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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1187408
審判番号 不服2006-25971  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-16 
確定日 2008-11-04 
事件の表示 平成 9年特許願第180392号「高分子電解質膜-ガス拡散電極体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 1月22日出願公開、特開平11- 16586〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.本願発明
本願は、平成9年6月20日の出願であって、その発明は、平成18年11月16日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「反応部とガス拡散部とを有するガス拡散電極を高分子電解質膜の少なくとも一方に備えた高分子電解質膜-ガス拡散電極体の製造方法において、触媒と高分子電解質樹脂と分散媒とを有する触媒分散物が、高分子電解質樹脂の分解温度よりも低い温度で加熱され、粘度調整される工程と、前記触媒分散物が反応部成形手段にスクリーン印刷により塗布され、反応部が形成される工程と、前記反応部が高分子電解質膜と対向するよう、反応部成形手段と高分子電解質膜とが圧接され、反応部成形手段を除去して高分子電解質膜-反応部接合体が形成される工程と、前記高分子電解質膜-反応部接合体の反応部にガス拡散手段が接合される工程とを、備えてなることを特徴とする高分子電解質膜-ガス拡散電極体の製造方法。」(以下、この発明を「本願発明」という。)

II.原審の拒絶理由の概要
原審における拒絶査定の理由の概要は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された次の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
<引用刊行物>
1.特表平5-507583号公報
2.特開平8-78029号公報
(以下、上記1?2の引用刊行物をそれぞれ「刊行物1」、「刊行物2」という。)

III.引用刊行物の記載事項
1.刊行物1
(1-ア)「陽極電極と陰極電極とを分離するための固体ポリマー電解質を有する気体反応燃料電池を製造するための方法であって、担持白金触媒をパーフルオロスルホネートイオノマー中に均一に分散させる工程、該触媒を用いて該イオノマーの薄いフィルムを形成する工程、フィルムを固体ポリマー電解質の表面に移動させる工程、および少なくとも陰極電極を形成するためにフィルムに対して多孔質電極構造体を押しつける工程を含む方法。(請求の範囲7.)」
(1-イ)「フィルムを移動させる工程が、剥離ブランク上に選択された触媒充填量がえられるようにフィルムを形成する工程、固体ポリマー電解質の表面にフィルムをホットプレスしてフィルムを硬化させフィルムを該表面に接着させる工程、および剥離ブランクをフィルムから取り外す工程を含む請求項7記載の方法。(請求の範囲11.)」
(1-ウ)「前記イオノマー中に触媒を分散させる工程が、さらに、イオノマーおよび触媒に溶媒を添加してフィルム形成に有効な粘度を有する混合物をうる工程、および触媒を分散させるために混合物を撹拌する工程を含む請求項11記載の方法。(請求の範囲12.)」
(1-エ)「・・・好ましいプロトコール(・・・)をつぎに記載する。
プロトコール1
1.ナフィオン(Nafion:デュポン社の登録商標)のような可溶化されたパーフルオロスルホネートイオノマーの5%溶液(・・・)と担持触媒(・・・)とを、ナフィオン(乾燥物)/Pt-Cの重量比を1:3として組み合わせる。
2.炭素/水/グリセロールの重量比が1:5:20となるように水およびグリセロールを添加する。
3.担持触媒をインク中に均一に分散させ、剥離ブランクに塗布するのに適した粘度の混合物を調製するために、混合物を超音波で攪拌する。
4.・・・ブランクにインク層を塗布し、オーブン中において135℃で乾燥するまで加熱する。・・・
5.ポリマー電解質膜、対電極(陽極電極)および塗布されたブランクのアセンブリーを形成する。アセンブリーを一般的なホットプレスに装填し・・・加圧する。
6.・・・フィルムから剥離ブランクをはぎ取り、フィルムをSPE膜陰極面に接着した状態で残す。
7.非触媒化多孔質電極(・・・)を、燃料電池アセンブリー内において薄フィルム触媒層のための気体放散バッキングをフィルムに押しつける。(第4頁左上欄第6行?同頁右上欄第12行)」

