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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1189640
審判番号 不服2007-1752  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-18 
確定日 2008-12-11 
事件の表示 特願2000-210610「油性インキによる印刷部分とインクジェット記録部分が混在する印刷物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月23日出願公開、特開2002-19276〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年7月12日の出願であって、平成18年11月13日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年1月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年2月19日付で手続補正がなされたものである。

2.平成19年2月19日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年2月19日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲・請求項1は、
「【請求項1】
印刷用紙に、油性インキによる印刷部分と、印刷用紙の一部分に印刷方式によってインク受容層が設けられ、該インク受容層にインクジェット記録を施し、画像もしくは文字を形成し、油性インキによる印刷部分とインクジェット記録部分が混在する印刷物。」
と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「インクジェット記録部分」について「インク受容層にインクジェット記録を施し、画像もしくは文字を形成した」と説明して限定を付加するものであって、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用文献
・原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-264368号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。
《1a》
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐水性基材の少なくとも片面の一部に予めインク受容層を設けてなる基材に、インクジェット記録により前記インク受容層上に画像を形成し、プラスチックフィルムを貼り合わせることにより作成した画像記録物において、
プラスチックフィルムの貼り合わせ領域が、インク受容層形成領域より大であり基材端部と同じ、もしくは小であることを特徴とする画像記録物。」(特許請求の範囲欄)、

《1b》
「【発明が解決しようとしている課題】
そこで本発明者は、耐水性、耐光性優れ機械的強度にも優れ、かつ、窓口発行にも対応できる画像記録物を提供することを発明の目的とする。」(10段落)、

《1c》
「本発明に用いる基材としては耐水性のものを使用する。耐水性のものでないと記録面をいくら耐水性として保護しても基材側から水の侵入があっては、耐久性のある画像記録物が得られないからである。したがって、通常オフィスの記録物に用いられている紙等は、適さない。基材として適するものとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の樹脂類、また、金属等も用途によっては適する。」
(17段落)、

《1d》
「 これらの基材は、耐水性であるので一般のインクジェット記録用の水性インクの吸収性はよくない。そこで、インク受容層をこの上に形成するが、この前にデジタル情報の記録用として磁気ストライプを予め形成してもよいし、また、スクリーン印刷やオフセット印刷等でロゴや使用上の注意事項、規約等画一的に決まった情報を予め印刷しておいてもよい。また、インク受容層は基材の両面に設け、両面にインクジェット記録を行ってもよいし片面のみインク受容層を設けてもよい。」(18段落)、

《1e》
「インク受容層の材質としては、吸水性、親水性のポリマー類や、インクの吸収する隙間を形成するための隙間形成材料が用いられる。
吸水性のポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリウレタン(メタ)アクリレート、エーテル化澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カゼインもしくは、これらの誘導体が挙げられる。
隙間を形成する材料としては、シリカゲル、アルミナ、酸化チタン、珪酸カルシウム、合成ゼオライト、酸化亜鉛、及びプラスチックピグメント等の無機系、有機系の顔料が利用できる。これらの顔料は、バインダー樹脂と共に基材に塗布される。バインダー樹脂としては、上記した吸水性、親水性の樹脂を用いられる。・・・また、後示するように、インクの色材としては、アニオン性のものが通常使用されるので、色材の定着性、発色性をよくするためにインク受容層にカチオン性の材料を用いることも好ましいことである。カチオン性の材料としては、カチオン性樹脂分子内にカチオン性部分を含むカチオン性樹脂が好適に用いられる。」
(20?24段落)、

《1f》
「基材上にインク受容層を塗布する方法としては、特に限定されるものではないが、本発明の場合、後に行うプラスチックフィルムの貼り合わせ領域が、インク受容層形成領域より大であることを特徴とするものであるから、少なくとも最終形状の基材端部を除く部分に塗布する必要がある。このため、最終的な基材端部にマスキングのためのテープを予め貼っておくとか、スクリーン印刷等でパターン上に塗布する必要がある。・・・
インクジェット記録による画像の形成領域が基材のほぼ全面に行われるのであれば、基材端部から1mmを残して全面に塗布する必要があるし、インクジェット記録が、基材の一部に行われるのであれば、この領域のみ塗布を行えばよい。その後、例えば熱風乾燥炉、熱ドラム等を用いて乾燥し、インク受容層が形成される。」
(30?32段落)、

《1g》
「実施例1
UV/オゾン処理した厚さ0.57mmの・・・白色硬質塩ビシートの片面に、・・・以下に示すインク受容層をスクリーン印刷で印刷し、乾燥した。インク受容層は切断されたシートの中央にくるように位置合わせを行った。乾燥時の厚さは、15μmであった。
インク受容層組成:
ポリビニルアセタール樹脂(後示*) 10重量部
アルミナ水和物(AS-100:日産化学社製) 20重量部
カチオン樹脂(PAA-HCL-1L:日東紡績社製) 0.5重量部
水 34.5重量部
イソプロピルアルコール 35重量部
・・・
これに、先に述べたプリンターを用いてインクジェット記録を行った。
・・・印字した塩ビシートは、60℃で30分間加熱乾燥を行いインク中の揮発性溶媒を除去した。・・・この塩ビシートに・・・予め切断された透明塩ビテープ・・・総厚125μm)を貼り合わせた。」(41?44段落)、

