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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F27B
管理番号 1189522
審判番号 不服2006-5400  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-23 
確定日 2008-12-19 
事件の表示 平成11年特許願第 80172号「熱処理システム」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月 6日出願公開、特開2000-274952〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年3月24日の出願であって、平成17年9月13日付けで手続補正がされた後、平成18年1月31日付けで拒絶査定されたものである。
そして、本件審判は、同年3月23日にこの拒絶査定を不服として請求されたものであって、同年4月19日付けで手続補正がされたものの、当該手続補正は、平成20年4月16日付けで補正の却下の決定がされるとともに、同日付けで拒絶理由が通知され、同年7月10日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1、2に係る発明は、平成20年7月10日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「炉体の内部空間により構成される加熱室と、この加熱室に前記炉体の底面の接続口を介して通じる冷却室と、複数枚の板状被処理物を、厚さ方向を上下方向として、上下に間隔をおいて支持するラックと、その加熱室内においてラックにより支持された板状被処理物を加熱する熱風を、板状被処理物に横方向から吹き付けられるように発生する手段と、その熱風を通過させる除塵用HEPAフィルターと、そのラックを加熱室と冷却室との間で上下方向に直線的に往復移動させる機構と、前記接続口の開閉機構とを有する熱風加熱式熱処理装置を備え、
前記冷却室においてラックにより支持された板状被処理物は放冷可能とされ、且つ、その板状被処理物を強制空冷する手段を備え、
前記加熱室と前記冷却室とが上下に並列するように配置され、前記加熱室の下方に前記冷却室が配置され、
前記ラックを前記加熱室から前記冷却室に移動させた後に前記板状被処理物を前記ラックから取り出す時に、前記加熱室を処理温度に保持可能な熱処理システム。」

第3 当審拒絶理由の概要

当審より通知された拒絶の理由の概要は、本願の請求項1?3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記1?3の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。



刊行物1:実願平5-18058号(実開平6-78794号)
のCD-ROM
刊行物2:実願昭63-97606号(実開平2-20099号)
のマイクロフィルム
刊行物3:特開平4-139383号公報

第4 刊行物の主な記載事項
刊行物1(実願平5-18058号(実開平6-78794号)のCD-ROM) 、刊行物2(実願昭63-97606号(実開平2-20099号)のマイクロフィルム)、刊行物3(特開平4-139383号公報)には、それぞれ次の事項が記載されている。

(1)刊行物1:実願平5-18058号(実開平6-78794号)の CD-ROM
(1a)「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 被加熱物を熱風により加熱する加熱炉と、固定ビームおよび移動ビームを有し被加熱物を加熱炉の入口から出口まで搬送するウォーキングビーム搬送装置とを備えている連続加熱装置において、加熱炉に、ヒータで加熱した雰囲気を被加熱物に横から吹き付けるように循環させる雰囲気循環用ファンが設けられていることを特徴とする連続加熱装置。
【請求項2】 加熱炉内が略350℃以下に保たれ、かつ固定ビームおよび移動ビームが共に耐熱鋼製である請求項1の連続加熱装置。
【請求項3】 加熱炉内の雰囲気循環路中にHEPAフィルターが設けられている請求項2の連続加熱装置。
【請求項4】 加熱炉の入口および出口にシャッターが設けられている請求項3の連続加熱装置。
【請求項5】 複数の被加熱物が、被加熱物収納用カセットに水平に保持されて加熱される請求項1の連続加熱装置。」