2.刊行物2
(2-ア)「本発明は、固体高分子電解質型燃料電池に関する。」(【0001】)
(2-イ)「触媒(Pt)を担持するカーボンブラック、イオン導電性ポリマー(ナフィオン(商品名)、デュポン社製)のアルコール溶液および水を・・・混合し、・・・65℃の加熱条件に1時間保持して粘度調整して、塗布用ペーストを調製した。」(【0023】)

IV.当審の判断
1.刊行物1発明の認定
ア 刊行物1の摘示(1-ア)には、「陽極電極と陰極電極とを分離するための固体ポリマー電解質を有する気体反応燃料電池を製造するための方法」であって、「(A)担持白金触媒をパーフルオロスルホネートイオノマー中に均一に分散させる工程、(B)該触媒を用いて該イオノマーの薄いフィルムを形成する工程、(C)フィルムを固体ポリマー電解質の表面に移動させる工程、および・・・(D)陰極電極を形成するためにフィルムに対して多孔質電極構造体を押しつける工程を含む方法」が記載されている((A)?(D)は分説のために付した。以下、同様。)。

イ まず、上記の工程(A)の「担持白金触媒をパーフルオロスルホネートイオノマー中に触媒を均一に分散させる工程」については、摘示(1-ウ)の記載によると、「(A1)イオノマーおよび触媒に溶媒を添加してフィルム形成に有効な粘度を有する混合物をうる工程」、及び「(A2)触媒を分散させるために混合物を撹拌する工程」を含むといえるところ、この製造方法の好ましいプロトコールを記載する摘示(1-エ)には、(A1)に相当する具体例として、「1.ナフィオン(・・・)のような可溶化されたパーフルオロスルホネートイオノマーの5%溶液(・・・)と担持触媒(・・・)とを、ナフィオン(乾燥物)/Pt-Cの重量比が1:3として組み合わせる。2.炭素/水/グリセロールの重量比が1:5:20となるように水およびグリセロールを添加する」と記載され、(A2)に相当する具体例として「3.担持触媒をインク中に均一に分散させ、剥離ブランクに塗布するのに適した粘度の混合物を調製するために、混合物を超音波で攪拌する」と記載されていると認められる。

ウ 以上によれば、(A1)の 「イオノマーおよび触媒に溶媒を添加してフィルム形成に有効な粘度を有する混合物をうる工程」は、『パーフルオロスルホネートイオノマーの5%溶液と触媒に水とグリセロールとを添加して粘度の調整された混合物を得る工程』であるといえ、(A2)の「触媒を分散させるために混合物を攪拌する工程」は、『前記混合物を超音波で攪拌して均一な触媒分散物とする工程』であるといえる。

エ 次に、上記の工程(B)の「該触媒を用いて該イオノマーの薄いフィルムを形成する工程」については、摘示(1-エ)には、(B)に相当する具体例として、「4.ブランクにインク層を塗布し、オーブン中において135℃で乾燥するまで加熱する。」と記載されていると認められるから、上記工程(B)は、『工程(A)で得られた触媒分散物が剥離ブランクに塗布され、フィルムが形成される工程』であるといえる。

オ 上記の工程(C)の「フィルムを固体ポリマー電解質の表面に移動させる工程」については、摘示(1-イ)に「固体ポリマー電解質の表面にフィルムをホットプレスしてフィルムを硬化させフィルムを該表面に接着させる工程、および剥離ブランクをフィルムから取り外す工程」と記載されており、また、具体的には摘示(1-エ)の「5.」「6.」に記載された工程であるから、工程(C)は、『工程(B)で形成されたフィルムが固体ポリマー電解質の表面と対向するよう、剥離ブランクと固体ポリマー電解質とがホットプレスされ、剥離ブランクをフィルムから除去して固体ポリマー電解質-フィルム接合体が形成される工程』であるといえる。

