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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1187216
審判番号 不服2006-25552  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-10 
確定日 2008-11-07 
事件の表示 特願2003-323666「建設機械のカップホルダ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年3月18日出願公開、特開2004-83011〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【第1】手続の経緯

本願は、平成10年11月12日(以下、「遡及出願日」という。)に出願された特願平10-321914号をもとの出願として、平成15年9月16日に、特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願としたものであって、原審における平成18年5月16日付けの拒絶理由通知に対して、請求人(出願人)は同年7月24日付けで意見書の提出と共に手続補正をしたが、拒絶査定を受けたので、平成18年11月10日に本件審判請求をするとともに平成18年12月8日付けで、特許法第17条の2第1項第4号の規定に係る手続補正(前置補正)をしたものである。

【第2】平成18年12月8日付け手続補正の却下

[補正却下の決定の結論]
平成18年12月8日付けの手続補正を却下する。

[補正却下の決定の理由]
1.平成18年12月8日付けの手続補正(以下「本件手続補正」という) の趣旨
(1)本件手続補正の前後における、それぞれの請求項1に係る発明は次のとおりである。(下線は、補正箇所を明示するために当審で加入した。)

<本件手続補正前> の請求項1に係る発明
「【請求項1】
エアコンユニットを装備した建設機械のキャブ内において、
エアコンユニットからキャブ前部へ向かって延出した送風ダクトの先端部をキャブ前部で立ち上げて上部噴出口を設定すると共に、
該上部噴出口の下部域に送風ダクトと接して上面が開口する収納部が形成され、
該収納部の周壁には送風ダクトから送風の一部を他のダクトを介さず直接に収納部へ導入する通風孔が形成されており、
送風ダクトから温度調節されて上部噴出口から噴出させる送風を妨げることなく、送風の一部を直接に収納部へ取り込むことを特徴とする建設機械のカップホルダ。」

<本件手続補正後> の請求項1に係る発明
「【請求項1】
エアコンユニットを装備した建設機械のキャブ内において、
エアコンユニットからキャブ前部へ向かって延出した送風ダクトの先端部をキャブ前部で立ち上げて上部噴出口を設定すると共に、
該上部噴出口の下部域に送風ダクトと接して上面が開口する収納部が形成され、
該収納部の前壁部が、送風ダクトの一部となって、上記前壁部に送風の一部を他のダクトを介さず直接に収納部へ導入する通風孔が形成されており、
送風ダクトから温度調節されて上部噴出口から噴出させる送風を妨げることなく、送風の一部を直接に収納部へ取り込むことを特徴とする建設機械のカップホルダ。」
(以下「本願補正発明」という)

(2)上記の手続補正は、送風の一部を収納部へ導入する通風孔の形成に関し、「収納部の周壁には送風ダクトから」とすることに代えて、「収納部の前壁部が、送風ダクトの一部となって、上記前壁部に」とすることによって、発明の構成を限定しようとするものである。
この補正は平成18年改正前の特許法17条の2第4項第2号でいう特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると共に、同条第3項で規定される範囲内のものである。
そこで、次に、上記の本願補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて、以下で検討する。

