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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1190339
審判番号 不服2006-19108  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-31 
確定日 2009-01-08 
事件の表示 特願2000- 54063「高清浄度鋼」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月 4日出願公開、特開2001-240937〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第一 手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成12年2月29日に出願されたものであって、平成18年7月26日付けで拒絶査定されたものである。
この拒絶査定を不服として、平成18年8月31日付けで本件審判請求がなされ、当審において、平成20年7月15日付けで拒絶理由通知がなされ、平成20年9月8日付けで手続補正がなされたものである。

第二 本願発明について
1.本願発明
本願の請求項1、2に記載された発明は、平成20年9月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「所定の探傷走査ピッチで検査試料中の非金属介在物の少なくとも位置および数を検出する粗超音波探傷を行った後、前記粗超音波探傷よりも探傷走査ピッチを狭くして前記粗超音波探傷により検出された介在物の粒径を検出する精密超音波探傷を行い、粒径が20μm以上の塊状または粒状酸化物系介在物の個数が、検査対象である鋼10000mm^(3)あたりに10個以下であり、酸素含有量がO≦5ppm以下であることが確認された高炭素クロム軸受用鋼。」

2.当審の拒絶理由の概要
当審の拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)刊行物1 「材料とプロセス」Vol.12(1999)No.6, 社団法人日本鉄鋼協会発行(平成11年9月1日),第1389頁
刊行物1a 刊行物1と同じ文献の1388頁
刊行物1b 「材料とプロセス」Vol.11(1998)No.6 社団法人日本鉄鋼協会発行(平成10年9月1日),第1323頁
(2)刊行物2 特開平5-288724号公報

(3)刊行物3「R&D/神戸製鋼技報」第37巻・第3号,株式会社神戸 製鋼所発行(1987年7月1日),第75?78頁

3.当審の判断
(1)刊行物及び刊行物に記載された事項 (以下、明瞭化のため適宜下線を引いた。)。

刊行物1は、「超音波法による軸受鋼の介在物評価」(転動寿命への介在物の影響-4)を表題とする論文であり、以下の記載がある。
(1-ア)「軸受鋼の転動寿命を推定する場合、寿命試験片の軌道直下数mmの深さまで介在物の分布状況を観察することは重要である。そこで我々は非破壊検査法である超音波法を用いた介在物検出に取組み、検出した介在物を転動寿命試験の軌道直下にセッティングし試験する事で、およそ20μm以上の大きさの介在物が転動寿命に影響し得る事を検証した。」(1389頁1?5行「1.はじめに」の欄)

(1-イ)「介在物調査材として軸受鋼(JIS-SUJ2)を用いた。」(1389頁9行)

(1-ウ)「Fig.2に、超音波法による介在物調査結果を示す。縦軸の介在物の推定大きさは、超音波法で検出した介在物の画像上野の大きさと、研磨を繰り返しながら顕微鏡観察したその介在物の最大径と検量線から推定した大きさである。縦軸は、製錬法Aの10μmの大きさの介在物個数を100とした時の比率を示す。
精錬法Bの材料は、精錬法Aに比べ、転動寿命に影響し得るおよそ20μm以上の大きさの介在物が約1/4(69%→17%)に減少している事がわかる。
さらに、精錬法Bの圧延材を用いて試験片を加工し、転動寿命試験を行った結果、良好な寿命を得ることができた。」(1389頁17?23行「4.調査結果」の欄)

刊行物1aは、「超音波法による剥離現象を起こす臨界介在物径の推定」(転動寿命への介在物の影響-3)を表題とする論文であり、以下の記載がある。
(1a-ア)「2.実験方法 JIS-SUJ2のスラスト型転動寿命試験片を供試材とし、Table.1に示す条件によって超音波測定を実施し、介在物を検出した。」(第1388頁8?10行)

(1a-イ)
「・・・Fig.2は転動寿命試験結果から、超音波法で得られた介在物情報と剥離現象との関係を示す。その結果、剥離にいたる可能性が高い介在物径は約20μm以上であり、」(第1388頁左欄19?21行「3.実験結果」の欄)

