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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1187831
審判番号 不服2007-17944  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-28 
確定日 2008-11-13 
事件の表示 特願2001-303913「トルクコンバータ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月 9日出願公開、特開2003-106398〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

この出願は、平成13年9月28日の出願であって、平成19年5月23日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月28日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願の請求項1に係る発明

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年11月28日付けの手続補正書、及び平成19年7月27日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(なお、平成19年7月27日付けの手続補正は、発明の詳細な説明のみを補正するものである。)

「【請求項1】 回転駆動源からの回転駆動力が伝達されるコンバータカバーと、該コンバータカバーに一体に形成されたポンプインペラと、該ポンプインペラから流体を介して動力伝達されるタービンシェル及びコア間にタービンブレードを配設したタービンランナーと、前記ポンプインペラと前記タービンランナーとの間に配置されたステータとを備え、前記ポンプインペラ及びタービンランナーの軸方向長さLをポンプインペラ及びタービンランナーの外径Dで除した偏平率L/Dが0.21以下に設定されたトルクコンバータにおいて、前記タービンシェルのタービン入口部における外周曲率半径Rと、前記コアのタービン入口部における外周曲率半径rとの比r/Rを、0.33≦r/R≦0.43に設定したことを特徴とするトルクコンバータ。」

3.刊行物記載の発明

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平04-254043号公報(以下、「刊行物1」という。)及び特開昭62-177354号公報(以下、「刊行物2」という。)には、それぞれ次の発明が記載されている。

(1)刊行物1記載の発明

刊行物1には、「トルクコンバータ」に関して、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】ポンプとタービンとステータとでトーラスを構成するトルクコンバータであって、前記トーラスの軸線方向寸法Lと半径方向寸法Hとの比L/Hが0.55?0.65の範囲にあり、前記トーラスの内周径dと外周径Dとの比d/Dが0.35?0.45の範囲にあり、前記トーラスの最外周径が描く円面積Aと、前記ポンプ及びタービンの流路面積a_(1)との比a_(1)/Aが0.16?0.20の範囲にあり、前記円面積Aと前記ステータの流路面積a_(2)との比a_(2)/Aが、前記面積比a_(1)/Aより0.02?0.04大きく、かつ0.19?0.23の範囲にある、トルクコンバータ。」

(イ)「【0003】ところが一方で、変形された羽根車内を通過する流体は、渦を生じ易くまた羽根部材に対して衝突を起こし易くなり、トルクコンバータ全体の性能が低下する。そのために、偏平化したトーラス形状のトルクコンバータにおいては、性能を維持するための工夫がなされなければならない。」

(ウ)「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明に係るトルクコンバータは、ポンプとタービンとステータとでトーラスを構成する。前記トーラスの軸線方向寸法Lと半径方向寸法Hとの比L/Hは0.55?0.65の範囲にある。
前記トーラスの内周径dと外周径Dとの比d/Dは0.35?0.45の範囲にある。前記トーラスの最外周径が描く円面積Aと、前記ポンプ及びタービンの流路面積a_(1)との比a_(1)/Aは0.16?0.20の範囲にある。前記円面積Aとステータの流路面積a_(2)との比a_(2)/Aは、前記ポンプ及びタービンの流路面積比a_(1)/Aより0.02?0.04大きく、かつ0.19?0.23の範囲にある。」

(エ)「【0010】図1において、このトルクコンバータは、フロントカバー1とフロントカバー1の外周壁1aに固定されたインペラーシェル2とで作動油室を形成している。作動油室内には、主として、ポンプ3と、タービン4と、ステータ5と、ロックアップ装置6とが配置されている。インペラーシェル2は内周端部がインペラーハブ7に固定されている。
【0011】フロントカバー1は、図示しないエンジン側の構成部品に装着可能となっており、エンジンからの駆動力が入力されるようになっている。
【0012】ポンプ3では、複数の羽根がインペラーシェル2と内壁3aとの間に配置されている。ポンプ3と対向する位置には、同様に複数の羽根からなるタービン4が配置されている。タービン4では、羽根はシェル4aに固定されており、また羽根のポンプ側端部が内壁4bに支持されている。・・・(中略)・・・
【0013】ポンプ3の内周部とタービン4の内周部との間には、ステータ5が配置されている。ステータ5は、タービン4からポンプ3へと戻される作動油の方向を調整するための複数の羽根を備えている。(以下、略)」

