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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1189286
審判番号 不服2005-8541  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-05-09 
確定日 2008-12-18 
事件の表示 平成6年特許願第524847号「毛髪処理剤」拒絶査定不服審判事件〔平成6年11月24日国際公開、WO94/26235、平成7年10月5日国内公表、特表平7-509004〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成6年3月24日(パリ条約による優先権主張1993年5月8日ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成16年6月30日付け拒絶理由通知書に対して、その指定期間内の同年10月7日付けで手続補正がなされたが、平成17年1月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年5月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年6月8日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.平成17年6月8日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年6月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]

(1)補正後の本願発明

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は以下のように補正された。
「【請求項1】
(A)少なくとも一種類の有機および/あるいは無機増粘剤を0.1ないし30重量パーセント、
(B)少なくとも一種類の、pH-値を調整することによって完全にあるいは部分的に沈澱し得る、整髪性を有する、水溶性重合物であって、アクリル酸/アクリルアミド-コポリマー、酢酸ビニル/クロトン酸-コポリマーおよびメチルビニルエーテル/マレイン酸無水物-コポリマーから選択される重合物を0.1ないし25重量パーセント、および (C)水を45ないし99.8重量パーセント
含有する毛髪処理剤であって、
(D)有機溶剤を含有せず、また
(E)前記処理剤のpH値が、(B)成分が完全にあるいは部分的に沈澱するpH-値である、
ことを特徴とする毛髪処理剤。」

本件補正は、補正前請求項1に係る発明の構成に欠くことができない事項である「水溶性重合物」を、
「水溶性重合物であって、アクリル酸/アクリルアミド-コポリマー、酢酸ビニル/クロトン酸-コポリマーおよびメチルビニルエーテル/マレイン酸無水物-コポリマーから選択される重合物」と限定するものであって、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でする補正であり、かつ、平成6年改正前特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成6年改正前特許法第17条の2第4項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。
ところで、本出願は特許法第36条の規定に関しては平成6年改正前特許法が適用されるものであるから、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるためには、本願明細書の記載は同法第36条第4項に規定、すなわち「…発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」とする要件を満たす必要がある。そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、かかる要件を満たしているか否かについて検討する。

(2)本願補正発明についての明細書の記載

本願明細書の発明の詳細な説明における目的又は効果に関連する記載としては以下のものがある。

(ア)明細書第1頁第5行?第2頁第17行
「本発明は、pH-値に応じて完全にあるいは部分的に沈澱可能な水溶性重合物と増粘剤とを含有する水性液において、前記重合物が完全にあるいは部分的に沈澱するようなpH-値を有する水性液を基本とする毛髪処理剤に関する。
今日一般的に使用されている毛髪処理剤は、天然、合成あるいは天然変性のフィルム形成性重合物を含有するが、そのほとんどがアルコール、水-アルコールあるいはその他の有機溶剤を含有する調合物として提供される。
有機溶剤は、養毛製品中において、不快な臭いを発するだけでなく、日常的に使用することによって、人体や環境に悪影響を及ぼす。これに対して有機溶剤を水で代替するという方策がとられているが、この方策をとることによって使用特性が悪化する。たとえば毛髪の乾燥に時間がかかる。またこの方策においてはほとんどの場合毛髪がべとつく。
整髪性の優れた毛髪処理剤はフィルム形成性重合物を多量に含有するために、このような処理剤を使用ことは、毛髪、特に細い毛髪には、非常に負担となる。さらに毛髪は互いに張り付いた状態となる。
今日毛髪処理剤は一般的にスプレー、ローンション、フォームあるいはゲルの形態で提供されている。このなかで、特にゲル形態の場合に、上に挙げたような問題が多く生じる。またゲル形態の毛髪処理剤においては、整髪性に限界がある。
ヨーロッパ特許公告明細書第445714号には、アルギン酸ナトリウム、整髪性を有する重合物、および溶剤として水を含有する整髪剤が記載されている。しかしこの処理剤の整髪性には限界がある。さらにこの処理剤は毛髪に負担がかかるという問題がある。
またヨーロッパ特許公告明細書第412705号には、非イオン性で、水溶性であるが、疎水化された、増粘作用を有する重合物、水溶性の増粘作用を有する第二重合物、および水溶性あるいは不水溶性の整髪性を有する重合物を含有する毛髪処理剤が記載されている。そして特に優れた整髪性を有する重合物として、液状のシリコン誘導体(これは整髪剤中に含有される)に溶解する特殊なシリコン共重合物が挙げられている。しかしこのような毛髪処理剤は、珪素系有機溶剤を含有するために、環境保護の観点からなお問題を残している。
そこで本発明は、上に挙げたような問題点のない毛髪処理剤を提供することを提供することを課題として出発した。
そしてここに驚くべきことに、
(A)少なくとも一種類の有機および/あるいは無機増粘剤を0.1ないし30重量パーセント、
(B)少なくとも一種類の、pH-値を調整することによって完全にあるいは部分的に沈澱し得る、整髪性を有する水溶性重合物を0.1ないし25重量パーセント、および
(C)水を45ないし99.8重量パーセント含有し、そしてその場合に
(D)有機溶剤を含有せず、また
(E)(B)成分が完全にあるいは部分的に沈澱し得るpH-値を有する、
そのような毛髪処理剤を使用することによって、上記の課題が非常に有効に解決され得ることが見い出された。」

