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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1190267
審判番号 不服2006-10680  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-25 
確定日 2009-01-05 
事件の表示 特願2000- 83586「電子写真用トナー並びに画像形成方法及び画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月16日出願公開、特開2001-318485〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年3月24日(優先権主張 平成11年3月25日、平成12年3月1日)の出願であって、その請求項1?13に係る発明は、平成20年9月30日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】感光体上に静電潜像を形成する潜像形成工程、該感光体上の潜像上に電子写真用トナーを用いてトナー像を形成する現像工程、形成されたトナー像を転写体上に転写する転写工程を有する画像形成方法において、該トナーは一次粒子径の平均値が1?14nmである微粒子からなる外添剤によって外添処理を施し、トナー粒子1粒子当りの表面積に対する外添剤の被覆面積率の平均値(ただし、外添剤の被覆面積比率の平均値は、トナー表面画像における外添剤の面積を計測し、トナー表面画像の面積に対する外添剤面積の比を計算して求めるものとする。)を8%から100%にしたものであり、遠心分離法によって測定される電子写真用トナーと電子写真感光体間に働く付着力の内、トナーの帯電に起因しない非静電的付着力に関して、該電子写真用トナーにおける粒径範囲がD±d(μm)、dが2μm以下であるトナー粒子群に対する非静電的付着力の平均値をFne(D)(nN)とした場合に、トナー粒径Dを横軸とし、Fne(D)を縦軸としてプロットしたグラフにおける一次回帰直線の比例係数が0.842(nN/μm)?5(nN/μm)となり、非静電的付着力の常用対数分布における標準偏差が0.65以下となる電子写真用トナーと感光体との組み合せを用いることを特徴とする画像形成方法。
ただし、各粒径範囲の平均値Fne(D)は、粒径がD±0.5(μm)の範囲内にあるトナーに対する非静電的付着力の常用対数について算術平均値Aを算出し、Fne(D)=10^(A) から求めるものとする。」


2.引用例
これに対して、当審における、平成20年8月1日付けで通知した拒絶の理由IIに引用した、本願優先日前に頒布された特開平5-297625号公報(上記拒絶の理由の引用刊行物2であるが、以下、単に「刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。

(a)「【請求項1】少なくともバインダー樹脂と導電性着色剤と疎水性シリカ微粒子とからなる平均粒径が8μm以下の粉体トナーにおいて、
導電性着色剤の一次粒子の平均粒径が40乃至60nmで、
且つ、疎水性シリカ微粒子の一次粒子の平均粒径が13nm以下であることを特徴とする粉体トナー。
【請求項2】トナー断面において1μm以上の導電性着色剤凝集粒子の面積率が2%以下であることを特徴とする請求項1記載の粉体トナー。
【請求項3】トナー粒子表面において、疎水性シリカ微粒子の投影面積被覆率が10乃至30%であることを特徴とする請求項1記載の粉体トナー。」

