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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1188337
審判番号 不服2007-3816  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-08 
確定日 2008-11-19 
事件の表示 特願2001-338256「高温強度部材」拒絶査定不服審判事件〔平成15年5月21日出願公開、特開2003-147464〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年11月2日の出願であって、平成18年11月29日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成19年2月8日に拒絶査定不服審判の請求がされ、平成20年6月6日付けで当審より拒絶の理由が通知され、同年8月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本願に係る発明は、平成20年8月11日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものである。そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「塑性加工や衝撃、疲労あるいは熱疲労損傷を受けたNi基単結晶合金製基材もしくはNi基一方向凝固合金製基材の表面に、Bを0.1?5.0mass%含み、かつCr:5?30mass%,Co:≦70mass%,Mo:≦8mass%,Al:1?18mass%,Ta:1?5mass%,W:≦15mass%,Re:0.5?3.5mass%,Zr:0.01?1.8mass%,Hf:0.01?1.8mass%,Y:0.3?5mass%,Si:0.3?5mass%,Pt:0.3?5mass%,Ti:0.3?5mass%およびFe:0.3?5mass%から選ばれる2種以上の元素を含み、残部が75mass%以下のNiからなるB含有合金の、酸素量が1.5mass%未満である皮膜を形成してなる高温強度部材。」

3.当審拒絶理由の概要
当審より通知された拒絶の理由のうちの一つの概要は、次のとおりのものである。

本願請求項1?6に係る発明は、その出願前頒布された下記刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:国際公開99/66089号

刊行物2:特開2001-288554号公報

4.引用刊行物とその記載事項
当審より通知された拒絶の理由で引用された刊行物1(国際公開99/66089号)及び刊行物2(特開2001-288554号公報)には、それぞれ、次の事項が記載されている。

(1)刊行物1:国際公開99/66089号
(1a)「【請求項1】粒界強化効果のある元素の含有量が低いNi基単結晶合金の表面に、Zr、Hf、B及びCよりなる群の粒界強化元素の少なくとも1種以上を含むNi基合金を層状に被覆してNi基合金被覆を形成し、Ni基単結晶合金が再結晶を起こさない温度で熱処理をして、該Ni基単結晶合金の表面のみに上記粒界強化元素を拡散させた再結晶割れ防止被覆層を形成したことを特徴とする再結晶割れ防止被覆を有するNi基単結晶合金。
【請求項2】上記Ni基単結晶合金の組成が、0.02wt%以下のZrと、0.3wt%以下のHfと、0.02wt%以下のCと、0.01wt%以下のBとを含むことを特徴とする請求項1に記載の再結晶割れ防止被覆を有するNi基単結晶合金。
【請求項3】上記Ni基合金被覆の組成が、0.1wt%以下のZrと、10wt%以下のHfと、0.1wt%以下のBと、0.5wt%以下のCの少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の再結晶割れ防止被覆を有するNi基単結晶合金。」

(1b)「[実施例]
以下、本発明の具体的な例を挙げ、本発明の効果をより明らかにする。
(実施例1)
実施例1においては、母材であるNi基単結晶合金部材として、米国特許第4,582,548号公報に記載されているCMSX-2(キャノンマスケゴン社の製品名)を用いた。このCMSX-2の典型組成は、重量%で、4.3?4.9%のCo、7.5?8.2%のCr、0.3?0.7%のMo、7.6?8.4%のW、5.8?6.2%のTa、5.45?6.2%のAl、0.8?1.2%のTi、及び残部がNiである。
まず、上記Ni基単結晶合金部材の表面に、グリッドブラストを用いて加工歪を付与した後に、再結晶割れ防止被覆となるNi基合金被覆を低圧プラズマ溶射法により厚さ約100μmに形成した。該Ni基合金被覆の組成は、重量%で、0.1%のZr、0.1%のB、7.5%のCr、4%のCo、0.5%のMo、7.5%のW、6%のTa、1%のTi、5.5%のAl、及び残部がNiからなる。その後、上記再結晶割れ防止被覆の中のZr及びBを、母材であるNi基単結晶合金中に拡散させるために、1100℃で8時間真空熱処理を行い、CMSX-2単結晶合金の溶体化処理を模した1200℃で4時間の熱処理を行ったものを本発明材1とした。」(第6頁第2?19行)

(1c)「産業上の利用可能性
本発明は、例えば、高温度下で用いられるタービンブレードの表面を強化する処理に用いることができる。
また、本発明に係る再結晶割れ防止被覆を有するNi基単結晶合金によれば、再結晶の際に生じた結晶粒界を強化し、再結晶後の材料強度特性を改善することができる。」(第12頁第4?9行)

(2)刊行物2:特開2001-288554号公報
(2a)「【0028】溶射法としては、大気中プラズマ溶射(APS)よりも酸素量の少ない皮膜の形成が可能である低圧プラズマ溶射(VPS)や高速ガス炎溶射法(HVOF)が好ましい。また、このような溶射の前処理として、一般に被溶射面を粗面化する工程があるが、その場合、補修部表面荒さをRaで10μm以下にすることが望ましい。これは、結晶制御された耐熱合金部材は、粗面化処理により変形を受けた部分が熱処理により再結晶化して元の結晶構造が変化したり、多結晶化し易いためである。被溶射面を粗面化する方法として、ガス圧力を2kg/cm^(2)以下に低減したブラスト処理を施したり、または、ブラスト粉末として、硬いアルミナに変えてガラスビーズを用いる方法なども挙げられる。」

