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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) C09D
管理番号 1188836
審判番号 不服2006-16681  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-03 
確定日 2008-12-03 
事件の表示 特願2001-223688「光輝感を有する塗料の調色方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月 7日出願公開、特開2003- 34762〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成13年7月24日の出願であって、平成18年6月8日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成18年8月3日に拒絶査定に対する審判請求がされ、同年9月5日付けで手続補正書が提出されたが、同手続補正は、特許法第17条の2に規定されている明細書の補正ができる期間を経過していたため、平成19年1月11日付けで手続却下され、その後、当審において同年7月13日付けで拒絶理由が通知され、それに対して同年9月6日付けで、意見書及び手続補正書が提出されたものである。

II.本願発明について
1.本願発明
本願発明は、請求項1?4に係る発明を包含するものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成19年9月6日付けで補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「(A)測色計と、(B)塗色作業番号に対応する見本色票が集合した色票群と、(C)見本色票に対応した複数の塗料配合、該各塗料配合に対応した色データと粒子感及びキラキラ感を表す各光輝感指数、複数の原色塗料の色特性データと粒子感及びキラキラ感を表す各光輝感指数に基く光輝感特性データが登録されており、該塗料配合及び該各データを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータとから構成されてなるコンピュータ調色装置とを用いて、下記(1)?(5)の工程
(1)調色により塗料の塗色を合せるべき基準色を測色計にて測定して基準色の色データを得る工程、(2)該基準色の色データと、予めコンピュータに登録された塗料配合に対応した色データとを比較し、色の整合の度合いを指数化して近似塗料配合を選択し、選択された近似塗料配合に対応する見本色票を得る工程、(3)上記工程(2)で得た見本色票と基準色との光輝感を目視にて比較する工程、(4)上記工程(3)に基く見本色票と基準色との光輝感の差の程度に基いて補正した粒子感及びキラキラ感を表す各光輝感指数をコンピュータ調色装置に入力し、前記近似塗料配合を色合わせ計算ロジックを用いて修正して、基準色に近づけた候補塗料配合を得る工程、(5)上記工程(4)で得られた候補塗料配合に基づく調色経過塗料を塗装して調色経過塗装板を得て、該調色経過塗装板の塗色が基準色の合格範囲内であるか否かを判定する工程、を行うことを特徴とする光輝感を有する塗料の調色方法。」

2.当審における拒絶理由
当審における拒絶の理由は、本願発明1は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物(1)?(3)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないという理由を含むものである。

3.刊行物に記載された事項及び引用発明
当審における上記拒絶理由で引用された刊行物(1)?(3)及び各刊行物に記載された事項は次のとおりである。

3.1 引用刊行物
(1)特開昭61-19675号公報
(2)特開2001-174333号公報
(3)特開平10-287100号公報

3.2 引用刊行物に記載された事項
3.2.1 刊行物(1)に記載された事項
(1-1)「3.塗料の色見本と合致する正調色品を製造するためのコンピュータ調色方法であつて、(a)製造された正調色品の各原色配合量データを自動計量機で記録保管し、(b)前記保管されているデータを計算機に入力して配合履歴簿データを作成し、(c)色見本の反射率を測定し、(d)前記色見本の反射率データを計算機に入力し、(e)前記配合履歴簿データを照合して色見本と同一又は類似色の各原色配合量データを検出し該データの中から色配合をそのまま又は加工して各原色の配合量とするように予めプログラムされた計算機で配合量を算出し、(f)計算機により算出された各原色の配合量を自動計量機に伝達し、(g)自動計量機で原色計量操作を行ない、(h)自動計量機は計量結果を記録し、(i)調色品と色見本を比較し、(j)以上の手順によつて色見本と調色品とが合致しないときは調色品の反射率を測定し、(k)前記調色品の反射率データを計算機に入力し、(l)前記(h)で自動計量機に入力された調色品の既計量値と色見本と調色品の各反射率データを比較して各原色の修正配合量を予めプログラムされた計算機で算出し、(m)計算機により算出された各原色の修正配合量を自動計量機に伝達し、(n)前記(g)から(m)までの工程を繰返し色見本と調色品とが合致する段階(i)まで継続することを特徴とするコンピュータ調色方法。」(第2頁左上欄第9行?同頁右上欄第18行、請求項3)
(1-2)「本発明は上述のコンピュータ制御をさらに発展させたものであり、装置の面から見ると塗料の色見本51及び調色品54の反射率を測定する測定器52と測定回路53、及びシステム全体を制御する中央コンピュータ55とそれを扱うための端末装置が追加される。」(第4頁右下欄第7?12行)
(1-3)「次に計量された原色を混合してから調色品について塗板を作成する。次いで目視又は計器により調色品と色見本の塗板色が合致しているかどうかを検証する。合致していれば操作は終了となるが、一般に一回では合致しないことが多いから色修正工程へと進む。」(第5頁右上欄末行?同頁左下欄第5行)