(b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、電子写真法等に使用される粉体トナーに関し、より詳細には、小粒径なトナーにおいても、未転写トナーを減少させ、高転写効率で且つ良好な転写特性を維持できる粉体トナーに関する。
【0002】【従来の技術】電子写真複写法は、光導電現象を利用して画像を形成し、ハードコピーを得るシステムで、プロセスとしては帯電、露光、現像、転写、定着、クリーニングの各工程からなっている。その中で、転写工程は、静電潜像に現像されたトナーをそのトナーと逆極性の電圧を印加することにより、記録媒体にトナーを転写させるものである。この転写工程は、現像工程とともに、最終的に得られる複写画像に強い影響を与えるプロセスである。
【0003】(略)
【0004】最近、高画質の画像を求める要請が強く、トナーの小粒径化が進みつつある。画像の解像力や細線の再現性には、トナーが小粒径の方が良いことは多言を要しないところである。しかし、トナーが小粒径になってくると、次のような問題点(1)(当審注:丸数字であるが、括弧付きで(1)のように示す。以下、同様。)トナー1個に対する電荷量が低下する。
【0005】(2)流動性悪化のため、逆極性トナーが発生しやすい。
(3)感光体との付着力が増大する。
が発生する。このため、転写工程において記録媒体の裏側から転写電圧を印加しても、クーロン力によるトナーの転写が十分行われず転写効率が著しく低下し、当初の目的に反し画像を劣化させていた。
【0006】従来、このような不具合を解決するため(1)トナーの粒度分布をよりシャープにすることによってトナーの帯電を均一にし、1個のトナーのもつ電荷量を等しくする。
(2)着色剤は、トナーを着色させる効果以外にトナー抵抗を調整する効果も有するので、着色剤がトナー粒子内で均一分散化することを目的として従来よりも微細な着色剤粒子を使用する。
【0007】(3)トナー粒子と感光体との接触面積を減らし感光体との付着力を小さくする目的で、疎水性シリカ微粒子を多量に配合する。
といった方策がとられていた。
【0008】
【発明が解決しようとする問題点】しかし、このような方策では以下の新たな問題が起こる。
(1)分級方法としては、気流式分級装置等の風力分級機が一般に使用されているが、粒子の粒径を小粒径で揃えることは非常に困難である。
(2)いくら粒度を揃えても、トナーの粒径自体小さいために、あまり効果的とは言えない。
【0009】(3)着色剤は、一般に凝集傾向が大であり、一次粒子径が微細であっても、これらの一次粒子が強固に凝集した比較的粗大な二次粒子の形で存在する。このような凝集傾向は一次粒子が微細であればあるほどより顕著に認められることであり、従来から使用されている着色剤では、一次粒子がかなり微細であることから、上記凝集傾向が顕著なものとなっている。
【0010】各構成材料の中でも、特に着色剤の分散が悪いと電荷量、抵抗が低くなり、電荷が小さいにもかかわらず、それにも増して電荷を保持しにくい状態となり、転写効率の低下をもたらす。
(4)疎水性シリカ微粒子がトナー表面から遊離する量が多くなり、この遊離した疎水性シリカ微粒子が複写機内プロセス手段に悪影響をもたらすのである。即ち、遊離した疎水性シリカ微粒子がキャリアに付着し、帯電不良を発生させ、画像濃度不良が生じる。更には、感光体に付着し、クリーニング工程では除去できず、いわゆるフィルミングを生じ、黒筋、白筋等を発生させたり、トナーのクリーニング不良が生じる。
【0011】本発明者等は、小粒径トナーにおいても、着色剤の粒径を一定範囲にすることでトナー中に均一分散できトナー電荷量を最大限にすることができ、また疎水性シリカを表面処理剤として選択し、かつ一定粒径以下とすることでトナー表面から遊離することなくドラムとの付着力を低下させることを見いだした。即ち、本発明の目的は、小粒径トナーにおいても、高い転写効率を維持し、また転写工程での画像劣化を防止することができるトナーを提供するにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、少なくともバインダー樹脂と着色剤と疎水性シリカ微粒子とからなる平均粒径8μm以下粉体トナーにおいて、着色剤一次粒子の平均粒径が40乃至60nmで、且つ疎水性シリカ微粒子の一次粒子の平均粒径が13nm以下であることを特徴とする粉体トナーが提供される。