(イ)明細書第7頁第17?23行
「本発明による毛髪処理剤は毛髪に負担をかけないので、細い毛髪に非常に適している。特に、この毛髪処理剤は整髪剤として非常に優れており、これを使用することによって、髪に負担をかけずに、また髪を膠着させずに、髪型を良好に保持することができる。また、細い毛髪が豊かで、かさ高いものとなる。この毛髪処理剤は、ゲル状の場合にも、従来のゲル状の整髪剤に比べて、非常に優れた整髪性を示す。この処理剤は有機溶剤を含まないので、人体および環境にほとんど悪影響を及ぼさない。」

(3)当審の判断

通常、種々の化合物の性質や属性を利用したり、それら化合物間の相互作用やそれら化合物と人体との相互作用が関与する発明については、発明の構成からその効果の予測をすることが困難であるので、そのような発明については、発明の詳細な説明に効果に関して単に定性的な記載がなされていたとしても、それだけでは当業者が当該効果が奏されることについて理解することはできないから、当該効果を裏付ける客観的データ又はそれと同視しうる記載がなされている必要がある。したがって、上記したような種々の化合物の性質・属性や該化合物と人体との相互作用が関与する発明にあっては、当該発明の奏する効果について当業者が容易に予測できる場合を除き、発明の詳細な説明において、当該効果を裏付ける客観的データ又はそれと同視しうる記載がなされていなければ、そのような発明の詳細な説明の記載は、前記特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないというべきである。
そこで、このような観点に基づいて、発明の詳細な説明の記載が前記特許法第36条第4項に規定する要件を満たしているかについて以下検討する。

本願補正発明の奏する効果について記載した箇所と解される上記(イ)の記載から、当該効果を摘示すると以下のとおりとなる。
(a-1)「髪に負担をかけずに、また髪を膠着させずに、髪型を良好に保持することができる。」(本願補正発明の個別の構成要件との関連は不明)
(a-2)「ゲル状の場合にも、非常に優れた整髪性を示す。」(本願補正発明の個別の構成要件との関連は不明)
(a-3)有機溶剤を含まないことによって、「人体および環境にほとんど悪影響を及ぼさない。」
また、この他の効果として、本願補正発明の目的について記載した箇所と解される上記(ア)の記載から、以下の効果を奏することが伺われる。
(b-1)有機溶媒から水性溶媒とすることに伴って発生する、「毛髪の乾燥に時間がかかる。」、「毛髪がべとつく。」といった使用特性の悪化を有効に解決できる。(特に「水溶性重合物が完全にあるいは部分的に沈澱するようなpH-値」とすることによって奏されるものと解される。)
(b-2)フィルム形成性重合物を多量に含有させることに伴って生ずる毛髪への負担や毛髪が互いに張り付いた状態となることを有効に解決できる。(特に「水溶性重合物が完全にあるいは部分的に沈澱するようなpH-値」とすることによって奏されるものと解される。)

上記のうち(a-3)については、有機溶剤を含有しないという構成から、当業者が容易に理解できるものであるが、その他の(a-1),(a-2),(b-1)及び(b-2)の各事項に関しては、何れも、当業者といえども本願補正発明の構成から効果を予測することが困難なものである。
そして、上記(b-1)に記載したように、本願補正発明の目的の一つは、有機溶剤を水で代替することに伴って生ずる問題点の解決を目指すものであるから、単に有機溶媒を使用しないことによる効果が明らかにされているだけでは、本願補正発明の効果に関する記載としては十分なものとすることができない。
しかるに、上記(a-1),(a-2),(b-1)及び(b-2)の各事項に関しては、当業者が本願補正発明の構成から効果を予測することが困難である上、これを裏付ける客観的データについては、明細書の何れにも記載されていない。特に「実施例1?11」の記載は、単に各成分配合例及びpH値が示されているだけであって、それら配合物が上記(a-1),(a-2),(b-1)及び(b-2)の各事項に関して如何なる効果を奏したのかについての記載はなされていない。
また、明細書中の他の記載を見ても、本願補正発明の奏する効果に関して、裏付けとなるデータ又はそれと同視しうる記載がなされているものとすることができない。