刊行物2には、「自動超音波探傷法」(発明の名称)につき、以下の記載がある。
(2-ア) 「【0004】・・・図示しない超音波探傷器に送られる。ここでエコー高さおよび欠陥長さを調べることにより、溶接部2の合否判定が行われる。

【0005】ところで、自動超音波探傷を能率的に行うため、従来、被検体1の表面に沿って超音波探触子3を自動的に方形走査させる際、走査ピッチが大きい粗探傷と、走査ピッチが小さい精密探傷とを選択的に組合わせることが知られている。
・・・
【0007】また、図9は他の例を示している。この方法では一旦、全ての検査範囲に亘って大きい走査ピッチP1による粗探傷を行い、その際、途中で発見された溶接欠陥位置を記憶させておき、粗探傷終了後に探触子を溶接欠陥位置に戻し、小さい走査ピッチP2の精密探傷を部分的に行う。」

刊行物3は、「転炉-連続鋳造工程による軸受用清浄鋼の製造」に関する論文であり、以下の記載がある。
(3-ア)「一般的に、軸受鋼に要求されるもっとも重要な特性は疲労寿命が長いことであるが、そのためには非金属介在物の低減、すなわち鋼中酸素量・・・の低減が必要である。」(75頁左欄5?8行)

(3-イ)「当社で製造している軸受用清浄鋼を第1表に示す。高炭素クロム軸受用鋼(SUJ2)を・・・製造している。」(75頁右欄2?4行)

(3-ウ)「前述の製鋼工程で製造されたSUJ2の酸素,りん,硫黄の実績値を第5図に示す。当社で製造される軸受用清浄鋼は、酸素10ppm以下,りん0.010%以下,硫黄0.005%以下が達成されている。」(第77頁右欄第11?14行)

第78頁の「第5図」には、酸素含有量5ppm以下の高純度クロム軸受用鋼(SUJ2)が示されている。

(2)刊行物1に記載された発明
刊行物1の(1-イ)には、「介在物調査材として軸受鋼(JIS-SUJ2)を用いた。」と記載されており、JIS規格によれば、SUJ2は高炭素クロム軸受鋼鋼材の種類を示す記号であるから、介在物調査材は高炭素クロム軸受用鋼であると言える(JIS G4805(1999)(「JISハンドブック」1鉄鋼I(2002年1月31日)日本規格協会編 912頁 参照))。

(1-ウ)の記載によれば、前記高炭素クロム軸受用鋼に対して、超音波法による介在物調査が行われ、粒径が20μm以上の介在物は転動寿命に影響を与えるものとして確認され、Fig2に整理されているものといえる。

したがって、刊行物1には、「超音波法による介在物調査を行ない、粒径が20μm以上の介在物が確認されたクロム軸受用鋼」(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「超音波法による介在物調査」とは、超音波探傷を用いた介在物調査を意味することは明らかであるから、両発明は「超音波探傷」を用いて介在物の調査を行う点において一致する。
また、引用発明の「介在物」について、その主体は通常酸化物系介在物であり、(1-ウ)の「介在物の最大径」との記載によれば、その形状は、塊状または粒状を有するものといえるから、該「介在物」は本願発明の「塊状または粒状酸化物系介在物」に相当するものといえる。

そうすると、本願発明と引用発明は以下の点で一致し、相違する。
(一致点)
「超音波探傷を行い、粒径が20μm以上の塊状または粒状酸化物系介在物が確認された高炭素クロム軸受用鋼。」

(相違点)
相違点1
本願発明は、「所定の探傷走査ピッチで検査試料中の非金属介在物の少なくとも位置および数を検出する粗超音波探傷を行った後、前記粗超音波探傷よりも探傷走査ピッチを狭くして前記粗超音波探傷により検出された介在物の粒径を検出する精密超音波探傷」を行うのに対し、
引用発明では、具体的にどのような超音波探傷を行うかについては不明である点。