3.2.2 刊行物(2)に記載された事項
(2-1)「カラーベース塗膜の上に半透明反射塗膜が形成されており、該反射塗膜の上にクリヤ塗膜が形成されてなる複層塗膜を補修塗装する方法であって、予め複数の複層塗膜の登録色番号、該各登録色番号の複層塗膜を補修塗装するための少なくとも各一組の登録塗料配合(カラーベース塗料と半透明反射塗料と必要に応じてクリヤ塗料との組合せ)、各登録塗料配合に基く多角度測色計による登録測色データ及び原色塗料の光学特性値データが登録されたコンピュータを用いて、下記の工程
(1)補修塗装において塗色を合せるべき複層塗膜の基準色を多角度測色計にて測色した測色データ、及び該基準色の色番号をコンピュータに入力し、該基準色と色番号が一致している上記登録色番号の少なくとも一組の登録塗料配合及び登録測色データを検索し、一組の登録塗料配合及び登録測色データを選定する工程、
(2)上記工程(1)で選定された一組の登録塗料配合、該登録塗料配合に基く複層塗膜の登録測色データ、工程(1)の基準色の測色データ、及び予め登録しておいた原色塗料の光学特性値データをもとにコンピュータ調色によりカラーベース塗料の第1候補配合を算出する工程、
(3)上記工程(2)で算出された第1候補配合に基づくカラーベース塗料によるカラーベース塗膜及び工程(1)で選定された登録塗料配合の半透明反射塗膜形成用塗料による半透明反射塗膜及び補修塗装用クリヤ塗料のクリヤ塗膜を順次形成した第1の調色経過塗装板を作成し、該経過塗装板の色が合格か否かを判断する工程、
を有することを特徴とする複層塗膜の補修塗装方法。」(【請求項1】)
(2-2)「上記工程(2)で算出された第1候補配合に基づくカラーベース塗料の塗膜及び工程(1)で選定された登録塗料配合の半透明反射塗膜形成用塗料に基く半透明反射塗膜及び補修塗装用クリヤ塗料のクリヤ塗膜をそれぞれ所定の標準膜厚となるように順次形成した第1の調色経過塗装板を作成し、該経過塗装板の色が合格か否かを判断する。この判断基準は、目視、多角度測定における基準色との色差(ΔE)値などによって総合的に決めることができる。」(段落【0021】)
(2-3)「実施例1 自動車車体における補修塗装部近傍の塗膜面の色である基準色と調色経過塗装板の塗色の測定は、関西ペイント(株)製の多角度測色計「Van-VanFAセンサー」にて行い、調色するカラーベース塗料の配合計算は、関西ペイント(株)製のコンピュータ・カラー・マッチング装置「Van-VanFAステーション」にて行った。上記「Van-VanFAセンサー」は、鏡面反射軸と受光軸のなす角度が25度、45度、75度の3角度条件で測定して測色値を得ることができるものである。コンピュータ・カラー・マッチング装置には、予め複数の複層塗膜(カラーベース塗膜-半透明反射塗膜-クリヤ塗膜の複層塗膜)の登録色番号、該各登録色番号の複層塗膜を補修塗装するための少なくとも各一組の登録塗料配合(カラーベース塗料と半透明反射塗料との組合せ)、各登録塗料配合に基く多角度測色計による登録測色データ及びカラーベース塗料用の原色塗料の光学特性値データが登録されている。」(段落【0036】)
(2-4)「自動車車体の塗膜面の基準色は、色番号が「A-001」であり、この基準色を「Van-VanFAセンサー」にて上記25度、45度、75度の3角度条件にて測定した。」(段落【0037】)
(2-5)「また、登録色番号が「A-001」(仮称)の塗料配合(カラーベース塗料と半透明反射塗膜形成用塗料との組合せ)及びこの塗料配合のときの複層塗膜の3角度条件での測定データを「Van-VanFAステーション」から検索したところ、20件の塗料配合の組合せがあり、これらを色整合の度合を指数化した数値を用いて、色整合の度合の良いものから順に並べた。最も色整合の度合の良かった組合せ(「A-001CK05」)の塗料配合は特に高価なものではなく合理的なものであったので「A-001CK05」を選定した。「A-001CK05」における半透明反射塗膜形成用塗料は、顔料分として白色の光輝性マイカ粉を含有するパールベース塗料であった。」(段落【0039】)
(2-6)「本発明方法によりカラーベース塗膜、半透明反射塗膜及びクリヤ塗膜からなる複層塗膜を効率よく補修塗装することができる。この方法により、3コートパール仕上げのような、従来、調色経験の少ない調色者には調色が困難であった複層塗膜においても容易に調色を行うことができる。」(段落【0074】)