(1b)「【0012】
加熱炉内の雰囲気循環路中にHEPAフィルターを設けることにより、炉内の塵埃が捕集され炉内雰囲気は常に清浄な状態に保持できる。」

(1c)「【0016】
図1から図3までは、この考案による連続加熱装置を示すもので、連続加熱装置は、被加熱物を熱風により加熱する加熱炉(1) と、ウォーキングビーム搬送装置(2) とを備えており、被加熱物収納用カセット(3) に水平に支持された液晶ディスプレー、光デバイスなどの板状の電子・光学部品(以下被加熱物(4) と称する)を最高350℃まで加熱処理するものである。
【0017】
各カセット(3) は、被加熱物(4) の周縁部を支持する上下複数段の被加熱物収容部(33)を有しており、被加熱物(4) は、1枚ずつ水平に保持されている。
【0018】
ウォーキングビーム搬送装置(2) は、加熱炉(1) 下端部の内部を貫通して前後にのびる互いに平行な一対の固定ビーム(5) と、固定ビーム(5) の内側にこれと平行に配置されかつ固定ビーム(5) よりも若干長い互いに平行な一対の移動ビーム(6) とを備えており、移動ビーム(6) が上昇、前進、下降、後退の順に繰り返すことにより、被加熱物収納用カセット(3) を搬送していく。移動ビーム(6) を上昇・下降させる昇降装置(12)および移動ビーム(6) を前進・後退させる進退装置(13)は加熱炉(1) 外に設けられている。」

(1d)「【0026】
上記の連続加熱装置において、出入口シャッター(36)(37)が上昇し、シャッター(36)(37)上昇端に設けたセンサーがオンとなると同時に、移動ビーム(6) による搬送動作が始まる。移動ビーム(6) は、昇降装置(12)および進退装置(13)の動作により、上昇して固定ビーム(5) 上のカセット(3) を支持し、前進後に下降してカセット(3) を固定ビーム(5) 上に降ろし、さらに後退して元の位置に戻る。昇降装置(12)および進退装置(13)の駆動装置からの動作完了信号により出入口シャッター(36)(37)が下降し、一連の操作が終了する。」

(2)刊行物2:実願昭63-97606号(実開平2-20099号)
のマイクロフィルム

(2a)「2.実用新案登録請求の範囲
(1)炉殻内部における加熱室とガス冷却室とにわたつて熱処理すべき被処理物を交互に搬送せしめる搬送機構を備える熱処理炉において、冷却ガス供給装置に接続してあり、冷却ガス噴出口からの冷却ガスを加熱室からガス冷却室に搬送された加熱後の被処理物に直接吹き付ける如く、ガス冷却室の内部位置に或いは搬送機構の一部に配設してある冷却ガス噴出ノズルを具備することを特徴とする熱処理炉。」(第1頁)

(3)刊行物3:特開平4-139383号公報

(3a)「2.特許請求の範囲
多目的室の両側に加熱室を設けたものであって、多目的室を受渡し室、待機室および冷却室から構成し、受渡し室において両加熱室との間で処理物の受渡しを行い得るようにしていることを特徴とする真空熱処理装置。」(第1頁左欄第4行?第9行)

第5 当審の判断

(1)刊行物1に記載された発明

刊行物1には、(1a)の記載によれば、「被加熱物を熱風により加熱する加熱炉と、固定ビームおよび移動ビームを有し被加熱物を加熱炉の入口から出口まで搬送するウォーキングビーム搬送装置とを備えている連続加熱装置において、加熱炉に、ヒータで加熱した雰囲気を被加熱物に横から吹き付けるように循環させる雰囲気循環用ファンが設けられ、加熱炉内の雰囲気循環路中にはHEPAフィルターが設けられており、また、加熱炉の入口および出口にシャッターが設けられ、複数の被加熱物が、被加熱物収納用カセットに水平に保持されて加熱される連続加熱装置。」が記載されているといえる。
そして、刊行物1の(1c)における「連続加熱装置は、・・・被加熱物収納用カセット(3) に水平に支持された液晶ディスプレー、光デバイスなどの板状の電子・光学部品(以下被加熱物(4) と称する)を・・・加熱処理するものである。」との記載、および、「各カセット(3) は、被加熱物(4) の周縁部を支持する上下複数段の被加熱物収容部(33)を有しており、被加熱物(4) は、1枚ずつ水平に保持されている。」との記載によれば、前記被加熱物収納用カセットは、「複数枚の板状の被加熱物を、厚さ方向を上下方向として、上下に間隔をおいて支持する」ものといえる。

また、刊行物1の(1b)における「加熱炉内の雰囲気循環路中にHEPAフィルターを設けることにより、炉内の塵埃が捕集され炉内雰囲気は常に清浄な状態に保持できる。」との記載によれば、前記ヒータで加熱した雰囲気を被加熱物に横から吹き付けるように循環させる雰囲気循環路中に設けられるHEPAフィルターは、除塵用フィルターであるといえる。

