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審決分類 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 B30B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B30B
管理番号 1190410
審判番号 不服2007-24311  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-04 
確定日 2009-01-07 
事件の表示 特願2002-130941「粉末成形金型装置と粉末成形方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月11日出願公開、特開2003-320496〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成14年5月2日の特許出願であって、同18年12月27日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同19年3月2日に意見書と共に明細書について手続補正書が提出されたが、同19年7月31日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同19年9月4日に本件審判の請求がされ、その後、同19年10月2日に明細書について再度手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の内容の概要とその適否
1 平成19年10月2日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正をすると共にそれに関連して発明の詳細な説明の一部について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。
(1)補正前
「ダイと、このダイ内を進退する上側及び筒状の下側パンチとを備え、前記ダイ内の充填空間に充填した原料粉末を前記上側及び下側パンチにより加圧して圧粉体を成形する粉末成形金型装置において、コアロッドホルダーの上部に設けたコアロッドが前記下側パンチ内に上下摺動可能に嵌合し、前記充填空間は、前記ダイの内周面と、該ダイ内に挿入された前記下側パンチの上面と、この下側パンチの上面から突出した前記コアロッドの外周面との間に形成され、前記コアロッドに上下方向の振動を与える振動手段を前記コアロッドホルダーに設け、この振動手段が圧電素子により振動することを特徴とする粉末成形金型装置。」
(2)補正後
「ダイと、このダイ内を進退する上側及び筒状の下側パンチとを備え、前記ダイ内の充填空間に充填した原料粉末を前記上側及び下側パンチにより加圧して圧粉体を成形する粉末成形金型装置において、コアロッドホルダーの上部に設けたコアロッドが前記下側パンチ内に上下摺動可能に嵌合し、前記充填空間は、前記ダイの内周面と、該ダイ内に挿入された前記下側パンチの上面と、この下側パンチの上面から突出した前記コアロッドの外周面との間に形成され、前記コアロッドに上下方向の振動を与える振動手段を前記コアロッドホルダーに設け、前記振動手段が圧電素子により振動して前記充填空間の面を形成する前記コアロッドの前記外周面を上下方向に振動することを特徴とする粉末成形金型装置。」
2 本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、本件出願の願書に最初に添付した明細書の段落【0025】の「尚、振動手段25は主に上下方向に振動を発生し、振動帽体27の振動が取付板29及びコアロッド14に伝わり、充填空間16の面を形成するコアロッド14の外周面14Fが振動する。」という記載等に基づくものであって、「コアロッドに上下方向の振動を与える振動手段」について「前記充填空間の面を形成する前記コアロッドの前記外周面を上下方向に振動する」という振動手段によって奏する作用の特定であることは明らかであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであると認めることができる。

第3 本件出願の発明と引用例
1 本件出願の請求項1ないし請求項7に係る発明は、平成19年10月2日付け補正書により補正された明細書及び願書に最初に添付した図面の記載からみて、その請求項1ないし請求項7に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件出願の発明」という。)は、上記第2の1(2)に示すとおりの「粉末成形金型装置」である。