(オ)「【0017】比L/Hが0.55未満の場合は、内壁3a,4bがフラットとなり渦の発生度合が大きくなるとともに、性能が低下する。逆に比L/Hが0.65を超えると、偏平化が不充分となる。・・・(中略)・・・性能が不十分となる。
【0018】上述の数値に設定された本実施例のトルクコンバータにおいては、トーラスの偏平化を進めているのにもかかわらず、トルクコンバータ自体の性能は維持される。トーラスの偏平化に伴いトルクコンバータの性能が低下する最大の理由は、短い進行距離内で流れの大きな角度変更がなされなければならなくなるステータの周辺において渦を生じ易くなることである。(以下、略)」

したがって、以上の記載を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「エンジンからの駆動力が入力されるフロントカバー1と、フロントカバー1の外周壁1aに固定されたインペラーシェル2、複数の羽根がインペラーシェル2と内壁3aとの間に配置されたポンプ3と、羽根がシェル4aに固定され、また羽根のポンプ側端部が内壁4bに支持されているタービン4と、ポンプ3の内周部とタービン4の内周部との間に配置されたステータ5とを備え、ポンプとタービンとステータとで構成されたトーラスの軸線方向寸法Lと半径方向寸法Hとの比L/Hが0.55?0.65の範囲にあり、前記トーラスの内周径dと外周径Dとの比d/Dが0.35?0.45の範囲にある、トルクコンバータ。」

(2)刊行物2に記載の発明

刊行物2には、「流体トルクコンバータ」に関して、図面とともに以下の記載がある。

(カ)「そこで、本発明の目的は、搭載上の制約等により所定扁平比L/H(0.82?0.9)におさまるものでありながら、効率を低下することなくストールトルク比を高く設定し得る流体トルクコンバータを提供することにある。」(第2ページ右下欄第8?12行)

(キ)「詳しくは、トーラス10の外径Dに対して、軸方向寸法Lは約0.25D、半径方向寸法Hは約0.29Dとなり、従って扁平比(L/H)が約0.87となる。また、ポンプ出口のドーナツ型流路部の面積sのトーラス10の最外周径が描く円面積Sとの比s/Sが0.23になり、かつトーラスの内周径D_(i)と外周径D_(o)との比D_(i)/D_(o)が0.42になる。」(第4ページ左上欄第13?20行)

(ク)「詳しくは、円弧Aの半径は約0.114D、円弧Bの半径は約0.197D、円弧Cの半径は0.138Dとなる(D;トーラス外径)。従って、各円弧の半径の比は、(B/C)=1.43,(B/A)=1.7,(C/A)=1.21となる。また、トーラスの内郭10bは2個の円弧E,Dからなり、その半径の比(E/D)も2以下からなる。詳しくは、円弧Dの半径は約0.048D、円弧Eの半径は約0.087Dからなる(D;トーラス外径)。従って該円弧の半径の比(E/D)=1.8となる。」(第4ページ右上欄第4?14行)

(ケ)「以上説明したように、本発明によると、軸方向寸法Lが半径方向寸法Dより短い扁平流体トルクコンバータでありながら、タービンの外及び内郭線を構成する円弧A,B,C,D,Eの半径比が略々2以下と小さいため、平均流線の曲率変化が小さくなり、曲率半径方向の流体圧力バランスを保持して流れが偏ることを防止し、該流れの偏りによる損失を減少し、全体効率を向上し得る。
更に、タービン6特にその入口部分及び出口部分の圧力の乱れをなくして、タービンブレード6aに沿う相対流れを速くし、基準速度比に至るタービン回転数を大きくし、基準速度比を高くして最高効率を高くすることができ、・・・中略・・・できる。」(第5ページ左下欄第5行?同右下欄第1行)

