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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23Q
管理番号 1188243
審判番号 不服2007-12930  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-07 
確定日 2008-11-20 
事件の表示 特願2001-357577「工具、工具ホルダおよび工作機械」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月 3日出願公開、特開2003-159627〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成13年11月22日の特許出願であって、同18年2月27日付けで拒絶の理由が通知され、同18年4月28日に意見書及び手続補正書が提出され、同18年8月3日付けで最後の拒絶の理由が通知され、同18年9月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同19年3月29日付けで同18年9月27日提出の手続補正書でした手続補正が却下されるとともに拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対し、同19年5月7日に本件審判の請求がされ、同19年6月5日に明細書を補正対象書類とする手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
本件補正は、特許請求の範囲を含む明細書について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと次のとおりである。

(1) 補正前の請求項1
「工作機械の主軸に着脱可能に装着される工具であって、
ワークを加工する加工具と、
前記加工具を駆動する電動機と、
前記主軸の回転力により電力を発生する発電機と、
前記発電機の発電した電力の前記電動機への供給を制御して前記電動機を駆動制御する制御手段と、
前記電動機の駆動状態を検出する駆動状態検出手段とを有し、
前記制御手段は、前記駆動状態検出手段によって検出された情報に基づいて、前記電動機の回転数を所望の回転数に維持するように、前記電動機を駆動制御する
工具。」

(2) 補正後の請求項1
「工作機械の主軸に着脱可能に装着される工具であって、
ワークを加工する加工具と、
前記加工具を駆動する三相誘導電動機と、
前記主軸の回転力により前記主軸の回転数に応じた周波数の交流電力を発生する三相同期発電機と、
前記発電機の発電した交流電力を直流電力に変換するコンバータ、当該コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換し、前記電動機に供給するインバータ及び前記インバータにより変換される交流電力の周波数を制御する制御回路を有する制御手段と、
前記電動機の駆動状態を検出する駆動状態検出手段とを有し、
前記制御回路は、前記駆動状態検出手段によって検出された情報に基づいて、前記電動機の回転数を所望の回転数に維持するように、前記インバータにより変換される交流電力の周波数を制御する
工具。」

2 補正の適否
請求項1における補正は、電動機が「三相誘導電動機」であり、発電機が「主軸の回転数に応じた周波数の交流電力を発生する三相同期発電機」であり、制御手段が「発電機の発電した交流電力を直流電力に変換するコンバータ、当該コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換し、電動機に供給するインバータ及び前記インバータにより変換される交流電力の周波数を制御する制御回路を有する」ものであり、制御回路が駆動状態検出手段によって検出された情報に基づいて、電動機の回転数を所望の回転数に維持するように、「インバータにより変換される交流電力の周波数を」制御するものである旨の限定事項を付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。

(1) 本件補正発明
本件補正発明は、本件補正により補正がされた明細書及び図面の記載からみて、上記1の(2)の補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。

(2) 引用例記載事項
本件出願前に頒布された刊行物である特開平5-177485号公報(以下「引用例1」という。)及び特開2001-79727号公報(以下「引用例2」という。)には、以下のとおり記載されている。

ア 引用例1
(ア) 第2頁第1欄第22?23行
「【産業上の利用分野】本発明は各種の回転体の速度を増加又は減少する装置に関する。」

(イ) 第2頁第2欄第38行?第3頁第3欄第14行
「【0009】すなわち、本発明の速度増減装置は、駆動源に連結されるスピンドルと、前記スピンドルと回転自在に結合した固定部材と、前記スピンドルと回転自在に結合した回転部材とを有し、前記固定部材と前記スピンドルとの間には両者の相対的な回転運動により発電する発電機が設けられているとともに、前記固定部材と前記回転部材との間には前記発電機により得られた電気により駆動されるモータが設けられていることを特徴とする。
【0010】
【作用】本発明の速度増減装置は、図1に示すように発電機とモータとが同軸的に配置された場合と、図2に示すように発電機とモータとが同心円状に配置された場合のいずれをも含む。いずれの場合も、スピンドルと固定部材2と回転部材3とはそれぞれ回転自在に結合しており、発電機4はスピンドル1と固定部材2との間に設けられており、モータ5は固定部材2と回転部材3との間に設けられている。また、固定部材2は、適当な係止部材(例えば突起部材)により、回転を防止される。
【0011】そのため、スピンドルが回転すると、発電機4のコイルと多極磁石とは相対的に回転するので、発電が起こり、次に発電機より供給された電気によりモータ5の両コイル間の相対的な回転を生じることになる。このため、回転部材3は所定の回転速度で回転することになるが、発電機5のコイルの極数とモータの極数を適当な比に設定すれば、所望の回転速度の増減比を得ることができる。」