2 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-179497号公報(以下「引用例」という。)の記載内容は以下のとおりである。
(1)引用例記載の事項
引用例には以下の事項が記載されている。
ア 段落【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明は粉体充填装置及び粉体充填方法並びに圧粉成形装置に係り、特に、圧粉成形を行うための成形型のキャビティ内に粉体を充填する場合に好適な、粉体充填を行うための装置構造及び方法に関する。」
イ 段落【0026】?【0036】
「[第1実施形態]図1は本発明に係る粉体充填装置及び圧粉成形装置の第1実施形態の要部構造を示す概略構成断面図である。本実施形態では、ダイベース10にダイ11が取り付けられ、このダイ11に形成されたキャビティの内部に図示下方から円柱状のコア12が導入されている。コア12には段付き円筒状の下パンチ13が嵌合し、下パンチ13の上端面はキャビティの底面を構成している。コア12はさらにその下方に伸びてコアガイド14を挿通した後、下方に突出している。
一方、ダイ11の上方には、図示しない上ベースに取り付けられたホルダ15が設けられ、このホルダ15に段付き円筒状の上パンチ16が取り付けられている。上パンチ16はダイ11に対して接離可能に構成され、その下端面である加圧面は、上記ダイ11及びコア12によって構成された円筒状のキャビティの環状開口部に対向している。
ダイベース10及びダイ11の上面には略板状のベース部材21が図示左右方向にスライド自在に案内されており、このベース部材21の一端寄り部分には開口部が形成されている。この開口部の開口縁には略円筒状の収容部材22が取り付けられている。また、ベース部材21の他端寄り部分にはエアバイブレータ等からなる振動源23が取り付けられている。この振動源23は図示上下方向に振動するように構成されている。
収容部材22は、下部にフランジ状に張り出した張出部22aを有し、張出部22aの下面は、ベース部材21の開口部の開口縁に固定されている。ベース部材21の開口部の周囲にはその下面側から形成された環状溝が形成され、この環状溝に嵌合するように円盤状部材28が取り付けられている。この円盤状部材28の中央部には、上面側が円錐状に形成されて所定の傾斜面を有する中央案内部28aが図2に示すブリッジ部28bによって周囲から支持された状態で固定されている。ここで、図2は収容部材22の取付部位近傍を上方から見た平面図である。円盤状部材28には、上記中央案内部28a及びブリッジ部28bに囲まれた円弧状の複数の充填口28cが形成されている。また、この充填口28cの外周側の下面には環状の凹溝28dが形成されている。
一方、上記コア12における上記コアガイド14よりも下方に突出した部分には取付部25が固定され、この取付部25に連結材26が連結され、この連結材26の他端にはエアバイブレータ等からなる振動源27が接続されている。コア12の外周面は下パンチ13の内周面に対して例えば10μm程度の精度で嵌合するように形成され、これによってコア12が下パンチ13によって位置決めされるようになっている。一方、コア12の外周面とコアガイド14の内周面とは、上記の下パンチ13に対する嵌合状態よりも大きな余裕を備えた状態(例えば100μm程度のガタが存在するよう)に構成されている。
本実施形態では、ダイベース10及びダイ11の上面に沿ってベース部材21をスライドさせて、図3に示すように、上記充填口22eがちょうどダイ11及びコア12によって構成されるキャビティの開口に一致して密接するように位置決めし、収容部材22の内部に収容された粉体1が充填口28cから落下することによってキャビティ内に充填される。このとき、振動源23は図示上下方向、すなわち、粉体1が充填される方向に振動し、この振動はベース部材21を伝播して収容部材22及び円盤状部材28に伝達される。したがって、収容部材22及び円盤状部材28もまた図示上下方向に細かく振動し、それによって粉体1がスムーズにキャビティ内に充填される。
特に、本実施形態の場合、粉体1に周囲から接触する収容部材22の外周壁はもちろんのこと、中央案内部28a及びブリッジ部28bを備えた円盤状部材28もまた図示上下方向に振動するので、収容部材22内に収容されている粉体1は上下方向に揺さぶられ、さらに外周壁から離れた中心近傍の粉体も上下方向に揺さぶられながら中央案内部28aの斜面に沿って流れ落ちるように充填口28cに向かい、また、充填口28cまで到達した粉体1もまた、ブリッジ部28bによって上下方向の振動を及ぼされるので、充填口28cの近傍で詰まることなく、円滑にキャビティ内へと導かれる。