2.引用例及びその記載事項の概要
(1)原査定の拒絶理由で引用された、本願の遡及出願日よりも前に頒布された刊行物である実願平4-35409号(実開平5-93919号)のCD-ROM(以下、「第1引用例」という。)には、次のイ?ニの事項が記載されている。
イ 「【要約】
【目的】収納空間を最大限に生かし且つ運転者にとっても取扱い易いインストルメントパネル部に装備される飲食物容器の車両用熱交換収納装置を提供する。
【構成】車両のインストルメントパネル部の中央に位置するリッドクラスター(6)にセンターベンチレータ(2)を配設し、その直下に開閉蓋(11a)を有する熱交換用収納庫(11)を設置し、上記センターベンチレータ(2)に送風するセンターダクト(3)の直下にバイパスダクト(4)を配設して、このバイパスダクト(4)と上記収納庫(11)とを多孔隔壁(41a)を介して接続させている。」(第1頁下欄第2?12行)
ロ 「【0009】
【実施例】
以下、本考案を図示実施例に基づいて具体的に説明する。図1?図3は本考案の代表的な実施例を示している。図1は本考案の構造を示す縦断面図、図2は同構造を示す一部切開斜視図、図3は同正面構造を示す図である。
【0010】
本考案に係る飲食物容器の熱交換収納装置1は、これらの図に示すごとく車両の運転席前面のインストルメントパネル中央部に設置されるセンターベンチレータ2の直下に併設されており、飲食物容器等5の出し入れができる構造となっている。
【0011】
即ち、図3に示すごとくインストルメントパネル部に装備されたリッドクラスター6のセンターベンチレータ開口面の下方には横長の矩形状開口1aが形成されている。この矩形状開口1aには、前面に水平ルーバーをもつ開閉蓋11aを有し、後面が筒抜けとされた飲食物容器等5の収納庫11が嵌込固定されている。」(第4頁第24行?第5頁第10行)
ハ 「【0012】
一方、前記センターベンチレータ2には、図示せぬ空調装置のヒーターユニットから送られる熱風や冷風の通路となるインストルメントパネル内部に設置されたセンターダクト3の開口部が接続されている。
【0013】
このセンターダクト3は図1に示すように垂直部31と開口端をもつ水平部32とからなり、前記垂直部31と前記水平部32の各通路の途中からは、水平部分と垂直部分からなる2本の分岐ダクト41,42がそれぞれ直角に延設され、両分岐ダクト41,42が合流して本考案の主要な構成部分をなすバイパスダクト4を構成する。
【0014】
そして、前記バイパスダクト4の水平部分である分岐ダクト41の先端開口部には金網等からなる多孔隔壁41aが取り付けてあり、分岐ダクト41は前記多孔隔壁41aを介して上記収納庫11の後端に接続される。」(第5頁第11?24行)
ニ 「【0016】
いま、かかる構成からなる本考案の熱交換収納装置により、例えば冷たい飲物を飲みたいときは収納庫11の上記開閉蓋11aを開いて内部に所望個数の飲物容器5を収納し、開閉蓋11aを閉じる。このとき、図示せぬ空調装置を冷風側に作動しておけばセンターダクト3を流通する冷気はバイパスダクト4の各分岐ダクト41,42を通って多孔隔壁41aを通過し、収納庫11に収納された飲物容器5に接触して飲物を冷却する。この冷却時において、車室内の温度を余り低くしたくないときはセンターベンチレータ2のシャッター21を閉じておけばよい。
【0017】
【考案の効果】
以上の説明から明らかなごとく、本考案の車両用熱交換収納装置はインストルメントパネル部の前面中央で操作できるため運転者が容易に容器の出し入れが可能であり、また・・・前記車両用熱交換収納装置はインストルメントパネル内に設置された空調用エアーダクトから分岐させたダクトにを利用して飲食物の容器を加熱冷却するものであるため、車室内の温度調節には殆どな影響がない。」(第6頁第3?20行)

<第1引用例に記載されている発明>
図面とともに上記イ?ニの記載事項を総合すると、第1引用例には、
「車両のインストルメントパネル部の中央に位置するリッドクラスター6にセンターベンチレータ2を配設し、センターベンチレータ開口面の下方には横長の矩形状開口1aが形成されて、この矩形状開口1aには、前面に水平ルーバーをもつ開閉蓋11aを有し、後面が筒抜けとされた飲食物容器等の収納庫11が嵌込固定されており、
上記センターベンチレータ2には、空調装置のヒーターユニットから送られる熱風や冷風の通路となるセンターダクト3の開口部が接続され、このセンターダクト3は垂直部31と開口端をもつ水平部32とからなり、
前記垂直部31と前記水平部32の各通路の途中からは、水平部分と垂直部分からなる2本の分岐ダクト41,42がそれぞれ直角に延設され、両分岐ダクト41,42が合流してバイパスダクト4が構成され、
前記バイパスダクト4の水平部分である分岐ダクト41の先端開口部には金網等からなる多孔隔壁41aが取り付けてあり、分岐ダクト41は前記多孔隔壁41aを介して上記収納庫11の後端に接続されている車両用熱交換収納装置。」
に関する発明(以下「第1引用例記載の発明」という)が記載されているものと認められる。

