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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B |
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管理番号 | 1190270 |
審判番号 | 不服2006-11907 |
総通号数 | 110 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-02-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-06-09 |
確定日 | 2009-01-05 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第 88748号「ゴルフクラブ」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月30日出願公開、特開平 9-253241〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成8年3月18日の出願であって、平成17年12月6日付け拒絶理由に対して平成18年1月26日付けで手続補正がされたが、同年5月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月9日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年6月28日付けで明細書の手続補正がなされたものである。 当審においてこれを審理した結果、平成20年8月29日付けで平成18年6月28日付け手続補正を却下するとともに、同日付けで新たな拒絶理由を通知したところ、審判請求人は平成20年9月26日付けで意見書および明細書についての手続補正書を提出した。 2.本願発明の認定 本願の請求項1乃至3に係る発明は、平成20年9月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。 「体積が200cc以上、かつフェースとサイド部との間の最大距離Wに対してトウ部とヒール部との間の最大距離Lが105?130%の範囲のドライバー用のチタン合金製の中空殻体より成るヘッドを有するゴルフクラブであって、 このヘッドのロフト角度を打球の打ち出し角度を大きくするために14°以上にし、 打ち出し角度を大きくしたことによる打球のスピン増加を減少させるためにフェースに近接したトウ部及びヒール部にそれぞれチタン合金製の重りを設けて重心深さを25mm以下としたヘッドを有することを特徴とするゴルフクラブ。」 3.引用例 当審における拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-284546号公報(以下、「引用例」という。)には、図示と共に以下に示す(い)?(は)の記載がある。 (い)「図1はヘッドの断面図を示し、ソールの(前後)幅がヘッド高さよ りも大きいウッド系のゴルフクラブヘッドであり、比較的広い面積の クラウン部1とソール部2とを有し、全体がステンレスやチタニウム 等の金属材料から成り、クラウン部1とソール部2の両方とも夫々の 全面積の半分以上を占める中央部分A,Bの個所の肉厚を1.2mm 未満に形成した。図1において符号3はインパクト部であり、このイ ンパクト部3は強度を必要とするので肉厚は厚く形成してある。」( 段落【0008】) (ろ)「ウッド系ゴルフクラブヘッドを190cc前後の体積とした場合、 A部分とB部分の肉厚を0.6mmとした場合、このA部分とB部分 とが1.2mmの場合に比べて15gの減量が可能である(マルエー ジング鋼を用いた場合)。このようにして15g分の重量をクラウン 部1とソール部2とから取り除いた場合、この取り除かれた15g分 の重量をヘッド後方に配分すれば、重心深度を深くすることができ、 ボールが上がり易くなる。また、この取り除いた重量をトウやヒール に配分すれば慣性モーメントが大きくなり、左右にボールがぶれるの を防止することができる。さらに、取り除いた重量をフェース側に配 分することにより、重心深度を浅くし、スピンが掛りにくくするとと もに、打感を向上させ、風に強いボールを打つことができる。」(段 落【0011】) (は)「ヘッド全体をマルエージング鋼で製造する場合、このときソール部 2を除くその他の部分をCLV法またはCLA法により一体的に鋳造 し、ソール部2は別個に鋳造してこのソール部2をソール部2以外の 部分と溶接することができる。このときクラウン部1とソール部2の 厚さを0.6mmとし、全体として230ccの体積を有するヘッド を製造した。 ・・・(後略)」(段落【0012】) 記載(い)ならびに図1からみて、引用例に記載されたウッド系ゴルフクラブは、クラウン部1、ソール部2およびインパクト部3等より構成される中空殻体より成るヘッドを有するものであると認められる。 