• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1188606
審判番号 不服2006-19044  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-31 
確定日 2008-11-26 
事件の表示 特願2001- 14008「電気コネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月 2日出願公開、特開2002-216892〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年1月23日の出願であって平成18年7月28日付けで拒絶査定がなされ(発送:平成18年8月1日)、これに対し、平成18年8月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成18年9月19日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

2.平成18年9月19日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年9月19日付けの手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。「 相手コネクタとの嵌合方向に延びる軸線と平行に複数の端子がハウジングに植設された該ハウジングの外周面にスリーブが取付けられたコネクタ本体と、該コネクタ本体の周面で軸線まわりに回転自在に支持されていて該コネクタ本体を相手コネクタと締結せしめるナットと、該コネクタ本体の後部に取りつけられる曲管状のケーブル管体とを備える電気コネクタにおいて、コネクタ本体は、上記ケーブル管体をコネクタ本体との嵌合位置にて該コネクタ本体に対して上記軸線の方向で固定する後部ナットが軸線方向で上記スリーブの範囲内に位置し軸線方向でケーブル管体とは反対側の部分でコネクタ本体に対しての軸線方向位置規制を受けつつ軸線まわりに回転自在に設けられており、上記後部ナットの内ねじ面とスリーブの外周面との間に、外ねじ部が端部に形成されたケーブル管体の該外ねじ部を受入れるための環状の受入溝が軸線方向でケーブル管体の方に向けて開口して形成され、該受入溝を形成するスリーブの外周面と該受入溝に受入れられるケーブル管体の内周面とが嵌合周面を形成し、上記ケーブル管体の外ねじ部が該受入溝内で上記後部ナットの内ねじ部と螺合して固定され、上記コネクタ本体とケーブル管体は、互いに上記軸線の方向に嵌合することにより該軸線まわりの相対回転動を規制する係合部を有しており、該係合部は上記嵌合周面に形成され互いに軸線方向に係合する突条部と凹条部とを有し周方向で等間隔の複数位置に設けられていることを特徴とする電気コネクタ。」(下線部は補正個所を示す)

(2)補正の目的
本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「後部ナット」について、「軸線方向でケーブル管体とは反対側の部分でコネクタ本体に対しての軸線方向位置規制を受けつつ軸線まわりに回転自在に」設けられているとの限定を付加し、「環状の受入溝」について、「該外ねじ部を受入れるための」ものであり、「軸線方向でケーブル管体の方に向けて開口して」形成されているとの限定を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3)-1 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、米国特許第2371551号明細書(以下「引用例」という)には、図面と共に次の事項が記載されている(翻訳は当審による)。

ア "This invention relates to electrical connectors more particularly for use in aircraft and other precision equipment subject to severe conditions."
「この発明は電気コネクタ、より詳しくは航空機や厳しい環境に置かれる精密機器用の電気コネクタに関する。」(明細書1ページ左欄1?3行)