(ウ) 第3頁第3欄第16行?第4欄第25行
「【実施例】図3(a)は、本発明の一実施例による速度増減装置を示す一部破断正面図であり、図3(b)は、そのA-A部分断面図である。図3の(a)及び(b)に示すように、本発明の一実施例による速度増減装置は、工作機械のホルダー内に挿入されるテーパ部11付きスピンドル1と、スピンドル1と回転自在に結合したカバー部材2と、同様にスピンドル1と回転自在に結合した工具把持部材3とを有する。カバー部材は固定部材として作用する。スピンドル1の先端にはカバー部材2内に延在する円管部12があり、スピンドル1の円管部12の外面とカバー部材2の内面とは一対のベアリング部14a,14bにより回転自在に結合している。また、カバー部材2の内部に延在した工具把持部材3のシャフト31は、スピンドル1の円管部12の内面との間に設けられたベアリング部15a,15bにより、スピンドル1に対して回転自在に支持されている。なお、カバー部材2の外面には突起部10が形成されているので、工作機械の固定用部材と係合してカバー部材2の回転を防止する。そのため、スピンドル1の回転を発電機4及びモータ5を介して変速して工具把持部材3に伝達することができる。また、図中30は、把持部材3に把持された工具を示す。
【0013】カバー部材2の内面には発電機4用のコイル41が固定されているとともに、スピンドル1の円管部12の外面には多極磁石42が固定されている。コイル41と多極磁石42とにより構成される発電機4は、高周波で高出力を出す同期発電機とするのが好ましい。なお、多極磁石42は場合によっては直流電源に接続されたコイルであってもよい。
【0014】一方、カバー部材2の内面に固定された別のコイル51は、モータ5の固定子を構成し、工具把持部材3のシャフト31に固定されたモータ5の回転子52と磁気ギャップを介して対向する位置にある。このようなモータ5は誘導モータであるのが好ましい。なお、発電機4のコイル41とモータ5のコイル51とはリード線(図示せず)により接続されている。
【0015】発電機4のコイル41の極数とモータ5のコイル51の極数を任意の比とすることにより、速度の増減を任意に設定することができる。」

これらの事項を本件本件補正発明に照らして整理すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「工作機械のホルダーに着脱可能に装着されるスピンドル1、カバー部材2、工具把持部材3等からなる速度増減装置であって、
ワークを加工する工具30と、
前記工具3を駆動する誘導モータ5と、
前記ホルダーの回転力により前記ホルダーの回転数に応じた周波数の交流電力を発生する同期発電機4と、
前記同期発電機4の発電した交流電力を前記誘導モータ5に供給する手段とを有し、
同期発電機4の極数と誘導モータ5の極数との比を変更することにより誘導モータ5の速度の増減を任意に設定する
速度増減装置。」

イ 引用例2
(ア) 第2頁第1欄第2?8行
「【請求項1】工作機械に着脱可能に装着される工具装置であって、
工具本体を駆動するための電動機と、
前記電動機の回転速度を指定する回転速度入力手段と、
指定された回転速度になるように前記電動機の回転駆動を制御する回転制御手段と、
を備える工具装置。」