相違点2
本願発明は、「粒径が20μm以上の塊状または粒状酸化物系介在物の個数が、検査対象である鋼10000mm^(3)あたりに10個以下であり、酸素含有量がO≦5ppm以下であることが確認された高炭素クロム軸受用鋼」であるのに対し、
引用発明は、「粒径が20μm以上の介在物の個数」及び「酸素含有量」が、不明である点。

相違点1について
刊行物2の(2-ア)の【0007】の、
「大きい走査ピッチP1による粗探傷を行い、その際、途中で発見された溶接欠陥位置を記憶させておき」、
「粗探傷終了後に・・・小さい走査ピッチP2の精密探傷を部分的に行う。」、
という記載によれば、所定の走査ピッチで被検体中の欠陥位置を検出する粗探傷を行い、その後、前記粗探傷よりも探傷走査ピッチを狭くして前記粗探傷により検出された欠陥の長さを検出する精密探傷を行う超音波探傷技術は、公知技術であると言える。
そして、刊行物2に記載された前記公知技術と引用発明とは、いずれも鋼の表面に対する超音波探傷技術という点において、共通するものであるから、刊行物2に記載された公知の超音波探傷技術を引用発明に適用することは、当業者であれば容易になし得たものと認められる。
よって、相違点1は、当業者であれば容易になし得たものである。

相違点2について
刊行物1の、
(1-ア)の「およそ20μm以上の大きさの介在物が転動寿命に影響し 得る事を検証した。」及び、
(1-ウ)の「精錬法Bの材料は、精錬法Aに比べ、転動寿命に影響し得 るおよそ20μm以上の大きさの介在物が約1/4(69%→17%) に減少している事がわかる。
さらに、精錬法Bの圧延材を用いて試験片を加工し、転動寿命試験を 行った結果、良好な寿命を得ることができた。」との記載や、
刊行物1aの、
(1a-ア)の「JIS-SUJ2のスラスト型転動寿命試験片を供試材 とし、・・・超音波測定を実施し、介在物を検出した。」及び、
(1a-イ)の「転動寿命試験結果から、超音波法で得られた介在物情報 と剥離現象との関係を示す。その結果、剥離にいたる可能性が高い介在 物径は約20μm以上であり、」
との記載によれば、高炭素クロム軸受用鋼において、20μm以上の大きさの介在物を減少させることにより、剥離現象を引き起こす原因を取り除き、良好な転動寿命を得ることは、公知であるから、鋼中の所定体積における粒径20μm以上の介在物の個数を、一定個数以下に規定し、前記高炭素クロム軸受用鋼の長寿命化を図ることは、当業者が容易になし得たものと認められる。

また、刊行物3の(3-ア)の「一般的に、軸受鋼に要求されるもっとも重要な特性は疲労寿命が長いことであるが、そのためには非金属介在物の低減、すなわち鋼中酸素量・・・の低減が必要である。」との記載によれば、高炭素クロム軸受用鋼を含む軸受鋼において、鋼中酸素量の低減を図ることにより、疲労寿命の長寿命化を達成することは公知技術いえるから、引用発明において、鋼中酸素量の低減を図り、長寿命化を図ることは、当業者であれば容易になし得たものと認められ、その規定値を、高清浄軸受用鋼においてすでに達成されている(例えば(3-ウ)参照)「酸素含有量がO≦5ppm以下」とすることも当業者が適宜なし得たものと認められる。
よって、相違点2は、当業者であれば容易になし得たものである。

(4)小括
以上のとおり、上記相違点1、2は、当業者が容易に想到し得たものである。
したがって、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-10 
結審通知日 2008-11-11 
審決日 2008-11-27 
出願番号 特願2000-54063(P2000-54063)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 陽一  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 守安 太郎
山本 一正
発明の名称 高清浄度鋼  
代理人 水野 勝文  
代理人 岸田 正行  

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