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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C21B
管理番号 1190338
審判番号 不服2006-17350  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-10 
確定日 2009-01-08 
事件の表示 特願2000- 6711「高炉スラグ細骨材製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月17日出願公開、特開2001-192713〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は平成12年1月14日の出願であって、平成18年1月16日付けで拒絶理由が通知され(発送日は平成18年1月24日)、その指定期間内である平成18年3月24日に意見書が提出され、平成18年7月6日付けで拒絶査定され(発送日は平成18年7月11日)、平成18年8月10日に拒絶査定不服審判請求されたものである。
本願請求項1?6に係る発明は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲第1?6項に記載された事項に特定されるとおりであるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】 水によって冷却されて固化した高炉スラグ粒が20mm以上の厚みで蓄積している層に、水によって冷却されて固化しかつ付着水分が12質量%以下の高炉スラグ粒を、毎秒30?90mの速度で衝突させて、高炉スラグ粒を破砕することを特徴とする高炉スラグ細骨材製造方法。」

2.引用文献
2-1.引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開昭55-136151号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)「本発明を実施の一例を示した第2図の本水砕スラグ製造装置のフロー図について説明すると、高炉(1)より溶融スラグ樋(2)を通じて流出される溶融スラグを水砕樋(3)に於て、圧力水噴射装置(3)’により溶融スラグに噴射する圧力水の水圧を・・・・・・水量を・・・・・・としてスラグに噴射し、スラグを細粒化すると共に水位調整装置を備えた水槽(4)に落し込み急冷水砕化する。・・・・・・水槽(4)に溜る水砕の粗粒はパケットクレーン(8)で取り出してホッパー(9)に貯留し、随時コンベヤー(10)に切り出して破砕、篩分け装置に送り破砕粒度を調整する。」(2頁左下欄5行?同頁右下欄2行)
(2)「本発明の方法による効果・・・・・・天然の川砂や海砂と同程度のものが得られる。従って・・・・・・本方法により製造された水砕スラグは緻密で重い水砕スラグとなり、比重が大きく吸水率が小さくなり硬質で良好な骨材(細骨材、人工砂)として使用出来る。」(3頁左上欄6?17行)

ここで、上記(1)及び(2)の記載事項について検討する。
(あ)上記(1)の「高炉より流出する溶融スラグ」は「高炉スラグ」である。また、上記(1)に「圧力水」を「スラグに噴射し、スラグを細粒化」することが記載されているから、この「高炉スラグ」は水によって固化し「粒」、すなわち、「高炉スラグ粒」となっているといえる。
そして、この「高炉スラグ粒」は上記(1)によれば、「破砕、篩分け装置」に送られ「破砕粒度調整」されている。
(い)上記(あ)の「破砕粒度調整」された「高炉スラグ粒」は、上記(2)に「骨材(細骨材、・・・・・・)として使用出来る」と記載されているから、結局、引用文献1では、「高炉スラグ細骨材」を製造しているといえる。

2-2.引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である実願昭61-18342号(実開昭62-132737号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(3)「1.高速で回転するロータに投入された被破砕物を遠心力により前記ロータ出口から放出し、前記ロータ周囲に設けた衝突部に衝突させて粉砕する衝撃式破砕機において・・・・・・なる衝撃式破砕機。」(実用新案登録請求の範囲第1項)
(4)「この考案は、衝撃式破砕機に関し、特にたとえば岩石、鉱石等からなる原料原石を所期の粒度に製砂のために破砕し或いは整粒(角取り)するのに有用な衝撃式破砕機に関する。」(1頁20行?2頁3行)
(5)「実施例・・・・・・第1図において、・・・・・・回転ロータ41に投入された原料を遠心力によりこの回転ロータ41から外部に放出するものである。そして、このような回転ロータ41の周囲であって回転ロータ41に設けられた原料放出口47に対向する高さ位置に、原料との衝突部の一例となるアンビル42が配置されている。」(5頁11行?7頁13行)
(6)「第2図にこの考案にかかる実施例装置の変形例を示す。第2図に示す衝撃式破砕機30’では、第1図で示した衝撃式破砕機30のアンビル42の代わりに原料によるデッドストック44が設けられている。」(10頁11?15行)
(7)「第1図に示す実施例装置の変形例を示す第1図相当図」と説明されている第2図を参照すると、番号34で示されるハウジングの内側の、斜線で示されるある厚さを持った部分が番号44で示されるデッドストックであると見取れる。