さらに、刊行物1の(1c)における「ウォーキングビーム搬送装置(2) は、加熱炉(1) 下端部の内部を貫通して前後にのびる互いに平行な一対の固定ビーム(5) と、固定ビーム(5) の内側にこれと平行に配置されかつ固定ビーム(5) よりも若干長い互いに平行な一対の移動ビーム(6) とを備えており、移動ビーム(6) が上昇、前進、下降、後退の順に繰り返すことにより、被加熱物収納用カセット(3) を搬送していく。移動ビーム(6) を上昇・下降させる昇降装置(12)および移動ビーム(6) を前進・後退させる進退装置(13)は加熱炉(1) 外に設けられている。」との記載、および、(1d)における「上記の連続加熱装置において、出入口シャッター(36)(37)が上昇し、シャッター(36)(37)上昇端に設けたセンサーがオンとなると同時に、移動ビーム(6) による搬送動作が始まる。移動ビーム(6) は、昇降装置(12)および進退装置(13)の動作により、上昇して固定ビーム(5) 上のカセット(3) を支持し、前進後に下降してカセット(3) を固定ビーム(5) 上に降ろし、さらに後退して元の位置に戻る。昇降装置(12)および進退装置(13)の駆動装置からの動作完了信号により出入口シャッター(36)(37)が下降し、一連の操作が終了する。」との記載によれば、前記固定ビームおよび移動ビームを有し被加熱物を加熱炉の入口から出口まで搬送するウォーキングビーム搬送装置は、被加熱物収納用カセットを加熱炉外から加熱炉内へ、また、加熱炉内から加熱炉外へ移動させる装置、すなわち機構といえる。

以上の記載及び認定事項を本願発明の記載ぶりに則り整理すると、刊行物1には、次の発明が記載されている。

「加熱炉と、複数枚の板状の被加熱物を、厚さ方向を上下方向として、上下に間隔をおいて支持する被加熱物収納用カセットと、加熱炉内において被加熱物収納用カセットにより支持された板状の被加熱物を加熱する熱風を、板状の被加熱物に横方向から吹き付けられるように発生するヒータ並びに雰囲気循環用ファンと、その熱風を通過させる除塵用HEPAフィルターと、被加熱物収納用カセットを加熱炉内と加熱炉外との間で移動させる機構と、加熱炉の入り口および出口に設けられたシャッターとを有する連続加熱装置。」(以下、「刊行物1発明」という。)

(2)本願発明1と刊行物1発明との対比
本願発明1と刊行物1発明を対比すると、刊行物1発明の「加熱炉」、「板状の被加熱物」、「被加熱物収納用カセット」、「加熱炉の入り口および出口に設けられたシャッター」、「連続加熱装置」は、本願発明1の「炉体の内部空間により構成される加熱室」、「板状被処理物」、「ラック」、「接続口の開閉機構」、「熱処理システム」にそれぞれ相当する。
また、刊行物1発明において、「加熱炉内において被加熱物収納用カセットにより支持された板状の被加熱物を加熱する熱風」は、「ヒータ並びに雰囲気循環用ファン」が協働することによって、「板状の被加熱物に横方向から吹き付けられるように発生する」のであるから、「ヒータ並びに雰囲気循環用ファン」は、本願発明1における、「熱風を、板状被処理物に横方向から吹き付けられるように発生する手段」に相当する。

してみると、本願発明1と刊行物1発明とは、
「加熱室と、複数枚の板状被処理物を、厚さ方向を上下方向として、上下に間隔をおいて支持するラックと、その加熱室内においてラックにより支持された板状被処理物を加熱する熱風を、板状被処理物に横方向から吹き付けられるように発生する手段と、その熱風を通過させる除塵用フィルターと、そのラックを加熱室と加熱室外との間で移動させる機構と、その加熱室と加熱室外との接続口の開閉機構とを有する熱風加熱式熱処理装置を備えた熱処理システム。」である点において一致し、以下の点において相違する。

相違点:本願発明1は、「加熱室に炉体の底面の接続口を介して通じる冷却室」と、「前記冷却室においてラックにより支持された板状被処理物は放冷可能とされ、且つ、その板状被処理物を強制空冷する手段」と、「ラックを加熱室と冷却室との間で上下方向に直線的に往復移動させる機構」とを備え、「前記加熱室と前記冷却室とが上下に並列するように配置され、前記加熱室の下方に前記冷却室が配置され」、「前記ラックを前記加熱室から前記冷却室に移動させた後に前記板状被処理物を前記ラックから取り出す時に、前記加熱室を処理温度に保持可能」とするものであるのに対し、刊行物1発明は、そのような装置配置や機能等を有するものであるかが不明である点。