【0013】本発明では、着色剤の凝集粒子はトナー断面において、1μm以上の凝集粒子の面積率が2%以下が好ましく、疎水性シリカ微粒子はトナー粒子表面において、投影面積被覆率が10乃至30%であることが好ましい。
【0014】
【作用】着色剤の抵抗調整剤としての作用はトナー中に分散している着色剤粒子とバインダー樹脂との界面を通して行われるものであるから、着色剤が実際のトナー中で小さく、且つ均一に分散されているほうが、電気的に安定することは容易に了解されよう。また、トナー粒子径が小さくなればそれに伴い着色剤も小さくするということは一般に考えられることである。
【0015】したがって、本発明において小粒径トナーに使用する着色剤を従来の着色剤よりも大きいものを選択することは一見矛盾するように思える。しかし、粒子径の小さい従来の着色剤は一次粒子同士の凝集が発生するため、混合攪拌の効率が悪く、また均一に分散できないことは既に指摘した通りである。これに対し、一定範囲の粒子径を有する着色剤を使用すると一時粒子同士の凝集が発生することなくトナー粒子中において良好な分散性が得られる。その結果、1個のトナー電荷量を大きく、電荷保持性を向上させることができ、粒径が小さい8μm以下の小粒径トナー粒子においても、転写電圧によるクーロン力を増大するこが可能となる。一定範囲の下限値は40nmである。これ以下の粒径であると一次粒子同士の凝集が起こるからである。また一次粒子が60nm以上であるとトナー製造上において着色剤が各トナー粒子に均一に含有されないおそれがあるからである。
【0016】本明細書において、着色剤の一次粒子の平均粒径は、電子顕微鏡写真によって粒子の径と数から個数平均径として求める。本発明のトナーでは、上述した着色剤がトナー粒子及び混練物中で、1μm以上の着色剤凝集粒子の面積率が2%以下であることが好ましい。即ち、この値が上記範囲を上廻るとトナー粒子の電荷保持性が悪くなり、転写効率が低下する傾向があるからである。
【0017】本明細書において、1μm以上の着色剤凝集粒子の面積率とは、トナー粒子あるいはトナー混練物をミクロトームで切片の形に切断し、この断面を光学顕微鏡で撮影し、着色剤粒子の断面積を実測し、その断面積率を算出することにより求められる。更に、本発明においては疎水性シリカ微粒子の一次粒子の平均粒径が13nm以下の範囲にあることが顕著な特徴である。これは疎水性シリカ微粒子の一次粒子径が13nm以下であると、粒子径の大きい疎水性シリカ微粒子と同重量の配合を行なってもその粒子が小さいためにトナー粒子と感光体との接触面積を減少させることができ、粒径の小さい8μm以下のトナー粒子粒子においても、ファンデルワールス力すなわち付着力を小さくすることができるからである。
【0018】転写電圧によるトナー粒子のクーロン力を増大させ、且つ感光体とのファンデルワールス力を小さくするというその二つを同時に満足することによって、高い転写効率及び転写工程での画像劣化を防止することができる。また、本発明のトナーでは、疎水性シリカ微粒子がトナー表面において、投影面積被覆率で、10乃至30%、好ましくは15乃至25%であることが望ましい。即ち、この値が上記範囲を上廻ると遊離疎水性シリカ微粒子が発生しやすく、キャリアに付着することによって画像不良が発生したり、また感光体にフィルミングすることによって黒筋、白筋、トナーのクリーニング不良が発生する。また、この値が上記範囲を下廻ると感光体とトナー粒子の接触面積が増加し、転写効率を低下させるおそれがある。
【0019】本明細書において、トナー表面における疎水性シリカ微粒子の投影面積被覆率とは、トナー表面の走査型電子顕微鏡写真を撮影し、その画像解析から、トナー表面に存在するトナーの面積被覆率を求める。面積被覆率とは、トナー粒子の全表面積のうち添加剤で覆われているいる割合(%)を意味している。具体的には、次式によって求められる。
【0020】
【数1】