3.2.3 刊行物(3)に記載された事項
(3-1)「【従来の技術】 一般に、自動車ボディの塗装色を選択する際には、塗料の色見本と、これに並記される塗装色名、塗料の原色名及び配合量のデータとを備えた塗装用色見本カードが使用されているが、同一カードに1塗装色を割り当てた色見本カード綴りが、その大きさが小型で、携帯に便利であるという理由により、多く採用されている。」(段落【0002】)

4.刊行物(1)に記載された発明
刊行物1には、「塗料の色見本と合致する正調色品を製造するためのコンピュータ調色方法であつて、(a)製造された正調色品の各原色配合量データを自動計量機で記録保管し、(b)前記保管されているデータを計算機に入力して配合履歴簿データを作成し、(c)色見本の反射率を測定し、(d)前記色見本の反射率データを計算機に入力し、(e)前記配合履歴簿データを照合して色見本と同一又は類似色の各原色配合量データを検出し該データの中から色配合をそのまま又は加工して各原色の配合量とするように予めプログラムされた計算機で配合量を算出し、(f)計算機により算出された各原色の配合量を自動計量機に伝達し、(g)自動計量機で原色計量操作を行ない、(h)自動計量機は計量結果を記録し、(i)調色品と色見本を比較し、(j)以上の手順によつて色見本と調色品とが合致しないときは調色品の反射率を測定し、(k)前記調色品の反射率データを計算機に入力し、(l)前記(h)で自動計量機に入力された調色品の既計量値と色見本と調色品の各反射率データを比較して各原色の修正配合量を予めプログラムされた計算機で算出し、(m)計算機により算出された各原色の修正配合量を自動計量機に伝達し、(n)前記(g)から(m)までの工程を繰返し色見本と調色品とが合致する段階(i)まで継続することを特徴とするコンピュータ調色方法。」(記載事項(1-1))と記載されており、「製造された正調色品の各原色配合量データを・・・記録保管し」と記載されているが、製造された正調色品は、通常複数あり、したがって、その各正調色品に対して、複数の各原色配合量データからなる配合履歴簿データを作成するものと認められ、「(l)前記(h)で自動計量機に入力された調色品の既計量値と色見本と調色品の各反射率データを比較して各原色の修正配合量を予めプログラムされた計算機で算出し、」との記載から、コンピュータには、原色の反射率、複数の正調色品の原色配合量に対応した反射率データが登録されており、正調色品の原色配合及び各色反射率を利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピューターから構成されたコンピュータ調色装置を用いるものと認められる。
また、記載事項(1-1)には、測色計を用いることは具体的に記載されていないが、「本発明は上述のコンピュータ制御をさらに発展させたものであり、装置の面から見ると塗料の色見本51及び調色品54の反射率を測定する測定器52と測定回路53、及びシステム全体を制御する中央コンピュータ55とそれを扱うための端末装置が追加される。」(記載事項(1-2))との記載を参照すると、刊行物(1)において、「色見本の反射率を測定する」際には、反射率を測定する測定器が用いられるのであり、この反射率を測定する測定器は、測色計に他ならない。さらに、刊行物(1)には、「次に計量された原色を混合してから調色品について塗板を作成する。次いで目視又は計器により調色品と色見本の塗板色が合致しているかどうかを検証する。」(記載事項(1-3))ことが記載されている。
以上の記載及び認定事項を本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、
「測色計と、複数の正調色品の原色配合量データ、各正調色品に対応した反射率データ、複数の原色の反射率データが登録されており、該正調色品の配合量データ及び該各データを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータとから構成されてなるコンピュータ調色装置とを用いて、
色見本を測色計にて測定して色見本の反射率データを得る工程、該色見本の反射率データと、予めコンピュータに登録された複数の正調色品に対応した反射率データとを比較し、色見本と同一または類似色の正調色品を選択し、色見本と同一または類似色の各原色配合量データの中から色配合をそのまま各原色の配合量とした調色品を得る工程、該調色品について塗装板を作成し、調色品と色見本の塗装板色とを目視にて比較する工程、色見本と調色品が合致しないときは調色品の反射率を測定し、前記調色品の反射率データをコンピュータに入力し、調色品を色合わせ計算ロジックを用いて修正して、色見本に近付けた調色品を得る工程、前工程で得られた色見本に近付けた調色品に基づく塗料を塗装して塗装板を得て、該塗装板の塗色が色見本と合致するかどうかを判定する工程、を行うことを特徴とする塗料の調色方法。」
の発明(以下、「引例発明」という。)が記載されている。