イ "The body part or plug shell 11,which mates with the body part or receptacle shell 10 to complete a connection , has,as already alluded to, a smooth cylindrical part 38 of a diameter to be just slidingly received within the interior 26 of the shell through the open end 27 of the latter , the interior 26 having a longitudinal key 39 on its inner surface which enters a mating keyway 40 on the exterior of the part 38 to fix a single rotative position of the part 38 with respect to the shell 10. An outwardly directed annular flange 41 limits extent of insertion of the part 11 in the shell 10, and this flange also forms a bearing for an inwardly directed flange 42 of a thirdbody part 12 which functions as a coupling collar for the body part 10 and 11 and is interiorly threaded as at 43(Fig.2) to screw upon the external threads 44 of the body part 10 . Thus rotaion of the coupling collar 12, which turns freely upon the body part 11 faciliated by knurling 45 , causes a telescoping interengagement of the plug part 38 with the shell 10 and forces the prongs 24 into the female contact elements carried by an insulating core 46 housed snugly within the body part 11, one of these female contact elements 47 being shown separately in Fig.4. The core 48 , which is also advantageously of phenolic condensation material , is inserted from the rear open end 48 of the body shell 11 , the shell interior and the core exterior having mating shoulders as at 49 to limit the extent of insertion of the core into the body shell and also having mating key 50 in the interior of its body and keyway 46a in the core to fix a single rotative relationship of these parts."
「結合を完成させるために胴部つまり受容シェル10と対になる、胴部つまりプラグシェル11は、すでに述べたように、シェル10の開口端27を通ってその内側26にちょうど摺動可能に受け入れられるだけの大きさの直径の滑らかな円筒部分38を有する。内側26は長手方向のキー39を内面上に有し、部分38の外側の対になるキー溝40に嵌合して、部分38をシェル10に対して唯一の回転位置関係で固定する。外側に向いた環状フランジ41は胴部11のシェル10への挿入長さを制限し、またこのフランジは、胴部10と11のカプリングカラーとして機能する、胴部10の外ネジ44に螺合する43(図2)で示す内ネジが切られた第三胴部12の内側に向いたフランジ42の軸受けを構成する。このように、カプリングカラー12はローレット45により容易に胴部11上で自由回転し、プラグ部分38とシェル10との間のテレスコピックな嵌合を作りだし、端子突起24を、胴部11内に密に納まった絶縁コア46に支持された雌コンタクト素子に嵌合させる。これらの雌コンタクト素子47の一つを分離して4図に示す。コア46は、同様にフェノール重合材料で形成されるのが好ましく、胴部シェル11の後部開口端48より挿入されるが、シェル内面とコア外面とは胴部シェルへのコアの挿入深さを制限するための対になる肩部49を有し、また同様の対になる胴部内面のキー50とコア側のキー溝46aとを有し、これらの部材を唯一の回転位置関係に固定する。」(明細書1ページ右欄47行?2ページ左欄26行)

ウ "For this purpose, the end of the elbow which adjoins the body shell 11 carries the fully rotatable coupler ring 14 which is interiorly threadedas at 87 to screw upon the external threads 88 of the body shell 11. The coupler ring 14 has a smooth annular flange 89 which rides in an annular counterbore 90 in the rectangular and in this instance square swivel plate 13 , which latter at its corners has tapped holes 91 adapted to mate with registering holes 92 in the square to mate with registering holes 92 in the square face 93 of the elbow casing 15.Machine screws 94 pass freely through the holes 91 to secure the coupler ring 14 to both the swivel plate 13 and the face 93 with the coupler ring flange 89 therebetween. Until the screws 94 are tightened the elbow casing 15 may therefore be swiveled on the coupler ring 14 and located at any position desired in a plane perpendicular to the axis of the coupler ring 14 , as indicated by the broken lines in Fig.3. … When , now, a desired angle has been determined upon for the elbow casing 15, the screws 94 may be tightened and the annular flange 89 of the coupling ring 14 thus clamped between the swivel plate 13 and the face 93 of the elbow casing , the counterbore 90 of the swivel plate 13 being made slightly shallower than the thickness of the annular flange 89 of the coupler ring, so that a clearance 97 remains at all times to permit the desired clamping action to fix the relative rotative relationships of the coupler ring 14 and the elbow casing 15."
「このために、胴部シェル11に隣接するエルボ端には、自由回転可能なカプラリング14があって、それには胴部シェル11の外ネジ88と螺合するための内ネジ87が切ってある。カプラリング14は、矩形、実施例では正方形の旋回板13の環状のカウンターボア90にはまる滑らかな環状フランジ89を有するが、この旋回板は角部に、エルボケーシング15の正方形の面93の位置決め穴92と対になるねじ穴91を有している。マシンボルト94は穴92を自由に通り、旋回板13と面93との間にカプラリングフランジ89をはさんで、両者に対してカプラリング14を固定するために穴91に螺合する。ボルト94を締めるまでは、エルボケーシング15はカプラリング14上で揺動可能であり、3図の破線で示すようにカプラリング14の軸に直交する面内の任意の位置をとることができる。 ・・・(中略)・・・ エルボケーシング15の所望の角度が決定されると、ボルト94は締め付けられカプラリング14の環状フランジ89は旋回板13とエルボケーシングの面93との間に挟持されるが、旋回板13のカウンターボア90はカプラリングの環状フランジ89の厚みよりやや浅く作られているので、クリアランス97はカプラリング14とエルボケーシング15との間の回転位置関係を固定するための挟持動作を常に可能とする。」(明細書3ページ左欄34?73行)