【0021】式中Cは投影面積被覆率、Sはトナーの投影面積、Siは疎水性シリカ微粒子の投影面積、mは面積Siのものの粒子個数を示している。トナー粒子の粒径はコールターカウンターで測定した値である。」

(c)「【0027】・・・(中略)・・・
トナーの製造
バインダー樹脂、着色剤、電荷制御剤、離型剤等を混合攪拌する。混合攪拌は低負荷・低せん断力が作用する条件下で行うべきであり、一般にコニカルブレンダー、リボンブレンダー、V型ブレンダー、ナウタミキサー、ヘンシェルミキサー、ボールミル等の各種混合攪拌装置で行うことができる。混合攪拌温度は、バインダー樹脂のガラス転移点(Tg)よりも低い温度とするのがよい。必要な混合攪拌時間は装置の種類、投入量によっても相違するが、一般に10及至300分の範囲が適当である。
【0028】このようにして得られた前混合物を常法により溶融混練し、この混練物を粉砕、分級してトナーとする。得られたトナーには、例えばアエロジルR974(登録商標)のように、一次粒子の平均粒径が13nm以下の疎水性シリカ微粒子を投影面積被覆率が10乃至30%、好ましくは15乃至25%になるように配合し、前記混合攪拌機中でまぶし処理して最終トナーとする。
【0029】本発明によるトナーは、フェライトや鉄粉等の磁性キャリアと混合し、二成分系現像剤として、また、磁性顔料及び非磁性顔料が含有されている一成分系現像剤として静電潜像の現像に有利に使用される。」

(d)「【0030】
【実施例】
実施例1
(トナー配合成分)
スチレン-アクリル系樹脂 100重量部
カーボンブラック(一次粒子の平均粒径:40nm) 8.5重量部
クロム錯塩染料(電荷制御剤) 1.5重量部
低分子量ポリプロピレン(離型剤) 3重量部
上記トナー配合成分をV型混合機で60分混合し、前混合物を調整した。
【0031】この前混合物を二軸押出し機を用いて溶融混練し、冷却後ジェットミルを用いて粉砕し、アルピネ分級機で風力分級を行って、平均粒径8.0μmのトナーを得た。このトナーに疎水性シリカ微粒子(一次粒子の平均粒径:13nm)を0.15重量部加えてヘンシェルミキサーで混合し、まぶし処理をおこなって、最終トナーとした。
【0032】そして、この最終トナーにおけるカーボンブラックの1μm以上の凝集粒子の面積率を測定したところ2.0%であり、表面に存在する疎水性シリカ微粒子の投影面積被覆率を測定したところ10%であった。さらに、このトナーにフェライトキャリアを混合し、トナー濃度3.5重量%の現像剤を作製した。この現像剤を用いて、電子写真複写機(三田工業社製;DC4585)により複写を行い、画像濃度、解像度、転写効率について評価を行った。画像濃度については反射濃度計(東京電色社製)にて測定し、転写効率については、感光体に現像されたトナー重量に対して転写紙上に転写されたトナー重量の比を重量%で求めた。この結果を表1に示す。
実施例2
疎水性シリカ微粒子の添加量を0.6重量部とした以外は実施例1と同様にした。
比較例1
一次粒子の平均粒径が25nmの着色剤に代え、一次粒子の平均粒径が16nmの疎水性シリカ微粒子に代え、添加量を0.3重量部とした以外は、実施例1と同様にした。
比較例2
一次粒子の平均粒径が16nmの疎水性シリカ微粒子に代え、添加量を0.6重量部とした以外は、実施例1と同様にした。
比較例3
一次粒子の平均粒径が25nmの着色剤に代えた以外は、実施例1と同様にした。
比較例4
疎水性シリカ微粒子の添加量を0.8重量部に代えた以外は、実施例1と同様にした。
比較例5
疎水性シリカ微粒子の添加量を0.08重量部に代えた以外は、実施例1と同様にした。
【0033】表1に実験結果を示す。本発明の製造方法で得られた実施例1、実施例2のトナーは、着色剤の一次粒子の平均粒径及び疎水性シリカ微粒子の一次粒子の平均粒径が本発明の範囲であり、着色剤の凝集面積率及び疎水性シリカ微粒子の投影面積被覆率も本発明の範囲であり、画像特性が良好で転写効率の高い鮮明な画像が得られた。
【0034】一方、比較例1、比較例2、比較例3のように着色剤の一次粒子の平均粒径及び、疎水性シリカ微粒子の一次粒子の平均粒径のそれぞれいずれか一つが欠けても、画質、転写効率とも低下した。また、比較例4、比較例5のように着色剤の凝集面積率及び、疎水性シリカ微粒子の投影面積被覆率のそれぞれが本発明の範囲外では、画質、転写効率の双方が低下し、面積被覆率が越えた場合は、白筋が発生した。
【0035】
【表1】