5.当審の判断
(1)引用発明
当審より通知された拒絶の理由において引用された刊行物1の上記(1a)には、「・・・再結晶割れ防止被覆を有するNi基単結晶合金。」と記載されており、この「再結晶割れ防止被覆を有するNi基単結晶合金」は、(1c)の「本発明は、例えば、高温度下で用いられるタービンブレードの表面を強化する処理に用いることができる。また、本発明に係る再結晶割れ防止被覆を有するNi基単結晶合金によれば、再結晶の際に生じた結晶粒界を強化し、再結晶後の材料強度特性を改善することができる。」という記載によれば、高温強度に優れたものといえるから、高温強度部材と言い換えることができる。
してみると、刊行物1には、高温強度部材について記載されているといえる。
この「高温強度部材」の具体例である実施例1として(1b)には、「実施例1においては、母材であるNi基単結晶合金部材として、・・・上記Ni基単結晶合金部材の表面に、グリッドブラストを用いて加工歪を付与した後に、再結晶割れ防止被覆となるNi基合金被覆を低圧プラズマ溶射法により厚さ約100μmに形成した。該Ni基合金被覆の組成は、重量%で、0.1%のZr、0.1%のB、7.5%のCr、4%のCo、0.5%のMo、7.5%のW、6%のTa、1%のTi、5.5%のAl、及び残部がNiからなる。」と記載されており、この記載によれば、刊行物1には、母材であるNi基単結晶合金部材の表面に、グリッドブラストを用いて加工歪を付与した後に、組成が重量%で、0.1%のZr、0.1%のB、7.5%のCr、4%のCo、0.5%のMo、7.5%のW、6%のTa、1%のTi、5.5%のAl、及び残部がNiからなる、再結晶割れ防止被覆となるNi基合金被覆を低圧プラズマ溶射法により形成することが記載されているといえる。この高温強度部材のNi基単結晶合金部材は、再結晶割れ防止被覆を有するものであるから、「Ni基単結晶合金製基材」ということができる。この「Ni基単結晶合金製基材」は、(1b)の「Ni基単結晶合金部材の表面に、グリッドブラストを用いて加工歪を付与した後に、再結晶割れ防止被覆となるNi基合金被覆を低圧プラズマ溶射法により厚さ約100μmに形成した。」という記載によれば、「グリッドブラストを用いて加工歪を付与」とは、塑性加工や衝撃に相当するものといえるから、塑性加工や衝撃を受けたものといえる。上記(1b)に記載の「被覆」及び「wt%」は、それぞれ、「皮膜」及び「mass%」と言い換えることができる。
刊行物1の上記記載及び該記載事項から認定した上記事項を、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「塑性加工や衝撃を受けたNi基単結晶合金製基材の表面に、Bを0.1mass%含み、かつCr:7.5mass%,Co:4mass%,Mo:0.5mass%,Al:5.5mass%,Ta:6mass%,W:7.5mass%,Zr:0.1mass%,Ti:1mass%を含み、残部が67.8mass%のNiからなるB含有合金の、低圧プラズマ溶射法により皮膜を形成してなる高温強度部材。」

(2)本願発明と引用発明との対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「塑性加工や衝撃を受けたNi基単結晶合金製基材の表面に、Bを0.1mass%含み、かつCr:7.5mass%,Co:4mass%,Mo:0.5mass%,Al:5.5mass%,W:7.5mass%,Zr:0.1mass%,Ti:1mass%,Taを含み、残部が67.8mass%のNiからなるB含有合金の、皮膜を形成してなる高温強度部材。」という点で一致し、次の点で相違するといえる。

相違点(イ)
皮膜中のTa量が、本願発明は、「1?5mass%」であるのに対して、引用発明は、6mass%である点

相違点(ロ)
皮膜中の酸素量が、本願発明は、「1.5mass%未満」であるのに対して、引用発明は、不明である点

(3)相違点の検討
そこで、上記相違点について、検討する。
(3-1)相違点(イ)について
皮膜中のTa量について、刊行物1の特許請求の範囲では、規定されていないことから、Taは、刊行物1の特許請求の範囲に記載の発明の皮膜中の必須の成分とはいえず、適宜添加し得る成分といえる。そして、刊行物1の特許請求の範囲に記載の発明の具体例から導出された引用発明における、Ta量の6mass%を、これより少ない量の範囲である1?5mass%の程度にすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることといえる。
してみると、この相違点は、当業者が容易に想到することといえる。

(3-2)相違点(ロ)について
引用発明の皮膜は、低圧プラズマ溶射法により形成されるものであり、一方、低圧プラズマ溶射法は、刊行物2の(2a)に「溶射法としては、大気中プラズマ溶射(APS)よりも酸素量の少ない皮膜の形成が可能である低圧プラズマ溶射(VPS)や高速ガス炎溶射法(HVOF)が好ましい。」と記載されているように、酸素量の少ない皮膜の形成が可能であるものといえるから、引用発明の皮膜も、酸素量の少ないものを形成するものといえる。そして、この皮膜中の酸素量の少なさの程度として、その上限値を限定することは、当業者が所望に応じて適宜なし得ることといえる。
してみると、この相違点は、当業者が容易に想到することといえる。

(4)小括
したがって、本願発明は、引用発明と、刊行物1及び刊行物2に記載の事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

6.結び
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その他の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-02 
結審通知日 2008-09-09 
審決日 2008-09-24 
出願番号 特願2001-338256(P2001-338256)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近野 光知  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 坂本 薫昭
平塚 義三
発明の名称 高温強度部材  
代理人 小川 順三  
代理人 中村 盛夫  

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