カ 上記の工程(D)の「陰極電極を形成するためにフィルムに対して多孔質電極構造体を押しつける工程」については、摘示(1-エ)に、「7.非触媒化多孔質電極(・・・)を・・・薄フィルム触媒層のための気体放散バッキングをフィルムに押しつける」と記載されているから、工程(D)は、工程(C)で形成された固体ポリマー電解質-フィルム接合体のフィルムに対して、該フィルムに気体を放散するための多孔質電極構造体を押しつけて陰極電極を形成する工程であるといえ、押しつけにより該フィルムと多孔質電極構造体とが接合されて陰極電極が形成されることが明らかであるから、工程(D)は『工程(C)で形成された固体ポリマー電解質-フィルム接合体のフィルムに、該フィルムに気体を放散する多孔質電極構造体が接合されて、陰極電極が形成される工程』であるといえる。

キ そして、上記の工程(A)?(D)により、固体ポリマー電解質に陰極電極が接合された「固体ポリマー電解質-陰極電極体」が製造されることは明らかであるから、上記工程(A)?(D)を含む方法は、『触媒を含むフィルムと該フィルムに気体を放散する多孔質電極構造体とを有する陰極電極を固体ポリマー電解質の一方に備えた、気体反応燃料電池における固体ポリマー電解質-陰極電極体の製造方法』であるともいえる。

ク 以上によると、刊行物1には、『触媒を含むフィルムと該フィルムに気体を放散する多孔質電極構造体とを有する陰極電極を固体ポリマー電解質の一方に備えた気体反応燃料電池における固体ポリマー電解質-陰極電極体の製造方法において、パーフルオロスルホネートイオノマーの5%溶液と触媒に水とグリセロールとを添加して粘度の調整された混合物を得る工程と、前記混合物を超音波で攪拌して均一な触媒分散物とする工程と、前記触媒分散物が剥離ブランクに塗布され、フィルムが形成される工程と、前記フィルムが固体ポリマー電解質の表面と対向するよう、剥離ブランクと固体ポリマー電解質とがホットプレスされ、剥離ブランクをフィルムから除去して固体ポリマー電解質-フィルム接合体が形成される工程と、前記固体ポリマー電解質-フィルム接合体の該フィルムに多孔質電極構造体が接合されて、陰極電極が形成される工程とを、備えてなる気体反応燃料電池における固体ポリマー電解質-陰極電極体の製造方法。』の発明が記載されているといえる(以下、この発明を「刊行物1発明」という。)。

2.対比
本願発明(前者)と刊行物1発明(後者)とを対比する。
後者の「陰極電極」が有する「触媒を含むフィルム」と「該フィルムに気体を放散する多孔質電極構造体」とは、それぞれ、触媒作用により反応を引き起こす「反応部」、及び反応気体を反応部に拡散して供給する「ガス拡散部」といえることは明らかであるから、後者の「触媒を含むフィルム」(或いは「フィルム」)、「多孔質電極構造体」は、それぞれ前者の「反応部」、「ガス拡散部」(或いは「ガス拡散手段」)に相当するとともに、後者の「陰極電極」は、前者の「ガス拡散電極」に相当するといえる。
また、後者の「固体ポリマー電解質」及び「パーフルオロスルホネートイオノマー」は、それぞれ前者の「高分子電解質膜」及び「高分子電解質樹脂」に相当し、後者の「ホットプレス」は、前者の「圧接」の一形態であり、後者の「剥離ブランク」は、その表面に形成されたフィルムが固体ポリマー電解質にホットプレスされて固体ポリマー電解質-フィルム接合体が形成された後、除去される部材であるから、その表面に形成された反応部が高分子電解質膜に圧接されて高分子電解質膜-反応部接合体が形成された後、除去されるところの前者の「反応部形成手段」に相当する。
さらに、後者の「パーフルオロスルホネートイオノマーの5%溶液」は、該イオノマーを5%溶液とするための「溶媒」を含むことが明らかであるから、その「溶媒」と、「水とグリセロール」とは併せて、前者の「分散媒」に相当し、後者の「パーフルオロスルホネートイオノマーの5%溶液と触媒に水とグリセロールとを添加して粘度の調整された混合物を得る工程」と「前記混合物を超音波で攪拌して均一な触媒分散物とする工程」とは、併せて前者の「触媒と高分子電解質樹脂と分散媒とを有する触媒分散物が・・・粘度調整される工程」に相当する。
以上によれば、両者は、
「反応部とガス拡散部とを有するガス拡散電極を高分子電解質膜の一方に備えた高分子電解質膜-ガス拡散電極体の製造方法において、触媒と高分子電解質樹脂と分散媒とを有する触媒分散物が粘度調整される工程と、前記触媒分散物が反応部成形手段に塗布され、反応部が形成される工程と、前記反応部が高分子電解質膜と対向するよう、反応部成形手段と高分子電解質膜とが圧接され、反応部成形手段を除去して高分子電解質膜-反応部接合体が形成される工程と、前記高分子電解質膜-反応部接合体の反応部にガス拡散手段が接合される工程とを、備えてなる高分子電解質膜-ガス拡散電極体の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:「触媒分散物が粘度調整される工程」が、前者は、「高分子電解質樹脂の分解温度よりも低い温度で加熱され」る工程であるのに対して、後者は、高分子電解質樹脂の分解温度よりも低い温度で加熱される工程ではない点
相違点2:「触媒分散物が反応部成形手段に塗布され、反応部が形成される工程」が、前者は、「スクリーン印刷」によるものであるのに対して、後者は、スクリーン印刷によるものであるか否か不明である点