(e)上記【表1】をみると、実施例1,実施例2のトナーについて、疎水性シリカ一次粒子の平均粒径はいずれも13nmであり、疎水性シリカの投影面積被覆率はそれぞれ10%、30%であることがわかる。

(f)「【0036】【発明の効果】本発明によれば、トナー成分である着色剤の一次粒子の平均粒径を一定範囲とすることにより小粒径トナー中であっても均一に分散でき、一次粒子の平均粒径が小さい疎水性シリカ微粒子でトナー表面にまぶすことにより感光体との付着力をも低下でき、それぞれ適量を適法によって配合することによって、高画質・高転写特性が得られるという利点がある。」

これら記載によれば、刊行物には次の発明(以下、「刊行物記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「帯電、露光により感光体上に静電潜像を形成する工程、感光体上の静電潜像をトナーにより現像する工程、感光体上のトナーを記録媒体に転写する工程を有する電子写真複写法において、
トナーは、トナー粒子に一次粒子の平均粒径が13nm以下の疎水性シリカ微粒子を加えて混合し、まぶし処理をおこない、トナー粒子表面に存在する疎水性シリカ微粒子を投影面積被覆率で10乃至30%としたものであり、
これにより、感光体に対するトナーの付着力を小さくするとともに、遊離する疎水性シリカ微粒子の発生を少なくした、
電子写真複写法。」


3.対比・判断
そこで、本願発明1と刊行物記載の発明とを対比すると、
刊行物記載の発明の「帯電、露光により感光体上に静電潜像を形成する工程」「トナー」「感光体上の静電潜像をトナーにより現像する工程」「感光体上のトナーを記録媒体に転写する工程」「電子写真複写法」は、
それぞれ、本願発明1の「感光体上に静電潜像を形成する潜像形成工程」「電子写真用トナー」「該感光体上の潜像上に電子写真用トナーを用いてトナー像を形成する現像工程」「形成されたトナー像を転写体上に転写する転写工程」「画像形成方法」に相当する。

また、刊行物記載の発明の「一次粒子の平均粒径が13nm以下の疎水性シリカ微粒子」「トナー粒子に・・・疎水性シリカ微粒子を加えて混合し、まぶし処理をおこない」は、それぞれ、本願発明1の「一次粒子径の平均値が1?14nmである微粒子からなる外添剤」「該トナーは・・・微粒子からなる外添剤によって外添処理を施し」に実質的に相当するということができるから、
刊行物記載の発明の「トナー粒子に一次粒子の平均粒径が13nm以下の疎水性シリカ微粒子を加えて混合し、まぶし処理をおこない」は、本願発明1の「該トナーは一次粒子径の平均値が1?14nmである微粒子からなる外添剤によって外添処理を施し」に相当する。

さらに、刊行物記載の発明の「トナー粒子表面に存在する疎水性シリカ微粒子を投影面積被覆率で10乃至30%とした」と、本願発明1の「トナー粒子1粒子当りの表面積に対する外添剤の被覆面積率の平均値(ただし、外添剤の被覆面積比率の平均値は、トナー表面画像における外添剤の面積を計測し、トナー表面画像の面積に対する外添剤面積の比を計算して求めるものとする。)を8%から100%にした」とは、トナー粒子表面の外添剤が占める面積率を所定の範囲にした点で共通する。

刊行物記載の発明の「これにより、感光体に対するトナーの付着力を小さくするとともに、遊離する疎水性シリカ微粒子の発生を少なくした」(以下、「構成A」という。)は、トナー粒子表面の外添剤が占める面積率を10乃至30%にしたことによる作用効果であり、その面積率を10%以上にすることにより、感光体に対するトナーの付着力を小さくするものである。
また、本願発明1の「遠心分離法によって測定される電子写真用トナーと電子写真感光体間に働く付着力の内、トナーの帯電に起因しない非静電的付着力に関して、該電子写真用トナーにおける粒径範囲がD±d(μm)、dが2μm以下であるトナー粒子群に対する非静電的付着力の平均値をFne(D)(nN)とした場合に、トナー粒径Dを横軸とし、Fne(D)を縦軸としてプロットしたグラフにおける一次回帰直線の比例係数が0.842(nN/μm)?5(nN/μm)となり」(以下、「構成a」という。)は、感光体に対するトナーの非静電的付着力を所定範囲にしたものといえる。
そうすると、刊行物記載の発明の「構成A」と本願発明1の「構成a」とは、感光体に対するトナーの付着力を調整した点で共通する。