記載(ろ)における、「取り除いた重量をトウやヒールに配分すれば慣性モーメントが大きく」なることと、「取り除いた重量をフェース側に配分することにより、重心深度を浅くし、スピンが掛りにくくするとともに、打感を向上させ、風に強いボールを打つことができる」ということは、その作用から見て相互に矛盾するものではないから、引用例には、取り除いた重量をフェース側のトウとヒールに配分することが記載されていると認められる。 引用例の明細書ならびに図面全体を参酌しつつ、上記記載(い)?記載(は)を検討すると、引用例には次の発明が記載されている(以下、「引用発明」という。)と認められる。 「体積が230ccの、ウッド系ゴルフクラブ用のチタニウム等の金属材料製の中空殻体より成るヘッドを有するゴルフクラブであって、このヘッドのクラウン部1とソール部2とから取り除いた重量をフェース側のトウとヒールに配分することによって、重心深さを浅くしたヘッドを有するゴルフクラブ。」 4.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明における「体積が230ccの、ウッド系ゴルフクラブ用のチタニウム等の金属材料製の中空殻体より成るヘッド」と、本願発明における「体積が200cc以上」の「ドライバー用のチタン合金製の中空殻体より成るヘッド」とは、「体積が200cc以上の、ウッド系ゴルフクラブのチタニウム等の金属材料製の中空殻体より成るヘッド」である点で共通する。 引用発明における「クラウン部1とソール部2とから取り除いた重量」は、実質的に「重り」として機能するものであり、かつ、引用発明における「クラウン部1」と「ソール部1」はチタニウム等の金属材料製のものである。したがって、引用発明における「クラウン部1とソール部2とから取り除いた重量」と本願発明における「チタン合金製の重り」とは、「チタニウム等の金属材料製の重り」である点で共通する。 引用発明における「クラウン部1とソール部2とから取り除いた重量」を「フェース側のトウとヒールに配分する」ことは、本願発明において「重り」を「フェースに近接したトウ部及びヒール部」に「それぞれ設け」ることに相当する。 引用発明における「重心深さを浅くした」構成と、本願発明における「25mm以下の重心深さ」を有する構成とは、「重心深さが浅い」構成である点で共通している。 してみると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。 <一致点> 「体積が200cc以上の、ウッド系ゴルフクラブ用のチタニウム等の金属材料製の中空殻体より成るヘッドを有するゴルフクラブであって、このヘッドのフェースに近接したトウ部及びヒール部にそれぞれチタニウム等の金属材料製の重りを設けて重心深さを浅くしたヘッドを有するゴルフクラブ。」 一方で、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違している。 <相違点1> 本願発明は「フェースとサイド部との間の最大距離Wに対してトウ部とヒール部との間の最大距離Lが105?130%の範囲」と特定されるのに対し、引用発明はそのような特定を有するものであるかどうか明記がない点 <相違点2> 本願発明における「ヘッド」は「ドライバー用」のものと特定されるのに対し、引用発明における「ヘッド」は「ウッド系ゴルフクラブ用」のものではあるものの、「ドライバー用」とまでは明示されておらず、そのような特定を有するものであるかどうか不明である点 <相違点3> 本願発明における「中空殻体」は「チタン合金製」であると特定されるのに対し、引用発明における「中空殻体」は「チタニウム等の金属材料製」のものではあるものの、「チタン合金製」とまでは明示されておらず、そのような特定を有するものであるかどうか不明である点 <相違点4> 本願発明は「ロフト角度を打球の打ち出し角度を大きくするために14°以上にし」たものと特定されるのに対し、引用発明にはロフト角度に関する明示がなく、そのような特定を有するものであるかどうか不明である点 <相違点5> 本願発明は「打ち出し角度を大きくしたことによる打球のスピン増加を減少させるため」にフェースに近接したトウ部及びヒール部にそれぞれ重りを設けて「重心深さを25mm以下とした」と特定されるのに対し、引用発明は「ヘッドのフェースに近接したトウ部及びヒール部にそれぞれチタニウム等の金属材料製の重りを設けて重心深さを浅くした」ものではあるものの、打球のスピン増加と重りとの関係、および、具体的にどの程度の重心深さとするものであるのかについては明示されておらず、そのような特定を有するものであるかどうか不明である点 <相違点6> 本願発明の「重り」は「チタン合金製」であると特定されるのに対し、引用発明の「重り」は「チタニウム等の金属材料製」のものではあるものの、「チタン合金製」とまでは明示されておらず、そのような特定を有するものであるかどうか不明である点 5.判断 上記各相違点について判断する。 5-1.<相違点1>について ドライバー用のゴルフクラブヘッドという技術分野において、フェースとサイド部との間の最大距離Wに対してトウ部とヒール部との間の最大距離Lが105?130%の範囲であるような形状のドライバー用のゴルフクラブヘッドは、例えば特開平07-204296号公報(特に段落【0004】?