3.判断
(1)相違点1について
刊行物1発明における粘度調整の機序について考察すると、塗布による成膜用の組成物の粘度調整手段としてグリセロールを組成物に加えることは、例えば特開平4-308616号公報【0006】、特開平4-323379号公報【0019】に記載されるように本願出願前周知の事項であるから、刊行物1発明における粘度調整は、触媒分散物に適宜な量のグリセロールを含ませることによりなされていると認められる。
これに対して、刊行物2には、触媒(Pt)を担持するカーボンブラックと、イオン導電性ポリマーのアルコール溶液と、水との混合物(本願発明の「触媒分散物」に相当)を65℃で加熱することにより、当該混合物の粘度を調整し、塗布用ペーストを調製することが記載されており、この場合の粘度調整は、触媒分散物の加熱により、該触媒分散物中の水やアルコールが適宜な量で蒸発することよりなされていることは、当業者が直ちに理解できる技術常識であると認められる。
そして、刊行物1発明における触媒分散物中のパーフルオロスルホネートイオノマー溶液として、摘示(1-エ)に具体的に例示されるナフィオン溶液は、通常アルコール溶液であることが刊行物2の(2-イ)に記載されるように本願出願前周知の事項であり、かつ刊行物1発明の触媒分散物は水を含むから、刊行物1発明における触媒分散物の粘度調整の工程において、該触媒分散物に適宜な量のグリセロールを含ませることに代えて、該触媒分散物中のアルコールや水を、適宜な量で蒸発させるために、適宜な温度で加熱することは、上記周知の事項、及び上記刊行物2の記載事項に基いて当業者が適宜なし得る設計的事項であると認められるし、その際の加熱温度を触媒分散物中のパーフルオロスルホネートイオノマー(本願発明の「高分子電解質樹脂」に相当)の分解温度より低い温度とすることも、当該イオノマーの化学的性質を損ねないために当業者が当然に配慮すべき事項であるにすぎない。

(2)相違点2について
刊行物1発明における「反応部形成手段(剥離ブランク)」は、その表面に触媒分散物を塗布して形成された反応部を高分子電解質膜の表面に転写するための転写用の基材といえるところ、触媒分散物を転写用の基材に塗布する手段として、スクリーン印刷を用いることは、国際公開第96/29752号(第17頁第29?34行)、特開平7-70782号公報(【0041】)、特表平09-501535号公報(第16頁第11?14行)、国際公開第96/11507号(第13頁第6?9行)に記載されるように本願出願前周知の事項である。
したがって、刊行物1発明において、触媒分散物が反応部成形手段に塗布される工程をスクリーン印刷によるものとすることは、上記周知の事項に基いて当業者が適宜なし得る設計的事項であると認められる。

V.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1発明、刊行物2の記載事項、及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-02 
結審通知日 2008-09-04 
審決日 2008-09-18 
出願番号 特願平9-180392
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須田 裕一3L案件管理書架D  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 坂本 薫昭
平塚 義三
発明の名称 高分子電解質膜-ガス拡散電極体の製造方法  

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