したがって、本願発明1と刊行物記載の発明の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「感光体上に静電潜像を形成する潜像形成工程、該感光体上の潜像上に電子写真用トナーを用いてトナー像を形成する現像工程、形成されたトナー像を転写体上に転写する転写工程を有する画像形成方法において、
該トナーは一次粒子径の平均値が1?14nmである微粒子からなる外添剤によって外添処理を施し、トナー粒子表面の外添剤が占める面積率を所定の範囲にしたものであり、
感光体に対するトナーの付着力を調整したものである、
画像形成方法。」

[相違点1]
トナー粒子表面の外添剤が占める面積率に関し、
本願発明1は、トナー粒子1粒子当りの表面積に対する外添剤の被覆面積率の平均値(ただし、外添剤の被覆面積比率の平均値は、トナー表面画像における外添剤の面積を計測し、トナー表面画像の面積に対する外添剤面積の
比を計算して求めるものとする。)を8%から100%にしたものであるのに対し、
刊行物記載の発明は、トナー粒子表面に存在する疎水性シリカ微粒子を投影面積被覆率で10乃至30%としたものである点。

[相違点2]
感光体に対するトナーの付着力に関し、
本願発明1は、 遠心分離法によって測定される電子写真用トナーと電子写真感光体間に働く付着力の内、トナーの帯電に起因しない非静電的付着力に関して、該電子写真用トナーにおける粒径範囲がD±d(μm)、dが2μm以下であるトナー粒子群に対する非静電的付着力の平均値をFne(D)(nN)とした場合に、トナー粒径Dを横軸とし、Fne(D)を縦軸としてプロットしたグラフにおける一次回帰直線の比例係数が0.842(nN/μm)?5(nN/μm)となり、非静電的付着力の常用対数分布における標準偏差が0.65以下となる電子写真用トナーと感光体との組み合せを用いる(ただし、各粒径範囲の平均値Fne(D)は、粒径がD±0.5(μm)の範囲内にあるトナーに対する非静電的付着力の常用対数について算術平均値Aを算出し、Fne(D)=10^(A) から求めるものとする。)のに対し、
刊行物記載の発明は、詳細には記載されていない点。

次に上記相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物記載の発明の「投影面積被覆率」の定義は、上記「2.(b)」の【0019】?【0021】に示されるように、トナー表面の走査型電子顕微鏡写真を撮影し、その画像解析から、トナー表面に存在するトナーの面積被覆率を求めるもので、トナー粒子の全表面積のうち添加剤(疎水性シリカ微粒子)で覆われている割合(%)を意味しているから、本願発明1の「トナー粒子1粒子当りの表面積に対する外添剤の被覆面積率の平均値(ただし、外添剤の被覆面積比率の平均値は、トナー表面画像における外添剤の面積を計測し、トナー表面画像の面積に対する外添剤面積の比を計算して求めるものとする。)」とほぼ同等の手法であるといえる。
したがって、トナー粒子表面の外添剤が占める面積率についていえば、刊行物記載の発明の「トナー粒子表面に存在する疎水性シリカ微粒子を投影面積被覆率で10乃至30%とした」は、本願発明1の「トナー粒子1粒子当りの表面積に対する外添剤の被覆面積率の平均値(ただし、外添剤の被覆面積比率の平均値は、トナー表面画像における外添剤の面積を計測し、トナー表面画像の面積に対する外添剤面積の比を計算して求めるものとする。)を8%から100%にしたものである」と重複する部分がある蓋然性が高いといえる。