(3)相違点についての判断

以下、上記相違点について検討する。

まず、加熱室に通じる冷却室を設けることに関して、加熱処理される板状被処理物がガラス基板等である場合に、加熱処理後に冷却を行うことは、本願出願前周知であり(要すれば、例えば、特開平10-218669号公報(【0015】、図1?3、12参照)、特開平11-25854号公報(【0005】、【0011】、図1参照))、また、熱処理炉において、加熱室に通じて冷却室を設けることは、刊行物2((2a)参照)、刊行物3((3a)参照)、或いは、前記した特開平10-218669号公報にも記載されているように本願出願前周知であるから、刊行物1発明において、加熱室に通じる冷却室を備えることは、当業者が容易になし得ることと認められ、また、前記した加熱処理後に冷却を行うとする周知技術に関し、前記公報(特開平10-218669号公報、特開平11-25854号公報)には、その具体的冷却方法として、徐冷及び急冷を行うことが記載されているから、前記加熱室に通じて設けた冷却室において、ラックにより支持された板状被処理物は放冷可能とされ、且つ、その板状被処理物を強制空冷する手段を備えることも、当業者が容易になし得ることと認められる。

そして、加熱室と冷却室の配置に関して、熱処理炉において、スペースの節約や処理時間の短縮を意図して、複数の熱処理室を上下に並列するように配置し、更には、下方の熱処理室を冷却室とすること、上方の熱処理室の底面の接続口を介して下方の熱処理室と通じさせること、また、被処理物を上方の熱処理室と下方の熱処理室の間で上下方向に直線的に往復移動させる機構を設けることは、いずれも、本出願前周知であるから(例えば、特開平8-178535号公報(【0022】?【0024】、【0028】?【0030】、図4参照)、特開平10-53809号公報(【0054】?【0070】、図7参照))、前記加熱室に通じて設けた冷却室を冷却室が加熱室の下方となるように上下に並列するように配置し、加熱室と冷却室とを加熱室底面の接続口を介して通じさせ、また、上下方向にラックを直線的に往復移動させる機構を設けることは当業者が容易になし得る事項と認められる。

さらに、「前記ラックを前記加熱室から前記冷却室に移動させた後に前記板状被処理物を前記ラックから取り出す時に、前記加熱室を処理温度に保持可能」との特定事項に関し、本願の出願当初の明細書には、その根拠とすべき同一の記載事項は見当たらないものの、発明の詳細な説明の欄において対応する記載と認められる【0006】の「本発明の構成によれば、ラックを加熱室から冷却室に移動させた後に、板状被処理物をラックから取り出して冷却することができる。よって、板状被処理物をラックから取り出す時でも、加熱室を常に処理温度に保持し、あるいは処理温度からの温度低下を小さくして処理温度への昇温時間を短縮でき、急激な温度変化をなくすことができる。」との記載によれば、「前記加熱室を処理温度に保持可能」とは、被処理物を取り出すに際して、被処理物を支持するラックを加熱室から冷却室に移動させ、冷却室において被処理物を取り出すことにより、加熱室の温度低下を小さくして処理温度への昇温時間を短縮し、その処理温度を保持することを意味するものと解される。
しかしながら、熱処理炉において、被処理物を加熱室から冷却室に移動させ、冷却室において被処理物を取り出し、しかも、被処理物を加熱室から冷却室に移動後、加熱室の扉を閉めることは、熱処理炉の技術分野において周知技術(要すれば、例えば、刊行物3参照)であり、かかる周知技術により、前記特定事項における、「前記加熱室を処理温度に保持可能」とすることは達成されているものと認められるから、前記特定事項は、当業者が容易になし得る事項と認められる。

してみると、上記相違点は、当業者が容易に想到し得る事項である。

(4)小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
したがって、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-02 
結審通知日 2008-10-08 
審決日 2008-11-07 
出願番号 特願平11-80172
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F27B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 平塚 義三
近野 光知
発明の名称 熱処理システム  
代理人 根本 進  

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