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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1188576
審判番号 不服2007-6456  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-02 
確定日 2008-11-25 
事件の表示 平成 9年特許願第212732号「密封転がり軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 3月24日出願公開、特開平10- 78038〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成9年7月24日(パリ条約により優先権主張1996年8月9日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成18年12月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年3月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで明細書について手続補正がなされたものである。

2 平成19年3月2日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年3月2日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
2-1 補正事項
本件補正は、補正前の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、
「少なくとも片側に密封板が一方の軌道輪に取り付けられている密封転がり軸受において、密封板が円環板状の基板部(5)に結合されて軸方向に延びる二つの円筒部分(6,7)を有し、上記一方の軌道輪(1)の軌道面との境界位置まで単一に延びる円周面として形成された肩部円周面(8)に上記密封板の一方の円筒部分(6)が取り付けられ、他方の軌道輪(2)の軌道面との境界位置まで単一に延びる円周面として形成された肩部円周面(10)に上記密封板の他方の円筒部分(7)が環状隙間を形成した状態で上記他方の軌道輪に対向して位置しており、密封板の基板部(5)が、半径方向での部分的範囲にて、軸方向で軸受端面よりも軸受外部側に突出するように屈曲形成されていることを特徴とする密封転がり軸受。」
を、
「少なくとも片側に密封板が一方の軌道輪に取り付けられている密封転がり軸受において、密封板が円環板状の基板部(5)に結合されて軸方向に延びる二つの円筒部分(6,7)を有し、上記一方の軌道輪(1)の軌道面との境界位置まで軸方向で単一に延びる円周面として形成された肩部円周面(8)に上記密封板の一方の円筒部分(6)が取り付けられ、他方の軌道輪(2)の軌道面との境界位置まで軸方向で単一に延びる円周面として形成された肩部円周面(10)に上記密封板の他方の円筒部分(7)が環状隙間を形成した状態で上記他方の軌道輪に対向して位置しており、密封板の基板部(5)が、半径方向で他方の円筒部分(7)側に位置する部分的範囲にて、軸方向で軸受端面よりも軸受外部側に突出するように屈曲形成されており、上記密封板の内外両円筒部分(6,7)が保持器(3)の側輪(12)を包囲して配置され、上記一方の円筒部分(6)が保持器(3)を半径方向に案内するための案内面を有して形成されていることを特徴とする密封転がり軸受。」
とする補正を含んでいる。なお、下線は対比の便のために当審において付したものである。

2-2 補正の目的・新規事項の有無
上記補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項に基づいて、補正前の請求項1に記載された「上記一方の軌道輪(1)の軌道面との境界位置まで単一に延びる円周面として形成された肩部円周面(8)」を「上記一方の軌道輪(1)の軌道面との境界位置まで軸方向で単一に延びる円周面として形成された肩部円周面(8)」と、同様に「他方の軌道輪(2)の軌道面との境界位置まで単一に延びる円周面として形成された肩部円周面(10)」を「他方の軌道輪(2)の軌道面との境界位置まで軸方向で単一に延びる円周面として形成された肩部円周面(10)」と、「密封板の基板部(5)が、半径方向での部分的範囲にて」を「密封板の基板部(5)が、半径方向で他方の円筒部分(7)側に位置する部分的範囲にて」と、それぞれ限定して特定するとともに、補正前の請求項1に記載された「二つの円筒部分(6,7)」に関して、「上記密封板の内外両円筒部分(6,7)が保持器(3)の側輪(12)を包囲して配置され、上記一方の円筒部分(6)が保持器(3)を半径方向に案内するための案内面を有して」と、限定して特定するものであるから、新規事項を追加するものではなく、発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲で、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
よって、本件補正の目的は、平成15年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する目的に合致する。

2-3 独立特許要件
そこで、上記の特許請求の範囲の減縮を目的とした補正を含む補正後の本願発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2-3-1 本願補正発明
補正後の本願請求項1に係る発明は、平成18年9月21日付け及び平成19年3月2日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下、「本願補正発明」という。)
「少なくとも片側に密封板が一方の軌道輪に取り付けられている密封転がり軸受において、密封板が円環板状の基板部(5)に結合されて軸方向に延びる二つの円筒部分(6,7)を有し、上記一方の軌道輪(1)の軌道面との境界位置まで軸方向で単一に延びる円周面として形成された肩部円周面(8)に上記密封板の一方の円筒部分(6)が取り付けられ、他方の軌道輪(2)の軌道面との境界位置まで軸方向で単一に延びる円周面として形成された肩部円周面(10)に上記密封板の他方の円筒部分(7)が環状隙間を形成した状態で上記他方の軌道輪に対向して位置しており、密封板の基板部(5)が、半径方向で他方の円筒部分(7)側に位置する部分的範囲にて、軸方向で軸受端面よりも軸受外部側に突出するように屈曲形成されており、上記密封板の内外両円筒部分(6,7)が保持器(3)の側輪(12)を包囲して配置され、上記一方の円筒部分(6)が保持器(3)を半径方向に案内するための案内面を有して形成されていることを特徴とする密封転がり軸受。」