(イ) 第2頁第2欄第21?46行
「【0010】工具装置を交換しても工具装置が回転速度の設定手段を備えているので、工作機械から電動機の回転速度を変更する手段が必要なくなり、回転速度が変更されても回転速度の設定が表示されるので確認が容易である。また、電動機毎に個別の回転制御手段を備えるので、電動機定格、種類等に応じたインバータなどの制御機器の設計が容易となる。
【0011】可変速の回転制御手段が工具装置に内蔵されるので、工具装置を交換する際に工作機械からは単一の電源を工具装置に供給するだけでよい。
【0012】
【実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。図1において、数値制御工作機1は、主軸2を有した工作機本体3、多数の工具4b,4c…を有した自動工具交換装置4、これらを加工指令や工具交換指令などによって制御する数値制御装置5、装着した工具に作動電源を供給する電源部50などから成っている。主軸2には、自動工具交換装置4の図示しないマニピュレータによって工具4aが装着されており、工具4aの先端に取付けられた微小径のドリル刃6によってワークWに微小径の穴を明けようとしている。
【0013】工具4aには、テーパシャンク部7およびマニピュレータによる把持部7aが設けられており、同軸状に高速回転可能な高周波電動機8が内蔵され、チャック部6aの先端に前述のドリル刃6が取付けられている。」

(ウ) 第3頁第3欄第22行?第4欄第4行
「【0017】図3は、高周波電動機8の制御系を説明するブロック図である。工具4aに内蔵された回転制御部18には、工作機本体3からコネクタ11、オン・オフスイッチ41を介して電源が供給される。また、回転制御部18には、回転速度入力部17から速度指定信号が入力される。
【0018】回転制御部18は、回転速度入力部17から入力された速度指定信号をデコードするIO部19、マイクロプロセッサなどからなる中央処理部21、記憶部22,23、IO部24、ディジタル信号を解読しそれによって指定された周波数の正弦波信号を出力するDF変換部25、DF変換部25からの出力によって3相交流を発生するデバイダ部26、デバイダ部26からの出力を電力増幅して高周波電動機8を駆動するドライブ部27、デバイダ部26とドライブ部27とからなる駆動部28、高周波電動機8の回転に応じたパルス列を発生する回転センサ、該パルス列をデコードして回転速度表示データ(rpm)あるいは回転速度入力部17によって設定された回転速度を表すディジタル信号を回転速度表示データに変換するデコーダ部29、設定された回転速度と実際の回転速度とを選択可能に表示する表示部30、とを含んでいる。なお、検出された高周波電動機8の回転速度は、デコーダ29からI/O24を介してCPU21にフィードバックされるので、高周波電動機8の回転速度が所定範囲内になるようにフィードバック制御を行うことが可能である。
【0019】次に、動作について説明する。作業者は、工具4a、4b、4c…各々の回転数入力装置17に予め回転周波数を設定しておく。なお、各工具における電動機の回転速度がいずれかの回転数の一種類で、夫々を都度変更する必要がないときは、ROM23にこれを記憶させ、この回転速度で工具を作動させるようにしても良い。」

(エ) 第3頁第4欄第49行?第4頁第5欄第17行
「【0023】また、工具毎に回転制御部18を内蔵する構成であるので、多種類(トルクの大小、回転数の高低、電動機の回転原理(ブラシレス方式、直流方式、パルス電動機方式など)の相違等)ある電動機の各々の特性に最適の動作特性を持つ回転制御部を使用できる。このため、工作機本体に単一の回転制御部を設け、これにより多種類の高周波電動機を制御する場合に比べて回転制御部の設計の自由度高く、電動機を回転駆動するインバータのV-F(電圧-周波数)特性等の機器設計が容易である。
【0024】上述の実施例において、回転速度を指定する回転速度入力部として、複数のディジタルスイッチ、ロータリースイッチ、可変抵抗器などを用いてもよく、表示装置30は、これらのツマミの位置や指針により数値や目盛などで表示されるようなものでもよい。このようにして設定された回転速度を中心とする所定範囲内に回転速度が維持されるように、ROM23に制御プログラムを記憶してフィードバック制御を行うようにしてもよい。」

これらの事項より、引用例2には、次の事項(以下「引用例2記載の事項」という。)が記載されていると認める。
「工作機本体3の主軸2に着脱可能に装着される工具4aにおいて、
ワークWを加工するドリル刃6と、
前記ドリル刃6を駆動す電動機と、
回転制御部18と、
前記電動機の回転速度を検出する回転センサとを有し、
前記回転制御部18は、前記回転センサによって検出された回転速度に基づいて、前記電動機の回転数を所望の回転数に維持するように制御すること。」

