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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09F
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G09F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09F
管理番号 1189871
審判番号 不服2007-16341  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-11 
確定日 2008-12-24 
事件の表示 特願2004-236500「アクティブマトリックス型有機電界発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 9日出願公開、特開2005-148714〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年(2004年)8月16日(パリ条約による優先権主張、平成15年11月12日、大韓民国)に出願した特願2004-236500号であって、平成19年3月5日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年6月11日付で拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付で手続補正がなされたものである。

第2 平成19年6月11日付の手続補正についての補正の却下の決定について

[補正の却下の決定の結論]
平成19年6月11日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

1 本件補正について
平成19年6月11日付手続補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成19年2月7日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、
「基板上に複数のサブピクセルが配置されたアクティブマトリックス型有機電界発光素子において、
各サブピクセルは、駆動回路によって駆動される第1薄膜トランジスタ、前記第1薄膜トランジスタによって駆動される第2薄膜トランジスタ、及び前記第2薄膜トランジスタによって駆動される表示部を備え、
前記表示部は、前記第2薄膜トランジスタから電荷を供給される第1電極、前記サブピクセルに隣接して位置する第2電極連結端子から電荷を供給される第2電極、第1電極と第2電極間に介在された発光層、及び前記第1電極と第2電極のうち少なくとも一電極と発光層間に介在された電荷輸送層を備え、
前記電荷輸送層と第2電極とは隣接したサブピクセルによって共有され、
前記第2電極は、第2電極連結端子と直接電気的に連結され、
前記第2電極と第2電極連結端子の上には保護層が形成されたことを特徴とするアクティブマトリックス型有機電界発光素子。」が、

「基板上に複数のサブピクセルが配置されたアクティブマトリックス型有機電界発光素子において、
各サブピクセルは、駆動回路によって駆動される第1薄膜トランジスタ、前記第1薄膜トランジスタによって駆動される第2薄膜トランジスタ、及び前記第2薄膜トランジスタによって駆動される表示部を備え、
前記表示部は、前記第2薄膜トランジスタから電荷を供給される第1電極、前記サブピクセルに隣接して位置する第2電極連結端子から電荷を供給される第2電極、第1電極と第2電極間に介在された発光層、及び前記第1電極と第2電極のうち少なくとも一電極と発光層間に介在された電荷輸送層を備え、
前記電荷輸送層と第2電極とは隣接したサブピクセルによって共有され、
前記サブピクセルに隣接して位置する第2電極連結端子が、前記基板上に形成された絶縁層上に形成されており、
前記第2電極は、第2電極連結端子と直接電気的に連結され、
前記第2電極と第2電極連結端子の上には保護層が形成されたことを特徴とするアクティブマトリックス型有機電界発光素子。」(以下、「本願補正発明」という。)と補正された。

2 補正目的の違反についての検討
この本件補正は、「前記サブピクセルに隣接して位置する第2電極連結端子が、前記基板上に形成された絶縁層上に形成されて」いる点を追加して限定する補正からなる。
そして、上記の補正により、本件補正前の技術課題に加え、第2電極連結端子を「絶縁膜」上に形成することに関連する技術課題も、本願の発明が解決しようとする技術課題となり、そして、この技術課題は、本件補正前の請求項1の記載からは想定され得ない技術課題である。したがって、発明が解決しようとする課題は、本件補正の前後で変更されたということができ、本件補正は、請求項のいわゆる限定的減縮を目的とするものではなく、すなわち、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものではなく、また、同法第17条の2第4項第1,3,4号に掲げるいずれの事項をも目的とするものでもないから、同法第17条の2第4項に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 独立特許要件違反についての検討
念のため、仮に、上記の本件補正が、全体として平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とする補正であって、同法第17条の2第4項の規定に違反する補正ではないとした場合に、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(1)本件補正発明について
本願補正発明は、平成19年6月11日付手続補正書でなされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。(上記「1 本件補正について」の記載参照。)

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-173779号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面の記載とともに以下の事項が記載されている。