上記のように粉体1がキャビティ内に充填されているとき、図1に示す振動源27もまた図示左右方向、すなわち、コアの延長方向とはほぼ直交する方向に振動し、この振動は連結材26及び取付部25を介してコア12を図示左右方向に振動させる。
ここで、コア12は、キャビティの下方にある下パンチ13によってほぼ位置決めされ、その下方においてはコアガイド14によってある程度遊びを持ってガイドされているとともに、キャビティ内においてはほぼ無拘束状態となっているので、図示左右方向の振動が上方へと伝達されるとき、コア12は下パンチ13を支点として図示左右に揺れ、この揺れは下パンチ13の位置決め精度に制限されることなく、キャビティ内に伝達される。したがって、下パンチ13により位置決めされていても、図示左右方向の振動はコア12のキャビティ内に配置された部分に効率的に伝達される。
したがって、粉体1が収容部材22からキャビティ内へと充填されていくとき、コア12の図示左右方向の振動によって粉体1の粗密や引っ掛かりが緩和されるので、キャビティ内において均一な状態で粉体1を充填させていくことができる。
キャビティ内への粉体1の充填が完了すると、振動源23の振動は停止し、ベース部材12はダイベース10及びダイ11の上面に沿ってスライドし、図4に示すようにダイ11の上方から退避する。そして、上方から上パンチ16が降下して、ダイ11及びコア12によって構成されるキャビティ内に充填された粉体1を加圧し、キャビティ形状に対応した圧粉体を成形する。」
(2)引用例記載の発明
引用例記載の事項を技術常識を考慮しながら本件出願の発明に照らして整理すると引用例には以下の発明が記載されていると認める。
「ダイ11と、このダイ11内を進退する円筒状の上パンチ16及び円筒状の下パンチ13とを備え、前記ダイ11内のキャビティに充填した粉体1を前記上パンチ16及び下パンチ13により加圧して圧粉体を成形する圧粉成形装置において、円柱状のコア12が前記下パンチ13内に左右方向摺動可能に嵌合し、前記キャビティは、前記ダイ11の内周面と、該ダイ11内に挿入された前記下パンチ13の上面と、この下パンチ13の上面から突出した前記コア12の外周面との間に形成され、前記コア12にその延長方向とはほぼ直交する方向に振動を与える取付部25、連結材26及びエアバイブレータ等の振動源27からなる振動手段を設け、前記振動手段が振動して前記キャビティの面を形成するコア12の前記外周面を振動する圧粉成形装置。」(以下、「引用例記載の発明」という。)

第4 対比
本件出願の発明と引用例記載の発明とを対比すると以下のとおりである。
引用例記載の発明の「円筒状の上パンチ16」は、本件出願の発明の「上側パンチ」に相当し、以下同様に、「円筒状の下パンチ13」は「筒状の下側パンチ」に、「キャビティ」は「充填空間」に、「粉体1」は「原料粉末」に、「コア12」は「コアロッド」にそれぞれ相当することが明らかである。
そして、引用例記載の発明の「円柱状のコア12が前記下パンチ13内に上下摺動可能に嵌合」は、「コアロッドが前記下側パンチ内に摺動可能に嵌合」の限りで、本件出願の発明の「コアロッドが前記下側パンチ内に上下摺動可能に嵌合」と共通しており、また、引用例記載の発明の「コア12にその延長方向とはほぼ直交する方向に振動を与える取付部25、連結材26及びエアバイブレータ等の振動源27からなる振動手段」は、「コアロッドに振動を与える振動手段」であるという限りで、本件出願の発明の「コアロッドに上下方向の振動を与える振動手段」と共通している。
また、引用例記載の発明は「圧粉成形装置」として表現されているが、本件出願の発明と同様「粉末成形金型装置」としても表現できるものである。
したがって、本件出願の発明と引用例記載の発明とは、以下の点で一致している。
「ダイと、このダイ内を進退する上側及び筒状の下側パンチとを備え、前記ダイ内の充填空間に充填した原料粉末を前記上側及び下側パンチにより加圧して圧粉体を成形する粉末成形金型装置において、コアロッドが前記下側パンチ内に摺動可能に嵌合し、前記充填空間は、前記ダイの内周面と、該ダイ内に挿入された前記下側パンチの上面と、この下側パンチの上面から突出した前記コアロッドの外周面との間に形成され、前記コアロッドに振動を与える振動手段を設け、前記振動手段が振動して前記充填空間の面を形成するコアロッドの前記外周面を振動する粉末成形金型装置。」
そして、本件出願の発明と引用例記載の発明とは、以下の3点で相違している。
1 <相違点1>
本件出願の発明では、コアロッドがコアロッドホルダーの上部に設けられているのに対して、引用例記載の発明では、そのようになっているのかどうか明らかでない点。
