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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20053934 審決 特許
不服200717860 審決 特許
不服200711731 審決 特許
不服200220454 審決 特許
不服20061033 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1188318
審判番号 不服2005-15641  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-15 
確定日 2008-11-19 
事件の表示 特願2002- 29691「成長因子中和剤含有医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月25日出願公開、特開2002-275094〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成4年3月30日(パリ条約による優先権主張 1991年3月28日 英国)を国際出願日とする平成4年特許願第506944号の一部を平成14年2月6日に新たな特許出願としたものであって、平成17年5月13日付で拒絶査定がされ、これに対して、平成17年8月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月14日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明

本願の請求項1?16に係る発明は、平成17年9月14日付の手続補正書により補正された明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1?16に記載されたものであって、そのうち請求項1は以下のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)

「 【請求項1】創傷の治療中の瘢痕組織の形成を抑制するための組成物であって、TGFβ-1、TGFβ-2およびPDGFから選ばれる少なくとも1種類の線維性成長因子にのみ特異的に効果のある、成長因子中和剤を含有することを特徴とする医薬組成物であって、成長因子中和剤が成長因子mRNAに対するアンチセンス・オリゴヌクレオチドである組成物。 」

3.原査定の理由の概要

原査定の理由の概要は、明細書において、瘢痕形成を抑制する作用を確認した実施例が記載されているのは成長因子に対する中和抗体を用いた場合のみにとどまり、その他の成長因子中和作用を有する種々の化合物が瘢痕形成を抑制する作用を有すると一般に認識できる程度の薬理試験が示されておらず、また、本願出願時の技術常識を考慮しても、成長因子mRNAに対するアンチセンスを始めとする中和抗体以外の成長因子中和作用を有する種々の化合物が、実施例に示された中和抗体と同様、瘢痕形成を抑制する作用を奏するとは認められないので、本願明細書の記載は、特許法第36条第4項の規定(平成5年改正前特許法)を満たしていない、というものである。

4.当審の判断

(1)医薬用途発明の記載要件
本願発明は、有効成分の「TGFβ-1、TGFβ-2およびPDGFから選ばれる少なくとも1種類の線維性成長因子にのみ特異的に効果のある成長因子中和剤である、成長因子mRNAに対するアンチセンス・オリゴヌクレオチド」を、「創傷の治療中の瘢痕組織の形成を抑制するため」という医薬用途に使用する、医薬についての用途発明である。
医薬についての用途発明においては、一般に、有効成分の物質名、化学構造からその有用性を予測することは困難であり、明細書に有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても、それだけでは当該成分が実際にその用途における有用性を有するか否か当業者は知ることができないから、明細書に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途の有用性を裏付ける必要があり、それがなされていない発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないこととなる。
そして、明細書における薬理データと同視すべき程度の記載とは、ある医薬用途における有用性を有するとされる化学物質がどのような薬理効果を有しているか、また、どのように使用すれば目的とする薬理効果が得られるかについて、当業者がこれを理解することのできるような記載であり、明細書の記載をこのように理解するために当業者が利用することができるものは、出願時に当業者が有する技術常識である。
よって、かかる観点から本願明細書の記載を検討する。