(3) 対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ホルダー」及び「工具」は、本件補正発明の「主軸」及び「加工具」に、それぞれ相当しており、引用発明の「スピンドル、カバー部材、工具把持部材等からなる速度増減装置」は本件補正発明の「工具」に相当していることが明らかである。
また、引用発明の「同期発電機」は、同期発電機という限りで本件補正発明の「三相同期発電機」と一致しており、引用発明の「誘導モータ」は誘導電動機という限りで本件補正発明の「三相誘導電動機」と一致している。
さらに、引用発明の「発電機の発電した交流電力を電動機に供給する手段」は、発電機の発電した交流電力を電動機に供給する手段であるという限りで、本件補正発明の「発電機の発電した交流電力を直流電力に変換するコンバータ、当該コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換し、電動機に供給するインバータ及び前記インバータにより変換される交流電力の周波数を制御する制御回路を有する制御手段」と一致している。
したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。
[一致点]
「工作機械の主軸に着脱可能に装着される工具であって、
ワークを加工する加工具と、
前記加工具を駆動する誘導電動機と、
前記主軸の回転力により前記主軸の回転数に応じた周波数の交流電力を発生する同期発電機と、
前記発電機の発電した交流電力を前記誘導電動機に供給する手段とを有する
工具。」である点。
[相違点1]
本件補正発明では、同期発電機の発電した交流電力を誘導電動機に供給する手段が、同期発電機の発電した交流電力を直流電力に変換するコンバータ、当該コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換し、誘導電動機に供給するインバータ及び前記インバータにより変換される交流電力の周波数を制御する制御回路を有する制御手段であって、前記誘導電動機の駆動状態を検出する駆動状態検出手段を有し、前記制御回路は、前記駆動状態検出手段によって検出された情報に基づいて、前記誘導電動機の回転数を所望の回転数に維持するように、前記インバータにより変換される交流電力の周波数を制御するものであるのに対し、引用発明では、そのようなものではない点。
[相違点2]
同期発電機及び誘導電動機が、本件補正発明では、三相同期発電機及び三相誘導電動機であるのに対し、引用発明では、そのようなものであるのか明らかではない点。

(4) 相違点についての検討
ア 相違点1について
引用発明においては、誘導電動機の速度の増減を任意に設定するために同期発電機と誘導電動機との極数の比を変更しているが、誘導電動機の速度制御手段として、交流電力を直流電力に変換するコンバータ、当該コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換し、誘導電動機に供給するインバータ及び前記インバータにより変換される交流電力の周波数を制御することは従来周知の事項にすぎない(例えば、上記引用例2の段落【0023】にも、「電動機を回転駆動するインバータのV-F(電圧-周波数)特性等の機器設計が容易である。」と記載されている。)。
してみると、引用発明において上記周知の事項を採用し、同期発電機の発電した交流電力を直流電力に変換するコンバータ、当該コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換し、誘導電動機に供給するインバータ及び前記インバータにより変換される交流電力の周波数を制御する制御回路を有する制御手段を備え、前記誘導電動機の回転数を所望の回転数に維持するように、前記インバータにより変換される交流電力の周波数を制御することは当業者が容易になし得たことである。
一方、引用例2には、上記(2)イに示したとおりの事項が記載されており、引用例2記載の事項の「工作機本体」は、本件補正発明の「工作機械」に相当しており、以下同様に、「ドリル刃」は「加工具」に、「回転速度」は「駆動状態」に、「回転センサ」は「駆動状態検出手段」に、「回転制御部」は「制御回路」にそれぞれ相当していることが明らかである。そうすると、引用例2には、「工作機械の主軸に着脱可能に装着される工具において、ワークを加工する加工具と、前記加工具を駆動する電動機と、制御回路と、前記電動機の駆動状態を検出する駆動状態検出手段とを有し、前記制御回路は、前記駆動状態検出手段によって検出された情報に基づいて、前記電動機の回転数を所望の回転数に維持するように制御すること」が記載されているとすることができる。
引用発明においても誘導電動機の回転数を所望の回転数に維持するに当たって電動機の駆動状態に応じて制御をすべきことは明らかであるから、引用発明に上記従来周知の事項及び引用例2記載の事項を採用することにより、誘導電動機の駆動状態を検出する駆動状態検出手段をさらに備え、前記駆動状態検出手段によって検出された情報に基づいて、前記誘導電動機の回転数を所望の回転数に維持するように、前記インバータにより変換される交流電力の周波数を制御するよう制御回路を構成することは当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
三相同期発電機及び三相誘導電動機は、例示するまでもなくそれぞれ従来周知であるから、引用発明において、同期発電機として三相同期発電機を採用し、誘導モータすなわち誘導電動機として三相誘導電動機を採用することに格別の困難性はない。