5. 本願発明1と引用発明との対比及び相違点についての判断
5.1 本願発明1と引用発明との対比
引用発明における「色見本」は、本願発明1における「調色により塗料の塗色を合わせるべき基準色」に相当し、引用発明における「正調色品」、「原色」は、それぞれ、本願発明1における「塗料配合」、「原色塗料」に相当し、引用発明における、「反射率データ」は、本願発明1における「色データ(あるいは色特性データ)」に相当し、引用発明における「色見本と同一または類似色の正調色品」及び「調色品」は、本願発明1における「近似塗料配合」に、引用発明における「色見本に近付けた調色品」は、「基準色に近づけた候補塗料配合」に相当するので、本願発明1と引用発明とは、
「(A)測色計と、(C’)複数の塗料配合、それに対応した色データ及び複数の原色塗料の色特性データが登録されており、該塗料配合と該各データを利用した色合わせ計算ロジックが作動するコンピュータ調色装置とを用いて、
(1)調色により塗料の調色を合わせるべき基準色を測色計にて測定して基準色の色データを得る工程、(2’)該基準色の色データと、予めコンピュータに登録された複数の塗料配合に対応した色データとを比較して近似塗料配合を選択し、(3’)近似塗料配合と基準色とを目視にて比較する工程、(4’)基準色と近似塗料配合が合致しないときは近似塗料配合の反射率を測定し、前記近似塗料配合の反射率データをコンピュータに入力し、近似塗料配合を色合わせ計算ロジックを用いて修正して、基準色に近付けた候補塗料配合を得る工程、(5)工程(4’)で得られた基準色に近付けた候補塗料配合に基づく塗料を塗装して、塗装板を得て、該塗装板の塗色が基準色と合致するかどうかを判定する工程、を行うことを特徴とする塗料の調色方法」
の点で一致し、次の点で相違する。

ア 相違点1
本願発明1においては、光輝感を有する塗料であるのに対し、引用発明においては、光輝感を有する塗料であるかどうか不明である点

イ 相違点2
本願発明1においては、塗色作業番号に対応する見本色票が集合した色票群を用い、近似塗料配合と基準色との目視による比較においては、近似塗料配合に対応する見本色票を得て、該見本色票と基準色との比較を行うのに対し、引用発明においては、塗色作業番号に対する見本色票が集合した色票群を用いず、近似塗料配合について塗装板を作成して、該塗装板の塗色と基準色との比較を行う点

ウ 相違点3
本願発明1におけるコンピュータは、見本色票に対応した複数の塗料配合、各塗料配合に対応した色データと複数の原色塗料の色特性データの他に、各塗料配合に対応した粒子感及びキラキラ感を表す各光輝感指数と、複数の原色塗料の粒子感及びキラキラ感を表す光輝感指数に基づく光輝感特性データが登録されており、該塗料配合及び該各データを利用した計算ロジックが作動するものであるのに対し、引用発明におけるコンピュータは、各塗料配合に対応した粒子感及びキラキラ感を表す各光輝感指数及び複数の原色塗料配合の粒子感及びキラキラ感を表す光輝感指数に基づく光輝感特性データが登録されておらず、したがって、計算ロジックが粒子感及びキラキラ感を表す各光輝感指数及び複数の原色塗料配合の粒子感及びキラキラ感を表す光輝感指数に基く光輝感特性データを利用しないものである点

エ 相違点4
本願発明1においては、見本色票と基準色の光輝感を目視にて比較し、見本色票と基準色との光輝感の差の程度に応じて補正した粒子感及びキラキラ感を表す各光輝感指数をコンピュータ装置に入力しているのに対し、引用発明においては、光輝感を有する塗料であることは規定されておらず、したがって、見本色票と基準色の光輝感を目視による比較もしていない点