4.対比・判断

(1)一致点

本願発明と刊行物1発明とを対比すると、両者はトルクコンバータの基本的構成において共通するものであり、刊行物1発明における「エンジンからの駆動力が入力されるフロントカバー1」は本願発明の「回転駆動源からの回転駆動力が伝達されるコンバータカバー」に相当し、以下同様に、「フロントカバー1の外周壁1aに固定されたインペラーシェル2、複数の羽根がインペラーシェル2と内壁3aとの間に配置されたポンプ3」は「該コンバータカバーに一体に形成されたポンプインペラ」、「羽根がシェル4aに固定され、また羽根のポンプ側端部が内壁4bに支持されているタービン4」は「該ポンプインペラから流体を介して動力伝達されるタービンシェル及びコア間にタービンブレードを配設したタービンランナー」、「ポンプ3の内周部とタービン4の内周部との間に配置されたステータ5」は「前記ポンプインペラと前記タービンランナーとの間に配置されたステータ」に、それぞれ実質的に相当するものである。

したがって、両者は、本願発明の表記にならえば、「回転駆動源からの回転駆動力が伝達されるコンバータカバーと、該コンバータカバーに一体に形成されたポンプインペラと、該ポンプインペラから流体を介して動力伝達されるタービンシェル及びコア間にタービンブレードを配設したタービンランナーと、前記ポンプインペラと前記タービンランナーとの間に配置されたステータとを備えたトルクコンバータ」である点において一致している。

(2)相違点

一方、両者の相違点は、以下のとおりである。

[相違点1]
本願発明は、「前記ポンプインペラ及びタービンランナーの軸方向長さLをポンプインペラ及びタービンランナーの外径Dで除した偏平率L/Dが0.21以下に設定されたトルクコンバータにおいて、前記タービンシェルのタービン入口部における外周曲率半径Rと、前記コアのタービン入口部における外周曲率半径rとの比r/Rを、0.33≦r/R≦0.43に設定した」のに対し、刊行物1発明では、「ポンプとタービンとステータとで構成されたトーラスの軸線方向寸法Lと半径方向寸法Hとの比L/Hが0.55?0.65の範囲にあり、前記トーラスの内周径dと外周径Dとの比d/Dが0.35?0.45の範囲にある、トルクコンバータ」として偏平率を設定しているが、外周曲率半径と前記コアのタービン入口部における外周曲率半径との比については明らかではない点。

(3)相違点の判断

相違点の判断をするにあたって、刊行物1発明について検討すると、以下のとおり。
図1の寸法関係より、H=(D-d)/2・・・(あ)
(H:トーラスの半径方向寸法、D:トーラスの外周径、d:トーラスの内周径)
が成立し、上記刊行物1の記載事項(ウ)から、
d/D=0.35?0.45、すなわち、d=0.35D?0.45D・・・(い)
であるから、上記(い)を上記(あ)に代入すると、
H=0.275D?0.325Dとなるので、この関係からDを求めると
D=3.077H?3.636H・・・(う)
となる。
また、上記刊行物1の記載事項(ウ)から、
L/H=0.55?0.65であるから、
L=0.55H?0.65H・・・(え)
となる。
そこで、本願発明の偏平率に相当するL/Dを求めてみると、L/Dに上記(え)(う)を代入して、
L/D=(0.55H?0.65H)/(3.077H?3.636H)
であるから、L/D=0.15?0.21となる。

そうすると、上記相違点に挙げた本願発明の「偏平率L/Dが0.21以下」との特定は、下限を示していない点で不明りょうなものではあるが、刊行物1発明のトルクコンバータにおける偏平率0.15?0.21を包含するものであるから、この点においては実質的な相違点はないということができる。