(2)同じく、拒絶理由で引用された、本願の遡及出願日よりも前に頒布された刊行物である特開平9-142131号公報(以下、「第2引用例」という。)には、建設機械用車両等の空調装置に関して、「空調ユニットで温度調節された送風空気を前記キャビン内部の前方に開口する吹出口へ導く送風ダクトとを備え」とする記載、及び、「空調ユニットからキャビン前方に」向けて送風ダクトを配設すること自体は、従来技術に属する旨の記載がある。(第2頁第1欄、第2?8行、第28?34行参照)

3.発明の対比
(1)本願補正発明と第1引用例記載の発明とを対比すると、それら両者の関係は次のようになる。
第1引用例記載の発明において、「熱交換収納装置」が設けられる「インストルメントパネル部」は、運転席(室)の前方に位置するものであるが、一方、本願補正発明でいう「建設機械のキャブ」も、一般的な表現をすれば「車両の運転室」といえるから、この点では両者共通しており、第1引用例記載の発明でいう「空調装置のヒーターユニット」は、本願補正発明でいう「エアコンユニット」に相当し、同様に、「センターダクト3」は「送風ダクト」に、「センターベンチレータ2」は「送風ダクトの先端部」に設定された「上部噴出口」に、それぞれ相当する。
また、第1引用例記載の発明でいう「収納庫11」は、センターベンチレータ2(上部噴出口)の「下部域」に形成した「収納部」といえるものであって、収納庫11の「後端」が、本願補正発明でいう、収納部の「前」部に相当すると共に、本願補正発明でいう「カップホルダ」は、飲食物容器等の収納部の一態様をなすものといえる。
更に、第1引用例記載の発明でいう「多孔隔壁41a」は、収納庫11の後端(収納部の前部)に位置し、「送風の一部を」「収納部へ導入する通風孔が形成」された<隔壁>とみることができる点では、本願補正発明の「収納部の前壁部」と変わるところがなく、第1引用例の記載事項ニで、飲食物容器等の加熱や冷却は、車室内の温度調節には殆ど「影響がない」としているところからみて、本願補正発明の場合と同様に、「送風ダクトから温度調節されて上部噴出口から噴出させる送風を妨げることなく、送風の一部」を収納部へ取り込むものといえる。

(2)上記の対比から、本願補正発明と第1引用例記載の発明との間の一致点及び相違点を、次のとおりに認定できる。
[一致点]
「エアコンユニットを装備した車両の運転室内において、
送風ダクトの先端部を運転室前部で立ち上げて上部噴出口を設定すると共に、
該上部噴出口の下部域に収納部が形成され、
該収納部の前部に位置する隔壁に、送風の一部を収納部へ導入する通風孔が形成されており、
送風ダクトから温度調節されて上部噴出口から噴出させる送風を妨げることなく、送風の一部を収納部へ取り込む、飲食物容器等の収納部。」
である点。

[相違点1]
車両の運転室が、本願補正発明では「建設機械のキャブ」であり、送風ダクトは「エアコンユニットからキャブ前部へ向かって延出」するのに対して、第1引用例記載の発明では、車両の種類の特定や、エアコンユニットと送風ダクトとの前後関係についての言及を欠く点。
[相違点2]
本願補正発明では、収納部が、「上面が開口する」「カップホルダ」であるのに対して、第1引用例記載の発明では、「前面に水平ルーバーをもつ開閉蓋11aを有」する収納庫であって、上面が開口することや、カップホルダとすることについては言及がない点。
[相違点3]
本願補正発明では、収納部の前部に位置する隔壁を「収納部の前壁部」とすると共に「送風ダクトの一部」として、収納部を「送風ダクトと接して」形成し、送風の一部を「他のダクトを介さず直接に」導入しているのに対して、第1引用例記載の発明では、収納部後面(前面)は「筒抜け」とされており、隔壁(多孔隔壁41a)は分岐ダクト41に取り付けられたものとして、送風の一部を分岐ダクトを介して導入している点。