《1h》
「実施例及び比較例で得られたカードはいずれもインクジェット印刷は奇麗に記録されていた。これらに対して以下に示す試験を行った。
以下の溶液に24時間浸漬後、剥離を見た。
5%食塩水、
1%炭酸ナトリウム水溶液、
5%酢酸水
また、40℃、相対湿度90%の雰囲気下に保存後外観の変化を見た。実施例で作成したカードはいずれも何の変化も見られなかった。」(56?59段落)、

《1i》
「【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、インクジェット記録により個人の情報が容易に奇麗に印刷されたカードを安価に得ることができる。また、得られたカードの画像は耐水性耐薬品性に優れ、高温高湿環境下に長時間放置しても安定で変質しないものが得られる。また、画像表面の機械的強度も実使用上問題のないものが得られる。また、従来から行われている磁気や光記録等のデジタル記録、スクリーン印刷やオフセット印刷、エンボス加工等との併用も可能である。」
(61段落)。

(3)対比と判断
・引用文献1の記載では、「耐水性、耐光性優れ機械的強度にも優れ、かつ、窓口発行にも対応できる画像記録物を提供することを発明の目的とする。」(《1b》参照)ものであり、その実施例1で基材として用いられる「UV/オゾン処理した厚さ0.57mmの・・・白色硬質塩ビシート」(《1g》参照)は、紫外線照射処理/オゾン雰囲気処理で表面処理が施されたポリ塩化ビニルの樹脂フィルムを示しており、該樹脂表面処理は、接着性や印刷適性を改善する周知慣用技術であるから、該基材が、通常の樹脂用インキ、即ち、油性インキの印刷適性を有していることは明らかである。

・引用文献1の記載では、
「基材上にインク受容層を塗布する方法としては・・・スクリーン印刷等でパターン上に塗布する、・・・インクジェット記録が、基材の一部に行われるのであれば、この領域のみ塗布を行えばよい。」(《1f》参照)とされ、
「基材は、耐水性であるので一般のインクジェット記録用の水性インクの吸収性はよくない。そこで、インク受容層をこの上に形成するが、この前に・・・スクリーン印刷やオフセット印刷等でロゴや使用上の注意事項、規約等画一的に決まった情報を予め印刷しておいてもよい。」(《1d》参照)とされている。
したがって、引用文献1には、
「表面処理されて印刷適性のある樹脂フィルムの基材があり、
該基材の一部にスクリーン印刷等でインク受容層が設けられ、
該インク受容層に対してインクジェット記録された部分と、
該基材の印刷適性を有している箇所に対して通常の印刷インキ、即ち、油性インキで印刷された部分と、
の両者が混在する画像形成物」の発明が開示されているといえる。

・そこで、本願補正発明(前者)と引用文献1記載の発明(後者)とを対比すると、後者の「表面処理されて印刷適性のある樹脂フィルムの基材」、「画像記録物」は、それぞれ、前者の「印刷用紙」、「印刷物」に相当するので、
両者は、
「印刷用紙に、
油性インキによる印刷部分と、
印刷用紙の一部分に印刷方式によってインク受容層が設けられ、該インク受容層にインクジェット記録を施し、画像もしくは文字を形成し、
油性インキによる印刷部分とインクジェット記録部分が混在する印刷物。」
で一致し、相違するところは無い。

・審判請求人は、審尋に対する回答書で、
「本願発明は、印刷手順など印刷方式にその特徴を有するものであり、引用文献1の様に予め画一的に決まった情報を印刷しておくことはないし、可変情報をインクジェット記録できるので変更作業が容易であり、引用文献1に包含されないものである」旨主張している。
しかし、引用文献1では、油性インキによる印刷を先にしてもよいと例示しているだけで、印刷手順を限定している訳では無いし、そもそも、本願発明でも、印刷手順などの印刷方式を特許請求の範囲で規定している訳では無い。
また、審判請求人の主張する
「可変情報をインクジェット記録できるので変更作業が容易」との本願発明の長所は、引用文献1でいう「窓口発行にも対応できる」長所と実質的に同じである。
したがって、審判請求人の上記主張は認められない。

・してみると、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成19年2月19日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、
平成18年10月23日付で手続補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
印刷用紙の一部分に印刷方式によってインク受容層が設けられ、油性インキによる印刷部分とインクジェット記録部分が混在する印刷物。」
(以下、「本願発明1」という。)

(1)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明1は、前記2.で検討した本願補正発明の「インクジェット記録部分」に係る限定事項を除外したものに相当する。
そうすると、本願発明1の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用文献1に記載された発明であるから、本願発明1も、同様の理由により、引用文献1に記載された発明である。

(3)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し、特許を受けることができない。
そして、この特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-08 
結審通知日 2008-10-14 
審決日 2008-10-28 
出願番号 特願2000-210610(P2000-210610)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41M)
P 1 8・ 113- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 淺野 美奈
伏見 隆夫
発明の名称 油性インキによる印刷部分とインクジェット記録部分が混在する印刷物  

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