「【請求項3】 陽極と陰極間に発光層を有するEL素子、及び該EL素子を駆動する薄膜トランジスタを備えたELパネルと、該ELパネルに接続され前記陰極へ信号を供給するための接続端子を備えた信号入力部材とを有するアクティブ型EL表示装置において、前記陰極から前記接続端子までの配線を、前記薄膜トランジスタの形成工程で使用する導電材料で構成したことを特徴とするアクティブ型EL表示装置。
【請求項4】 前記薄膜トランジスタの形成工程で使用する導電材料は、前記薄膜トランジスタのゲート電極又はドレイン電極として使用する金属材料であることを特徴とする請求項3記載のアクティブ型EL表示装置。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、薄膜トランジスタ(TFT)を用いて有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を駆動するアクティブ型のEL表示装置に関する。」

「【0006】
ところで、陽極に所定の正電圧を入力し、陰極に接地電位又は負電圧を入力するために、通常、TABやFPC等の信号入力基板10を有機ELパネル1に接続するようにしている。図7に示すように、信号入力基板10の裏面には、陰極へ所定の電圧を供給するため銅等でなる接続端子11が形成されており、この接続端子11と陰極4とを接続する方法として、従来は、陰極材料をそのまま接続端子まで延ばしていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】パッシブ型の場合、上述したように陰極には、同一列における全画素のEL素子から電流が流れ込むが、TFTを用いたアクティブ型の場合には、陰極に表示領域内における全画素のEL素子から電流が流れ込むので、その電流値は極めて大きなものとなる。また、Mg合金等の陰極材料はその抵抗値が比較的大きい。従って、アクティブ型において、従来のパッシブ型と同様に、陰極材料をそのまま延ばして、信号入力基板の接続端子と接続するようにすると、接続部での大きな抵抗によって電圧がドロップし、EL素子の発行輝度が低下してしまう。このような問題は、表示画面が大きくなればなるほど更に深刻な問題となる。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、陽極と陰極間に発光層を有するEL素子、及び該EL素子を駆動する薄膜トランジスタを備えたELパネルと、該ELパネルに接続され前記陰極へ信号を供給するための接続端子を備えた信号入力部材とを有するアクティブ型EL表示装置において、前記陰極から前記接続端子までの配線を、陰極材料と前記薄膜トランジスタの形成工程で使用する導電材料との多層構造としたことを特徴とする。
【0009】また、本発明は、陽極と陰極間に発光層を有するEL素子、及び該EL素子を駆動する薄膜トランジスタを備えたELパネルと、該ELパネルに接続され前記陰極へ信号を供給するための接続端子を備えた信号入力部材とを有するアクティブ型EL表示装置において、前記陰極から前記接続端子までの配線を、前記薄膜トランジスタの形成工程で使用する導電材料で構成したことを特徴とする。
【0010】特に、前記薄膜トランジスタの形成工程で使用する導電材料は、前記薄膜トランジスタのゲート電極又はドレイン電極として使用する金属材料であることを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明によるEL表示装置はTFTを用いたアクティブ型であって、各画素の構成は図6に示す通りである。
【0012】即ち、有機EL素子20と、ドレインに表示信号Dataが印加され、選択信号Scanによりオンオフするスイッチング用の第1のTFT21と、TFT21のオン時に供給される表示信号Dataにより充電され、TFT21のオフ時には充電電圧Vhを保持するコンデンサ22と、ドレインが駆動電源電圧COMに接続され、ソースが有機EL素子20の陽極に接続されると共に、ゲートにコンデンサ22からの保持電圧Vhが供給されることにより有機EL素子20を駆動する第2のTFT23とによって構成されている。
【0013】ここで、選択信号Scanは、選択された1水平走査期間(1H)中Hレベルになり、これによってTFT21がオンすると、表示信号Dataがコンデンサ22の一端に供給され、表示信号Dataに応じた電圧Vhがコンデンサ22に充電される。この電圧Vhは、ScanがLレベルになってTFT21がオフになっても、1垂直走査(1V)期間コンデンサ22に保持され続ける。そして、この電圧VhがTFT23のゲートに供給されているので、電圧Vhに応じた輝度でEL素子が発光するように制御される。
【0014】図5は、図6における有機EL素子20及びTFT23の構造を示す図である。
【0015】有機EL素子20は、透明なITOから成る陽極51とMgIn合金から成る陰極55との間に、MTDATAから成るホール輸送層52,TPDとRubreneから成る発光層53,Alq3から成る電子輸送層54を順に積層して形成されている。そして、陽極51から注入されたホールと陰極55から注入された電子とが発光層53の内部で再結合することにより光が放たれ、図中の矢印で示すように光は透明な陽極側から外部へ放射される。
【0016】また、駆動用のTFT23は、ガラス基板60上に、クロムCrより成るゲート電極61,ゲート絶縁膜62,ドレイン領域63及びソース領域64を有するポリシリコン薄膜65,層間絶縁膜66,平坦化絶縁膜67を順に積層して形成されており、ドレイン領域63はアルミニウムAlより成るドレイン電極68に、そして、ソース領域64は有機EL素子103の陽極であってTFT23のソース電極を構成するITO51に接続されている。
【0017】本発明の実施形態においては、以上説明した各画素がマトリクス状に配置されて、アクティブ型のELパネル30が構成されており、このパネル30と信号入力基板(TABやFPC等)35との接続状態が、図1の断面図及び図3の平面図に示されている。
【0018】図1において、ELパネル30には、上述したように、ITOから成る陽極51上に、ホール輸送層52,発光層53,電子輸送層54及び陰極55が順に積層されており、基板60上に示す31は、ゲート絶縁膜62,層間絶縁膜66,平坦化絶縁膜67等の絶縁膜層を簡略化して示している。同様に、基板60上に示す32は、ゲート電極としてクロムCr,ドレイン電極としてのアルミニウムAl等の金属層を簡略化して示している。また、信号入力基板35には、陰極55へ所定の電圧を供給するための接続端子36が裏面に形成されている。
【0019】図3に示すように、陰極55は、表示領域全面に広がる全画素に共通な電極であって、信号入力基板35の接続端子36との配線は、図1,3に示すように陰極材料層55と導電材料層33との多層構造となっている。そして、この導電材料層33としては、TFT21または23の形成工程で使用する導電材料を使用している。より具体的には、TFTのソース電極であってEL素子20の陽極51となるITO、ゲート電極としてクロムCr,ドレイン電極としてのアルミニウムAlのいずれかもしくはその組み合わせを用いればよい。
【0020】このようなTFTの形成工程で使用する導電材料は、陰極材料に比べ抵抗値が大幅に低いので表示領域外における配線抵抗を低く抑えることが可能となり、従って、表示輝度の低下を低減することができる。特に、クロムCr,アルミニウムAl等の金属材料は、ITOに比べても抵抗値がかなり低いのでより大きな効果を得ることができる。勿論、TFTの形成工程で使用する材料であるので、工程数を増加させることなく対応できる効果もある。
【0021】以上説明した実施形態は、陰極材料とTFT形成工程で使用する導電材料との多層構造を、陰極55と接続端子36を接続する配線として用いた例であるが、他実施形態としては次のような構造を用いてもよい。
【0022】即ち、図2及び図4に示すように、陰極55を導電材料層34にコンタクトさせ、この導電材料層34のみを基板60上に延ばして接続端子36との配線とするのである。そして、導電材料層34としては、導電材料33と同様、TFT21または23の形成工程で使用するITO、クロムCr,アルミニウムAlのいずれかもしくはその組み合わせを用いればよい。このようにすれば、第1の実施形態同様、表示領域外における配線抵抗を低く抑えることが可能となり、従って、表示輝度の低下を低減することができる。特に、クロムCr,アルミニウムAl等の金属材料を用いれば、より効果は大きい。」