オ 相違点5
本願発明1においては、基準色の色データと、予め登録された塗料配合に対応した色データを比較し、色の整合の度合いを指数化して近似塗料配合を選択しているのに対し、引用発明においては、色の整合の度合いをどのように評価して近似塗料配合を選択したのか明らかでない点

5.2 本願発明1と引用発明との相違点についての判断
5.2.1 相違点1について
まず、塗料が光輝感を有するものである点を検討すると、本願発明1は、光輝感を有する塗料の調色方法であり、引用発明は、特に光輝感を有する塗料の調色方法であることは規定されていないが、自動車のボディなどに光輝感を有する塗料は広く用いられているので、引用発明における塗料の調色方法において、塗料を光輝感を有するものとすることは当業者が容易になし得ることである。
この点に関して、請求人は、引用発明の出願当時、コンピューター調色により光輝感のある塗料を調色することは全く行われていなかったので、引用発明は光輝感を有する塗料の調色方法に関するものではなく、したがって、引用発明を光輝感を有する塗料の調色に応用することは当業者が容易になし得ることではない旨、概略主張するが、本出願時には光輝感を有する塗料は広く用いられているので、引用発明の出願当時に光輝感のある塗料をコンピューター調色により行うことが行われていなかったとしても、そのことが、引用発明を光輝感を有する塗料の調色方法に応用することの阻害要因になるとはいえない。

5.2.2 相違点2について
刊行物(3)には、自動車ボディーの塗色の選択に際して、塗料の色見本と、これに併記される塗装色名、塗料の原色名及び配合量のデータを備えた本願発明1の見本色票に相当する塗装用色見本カード及びその綴りが使用されることが記載されており(記載事項(3-1))、このような色見本カードを目視による基準色との比較に用いること及び色見本カードに塗色作業番号を付与することは当然のことと解される。
したがって、引用発明において、調色により塗料の塗色を合わせるべき基準色の近似塗料配合を選択し、近似塗料配合をコンピュータ調色装置により調合した配合塗料を用いて塗装板を作成して、目視により基準色との対比を行う代わりに、塗色作業番号に対応する見本色票が集合した色票群を用い、近似塗料配合と基準色との目視による比較においては、近似塗料配合に対応する見本色票を得て、該見本色票と基準色との比較を行うことは当業者が容易になし得ることである。
そして、そのことによる効果も、近似塗料配合に基づく見本色票と基準色との比較を行うことにより、実際に塗装板を作成して、基準色と対比して、データを修正する工程が、一段階少なくなるという、予期された効果を奏する程度のものに過ぎない。