次に、上記刊行物2に記載された発明(以下、「刊行物2発明」という。)について検討すると、刊行物2発明は、上記刊行物2の記載事項(カ)ないし(ケ)、特に記載事項(ク)及び(ケ)から、所定扁平比におさまるトルクコンバータ、すなわち扁平型トルクコンバータにおいて、トーラスの円弧A及び円弧Dの半径を考慮することで、流れの偏りによる損失を防止し、全体効率を向上し得ることを示唆している。
そして、トルクコンバータを偏平化した場合、作動流体に渦が生じたり、流れが偏ったりすることによって損失が生じることから、その対策としての工夫をする必要があることは、刊行物2の上記記載事項のみならず、刊行物1の記載事項(イ)にも記載されているように当業者にとって周知の技術的課題であることから、刊行物1に記載された発明に対し、上記刊行物2に記載された発明が示唆する事項を適用することに、格別な創作能力を要すると解することもできない。
また、刊行物2の記載事項(ク)には、各円弧の半径の比についての記載があることからみて、円弧Aと円弧Dの半径の比、すなわち本願発明のr/Rの設定は、刊行物2発明から当業者が通常の創作能力の範囲内で容易になし得ることができるものであり、さらに、本願発明において設定された範囲である0.33≦r/R≦0.43に数値範囲の最適化以上の臨界的意義や予測されないような特異点があるものでもない。

以上のことを考慮すると、上記刊行物1発明における「トルクコンバータ」に、上記刊行物2発明の技術思想を適用し、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

なお、審判請求人は、本件審判請求書の中で、
(A)刊行物1では偏平率L/Dが0.21以下であることが記載されているが曲率半径比r/Rを0.33≦r/R≦0.43に設定することは開示されておらず、逆に刊行物2では曲率半径比r/Rを0.421に設定することが記載されているが、偏平率L/Dを0.21以下に設定することは記載されていないことを指摘するとともに、
(B)偏平率L/Dを小さくすると曲率半径比r/Rも小さくなる関係にあることから、刊行物1と刊行物2とを考え合わせることは全くできないものであること、仮に、刊行物2に記載の技術を偏平率L/Dが0.21以下となるように偏平化しても、曲率半径比r/Rは0.3125になり、本願請求項1に係る発明における「曲率半径比r/Rが0.33≦r/R≦0.43」の範囲から逸脱するものである旨、
を主張している。
しかしながら、上記(A)に関する主張は、刊行物に記載のない事項を抽出して指摘したものであって当審もこの点に限れば認めるところであるが、上記刊行物に記載された発明に基づいて当業者が本願発明に容易に想到できたことの論理づけの可能性を述べたものではない。
また、上記(B)に関する主張は、「偏平率L/Dを小さくすると曲率半径比r/Rも小さくなる関係にある」という理由だけで「刊行物1と刊行物2とを考え合わせることは全くできないもの」と結論づけるものであるが、刊行物1発明と刊行物2発明は偏平化したトルクコンバータという技術分野において共通するものであり、偏平化に伴う性能の低下や損失を防止するという課題においても共通するものであって両者を結びつける十分な動機があるということができ、その寸法関係の具体的設定は当業者が容易に推考できることは上述のとおりである。さらに、審判請求人は、刊行物2に記載されたトルクコンバータについて、独自の寸法設定も含めて「偏平率L/Dが0.21以下となるように偏平化しても、曲率半径比r/Rは0.3125」となることを主張しているが、当該主張を含む審判請求書における主張をみても請求人が独自に設定した寸法等に対する合理性を証明する証拠等の提出はなく、該主張が当を得た主張と理解することはできない。仮に当を得たものとしても、刊行物2に記載された発明の示唆からみて、当該主張に関わらず刊行物1に記載された発明に対し、刊行物2に記載された発明を適用することは、当業者であれば容易になし得ることは上述したとおりである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび

以上のとおり、本願発明は、原査定の拒絶理由に引用された刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。




 
審理終結日 2008-09-10 
結審通知日 2008-09-16 
審決日 2008-09-29 
出願番号 特願2001-303913(P2001-303913)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹下 和志津田 真吾  
特許庁審判長 川上 益喜
特許庁審判官 村本 佳史
水野 治彦
発明の名称 トルクコンバータ  
代理人 崔 秀▲てつ▼  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 森 哲也  

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