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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1190413
審判番号 不服2007-33057  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-06 
確定日 2009-01-07 
事件の表示 特願2004-178418「基板上に平坦なインジウムスズ酸化物層を生成するための方法、インジウムスズ酸化物の基板コーティングおよび有機発光ダイオード」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月13日出願公開、特開2005- 11809〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年(2004年)6月16日(パリ条約による優先権主張、平成15年6月20日、ドイツ)の出願(特願2004-178418号)であって、平成19年9月13日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年12月6日付で拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?11に係る発明は、平成19年5月10日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「基板上に平坦なインジウムスズ酸化物層を生成するための方法であって、その生成について、透明な導電性のインジウムスズ酸化物層をガラス基板上に与えて電極を形成し、
インジウムスズ酸化物層を最初に、結晶化核の形成を防ぐように制御された温度プロフィールで、インジウムスズ酸化物層の厚さの一部をスパッタ堆積することによって形成し、その後で、基板をインジウムスズ酸化物層の再結晶温度よりも高い温度まで加熱して、
最後にインジウムスズ酸化物層の残部をスパッタ堆積するステップを特徴とする、基板上に平坦なインジウムスズ酸化物層を生成するための方法。」

第3 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-43735号公報(以下、「引用例」という)には、次の事項が記載されている。
「【0013】 次に図1に示した表示素子用電極基板の製造方法を説明する。先ず最初に、予めカラーフィルタ膜5が形成されたガラス基材4の表面に、透明樹脂をスピンコートあるいは印刷等により塗布し焼成を加えて平坦化膜7を形成する。次に、平坦化膜7の上にスパッタリングでSiO_(2) 膜を成膜して下地層1を設ける下地処理工程を行なう。次に、SiO_(2) 膜8の上に低温スパッタリングで第1ITO膜9を成膜する低温スパッタリング工程を行なう。続いて、第1ITO膜9に重ねて高温スパッタリングにより第2ITO膜10を成膜し、複合構造の導電層3を設ける高温スパッタリング工程を行なう。最後に、該導電層3を所定の形状にパタニングし透明な対向電極を形成するパタニング工程を行なう。対向電極のパタンとしてはベタ形状を採用する場合がある。この時には、基板周辺のみから導電層3をエッチングにより除去するパタニング工程を行なう。対向電極として複数の領域に分割されたパタンを用いる場合もある。又、単純マトリクス型液晶表示素子の電極基板として用いる場合には、ストライプ状にパタニングされる事になる。以上の製造方法において、好ましくは前記低温スパッタリング工程及び高温スパッタリング工程はともに、10-3Torr台の成膜ガス圧条件でスパッタリングを行なう。又、低温スパッタリング工程は例えば常温でスパッタリングを行ない、高温スパッタリング工程は例えば250℃程度の成膜温度条件でスパッタリングを行なう。
【0014】次に、図2ないし図5を参照してSiO_(2) 膜8、第1ITO膜9、第2ITO膜10の内部応力について詳細な説明を加える。先ず最初に、SiO2 膜は、例えば常温スパッタリングにより成膜され、その厚みは0.05μm程度である。この場合、図2に示す様にSiO_(2) 膜は一般に圧縮応力を呈する。但し、その大きさにはガス圧力依存性があり、スパッタリング時のガス圧力が高くなるにつれ零に近づいていく。
【0015】次に、第2ITO膜10については、低抵抗化の為にカラーフィルタ膜の耐熱温度である250℃程度の高温で成膜され、その厚みは0.2μm程度、シート抵抗は10Ω/□程度である。この場合、図3に示す様に、第2ITO膜は圧縮応力を呈し、ガス圧が6mTorr の付近で零に近づく。図2及び図3に示した様に、SiO_(2) 膜及び比較的高温で成膜した第2ITO膜はともに圧縮応力を呈し、このままでは応力の影響によりITO膜に剥離やクラックが発生する惧れがある。これを防止する為には、SiO_(2) とITOの両者ともに最も零に近い圧縮応力となる成膜条件を選定することが考えられる。しかしながら、実際にはスパッタリングで成膜可能なガス圧力の範囲において、SiO_(2) 及びITOは圧縮応力を呈している。又、前述した様にITOの膜質はその成膜条件に対して非常に敏感であり制御が難しい。従って、単純な成膜条件の調整のみにより内部応力の緩和を図る事は実際上困難である。
【0016】そこで、本発明では下地のSiO_(2) 膜と高温成膜された第2ITO膜の中間に低温成膜された第1ITO膜を介在させている。膜応力は一般に薄い方が小さくなる事から、本例では第1ITO膜は、例えば0.05μmの厚みで成膜される。又、成膜温度は常温(25℃)に設定した。常温成膜された第1ITO膜はSiO_(2) 膜と高温成膜された第2ITO膜の間の応力緩衝層としての役割を果す。常温でスパッタリング成膜されたITO単層の膜応力を図4に示す。スパッタリングされた段階では、成膜可能なガス圧力の範囲で第1ITO膜は圧縮応力を呈する。前述した様に工程順としては常温成膜された第1ITO膜の上に第2ITO膜が高温成膜される。通常高温で成膜する場合、基板温度を所定の成膜温度に保持する為、例えば20分程度のプリヒートが真空チャンバ内で行なわれる。よって、常温成膜された第1ITO膜は加熱され非晶質の状態から結晶化される事になる。一般に、ITOは200℃程度以上の温度から結晶化する。」