2-3-2 引用例及びその記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願平2-81255号(実開平4-39329号)のマイクロフィルム(以下、「第1引用例」という。)には、「総ころ形複列外向き円すいころ軸受」に関して、図面とともに次の記載がある。
(ア) 「この考案は、クレーンシーブ等に使用される総ころ形複列外向き円すいころ軸受に関する。」(第1ページ第18行及び第19行)
(イ) 「各複列円筒ころ軸受(2)は、第4図に示されるように、内輪(22)、外輪(24)、内・外輪(22、24)間に介在する複列の円筒ころ(26)、および外輪(24)の両端部内径面に嵌着したシールド板(28)を主要な構成要素としている。…外輪(24)に取り付けられたシールド板(28)は、外輪(24)の内径面との嵌合シメシロによって保持され、軸受内部空間に充填された潤滑剤の漏洩および外部からの異物の侵入を防止する。」(第2ペ-ジ第8行ないし第3ページ第4行)
(ウ) さらに、前記摘示事項(イ)及び第4図より、シールド板(28)が円環板状の基板部に結合されて軸方向に延びる二つの円筒部分を有している点、シールド板(28)の一方の円筒部分が外輪(24)の軌道面との境界位置まで軸方向に単一に延びる円周面に取り付けられている点、及びシールド板(28)の他方の円筒部分が内輪(22)の軌道面との境界位置まで軸方向で単一に延びる円周面として形成された肩部円周面に環状隙間を形成した状態で内輪(22)に対向して位置している点が看取できる。
以上の点を総合すると、第1引用例には、
「少なくとも片側にシールド板(28)が外輪(24)に取り付けられている円筒ころ軸受において、シールド板(28)が円環板状の基板部に結合されて軸方向に延びる二つの円筒部分を有し、上記外輪(24)の軌道面との境界位置まで軸方向に単一に延びる円周面に上記シールド板(28)の一方の円筒部分が取り付けられ、内輪(22)の軌道面との境界位置まで軸方向で単一に延びる円周面として形成された肩部円周面に上記シールド板(28)の他方の円筒部分が環状隙間を形成した状態で上記内輪(22)に対向して位置している円筒ころ軸受。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願平2-82117号(実開平4-39420号)のマイクロフィルム(以下、「第2引用例」という。)には、「転がり軸受」に関して、図面とともに次の記載がある。
(エ) 「本考案は端部側にシール部材を装着し、かつ、保持器を軌道輪に接触案内させるタイプの転がり軸受に関する。」(第1ページ第12行ないし第14行)
(オ) 「第3図は、シールド板(8)の外周縁部(8a)を軸受内部側に屈曲させて外輪(2)の内径面(2a)に嵌着した実施例を示す。この実施例において、保持器(4)は、外周縁部(8a)の軸受内方側面(8b)に接触案内される。」(第4ページ第8行ないし第12行)

2-3-3 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
後者の「シールド板(28)」は前者の「密封板」に相当し、以下同様に、「外輪(24)」は「一方の軌道輪」に、「内輪(22)」は「他方の軌道輪」に、それぞれ相当する。
また、後者の「円筒ころがり軸受」は少なくとも片側にシールド板(28)が外輪(24)に取り付けられているのであるから、前者でいう「密封転がり軸受」に他ならない。
したがって、両者は、本願補正発明の表記に倣えば、
「少なくとも片側に密封板が一方の軌道輪に取り付けられている密封転がり軸受において、密封板が円環板状の基板部に結合されて軸方向に延びる二つの円筒部分を有し、上記一方の軌道輪の軌道面との境界位置まで軸方向で単一に延びる円周面に上記密封板の一方の円筒部分が取り付けられ、他方の軌道輪の軌道面との境界位置まで軸方向で単一に延びる円周面として形成された肩部円周面に上記密封板の他方の円筒部分が環状隙間を形成した状態で上記他方の軌道輪に対向して位置している密封転がり軸受。」である点で一致し、次の点で相違している。
〈相違点1〉
本願補正発明は、上記一方の軌道輪(1)の軌道面との境界位置まで軸方向で単一に延びる円周面「として形成された肩部円周面(8)」に上記密封板の一方の円筒部分(6)が取り付けられているのに対し、引用発明は、上記外輪(24)の軌道面との境界位置まで軸方向に単一に延びる円周面に上記シールド板(28)の一方の円筒部分が取り付けられている点。
〈相違点2〉
本願補正発明は、「密封板の基板部(5)が、半径方向で他方の円筒部分(7)側に位置する部分的範囲にて、軸方向で軸受端面よりも軸受外部側に突出するように屈曲形成されて」いるのに対し、引用発明は、シールド板(28)の基板部が上記したような構成を具備していない点。
〈相違点3〉
本願補正発明は、「上記密封板の内外両円筒部分(6,7)が保持器(3)の側輪(12)を包囲して配置され、上記一方の円筒部分(6)が保持器(3)を半径方向に案内するための案内面を有して形成されている」のに対し、引用発明は、シールド板(28)の内外両円筒部分が上記したような構成を具備しておらず、シールド板(28)の一方の円筒部分が保持器の案内面を有して形成されていない点。