そして、Fig2(図2)には、受容シェル10と胴部シェル11とエルボケーシング15が結合された状態の電気コネクタの断面が図示されている。

さらに、記載「イ」に関連してFig2(図2)には、胴部シェル11にカプリングカラー12が取り付けられ、胴部シェル11の円筒部分38とカプリングカラー12との間の環状の溝部分に受容シェル10が嵌合し、受容シェル10の軸方向に延びる端子突起24が胴部シェル11の内側にある絶縁コア46の軸方向に延びる雌コンタクト素子47に嵌合した状態が示されている。また、記載ウに関連して、胴部シェル11の後部の外ネジ88がカプラリング14の内ネジ87と螺合することによって胴部シェル11がエルボケーシング15に取り付けられている状態が示されている。

上記記載事項について検討すると、まず、引用例には電気コネクタが記載されており(記載「ア」)、記載「イ」に「結合を完成させるために胴部つまり受容シェル10と対になる、胴部つまりプラグシェル11は」とあるように、この電気コネクタは、受容シェル10と対になる、胴部シェルまたはプラグシェル11を有し、記載「ウ」に「胴部シェル11に隣接するエルボ端には、自由回転可能なカプラリング14があって、それには胴部シェル11の外ネジ88と螺合するための内ネジ87が切ってある」とあり、図2にも示されるように、この電気コネクタの胴部シェル11の後部にはカプラリング14を介してエルボケーシング15が取り付けられている。

そして、記載「イ」に「カプリングカラー12はローレット45により容易に胴部11上で自由回転し、プラグ部分38とシェル10との間のテレスコピックな嵌合を作りだし、端子突起24を、胴部11内に密に納まった絶縁コア46に支持された雌コンタクト素子に嵌合させる」とあるように、胴部シェル11には受容シェル10に胴部シェル11を締結させるためのカプリングカラー12がその周面で軸まわりに自由回転可能に設けられており、また、同じく「胴部10と11のカプリングカラーとして機能する、胴部10の外ネジ44に螺合する43(図2)で示す内ネジが切られた第三胴部12」とあるように、このカプリングカラー(第三胴部)12には受容シェル(胴部)10の外ネジ44に螺合する内ネジ43が切られており、記載「イ」に「胴部つまりプラグシェル11は、すでに述べたように、シェル10の開口端27を通ってその内側26にちょうど摺動可能に受け入れられるだけの大きさの直径の滑らかな円筒部分38を有する」とあるように、受容シェル10は、胴部シェル11の円筒部分38とカプリングカラー12との間の環状の溝部分に嵌合して、カプリングカラー12によって締結される。

さらに、記載「イ」に「カプリングカラー12は・・・プラグ部分38とシェル10との間のテレスコピックな嵌合を作りだし、端子突起24を、胴部11内に密に納まった絶縁コア46に支持された雌コンタクト素子に嵌合させる」とあり、図2にも示されるように、胴部シェル11には、受容シェル10との嵌合方向に延びる軸と平行に複数の雌コンタクト素子47が絶縁コア42に設けられているといえる。なお、胴部シェル11における絶縁コア42の外側の円筒状部分を、以下便宜上「シェル部材」と呼ぶ。