なお、出願人は、平成17年7月5日付けで手続補正された審判請求書において、本件補正後発明の奏する効果について、比較実験結果のデータを示して説明しているが、該比較実験において「本発明の組成物」とされているものは、成分及び配合量の点から見て、本願明細書で合計11例が示されている各実施例の配合物の何れとも一致若しくは類似するものではないので、本願明細書において開示されている本件補正後発明の効果を示すものとして適切なものとすることができない。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願補正発明について、当業者が容易にその発明を実施をすることができる程度に発明の目的、構成及び効果を記載しているものとすることができないので、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるので、平成6年改正前特許法第17条の2第4項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について

(1)本願発明
平成17年6月8日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、平成16年10月7日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、以下の通りのものである。
「【請求項1】
(A)少なくとも一種類の有機および/あるいは無機増粘剤を0.1ないし30重量パーセント、
(B)少なくとも一種類の、pH-値を調整することによって完全にあるいは部分的に沈澱し得る、整髪性を有する、水溶性重合物を0.1ないし25重量パーセント、および
(C)水を45ないし99.8重量パーセント
含有する毛髪処理剤であって、
(D)有機溶剤を含有せず、また
(E)前記処理剤のpH値が、(B)成分が完全にあるいは部分的に沈澱するpH-値である、
ことを特徴とする毛髪処理剤。
【請求項2】
(A)成分を0.15ないし15重量パーセント含有することを特徴とする請求項1に記載の処理剤。
【請求項3】
(B)成分を0.2ないし10重量パーセント含有することを特徴とする請求項1または2に記載の処理剤。
【請求項4】
(C)成分を55ないし96重量パーセント含有することを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項に記載の処理剤。
【請求項5】
(A)成分として天然、天然変性および/あるいは合成の増粘剤を少なくとも一種含有することを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項に記載の処理剤。
【請求項6】
(A)成分の増粘剤として、アクリル酸の重合物および共重合物、メタアクリル酸の重合物および共重合物、クロトン酸の重合物および共重合物、アクリル酸、メタアクリル酸あるいはクロトン酸の塩あるいはエステルの重合物および共重合物、不飽和の酸無水物とアルキルビニルエーテルから成る共重合物のジエンによる架橋物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-共重合物、ポリサッカライド、ポリサッカリドの誘導体あるいは加水分解物、ゼラチン、ヘクトライトあるいはベントナイトを含有することを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項に記載の処理剤。
【請求項7】
(B)成分の、整髪性を有する水溶性重合物が、天然、天然変性あるいは合成のフィルム形成性を有する重合物であることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項に記載の処理剤。
【請求項8】
(B)成分の、整髪性を有する重合物が、塩の形態においては水溶性であり、遊離の塩基および/あるいは酸としては水に不溶であることを特徴とする請求項1ないし7いずれか1項に記載の処理剤。
【請求項9】
(B)成分の、整髪性を有する重合物として、一方の単量体成分が不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸あるいは不飽和ジカルボン酸の無水物から成り、他方の単量体成分が不飽和の有機化合物から成るコポリマー、グラフトポリマーあるいはターポリマーを含有することを特徴とする請求項1ないし8いずれか1項に記載の毛髪処理剤。
【請求項10】
pH-値が1.5ないし11.5であることを特徴とする請求項1ないし9いずれか1項に記載の処理剤。」

(2)拒絶査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由4の概要は以下の通りである。
本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものであって、より具体的には、本願明細書の実施例には所定のpHを有するセットローション等の毛髪処理剤の配合例が記載されているのみであり、本願発明による毛髪処理剤としての作用効果が確認できないため、発明の詳細な説明には当業者が容易にその発明を実施することができる程度に発明の目的、構成および効果が記載されているとすることができないというものである。

(3)当審の判断

本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件補正によって補正されておらず、また、同明細書の記載から見て、本願補正発明とそれを包含する本願発明とでは発明の目的及び効果については同じであると解されるので、上記2.に記載した、本願補正発明に対する平成6年改正前特許法第36条第4項に規定された要件に関する当審の判断は、そのまま本願発明に対しても適用することができるものであるから、上記2.に記載したと同様な理由により、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明について、当業者が容易に実施できる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されているものとすることができない。

(4)むすび
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。

以上
 
審理終結日 2008-07-10 
結審通知日 2008-07-23 
審決日 2008-08-05 
出願番号 特願平6-524847
審決分類 P 1 8・ 531- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 美穂今村 玲英子  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 弘實 謙二
井上 典之
発明の名称 毛髪処理剤  
代理人 村田 紀子  

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