了知した時点で公知となったものとするのが相当である。

3.先願発明について
そこで、先願明細書等に記載された発明について検討する。
先願明細書の特許請求の範囲の欄、及び段落【0009】、【0010】には、図面とともに次のように記載されている。
(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ふぐの頭部を首部で、腹側の皮を残す形で、胴体から切り離す第1工程と、切り離した際残した腹側の皮と、背側の皮を同時に、背鰭の位置まで剥がす第2工程と、剥がした際に、腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓を、取り除く第3工程と、背鰭の位置まで剥がした皮を、元の位置に戻して再び被覆、外形復元する第4工程とから成り立つ白さばふぐ(Lagocephalus wheeleri)或は黒さばふぐ(Lagocephalus gloveri)の加工方法。」
(b)「【0009】
【発明の実施の形態】
図1乃至図6を参照して、本発明に係わる白さば、或は黒さばふぐの加工方法について具体的に説明する。図1は1匹のふぐを示す(マルもの)。図2は腹部を切開して、内臓を除去する、従来の方法で処理した形態を示す、しかしこの方法では内臓の取り残しが生ずる。そこで図3で示す通り、頭1と胴体4を腹部皮5でつながっている状態に切り離す。図4は、図3で切り離した際残した腹部の皮5と、背側の皮と同時に、背鰭3の位置まで剥がし、剥がした際に切り離した頭部1に着いてくる形で胴体4から外れた内臓をきれいに、かつ容易に取除くことができる。図5はそのようにして、頭1と胴体全体4が皮5でつながっている状態を示す。図6は背鰭3の位置まで剥がした皮をもとの位置に戻した状態を示す。かくして内臓を完全に取り除くことが出来、かつ背鰭3の起部のとげの有無(有毒か無毒かの識別ポイント)が容易に識別できる状態で輸入できるので好都合である。(因みに「剥がした皮」を元に戻さず、取り去ってしまえば、有毒か無毒かの見分けは最早出来なくなる。)
【0010】
【発明の効果】
本発明は以上のように、ふぐの頭部と胴体を完全に切断分離しないから、原形を保持し得るので、一見して無毒ふぐであることが識別でき、かつ鮮度保持能力を向上させるだけでなく、実際に業者が加工する際にも便利であり、またその際の廃棄物を最小限に抑えることができるという長所もある。」

以上の記載及び図面によれば、先願明細書等には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ふぐの頭部を首部で、腹側の皮を残す形で、胴体から切り離す第1工程と、切り離した際残した腹側の皮と、背側の皮を同時に、背鰭の位置まで剥がす第2工程と、剥がした際に、腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓を、取り除く第3工程と、背鰭の位置まで剥がした皮を、元の位置に戻して再び被覆、外形復元する第4工程とから成り立つ白さばふぐ(Lagocephalus wheeleri)あるいは黒さばふぐ(Lagocephalus gloveri)の加工方法。」

4.本件特許の請求項1に係る発明と先願発明との対比
そこで、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)と先願発明とを対比する。
(1)先願明細書の記載(b)によれば、先願発明も、白さばふぐあるいは黒さばふぐを、有毒なふぐから区別できるふぐの加工方法であることは明確である。

(2)両発明の第1工程を対比すると、本件特許発明の第1工程は「ふぐの頭部を首部で、腹側の皮を残す形で、胴体から切り離す」ものであり、先願発明の第1工程は「ふぐの頭部を首部で、腹側の皮を残す形で、胴体から切り離す」ものであり、両発明の第1工程は同一である。

(3)両発明の第2工程を対比すると、本件特許発明の第2工程は「切り離した際残した腹側の皮と、背側の皮を同時に剥がす工程を、背鰭の起部の位置で完了する」ものであり、先願発明の第2工程は「切り離した際残した腹側の皮と、背側の皮を同時に、背鰭の位置まで剥がす。」ものである。
しかしながら、先願明細書等の記載(b)を参酌すれば、先願発明も、首部における腹側に残した皮と背側の皮を同時に、背鰭の位置まで剥がし、これを元の位置に戻して再び被覆、外形復元することにより、背鰭3の起部のとげの有無(有毒か無毒かの識別ポイント)を容易に識別できるようにするものであるから、剥がす工程を背鰭の起部の位置で完了することは当然のことであり、当業者が被覆、外形復元した際のフグの形状を勘案することにより適宜なし得ることである。

(4)両発明の第3工程を対比すると、本件特許発明の第3工程は「剥がした際に、腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓を、取り除く」ものであり、先願発明の第3工程は「剥がした際に、腹側の皮に付着する形で胴体から外れた内臓を、取り除く」ものであり、両発明の第3工程は同一である。

(5)両発明の第4工程を対比すると、本件特許発明の第4工程は「背鰭の起部の位置で剥がし工程を完了した皮を、元の位置に戻して再び被覆、外形復元する」ものであり、先願発明の第4工程は「背鰭の位置まで剥がした皮を、元の位置に戻して再び被覆、外形復元する」ものであり、上記(3)の第2工程に関する検討を踏まえれば、当業者が適宜なし得ることである。

(6)本件特許発明においては「より完全に近い形で内臓を摘出後、外観を復元すること」が特定されているが、先願明細書等の記載(b)を参酌すれば、先願発明も、内臓をきれいに、かつ完全に取り除いた上で、ふぐの外形復元することを実現しているものであるから、それにより先願発明との構成上の相違が特定されるものではない。

5.判断
以上の検討によれば、本件特許発明は、本件特許の出願前に公知となった先願発明と実質的に同一であり、そうでなくても、先願発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。


第5 むすび
本件特許発明は、本件特許の出願前に日本国内において公知となった先願発明、すなわち、特許法第29条第1項第1号に規定された発明と実質的に同一であるから、本件特許発明についての特許は、同法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。
そうでなくても、本件特許発明は、先願発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許発明についての特許は同条第2項の規定に違反してなされたものである。
したがって、他の無効理由について検討するまでもなく、本件特許発明についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。
また、審判に関する費用の負担については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-29 
結審通知日 2008-08-11 
審決日 2006-11-08 
出願番号 特願2002-108897(P2002-108897)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A22C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松下 聡  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 村山 禎恒
栗林 敏彦
登録日 2005-01-28 
登録番号 特許第3640646号(P3640646)
発明の名称 白さばふぐ或いは黒さばふぐの加工方法  
代理人 森脇 和弘  
代理人 内野 美洋  
代理人 高木 紀子  
代理人 石田 耕治  
代理人 冨永 賢治  
代理人 周々木 晴香  
代理人 中前 富士男  
代理人 平野 潤  

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