加えて、記載「ウ」に、「ボルト94を締めるまでは、エルボケーシング15はカプラリング14上で揺動可能であり」とあるように、カプラリング14及びこれに締結された胴部シェル11は、エルボケーシング15と相対回転可能に支持されるが、同じく「エルボケーシング15の所望の角度が決定されると、ボルト94は締め付けられカプラリング14の環状フランジ89は旋回板13とエルボケーシングの面93との間に挟持され」、「回転位置関係を固定する」とあるように、胴部シェル11とエルボケーシング14は締め付けにより軸まわりの相対回転動を規制する手段を有しているといえる。なお、カプラリング14がエルボケーシング15に対して軸方向位置規制を受けていることは、その構造上明らかである。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という)が記載されている。

「受容シェル10との嵌合方向に延びる軸と平行に複数の雌コンタクト素子47が絶縁コア42に設けられた該絶縁コア42の外周面にシェル部材が取り付けられた胴部シェル11と、該胴部シェル11の周面で軸まわりに自由回転可能に支持されていて、該胴部シェル11を受容シェル10と締結せしめるカプリングカラー12と、該胴部シェル11の後部に取り付けられるエルボケーシング15とを備える電気コネクタにおいて、上記エルボケーシング15を胴部シェル11との嵌合位置にて該胴部シェル11に対して上記軸の方向で固定するカプラリング14がエルボケーシング15に対しての軸方向位置規制をうけつつ軸まわりに回転自在に設けられており、上記カプラリング14の内ネジとシェル部材の外ネジとが螺合して固定され、上記胴部シェル11とエルボケーシング15は締め付けにより該軸まわりの相対回転動を規制する手段を有している電気コネクタ。」

(3)-2対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「受容シェル10」は、本願補正発明の「相手コネクタ」に相当し、以下同様に、「雌コンタクト素子47」は「端子」に、「絶縁コア42」は「ハウジング」に、「シェル部材」は「スリーブ」に、「胴部シェル11」は「コネクタ本体」に、「カプリングカラー12」は「ナット」に、「エルボケーシング15」は「ケーブル管体」に、「電気コネクタ」は「電気コネクタ」に、それぞれ相当する。

また、引用発明の「カプラリング14」は、コネクタ本体(胴部シェル11)のケーブル管体(エルボケーシング15)側、すなわち「コネクタ本体の後部」に位置し、コネクタ本体とケーブル管体とを固定するための「ナット部材」であるから、本願補正発明における「後部ナット」に相当している。

そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。

(一致点)
「相手コネクタとの嵌合方向に延びる軸線と平行に複数の端子がハウジングに植設された該ハウジングの外周面にスリーブが取付けられたコネクタ本体と、該コネクタ本体の周面で軸線まわりに回転自在に支持されていて該コネクタ本体を相手コネクタと締結せしめるナットと、該コネクタ本体の後部に取りつけられる曲管状のケーブル管体とを備える電気コネクタにおいて、コネクタ本体とケーブル管体のどちらか一方に、他方を一方との嵌合位置にて一方に対して上記軸線の方向で固定する後部ナットが軸線方向で他方とは反対側の部分で一方に対しての軸線方向位置規制を受けつつ軸線まわりに回転自在に設けられており、上記他方の端部に形成された外ねじ部が上記後部ナットの内ねじ部と螺合して固定され、上記コネクタ本体とケーブル管体は、該軸線まわりの相対回転動を規制する手段を有している電気コネクタ。」

そして、両者は次の点で相違する(対応する引用発明(引用例記載)の用語を( )内に示す)。

[相違点1]
コネクタ本体とケーブル管体とを固定する「後部ナット」が、本願補正発明においては、両者のうち「コネクタ本体」の方に設けられており、その内ねじ部が「ケーブル管体」に形成された外ねじ部に螺合するものであるのに対し、引用発明においては、両者のうち「ケーブル管体」(エルボケーシング15)の方に設けられており、その内ねじ部が「コネクタ本体」に形成された外ねじ部に螺合するものである点。