4.当審の判断(相違点の検討)
(1)相違点1について
本願明細書(【0002】)で「背景技術」を開示するものとされている実願平3-90828号(実開平5-40030号)のCD-ROM(先行技術文献1)や、実公平5-41069号公報(先行技術文献2)でも言及されているとおり、建設機械等の車両に、エアコンユニットからの冷風や暖風を利用した飲食物容器等の収納部を設けることは普通に行われているし、また、当該車両の運転室(キャビンまたはキャブ)においては、送風ダクトを「エアコンユニットからキャブ前部へ向かって延出」するように配設することも、従来から知られているものと認められる(第2引用例の上記記載参照)。
そうすると、第1引用例記載の発明において、上記相違点1で指摘した本願補正発明と同様の構成を採用することは、当業者にとって格別困難なこととはいえない。
(2)相違点2について
車両に設ける飲食物容器等の収納部を「上面が開口する」ものとすることや、「カップホルダ」とすることについては、上記の先行技術文献1または2にも開示があるように、当該技術分野においては普通に採用されている形態と認められ、第1引用例記載の発明における、「前面」に開閉蓋を有する収納庫に代えて、上記形態のものとすることは、当業者が容易になしうる程度の設計事項といえる。
(3)相違点3について
二つの部材(「収納部」と「送風(分岐)ダクト」)に共通して隔壁となるものを、いずれの部材に設けるかは、通常の選択的な設計事項であるし、分岐ダクトを設けるか否かは、送風ダクトと収納部との位置関係によって決まり(両者が近接していれば、分岐ダクトを設ける必要がない)、当該位置関係は、運転室(キャブ)の全体形状やその他の部品の配置等に基づく与件(予め与えられた条件)ともいうべきものであって、分岐ダクトを設けることなく、送風の一部を「他のダクトを介さず直接に」収納部へ導入すること自体に、格別の技術的な意義や困難性を認めることはできない。
そうすると、第1引用例記載の発明において、上記相違点3で指摘した本願補正発明と同様の構成とすることは、当業者が必要に応じて容易に想到しうる程度の設計事項といえる。
(4)作用効果の評価と相違点検討のまとめ
更に、上記の相違点1?3に係る構成を併せ備える本願補正発明の奏する作用効果について検討しても、第1引用例記載の発明及び第2引用例以下の刊行物に記載された事項から、当業者であれば予測し得る域を出るものが認められない。
したがって、本願補正発明は、第1引用例記載の発明及び第2引用例以下の刊行物に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.独立特許要件の欠如に伴う手続補正の却下
上記検討から明らかなように、本願補正発明は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件手続補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反することになり、同法第159条第1項において一部読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

【第3】本願の発明について

1.本願の発明
平成18年12月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の発明は、平成18年7月24日付けの手続補正に係る明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、そのうちの、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりである。
「【請求項1】
エアコンユニットを装備した建設機械のキャブ内において、
エアコンユニットからキャブ前部へ向かって延出した送風ダクトの先端部をキャブ前部で立ち上げて上部噴出口を設定すると共に、
該上部噴出口の下部域に送風ダクトと接して上面が開口する収納部が形成され、
該収納部の周壁には送風ダクトから送風の一部を他のダクトを介さず直接に収納部へ導入する通風孔が形成されており、
送風ダクトから温度調節されて上部噴出口から噴出させる送風を妨げることなく、送風の一部を直接に収納部へ取り込むことを特徴とする建設機械のカップホルダ。」

2.引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例とその記載事項は、上記【第2】の2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明と、上記【第2】で検討した本願補正発明とを対比すると、本願発明の、「収納部の周壁には送風ダクトから」とする記載に代えて、「収納部の前壁部が、送風ダクトの一部となって、上記前壁部に」とすることによって、発明の構成を限定したものが本願補正発明にあたる。
そうすると、本願発明の構成よりも、更に限定した構成を備える本願補正発明が、上記【第2】の3.以下に記載したとおり、第1引用例記載の発明及び第2引用例以下の刊行物に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明を上位概念化した本願発明も、本願補正発明と同様の理由で第1引用例記載の発明及び第2引用例以下の刊行物に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

4.むすび
以上によると、本願発明(請求項1に係る発明)は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-04 
結審通知日 2008-09-10 
審決日 2008-09-25 
出願番号 特願2003-323666(P2003-323666)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60R)
P 1 8・ 575- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 成彦鈴木 貴雄  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 佐藤 正浩
柴沼 雅樹
発明の名称 建設機械のカップホルダ  
代理人 西 良久  

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