5.2.3 相違点3及び相違点4について
刊行物(2)には、複数の複層塗膜(カラーベース塗膜-半透明反射塗膜-クリヤ塗膜の複層塗膜)の登録色番号、該各登録色番号の複層塗膜を補修塗装するための少なくとも各一組の登録塗料配合(カラーベース塗料と半透明反射塗料との組合せ)及び各登録塗料配合に基く多角度測色計による登録測色データ及びカラーベース塗料用の原色塗料の光学特性値データが登録されているコンピュータ・カラー・マッチング装置が記載されており(記載事項(2-1))、また、色番号「A-001」の塗料配合及びこの塗料配合のときの複層塗膜の3角度条件での測定データ検索したところ、20件の近似配合の組み合わせがあり、その中から「A-001CK05」を選定したこと、「A-001CK05」における半透明反射膜形成用塗料は、顔料分として白色の光輝性マイカ粉を含有するパールベース塗料であったことが記載されているから(記載事項(2-5))、この塗料配合は光輝感を有する塗料である。
次に、同刊行物には、「上記工程(2)で算出された第1候補配合に基づくカラーベース塗料の塗膜及び工程(1)で選定された登録塗料配合の半透明反射塗膜形成用塗料に基く半透明反射塗膜及び補修塗装用クリヤ塗料のクリヤ塗膜をそれぞれ所定の標準膜厚となるように順次形成した第1の調色経過塗装板を作成し、該経過塗装板の色が合格か否かを判断する。この判断基準は、目視、多角度測定における基準色との色差(ΔE)値などによって総合的に決めることができる。」(記載事項(2-2))との記載があり、基準色と登録塗料配合との色差を目視などで行うことが記載されている。光輝性を有する塗料において、光輝感を無視して色のみで経過塗装板が合格か否かを判断することはあり得ないことである。また、光輝感を評価するための目に見える感性としては粒子感とキラキラ感が一般的である。そして、刊行物(2)の塗膜の補修塗装方法において、調色経過塗装板の色を基準色により容易に近づけるために、本願発明1の見本色票に相当する登録塗料配合に粒子感及びキラキラ感を表す各光輝感指数に基づく光輝感特性データを追加的に登録することは、当業者であれば適宜なし得ることである。
してみれば、相違点3については、引用発明における塗料として、光輝感を有する塗料の調色にあたり、見本色票に対応した複数の塗料配合、各塗料配合に対応した色データと複数の原色塗料の色特性データの他に、各塗料配合に対応した粒子感及びキラキラ感を表す各光輝感指数と、複数の原色塗料の粒子感及びキラキラ感を表す光輝感指数に基づく光輝感特性データが登録されており、該塗料配合及び該各データを利用した計算ロジックが作動するコンピュータを用いて調色を行うことは、当業者が容易になし得ることである。
これに関し、請求人は、刊行物(2)の発明は、審判請求人が特許出願人である発明であり、刊行物(2)においては、多角度測色計による分光反射率データによる多角度における色データに基きコンピュータ調色を行うものであって、光輝感データは全く使用されておらず、多角度における色データからは、キラキラ感や粒子感である光輝感データについては全く判断できないものである。また、「Van-VanFAステーション」を用いてのコンピュータ調色は、多角度測色計による多角度における色差に基いて色合わせを行うものであり、キラキラ感や粒子感である光輝感を合せることは全く行われていない旨概略主張する。
しかしながら、本願発明1においては、見本色票と基準色との光輝感を目視により比較しているところ、刊行物(2)には、「半透明反射塗膜及び補修塗装用クリヤ塗料のクリヤ塗膜をそれぞれ所定の標準膜厚となるように順次形成した第1の調色経過塗装板を作成し、該経過塗装板の色が合格か否かを判断する。この判断基準は、目視、・・・などによって総合的に決めることができる。」(記載事項(2-2))」及び「この方法により3コートパール仕上げのような、従来、調色経験の少ない調色者には調色が困難であった複層塗膜においても容易に調色を行うことができる。」(記載事項(2-6))と記載しているように、パール仕上げ、すなわち、光輝感を有する塗膜の調色が記載されており、刊行物(2)には、実質的には目視により光輝感の比較を行うことが記載されているものと認められる。
したがって、刊行物(2)記載の塗膜の補修塗装方法においても光輝感の評価は実質的に目視で行っているものであるから、多角度測色計による分光反射率データによる多角度における色データからは、キラキラ感や粒子感である光輝感データについては判断できないものであり、コンピュータ調色では、キラキラ感や粒子感である光輝感を合せることは行われていないとしても、光輝感の評価は行われているのであるから、請求人の主張を採用することはできない。
また、相違点4については、刊行物(2)の記載事項(2-2)に、塗膜の基準色と第1の調色経過板の色の対比・判断を、目視や、多角度測定における基準色との色差などによって判断することが記載されていることは上記のとおりであり、見本色票と基準色の光輝感を目視にて比較し、その差の程度に応じて補正した粒子感及びキラキラ感指数をコンピュータ装置に入力してみることも、当業者が容易になし得ることである。

5.2.4 相違点5について
刊行物(2)には、カラー・マッチング装置を用いて近似塗料配合を選択するに際し、色整合の度合いを指数化した数値を用いて選択することが記載されており(記載事項(2-5))、引用発明において、配合履歴簿データを検索して近似塗料配合を選択する際に、基準色の色データと、予め登録された塗料配合に対応した色データを比較し、色の整合の度合いを指数化して近似塗料配合を選択することは当業者が容易になし得ることである。

そして、本願発明1は、予期以上格別顕著な効果を奏し得たものではない。

6.まとめ
してみると、本願発明1は、刊行物(1)?(3)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

III.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、その出願前に頒布された刊行物である、刊行物(1)?(3)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであるので、本願は、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-25 
結審通知日 2008-09-30 
審決日 2008-10-14 
出願番号 特願2001-223688(P2001-223688)
審決分類 P 1 8・ 121- WZF (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智寺坂 真貴子  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 橋本 栄和
安藤 達也
発明の名称 光輝感を有する塗料の調色方法  

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