[相違点2]
「後部ナット」が、本願補正発明においては、軸線方向でスリーブの範囲内に位置するものであるのに対し、引用発明においては、スリーブ(シェル部材)よりもケーブル管体(エルボケーシング15)側にわずかに延出している点。

[相違点3]
「後部ナットの内ねじ部」と「外ねじ部」との螺合が、本願補正発明においては、後部ナットの内ねじ面とスリーブの外周面との間に、外ねじ部を受入れるための環状の受入溝が軸線方向で外ねじ部の方に向けて開口して形成され、該受入溝を形成するスリーブの外周面と該受入溝に受入れられる外ねじ部分の内周面とが嵌合周面を形成し、外ねじ部が該受入溝内で上記後部ナットの内ねじ部と螺合して固定され」ているのに対し、引用発明においては、後部ナットの内ねじ面とスリーブの外周面との間に、このような受入溝を構成するものではない点。

[相違点4]
「軸線まわりの相対回転動を規制する手段」が本願補正発明においては、「嵌合周面に形成され互いに軸線方向に係合する突条部と凹条部とを有し周方向で等間隔の複数位置に設けられている係合部」であるのに対し、引用発明においては、「締め付け」により該軸まわりの相対回転動を規制するものである点。

(3)-3相違点の判断
上記相違点について検討する。

[相違点1について]
コネクタ本体(胴部シェル11)とケーブル管体(エルボケーシング15)とを螺合によって固定するにあたり、後部ナット部材をコネクタ本体とケーブル管体のいずれの側に設けるかは、これらを設置するにあたっての配置等を勘案して当業者が必要に応じ適宜選択し得た設計的事項であるといえる。

また、ケーブル管体に外ねじ部を設けたものが周知である(例えば、実公昭42-12055号公報(連結管12参照)、米国特許第3860315号明細書(管状素子2参照)等参照。)ことからみても、引用発明において、ケーブル管体側に外ねじ部を設けて、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは当業者が適宜なし得たことにすぎない。

[相違点2について]
コネクタ本体とケーブル管体とを固定するナット部材を、軸線方向でコネクタ本体の範囲内に位置するものとすることは、例えば実願平2-34509号(実開平3-126381号)のマイクロフィルムの第8図にも記載されるように周知のものであり、本願補正発明において、後部ナットをコネクタ本体のスリーブの範囲内に位置するものとした点は、当業者が適宜為し得る程度の設計的事項に過ぎないものである。

[相違点3について]
ナット部材と外ねじ部とを用いたコネクタの接続構造として、スリーブとナットとの間に相手側の外ねじ部を受け入れるための管状の受入溝を形成した形式の接続構造自体は、周知のものである(例えば、引用発明の胴部シェル11の受容シェル10に対する接続構造参照。)。

すなわち、引用発明において、胴部シェル11には受容シェル10に胴部シェル11を締結させるためのナットに相当するカプリングカラー12が、環状フランジ41により軸方向に位置規制を受けるとともに軸線方向で胴部シェル11の範囲内で軸まわりに自由回転可能に設けられており、受容シェル10は、胴部シェル11の円筒部分38とカプリングカラー12との間の環状の溝部分に嵌合して、受容シェル10の外ねじとカプリングカラー12の内ねじとを螺合することにより締結されるようになっている(記載「イ」参照。)。

また、かかる接続構造は、ありふれたものにすぎない(例えば、実願平2-34509号(実開平3-126381号)のマイクロフィルム(前半円筒部23,螺合結合環29,円筒部11を含む接続構造参照)、米国特許第2286952号明細書(明細書2ページ右欄2?13行記載のインナシリンダ22,グランドナット30,円筒体18を含む接続構造参照。)参照。)。