(2)有効成分の記載について
上記したように、明細書における薬理データと同視すべき程度の記載とは、当業者が医薬用途において有用性を有するとされる化学物質がどのような薬理効果を有しているかを理解し、どのように使用すれば目的とする薬理効果が得られるかを理解することができるような記載であり、そのためには、医薬用途において有用性を有するとされる化学物質が具体的にどのようなものであるかについて当業者が理解できる程度に記載されている必要がある。
そこで、本願発明で、医薬用途において有用性を有するとされる化学物質である「成長因子mRNAに対するアンチセンス・オリゴヌクレオチド」(以下、「本願アンチセンス」ということがある)に関して、該化学物質が具体的にどのようなものであるかについて、当業者が理解できるように明細書に記載されているかどうかについて、まず検討する。
本願アンチセンスは、タンパク質の一種である成長因子を産生するために、そのアミノ酸配列情報をもつDNAから塩基配列を写し取って合成されたmRNAに対して、その相補的な配列をもつオリゴペプチドを意味するものであり、mRNAと結合することにより、mRNAのアミノ酸配列情報伝達作用を阻害し、目的とする成長因子の産生を妨げる機能をもつ物質である。
本願アンチセンスは、オリゴヌクレオチドの一種であり、通常、塩基配列によってその具体的構造が示されるのであるから、たとえば、本願明細書中、塩基配列によってその具体的構造が具体的に記載されている場合には、本願アンチセンスについて当業者が理解できる程度に記載されているといえる。
また、当該塩基配列が本願明細書中に示されていない場合であっても、その産生の阻害を目的とする成長因子のmRNA配列、又は当該成長因子を発現するDNAの塩基配列を知ることができるならば、それを手がかりにしてアンチセンス・オリゴヌクレオチドの配列を知ることが理論的に可能であり、間接的にその具体的構造について理解しうるものといえる。
そこで、上記観点に基づいて、本願明細書における本願アンチセンスに関する記載を以下、摘記し、検討する。

(A)「…識別され、分類されているこのような成長因子は、一般的に、特殊化した可溶性タンパク質またはポリペプチドであり、形質転換成長因子アルファ(TGF-α)、形質転換成長因子ベータ(TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3等)、血小板誘導成長因子(PDGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、インスリン様成長因子I、II(IGFI、IGFII)および酸性、塩基性線維芽細胞成長因子(酸性FGFおよび塩基性FGF)を含む。これらの成長因子の多くは、DNA再結合技術を用いる遺伝子工学によってすでに作られている。
これらの成長因子についての総括的な評論が、Clinics in Plastic Surgery、第17巻、第3号、1990年7月号の第421-432頁のMary H McGrathの論文および Annual Reports in Medicinal Chemistry、1988年、第24章(Academic Press, Inc. 発刊)のGeorge A Ksanderの論文に見られる。これらの文献は参考資料として本文に援用する。」(段落0003?0004)
(B)「…成長因子中和剤は、また、成長因子mRNAにアンチセンス・オリゴヌクレオチドまたはribosyme(s)(共に、mRNAをトランスレートするのを防ぐように作用する)であってもよい。」(段落0006)
(C)「…阻害剤としての1種類または複数種類の成長因子中和剤は、…成長因子のmRNAに対して活性である分子からなるものであってもよい。このような分子としては、トランスレーションを防ぐように1種類または複数種類の成長因子mRNA配列に対して合成された1種類または複数種類のアンチセンス・オリゴヌクレオチドがあり…」(段落0011)

上記した(A)?(C)には、本願アンチセンスに関し、その具体的構造が一つとして記載されていないし、また、本願アンチセンスの構造が記載された文献が引用されているわけでもない。
また、前記した、その産生の阻害を目的とする成長因子のmRNA配列、又は当該成長因子を発現するDNAの塩基配列に関し、上記(A)?(C)の何れをみても記載がない。
そして、特定の成長因子を発現するDNAの塩基配列やこれに対応するmRNAの塩基配列といったものは、ある特定分野に限定された技術事項であって、当業者が日常的な活動範囲で頻繁に取り扱うとか、或いは、目にしたり耳にしたりする技術事項といった性質のものではないので、当業者が広く共通して有するべき技術知識、すなわち技術常識であると認識されていたものとすることもできない。
この点に関して、請求人は、参考資料として本願出願日前後に発行された複数の文献を提示して、本願アンチセンスは、本願出願時、当業者に技術常識として知られていた旨主張するが、提示された文献からは、確かにいくつかの該アンチセンスの塩基配列が本願出願時において公知であったことは認められるものの、当業者の技術常識であるとまでいうことはできない。
したがって、本願アンチセンスについて、その塩基配列の具体的記載を何ら明らかに記載することなく、それが、本願出願時の技術常識であり、明細書の記載が省略可能であるとしてこれを容認することは、当業者に期待しうる以上の知識を要求することとなるから、そのような明細書の記載は、当業者が本願発明を容易に実施できる程度にその発明の構成に欠くことができない事項である有効成分を記載しているものとすることはできない。