ウ 作用効果について
本件補正発明の作用効果についてみても、引用発明、引用例2記載の事項及び従来周知事項から当業者が予測できる範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。

したがって、本件補正発明は、引用発明、引用例2記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は平成20年7月29日付け回答書において、概略、
「引用文献1(特開平05-177485号公報)は、主軸の回転を制御する制御手段(NC装置)を示唆する記載しかありません。
また、引用文献2(特開2001-079727号公報)は、工具内に設けられた制御手段を開示しているものの、引用文献2の技術は、主軸の代わりに工具内の電動機を回転させるものであることから、引用文献2の工具内の制御手段は、主軸の回転を制御する制御手段と、機能において同一です。
従って、引用文献1及び2は、本願発明の制御手段(要件D)に相当する制御手段を開示しておらず、引用文献1及び2を組み合わせても本願発明は得られません。
また、本願発明は、主軸の回転によって駆動される加工具の回転を主軸の回転とは独立的に制御する(出願当初明細書の段落0008参照)という新たな技術的思想を有するものであり、そのような技術的思想は、引用文献1及び2には、開示も示唆もありません。」と主張している。
この点について、上述のとおり、引用発明においては、誘導電動機の速度の増減を任意に設定するために同期発電機と誘導電動機との極数の比を変更しているが、誘導電動機の速度制御手段として、交流電力を直流電力に変換するコンバータ、当該コンバータから供給された直流電力を交流電力に変換し、誘導電動機に供給するインバータ及び前記インバータにより変換される交流電力の周波数を制御することは従来周知の事項にすぎないものである。請求人の主張する要件Dは、「工具(60)内に電動機(80)を駆動制御する制御手段(200、210及び230)が設けられていること」とされているが、請求項1の記載からは必ずしも制御手段を「工具内」に設けることが特定されているとは認められない。仮にそのように特定されていると解されたとしても、上記コンバータ及びインバータからなる制御手段は同期発電機と誘導電動機の間に介在されるものであるところ、引用発明では同期発電機と誘導電動機は工具内に設けられており、また、制御手段をできるだけ制御対象の近くに配置することも当業者が普通に行う設計的事項であるから、引用発明に上記周知の事項を採用するに当たり工具内に上記制御手段を設けることは当業者が容易になし得たことというべきである。
また、主軸の回転によって駆動される加工具の回転を主軸の回転とは独立的に制御する点についても、引用発明に上記従来周知の事項及び引用例2記載の事項を採用することにより当然生じる効果にすぎない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

3 むすび
以上のとおりであるので、本件補正は、平成18年法律第55号による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1乃至3に係る発明は、願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)の補正前の請求項1に示したとおりである。

2 引用例記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用例は、上記引用例1(特開平5-177485号公報)及び引用例2(特開2001-79727号公報)であり、その記載事項は、上記第2の2(2)ア及びイに示したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記第2の2で述べたとおり、本件補正発明の特定事項から、上記限定事項が省かれたものである。
そうすると、本願発明の特定事項の全てを含みさらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の2(4)で検討したとおり、引用発明、引用例2記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明についても、同様の理由により引用発明、引用例2記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-16 
結審通知日 2008-09-24 
審決日 2008-10-08 
出願番号 特願2001-357577(P2001-357577)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B23Q)
P 1 8・ 121- Z (B23Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 筑波 茂樹大川 登志男  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 鈴木 孝幸
福島 和幸
発明の名称 工具、工具ホルダおよび工作機械  
代理人 佐藤 隆久  

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