ここで、上記(3)?(6)の記載事項について検討する。
(う)上記(3)の「衝撃式破砕機」において、上記(3)及び(4)より「岩石等の原料原石を被破砕物とし、この被破砕物を高速で回転するロータの放出口から放出し衝突部に衝突させている」から、被破砕物はある速度を以て衝突しているといえる。
(え)上記(5)には、「回転ロータ41に設けられた原料放出口47に対向する高さ位置に、原料との衝突部となるアンビル42が配置されている」こと、上記(6)には、この「アンビル42の代わりに原料によるデッドストック44」が設けられていることが示されている。また、「アンビル」は衝撃を吸収する部品である(例えば、「マグローヒル 科学技術用語大辞典 第3版」(1996年9月30日 日刊工業新聞社)72頁左欄を参照)から、「原料によるデッドストック」は原料衝突時の衝撃を吸収するものといえる。
(お)上記(え)の検討結果より、「原料によるデッドストック」は原料と衝突し原料衝突時の衝撃を吸収するものであるから、「原料によるデッドストック」は、衝突した原料が多数存在しているもの、すなわち「被破砕物の蓄積層」であるとみることができる。
そして、このことは、上記(7)の視認事項と一致する。
上記(3)?(6)の記載事項と上記(7)の視認事項を上記(う)?(お)の検討を踏まえて整理すると、引用文献2には、
「原料衝突時の衝撃を吸収する被破砕物の蓄積層に被破砕物を衝突させて、被破砕物を破砕する方法」が記載されているといえる。
3.対比・判断
上記(1)及び(2)の記載事項を上記(あ)及び(い)の検討を踏まえ、本願発明の記載ぶりに則して整理すると、引用文献1には、
「水によって冷却されて固化した高炉スラグ粒を破砕する高炉スラグ細骨材製造方法」(以下、「引用発明1」という。)の発明が記載されている。
本願発明と引用発明1とを対比すると、両者は、共に、
「水によって冷却されて固化した高炉スラグ粒を破砕する高炉スラグ細骨材製造方法」である点で一致し、
破砕に関し、本願発明では、水によって冷却されて固化した高炉スラグ粒が20mm以上の厚みで蓄積している層に、水によって冷却されて固化しかつ付着水分が12質量%以下の高炉スラグ粒を、毎秒30?90mの速度で衝突させているのに対し、引用発明では破砕方法について言及がない点で相違している。
そこで、この相違点について検討する。
引用文献2には、上述したとおり、「原料衝突時の衝撃を吸収する被破砕物の蓄積層に被破砕物を衝突させて、被破砕物を破砕する方法」が記載されているといえる。ただ、引用文献2には、水によって冷却されて固化した高炉スラグの破砕を行うことについて記載はされていない。しかしながら、岩石等の原料原石用の破砕機は、水によって冷却されて固化したスラグの破砕に利用されていることが周知であるから(要すれば、特開平11-239984号公報、特開平7-51585号公報、国際特許公開第98/17392号、特開昭63-236551号公報を参照のこと。)、上述の引用文献2に記載の破砕方法を高炉スラグの破砕に適用することは当業者であれば困難なくなしえたことである。
また、この引用文献2に記載の破砕方法の採用に当たり、蓄積層の厚みを20mm以上とすること及び毎秒30?90mの速度で衝突させることは、所望の破砕後の粒径、衝突部に衝突時にどの程度の衝撃を吸収させるかなどを考慮して適宜決定するものである。
さらに、破砕時の高炉スラグの付着水分量は12質量%以下であることは当然のことであるし(例えば、特開平7-54022号公報、特開平5-17183号公報を参照)、仮に上記水分量が12質量%以下でないとしても、水分が多量に付着していれば、破砕機内部にスラグ粒が付着し、破砕に支障が出ることは明らかであるから、破砕時の高炉スラグの付着水分量を12質量%以下とすることは当業者が適宜なし得る程度のことである。
そうすると、引用発明1に引用文献2に記載のものを適用し、本願発明をなすことは当業者であれば困難とはいえない。
そして、本願発明の奏する作用・効果は当業者であれば当然に予想できた程度のものである。

なお、審判請求人は、平成18年11月9日付けで補正された審判請求書において、「投射速度の低速域の『30?50m/秒』が重要な範囲となる。また、デッドストック厚み『20mm以上』もガラスを含む水砕スラグでは重要な要素であり、水砕スラグであるが故に必要なデッドストック厚みを確保し、一定の強度を確保しないと水砕スラグの破砕が不十分になるとともに、デッドストック部分からの落下を誘発し、落下物が異物になる可能性もある」と主張している。
この主張はつまるところ、投射速度とデッドストック厚み(蓄積層の厚み)とが、それぞれ、特定の数値範囲にあることが適切な水砕スラグを得るために重要であるというものと解される。
そこで、これらの数値範囲について以下に検討する。
(か)投射速度はスラグ粒が衝突する際の衝突エネルギーを決める因子とみることができ、請求人の主張するとおり、投射速度により衝突後の破砕されたスラグ粒子の形状は変化することは明らかである。しかし、この衝突エネルギーは、例えば、衝突前のスラグ粒子の質量を与える形状、大きさ等に依存するから、衝突後の破砕されたスラグ粒子の形状が衝突エネルギーのみによって決まるとしても、最適な投射速度範囲は、衝突前のスラグ粒子の形状、大きさ等に依存して変化するものといえる。
そうすると、投射速度が特定の範囲にありさえすれば、適切な水砕スラグを得ることができるとは直ちにいえない。
(き)デッドストック厚みに関し、本願明細書【0028】には、デッドストック厚みは破砕されるスラグ粒子が破砕機のケーシングに直接衝突しない厚みと説明されており、これは厚みが厚いほど望ましいといえるが、この厚みの下限値は、衝突前のスラグ粒子の衝突エネルギーやデッドストックへの投射角度等の衝突条件に依存するといえる。
そうすると、デッドストック厚みが上記特定の範囲にありさえすれば、適切な水砕スラグを得ることができるとは直ちにいえない。
(く)上記(か)、(き)で述べたように投射速度及びデッドストック厚みのそれぞれが、単独でそれぞれの特定の数値範囲にありさえすれば、適切な水砕スラグを得ることができるとは直ちにいえないから、投射速度及びデッドストック厚みの両方がそれぞれ特定の数値範囲にあったとしても、適切な水砕スラグを得ることができるとは直ちにいえない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-06 
結審通知日 2008-11-11 
審決日 2008-11-25 
出願番号 特願2000-6711(P2000-6711)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横山 敏志  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官
安齋 美佐子
大黒 浩之
発明の名称 高炉スラグ細骨材製造方法  
代理人 高野 弘晋  
代理人 岸田 正行  
代理人 水野 勝文  

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