上記記載から、
・「予めカラーフィルタ膜5が形成されたガラス基材4の表面に、透明樹脂をスピンコートあるいは印刷等により塗布し焼成を加えて平坦化膜7を形成する。次に、平坦化膜7の上にスパッタリングでSiO_(2) 膜を成膜して下地層1を設ける下地処理工程を行なう」こと、
・「SiO_(2) 膜8の上に低温スパッタリングで第1ITO膜9を成膜する低温スパッタリング工程を行なう」こと、
・(低温スパッタリングの)「成膜温度は常温(25℃)に設定した」こと、
・「基板温度を所定の成膜温度に保持する為、例えば20分程度のプリヒートが真空チャンバ内で行なわれる。よって、常温成膜された第1ITO膜は加熱され非晶質の状態から結晶化される事になる」こと、
・「続いて、第1ITO膜9に重ねて高温スパッタリングにより第2ITO膜10を成膜し、複合構造の導電層3を設ける高温スパッタリング工程を行なう」こと、
・「最後に、該導電層3を所定の形状にパタニングし透明な対向電極を形成するパタニング工程を行なう」こと
が記載事項として抽出される。

また、【図1】の記載や技術常識を参酌して、成膜されるITO膜は、平坦な膜であるといえるから、引用例1には、
「ガラス基材4の表面に透明樹脂の平坦化膜7及びSiO_(2) 膜8の下地層を介して平坦なITO膜を成膜する方法であって、ガラス基材の表面に透明樹脂の平坦化膜7及びSiO_(2) 膜8の下地層を介してITO膜の導電層3を設け、該導電層3を所定の形状にパタニングし透明な対向電極を形成し、
最初に、SiO_(2) 膜8の上に、常温に設定した低温スパッタリングで第1ITO膜9を成膜し、その後、例えば20分程度のプリヒートが真空チャンバ内で行なわれて、常温成膜された第1ITO膜は加熱され非晶質の状態から結晶化され、続いて、第1ITO膜9に重ねて高温スパッタリングにより第2ITO膜10を成膜する、ガラス基材の表面に透明樹脂の平坦化膜7及びSiO_(2) 膜8の下地層を介してITO膜を成膜する方法」の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。

第4 対比
引用発明と本願発明とを対比する。
引用発明の「ガラス基材」は、本願発明の「基板」及び「ガラス基板」に相当する。
引用発明の「ITO膜」は、本願発明の「インジウムスズ酸化物層」に相当する。
上記の点を前提に、以下の対比を行う。
本願発明のように『「基板上」に「インジウムスズ酸化物層」を設ける』ことも、引用発明のように『「ガラス基材表面」に他の層を介して「ITO膜」を設ける』ことも、『「ガラス基板」の上方に「インジウムスズ酸化物層(ITO膜)」を設ける』ことであるといえるから、引用発明の「ガラス基材4の表面に透明樹脂の平坦化膜7及びSiO_(2) 膜の下地層を介して平坦なITO膜を成膜する方法」と、本願発明の「基板上に平坦なインジウムスズ酸化物層を生成するための方法」とは、「基板の上方に平坦なインジウムスズ酸化物層を生成するための方法」である点で一致している。
同様に、引用発明の「ガラス基材の表面に透明樹脂の平坦化膜7及びSiO_(2) 膜8の下地層を介してITO膜の導電層3を設け、該導電層3を所定の形状にパタニングし透明な対向電極を形成」することと、本願発明の「透明な導電性のインジウムスズ酸化物層をガラス基板上に与えて電極を形成」することは、「透明な導電性のインジウムスズ酸化物層をガラス基板の上方に与えて電極を形成」する点で一致している。
次に、本願発明の「結晶化核の形成を防ぐように制御された温度プロフィールで」について、本願明細書を参酌すると、本願明細書の【0007】に「第1のコーティングステップにおいて、・・・。コーティングは、好ましくは100℃以下、特に15℃から30℃の範囲の基板温度で、すなわちとりわけ室温で施されることが好ましい。」との記載が認められ、上記の温度は「室温」程度の温度を意味しているものと解されるから、引用発明の「常温に設定した低温スパッタリングで第1ITO膜9を成膜し」は、本願発明の「インジウムスズ酸化物層を最初に、結晶化核の形成を防ぐように制御された温度プロフィールで、インジウムスズ酸化物層の厚さの一部をスパッタ堆積することによって形成し」に相当するといえる。
また、引用発明の「その後、例えば20分程度のプリヒートが真空チャンバ内で行なわれて、常温成膜された第1ITO膜は加熱され非晶質の状態から結晶化され」は、本願発明の「その後で、基板をインジウムスズ酸化物層の再結晶温度よりも高い温度まで加熱して」に相当する。
同様に、引用発明の「続いて、第1ITO膜9に重ねて高温スパッタリングにより第2ITO膜10を成膜する」は、本願発明の「最後にインジウムスズ酸化物層の残部をスパッタ堆積する」に相当する。