【0007】,段落【0040】?【0045】および図3?4参照。),特開平08-010362号公報(特に段落【0065】,段落【0067】および図10参照。),実願平01-027263号(実開平02-118577号)のマイクロフィルム(特に明細書第4頁第13行?第7頁第14行,第1表および第3?4図参照。)等に記載されているように周知の技術である。 したがって、引用発明のウッド系ゴルフクラブヘッドにおいて、フェースとサイド部との間の最大距離Wとトウ部とヒール部との間の最大距離Lとの関係を、上記周知技術を参考にして、フェースとサイド部との間の最大距離Wに対してトウ部とヒール部との間の最大距離Lが105?130%の範囲となるように設計することは、当業者ならば容易に想到することができたものである。 5-2.<相違点2>について ゴルフという競技において、ドライバーはウッド番号1という、ウッド系ゴルフクラブに属するものである。かつ、ウッド系ゴルフクラブはいずれも類似した形状をしていることは一般に周知の事項である。 したがって、引用発明である「ウッド系ゴルフクラブのヘッド」を、「ドライバー用のヘッド」として採用することは、当業者ならば容易に想到することができたものである。 なお、本願の出願日である平成8年3月18日以前においては、例えば特開平07-204296号公報,特開昭60-210274号公報(いずれも平成20年8月29日付け拒絶理由にて示した文献である。)等に示されているように、ウッド系ゴルフクラブセットの中にドライバーを含むとともに、これらのセット中の各ウッド系ゴルフクラブのヘッドを相互に類似した形状としたウッド系ゴルフクラブのセットは、周知のものである。したがって、この周知の事項からみても、当業者ならば、引用発明である「ウッド系ゴルフクラブ」の一つとして、容易に「ドライバー」を想定することが可能なものである。 5-3.<相違点3>および<相違点6>について チタン合金によってウッド系ゴルフクラブのヘッドの殻体を構成する技術は、例を挙げるまでもなく周知のものである。 したがって、引用発明におけるヘッドの殻体、および、ヘッドの殻体から取り除いた重量である重りを、上記周知技術を参考にして、チタン合金により構成することは、当業者ならば適宜なし得る設計事項に過ぎないものである。 5-4.<相違点4>について ゴルフの競技者がドライバーを使用するときに、自身の能力や癖などに応じて適切なロフト角度のものを選択することは、例えば上記特開平07-204296号公報(特に段落【0004】?【0008】および【0024】参照。)にもあるように、競技者として当然の事項である。 そして、このような競技者の要望に対応するロフト角度となるドライバー用のヘッドを設計することは、ゴルフクラブヘッドの構造から見て技術的な困難性は認められない。したがって、例えば打ち出し角度を大きくするといった競技者の要望に対応するために、ドライバー用のヘッドのロフト角度を14°以上に設計することは、当業者ならば適宜なし得る設計事項に過ぎない。 5-5.<相違点5>について 引用発明において、重心深さを具体的にどの程度にするかは、当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎず、かつ、ドライバー用のヘッドという技術分野において、その重心深さが25mm以下である構成は、上記特開昭60-210274号公報(特に公報第4頁左下欄第13行?同頁右下欄第4行および第12図参照。),特開平03-77567号公報(特に公報第2頁左上欄第17?20行,第3頁左上欄第3?5行参照。)にも記載されているように周知のものである。 したがって、引用発明における重心深さが浅いヘッドの具体的な重心深さとして、その値を25mm以下とすることは、当業者ならば容易に想到することができたものである。 そして、引用発明における重心深さが25mm以下とされた場合には、当然、重心深さがそれより深いものに比べて「打球のスピン増加を減少」する効果を生じるものであると考えられる。 5-6.小括 以上のとおり、上記<相違点1>乃至<相違点6>にて示した本願発明を特定する事項は、引用発明、周知技術および技術常識に基づいて当業者が容易に想到することができたものであり、かつ、その作用効果も当業者が予測することができた程度のものである。 よって、本願発明は、引用発明、周知技術および技術常識に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-10-31 |
結審通知日 | 2008-11-04 |
審決日 | 2008-11-20 |
出願番号 | 特願平8-88748 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A63B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鉄 豊郎 |
特許庁審判長 |
長島 和子 |
特許庁審判官 |
上田 正樹 菅野 芳男 |
発明の名称 | ゴルフクラブ |
代理人 | 増田 竹夫 |