2 <相違点2>
本件出願の発明では、コアロッドを上下方向に摺動可能とし、また、コアロッドに上下方向の振動を与える振動手段をコアロッドホルダーに設け、前記振動手段が充填空間の面を形成する前記コアロッドの外周面を上下方向に振動するのに対して、引用例記載の発明では、コアロッドを左右方向摺動可能とし、また、その延長方向とはほぼ直交する方向に振動を与える振動手段を設けている点。
3 <相違点3>
本件出願の発明では、振動手段が圧電素子により振動するのに対して、引用例記載の発明では、振動手段がエアバイブレータ等の振動源27により振動する点。

第5 相違点についての検討
1 <相違点1>について
粉末成形金型装置において、コアロッドをコアロッドホルダーの上部に設けることは、特に例示するまでもなく従来周知であり、この従来周知の事項を引用例記載の発明に適用して本件出願の発明のように構成することに格別の困難性はない。
2 <相違点2>について
コアロッドを上下摺動可能とし、また、上下方向の振動を与えるか、或いは、コアロッドを左右方向摺動可能とし、またその延長方向とはほぼ直交する方向に振動を与えるかは、必要に応じて適宜選択すればよい単なる設計的事項にすぎず、また、粉末成形金型装置において、コアロッドを上下摺動可能とし、また上下方向の振動を与えるように構成することは、例えば、特開平9-165602号公報の段落【0004】及び図8、特開平8-332597号公報の図1に示されているように従来周知である。
そうしてみると、コアロッドを上下摺動可能とし、また上下方向の振動を与えるように構成することは当業者が格別の創意を要することなく容易に想到するところである。
そして、コアロッドを上下摺動可能とし、また上下方向の振動を与える場合には、振動手段をコアロッドホルダーを含むコアロッドの軸線上に設けることがごく自然な設計態様であって、コアロッドを保持するコアロッドホルダーに振動手段を設けることも必要に応じて適宜なし得る単なる設計的事項にすぎず、また、コアロッドに上下方向の振動を与えることにより、当然、振動手段が充填空間の面を形成する前記コアロッドの外周面を上下方向に振動することになる。
3 <相違点3>について
粉末成形金型装置において、充填空間に充填する原料粉末に振動を伝える振動源として圧電素子を採用することは、原審の平成18年12月27日付拒絶理由通知書で振動を付与する手段の周知例として挙げられた特開平10-118794号公報の段落【0012】及び図面の図1、特開2000-197996号公報の段落【0034】及び図面の図3に示されているように従来周知であり、振動手段が圧電素子により振動するように構成することに格別の困難性はない。
4 本件出願の発明の効果について
また、本件出願の発明の採用する構成によってもたらされる効果も、引用例記載の発明及び上記従来周知の各事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。
5 補正案について
なお、当審の審尋に対する平成20年8月28日付け回答書で特許請求の範囲について補正案を提示しているが、フィーダーをダイプレートの上面に沿って移動している以上、コアロッドの上端面の原料粉末をできるだけ落とすためにはコアロッドの上端面をダイの上面と面一の位置に設定すべきことは当業者にとって自明の事項であることからすれば、その請求項1で新たに追加された事項についても格別の発明性は見当たらない。

第6 むすび
したがって、本件出願の発明は、引用例記載の発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。
よって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-05 
結審通知日 2008-11-10 
審決日 2008-11-21 
出願番号 特願2002-130941(P2002-130941)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (B30B)
P 1 8・ 121- Z (B30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塩澤 正和高山 芳之横山 幸弘  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 尾家 英樹
鈴木 孝幸
発明の名称 粉末成形金型装置と粉末成形方法  
代理人 牛木 護  

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