(3)薬理活性の記載について
次に、本願発明において、有効成分である本願アンチセンスが、瘢痕組織の形成抑制という薬理活性を有することについて、薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がなされているかについて、以下検討する。
本願明細書中、上記薬理活性について客観的数値データを伴って具体的に記載されているのは、有効成分として、成長因子に対する中和抗体を使用した例を記載した実施例(段落0016?0024)のみであって、有効成分として本願アンチセンスを使用した場合の薬理活性については、何ら具体的に記載されていない。
ところで、成長因子に対する中和抗体は、成長因子であるタンパク質に結合して、該因子がもつ「細胞を成長させる」という機能を阻害することにより、本願発明の目的である瘢痕組織の形成の抑制を実現するものである。
一方、本願アンチセンスは、成長因子たるタンパク質に直接作用するものではなく、該タンパク質の産生に関与するmRNAに結合して、その翻訳機能を阻害し、結果として成長因子の産生を阻止することによって瘢痕組織の形成の抑制を達成するものである。すなわち、中和抗体とアンチセンスとでは、作用する対象が、成長因子自体であるか、成長因子の産生過程で関与するmRNAであるか、という違いがあるのであるから、その違いによって、適用箇所・適用時期や有効量をも含めた有効性の点で、両者は必ずしも同様の性質を有するものとすることはできないものである。
このような両者の差異を考慮すると、他に何らかの技術的な根拠を示すことなく、成長因子の中和抗体に関する薬理活性の結果に基づいて、本願アンチセンスに関し、その有効量や投与方法すら詳細に記載することなく、中和抗体と同様な活性があるとすることは、技術的に妥当なことであるといえないし、また、本願明細書をみてもその技術的根拠についての記載はない。
そうすると、本願アンチセンスが瘢痕組織の形成抑制という薬理効果を有することについて、本願明細書に、薬理データ、又はそれと同視しうる記載がなされているものといえないし、また本出願時、成長因子に対する中和抗体についての薬理活性が確認されれば、その結果をもって成長因子mRNAに対するアンチセンス・オリゴヌクレオチドも同様な薬理活性を有する、との技術常識があったものということはできない。
なお、請求人は、参考資料を提示して、中和抗体とアンチセンスの機能等価性が本願出願前に知られていた旨主張しているが、提示された文献の発行日は何れも本願出願日と同年若しくは前年のものであって、しかも、該機能等価性が学術論文として発表するに値する内容であるとすれば、むしろ、そのことは、論文発表時点において少なくとも技術常識とまでいえなかったことを示唆するものと解するのが相当である。特に、PDGFに関する中和抗体とアンチセンスの機能等価性については、これを示す文献は提示されておらず、該機能等価性が本出願時において技術常識であったとすることはできない。

(4)小括
以上のとおり、本願明細書には、本願出願時の技術常識を考慮したとしても、医薬用途発明である本願発明の構成に欠くことができない事項、すなわち、有効成分である成長因子mRNAに対するアンチセンス・オリゴヌクレオチドに関しても、また薬理活性に関しても、当業者が本願発明を容易に実施できる程度に記載されているものとすることはできない。

5.むすび

本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-11 
結審通知日 2008-06-17 
審決日 2008-07-09 
出願番号 特願2002-29691(P2002-29691)
審決分類 P 1 8・ 534- Z (A61K)
P 1 8・ 531- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松波 由美子  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 瀬下 浩一
穴吹 智子
発明の名称 成長因子中和剤含有医薬組成物  
代理人 田村 恭生  
代理人 齋藤 みの里  
代理人 青山 葆  

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