(相違点2について)
感光体に対するトナーの付着力に関し、本願発明1は、上記のような「トナー粒径Dを横軸とし、非静電的付着力の平均値Fne(D)を縦軸としてプロットしたグラフにおける一次回帰直線の比例係数(以下、「非静電的付着力の比例係数K」という。)が0.842(nN/μm)?5(nN/μm)」という限定をしているが、
その定義からすると、非静電的付着力の比例係数Kが大きいことは、トナーの非静電的付着力が大きく、逆に、非静電的付着力の比例係数Kが小さいことは、トナーの非静電的付着力が小さい(なお、同じ感光体を用いることが当然の前提である)ことが理解され、
非静電的付着力の比例係数Kの数値範囲の意義は、本願明細書【0037】の「本発明者らは、様々なトナーについて非静電的付着力を測定し、比例係数K及び標準偏差σと画像との関係を検討した。その結果、比例係数Kが0.01(nN/μm)?5(nN/μm)となるようなトナーを用いることにより、地肌汚れや中抜け等の画像不良を改善できることを見出した。比例係数Kを5(nN/μm)以下とすることにより、トナー全体の非静電的付着力が十分に小さく、地肌汚れや中抜け等の画像不良の点で好ましい。また、比例係数Kが0.01(nN/μm)以上では、トナー全体の非静電的付着力が十分に大きく転写チリ等の画像不良の点で好ましい。」との記載や、本願明細書で示される実施例、比較例の開示内容からすると、非静電的付着力の比例係数Kが5を超えると、地肌汚れや中抜け等の画像不良の問題が生じるが、非静電的付着力の比例係数Kが5以下であると、地肌汚れや中抜け等の画像不良を改善できるというものであり、非静電的付着力の比例係数Kの範囲0.842(nN/μm)?5(nN/μm)は、トナーと感光体との非静電的付着力を小さくすることを基本的に意味しているものである(なお、非静電的付着力がゼロということはないし、チリ等の問題も生じるから、実用上、適当な下限があることは当然である)。
そうすると、刊行物記載の発明には、非静電的付着力の比例係数Kを使用した数値範囲の特定はないものの、感光体に対するトナーの付着力を小さくし、「高い転写効率を維持し、また転写工程での画像劣化を防止する」(刊行物の【0011】)という技術思想があるから、そのレベルにおいては、本願発明1と同様であるといえる。また、刊行物には、本願発明1で注目している「地肌汚れや中抜け等の画像不良」は明記されていないが、地肌汚れや中抜けは、実用上、ある程度以上のレベルにあることが求められる重要な画像評価項目であるから、刊行物における画像評価でも地肌汚れや中抜けを含んでいる蓋然性は高いものである。

ところで、一般に、「画像の中抜け」は、感光体(又は中間転写体)へのトナー付着力を小さくすれば、改善されることは、本願優先日前に周知のことである。例えば、特開平9-212011号公報(【0013】【0014】など)、特開平6-19189号公報(【0005】など)、特開平10-240037号公報(【0176】【0182】など)、特開平11-15204号公報(【0016】?【0018】、【0173】?【0175】、実施例の評価結果など)を参照されたい。ここで、この周知事項では、付着力というだけであり、非静電的付着力と静電的付着力に分けて、本願発明1のように、非静電的付着力のみに注目しているわけではない。しかし、本願発明1のように、静電的付着力がどうであっても、非静電的付着力の数値範囲のみで中抜けの改善が図られるというのは大きな飛躍であり、そのようなことまでは証明されていない。技術研究として、非静電的付着力に注目することの意義を否定するものではないが、この場合、非静電的付着力の数値範囲を特定するだけで全てを説明することは無理がある。また、周知事項の上記例示文献では、画像の中抜けの要因としては、感光体へのトナー付着力だけでなく、他の要因も挙げられているのであり、例えば、転写装置の種類、転写の印加バイアスや押圧力の条件も無視しうるものではないというべきである。非静電的付着力が支配的である(平成20年9月30日付け意見書での請求人の主張)としても、静電的付着力や転写バイアスなどは無視しうるものではなく、それら数値が変動すれば、少なくとも非静電的付着力の適正な数値範囲に影響を及ぼすものと考えられる。
したがって、本願発明1において、非静電的付着力の比例係数Kを0.842(nN/μm)?5(nN/μm)の範囲に特定したが、その臨界的意義は不明確である。