2-3-4 相違点の判断
〈相違点1〉に対し
両軌道輪の軌道面との境界位置まで軸方向で単一に延びる円周面として肩部円周面を形成した転がり軸受(円筒ころ軸受)は、例示するまでもなく従来周知の技術であるので、前記周知の技術を鑑み、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものと認める。

〈相違点2〉に対し
密封板の基板部を、半径方向で他方の円筒部分側に位置する部分的範囲にて屈曲形成することは、従来周知の技術(例えば、実願昭62-181125号(実開平1-85526号)のマイクロフィルムの第1図の密封板401・402、実願昭56-112307号(実開昭58-19123号)のマイクロフィルムの第3図の外輪シールド板7、実公昭47-1604号公報の第3図のシールド板4、及び実願昭57-160555号(実開昭59-63222号)のマイクロフィルムの第2図のシールド板(50)を参照されたい。)である。
引用発明と前記周知の技術は、ともに軸受の密封に関する技術であって、引用発明に前記周知の技術を適用することを妨げる特段の事情も見受けられない。さらには、屈曲形成する部分を軸方向で軸受端面よりも軸受外部側に突出するようにすることも、当業者が適宜なし得る設計変更の域を出ないものと認める。
したがって、引用発明に前記周知の技術を適用し、その際、屈曲形成する部分を軸方向で軸受端面よりも軸受外部側に突出するようにして、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものと認める。

〈相違点3〉に対し
前記摘示事項(エ)及び(オ)並びに第3図によれば、第2引用例には「保持器(4)は、シールド板(8)の外周縁部(8a)の軸受内方側面(8b)に接触案内される」事項が記載されているものと認める。ここで、第2引用例に記載された「シールド板(8)の外周縁部(8a)」は、その機能から見て、本願補正発明の「一方の円筒部分(6)」に相当するので、第2引用例には、上記相違点3に係る事項のうち、「上記一方の円筒部分(6)が保持器(3)を半径方向に案内するための案内面を有して形成されている」なる事項が記載又は示唆されているといえる。
引用発明と第2引用例に記載された事項は、ともに転がり軸受の密封板に関する技術であって、引用発明に第2引用例に記載された事項を適用することを妨げる特段の事情も見受けられない。そして、引用発明に第2引用例に記載された事項を適用した際には、シールド板(28)の内外両円筒部分が保持器の側輪を包囲して配置されることは、当業者が容易に認識できる事項である。
したがって、引用発明に第2引用例に記載された事項を適用して、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものと認める。

そして、本願補正発明の効果も、引用発明及び第2引用例に記載された事項並び前記各周知の技術から、当業者であれば予測できる程度のものであって格別なものとはいえない。

よって、本願補正発明は、第1引用例及び第2引用例に記載された発明並びに前記各周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、平成19年3月2日付け審判請求書【出願人の主張】〈刊行物と本願発明との比較〉において、「刊行物4(上記「第2引用例」に相当)の第3図には、シールド板8(本願発明の密封板に対応)が外輪2の内周面に装着され該シールド板8の円筒部分の内径部分の内径面2aで保持器4が接触案内される円筒ころ軸受が開示されている。しかし、該シールド板8もその基板部分においては刊行物4の第1図,第2図,第4図に示される上記シール部材と同様に平坦な形状をなしており、屈曲突出させて潤滑剤の貯蔵空間を広く確保できるという本願発明による効果を得ることはできない」と主張している。
しかしながら、刊行物4(第2引用例)には「保持器(4)は、シールド板(8)の外周縁部(8a)の軸受内方側面(8b)に接触案内される」事項が記載されており、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることが、当業者が容易に想到し得るものであることは上述したとおりであって、また、密封板の基板部(5)を屈曲形成させることに関する相違点2に係る事項も、上述したとおり、当業者が容易に想到し得るものであるので、上記審判請求人の主張は採用することができない。