上記記載事項から、引用例1には、アクティブ型EL表示装置に関して、
・「各画素がマトリクス状に配置されて、アクティブ型のELパネル30が構成されて」いること、(【0017】欄)
・上記各画素が、「ドレインに表示信号Dataが印加され、選択信号Scanによりオンオフするスイッチング用の第1のTFT21」、「TFT21のオン時に供給される表示信号Dataにより充電され、TFT21のオフ時には・・・ソースが有機EL素子20の陽極に接続されると共に、ゲートにコンデンサ22からの保持電圧Vhが供給される・・・第2のTFT23」、「(第2のTFT23が駆動する)有機EL素子」を備えること、(【0012】欄)
・「有機EL素子20は、透明なITOから成る陽極51とMgIn合金から成る陰極55との間に、MTDATAから成るホール輸送層52,TPDとRubreneから成る発光層53,Alq3から成る電子輸送層54を順に積層して形成されている。そして、陽極51から注入されたホールと陰極55から注入された電子とが発光層53の内部で再結合することにより光が放たれ図中の矢印で示すように光は透明な陽極側から外部へ放射される」こと、(【0015】欄)
・「陰極55は、表示領域全面に広がる全画素に共通な電極」であること、(【0019】欄)
・「陰極55を導電材料層34にコンタクトさせ、この導電材料層34のみを基板60上に延ばして接続端子36との配線とする」こと、(【0022】欄)
が記載されている。