そもそも、本願発明1では、「電子写真用トナーと感光体との組み合せ」と言いながら、感光体の材料特定はなされていないのである。感光体の材料が異なれば、電子写真用トナーと感光体との付着力の適正値も変化すると考えられる。

次に、「地肌汚れ」についていうと、有機感光体では残留電位の上昇による地肌汚れがよく知られている(例えば、特開平3-67276号公報参照)から、感光体の特定は重要である。なお、本願の実施例では、有機感光体を使用している。
また、「地肌汚れ」や地汚れ、カブリの改善のためには、感光体とトナーとの付着力を抑えることが有効であること、しかも、付着力を抑える手法として、トナーにシリカ微粒子を外添することがよく知られている。例えば、特開平10-222026号公報、特開平5-72890号公報(【0026】など)、特開平4-304483号公報(【0023】など)を参照。

さらに、感光体に対するトナーの非静電的付着力の表現手法として、本願発明1では、非静電的付着力の比例係数K、すなわち「トナー粒径Dを横軸とし、非静電的付着力の平均値Fne(D)を縦軸としてプロットしたグラフにおける一次回帰直線の比例係数」を採用しているが、そのようなグラフは、本願の優先日前に周知である。例えば、請求人が平成20年9月30日付けで提出した意見書に添付された電子写真学会誌の論文(1997年)写しや、特開平5-333757号公報(【0020】、図1,2など)を参照。したがって、感光体に対するトナーの非静電的付着力の表現手法として、本願発明1の手法を採用することに、格別の困難性はない。

また、本願発明1の「非静電的付着力の常用対数分布における標準偏差が0.65以下」とする点については、刊行物には記載されていないが、各トナーと感光体との間の付着力が揃っていることが望ましいことは、電子写真の原理上、当然のことである。また、本願の図4からも明らかなように、非静電的付着力の常用対数分布における標準偏差が小さく、各トナーと感光体との間の付着力が揃っていることは、粒径(D)の分布も揃っていることにもなるとみられるが、粒径(D)の分布が揃っていることが画像形成に望ましい条件であることは、周知のことである。

以上のことを勘案すると、刊行物記載の発明において、相違点2に係る本願発明1のごとく、感光体に対するトナーの付着力を小さくする程度として、非静電的付着力の比例係数Kという指標を用いて、比例係数Kが0.01(nN/μm)?5(nN/μm)となるようにし、また、各トナーと感光体との間の付着力が揃う指標として、非静電的付着力の常用対数分布における標準偏差を用いて、その標準偏差を0.65以下となるように設定することは、当業者であれば、地肌汚れや中抜け等の画像不良に関係する各種の要因も考慮しつつ、適宜なし得る程度のことといわざるを得ない。

また、上記(相違点1について)において、トナー粒子表面の外添剤が占める面積率について、刊行物記載の発明のものは、本願発明1のものとと重複する部分がある蓋然性が高い旨を述べたが、仮に重複する部分がないとしても、(相違点2について)で説示したように、本願発明1は、地肌汚れや中抜けの画像不良に関係する各種の要因から、一部の要因を選択したものに過ぎないから、本願発明1で規定するトナー粒子表面の外添剤が占める面積率についても、その臨界的意義が不明確であり、相違点1に係る本願発明1の事項は、当業者が適宜設定できる程度のことといわざるを得ない。

したがって、本願発明1は、刊行物に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである


4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-05 
結審通知日 2008-11-07 
審決日 2008-11-20 
出願番号 特願2000-83586(P2000-83586)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 磯貝 香苗  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伏見 隆夫
淺野 美奈
発明の名称 電子写真用トナー並びに画像形成方法及び画像形成装置  
代理人 小松 秀岳  
代理人 酒井 正己  
代理人 加々美 紀雄  

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