よって、本願発明と引用発明は、
「基板の上方に平坦なインジウムスズ酸化物層を生成するための方法であって、その生成について、透明な導電性のインジウムスズ酸化物層をガラス基板の上方に与えて電極を形成し、
インジウムスズ酸化物層を最初に、結晶化核の形成を防ぐように制御された温度プロフィールで、インジウムスズ酸化物層の厚さの一部をスパッタ堆積することによって形成し、その後で、基板をインジウムスズ酸化物層の再結晶温度よりも高い温度まで加熱して、
最後にインジウムスズ酸化物層の残部をスパッタ堆積するステップを特徴とする、基板の上方に平坦なインジウムスズ酸化物層を生成するための方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点;
基板の上方のインジウムスズ酸化物層(ITO膜)の生成において、本願発明が、「基板上に」生成したものであるのに対し、引用発明は「ガラス基材の表面に透明樹脂の平坦化膜7及びSiO_(2) 膜8の下地層を介して」生成したものである点。

第5 当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
基板の上方のインジウムスズ酸化物層(ITO膜)の生成において、「ガラス基板上に」インジウムスズ酸化物層(ITO膜)を生成することは、例えば、
・特開2000-150148号公報(【0011】、【図1】)
・特開平11-260563号公報(【0039】【図1】)
・特開平5-89959号公報(【0038】【図2】)
にも記載されているように従来周知の技術事項である。
そして、引用発明に、電極の生成技術という同じ技術分野に属する上記の従来周知の技術事項を適用し、上記相違点2に係る発明特定事項を得ることは、当業者にとって容易であるといえる。

なお、請求人は、審判請求書において、上記引用例の【0006】欄(審判請求書においては、「段落0016」と記載されているが、記載内容から、「段落0006」の誤りであることは明らかである。)が、「当業者が本願発明に想到するにあたり、阻害要因となる記載」であると主張している。
しかしながら、上記引用例の【0006】欄の記載は「なお、製造工程上及び信頼性の観点から、ガラス基材の上に先ずITO膜を成膜し、その上にカラーフィルタ膜を成膜した方が容易であり且つ有利である。」と一般論を述べた上で、引用例の発明のようにITO膜と液晶の間に誘電物質からなるカラーフィルタ膜が介在する構造に関して「しかしながら、この構造ではITO膜と液晶の間に誘電物質からなるカラーフィルタ膜が介在する為、動作性能の点で不利になる。特に、高デュティー駆動のカラー液晶表示素子では、カラーフィルタ膜上にITO膜を形成する構造が不可欠である。」と述べているものである。すなわち、「ITO膜と液晶の間に誘電物質からなるカラーフィルタ膜が介在する構造」という特定の構造を前提とした推察がなされており、そのような構造を前提としない場合にまで言及しているものではないので阻害要因とはならない。
また、本願の請求項1には、「ITO膜と液晶の間に誘電物質からなるカラーフィルタ膜が介在する構造」のような「ガラス基材の上に先ずITO膜を成膜」することが不利となる特定の構造について何らの記載もないので、上記請求人の主張は、請求項の記載に基づかない主張であって受け入れられない。

そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明及び従来周知の技術事項から、当業者が予測し得る程度のものである。

したがって、本願発明は、引用発明及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上より、本願発明は、引用例に記載された発明、及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-01 
結審通知日 2008-08-05 
審決日 2008-08-26 
出願番号 特願2004-178418(P2004-178418)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松田 憲之  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 越河 勉
森林 克郎
発明の名称 基板上に平坦なインジウムスズ酸化物層を生成するための方法、インジウムスズ酸化物の基板コーティングおよび有機発光ダイオード  
代理人 堀井 豊  
代理人 深見 久郎  
代理人 酒井 將行  
代理人 仲村 義平  
代理人 野田 久登  
代理人 森田 俊雄  

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