また、図2,図4から、陰極で覆われた画素領域及び導電材料層34が、隣接してガラス基板60上に配置されていることが見て取れる。
さらに、図5から、陽極51はTFT23のソース領域64と接続されていることが見て取れる。

したがって、引用例1には、
「ガラス基板60上に各画素がマトリクス状に配置されたアクティブ型EL表示素子において、
各画素は、ドレインに表示信号Dataが印加され、選択信号Scanによりオンオフするスイッチング用の第1のTFT21、TFT21のオン時に供給される表示信号Dataにより充電され、TFT21のオフ時にはゲートにコンデンサ22からの保持電圧Vhが供給される第2のTFT23、第2のTFT23が駆動する有機EL素子を備え、
前記有機EL素子は、前記第2のTFT23のソース領域64と接続された透明なITOから成る陽極51とMgIn合金から成る陰極55との間に、MTDATAから成るホール輸送層52,TPDとRubreneから成る発光層53,Alq3から成る電子輸送層54を順に積層して備え、前記陽極51から注入されたホールと前記陰極55から注入された電子とが、前記発光層53の内部で再結合することにより、光は前記透明な陽極51側から外部へ放射され、
前記陰極55は、表示領域全面に広がる全画素に共通な電極であり、
前記陰極55で覆われた画素領域に隣接して位置し、前記陰極55へ信号を供給する導電材料層34が、前記ガラス基板60上に形成されており、
前記陰極55を前記導電性材料層34にコンタクトさせたアクティブ型有機EL表示素子。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

また、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-316296号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面の記載とともに以下の事項が記載されている。

「【0041】図3は図2のA-A線に沿う断面図である。この図において、電気光学装置1は、基板2と、インジウム錫酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)等の透明電極材料からな画素電極23と、画素電極23上に配置された有機EL素子3と、画素電極23との間で有機EL素子3を挟み込むように配置されている陰極222と、基板2上に形成され、画素電極23に対する通電を制御する通電制御部としてのカレントTFT24とを有している。更に、陰極222の上層には封止層20(第2の保護層)が設けられている。陰極222は、アルミニウム(Al)やマグネシウム(Mg)、金(Au)、銀(Ag)、カルシウム(Ca)から選ばれる少なくとも1つの金属から構成されている。陰極222は上述した各材料の合金や積層したものをも含む。カレントTFT24は、走査線駆動回路80及びデータ線駆動回路90からの作動指令信号に基づいて作動し、画素電極23への通電制御を行う。」