2-3-5 むすび
以上により、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから、請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願発明について
3-1 本願発明
平成19年3月2日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成18年9月21日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は以下のとおりである。(以下、「本願発明」という。)
「少なくとも片側に密封板が一方の軌道輪に取り付けられている密封転がり軸受において、密封板が円環板状の基板部(5)に結合されて軸方向に延びる二つの円筒部分(6,7)を有し、上記一方の軌道輪(1)の軌道面との境界位置まで単一に延びる円周面として形成された肩部円周面(8)に上記密封板の一方の円筒部分(6)が取り付けられ、他方の軌道輪(2)の軌道面との境界位置まで単一に延びる円周面として形成された肩部円周面(10)に上記密封板の他方の円筒部分(7)が環状隙間を形成した状態で上記他方の軌道輪に対向して位置しており、密封板の基板部(5)が、半径方向での部分的範囲にて、軸方向で軸受端面よりも軸受外部側に突出するように屈曲形成されていることを特徴とする密封転がり軸受。」

3-2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された第1引用例の記載事項は、前記[2-3-2 引用例及びその記載事項]に記載したとおりである。

3-3 対比
本願発明と引用発明を対比する。
後者の「シールド板(28)」は前者の「密封板」に相当し、以下同様に、「外輪(24)」は「一方の軌道輪」に、「内輪(22)」は「他方の軌道輪」に、それぞれ相当する。
また、後者の「円筒ころがり軸受」は少なくとも片側にシールド板(28)が外輪(24)に取り付けられているのであるから、前者でいう「密封転がり軸受」に他ならない。
したがって、両者は、本願発明の表記に倣えば、
「少なくとも片側に密封板が一方の軌道輪に取り付けられている密封転がり軸受において、密封板が円環板状の基板部に結合されて軸方向に延びる二つの円筒部分を有し、上記一方の軌道輪の軌道面との境界位置まで単一に延びる円周面に上記密封板の一方の円筒部分が取り付けられ、他方の軌道輪の軌道面との境界位置まで単一に延びる円周面として形成された肩部円周面に上記密封板の他方の円筒部分が環状隙間を形成した状態で上記他方の軌道輪に対向して位置している密封転がり軸受。」である点で一致し、次の点で相違している。
〈相違点4〉
本願発明は、上記一方の軌道輪(1)の軌道面との境界位置まで単一に延びる円周面「として形成された肩部円周面(8)」に上記密封板の一方の円筒部分(6)が取り付けられているのに対し、引用発明は、上記外輪(24)の軌道面との境界位置まで単一に延びる円周面に上記シールド板(28)の一方の円筒部分が取り付けられている点。
〈相違点5〉
本願発明は、「密封板の基板部(5)が、半径方向での部分的範囲にて、軸方向で軸受端面よりも軸受外部側に突出するように屈曲形成されている」のに対し、引用発明は、シールド板(28)の基板部が上記したような構成を具備していない点。

3-4 相違点の判断
〈相違点4〉に対し
両軌道輪の軌道面との境界位置まで単一に延びる円周面として肩部円周面を形成した転がり軸受(円筒ころ軸受)は、例示するまでもなく従来周知の技術であるので、前記周知の技術を鑑み、上記相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものと認める。

〈相違点5〉に対し
密封板の基板部を、半径方向での部分的範囲にて屈曲形成することは、従来周知の技術(例えば、実願昭58-74528号(実開昭59-180016号)のマイクロフィルムの第4図の密封板5の中央部分、実願昭56-112307号(実開昭58-19123号)のマイクロフィルムの第3図の外輪シールド板7、さらには実願昭62-181125号(実開平1-85526号)のマイクロフィルムの第1図の密封板401・402、実公昭47-1604号公報の第3図のシールド板4、及び実願昭57-160555号(実開昭59-63222号)のマイクロフィルムの第2図のシールド板(50)を参照されたい。)である。
引用発明と前記周知の技術は、ともに軸受の密封に関する技術であって、引用発明に前記周知の技術を適用することを妨げる特段の事情も見受けられない。さらには、屈曲形成する部分を軸方向で軸受端面よりも軸受外部側に突出するようにすることも、当業者が適宜なし得る設計変更の域を出ないものと認める。
したがって、引用発明に前記周知の技術を適用し、その際、屈曲形成する部分を軸方向で軸受端面よりも軸受外部側に突出するようにして、上記相違点5に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものと認める。

そして、本願発明の効果も、引用発明及び前記各周知の技術から、当業者であれば予測できる程度のものであって格別なものとはいえない。

よって、本願発明は、第1引用例に記載された発明及び前記各周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上により、本願発明は、第1引用例及び前記各周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それゆえ、本願は、特許請求の範囲の請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-01 
結審通知日 2008-07-02 
審決日 2008-07-15 
出願番号 特願平9-212732
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤田 和英  
特許庁審判長 溝渕 良一
特許庁審判官 水野 治彦
山岸 利治
発明の名称 密封転がり軸受  
代理人 藤岡 徹  

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