したがって、引用発明において、ナット部材と外ねじ部とを用いたコネクタの接続構造として、かかる周知の接続構造をコネクタ本体(胴部シェル11)とケーブル管体(エルボケーシング15)との接続に適用して、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点4について]
コネクタにおいて、嵌合しあう部材間の軸線まわりの相対回転動を規制する手段として、キーとキー溝を用いたものが周知であり、例えば引用例にも、受容シェル10と胴部シェル11との相対回転動を規制するために、受容シェル10の内面26にキー39を、そして胴部シェル11の滑らかな円筒部分38の外面に対になるキー溝40を備え回転位置関係を固定することが記載されている(記載「イ」参照。)。

本願補正発明の「突条部」は、このようなキーに対応し、「凹条部」は、キー溝に対応するものであるが、かかるキーによる相対回転動規制手段として、部材の周方向に一つまたは複数のキーと対応する複数のキー溝とを等間隔に設け、嵌合しあう部材間の回転位置関係を選択可能にしたものも、同様に従来周知のものである(例えば、特開平9-306603号公報(図4(ハ)の、外部導体12とブッシング5に、それぞれ周方向に等間隔に設けられたキー16とキー溝6参照)、米国特許第2374971号明細書(軸方向突出部34と複数の歯20間に構成された溝とにより、シェル14とエルボ22との間の軸周りの位置関係を選択的に固定する点参照)等参照。)。
そこで、引用発明に、相対回転動を規制する手段としてかかる周知技術を適用して、相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。

さらに、本願補正発明による効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)-4むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という)は、平成18年2月13日付けの手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「 相手コネクタとの嵌合方向に延びる軸線と平行に複数の端子がハウジングに植設された該ハウジングの外周面にスリーブが取付けられたコネクタ本体と、該コネクタ本体の周面で軸線まわりに回転自在に支持されていて該コネクタ本体を相手コネクタと締結せしめるナットと、該コネクタ本体の後部に取りつけられる曲管状のケーブル管体とを備える電気コネクタにおいて、コネクタ本体は、上記ケーブル管体をコネクタ本体との嵌合位置にて該コネクタ本体に対して上記軸線の方向で固定する後部ナットが軸線方向で上記スリーブの範囲内に位置して設けられており、上記後部ナットの内ねじ面とスリーブの外周面との間に、外ねじが端部に形成されたケーブル管体のねじ部のための環状の受入溝が形成され、該受入溝を形成するスリーブの外周面と該受入溝に受入れられるケーブル管体の内周面とが嵌合周面を形成し、上記ケーブル管体のねじ部が該受入溝内で上記後部ナットの内ねじ部と螺合して固定され、上記コネクタ本体とケーブル管体は、互いに上記軸線の方向に嵌合することにより該軸線まわりの相対回転動を規制する係合部を有しており、該係合部は上記嵌合周面に形成され互いに軸線方向に係合する突条部と凹条部が周方向で等間隔の複数位置に設けられていることを特徴とする電気コネクタ。」

4.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記「2.(3)-1」に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明は、前記「2.(1)」の本願補正発明から、「後部ナット」についての限定事項である「軸線方向でケーブル管体とは反対側の部分でコネクタ本体に対しての軸線方向位置規制を受けつつ軸線まわりに回転自在に」設けられているとの構成を省き、また、「環状の受入溝」についての限定事項である、「該外ねじ部を受入れるための」ものであり、「軸線方向でケーブル管体の方に向けて開口して」形成されているとの構成を省いたものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)-3」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2008-10-02 
結審通知日 2008-10-03 
審決日 2008-10-15 
出願番号 特願2001-14008(P2001-14008)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01R)
P 1 8・ 121- Z (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 孝明  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 渋谷 知子
長浜 義憲
発明の名称 電気コネクタ  
代理人 藤岡 徹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