(3)対比
ここで、引用発明と本願補正発明とを対比する。
引用発明の「ガラス基板」が本願補正発明の「基板」に相当し、引用発明の「各画素がマトリクス状に配置されたアクティブ型有機EL表示素子」が本願補正発明「複数のサブピクセルが配置されたアクティブマトリックス型有機電界発光素子」に相当する。
また、引用発明の「画素」が本願補正発明の「サブピクセル」に相当し、引用発明の「ドレインに表示信号Dataが印加され、選択信号Scanによりオンオフするスイッチング用の第1のTFT21」、「TFT21のオン時に供給される表示信号Dataにより充電され、TFT21のオフ時にはゲートにコンデンサ22からの保持電圧Vhが供給される第2のTFT23」及び「第2のTFT23が駆動する有機EL素子」は、それぞれ、本願補正発明の「駆動回路によって駆動される第1薄膜トランジスタ」、「前記第1薄膜トランジスタによって駆動される第2薄膜トランジスタ」及び「及び前記第2薄膜トランジスタによって駆動される表示部」に相当する。
引用発明では「陽極51」は「第2のTFT23のソース領域64と接続され」、かかる「陽極51」から「ホール」が注入されるから、引用発明の前記「陽極51」は、本願補正発明の「第2薄膜トランジスタから電荷を供給される第1電極」に相当する。
引用発明の「導電性材料層34」が本願補正発明の「第2電極連結端子」に相当する。
引用発明では「陰極55」は、「画素電極」に隣接して位置する「導電性材料層34」から「信号」が「供給」され、かかる「陰極55」から電子が注入されるから、引用発明の前記「陰極55」は本願補正発明の「サブピクセルに隣接して位置する第2電極連結端子から電荷を供給される第2電極」に相当する。
引用発明の「陽極51」と「陰極55」との間に備えられた「発光層53」は、本願補正発明の「第1電極と第2電極に介在された発光層」に相当する。
引用発明の、「陽極51」と「発光層53」との間に備えられた「ホール輸送層52」及び/又は「発光層53」と「陰極55」との間に備えられた「電子輸送層54」は、本願補正発明の「第1電極と第2電極のうち少なくとも一電極と発光層間に介在された電荷輸送層」に相当する。
また、引用発明において「前記陰極55は、表示領域全面に広がる全画素に共通な電極」であることと、本願補正発明において「前記電荷輸送層と第2電極とは隣接したサブピクセルによって共有され」ることとは、「第2電極(陰極)は隣接したサブピクセル(画素)によって共有され」る点で一致している。
また、引用発明の「陰極で覆われた画素領域に隣接して位置する導電材料層34が、前記ガラス基板60上に形成されて」いることと、本願補正発明の「前記サブピクセルに隣接して位置する第2電極連結端子が、前記基板上に形成された絶縁層上に形成されて」いることとは、「サブピクセル(画素)に隣接して位置する第2電極連結端子(導電材料層)が、基板上に形成されて」いる点で一致している。
また、引用発明の「前記陰極55を前記導電性材料層34にコンタクトさせ」たことが、本願補正発明の「前記第2電極は、第2電極連結端子と直接電気的に連結され」ていることに相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「 基板上に複数のサブピクセルが配置されたアクティブマトリックス型有機電界発光素子において、
各サブピクセルは、駆動回路によって駆動される第1薄膜トランジスタ、前記第1薄膜トランジスタによって駆動される第2薄膜トランジスタ、及び前記第2薄膜トランジスタによって駆動される表示部を備え、
前記表示部は、前記第2薄膜トランジスタから電荷を供給される第1電極、前記サブピクセルに隣接して位置する第2電極連結端子から電荷を供給される第2電極、第1電極と第2電極間に介在された発光層、及び前記第1電極と第2電極のうち少なくとも一電極と発光層間に介在された電荷輸送層を備え、
第2電極は隣接したサブピクセルによって共有され、
前記サブピクセルに隣接して位置する第2電極連結端子が、前記基板上に形成されており、
前記第2電極は、第2電極連結端子と直接電気的に連結されたアクティブマトリックス型有機電界発光素子」の点で一致し、以下の各点で相違する。

ア 相違点1;
第2電極が隣接したサブピクセルによって共有された構造において、本願補正発明が、第2電極にとともに「電荷輸送層」も隣接したサブピクセルによって共有されているのに対し、引用発明においてはそのような限定がなされていない点。

イ 相違点2;
サブピクセルに隣接して位置する第2電極連結端子が基板上に形成されている構造において、本願補正発明が、サブピクセルに隣接して位置する第2電極連結端子が基板上に形成された「絶縁層上」に形成されているのに対し、引用発明においてはそのような限定がなされていない点。

ウ 相違点3;
本願補正発明においては、「第2電極と第2電極連結端子の上には保護層が形成され」ているのに対し、引用発明においてはそのような限定がなされていない点。

(4)当審の判断
以下において、上記各相違点について検討する。

ア 相違点1について
有機EL表示装置において、陰極(第2電極)と電荷輸送層を各画素(サブピクセル)によって共有することは、例えば、
・特開2003-100465号公報(【図5】)
・特開2002-184576号公報(【0063】【図2】)
にも記載されているように周知技術である。
したがって、引用発明においても、上記周知技術を採用し、陰極55だけでなく、電子輸送層54やホール輸送層52も各画素において共有する構造にして、上記相違点1に係る発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
アクティブマトリクス表示装置において、画素領域に隣接して位置する接続配線部が、基板上に絶縁層を介して設けられる点は、例えば、
・特開2001-93598号公報(【0096】【図11】)
・特開2003-174173号公報(【図16】【図17】)
にも記載されているように周知技術である。
したがって、引用発明においても、上記周知技術を採用し、ガラス基板60上に絶縁層を介して導電材料層34を設ける構造にして、上記相違点2に係る発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3について
上記引用例2の記載事項の「陰極222の上層には封止層20(第2の保護層)が設けられている。」の記載から、有機EL表示装置において、陰極(第2電極)の上に封止層(保護層)を形成することは、引用例2に記載されている構成であるといえる。そして、引用発明においても、密封性向上のため、引用例2に記載の上記の構成を適用することに格別の困難性は認められない。そして、上記適用において、さらに密封性を向上させることを目的として、引用発明の陰極55だけでなく引用発明の導電性材料層34の上にも封止層を延在させて、本願補正発明のように「陰極と連結端子の上には保護層が形成され」る構造とすることは当業者が容易に想到し得た事項である。

また、有機EL表示装置において、本願補正発明のように「陰極と連結端子の上に保護層が形成され」る点については、例えば、
・特開2002-175877号公報(【0010】【図2】)
・特開2001-318628号公報(【0109】?【0114】【図6】)
にも記載されているように周知の技術である。
そして、引用発明においても、封止性能を向上させるために、上記周知技術を採用して、本願補正発明のように「陰極と連結端子の上には保護層が形成され」る構造とし、上記相違点3に係る発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明、引用例2に記載された発明及び上記の周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

エ まとめ
したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び上記の周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(5)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、仮に、本件補正が、全体として平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とする補正であって、同法第17条の2第4項の規定に違反する補正ではないとした場合であっても、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、本件補正は、同法第53条第1項の規定によって却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成19年6月11日付の手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年2月7日付手続補正書でなされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成19年6月11日付の手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物の記載事項は、上記「第2 平成19年6月11日付の手続補正についての補正の却下の決定について」の「3 独立特許要件違反についての検討」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比
ここで、引用発明と本願発明とを対比すると、上記「第2 平成19年6月11日付の手続補正についての補正の却下の決定について」の「3 独立特許要件違反についての検討」の「(3)対比」での対比と同様の対比により、本願発明と引用発明は
「 基板上に複数のサブピクセルが配置されたアクティブマトリックス型有機電界発光素子において、
各サブピクセルは、駆動回路によって駆動される第1薄膜トランジスタ、前記第1薄膜トランジスタによって駆動される第2薄膜トランジスタ、及び前記第2薄膜トランジスタによって駆動される表示部を備え、
前記表示部は、前記第2薄膜トランジスタから電荷を供給される第1電極、前記サブピクセルに隣接して位置する第2電極連結端子から電荷を供給される第2電極、第1電極と第2電極間に介在された発光層、及び前記第1電極と第2電極のうち少なくとも一電極と発光層間に介在された電荷輸送層を備え、
第2電極は隣接したサブピクセルによって共有され、
前記第2電極は、第2電極連結端子と直接電気的に連結されたアクティブマトリックス型有機電界発光素子」の点で一致し、次の各点で相違する。
(1)相違点1;
第2電極が隣接したサブピクセルによって共有された構造において、本願発明が、第2電極にとともに「電荷輸送層」も隣接したサブピクセルによって共有されているのに対し、引用発明においてはそのような限定がなされていない点。

(2)相違点2
本願発明においては、「第2電極と第2電極連結端子の上には保護層が形成され」ているのに対し、引用発明においてはそのような限定がなされていない点。

4 当審の判断
上記の本願発明と引用発明の相違点1については、上記「第2 平成19年6月11日付の手続補正についての補正の却下の決定について」の「3 独立特許要件違反についての検討」の「(4)当審の判断」の項における、本願補正発明と引用発明の相違点1と同じ相違点であるから、上記項の「ア 相違点1について」における考察と同様の考察により、引用発明に上記周知技術を採用して、上記本願発明と引用発明の相違点1に係る発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、上記の本願発明と引用発明の相違点2については、上記「第2 平成19年6月11日付の手続補正についての補正の却下の決定について」の「3 独立特許要件違反についての検討」の「(4)当審の判断」の項における、本願補正発明と引用発明の相違点3と同じ相違点であるから、上記項の「ウ 相違点3について」における考察と同様の考察により、引用発明に引用例2に記載された発明または上記周知技術を適用して、上記の本願発明と引用発明の相違点2に係る発明特定事項を得ることは、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるといえる。

そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明、引用例2に記載された発明及び上記の周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-17 
結審通知日 2008-07-22 
審決日 2008-08-08 
出願番号 特願2004-236500(P2004-236500)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G09F)
P 1 8・ 57- Z (G09F)
P 1 8・ 121- Z (G09F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北川 創  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 森林 克郎
日夏 貴史
発明の名称 アクティブマトリックス型有機電界発光素子  
代理人 八田 幹雄  

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